2024年12月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

当社の事業展開その他に関するリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を記載しております。また、必ずしも事業上のリスクに該当しない事項についても、投資家の投資判断上、重要であると考えられる事項につきましては、情報の適時開示の観点から積極的に開示しております。なお、当社は、これらのリスクの発生可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針でありますが、当社株式に関する投資判断は、以下の記載事項および本項以外の記載事項を、慎重に検討したうえで行われる必要があると考えております。

当社のリスク管理につきましては、リスク・コンプライアンス委員会を設置し、以下に挙げましたリスク要因を把握し、管理する体制となっております。詳しくは、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ③ 企業統治に関するその他の事項 1.取締役および使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」をご参照ください。

なお、文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであり、本項の記載における将来に関する事項は、全てのリスク要因が網羅されているわけではありませんので、ご留意ください。

 

(1) 事業環境に関するリスク

①技術革新への対応に係るリスク(発現可能性 低、影響度 高)

当社が属する情報セキュリティの分野は、コンピュータに対する新たな脅威や技術革新等による事業環境の変化により、市場のニーズが変動するリスクがあります。このような状況のもと、当社は、技術開発部門による新しい発想による技術開発及び各研究機関との研究成果の各種学会、カンファレンス等での発表、各種メディアへの情報発信などの取り組みにより、当社製品及びサービスの競争力の維持向上に努めております。

しかしながら、当社が技術革新に対応するための人件費などの開発費用を投じることができない場合、または当社製品及びサービスの陳腐化又は競合他社の企業努力などの要因により、当社が競争力を維持することができない場合には、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

②事業環境の変化に係るリスク(発現可能性 高、影響度 高)

当社が製品・サービスを提供している情報セキュリティの市場は、日々情報漏洩の危険にさらされている現状においては、今後も拡大していくものと見込んでおりますが、国内市場においては市場の成長スピードを高い精度で見積もることは難しい状況にあります。また、市場が順調に拡大した場合でも、競合他社の参入や変化のスピードに迅速かつ柔軟に対応できず、当社が市場でのシェアを伸ばして行くことができなくなる可能性があります。当社では、新製品や新たなソリューションに向けての研究開発の深耕、顧客ソリューションにおける当社技術の適用拡大と提案力向上などの取り組みを強化しておりますが、このような当社を取り巻く事業環境の変化に有効な対抗策を講じることができなかった場合、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

③特定事業への依存に係るリスク(発現可能性 低、影響度 高)

当社が展開する事業領域は、情報セキュリティ事業の単一セグメントであり、当該事業に経営資源を集中させております。当社では、情報セキュリティ事業のうち主力サービスである「ZENMU Virtual Drive」に関する売上高の割合が高く、これを含めた秘密分散ビジネスの売上構成は2024年12月期において78.9%と依存度が高くなっております。当社では、「ZENMU Engine」を用いたOEMの強化や、秘密分散技術を応用させた秘密計算ソリューションの研究開発を進める等、特定サービスへの依存低下を進めておりますが、環境の変化等により、当該市場が縮小し、その変化への対応が適切でない場合、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

④法的規制に係るリスク(発現可能性 低、影響度 低)

本書提出日現在において、当社の事業継続に重要な影響を及ぼす法的規制はないものと認識しておりますが、当社が提供するサービスにおいて、主力商品となっている情報の分散データの取り扱いについては「個人情報の保護に関する法律」等の法令を遵守する必要があります。その他関連する新たな法令等の制定や、既存法令等の改正及び解釈変更がなされた場合、当社の事業が制約を受け、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。設立以降、当社の事業が重大な制約を受ける法令の制定・改正等はありませんが、当社では事業に関連する法的規制に関する情報を定期的に収集し必要に応じて顧問弁護士等のアドバイスを受けつつ対策を講じる方針です。

 

(2) 事業内容に関するリスク

①販売代理店への依存に係るリスク(発現可能性 低、影響度 低)

当社の主力商品である情報漏洩対策ソリューション「ZENMU Virtual Drive」の販売経路は、主に販売代理店を経由した取引となっており、当社では販売代理店への側面サポートや代理店との協業による顧客開拓を行っております。しかしながら、当社にとってはエンドユーザーとの直接の関与が難しいという側面があります。今後も安定的に事業を拡大するために、より販売代理店との連携強化を進めることで、エンドユーザーの要望や受注状況等の情報を収集し、確実性の高い受注予測ができるよう努めてまいりますが、情報収集に遅れ等が生じた場合、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

②研究開発活動の不確実性に係るリスク(発現可能性 低、影響度 高)

当社は、秘密分散技術や秘密計算技術を開発・事業化するため、研究開発費用に資本を投入しておりますが、市場動向の予測が難しく、適時に効果的な研究開発活動を実施できず、他社が当社より優れた技術、製品を開発すれば、当社の製品は陳腐化し、販売シェアが縮小すると同時に、新製品の事業及び市場の拡大が妨げられることになります。そのような変化を的確に予測し、求められる技術、製品の開発をタイムリーに行うことは非常に困難です。特に新規技術につきましては、研究活動の方向性を定めることには一層の困難を伴うため、研究開発に要した費用を回収することへの不確実性が高いと考えられます。)当社では、「第2 事業の状況 1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(3)中長期的な経営戦略」に記載した成長戦略に則り事業展開を行っていく方針であり、秘密計算ソリューションの事業化に向けて産業技術総合研究所との共同研究を基礎とした開発を行っていく方針でありますが、研究開発活動が収益に寄与する成果を出すことができない場合、当社の事業、経営成績、財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 会社組織に係るリスク(発現可能性 低、影響度 低)

①小規模組織における内部統制に係るリスク

当社は、小規模の体制で効率的な事業運営に努めており、現在の組織体制に則した業務執行体制、内部統制を構築しておりますが、今後、事業の急速な拡大等により、適切な人的・組織的な対応ができずに、内部統制の構築に遅れが生じる場合には、事業運営が困難となり、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

②人材の育成・確保に係るリスク(発現可能性 中、影響度 高)

当社では、積極的に優秀な人材の採用、育成に注力し、従業員の働きやすさを重視したリモートワーク等の業務環境の整備によるワークライフバランスの確保やCWO(最高ウェルビーイング責任者)を選任し、従業員のウェルビーイング(健康かつ健全な心と身体である状態)の維持向上の推進を図ることで、人材の定着に努めておりますが、当社が属する情報セキュリティ分野においては、特に専門的な技術を持ったエンジニアや業界・技術に通じた営業担当者の獲得は難しい状況にあります。そのため、適切な人材を十分に確保できず、あるいは優秀な人材が社外へ流出した場合には、当社の経営戦略の遂行上、影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) その他のリスク

①有利子負債の依存度に係るリスク(発現可能性 低、影響度 高)

当社は、運転資金に必要な資金を主に金融機関からの借入で調達しており、2024年12月期末の総資産額に占める有利子負債比率は19.8%となっております。現状は借り換えを含め順調に資金調達がなされておりますが、財務体質の悪化や、借入金利の上昇により支払利息が増加した場合には、当社の財政状態や経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

②税務上の繰越欠損金に係るリスク(発現可能性 低、影響度 中)

当社は事業拡大のための先行投資等により2016年2月期から2022年12月期まで当期純損失を計上したこと、及び当該資金を株式会社日本政策金融公庫からの借入れにより調達したことにより、2022年12月期まで債務超過となっておりましたが、2023年12月期の黒字化並びに2023年12月までに行った第三者割当増資により債務超過を解消しております。一方で税務上の繰越欠損金は引続き存在しており、将来における法人税等の税負担が軽減されることが予想されております。当社の事業が順調に推移し、当該繰越欠損金が解消した場合には、通常の税率に基づく税負担が生じることとなり、当社の業績及びキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。

 

③無形固定資産(ソフトウエア)に係るリスク(発現可能性 低、影響度 低)

当社は、製品・サービスの強化・維持を図るためソフトウエアへの開発投資を推進しており、将来の収益獲得が確実であると認められた開発費用をソフトウエアとして無形固定資産に計上しております。ソフトウエアの開発に際しましては、市場性等を慎重に見極めておりますが、市場や競合状況の急激な変化などにより、想定していた利用が見込めなくなった場合や、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合には、除却あるいは減損の対象となる可能性があり、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

④新株予約権の行使による株式価値の希薄化に係るリスク(発現可能性 高、影響度 中)

当社は、当社の役員、従業員及び社外協力者に対するインセンティブを目的として、新株予約権を付与しており、本書提出日時点における発行済株式総数に対する潜在株式数の割合は8.87%となっております。当社では、資本政策によりその割合を適切に把握しておりますが、これらの新株予約権が行使された場合には、当社の株式が発行され、既存の株主が有する株式の価値及び議決権割合が希薄化する可能性があります。

 

⑤知的財産権に係るリスク(発現可能性 低、影響度 高)

当社の事業に関連した特許権等の知的財産権について、第三者との間で訴訟等の問題が発生した事実はなく、本書提出日現在においては、当社の事業に関し他者が保有する特許権等への侵害により、事業に重大な支障を及ぼす可能性は低いものと認識しております。しかしながら、今後、当社が第三者との間で係争となった場合、弁護士や弁理士と協議の上、個別具体的に対応策を検討していく方針ですが、当該第三者の主張の適否に関わらず、解決に至るまでに、時間および多額の費用を要する可能性があります。また、当社の商品や技術につきましては、適正に管理しておりますが、第三者が侵害した場合にも同様に、時間および多額の費用を要する可能性があります。その場合には当社の事業戦略および経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。現状、秘密分散ソリューション、秘密計算技術ともに特許化および公知化する戦略をとっており、これらは当社の強みとなっております。

そのほか、当社の秘密分散ビジネスおよび秘密計算ビジネスでは、自社開発技術を中核に製品・サービス等の開発を行っているものの、秘密計算ソリューション「QueryAhead」では産業技術総合研究所の開発したソースコード(※1)について同研究所の子会社として知財および共同研究の管理を行う株式会社AIST Solutionsから許諾を得て使用しております。また、同研究所との共同研究契約を通じて、秘密分散技術、秘密計算技術の双方について理論面での高度化を継続的に図っており、同研究所との協力関係の維持および強化について今後も取り組んでいく方針です。なお、当該ソースコードの使用については2091年12月31日までの使用許諾契約を締結済であり、また、秘密計算の処理自体は当該ソースコードに依存することなく実現しているものであることから、当社の事業及び業績に影響を及ぼす可能性は限定的であるものと考えております。

 

 

(※1)「ソースコード」

コンピュータへの指示や一連の処理手順などをプログラミング言語によって表記したもの。

「QueryAhead」における産総研が開発した「秘匿シャッフルプログラム」ソースコードはデータを秘匿化したまま大きさの順番に並べる機能を担っており、最大値、最小値を求める、等の処理を実現しています。

 

⑥配当政策に係るリスク(発現可能性 低、影響度 低)

当社は、株主に対する利益還元を経営上の重要な経営課題と位置づけておりますが、現状においては成長過程にあるため、当面の間は内部留保の充実を図り、将来の事業展開及び経営体質の強化のための投資等に充当することが、株主に対する利益還元につながるものと考えております。将来的には、各事業年度の財政状態及び経営成績を勘案しながら株主に対して配当による利益還元を検討していく方針ではありますが、現時点において配当実施の可能性及びその実施時期等については未定であります。

 

⑦資金調達に係るリスク(発現可能性 低、影響度 高)

当社の公募増資による調達資金の使途については、当社事業の拡大のため、事業成長のための研究開発費や採用等による人員増による人件費などへの充当を予定しております。しかしながら、上記に記載しましたように、事業環境が変化することも考えられるため、当該資金を想定通りの使途に充当されない可能性もあります。また、当初の計画に沿って資金を使用した場合においても、想定通りの投資効果を得られない可能性があります。そのような場合において、当社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑧ベンチャーキャピタル等の当社株式保有割合に係るリスク(発現可能性 高、影響度 中)

本書提出日現在における当社の発行済株式総数は1,312,800株であり、このうちベンチャーキャピタルが組成した投資事業有限責任組合(以下、「VC等」という。)が保有する株式数は162,600株と、当社株式の公募増資前の発行済株式総数に対する割合は12.4%となっております。

一般に、VC等が未上場会社の株式を取得する場合、上場後に保有株式を売却しキャピタルゲインを得ることがその目的のひとつであり、当社の株式上場後において、VC等が保有する当社株式の一部または全部を市場にて売却した場合には、当社株式の需給バランスが短期的に損なわれ、株価の形成に影響を及ぼす可能性があります。

 

配当政策

3【配当政策】

当社は、企業価値を継続的に拡大し、株主への利益配当の実現が重要な経営課題と認識しております。しかしながら、本書提出日現在において成長過程であり、将来の事業展開と財務体質の強化のため、内部留保の充実を図ることが重要であると考え、創業以来無配当を継続してまいりました。

今後の配当政策の基本方針としましては、財務体質の強化を目的とした内部留保の充実を当面の優先事項としたうえで、経営成績、財政状態及び事業展開を勘案しつつ株主への利益配当を検討していく予定であります。

内部留保資金につきましては、高い技能を有する人材の採用及び今後の事業展開への投資、プロダクトの新規開発に活用することを検討しております。

なお、剰余金の配当を行う場合は、年1回の期末配当を基本方針としており、その他年1回中間配当を行うことができる旨及び上記の他に基準日を設けて剰余金の配当を行うことができる旨を定款で定めております。また、これらの剰余金の配当決定機関は、期末配当が株主総会、中間配当が取締役会となっております。