リスク
3【事業等のリスク】
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。当社グループではこれらのリスクの発生の可能性を認識した上で発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針でありますが、リスクの発生をすべて回避できる保証はありません。また当社グループに関連するリスクをすべて網羅するものではありません。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)体性幹細胞/iPSC再生医薬品分野のリスク
① 開発期間が長期にわたることに伴う損失の計上と追加の資金調達の可能性について
当社は、iPSC再生医薬品分野に加えて、2016年1月より体性幹細胞再生医薬品分野においても研究開発を進めており、当社の両分野の今後の研究開発の進展及び事業展開の成否に依拠しています。
体性幹細胞再生医薬品分野のパイプラインHLCM051は、アサシス社の開発する幹細胞製品MultiStem®を用いて脳梗塞急性期及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を対象疾患とするもので、法改正で新設された早期承認制度に基づいた承認の取得も想定し、治験を実施いたしました。
またiPSC再生医薬品は、前臨床試験段階であり、製品の上市までにはさらなる段階が必要となります。
このため、体性幹細胞/iPSC再生医薬品分野において、実際に上市されるまでは収益が上がらず、損失を計上し続ける見込みとなっております。また、当社の体性幹細胞再生医薬品分野及びiPSC再生医薬品分野の研究開発には多額の資金が必要となることから、当社は追加の資金調達を行う可能性があります。このように、当社が想定しない追加の費用が発生したり、資金調達が想定通り行えない場合には、当社グループ(当社及び当社の関係会社)の経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、HLCM051を先行して上市させることにより、その販売からの収益を、iPSC再生医薬品分野の開発に充てるハイブリッド戦略を展開しております。脳梗塞急性期及びARDSを対象とした医薬品の開発について規制当局と協議を進めております。
② ライセンス契約元等との関係について
当社は、HLCM051に関しては、アサシス社細胞治療医薬品の開発・製造・販売に関し国内及び一部海外も含めた独占的なライセンス契約を締結しております。HLCM051の商用製造に関しては、医薬品製造受託機関(CMO)に対して当社から製造委託を行う予定です。アサシス社は、2024年1月、米国連邦破産法第11条に基づく破産手続きを申請しました。当社は、米国連邦破産法第363条に基づく取引に関する契約をアサシス社と締結し、アサシス社のほぼ全ての資産の取得を目指しています。なお、アサシス社との契約下における当社の既存の権利は、連邦破産法下の保護を受けることが合意されており、今後、本手続きの中で、当社事業へ影響が及ばないよう適切に管理される予定です。アサシス社の上記資産獲得に何等かの障害が発生した場合やCMOの製造・供給体制になんらかの支障が生じた場合等、HLCM051の開発又は販売計画に変更が発生する可能性があります。
③ 技術革新と競合について
当社が実施しているiPSC再生医薬品に係る研究開発の領域は、国内のみならず、世界的にも注目を集めている研究分野であるため、新しい知識や技術が発見されイノベーションが生まれやすい分野であります。ES細胞由来の細胞医薬品を含め、様々な治療法の開発が進展しているところであります。
体性幹細胞再生医薬品分野においては、すでに様々な研究開発が進んでおり、より実現性の高い技術革新が行われる可能性があります。
これらの周辺領域を含め当事業に参入している企業や潜在的な競争相手が、当社の保有している知的財産権等を上回る新技術を開発し、関連特許を取得する場合や先行して上市した場合、また、当社グループで実施している再生医療分野に関する最新業界動向の収集・分析が不十分で環境変化への迅速な対応ができない場合などには、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、大学や公的研究機関と連携し、常に最先端の技術開発に取り組んでおります。
④ 再生医療等製品に関する法規制について
2014年11月に施行された医薬品医療機器等法(以下、薬機法と言います。)は、医薬品、医療機器等の安全かつ迅速な提供を図るものであり、体性幹細胞/iPSC再生医薬品を含む再生医療等製品について早期承認制度に基づいた条件及び期限付承認制度を新設しております。この制度下での承認実績は既にあるものの、他家iPS細胞を由来とする製品はいまだ実績がないことから、他の細胞由来の製品とは異なる検証が必要となる可能性も考えられます。また、かかる薬機法を含む再生医療等製品に関する法規制については、技術の革新の状況や予期し得ない事態の発生等に対応して、継続的に見直しがなされる可能性があります。法規制の追加や法改正の内容如何によっては、これまで認められてきた品質管理基準を上回る品質管理が求められる等の理由によって、多額の設備投資や追加の開発費用が必要となり、また当社の想定よりも多数の試験が求められた場合、開発スケジュールが大幅に遅れるなどの事態が生じる可能性があります。このような場合においては、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、そうした見直しにいち早く対応すべく情報収集、関係規制当局との相談、社内体制の整備等に努めております。
⑤ 体性幹細胞/iPSC再生医薬品の製品特性について
体性幹細胞/iPSC再生医薬品は、ヒト細胞・組織を原材料とした細胞を人体へ移植・投与するという特性上、原材料の安全性に関するリスクや、様々な予期せぬ副作用・医療事故の発生などの可能性があり、そのために法制度上も厳しい規制がなされております。今後予期せぬ事態が発生する可能性を完全に防ぐことは難しく、そうした事態が発生した場合には当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、そうした規制に対応し、事故を防止するためにも、再生医療分野における知見を有する人材や薬事制度に精通した専門家に関与いただくなど様々な施策を講じております。
⑥ 製造・販売体制の構築に関する不確実性について
当社の体性幹細胞/iPSC再生医薬品事業は、研究開発活動において成果をあげることにとどまらず、その後の製造及び販売についても事業として展開していくことを視野に入れております。しかしながら、医薬品の開発には、多種多様な技術が必要となり、今後、何らかの理由で製造方法の確立、製造体制の構築等が困難になった場合には、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、提携先企業等とともに細胞の大量培養技術の開発など製造方法の確立に向けて注力しております。
販売体制については、当社単独で販売体制を構築するのか、あるいは製薬企業等との提携により販売体制を構築するのか、その方針はいまだ決定しておりません。今後、体制構築に何らかの障害が生じ、当社の計画より遅れた場合には、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、開発中の製品の上市に先立ち、営業・マーケティング組織の立ち上げ、国内医療用医薬品等卸売大手との契約締結など、販売開始に向けた準備を始めています。
⑦ 海外での事業展開について
当社グループは、当社の開発するiPSC再生医薬品が、国内のみならず、世界各国の難治性疾患の罹患者の方々にとって需要のあるものであると考えております。このため、海外子会社の設立等といった形で海外展開に向けた取組みを進めております。
しかしながら、海外における特有の法的規制や取引慣行により、必要な業務提携や組織体制の構築に困難が伴うなど、当社グループの事業展開が何らかの制約を受ける可能性もあり、その場合、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑧ 治験の実施について
当社は、将来的に、iPSC再生医薬品分野において治験の実施を検討しております。一般的に治験の実施において、いまだ再生医療等製品の治験実施例は多くはないことから、治験に必要とされる患者を適切に確保できないこと、治験実施施設における各種手続きが計画通り進行しないこと等の様々な要因によって遅延する可能性があります。さらに、安全性に関する許容できない問題が生じた場合や、期待した有効性を確認できない場合には、開発を中止するリスクがあります。
このような場合、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)やアメリカ食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)とも事前に相談し、綿密な計画を立て、治験を実施してまいります。
⑨ 治験データの解析・評価結果、承認申請の不確実性について
当社は、現在、体性幹細胞再生医薬品分野において治験を実施しております。一般的に治験データの解析・評価結果において、その結果の確たる予測は困難であり、当社の予期せぬ結果となることも想定されます。また、承認申請において、PMDAとの相談の経過によっては、当社の想定どおりに進捗せず、同様に当社が想定するスケジュールどおりに行うことができない可能性があります。このような場合、当社グループの今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、継続的にPMDAと相談を続けながら、製造・販売承認申請に向けた準備を進めております。
⑩ 投資に関するリスク
当社グループでは、常に最先端の技術開発に取り組み、周辺領域を含め当事業に参入している企業や潜在的な競争相手に先んじるため、関連する技術や特許を保有する企業に対して投資やM&A等(買収、合併、事業譲渡・譲受)という形で提携を進める可能性があります。また、これらとは別に、当社はSaisei Ventures LLCを通じて、国内外のバイオ領域に成長資金となる投資を行っております。
提携先または投資先において予期せぬ問題が生じた場合や、予想通りに研究開発が進まない場合には、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、提携先の選定やその投資価額の妥当性等において、第三者機関の評価を得たうえで慎重に進めております。
(2)医薬品の研究開発一般に関するリスク
① 薬価に係る法規制の改正等について
世界的な医療費抑制の流れの中で、薬価に係る法規制の改正により当社が想定している製品価値よりも低い薬価・保険償還価格となった場合には、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
② 製造物責任について
当社が開発した医薬品が健康被害等を引き起こした場合、治験、製造、販売において不適当な点が発見された場合には、製造物責任を負う可能性があり、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(3)人材及び組織に関するリスク
① 特定の個人への依存について
当社グループは、小規模な組織であります。また、代表執行役社長CEOである鍵本忠尚は、研究開発や経営方針、戦略の決定、提携先との関係構築等、当社グループの事業活動において重要な役割を果たしております。当社グループでは、過度に特定の人物に依存しない組織的な経営体制の強化を進めておりますが、何らかの理由により、鍵本忠尚が当社グループの業務を継続することが困難になった場合には、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
② 社内管理体制について
当社グループの行う事業の性質上、他の役員及び従業員が持つ専門知識・技術・経験に負う部分も大きく、今後、当社グループの業務の拡大に応じて人員の増強や社内管理体制の充実を図っていく方針でありますが、想定どおりに人材の確保ができない場合や人材の流出が生じた場合、又は社内管理体制に不備が生じた場合には、研究開発の推進や社外との連携関係の構築に支障が生じ、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(4)その他の事業リスク
① 大学等公的研究機関との関係について
当社では、これまで、公的研究機関との連携や特許実施許諾契約の締結等を通じて、積極的な研究開発活動を実施して参りました。しかしながら、国立大学の法人化により大学の知的財産権に関する意識も変化しつつあるため、特許実施許諾契約の新規締結や更新が困難となる等の事態が生じた場合には、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
② 知的財産権について
当社グループの事業を遂行していく中で、第三者が有する知的財産権を使用することがあります。当社グループでは適法な手続きのもとに知的財産権を使用することとしておりますが、第三者の知的財産権に関連して係争が生じる可能性もあります。当社グループでは、第三者の知的財産権に抵触することを回避するため、調査、検討及び評価等を随時実施し、必要に応じて遅滞なく実施許諾契約(ライセンス契約)を締結しておりますが、今後、事業の拡大とともにこのようなリスクは増大するものと思われます。
当社グループは、知的財産権に関する管理体制をより強化していく方針でありますが、訴訟等が提起された場合、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループが有する知的財産権が第三者により侵害される可能性もあります。当社グループとしては、このような場合には当社グループの知的財産権保護のために必要な法的措置を検討していく方針ですが、費用対効果や第三者から特許無効審判等を提起される可能性なども勘案し、あえて法的措置に踏み切らない可能性も否定できず、その場合、当該第三者が当社グループと競合する事業を行う可能性も否定できないことから、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
③ 風評上の問題の発生について
当社グループは、開発における安全性の確保、法令遵守、知的財産権管理、個人情報管理等に努めております。しかしながら、当社グループに関してマスコミ報道などにおいて事実と異なる何らかの風評上の問題が発生した場合、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
④ 災害等の発生に関する不確実性について
当社グループが事業活動を行っている地域において、自然災害や火災等の事故災害等が発生した場合、当社グループの設備等に大きな被害を受け、その一部又は全部の稼働が中断し、研究開発が遅延する可能性があります。また、損害を被った設備等の修復のために多額の費用が発生し、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 資金繰りについて
当社グループのようなバイオテクノロジー企業においては、研究開発費用の負担により開発期間において継続的に営業損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなる傾向があります。当社グループとしましては、新規に模索している提携先からの契約一時金及びマイルストン収入や補助金の活用、金融機関等からの借入を実施することで資金確保に努め、必要に応じて増資による資金調達を実施する方針でありますが、何らかの理由によりこうした資金の確保が進まなかった場合においては、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑥ 配当政策について
当社グループは創業以来、株主に対する剰余金の分配を実施しておりません。株主への利益還元については、重要な経営課題と認識しており、将来的には経営成績及び財政状態を勘案しつつ剰余金の分配を検討する所存でありますが、現時点においては繰越利益剰余金がマイナスであるため、当分の間は研究開発活動の継続的な実施に備えた資金の確保を優先し、配当は行わない方針であります。
⑦ 新株予約権の行使による株式価値の希薄化について
当社は、役員及び従業員等に対し、モチベーションの向上を目的に新株予約権を付与しております。また、パイプライン開発や新技術開発等の資金需要に対応するため、新株予約権及び新株予約権付社債を発行しております。
これらの新株予約権が権利行使された場合、当社株式が新たに発行され、既存の株主が有する株式の価値及び議決権割合が希薄化する可能性があります。なお、2023年12月31日現在、これらの新株予約権による潜在株式数は、15,644,223株であり、発行済株式総数及び潜在株式数の合計の21.0%に相当しております。
⑧ 為替変動のリスク
当社は、海外に子会社を設立しており、今後、海外企業とのライセンス契約の締結、海外での研究開発活動等において外貨建取引が増加する可能性があります。急激な為替変動によって為替リスクが顕在化した場合は、当社グループの経営成績及び今後の事業展開に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑨ 継続企業の前提に関する重要事象等について
当社グループは、当連結会計年度末において、現金及び現金同等物を6,722百万円保有しておりますが、第2回無担保転換社債型新株予約権付社債4,000百万円(額面金額)の償還期日が1年以内となっています。また、当連結会計年度における営業損失は3,379百万円、営業活動によるキャッシュ・フローは△2,822百万円となりました。これらの財務指標の状況により、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しています。
当社は、当該事象を解消すべく、2024年1月25日開催の執行役会において第三者割当の方法による新株式及び第22回新株予約権の発行について決議し、2024年2月9日に払込が完了しております。また、これに加えて、以下の対応策を図ってまいります。
a.継続的な収益源の確保
UDCやiPS細胞株の提供による売上収益に加え、当社の保有するその他医療材料を用いた研究の受託に伴う収益の獲得に取り組みます。
b.既存パイプラインにおける提携先の開拓
体性幹細胞再生医薬品分野及びiPSC再生医薬品分野におけるパイプラインについて製薬会社とのパートナリング、また一部地域における独占的開発・販売権の製薬会社へのライセンスアウトを進めることにより、開発リスク、財務リスクの低減を図ります。
c.コスト削減
従来からの固定費削減を継続し、当社グループの資金状況を見ながら研究開発を進めてまいります。
d.資金調達
ARDSを対象とする治療薬の臨床試験を推進するための株式会社プロセルキュア及びeNK®細胞を用いたがん免疫療法の研究・開発を推進するための株式会社 eNK Therapeuticsにおいて、ベンチャー・キャピタルからの出資及び補助金等を活用した資金調達を実行すること、また当社においても他の対応策の状況に応じて必要な資金調達を行っていきます。
これらの対応策のもと、継続企業の前提に関する重要な不確実性はないものと判断しています。
配当政策
3【配当政策】
当社は、株主への利益還元を重要な経営課題として認識しておりますが、創業以来配当を実施しておりません。医薬品開発には多額の先行投資と長期の開発期間が必要となるため、当分の間は研究開発活動の継続的な実施に備えた資金の確保を優先し、配当は行わない方針であります。
配当を行う場合は、年1回の配当を考えております。なお、当社は、会社法第459条第1項の規定に基づき、期末配当は12月31日、中間配当は6月30日をそれぞれ基準日として、法令に別段の定めのある場合を除き、株主総会の決議によらず取締役会の決議によって剰余金の配当等を定める旨定款に定めており、配当の決定機関は取締役会であります。