2025年8月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります

(単一セグメント)
  • 売上
  • 利益
  • 利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 売上
(百万円)
売上構成比率
(%)
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) - - -1,790 - -

事業内容

3【事業の内容】

 

(1)事業の概要

①ビジネスモデル

 当社は、新規抗がん薬の市販を目指して研究開発を行う創薬ベンチャー企業です。医療ニーズ(アンメットメディカルニーズ)の高いがん領域で、新しい作用を有する低分子の画期的医薬品(ファーストインクラス)の研究開発が主要な事業の内容です。当社がマネジメントと研究業務(探索研究、前臨床研究、臨床研究)、特に候補化合物の探索、評価、最適化、臨床試験に集中し、外部協力先が得意な業務、中でも基礎研究、原薬及び製剤の製造、流通・販売などは各外部協力先に委託するという形を取ってビジネスを進めております。

 

 

 

 創薬事業においては様々な専門性の高い作業や過程があり、また長い開発期間と多額の研究開発費用が必要です。当社は、効率的な創薬事業を実現するために、大学や公的機関、事業補完性のある企業、製薬会社などと積極的に共同研究やライセンス提携などの協業を行い、より短い期間で効率的に新しい抗がん薬の創出に取り組んでいます。

 

・パートナリングに関する方針、考え方

 当社における事業提携の基本戦略は、パイプライン(開発プログラム)の医薬品として市販される蓋然性が高まったタイミングで日本国外の販売権についてライセンス交渉を行う事です。2021年のBiotechnology Innovation Organizationの報告では、第2相臨床試験の成功確率が最も低いとされており、第2相臨床試験が成功してパイプラインが医薬品として市販される蓋然性が高まったタイミングは、パイプラインの価値が高くなるタイミングと当社は考えております。そのため事業提携の基本戦略としては第2相臨床試験の結果を確認できるタイミングで行うことが最適であると当社では考えています。

 パートナー企業の選定基準としては、①パートナー企業の臨床開発戦略立案力、②パートナー企業の臨床開発に関する資金力、③当社のパイプラインの理解力、④パートナー企業内での当社のパイプラインの優先順位などを基準に選定を行います。

 

<事業系統図>

 

 

②ファーストインクラスの抗がん薬を生み出すための研究開発

 がんは世界において主要な死因の一つであり、国立がん研究センターの統計によると日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、2人に1人ががんと診断され、また、がんで死亡する確率は男性が27.9%で約4人に1人、女性が21.1%で約5人に1人となっています(国立がん研究センター調査データに基づく。診断される確率は2021年、死亡確率は2022年のデータを引用)。そのため、患者や家族、社会にとって、がんは大きな問題になっています。また、近年、新しい治療法や新規抗がん薬が開発され、生存予後が改善する傾向がみられていますが、がんと診断された人の5年相対生存率(国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」)は68.9%にとどまり、依然として新しい抗がん薬や治療法の開発が望まれています(国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」)。このことから、がん領域は依然としてアンメットメディカルニーズが高い領域と考えています。

 当社は、がん領域において、ファーストインクラスの研究開発を行っています。ファーストインクラスの医薬品は、既存治療薬と異なる有用性を示すことが期待され、これまでの治療法を大きく変えることができる医薬品に成長する可能性があると考えています(図1)。特に既存治療薬では十分な効果が認められず、現在のがんの進行に不安を感じている多くの患者に対して、がんの進行をコントロールできるという希望を届けられる可能性を秘めております。医薬品市場の観点からは、初めて市場に出るため大きな市場を取れる可能性が高く、薬価算定の際にその有効性や新規性に応じた高い価格が設定されることが多いことから、数多くのグローバル製薬企業が非常に高い関心を持っていると考えています。そのため、ファーストインクラスの医薬品にフォーカスしたパイプラインを有する当社は、グローバル製薬企業との共同開発やライセンス契約等の機会を積極的に検討しながら事業の価値最大化をめざすことが可能になります。

 

図1.ファーストインクラス創薬とは

 

 

③当社の研究領域

 抗がん薬の標的となる分子を見つけ出すには、がんのホールマーク(特徴)、つまり、がん細胞が正常細胞と比べてどのように異なるのかを明らかにすることが重要です。これまでに、12種の多様なホールマーク(継続的な血管新生、組織への浸潤と転移、アポトーシスの回避、増殖シグナルの自己充足、増殖抑制シグナルに対する不応答性、無制限の複製能力、DNA損傷ストレス、酸化ストレス、有糸分裂ストレス、タンパク質毒性ストレス、代謝ストレス、及び免疫ストレス)が見出されていましたが、近年、最新の研究によって、RNA制御ストレスが新たなホールマークとして認識されるようになりました(右図、枠内がRNA制御ストレス)。がんのホールマーク(特徴)に着目した医薬品開発はこれまでにも盛んに行われてきており、優れた抗がん薬が多数生み出されてきたことから、高い効能を有する抗がん薬の開発において有効な研究戦略であると考えています。

 

 

・がんの新しいホールマークである“RNA制御ストレス”

 RNA制御ストレスとは、細胞内でRNAを生成する過程に乱れが生じ、異常なRNAが蓄積し、それが細胞へ負荷をかけている状態のことです。特にがん細胞ではRNAを生成する複数の過程が乱れ、正常細胞に比べてがん細胞では過剰に負荷がかかっている状態です。当社の研究開発は、この新たに見出されたがんのストレス表現型である、RNA制御ストレスに焦点を当てています。当社のパイプラインは、RNA制御ストレスを標的とするコンセプト、すなわち異常RNAをさらに生成、蓄積させることでがん細胞に追加の負荷をかけて死に至らしめるという科学的なコンセプトに基づいています(図2)。RNA制御ストレスを標的としたがん治療薬は未だ医薬品として市販されていません。当社は、このRNA制御ストレスにいち早く注目して研究開発を行っており、当領域におけるリーディングカンパニーとして、新しい抗がん薬の研究開発を世界に先駆けて行っています。

 

図2.RNA制御ストレスとは

 

 

 

④パイプラインの概要

 当社は現在、2つの臨床パイプライン(CLK阻害薬CTX-712、国際一般名称はrogocekib(以下、「rogocekib」という。)、MALT1阻害薬CTX-177、(以下、「CTX-177」という。))に加えて、3つの前臨床パイプライン(CDK12阻害薬CTX-439(以下、「CTX-439」という)、GCN2阻害薬、新規パイプライン)、合計5つのパイプラインを保有しています(図3)。前臨床パイプラインのうち、CTX-439は前臨床研究段階に、その他2つは探索研究段階です。

 

 

 

図3.パイプラインの概要と開発状況と開発タイムライン

 

⑤収入形態

 当社が得る収入は、当面の間は、ライセンス契約に基づく提携企業からの収入を想定しています。ライセンス契約の収入には、「契約一時金」「開発マイルストン収入」「販売マイルストン収入」「ロイヤリティ収入」があります。また、当社は自社でも製造や販売する体制を構築することを視野にいれてパートナー企業との戦略的提携を進めていますので、今後のビジネスの進展により自社で製品を販売して得る収入も想定しています。

 

<事業収益の類型>

収入形態

内容

ライセンスの契約一時金

ライセンス契約を行った際に独占的な権利をパートナーに付与する対価として得られる一時金収入。

ライセンスの開発マイルストン

ライセンス契約を行ったパイプラインの開発進捗に応じて設定したいくつかの目標を達成する毎に一時金として得られる収入。臨床試験段階での開発マイルストンについては、目標間の期間は数年程度と想定する。

ライセンスの販売マイルストン*

ライセンス契約を行った際に設定した売上目標達成に応じて受領する収入。

ライセンスのロイヤリティ*

製品が市販後に、その売上からあらかじめ定められた一定割合を受領する収入。

*:現時点での受領実績はない。

**:現時点では自社で製品を販売する意思決定は行われていないため、計画上で想定される「製品の販売収入」につ

  いては表中に記載されていない。

 

(2)個別パイプラインの状況

①RNA制御ストレスに焦点を当てたパイプライン

 RNAを生成する過程には、転写、スプライシング、分解、輸送などが挙げられます。これら各過程を標的とした抗がん薬は未だに市販されていません。当社はこれらに対するパイプラインを有しており、いずれのパイプラインも医薬品として市販されておらず、ファーストインクラスの医薬品になる可能性を有しています(図4)。特に当社が最も期待するパイプラインであるrogocekibにより、RNA制御ストレスを標的とした抗がん薬の有用性が立証されれば、RNA制御ストレスを対象とした抗がん薬の開発において新たな一歩が示せると考えています。

 また、がん特有のホールマークは複数のがん種において共通して認められることから、このホールマークに焦点を当てた創薬研究は一つのがん種に限定されず、多くのがん種に対して適応できることが期待されます。実際に、既知のホールマークを標的とした医薬品は、市販後に適応とされるがん種が拡大され、ブロックバスターとして成長したケースがあり、当社が焦点を当てるホールマークであるRNA制御ストレスにおいても同様、幅広いがん種に適応する可能性があると考えています。すなわち、当社の研究アプローチは、がんのホールマークを標的とするという考え方であり、この考え方は既存の市販医薬品で有効性が示されている実績があります。

 

 

図4.DNA、RNA及びタンパク質に係るストレスを標的とした市販済みのがん治療薬の現状と当社パイプライン

 

②当社のパイプラインの標的となるRNAを生成する過程

 DNAは生命活動の維持に不可欠な、タンパク質を合成するための設計図として機能しています。DNA上の遺伝情報は、メッセンジャーRNA(mRNA)へ写しとられ、このmRNAの情報をもとにタンパク質が作られます。当社のパイプラインは、mRNAを生成する過程に対してかかる制御ストレスを標的としており、イメージ図(図5)においては、A:転写を調節するCDK12、B:スプライシングを調節するCLK、C:RNA輸送を調節するGCN2、D:RNA分解を調節する新規パイプラインとして記載しています。

図5.RNAを生成する過程のイメージ図

 

 ウイルスからヒトに至る多くの生物は遺伝子DNAを有しています。DNAは生命活動の維持に不可欠な、タンパク質を合成するための設計図として機能しています。DNA上の遺伝情報は、メッセンジャーRNA(mRNA)へ写しとられ、このmRNAの情報をもとにタンパク質が作られます。「DNA→mRNA→タンパク質」という細胞内における遺伝情報の流れは、生命の営みの基本的かつ普遍的な反応であることからセントラルドグマと呼ばれています。

 RNAの転写とは、上記のセントラルドグマの中で、DNA情報をmRNAに写しとる過程です。この転写過程を直接つかさどっている重要なタンパク質としてRNAポリメラーゼⅡが知られています。RNAポリメラーゼⅡはDNAを鋳型として前駆型mRNAを作ります。

 RNAのスプライシングとは、転写後の前駆型mRNAはタンパク質を作るために必要なエクソン配列に加えてタンパク質合成に不要なイントロン配列の両方を含んでいるため、エクソン配列を繋げ、イントロン配列を取り除き、成熟型mRNAを作る過程です。

 RNAの輸送とは、スプライシングを受けた成熟型mRNAやタンパク質を作るために必要なトランスファーRNA(tRNA)をタンパク質合成の場に輸送する過程です。

 RNAの分解とは、タンパク質合成の鋳型として役割を果たしたmRNAやtRNAが分解される過程です。

 

 

 

 

 

 

 

Ⅰ.rogocekib(CLK阻害薬CTX-712)

①作用

 CLKはスプライシングを調節しています。rogocekibがCLKを阻害することによって正常のスプライシングが行われなくなるため、異常なmRNAが蓄積し、細胞に負荷がかかります。そもそも、がん細胞には過剰に負荷がかかっているためCLK阻害による追加の負荷に耐えられず、正常細胞に比べてがん細胞が選択的に死滅すると考えています。

 

②特徴及び対象疾患

 正常なスプライシングを阻害する作用の抗がん薬はこれまで市販されていないため、これまでの治療法で効果が無かった患者に対して新たな治療法となる可能性があると考えております。非臨床試験の結果からは、急性骨髄性白血病(以下、「AML」という。)や骨髄異形成症候群(以下、「MDS」という。)などの血液がんのみならず、卵巣がんなど複数の固形がんに対しても有効性が期待されていると考えております。

 また患者を対象にした国内第1相臨床試験の結果からも、再発・難治性のAMLやMDS、卵巣がんがrogocekibに対する感受性が高いことが示唆されました。非臨床試験である動物モデルと実際の臨床試験が大きく相違ない結果であり、rogocekibは特定の特徴を有する複数種類のがんにおいて効果が期待されると考えております。

 

③開発状況の概要

 2018年から実施中のrogocekibの日本国内第1相臨床試験では、2023年8月に全ての患者登録が完了し、固形がん46名、血液がん14名合わせて60名の患者への投薬が行われました。

 観察されたDLT(Dose-Limiting Toxicity:用量制限毒性)は、脱水、血小板数減少、低カリウム血症,及び肺炎であり、週2回の投与におけるMTD(Maximum Tolerated Dose:最大耐用量)は140 mgと決定されました。rogocekibに関連する有害事象として吐き気、嘔吐、下痢等が挙げられましたが、許容される安全性プロファイルと考えられました。有効性に関しては、固形がんにおいて4例のPR(partial response:部分奏効)を認め、それらはすべて卵巣がん(4/14例、28.6%)でした。AML、MDS計14例において、4例のCR(complete remission:完全寛解)、1例のCRi(complete remission with incomplete hematologic recovery:好中球未回復の完全寛解)、1例のMLFS(morphologic leukemia-free state:形態学的無白血病状態)を認め、Overall Response Rateは42.9%でした。以上より、卵巣がん、血液がんにおいてrogocekibが有効であることを示しました。

 当事業年度末現在では、2023年に米国において開始した再発又は難治性のAML及びMDSの患者を対象にした第1/2相臨床試験を進めており、2025年8月末時点では36人の患者への投与を完了し、更なる症例登録を進めている状況でございます。

 

④ライセンス状況

 当事業年度末現在、武田薬品工業株式会社(以下、「武田薬品」という。)とのライセンス契約に基づき全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化する権利は、当社が保有しています。今後の研究開発状況にあわせてライセンス活動を積極的に行ってまいります。

 

Ⅱ.CTX-177(MALT1阻害薬)

①作用

 MALT1は転写因子NF-κBを活性化します。難治性リンパ腫においては、T細胞シグナルあるいはB細胞シグナル伝達経路の因子(T細胞受容体CD28、B細胞受容体CD79A/B、PLCγ1,PKCβ、CARD11)にシグナルを活性化する遺伝子変異が起こり、そのシグナルがBTKやMALT1を経由してNF-κBの活性化が引き起こされ、リンパ腫が異常に増殖しています(図6)。CTX-177は、MALT1を阻害してNF-κBの活性化を抑制する事で抗がん作用を生み出すと考えています。本パイプラインはRNA制御ストレスを標的としてはいません。

 

②特徴及び対象疾患

 MALT1阻害薬は難治性リンパ腫での有効性が期待されています。いくつかの難治性リンパ腫ではBTK阻害薬による治療が行われています。しかしながら、MALT1がNF-κBを活性化することによりBTK阻害薬に耐性を獲得したリンパ腫が出現しており、治療上の問題となっています。MALT1阻害薬はNF-κBの活性化を抑制することが可能であるため、BTK阻害薬に耐性のリンパ腫においても効果を示すことが期待されています。

 

図6.CTX-177の作用のイメージ

 

 

③開発・ライセンス状況

 2020年に武田薬品とのライセンス契約に基づき、当社は対象化合物に関する全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化の権利を取得しました。その後、当該権利は小野薬品工業株式会社(以下、「小野薬品」という)に導出され、同社により米国及び日本において第1相臨床試験が実施されました。

 しかしながら、2025年4月28日に、小野薬品より戦略的判断に基づき臨床試験を中止する旨の通知を受領し、これに伴い当社が当該権利を回収いたしました。これにより、当事業年度末現在、当該化合物に関する全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化の権利は、当社が保有しています。現在、当社は新たなライセンス許諾先の選定に向けた検討を進めております。

 

 

Ⅲ.CTX-439(CDK12阻害薬)

①作用

 CDK12はRNAポリメラーゼⅡによるmRNAの転写を調節しています。CTX-439は、CDK12を阻害することによってRNAポリメラーゼⅡによるmRNAの転写を抑制します。このmRNAの転写の抑制により異常なmRNAが蓄積し、細胞に負荷がかかります。そもそも、がん細胞には過剰に負荷がかかっているためCDK12阻害による追加の負荷に耐えられず、正常細胞に比べてがん細胞が選択的に死滅すると考えています。

 

②特徴及び対象疾患

 CTX-439は、単剤で乳がん及び卵巣がんを含むその他複数の固形がん及び血液がんのマウスモデルで抗がん作用を示しております。加えて、化学療法薬あるいは分子標的薬の魅力的な併用薬となる可能性を有しています。

 

③開発状況

 当事業年度末現在、臨床試験開始に向けての安全性試験や治験原薬の製造を終え、次のフェーズの準備を進めているところです。

 

④ライセンス状況

 当事業年度末現在、武田薬品とのライセンス契約に基づき全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化する権利は、当社が保有しています。今後の研究開発状況にあわせてライセンス活動を積極的に行ってまいります。

 

 

Ⅳ.GCN2阻害薬

①作用

 GCN2は、タンパク質を作るために必要なtRNAの輸送を調節しています。GCN2阻害薬は、tRNAの輸送に異常を生じさせ、輸送が正常に行われなかった異常なtRNAが蓄積し、細胞に負荷がかかります。そもそも、がん細胞には過剰に負荷がかかっているためGCN2阻害による追加の負荷に耐えられず、正常細胞に比べてがん細胞が選択的に死滅すると考えています。

 

②特徴及び対象疾患

 GCN2阻害薬は、単剤で異常なtRNAを誘導することによる抗腫瘍効果を示すことが期待されます。加えて、化学療法薬あるいは分子標的薬の魅力的な併用薬となる可能性を有しています。

 

③開発状況

 当事業年度末現在、前臨床研究に向けて、内部リソースを活用した探索研究を実施中です。

 

④ライセンス状況

 当事業年度末現在、武田薬品とのライセンス契約に基づき全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化する権利は、当社が保有しています。今後の研究開発状況にあわせてライセンス活動を積極的に行ってまいります。

 

 

 

(3)用語説明(五十音順)

用語

解説

RNA

Ribonucleic acidリボ核酸の略で、遺伝子であるDNAからタンパク質を生成するために必要な物質。ゲノムDNAから転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)、タンパク質合成時に利用されるトランスファーRNA(tRNA)などがある

RNAポリメラーゼⅡ

DNAからmRNAへの転写を触媒するタンパク質複合体

アンメットメディカルニーズ

未だ有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズ

イントロン

タンパク質合成に不必要なRNA部分

AML

Acute Myeloid Leukemia急性骨髄性白血病の略で、骨髄中で白血球の元になる血液細胞ががん化した疾患で、血液がんのひとつ

エクソン

タンパク質合成に必要なRNA部分

エクソンスキッピング

一部のエクソンが抜け落ちるスプライシングの変化

FDA

Food and Drug Administration米国食品医薬品局の略で、医薬品などを審査、取り締まるアメリカ合衆国の政府機関

NF-κB

Nuclear Factor-kappa Bの略で、転写を担うタンパク質複合体のひとつ

MFLS

CRには至らないものの、形態学的には骨髄中に白血病細胞が見られない状態

MDS

Myelodysplastic syndromes骨髄異形成症候群の略で、骨髄中で血液細胞のもとになる造血幹細胞に異常がおき、正常な血液細胞がつくなれなくなる疾患で、血液がんのひとつ

MTD

Maximum Tolerated Dose最大耐量の略で、毒性が認容できる範囲内で最大の投与量

CARD11

Caspase Recruitment Domain Family Member 11の略で、MALT1の活性調節に働くタンパク質

拡大コホート

第1相臨床試験のなかで、次相の推奨使用用量の設定後、安全性と一部有効性を確認するために症例を集めた患者集団のこと

血管新生

新しい血管が作られる現象のことで、創傷部位やがんが進行する際にも認められる現象

血液がん

血液細胞が分化の過程でがん化して増殖する疾患の総称

好中球

細菌などの感染から体を守る働きを有した白血球の一種。白血球全体の約45~75%を占めている。

固形がん

血液がん以外の、臓器や組織などで塊をつくるがんの総称

最大耐量

毒性が認容できる範囲内で最大の投与量、MTDのこと

CR

Complete Remission完全寛解の略で、血液がんの評価において使用され、患者の骨髄に存在するがん細胞の割合が5%未満であり、末梢血中の好中球と血小板などの数値が完全に回復している状態

固形がんの評価におけるCRは、Complete Response完全奏効の略で用いられ、腫瘍が完全に消失した状態

CRi

Complete Remission with incomplete hematologic recoveryの略で、血液がん(AML)の評価において使用され、患者の骨髄に存在するがん細胞の割合が5%未満であるが、末梢血中の好中球と血小板の回復が不完全な状態

CLK

CDC2-Like Kinaseの略で、対象となるタンパク質にリン酸基を転移させる反応を触媒する酵素でスプライシングにおいて重要な役割を果たしている

CDK12

Cyclin Dependent Kinase 12の略で、対象となるタンパク質にリン酸基を転移させる反応を触媒する酵素で転写の伸長反応において重要な役割を果たしている

GCN2

General Control Nonderepressible 2の略で、対象となるタンパク質にリン酸基を転移させる反応を触媒する酵素で細胞内のアミノ酸の量において重要な役割を果たしている

浸潤

がん細胞や免疫細胞などが周辺組織に染み広がる特徴のことで、転移するがんが有している特徴の一つである

スプライシング

RNAを成熟させる過程

成熟型mRNA

スプライシングを受けて成熟したRNA

前駆型mRNA

スプライシングを受けて成熟する前のRNA

前臨床研究

臨床試験を実施する前に検討する研究。ヒトにおける医薬品候補化合物の安全性、薬物濃度、有効濃度などを推定する研究の総称

探索研究

医薬品の研究開発の初期段階であり、病態の進展に寄与している生体分子(薬物標的)を探索する研究

 

 

 

用語

解説

治療モダリティ

治療薬の種類のことで、低分子医薬品、抗体医薬品、核酸医薬品、細胞医薬品などがある

DNA

Deoxyribonucleic acidデオキシリボ核酸の略で、DNAには全ての遺伝情報が蓄えられている

DLT

Dose-Limiting Toxicity用量制限毒性の略で、臨床試験において増量できない理由となる毒性のこと

転写

遺伝情報をDNAからメッセンジャーRNAにコピーする過程

バイオマーカー

ある疾患の有無、病状の変化や治療の効果の指標となる生体内の物質。特に抗がん薬領域では患者の層別化に用いることが多い

パイプライン

研究開発プログラムもしくは医薬品候補化合物

曝露

生体に化学物質がさらされていること

PR

Partial Remission部分寛解の略で、血液がんの評価において使用され、骨髄に存在するがん細胞の割合が5-25%(AMLの場合)あるいは5%以上(MDSの場合)であるが、治療前に比べ50%減少した状態

固形がんの評価におけるPRは、Partial Response部分奏効の略で用いられ、標的病変の径の和が30%以上減少した状態

POC

Proof of Concept概念実証の略で、患者での安全性と有効性(治療効果)が確認されること

PK

Pharmacokinetics薬物動態の略で、薬物投与後の体内薬物濃度の推移

PD

Pharmacodynamics薬力学の略で、生体や細胞に対する薬物の作用

PMDA

Pharmaceuticals and Medical Devices Agency医薬品医療機器総合機構の略で、厚生労働省所管の独立行政法人であり、医薬品等の品質、有効性及び安全性の向上に関する審査機関

非臨床試験

臨床試験以外の試験であり、臨床試験を行う前に実施する安全性試験、薬物動態試験、薬効薬理試験などが含まれる。

ファーストインクラス

これまでになかった新しい作用を有する低分子の画期的医薬品のカテゴリーのことで、既存治療薬による治療法を大きく変えることができる可能性のある医薬品のこと

B細胞シグナル、T細胞シグナル

リンパ球であるB細胞やT細胞の増殖を活性化するシグナル

BTK

Bruton’s Tyrosine Kinaseの略で、対象となるタンパク質にリン酸基を転移させる反応を触媒する酵素

ブロックバスター

画期的な薬効を持つ新薬で、大きな売上を生み出す医薬品(年商1,000億円以上の製品を指すことが多い)

分子標的薬

特定の生体分子を標的として、その機能を制御する医薬品

MALT1

Mucosa-Associated Lymphoid Tissue lymphoma translocation protein 1の略で、タンパク質を切断する酵素のひとつ

薬物動態

薬物投与後の体内薬物濃度の推移、PK(Pharmacokinetics)のこと

用量漸増コホート

第1相臨床試験のなかで、最大耐量MTDや用量制限毒性DLTを確認するために症例を集めた患者集団のこと

臨床試験

新しい医薬品などの効果や安全性について確認するために行われる患者を対象とした試験

臨床研究

病気の原因及び病態の理解ならびに予防方法、診断方法及び治療法の改善を目的として実施されるヒトを対象とする医学系研究の総称

 

業績

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

①経営成績の状況

 当事業年度における当社の業績としてのパイプラインの開発進捗は以下の通りとなりました。

 

 当社が注力する抗がん薬、ファーストインクラス新薬の承認状況については、FDAが2024年に承認した50品目のうち、それぞれ24品目、13品目でありました。また、そのうちのおよそ半数のモダリティが低分子医薬品であり、ファーストインクラスの低分子抗がん薬の開発が引き続き活発に行われている状況と認識しており、当社パイプラインに対する大手製薬会社からのニーズも引き続き高いものと想定しております。

 

 このような環境の中で、当社は、rogocekibを中心とした5つのパイプラインの研究開発を進めております。当事業年度における主なパイプラインの進捗は以下のとおりです。

 

<rogocekib>

 rogocekibは、細胞増殖に重要な役割を果たすRNAスプライシング反応の主要な制御因子であるCLKに対するファーストインクラスの選択的な経口型の低分子阻害薬です。FDAからAML適応でのオーファンドラッグ指定(Orphan Drug Designation(ODD):希少疾病用医薬品指定)を受けています。2018年に開始した単剤での日本国内第1相臨床試験では、進行・再発又は難治性となった46例の固形がん及び14例の血液がん、合計で60例の患者に投与を行いました。rogocekibに関連する有害事象として、吐き気、嘔吐、下痢等が認められましたが、治験医師が参加する安全性評価委員会において、本剤の安全性に関する評価結果は許容範囲内であると考えられました。rogocekibの有効性に関しては、固形がんにおいて4例のPR(partial response:部分奏効)を認め、それらは全て卵巣がんでした。46例の固形がんのうち卵巣がん患者は14例であったため、卵巣がんでの奏効率としては14例中4例、28.6%でした。また、AMLとMDSの計14例においては、4例のCR(complete remission:完全寛解)を含む6例の奏功を認め、奏効率は42.9%でした。この試験結果は、卵巣がん及び血液がんにおいてrogocekibが有効である可能性を示しています。現在は、2023年に米国において開始した再発又は難治性のAML及びMDSの患者を対象にした第1/2相臨床試験の第1相パートを進めており、2025年8月末時点では合計36症例が登録されています。今後、2026年の早い時期に拡大コホートを開始する予定です。

 

<MALT1阻害薬CTX-177>

 MALT1阻害薬CTX-177については、2020年に小野薬品とライセンス契約を締結し、小野薬品によって米国及び日本において第1相臨床試験が実施されていましたが、2025年4月28日に、戦略上の理由で臨床試験を中止する旨の通知を小野薬品より受領しました。小野薬品とのライセンス契約が終了しましたので、今後は当社が、全世界での独占的な研究、開発、製造及び商業化する権利を保有します。現在、小野薬品と進行中の試験の取り扱い、これまでに得られたデータの移管、知的財産の取り扱い等に関する協議を進めております。今後、再導出に向けた事業開発活動を積極的に行なってまいります。

 

<前臨床パイプライン>

 前臨床段階にあるCDK12阻害薬CTX-439、GCN2阻害薬と5番目のパイプライン(標的名非公開)は、AMED等からの助成金を活用した自社研究を進めており、CTX-439やGCN2阻害薬の研究成果は、2025年4月25日から30日まで米国シカゴで開催された米国癌学会年次総会で発表いたしました。当社は、最も開発が進んでいるrogocekibにより一層注力して、開発をさらに迅速に進め薬事承認を獲得することが企業価値の向上に資すると考えており、rogocekibに社内リソースを集中させている状況ですので、CTX-439とGCN2阻害薬に関しては早期のパートナリングも含めた幅広い可能性の検討も前向きに行っております。また、パイプラインの価値を大きくするために、がん以外の疾患領域での可能性も共同研究等を通じて探っています。2025年7月には株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所と、2025年8月には千寿製薬株式会社と、それぞれ異なる当社化合物の眼科疾患治療薬としての可能性を探る共同研究を開始しています。

 

 以上の結果、当事業年度の事業収益は該当ありませんでした(前事業年度は該当なし)。事業費用につきましては、研究開発費が1,425百万円(前事業年度比で5.0%減少)、販売費及び一般管理費が364百万円(前事業年度比で20.8%増加)となりました。この結果、営業損失は1,789百万円(前事業年度は営業損失1,801百万円)、経常損失は1,769百万円(前事業年度は経常損失1,824百万円)、当期純損失は1,785百万円(前事業年度は当期純損失1,827百万円)となりました。

 なお、当社は医薬品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の経営成績を記載しておりません。

 

 

②財政状態の状況

(資産)

 当事業年度末における資産合計は2,681百万円となり、前事業年度末と比較して1,951百万円減少しました。このうち、流動資産の残高は2,669百万円となり、前事業年度末と比較して1,936百万円減少しました。これは主として、現金及び預金が1,780百万円減少したことによるものであります。また、固定資産の残高は12百万円となり、前事業年度末と比較して14百万円減少しました。これは主として、長期前払費用が11百万円減少したことによるものであります。

 

(負債)

 当事業年度末における負債合計は244百万円となり、前事業年度末と比較して226百万円減少しました。このうち、流動負債の残高は244百万円となり、前事業年度末と比較して226百万円減少しました。これは主として、未払金が262百万円減少したことによるものであります。また、固定負債は該当ありません。

 

(純資産)

 当事業年度末における純資産合計は2,437百万円となり、前事業年度末と比較して1,724百万円減少しました。これは主として、資本金及び資本剰余金がそれぞれ31百万円増加した一方、当期純損失の計上により利益剰余金が1,785百万円減少したことによるものであります。

 

③キャッシュ・フローの状況

 当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は2,548百万円となり、前事業年度末から1,780百万円減少しました。当事業年度におけるキャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度において営業活動の結果使用した資金は1,836百万円(前事業年度使用した資金は1,937百万円)となりました。これは主として、税引前当期純損失1,783百万円の計上によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度において投資活動の結果使用した資金は5百万円(前事業年度使用した資金は10百万円)と少額の発生にとどまりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度において財務活動の結果獲得した資金は61百万円(前事業年度獲得した資金は1,478百万円)となりました。これは、新株予約権の行使による株式の発行による収入61百万円があったことによるものであります。

 

④生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 該当事項はありません。

b.受注実績

 該当事項はありません。

c.販売実績

 該当事項はありません。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当社の財政状態は、「(1) 経営成績等の状況の概要 ②財政状態の状況」をご参照ください。経営成績の状況については、「(1) 経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況」をご参照ください。経営成績に重要な影響を与える要因については、「3 事業等のリスク」をご参照ください。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社の運転資金については、自己資金により充当しています。当事業年度末における現金及び現金同等物は2,548百万円であり、充分な流動性を確保しています。

 キャッシュ・フローの状況については、「(1) 経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」をご参照ください。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、重要なものはありません。