2025年5月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります

(単一セグメント)
  • 売上
  • 利益
  • 利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 売上
(百万円)
売上構成比率
(%)
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 2,681 100.0 85 100.0 3.2

事業内容

3【事業の内容】

 人工衛星による地球観測衛星データの取得において、現在主流となっている観測手段は光学衛星です。光学衛星は、地球から反射する太陽光を光学カメラやセンサーによって観測します。そのため衛星と観測地点の間に雲のような遮蔽物が入る悪天候時や、観測地点に太陽光が届かない夜間には、観測データの取得が著しく制限されます。

 当社ではこのような課題を解決し、地球のリアルタイム観測が当たり前となった世界を実現するため、①夜間や悪天候時でも撮影が可能であること、及び②常に衛星が上空を飛んでいる状態にするために多数の衛星を打ち上げることの両方を実現するべく、小型SAR衛星の開発及び製造を行い、小型SAR衛星により取得した地球観測衛星データ及び画像の提供を主な事業(以下「地球観測衛星データ事業」という。)としております。

 

当社小型SAR衛星のイメージ

 

 「宇宙の可能性を広げ、人類の発展に貢献する」という経営理念の下、将来的に36機の小型SAR衛星によるコンステレーションを構築することで、地球上のほぼどこでも任意の地点を平均10分間隔で観測できる、もしくは特定の地域を選んで平均10分ごとに定点観測できる世界の実現を、当社は目指しております。

36機の小型SAR衛星コンステレーション

 

 衛星コンステレーションとは、多数個の人工衛星が協調動作する様子を星座(英:constellation)に見立てたシステムです。衛星コンステレーションを構築する多数個の人工衛星を打ち上げるには、製造コスト及び打上げコストを大幅に低減させる必要があります。当社が開発する100kg級の小型SAR衛星は、従来の数トン単位の大型SAR衛星とは異なり小型かつ軽量であるため、製造コストや打上げコストを低く抑えることができ、かつ短期間での開発が可能であります。

 当社では、2019年12月に実証試験機である小型SAR衛星1号機(愛称「イザナギ」)を、2021年1月に同じく実証試験機である2号機(愛称「イザナミ」)を打ち上げました。2021年5月には2号機イザナミにより高精細モード(分解能70cm)の地球観測画像の取得に成功し、2021年12月より2号機による地球観測画像の販売を開始いたしました。3号機及び4号機は2022年10月のイプシロン6号機の打上げ失敗により損失を被ったものの、商用機である3号機以降の衛星開発は1号機及び2号機による実証結果を踏まえて改善を施しており、前事業年度に3機、当事業年度に3機の打上げを成功させ、当事業年度末時点においては7号機(ツクヨミ-Ⅱ)・8号機(アマテル-Ⅳ)の2機によって画像販売事業を展開しております。

 

 SAR衛星とは、Synthetic Aperture Radar(和:合成開口レーダー)と呼ばれるリモートセンシング技術を利用した、地球観測のための人工衛星です。SAR衛星は、衛星自身が観測地点に対して電波を発射し、反射した電波によって対象物の大きさや表面の性質、距離等を測定します。観測地点からの太陽光の反射に頼らないSAR衛星は、天候や時間帯に左右されることなく常時地球を観測できる大きな利点を持ちます。その一方で、SAR衛星は電波の送受信に大量の電力消費と大きなアンテナを要するため小型化と解像度はトレードオフの関係にありました。

 

光学衛星とSAR衛星の比較

 

 当社の100kg級小型SAR衛星は、当社が特許を保有する展開式パラボラ型アンテナを搭載しております。軽量かつ大口径のアンテナを搭載することで、SAR衛星の小型化と解像度の両立を追求してきた当社は、実証機である2号機において分解能70cm、商用機である6号機以降においては分解能46cmを実現しました。

 

従来のSAR衛星と当社小型SAR衛星の比較

 

 等間隔に設置された骨組み(板バネ)と金属メッシュで構成される当社の2号機までに搭載されていた展開式パラボラ型アンテナは、24本の板バネと精緻な縫製技術によって、大口径にしてわずか10kgという相反するスペックを持ち得ました。アンテナは直径80cmまで畳まれた状態でロケットに取り付けられ、軌道投入後、展開動作の開始からわずか2秒で、板バネが元に戻る力によって直径360cmの大きさに展開します。3号機以降に搭載されているアンテナでは、板バネを36本に増やし、重量も30kg程度まで増加しておりますが、展開後のアンテナ形状が改善したことで画質の大幅な向上を実現しております。

 

展開式パラボラ型アンテナ展開後の当社小型SAR衛星

(アンテナ直径:格納時80cm / 展開時360cm)

 

 SAR衛星は自ら照射・受信したマイクロ波の強弱によって地表を観測しています。例えば高層ビルのような背の高い建築物は、地表からビルに反射するものと合わせて、マイクロ波を強く反射するため白く写ります。反対に海や河川のような水面は、遮蔽物もなく表面が滑らかなので、マイクロ波を受信しづらく黒く写ります。なお、通常、観測データの画像化は地上で行われますが、当社小型SAR衛星 商用機には観測データを軌道上で画像化する装置を搭載しており、データ撮影から提供までのリードタイム短縮に貢献しております。

 

当社小型SAR衛星6号機が撮影した実際の画像

(2023年7月20日、神奈川県横浜市)

 

 観測地点の天候や時刻に左右されないSAR衛星の特性は、第一に災害時における被災地の状況確認等の防災・減災の観点から、災害大国と呼ばれる我が国において人々が安心して暮らす上で、欠かせない価値の創出を期待されています。また、安全保障の分野においては、2022年から続くウクライナに対する軍事侵攻に際し、ロシア軍の動向監視に国外のSAR衛星事業者による画像が活用され注目を集めましたが、一般的に海外政府に対する撮影の優先権は必ずしも高くないため、日本国内の衛星事業者が運用するSAR衛星に対する期待は高まっております。

 一方で宇宙開発全般における事業上のリスク、初期投資のスケールや国際的な競争環境等は、当社にとって課題であると同時に他の民間事業者に対する参入障壁にもなっております。こうした背景を受けて、日本政府は2023年6月、宇宙開発戦略本部において「宇宙安全保障構想」を決定し、人工衛星が災害対応や安全保障を支えているという認識を示した上で、JAXAが大学や企業の民間ビジネスに対して投資を可能にする法改正を進める方針を示すなど、宇宙開発において官民連携でイノベーションを加速していく姿勢を、これまで以上に明確に打ち出しています。

 当社では今後の本格的な事業展開に先立ち、日本政府による宇宙開発利用加速化プログラム(以下「スターダストプログラム」という。)に参画し、地震や津波、台風などの自然災害に強い経済社会システムを構築していく取り組みである国土強靭化等の特に公益性の高い分野において、SAR衛星による観測データを提供しております。スターダストプログラムを通じて当社は、JAXAを管轄する文部科学省だけでなく様々な官公庁と連携することで、災害時の対応や電力会社等におけるインフラ管理等、多くの分野で協働の可能性を検討しております。

 

 当社の地球観測衛星データ事業は上記の特徴から安全保障分野の需要が高く、2022年5月期よりサービスを開始しております。現在は特に安全保障、海洋監視、インフラ管理、防災・森林監視について働きかけており、従来の常識では考えられなかった新たなサービスを創出してまいります。なお当社は地球観測衛星データ事業の単一セグメントであります。

 

 

[事業系統図]

 当社の事業系統図は以下のとおりであります。

 

 

 当社の小型SAR衛星による観測データは、官公庁のような公的機関や法人等を対象として販売しております。本書提出日現在は売上の大部分を官公庁が占めておりますが、今後は民間企業に対する拡販を推進していくため、データの解析を得意とする販売代理店と提携するなど、更なる付加価値の提供も進めていく方針です。また販売先は国内に留まらず、市場規模のさらに大きな海外市場に対する拡販も推進してまいります。

 

九州宇宙開発パートナー

 

 当社の技術は、地元九州の高い技術を持つ企業群を中心とした多くのビジネスパートナーに支えられています。当社の創業メンバーは当社の創業に先立ち、2003年より九州を行脚して地場産業の育成に取り組みました。その後、「九州に宇宙産業を根付かせる」ことを目的に創業し、現在では九州北部に宇宙産業クラスターを形成するまでに至っております。

 

業績

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

① 財政状態及び経営成績の状況

a.財政状態

(資産)

 当事業年度末における流動資産合計は13,161百万円となり、前事業年度末に比べ5,350百万円増加いたしました。これは主に、現金及び預金5,965百万円の増加等によるものであります。

 当事業年度末における固定資産合計は10,759百万円となり、前事業年度末に比べ5,748百万円増加いたしました。これは主に、新たな研究開発拠点に係る設備投資及び11号機以降の製造進捗等によるものであります。

 この結果、当事業年度末における資産合計は23,920百万円となり、前事業年度末に比べ11,098百万円増加いたしました。

(負債)

 当事業年度末における流動負債合計は3,740百万円となり、前事業年度末に比べ1,457百万円増加いたしました。これは主に、前受金2,159百万円の増加等によるものであります。

 当事業年度末における固定負債合計は5,300百万円となり、前事業年度末に比べ3,200百万円増加いたしました。これは、長期借入金3,200百万円の増加によるものであります。

 この結果、当事業年度末における負債合計は9,040百万円となり、前事業年度末に比べ4,657百万円増加いたしました。

(純資産)

 当事業年度末における純資産合計は14,879百万円となり、前事業年度末に比べ6,441百万円増加いたしました。これは主に、割当先をSMBC日興証券株式会社とする第8回新株予約権(行使価額修正条項付)の発行及びファシリティ契約(行使停止指定条項付)の締結に基づく当該新株予約権の発行及び行使等により、資本金及び資本剰余金がそれぞれ4,168百万円増加したこと等によるものであります。

 

b.経営成績

 宇宙産業においては、わが国を含む世界各国で宇宙への関心が高まっており、世界規模で宇宙産業市場の成長が見込まれるなかで競争が激化しております。わが国においても全府省庁の宇宙関係予算合計が2024年度の8,945億円から2025年度は9,365億円と増加していることから、宇宙産業市場の規模は拡大する一途であります。

 このような状況のなか、当社は小型SAR衛星QPS-SAR5号機「ツクヨミ-Ⅰ」について通信系の不具合により減損損失1,636百万円を計上した一方、新たに2024年4月8日に打ち上げた同7号機「ツクヨミ-Ⅱ」の定常運用を開始しました。

 さらに当事業年度において、2024年8月17日に同8号機「アマテル-Ⅳ」、2025年3月15日に同9号機「スサノオ-Ⅰ」、2025年5月17日に同10号機「ワダツミ-Ⅰ」と、3機の商用機の打上げに成功し、衛星コンステレーションの構築を着実に進めております。

 当事業年度に打上げ成功した商用機のうち1機は既に定常運用を開始して画像提供を始め、残りの2機についてもそれぞれ初画像の取得及びアンテナ展開に成功しており、定常運用に向けて鋭意調整中であります。

 以上の結果、当事業年度におきましては、売上高2,681百万円(前年同期比62.1%増)、営業利益85百万円(前年同期比75.0%減)、経常損失210百万円(前事業年度は経常利益207百万円)、当期純損失1,848百万円(前事業年度は当期純損失427百万円)となりました。

 なお、当社は地球観測衛星データ事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。

 

② キャッシュ・フローの状況

 当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末に比べ5,965百万円増加し、11,833百万円となりました。

 当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度における営業活動による資金の増加は1,473百万円(前事業年度は706百万円の増加)となりました。これは主に、税引前当期純損失1,847百万円等があった一方で、売上債権及び契約資産の減少1,671百万円があったこと等によるものです。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度における投資活動による資金の減少は7,040百万円(前事業年度は3,755百万円の減少)となりました。これは、新たな研究開発拠点に係る設備投資及び11号機以降の製造進捗等に伴う有形固定資産の取得による支出7,729百万円があったこと等によるものです。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度における財務活動による資金の増加は11,534百万円(前事業年度は5,394百万円の増加)となりました。これは、株式の発行による収入8,310百万円があったこと等によるものです。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 当社が提供するサービスの性質上、生産実績の記載になじまないため、記載を省略しております。

 

b.受注実績

 当事業年度の受注実績は以下のとおりであります。

セグメントの名称

当事業年度

(自 2024年6月1日

至 2025年5月31日)

受注高

(百万円)

前年同期比(%)

受注残高

(百万円)

前年同期比(%)

地球観測衛星データ事業

889

10.0

7,244

80.1

 

c.販売実績

 当事業年度の販売実績は以下のとおりであります。

セグメントの名称

当事業年度

(自 2024年6月1日

至 2025年5月31日)

金額(百万円)

前年同期比(%)

地球観測衛星データ事業

2,681

162.1

(注)最近2事業年度の、主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前事業年度

(自 2023年6月1日

至 2024年5月31日)

当事業年度

(自 2024年6月1日

至 2025年5月31日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

官公庁

1,552

93.8

2,496

93.1

JAXA

74

4.5

141

5.3

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.財政状態

主な増減内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況 a.財政状態」に記載のとおりであります。

 

b.経営成績

主な当該内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況 b.経営成績」に記載のとおりであります。

 

(売上高)

 当事業年度の売上高は、前事業年度に比べて1,027百万円(62.1%)増加し、2,681百万円となりました。これは主に、官公庁向けの売上が増加したことによるものであります。

 

(売上原価、売上総利益)

 当事業年度の売上原価は、前事業年度に比べて1,059百万円(150.6%)増加し、1,762百万円となりました。これは主に、新たな研究開発拠点の本格稼働や、調査研究業務及び人工衛星試作業務が進捗したことによるものであります。

 この結果、売上総利益は31百万円(△3.4%)減少し、918百万円となりました。

 

(販売費及び一般管理費、営業利益)

 当事業年度の販売費及び一般管理費は、前事業年度に比べて223百万円(36.8%)増加し、833百万円となりました。これは主に、新株予約権の発行及び行使により資本金が増加したことによる外形標準課税の適用にかかる租税公課が増加したこと等によるものであります。

 この結果、営業利益は255百万円(△75.0%)減少し、85百万円となりました。

 

(営業外収益、営業外費用、経常損失)

 当事業年度の営業外収益は、前事業年度に比べて10百万円(532.2%)増加し、11百万円となりました。これは主に、補助金収入の増加6百万円によるものであります。

 当事業年度の営業外費用は、前事業年度に比べて172百万円(127.5%)増加し、307百万円となりました。これは主に支払利息の増加202百万円によるものであります。

 この結果、経常損失は210百万円(前事業年度は207百万円の経常利益)となりました。

 

(特別損失、税引前当期純損失)

 当事業年度の特別損失は、1,636百万円となりました。これは5号機の通信系の不具合により減損損失1,636百万円を計上したことによるものであります。

 この結果、税引前当期純損失は1,847百万円(前事業年度は374百万円の税引前当期純損失)となりました。

 

(法人税等、当期純損失)

 当事業年度の法人税等は、前事業年度に比べて50百万円(△96.9%)減少し、1百万円となりました。
 この結果、当期純損失は1,848百万円(前事業年度は427百万円の当期純損失)となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 キャッシュ・フローの状況につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。当社の主な資金需要は、小型SAR衛星の製造・打上げ・運用のための研究開発費や販売費及び一般管理費等の事業費用であり、これら事業上必要な資金は手許資金で賄う方針でありますが、事業収益から得られる資金だけでなく、新株予約権の発行等によるエクイティファイナンスや金融機関からのデットファイナンスにより調達しております。また、資金の流動性については、資金効率を考慮しながら、現金及び現金同等物で確保するよう図っております。

 現預金保有残高については、2025年5月期末における現金及び現金同等物が11,833百万円であり、十分な流動性を確保しております。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。

 財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。