2024年12月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります

(単一セグメント)
  • 売上
  • 利益
  • 利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 売上
(百万円)
売上構成比率
(%)
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 946 100.0 95 100.0 10.0

事業内容

3【事業の内容】

 

(1)ミッション

 当社は、「音から価値を創出し、革新的サービスを提供することにより社会に貢献する」を経営理念に掲げ、産総研技術移転ベンチャーの獲得を契機に、「音」に着目したAI(※1)の研究・開発を行い、その成果を社会実装することを目指してまいりました。また、当社は社名の由来ともなっているHuman Machine Communicationの実現により、新しい社会を自ら創造することを目指しております。

 当社は、創業からAIに関する研究開発を行っており、近年の生成AI(※2)の活用にも可能性があると考えており、生成AIの社会実装に関する知見の共有、ビジネスユースケースの開発、および産学連携による共創の場への参加を目指し一般社団法人Generative AI Japanへの加入等も実施しております。当社としても、生成AIと当社AIプロダクトを摺り合わせて、利用者の利便性向上や工数削減などの取組みを進めております。

 

(2)当社の特徴と優位性

 当社の特徴は、「音」に着目したAIに関する研究開発から製品提供まで、自社内で完結することを目的に、研究開発人材を採用し、またこの独自の研究開発型ビジネスプロセスを実践しているところにあると考えております(全体像は下図に記載)。研究開発型ビジネスプロセスの実践とは、「R&D(※3)初期フェーズ」から始まり「サービス提供運用保守フェーズ」までを順番に実行することを意味しております。当社は創業から現在まで着実にこのプロセスを実践し、「Voice Contact」を始めとする複数のプロダクトを市場に提供しております。

 

(図1) 研究開発型ビジネスプロセス

 

 「R&D初期フェーズ」においては、2014年8月の産総研技術移転ベンチャー認定取得や、2019年10月と2020年2月の国立研究開発法人の政府予算による複数件の研究開発プロジェクトの採択を通して、音声認識技術や異音検知技術の研究開発を実施してきました。本フェーズにおいては、今後訪れると予測される社会課題の解決につながる研究課題を当社で考え選定したうえで研究を進めてきております。その過程における活動が評価され「NEDO(※4)AIベンチャーコンテスト最優秀賞」、「JEITA(※5)ベンチャー賞」、「大学発ベンチャー表彰 NEDO理事長賞」等を受賞しております。

 「R&D初期フェーズ」の研究開発成果を、個別企業の課題解決のために活用し、社会実装へと高める活動として「R&Dプロジェクトフェーズ」においては、資本業務提携を含む当社と密接な関係を有する先との実証実験を推進してまいりました。

 「自社製品開発プロダクト化フェーズ」では、個別企業の課題解決の成果から生み出された機能を、多くの企業で必要となる標準的な機能としてまとめ、当社のAIプロダクトとし開発、提供しております。例えば、当社の開発した「Voice Contact」は、リアルタイム音声認識機能に加え、管理者がオペレータの状況をリアルタイムでモニタリングすることができる管理者モニタリング機能や、通話をリアルタイムに音声認識し顧客情報帳票などへ自動で入力する自動帳票入力機能、コールセンターの稼働状況を示すダッシュボード機能等、コールセンター事業者にとって必要な標準的な機能として提供してきました。導入後は「サービス提供保守運用フェーズ」として運用保守を当社では実施しております。

「サービス提供保守運用フェーズ」では、顧客からの製品の設定・使用・動作状況についての技術的質問に関する助言や、当社製品のマイナーバージョンアップデートの提供、製品のソフトウェア障害への対応等を実施しております。また、保守運用フェーズにおける当社製品の導入による業務改善の取組み支援も行っております。Voice Contactの導入顧客に対しては、運用指標レポートの提供と助言や、音声認識精度確認及びチューニング方法の助言等を行っております。KPIレポートについては、例えば待機時間等のいくつかの運用指標からオペレータの業務内容を見直す等の見かたを説明することで、業務効率化・生産性向上を行うためのアドバイスをしております。また、音声認識精度確認及びチューニングとしては、顧客企業にて認識精度を上げたい部分をヒアリングし、通話内容や誤認識の傾向から、効果的なチューニング機能の使用方法や、場合によりオペレータの話し方(滑舌や話す速さ)の変更といったプロダクト機能によらない方法等も含めたアドバイスすることにより、音声認識率の精度向上の支援をしております。当社ではこれらの対応を実施することにより顧客からのクレーム抑止や継続利用につながっているものと考えています。

 当社では、これらのビジネスプロセスを複数年にわたり実践することにより、社会課題解決につながる研究実践に加えて、個別企業と密接な提携関係を構築し課題解決を行えていると考えております。その結果、顧客企業や業界課題の理解度の向上、競合他社が簡単には入り込めない信頼関係の構築、課題解決に効果的な機能開発等を実施することができていると当社では認識しており、このビジネスプロセスにより当社ならではの競争優位性を構築できていると考えております。また、自社プロダクトに対しては、上記「自社製品開発プロダクト化フェーズ」で記載した通り、多くの企業で必要となる標準的な機能が実装されていくこととなり、課題解決につながる機能が拡大されていきます。そのため、当社プロダクトが課題解決につながる幅が大きくなっていくことにより、より多くの企業への導入につながるものと考えております。さらに、このビジネスプロセスがスパイラルアップされることで、今後より大きな社会課題の研究や個別企業の課題に取り組む機会を生み、この高度な課題を解決する機会を求めて優秀な人材が集まるという好循環も実現されていると当社では認識しております。

 なお、当社では産総研技術移転ベンチャーの称号により、産総研より許諾を受けた特許・プログラムの実施権の活用および、産総研主体の技術展示会への出展等の幅広い経営支援を受けておりましたが、2024年8月14日に称号の使用期限の満了と合わせて本支援活動も終了しております。なお、本支援活動に代わり、当社内にて技術開発人材を採用し「Voice Contact」等の技術開発を継続的に続けていること、展示会出展等も当社独自で実施してきており、本支援活動の終了による当社事業活動への影響はないものと考えております。

 

(3)当社が展開するサービス及びソリューションの内容

 当社では「AI×音」サイエンス事業の単一セグメントとしており、当該事業内でAIプロダクト事業(2024年度売上高比率:60.2%)とAIソリューション事業(2024年度売上高比率:39.8%)を展開しております。AIプロダクト事業は、コンタクトセンター向けAI音声認識プロダクト「Voice Contact」や、AI音声自動応答プロダクト「Terry」、AI議事録自動作成プロダクト「ZMEETING」、異音検知プロダクト「FAST-D」等の自社開発製品・サービスの提供をしております。AIソリューション事業は、AIプロダクト事業で培った技術や知見を基に、AI活用や、顧客のDX(※6)推進等の課題解決をトータルに支援するAI開発・コンサルティングを実施しております。

 

■AIプロダクト事業

 当社では、2015年より「音声認識を民主化し、キーボードレスの新しい社会を自ら創造する」の実現を目指し、音声認識・言語解析プロダクトを開発し、主にコールセンター向けに研究開発型ビジネスプロセスを推進してまいりました。この活動から、「Voice Contact」、「Terry」を開発し市場提供を行っております。また、当社ではコロナ禍におけるリモートワークのDX化推進と「Voice Contact」の社会実装の新たな試みを示すことができると判断し、「ZMEETING」をリリースしております。さらに当社では、次期AIプロダクトを検討する中で、資本提携先の企業との会話の中で「人間の五感に頼っていた機械・設備などの不具合の判断を定量的捉えたい」という企業課題があることを知り、2018年より「すべての機器に聴覚を与える(異音検知)」ことの実現が必要であると判断し、その実現を目指し、異音検知プロダクト「FAST-D」(Flexible Anomaly Sound Training and Detection)の研究・開発を始めて、2018年より市場提供を行っております。なお、当社の各AIプロダクトの市場提供に関しては、当社からの直接販売(2024年度売上高比率:81%)が中心ではありますが、販路拡大を目的に販売代理店(2024年度売上高比率:19%)と協力しての販売も実施しております。なお、販売代理店先としては大企業の子会社が多く当社ではカバーできない販売先の獲得が行えており、コールセンターの顧客では数百席規模の大型案件の獲得も実現しております。そのため、今後も当社でアプローチできない先に関しては販売代理店の活用を継続して行うこととしております。

 当社では、個別企業の課題解決の成果から生み出された機能を、多くの企業で必要となる標準的な機能としてまとめることにより当社のAIプロダクトとして提供を行うことにより、多くの顧客で求められる機能を提供することができていると認識しております。また、音に着目したAIプロダクトの開発を会社設立後から継続的に実施し、その知識および経験の長さを評価されていると判断しております。当社ではこれらの理由から当社のプロダクトを選定いただけているものと考えております。

 AIプロダクト事業における、当社が提供するプロダクトは以下の表のとおりです。

 

<当社プロダクト一覧と概要>

プロダクト名

概要

Voice Contact

(AI音声認識プロダクト)

法人向けにコンタクトセンター向けAI音声認識・自然言語処理を活用したプロダクトとして、823ライセンス(2024年度末)の利用があり、以下の機能を提供しています。

1.顧客の音声をリアルタイムにオペレータとカスタマーの会話をテキスト化してモニターに表示

2.顧客との会話のキーワードより最適なFAQ自動表示

3.顧客との会話終了後に会話の内容を生成AIによる自動要約の実施およびFAQの自動作成の実現

4.利用者自身で音声認識率をチューニング可能な自動学習機能を提供

5.生成AIによる自動要約作成や、会話データからのQ&Aの自動作成

Terry(AI音声自動応答プロダクト)

法人向けに音声認識と音声合成、自然言語処理、生成AIを活用し、お客様の電話にAIが回答するサービスとして、192ライセンス(2024年度末)の利用があり、以下のサービスを提供しております。

1.通信販売のコンタクトセンターで、商品申し込みをお客様との会話により注文受付を実現

2.家電量販店の夜間の修理受付対応の実現

3.企業の代表電話に対する代理応答の実現

4.生成AIによるお客様の問い合わせに対する回答の自動作成

ZMEETING(AI議事録プロダクト)

法人および個人向けに業務効率化推進ツールとなり、以下のサービスを提供しております。なお、マーケティング戦略によりライセンス数については非公開とさせていただいております。

1.議事録自動作成

2.メッセージのリアルタイムテキスト化、リアルタイム翻訳

3.生成AIによる自動要約作成

FAST-D(異音検知プロダクト)

法人向けにAI技術者でなくても異音検知用のAIモデル作成とメンテナンスができることを目指し研究・開発を実施し、サブスクリプション型のプロダクトとして、10ライセンス(2024年度末)の利用があり、以下の機能を提供しています。

1.熟練した職人の耳で判断している知見をAIに反映し、工場インフラの異常検知や非破壊検査

2.機械や設備が発する音から、故障時の早期対応や部品交換時期の見極による予防保守や予知保全等

 

 「Voice Contact」、「Terry」および「FAST-D」については、導入時の開発対応等により対価を受領しております。さらに、本導入以降は製品の利用による対価をライセンス利用料として受領しております。これらの対価は顧客の要求仕様、利用者数、追加開発の要否などを勘案し個別に決定しております。「ZMEETING」については、製品の利用による対価をライセンス利用料として受領しております。なお、2024年度AIプロダクトの取引先数(社数)は43社、顧客取引平均単価は12.5百万円(ZMEETINGを除く)となっております。

 

■AIソリューション事業

 2020年に国がDX認定制度の運用を開始すると、企業においてもDX推進が重要視されはじめました。当社においても、顧客の要望が「集めたデジタルのデータをどう活用するか」という次の段階に進んできたと認識しております。また、2022年にChatGPT(※7)に代表される生成AIが登場すると、当社でもこの生成AIの効果的な活用を含めた課題解決が求められてきていると認識しております。

 そのため、当社ではAIプロダクト開発事業を通して培った以下4つのノウハウ(XI)を集結し、データの持つ力で新たな社会的価値を創造する「データサイエンス」により企業の課題解決やDX化の推進をトータルにサポートを行うことを目的として、2021年6月より、顧客の持つデータの利活用にかかわる経営課題を分析し、生成AIを活用した課題解決やDX化推進支援を目的にAIソリューション事業を開始しております。

 

 

(図2)Hmcomm.XI事業

 

 「XI」とは、当社の造語であり以下4つのノウハウを集結し、データの持つ力で新たな社会的価値を創造する「データサイエンス」により企業のDX推進をトータルにサポートする意味を込めています。

AI:自社プロダクト開発で培ってきたAI(人工知能)技術

BI:自社プロダクトの導入サポートにより蓄えられたBI(ビジネスインテリジェンス)技術

CI:自社プロダクトの導入サポートにより蓄えられたCI(カスタマーインテリジェンス)技術

DI:上記をより効率的に活用するためのDI(データインテグレーション)の知見

 当社では、AIプロダクト開発で蓄積されたAI技術、蓄積されたデジタルのデータをビジネスの意思決定に活用するためのデータマイニング(※8)やテキストマイニング(※9)、データ分析等のBI(ビジネスインテリジェンス)技術、お客様の声を分析するVOC(※10)分析技術、サービスやセールスに活用するCI(カスタマーインテリジェンス)技術を保持していると認識しております。さらにこれらを効率的に活用するためのDI(データインテグレーション)のノウハウを提供する必要があると当社では考えAIソリューション事業を開始しております。

 事業内容としては顧客の課題に応じてAIの開発受託やコンサルティング業務を提供しており、契約形態としては準委任契約を中心に、一部業務については請負契約を適用しております。当社収益としては、役務提供による対価を受領しております。

 当事業の具体例としては、コールセンターを持つ教育分野の事業者との取組みとして、当社がもつ、AI開発の経験から得られた知見を活用し、コールセンターの全体の顧客体験と生産性の大幅な向上に向けた、「Voice Contact」に生成AIを組み合わせたシステム要件のコンサルティングから実際のシステム開発までを事業者とともに推進しております。なお、2024年度AIソリューションのプロジェクト数は66件、顧客取引平均単価は5.7百万円となっております。

 今後も当社ではAIプロダクト事業で培った技術力を武器としてAIソリューション事業を着実にすすめてまいります。また、本事業の顧客との課題解決活動を通して当社の信頼感を高めるとともに、技術力を感じていただくことで、同社のプロダクト製品の導入などにつながる活動を推進し事業拡大を図れるように努めてまいります。

 

 

(4)具体例

当社プロダクトを活用した具体的な取組みの事例は以下となります。

顧客業種

取組内容

想定する効果

コンタクトセンター

「Voice Contact」と生成AIを用いた次世代型コンタクトセンターの確立

コンタクトセンター全体の顧客体験と生産性の大幅な向上

化粧品

「Voice Contact」の自動帳票入力機能を導入し、顧客との会話内容を自動入力。

顧客との受電対応後の帳票入力業務を約80%削減(ユーザーヒアリングより)

電話対応業務の効率化、オペレータの作業負荷低減

通販

「Terry」を導入し、電話による注文受付業務の自動化対応。

受電注文の約80%を自動化にて対応(ユーザーヒアリングより)

電話対応業務効率化、オペレータの省人化

教育

「Terry」を導入し、本人確認業務の自動化対応。

確認作業が効率化され、月額数百万円のコスト削減効果を実現(ユーザーヒアリングより)

確認業務の効率化、オペレータの作業負荷低減

インフラ

「FAST-D」導入し、設備の動作音から正常と異音を判断。

顧客との実証実験により排水ポンプの動作音から異音を検知(実証実験結果より)。

故障の早期発見、メンテナンス業務の非属人化の実現性

鉄道

「FAST-D」を活用し、列車走行中の音からレールのゆがみ検知を目的に、レールの異常な継ぎ目を検知するAIの開発。

レールの異常な継ぎ目判定にて異常検知性能70%を確認。(実証実験結果より)。

異常の早期発見、異常検知の効率化

畜産

「FAST-D」の技術を活用した養豚現場における咳や発情状況などを音から検知するシステムの研究・開発。

少人数の効果的な畜産業務

 

 

 以上を踏まえた当社の事業系統図は、次のとおりであります。

(図3)事業系統図

 

 

[用語解説]

注釈番号

用語

用語の定義

※1

AI

Artificial Intelligenceの略称であり、コンピューターで、記憶・推論・判断・学習など、人間の知的機能を代行できるようにモデル化されたソフトウエア・システムのこと

※2

生成AI

あらかじめ学習したデータをもとに、画像や文章、動画などを新たに作成するAIの総称のこと。ジェネレーティブAIともいわれる

※3

R&D

Research and Developmentの略称であり、研究開発活動を行うこと

※4

NEDO

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称

※5

JEITA

一般社団法人電子情報技術産業協会の略称

※6

DX(デジタルトランスフォーメーション)

データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

※7

ChatGPT

OpenAI社が2022年11月から提供を開始した、会話型の文章生成を可能とする生成AI

※8

データマイニング

構造化された膨大な量のデータ(ビッグデータ)に、統計学や人工知能(AI)、パターン認識などの技法を網羅的に適用することで有益な情報を取り出す技術のこと

※9

テキストマイニング

大量の文章データ(テキストデータ)から、自然言語解析の手法を使って、文章を単語(名詞、動詞、形容詞等)に分割し、それらの出現頻度や相関関係を分析することで有益な情報を抽出する技術のこと

※10

VOC

Voice of Customerの略称。顧客の声のことを言う。評価、苦情、要望、問合せなどがその代表的なもの

 

 

業績

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という)の状況の概要は次のとおりであります。

① 財政状態の状況

(資産)

 当事業年度末における流動資産合計は1,835,881千円となり、前事業年度末に比べて346,771千円増加しました。これは主に売上高の増加により契約資産が219,599千円、売掛金が62,281千円増加、株式の発行により現金及び預金が68,373千円増加したことによるものです。また、固定資産合計は69,238千円となり、前事業年度末に比べて29,241千円増加しました。これは主に繰延税金資産が40,793千円増加、有形固定資産が減価償却により3,010千円減少、本社オフィスに係る賃借契約の一部を解約したことにより敷金が11,026千円減少したことによるものです。この結果、資産合計は1,905,120千円となり、前事業年度末に比べ376,013千円増加しました。

 

(負債)

 当事業年度末における流動負債合計は178,149千円となり、前事業年度末に比べて55,611千円増加しました。これは主にサーバ仕入等により買掛金が36,140千円、資本金が1億円を超えたことにより外形標準課税の対象法人となる等未払法人税等が19,550千円増加したことによるものです。また、固定負債合計は長期借入金38,000千円の一括返済により、残高なしとなりました。この結果、負債合計は178,149千円となり、前事業年度末に比べて17,611千円増加しました。

 

(純資産)

 当事業年度末における純資産合計は1,726,971千円となり、前事業年度末に比べて358,401千円増加しました。これは当期純利益の計上により利益剰余金が96,118千円、株式の発行により資本金が131,141千円、資本剰余金が131,141千円増加したことによるものです。この結果、自己資本比率は90.6%(前事業年度末は89.5%)となりました。

 

② 経営成績の状況

 当事業年度におけるわが国経済は一部に足踏みが残るものの緩やかに景気回復が見られておりそれに合わせて物価上昇が続いております。また、デフレ脱却に向け、賃上げと投資が牽引する成長型経済の実現に向けた取り組みが官民一体となり行われております。

 当社を取り巻く環境としましては、生成AIを中心とした技術開発や投資、国や企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けた投資が継続しております。当社においても、これらの市場動向を踏まえ、事業活動を通じて社会及び企業のDX推進に貢献してまいります。

 こうした経営環境のもとAIプロダクト事業では、「Voice Contact」及び「ZMEETING」においては、生成AIを用いた自動要約を実現し、業務効率化や工数削減といった企業が抱える諸課題に対応するためのプロダクトを提供いたしました。特に、「Voice Contact」については、要約された通話内容を自動で営業支援システムへ登録することが可能となり、オペレータによるデータ入力作業の軽減を実現いたしました。当事業年度におきましては、これらの機能強化を通じ、数百席規模の大規模コールセンターへの導入を推進いたしました。また、異音検知プロダクト「FAST-D」では、スマートメンテナンス及び設備保全業務のDX化を推進する企業を中心に営業活動を進めました。当事業年度におきましては、航空、発電設備、ビル設備のモニタリングに関する実証実験を受注し、プロジェクトを進めております。

 AIソリューション事業では、顧客企業のDX推進に向けた課題解決を支援するAI開発・コンサルティングを提供しております。当事業年度におきましては、DX関連のコンサルティング案件の継続に加え、新規顧客の獲得が順調に進み、生成AIを活用したコンサルティング及びシステム開発案件の受注が増加いたしました。

 これらの結果、当事業年度の売上高は946,358千円と前年同期と比べ145,161千円の増収(18.1%増)、営業利益は94,799千円と前年同期と比べ11,323千円の増益(13.6%増)、経常利益は72,005千円と前年同期と比べ15,093千円の減益(17.3%減)、当期純利益は96,118千円と前年同期と比べ26,380千円の増益(37.8%増)となりました。

 なお、当社は「AI×音」サイエンス事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

③ キャッシュ・フローの状況

 当事業年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、前事業年度に比べて68,373千円増加し、1,375,076千円となりました。当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とその要因は次の通りです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、139,713千円の資金支出(前事業年度は103,862千円の資金収入)となりました。その要因は、契約資産の増加額219,599千円および売上債権の増加額62,281千円による資金減少、税引前当期純利益67,689千円、仕入債務の増加額36,140千円、上場関連費用24,221千円、未払法人税等(外形標準課税)の増加額10,698千円、未払費用の増加額5,322千円、減価償却費3,108千円による資金増加等によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、11,026千円の資金収入(前事業年度は2千円の資金支出)となりました。その要因は、敷金・保証金の返還による収入11,026千円によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、197,060千円の資金収入(前事業年度は36,000千円の資金支出)となりました。その要因は、株式の発行による収入262,282千円、上場関連費用の支出21,221千円、長期借入金の返済による支出44,000千円によるものです。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

 当社は、「AI×音」サイエンス事業の単一セグメントであるため、セグメント別に記載しておりませんので、サービス区分別に記載しております。

a 生産実績

 当社は、生産活動を行なっておりませんので、該当事項はありません。

 

b 受注実績

 当事業年度における受注実績は、次の通りであります。

セグメントの名称

受注高(千円)

前年同期比(%)

受注残高(千円)

前年同期比(%)

「AI×音」サイエンス事業

891,496

101.4

119,558

73.6

合計

891,496

101.4

119,558

73.6

 

c 販売実績

 当事業年度における販売実績をサービスごとに示すと、次のとおりであります。

サービスの名称

当事業年度

(自 2024年1月1日

至 2024年12月31日)

前年同期比(%)

AIプロダクト(千円)

569,554

102.2

AIソリューション(千円)

376,804

154.4

合計(千円)

946,358

118.1

 (注) 最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前事業年度

(自 2023年1月1日

至 2023年12月31日)

当事業年度

(自 2024年1月1日

至 2024年12月31日)

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

株式会社ベネッセコーポレーション

79,862

10.0

137,556

14.5

株式会社ゼンリンデータコム

30,225

3.8

115,062

12.2

株式会社FRACORA(旧株式会社協和)

332,046

41.4

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであり、実際の結果と異なる可能性もありますのでご留意ください。

① 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

(a)財政状態及びキャッシュ・フローの状況の分析

 財政状態及びキャッシュ・フローの状況の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態の状況」及び「(1)経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

 

(b)経営成績の分析

(売上高)

 当事業年度における売上高は946,358千円(前年同期比18.1%増)となり、前事業年度と比較して145,161千円の増収となりました。これはAIソリューションの売上が大幅に増加したことによるものです。

 

(売上原価、売上総利益)

 当事業年度における売上原価は512,232千円(前年同期比32.4%増)となりました。これは主に開発人員の外注費の増加によるものになります。この結果、売上総利益は434,125千円(前年同期比4.7%増)となりました。

 

(販売費及び一般管理費、営業利益)

 当事業年度における販売費及び一般管理費は339,326千円(前年同期比2.5%増)となりました。これは主に2024年10月28日の株式上場に伴い資本金が増加したことで、外形標準課税が適用され租税公課が増加したことによるものになります。この結果、営業利益は94,799千円(前年同期比13.6%増)となりました。

 

(営業外収益、営業外費用、経常利益)

 当事業年度における営業外収益は主に助成金収入により2,008千円(前年同期比61.4%減)となりました。営業外費用は主に上場関連費用の計上により24,802千円(前年同期比1468.7%増)となりました。この結果、経常利益は72,005千円(前年同期比17.3%減)となりました。

 

(特別損失、税引前当期純利益)

 当事業年度における特別損失は、本社ビルの一部フロア退去に伴う原状回復費等の発生により4,316千円(前年同期2,775千円)となりました。この結果、税引前当期純利益は67,689千円(前年同期比19.7%減)となりました。

 

(当期純利益)

 法人税、住民税及び事業税及び法人税等調整額を含む法人税等合計△28,429千円を計上したことにより、当事業年度における当期純利益は96,118千円(前年同期比37.8%増)となりました。

 

(c)経営成績に重要な影響を与える要因

 当社の経営成績に重要な影響を与える要因としては、景気動向や市場環境の変化、法的規制、同業他社、人材等の様々なリスク要因があると認識しております。詳細については「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください。

 

(d)経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」をご参照ください。

 

② 資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当社の資本の財源及び資金の流動性については、以下のとおりとなります。

 資本政策につきましては、内部留保の充実を図るとともに、経営基盤の長期安定に向けた財務体制の強化及び事業の継続的な拡大発展を実現させることと、株主への利益還元を考慮し、実施していくこととしております。

 当社の資金需要の主なものは、人材採用及び人件費、外注加工費、システム利用料等に係る運転資金であります。

 当社は必要になった資金について、主に内部留保と営業活動によるキャッシュ・フローから支出し、必要に応じて借入金による資金調達を行っております。借入金の残高はありません。

 以上により、当事業年度末における現金及び現金同等物の残高は1,375,076千円となっております。当社の事業を推進していく上で十分な流動性を確保していると考えております。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しております。この財務諸表の作成に当たり、決算日における財政状態及び会計期間における経営成績に影響を与える見積りを必要とします。経営者はこれらの見積りについて、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、この見積りと異なる場合があります。

 財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載のとおりであります。