事業内容
セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
-
売上
-
利益
-
利益率
最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています
セグメント名 | 売上 (百万円) |
売上構成比率 (%) |
利益 (百万円) |
利益構成比率 (%) |
利益率 (%) |
---|---|---|---|---|---|
(単一セグメント) | 194 | 100.0 | -252 | - | -130.0 |
事業内容
3 【事業の内容】
当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(*8)(医薬品、医療機器、人工知能(AI)を活用したプログラム医療機器)を医療現場で研究開発し、医療イノベーションの創出に貢献することで、ヒトが心身ともに生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したいと考えています。
少子・高齢化は、最重要の社会的及び医学的課題です。当社は老化関連疾患及び女性・小児の疾患など、社会的にも重要な医療課題を解決すべく研究開発や事業に取り組んでいます(図表1)。世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患が対象となっています。2023年の全世界の死亡者数の74%がこれら疾患で亡くなっており(世界保健機関、Newsroom)(*9)、当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としています。また、女性、小児の医療課題にも注力しています。
< 図表1 当社が目指す新たな医療 >
当初、コンピューター工学及び低分子スクリーニングから創薬したプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI)-1阻害薬など医薬品開発が主体でしたが、研究・医療機関からの要請、更に医療現場の課題を解決するための必要性から、現在では当社の開発領域(モダリティ)は、医薬品のみならず、医療機器やAIを活用したプログラム医療機器など多岐にわたっています。医薬品産業も低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へとモダリティが多様化しつつあります。また、近年の工学系や情報系技術の進歩により情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体の事業から医療ソリューション全般にわたる事業への転換を迎えております。医薬品、医療機器、更にはAIを活用したプログラム医療機器など、医療現場での治療のオプションも大きく広がりつつあります。これまで主体であった化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、医療課題を解決する多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出したいと考えます。
当社は、国内外の大学などの研究機関で着想された多くのモダリティにわたるコンセプトやシーズを、基礎研究から臨床開発(医師主導治験)まで一気通貫でつなげる研究開発を行い、大手製薬企業等につなぐことで医療イノベーション創出に貢献します(図表2)。臨床開発は販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します。例えば、2022年12月に厚生労働省から承認を得た医療機器(極細内視鏡)は、製品コンセプトから試作品開発、非臨床試験の実施、検証のための医師主導治験まで複数の大学と共同で開発を進め、当社が取得した成績で薬事承認を得ることができました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病の治療薬は現在、承認申請に必要な検証試験である第Ⅲ相試験を実施中ですが、今後も可能な場合は第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。その理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、更に第Ⅲ相試験まで自社で実施することで大きな事業収益が期待できるからです。
< 図表2 当社のビジネス・モデル >
これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低い一方で、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスクを分散することが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合、なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティも展開できていますので、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えます。オープンイノベーションラボ(東北大学、広島大学)の設立もその一環として推進しています。
当社は、基礎研究から臨床試験まで広く研究を実施している医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。基礎研究分野で共同研究を行っている多くの研究者は医師でもあり、自ら治験調整医師(治験責任者)として医師主導治験を実施することが可能です。基礎研究と臨床研究を実施する研究者が同じである場合が多いので、基礎研究から医師主導治験まで一気通貫で実施、効率的な開発ができます。当社の治験は基本的に医師主導治験で実施しています。
当社は、これまで28に及ぶ医師主導臨床試験(そのうち医師主導治験25件)等の実績がありますが、医師主導治験には多くの利点があります。医師自ら治験を立案及び実施できますので、医療現場での課題や実情に合った試験計画や枠組みで実施できます。2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けましたが、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。当時は、海外承認国内未承認の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬が医師主導治験の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学等の医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は適応拡大やオーファン疾患が対象」という印象が定着していた時期もございます。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。当社の医薬品開発においては、非臨床試験はGLP(Good Laboratory Practice、医薬品の安全性の実施に関する基準)、治験薬の製造は治験薬GMP(Good Manufacturing Practice、治験薬の製造管理及び品質管理に関する基準)、医師主導治験は、企業治験と同様にGCP(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施に関する基準)を遵守して実施していますので、医師主導治験でも、承認申請や許認可は問題なく得られます。
(1) 事業モデル
自社開発品(自社シーズ)を有する一方で、大学等からの外部シーズを獲得し医師主導治験を活用しながら治療コンセプトの実証Proof-of-concept(POC)まで成長させ、製薬企業等へライセンスアウトすることが、当社のビジネス・モデルです。現パイプラインの中で、自社シーズは、PAI-1阻害薬及びピリドキサミン等であり、外部シーズはこれら化合物の新たな用途等が該当します(「事業の内容 (2) 当社のコア技術」をご参照ください)。多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器等)の研究開発を業務としていますが、大学等研究機関との共同研究で基礎研究を行い、その成果を活用して臨床開発(医師主導治験)までを一気通貫でつなげる開発を行っています。
自社シーズに対する臨床応用の可能性を広げるために基礎研究を広く展開する必要があります。当社では、自社化合物をオープンリソースとして研究者に提供し研究いただくことで新たな用途の発見に取組んでいます(オープンイノベーション)。そして、この中から、科学・医学的、事業性の観点から適切な適応疾患を選別し、医師主導治験で検証します(図表3)。基礎研究成果は、共同研究を実施した大学等研究機関と共同で特許を出願し、当社事業の基盤となる知的財産の確保に努め、当社が独占的な実施権の許諾を受けた後に事業化開発を進めます。
< 図表3 当社の事業戦略 >
TREx:東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ
HiREx:広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ
自社若しくは大学等研究機関と共同で、製造方法の開発、非臨床薬効薬理試験、安全性試験、医師主導治験(第Ⅰ相〜第Ⅲ相)までを実施し、有効性と安全性の確認と知的財産価値を高めた上で、国内・海外の製薬企業等(出口企業)に対して、製品の開発権、製造権、販売権等をライセンスアウトすることで、契約一時金、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、製品上市後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入、売上高に対する目標値を達成するごとに支払われる販売マイルストーン収入等を得る事業モデルを採用しています(図表4)。出口企業とは、ライセンス契約に至る前の比較的早期の研究開発段階において、将来のライセンス契約を前提としたオプション権付き共同研究契約(オプション契約)を締結することもあります(事業系統図の(共同研究))。この場合、当社は、出口企業から共同研究費を得ることで、自社の費用負担を抑えつつ研究開発を実施できるメリットを得られます。
当社の事業セグメントは、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発・販売等事業のみの単一セグメントであり、事業系統図及び事業収入の形態は以下のとおりです。
< 図表4 事業系統図及び事業収益形態 >
(事業系統図)
(事業収入の形態)
< 図表5 当社の事業戦略 >
< 図表6 当社が有する研究機関・医療機関ネットワーク >
(出典:当社作成)
(2) 当社のコア技術
① 当社のパイプライン概況(2024年5月末現在)
< 図表7 パイプライン >
低分子医薬品 PAI-1阻害薬
医薬品 ピリドキサミン
医療機器、診断薬
AIソリューション:プログラム医療機器(SaMD)
② パイプラインの概要
(a) RS5614(PAI-1阻害薬)
〔 PAI-1と老化 〕
我が国を含めて先進国は超高齢化に直面しており、老化は医学的のみならず社会的にも喫緊の課題となっています。当社は、細胞の老化(Senescence)を分子レベルで明らかにし、組織や個体の老化(Aging)に関連する疾病を治療する新たな医薬品を開発し、究極的にはヒトの老化を改善するためのイノベーションに寄与したいと考えます。
細胞の老化(Senescence)
腫瘍細胞を除いて、生物の細胞は、細胞老化(Replicative senescence)と呼ばれる現象のために、無制限に増殖することはできません。この現象には、遺伝子のテロメア長の短縮、更には細胞老化を促進するp53などの因子が関与します。老化した細胞は、p53に加えてプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI)-1の発現が極めて高いことが分かっていますが、p53やPAI-1を抑制することで、細胞老化の現象は阻害できることが明らかになりました。
組織や個体の老化(Aging)
細胞のみならず、老化した組織や個体(klothoマウス、早老症として有名なウェルナー症候群のヒト)でも、PAI-1の発現が高いことが報告されました。当社、東北大学や米国ノースウェスタン大学との共同研究で、老化モデルとして有名なklothoマウスでは、PAI-1の発現や活性を遺伝子あるいはタンパク質レベルで阻害することにより、老化の主症状を改善できることを明らかにしました。
加齢に関連する疾患
加齢とともに、がん、血管(動脈硬化)、肺(肺気腫、慢性閉塞性肺疾患)、代謝(糖尿病、肥満)、腎臓(慢性腎臓病)、骨・関節(骨粗鬆症、変形性関節症)、脳(脳血管障害、アルツハイマー病・認知症)などの関連した様々な疾患が発症します。興味深いことに、これら疾患の組織ではPAI-1の発現は極めて高く、PAI-1阻害薬を投与することで病態が改善できることが明らかとなりました(図表8に共同研究成績一覧を記載)。
長寿家系の疫学的調査
米中西部に暮らすキリスト教の一派アーミッシュの人々の健康な老い方については、10年以上にわたって研究が行われました。米国ノースウェスタン大学、東北大学との共同研究で、アーミッシュコミュニティーの人々を調査し、PAI-1遺伝子を持たない人(56名)は、持っている人(165名)に比べて10年長生きすることを見出しました。また、欠損する人々は糖尿病など病気にもかかりにくいことも分かりました。この事実は、2017年11月にニューヨーク・タイムズ始め、多くの新聞で報道されました。研究代表者のノースウエスタン大学の主任教授は「彼らはより長く生きているだけではない。より健康的に生きている。長生きの理想型だ」と述べました。このヒトでの疫学調査は、細胞やマウスでの実験結果を裏づけています。
< 図表8 PAI-1に関する共同研究成績一覧 >
〔 PAI-1阻害薬 〕
PAI-1は血栓の分解(線溶系という)に必要な分子ですが、近年では老化(加齢)に関連して発症する種々の疾患に関与することを強く示唆する一連の知見が明らかとなっており、創薬の標的と考えられます。しかし、これまでヒトのPAI-1分子の活性を阻害できる医薬品は、臨床応用されていません。当社は、加齢に伴い生じる一連の疾患を治療できる可能性を持ったPAI-1阻害薬の開発に取り組んできました。
ヒトのPAI-1分子の結晶構造を基に、コンピューター工学を利用した約200万バーチャル化合物ライブラリーの探索から約96個のPAI-1阻害候補化合物を取得しました(図表9)。PAI-1活性阻害作用(PAI-1による組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)(*10)阻害抑制)及びPAI-1/tPA複合体の形成阻害を指標として、新規阻害化合物を10年以上かけてこれまで1,300個以上合成スクリーニングし、更にそれらの活性や安全性などを評価する中で、安全性に優れた経口投与可能な臨床開発候補化合物RS5614を取得いたしました。当社のPAI-1阻害薬はPAI-1の曲がりやすい接合部に結合することが示されました(図表10にRS5484を例示、International Journal of Molecular Sciences 2021)。当社のPAI-1阻害薬はPAI-1のビトロネクチン結合を阻害しPAI-1を不安定化してその分解を促進すると考えられます。
< 図表9 新規PAI-1阻害薬の合成と構造最適化による臨床開発候補品の取得 >
(出典:東北大学)
< 図表10 PAI-1とPAI-1阻害薬RS5484複合体のX線構造解析 >
(出典:東北大学)
リード化合物であるRS5275から合成展開を行い、4つの臨床候補化合物RS5441、RS5484、RS5509、RS5614を取得しました。これらは、経口吸収性や体内動態(組織移行性)などそれぞれに特色を持つ化合物で、異なる適応症において有用と考えられます(図表9)。
過去に国内外大手を含む多くの製薬会社やバイオベンチャーが低分子PAI-1阻害薬の創製に挑戦しました。幾つかの薬剤はマウスやラットの動物モデルで有効性が報告され、Wyeth社(現Pfizer社)の製品PAI-749(Diaplasinin)は臨床ステージまで進みましたが、臨床第Ⅰ相試験で開発は中止されました。これまでサルの病態モデルで薬効を示す論文は、当社のRS5275しかありません(J Cereb Blood Flow Metab 2010)。経口での吸収性が極めて高い低分子化合物のために、経口投与でも十分な血中濃度に達します。薬効、動態、安全性、物性の指標でスクリーニングし、最終的に選択された臨床開発品がRS5614です。探索からGLP非臨床安全性試験、GMP合成・製剤、医師主導治験まで、一貫して当社と大学(東北大学、東海大学)との共同研究で開発しました。
〔 RS5614の薬剤概要 〕
臨床開発品のRS5614の製造販売承認申請に必要となる非臨床試験の成績は、薬機法(*11)に基づく医薬品GLP(医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令)とICH(医薬品規制調和国際会議)のガイドラインに従って収集しました。
非臨床安全性GLP試験
1)安全性薬理試験ではhERG試験(10 µM)、ラットの中枢神経系(300 mg/kg)、サルの心血管系及び呼吸器系試験(300 mg/kg)で陰性、2)一般毒性試験ではラットの26週間経口投与試験(無毒性量400 mg/kg/日)、サルの39週間経口投与試験(無毒性量30 mg/kg/日)で陰性、3)遺伝毒性試験では法定3試験で陰性、4)光毒性試験陰性、5)生殖・発生毒性試験も陰性です。以上の安全性試験の成績を含めて、薬物動態試験や物性データなどの製造販売承認を行うために必要な非臨床試験成績を有しています。
第Ⅰ相臨床試験(健常成人男子)
薬機法に基づくGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)条件下での医師主導治験で、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準)で製造された治験薬を用いて実施しました。第Ⅰ相単回投与試験では、RS5614の240 mgまでの安全性が確認され、第Ⅰ相反復投与試験においては、120 mgを7日間経口投与した際に発現した有害事象はいずれも軽度でした。
知的財産権
RS5614に関して、物質特許(出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本・米国・欧州・カナダ・豪州・中国・韓国・インド 登録済、存続期間満了日:米国 2030年8月7日、日本を含むその他各国 2030年3月31日)に加えて、非臨床試験から複数の用途特許(①慢性骨髄性白血病治療用途、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本・米国・欧州 登録済、存続期間満了日:2034年4月15日、②免疫チェックポイント分子の発現抑制、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、米国・欧州 出願中、存続期間満了日:2040年9月30日)、③線溶系亢進薬、及びその用途、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、米国・欧州 出願中、存続期間満了日:2041年5月30日(見込))を出願することで、知的財産権の有効期間を延長しています。
RS5441に関して、物質特許(出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本、米国 登録済、存続期間満了日:2029年3月31日)を出願しています。
適応症
RS5614は、非臨床試験では加齢に関連する疾患に広く有効である可能性が示唆されていますが、現在臨床試験(医師主導治験)としては、がん領域では慢性骨髄性白血病(CML:前期及び後期第Ⅱ相試験終了、第Ⅲ相試験実施中)、悪性黒色腫(メラノーマ:第Ⅱ相試験終了、第Ⅲ相試験準備中)、非小細胞肺がん(第Ⅱ相試験実施中)及び皮膚血管肉腫(第Ⅱ相試験実施中)を対象とし、呼吸器疾患ではCOVID-19に伴う肺傷害(前期及び後期第Ⅱ相試験終了)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相試験実施中)及び抗がん剤による間質性肺炎(非臨床試験予定)を対象とします。
RS5441は、男性型脱毛症治療(第Ⅰ相試験準備中)が対象です。
導出
男性型脱毛症治療を含めた皮膚疾患領域でのRS5441の用途については、2016年6月に独占的権利をエイリオン社に許諾しました。また、COVID-19に伴う肺傷害を含めた呼吸器疾患領域でのRS5614の用途については、2020年12月に第一三共株式会社とオプション契約を締結し、優先交渉権を許諾しました(「第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」をご参照ください)。その他、がん領域(CML、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、血管肉腫)でのRS5614の用途については最終的に別の製薬企業に導出し、商業化する予定です。
〔 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬 〕
(対象疾患)
CMLは、造血幹細胞の染色体に異常が起こり、がん化した白血病細胞が無制限に増殖することで発症します。治療の中心となるのはイマチニブなどの分子標的治療薬(チロシンキナーゼ(*12)阻害薬(TKI))です。TKI投与により長期間の寛解を導入しても、休薬すると再発することが示されました。
日本におけるCMLの発症は、10万人に毎年1人程度であり、人数にすると年間約1,300人となります。また、年齢別の発症頻度をみると、小児では稀で、60歳を超える頃から増加します。高齢者人口の増加に伴う発症人数の増加とTKI治療の進歩による死亡率の低下により、総患者数は約15,000人以上と推定され、年々増加傾向にあります。
(概要)
当社は、東海大学との共同研究で、PAI-1欠損マウスにおいて造血幹細胞が末梢血中に動員されること、すなわち、PAI-1が造血を抑制していることを見出しました。また、正常マウスに当社のPAI-1阻害薬RS5509を経口投与すると幹細胞を骨髄ニッチ(*13)から動員できることから、当社のPAI-1阻害薬が造血「再生」を促進することが明らかになりました(Blood 2017)。
骨髄ニッチにある幹細胞ではTGF-β(*14)の作用を受けてPAI-1が細胞内(ゴルジ体という細胞内小器官)に高発現します。マウス幹細胞(Lineageマーカー陰性、Sca-1陽性、c-Kit陽性)だけでなく、ヒト幹細胞(CD33陽性、CD34陽性)においてもPAI-1が高発現することを証明しました。ゴルジ体の中でPAI-1は細胞内酵素furin(*15)に結合してこれを阻害すると考えられます。その結果、膜型マトリックスメタロプロテアーゼ(*16)の活性化が阻害され、骨髄ニッチからの幹細胞の遊離が阻害されます。実際、移植モデルにおいてPAI-1を過剰発現させた白血病細胞はTKIイマチニブに抵抗性を示します。PAI-1阻害薬は、PAI-1とfurinとの結合を阻害し、膜型マトリックスメタロプロテアーゼを活性化し、骨髄ニッチからの幹細胞の動員を促進する作用を有します(図表11)。
< 図表11 PAI-1阻害薬によるがん幹細胞動員の分子機序 >
(出典:東海大学)
CMLに対する治療薬はTKI(イマチニブ、ボスチニブ、ニロチニブ、ポナチニブなど)が主流ですが、TKIは、この骨髄ニッチに潜むがん幹細胞には作用しないことから、CMLの根治には至らず、多くの場合TKIを休薬するとCMLは再発します。東海大学との共同研究で、PAI-1阻害薬が骨髄ニッチからがん幹細胞を遊離させ、TKIの作用を増強させることで、CMLの根治をもたらす可能性が強く示唆されました。実際に、CMLモデルマウスにPAI-1阻害薬(RS5614)とTKI(イマチニブ)とを併用すると、TKI単独投与に比べて骨髄に残るがん幹細胞数が著明に減少し、生存率が大きく増加しました(図表12)。
以上、RS5614は、正常骨髄幹細胞と同様にがん幹細胞を骨髄ニッチから遊離させ、結果的にTKIの治療効果を高めることで、CMLを根治させる薬剤となる可能性があることが分かりました。
< 図表12 CMLモデルにおけるチロシンキナーゼ阻害薬とRS5614併用の治療効果 >
(出典:東北大学)
TKIの開発によりCML患者の予後は大きく改善しましたが、新たな課題が明らかとなっています。CMLを治癒するためには30年以上という長期にわたる高額なTKI治療の継続が必要であり、医療経済的な負担につながっています。長期継続服用による副作用も問題となっており、心筋梗塞や脳梗塞により死亡する例や網膜動脈閉塞症により失明する例も報告されています。したがって、可能な限り早期にTKI服用を必要としない治癒(Treatment free remission、TFR)に導くことが重要です。最近、深い分子寛解状態(*17)であるDeep molecular response (DMR) (MR4.5; BCR-ABL ISで0.0032%以下のクローンの縮小)が一定期間継続しているCML患者では、TKIの中止後も分子遺伝学的再発がない状態、すなわちTFRが得られることが明らかになりましたが、3年間という最短の治療期間でTFRを目指すことのできる症例の割合は年間5〜10%にしか過ぎません。更に、TFRを得る条件として、DMR到達後少なくとも2年以上のDMRの維持が必要とされています。RS5614は、早期に多くのCML患者をTFRに導く新たな作用機序の安全な医薬品候補です。
前期第Ⅱ相試験では、TKI治療を2年間以上実施している慢性期CML患者を対象に、120 mg/日のRS5614を4週間併用投与することにより、12週間後のDMR達成率を指標とする医師主導治験を東北大学、秋田大学、東海大学において実施しました。21例が組み入れられ、脱落や中止例はなく、全例が解析対象例となりました。主要評価項目の結果は、21例中DMRを達成した症例は4例で、12週時の累積DMR達成率は20.0%でした(ヒストリカルコントロールとして3か月時点での閾値に設定した平均的累積DMR達成率は2%)。
安全性評価では、解析対象例の全21例に副作用は認められませんでした。
以上の結果より、有効性では、12週間後の累積DMR達成率20.0%がTKI治療におけるヒストリカルコントロールとして3か月時点での閾値に設定した平均的累積DMR達成率2%以上の成績であったことから、RS5614併用投与により累積DMR達成率の上昇効果が確認できました。また、本治験のRS5614投与期間は4週間でしたが、BCR-ABL値が投与期間の経過に伴い低下し4週時には有意(対応のあるt検定;P = 0.0386)に低下しました。このことから、RS5614の投与を更に継続した場合、累積DMR達成率の更なる上昇効果が期待できると考えられました。
後期第Ⅱ相試験では、慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614(150 mg/日より開始し、180 ㎎/日に増量可)を併用し、RS5614投与開始後48週のDMRの累積達成率をヒストリカルコントロール8%と比較して33%に上昇させることを確認することと、RS5614及びTKIの長期併用時におけるRS5614の薬物動態及び安全性の確認を目的に実施しました。33例中DMRを達成した症例は11例で、48週時の累積DMR達成率は33.3%でした(POC取得)。特筆すべきは、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者では累積DMR達成率は50.0%に達しました。安全性は、治験薬との因果関係で重篤な有害事象はありませんでした。
現在、後期第Ⅱ相試験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学など12の医療機関と共同で、慢性期CML患者を対象としたTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検の第Ⅲ相医師主導治験を、AMED「革新的がん医療実用化研究事業」の支援を受けて実施中です。また、CMLを含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に掲載されました(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。
〔 悪性黒色腫(メラノーマ) 〕
(対象疾患)
悪性黒色腫は、表皮にあるメラノサイトと呼ばれる色素を作る細胞又は母斑細胞が悪性化した腫瘍で、皮膚がんの中でも転移率が高く極めて悪性度が高いとされています。日本における罹患率は10万人当たり1~2人で、海外に比較すると少なく、国内の患者数は約5,000人、年間約700人が悪性黒色腫により死亡していると報告されています。国内の患者では、海外とは異なるサブタイプの悪性黒色腫が多いことから、国内の根治切除不能悪性黒色腫患者では、米国のNCCNガイドラインで推奨されている抗PD-1抗体(ニボルマブ、商品名:オプジーボ)単剤療法による治療が奏効しづらいとされています。特に、根治切除不能かつニボルマブ不応答の患者に対して、2次治療として、ニボルマブと抗CTLA4抗体(イピリムマブ、商品名:ヤーボイ)の併用が保険適応され、国内における奏効率(*18)が13.5%と報告されました。しかし、併用患者の50%以上で重度の免疫関連副作用が起こることが社会問題になっています。更に、2種類の抗体医薬併用による高額医療費の課題もあり、抗体医薬とはモダリティが異なる、経口投与可能で、副作用がなく、奏効率を上昇させ、抗体医薬より安価な併用薬が望まれています。
(概要)
がんの治療には、①手術療法、②放射線療法、③化学療法(抗がん剤)、④免疫療法があり、4大治療法と呼ばれています。このうち免疫療法は体に備わっている免疫本来の力を利用してがんを攻撃する治療法です。様々な免疫療法が提案されましたが、効果が証明された免疫療法の中でも免疫のブレーキを阻害する免疫チェックポイント阻害薬(*19)が主なものです。過剰な免疫反応は有害ですので、体内にはそれを抑える機構が備わっています。そのようなブレーキ機能を担う分子は免疫チェックポイント分子と呼ばれています。実は、がんはこの免疫チェックポイント分子を悪用することで自分自身に対する免疫が働かないようにしています。抗体医薬である抗PD-1抗体など免疫チェックポイント阻害薬は、免疫チェックポイント分子を阻害することでこのブレーキを解除し、がんに対する免疫応答を賦活化します。抗がん剤はがん細胞を直接殺傷します。これに対して免疫チェックポイント阻害薬は生体内の免疫チェックポイント分子を阻害して、もともと体が持つ免疫を活性化してがんを攻撃します。
東海大学との共同研究から、RS5614が免疫チェックポイント分子の発現を阻害し、細胞障害性T細胞を活性化し、腫瘍関連マクロファージの腫瘍浸潤を軽減するなど、免疫チェックポイント阻害薬と同様な作用機序を有する事実が明らかとなりました(図表13)。実際に、大腸がん(東海大学)、悪性黒色腫(東北大学)、非小細胞性肺がん(広島大学)を移植したマウス担がんモデルにおいて、RS5614が抗PD-1抗体の悪性黒色腫に対する治療効果を増強することが証明されました。
< 図表13 RS5614の免疫チェックポイント分子阻害作用 >
(出典:当社作成)
抗PD-1/PD-L1抗体など免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法は、がん治療を大きく発展させる画期的な治療です。しかし抗体医薬であるため高額医薬品であり、更にその治療効果も限定的であるために抗CTLA-4抗体など複数の抗体医薬の組み合わせが提唱されていますが、併用治療は肺臓炎や高サイトカイン血症などの致死的な免疫関連の副作用が増えること、医療費が高額となることが問題になっています。そのため、副作用が少なく、医療経済的にも安価な抗PD-1/PD-L1抗体の奏効率を上昇させる併用薬が待ち望まれており、抗PD-1抗体との併用で相乗的に抗腫瘍免疫を増強するRS5614はこのアンメットニーズを解決できる医薬品と考えます。
NPO法人「Japan Skin Cancer Network(JSCaN)」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、がん研究会有明病院、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の7大学/医療機関との多施設共同で、AMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて、RS5614とニボルマブとの併用による有効性及び安全性を確認する第Ⅱ相試験(医師主導治験)を2021年7月から実施しました。ニボルマブが無効であった悪性黒色腫患者29例に、RS5614とニボルマブを8週間併用した結果7例で奏功が見られました(奏効率 24.1%)。また治験薬と因果関係の可能性がある有害事象は2例(5.9%)と少なくRS5614とニボルマブ併用の安全性も確認されました。これは、ニボルマブ無効例患者の2次治療において、RS5614とニボルマブの併用が既存治療であるイピリムマブとニボルマブの併用よりも有効性と安全性に優れることを示す結果でした。また、悪性黒色腫を含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に掲載されました(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。
〔 非小細胞肺がんの治療 〕
(対象疾患)
我が国において、1年間にドライバー遺伝子(*20)変異陰性・進行非小細胞肺がんと診断される患者の推計数は23,000人です。現在、その1次治療には、プラチナ製剤併用化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体が用いられていますが治癒に至る症例は少なく、2次治療としてドセタキセル等の化学療法が実施されますが、無増悪生存期間は3か月と短く、3次治療が必要となります。3次治療では、抗PD-1抗体(ニボルマブ)再投与も選択肢となっていますが、抗PD-1抗体治療歴のある患者での効果は限定的です。抗PD-1抗体の腫瘍免疫応答を増強するために、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)を追加する治療開発が行われていますが、免疫に関連した副作用が増えること、更に医療費が高額となることなど課題が大きく、悪性黒色腫治療と同様の問題が生じることから、副作用が少なく、医療経済的にも抗PD-1/PD-L1抗体の奏効率を上昇させる安価な併用薬が待ち望まれています。
(概要)
本研究は、悪性黒色腫同様、RS5614が有する免疫チェックポイント阻害作用に基づいて実施されています。広島大学での研究から、PAI-1が肺がんの腫瘍進展、更にはがん細胞の増殖能亢進や血管新生に関与していること、更に抗PD-1抗体に耐性となった肺がん細胞がPAI-1を高発現することなど事実が明らかとなりました。当社と広島大学との共同研究で小細胞性肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験を実施した結果、抗PD-1抗体とRS5614の併用投与は抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗腫瘍効果を示すことを確認しました。そこで、2023年9月から、2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療以降の患者)39例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした国内第Ⅱ相医師主導治験を実施しています。治験期間は3年間を見込んでおり、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関で実施中です。本治験治療の有効性が確認できれば、3次治療以降で有効な治療法を提案できます。悪性黒色腫から肺がんへの適応拡大は、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬と同じ展開です。
当社は、2022年10月に国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結しました。研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したこと、更には広島大学の特色や強みを生かし、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的としたオープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を設けるため、2023年4月に広島大学と包括的研究協力に関する協定書を締結しました。本治験はHiRExを主体に実施され、第Ⅱ相試験(医師主導治験)を実施中です。
〔 血管肉腫の治療 〕
(対象疾患)
血管肉腫は極めてまれな軟部腫瘍で、発症頻度としては、米国において100万人当たり2.1人、英国において100万人当たり1.5人と報告され、日本では100万人当たり2.5人程度と推定されています。部位別では、皮膚が約49.6%と最も多く、その50~60%が頭頸部に発症しています。血管肉腫の治療法には免疫療法、外科療法、放射線療法、化学療法がありますが、予後が悪いため、直ちに集学的治療を実施すべきとの考えが強く、各施設で可能な治療を、病期を問わず実施されている状況です(頭部血管肉腫診療ガイドライン)。
血管肉腫の初期治療における化学療法は、国内で公知申請によりタキサン系抗がん剤のパクリタキセル(PTX)が保険適応となり、第1選択薬となっています。しかし、タキサン系抗がん剤を用いた放射線化学療法後においても、その全生存期間の中央値は649日であり、大半の症例において1次治療で長期寛解を得ることは困難な状況です。したがって、2次治療の重要性が認識されていますが確立されておらず、有効性・安全性の高い治療法や治療薬の開発が望まれています。
(概要)
PAI-1は血管内皮に強く発現しており、その病態生理に深く関わることが知られています。東北大学との共同研究において、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫はPAI-1を高発現しており、その発現頻度が高い患者では1次治療でのタキサン系抗がん剤の効果が得られにくいことが報告されています。タキサン系抗がん剤の作用機序としては、アポトーシス(*21)(細胞死)の誘導が考えられていますが、1)PAI-1は主として血管内皮から産生され、2)PAI-1を高発現しているがん細胞はアポトーシス耐性であることから、タキサン系抗がん剤とPAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、タキサン系抗がん剤の血管肉腫治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。
そこで、2023年10月から、タキサン系抗がん剤パクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者16例を対象にパクリタキセルとRS5614の併用による有効性及び安全性を評価する第Ⅱ相医師主導治験を実施中です。治験期間は2年間を見込んでおり、東北大学、自治医科大学、九州大学、名古屋市立大学、国立がん研究センター中央病院、がん研究会有明病院などの医療機関で実施しています。本研究で有効性を検証できれば、有効な治療薬のない皮膚血管肉腫患者に対して新たな治療法が提案できます。
〔 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬 〕
(対象疾患)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の感染者の大部分は軽症で経過しますが、高齢者や基礎疾患を持つ患者などでは重症化し、重症の肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に至る場合があります。軽症例では自宅療養や宿泊療養の措置がとられましたが、発病当初は軽症であっても一部、急速に肺炎を伴い重症化する患者の存在が問題になりました。現在は、重症化しにくいオミクロン株への変化やワクチンの普及などにより、COVID-19の重症化は減少しています。また、2023年5月に、COVID-19の感染症法上の分類が「2類」から「5類」に引き下げられましたが、変異株の問題等、なおも今後の状況を注視する必要があります。
自宅あるいは外来で治療を受ける患者の悪化を防ぎ、入院患者の重症化を予防する治療薬は必要であり、当社はこれらの課題を解決するための内服薬を開発し、患者の延命のみならず、医療現場の負担軽減に寄与したいと考えます。
(概要)
COVID-19による重症肺炎患者では、微小血栓、炎症、線維化など病変が認められます。COVID-19肺炎に極めて特徴的な所見は、凝固系の亢進及び線溶系の低下です。COVID-19肺炎では、インフルエンザ肺炎に比べて肺の微小血栓の形成能が9倍も高いことが知られています。実際に、COVID-19の中程度から重篤の肺傷害を呈するCOVID-19肺炎患者にプラスミノーゲンを投与すると肺傷害が速やかに改善されること、またCOVID-19成人患者では血中t-PA/PAI-1、d-dimer高値など、血液凝固亢進と死亡率が有意に相関することが報告され、線溶系を活性化させるRS5614の有効性が強く示唆されます。実際に、数々の国内外との共同研究で実施した多くの非臨床試験から、RS5614が種々の肺傷害マウスモデルでの病態(気腫、線維化、炎症)を改善し、上皮細胞保護作用を示すことが明らかとなりました。更に、RS5614のヒト第Ⅰ相試験(反復投与)において、RS5614の120 mg投与後8時間をピークとしてPAI-1活性が低下しtPA活性が上昇すること、またこの作用は投与7日目まで維持されることが分かりました。以上、RS5614は線溶系を活性化することでCOVID-19肺炎での微小血栓を溶解し、線維化や炎症などの肺傷害を阻害する可能性が示唆されました。
RS5614は、COVID-19の治療に用いられている抗ウイルス薬、ステロイド、中和抗体治療薬などとは作用機序が全く異なります。また、COVID-19に伴う肺傷害の治療として、トシリズマブ等の抗体医薬(注射薬)が治療に用いられていますが、RS5614は経口投与可能な低分子薬剤です。なお、トシリズマブは、炎症を促進する因子のひとつであるIL-6を抑えることにより、炎症性因子の過剰な上昇による肺炎重症化を防ぐことが示唆されていますが、COVID-19の重症化において、上昇した生じた血中のIL-6がPAI-1を介して血栓形成を促進することが重要であると報告されています。
COVID-19に伴う肺傷害に対するRS5614の有効性及び安全性を評価するために、国内の7か所の医療機関で多施設共同での前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検試験)を実施しました(AMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(第4次)(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択)。本治験は、2020年10月に最初の被験者が登録され、2021年3月に26名で完了という迅速かつ効率的な治験となりました。非盲検試験であることから有効性の検証は困難ですが、主要評価項目(人工呼吸器管理が必要となる酸素化の悪化の有無)では悪化した患者は無く、また副次項目(治験薬投与28日間の生存)では全症例生存、副次項目(治験薬投与開始後の酸素投与必要日数)では5L以上の酸素投与量を必要とする患者は1日目3名から3日目0名に、また2Lより多く5L未満の酸素投与量を必要とする患者は1日目5名から10日目0名になりました。更に、副次項目(治験薬投与前後の胸部CT画像上の肺野病変の割合の変化)では、中止例及び未登録例を除く18例について有意な変化を認めました(p = 0.0018)。治験薬との因果関係の可能性がある重篤な有害事象は無く、安全性が確認されました。
後期第Ⅱ相試験(医師主導治験)は、2021年6月から国内主要医療機関(20施設)で開始しました(AMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(第5次)(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択)。また、国内の治験と並行して、米国、トルコ共和国でも同薬剤を用いた類似のプロトコールで第Ⅱ相試験(医師主導治験)を実施しました。
RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、肺炎に対する内服薬です。現時点で、抗ウイルス薬以外のCOVID-19に伴う肺傷害に対する治療薬は高額な注射薬ですが、RS5614は経口投与が可能であり、化学合成で製造される低分子医薬品であるため、その価格も低く抑えられます。現在、COVID-19は落ち着いていますが、COVID-19の感染症法上の分類が「2類」から「5類」に引き下げられたことに伴い、自宅あるいは外来で治療を受ける患者が更に増加すると考えられます。肺炎を惹起する新たな株の発生に際して、速やかに次相臨床試験(軽症から中等症Ⅰの肺炎患者を対象)を実施できるよう準備をしています。
〔 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の治療 〕
(対象疾患)
全身性強皮症(Systemic sclerosis、SSc)は、皮膚と多くの臓器の血管障害と線維化を特徴とする全身性の自己免疫疾患です。その病因は不明で、病態に立脚した根治的治療は存在しません。SScに伴う線維化は、皮膚の硬化や間質性肺疾患(Interstitial lung disease; ILD)などの臨床症状を引き起こします。国内では、3万人以上が罹患していると推測されており、その死因の7割は疾患関連死で、この内の3割以上はILDによるものです。SSc-ILD患者は、17,000人適度と推定されています。また、ILDは、直接の死因とならない場合にも、高度呼吸機能低下によって日常生活が著しく制限される患者を一定数生むことがわかっています。
SSc-ILDに対する治療は、従来、経口ステロイドと細胞の核酸の合成を阻害するシクロホスファミドとの併用が第一選択とされてきましたが、その効果は極めて限定的です。近年、抗線維化薬(*22)であるニンテダニブや抗体医薬品のリツキシマブが保険適用となりましたが、前者の効果はSSc-ILDの進行抑制作用に留まっており、後者はSSc-ILD患者への投与後に間質性肺炎の増悪により死亡に至った例が報告されています(中外製薬株式会社による『適正使用ガイド』より)。したがって、単剤あるいは既存薬との併用において、既に形成された線維化を改善する作用を持つ安価で安全な新規治療薬の開発が望まれています。
(概要)
SScは炎症、血管障害、線維化を主要3病態とします。RS5614はこれら病態を改善し、特に肺傷害(線維化、炎症)の改善と肺上皮保護作用を有することから(「事業の内容 (2) 当社のコア技術 ②パイプラインの概要 (a) RS5614(PAI-1阻害薬) 〔 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬 〕(概要)」をご参照ください)、SSc-ILDの線維化を抑制する可能性が示唆されます。
東北大学との共同研究でブレオマイシン投与による誘導皮膚/肺線維化モデルマウスを用いた非臨床試験の結果、ブレオマイシン皮下投与開始同日からRS5614の1、5 mg/kgあるいは対照薬のニンテダニブの10、50 mg/kgを連日経口投与した結果、肺傷害のマーカーである肺ヒドロキシプロリン量をRS5614は用量依存性に低下させ、その効果はニンテダニブより強いことが明らかとなり、RS5614の全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)の有効性が示唆されました。そこで、SSc-ILD患者50例を対象として、RS5614の有効性と安全性を確認するための探索的第Ⅱ相試験(医師主導治験)を、東北大学、東京大学、金沢大学、福井大学、大阪大学、和歌山県立医科大学、群馬大学など複数の国内医療機関で実施中です。本治験は、AMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて実施しています。
〔 その他の原因による間質性肺疾患の治療 〕
(対象疾患)
間質性肺炎は、様々な原因から肺に炎症や損傷が起こり、壁が厚く硬くなり(線維化)、ガス交換がうまくできなくなる病気です。また、肺を包む胸膜が厚く線維化して肺が膨らむことができなくなります。特徴的な症状としては、安静時には感じない呼吸困難感を、坂道や階段、平地歩行中や入浴・排便などの日常生活の動作の中で感じるようになります。季節に関係なく痰を伴わない空咳で悩まされることもあります。長年かけて次第に進行してくるので自覚症状が出るころには病状が進行していることもあります。また、風邪様症状の後、急激に呼吸困難が出現し病院に救急受診することもあり、「急性増悪」と呼ばれています。患者数は10万人当たり10~20人と言われていますが、診断されるにいたっていない早期病変の患者はその10倍以上はいる可能性が指摘されています。間質性肺炎の原因には、関節リウマチや皮膚筋炎などの膠原病(自己免疫疾患)、職業上や生活上での粉塵(ほこり)やカビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入(じん肺や慢性過敏性肺炎)、病院で処方される薬剤(抗がん剤など)・漢方薬・サプリメントなどの健康食品(薬剤性肺炎)、特殊な感染症など様々あることが知られていますが、原因を特定できない間質性肺炎を「特発性間質性肺炎」と言います。特発性間質性肺炎の急性増悪は、特発性間質性肺炎患者死亡原因の約40%を占める予後不良の病態です。
(概要)
RS5614は、非臨床試験から血栓、炎症、線維化を抑制する作用が明らかになっており、間質性肺炎に有効である可能性が示唆されます。肺傷害の原因はウイルスのみならず、抗がん剤、自己免疫疾患、原因不明(特発性)など様々な原因がありますので、当社はCOVID-19に伴う肺傷害に加えて、他の原因で生じる肺傷害に対する有効性に関しても非臨床試験で検討しています。
その取組みの一環として、京都大学医学部附属病院呼吸器内科と特発性間質性肺炎の急性増悪を対象とする臨床試験の実施を視野に入れた共同研究を開始しています。抗がん剤投与に伴う間質性肺炎に対する本医薬品の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、第一三共株式会社との契約も延長しました。非臨床試験成績の結果で、RS5614の有効性を確認できれば、医師主導治験での臨床開発に進める予定です。肺障害領域での研究開発を更に展開するため、2023年6月に京都大学及び第一三共株式会社と当社の3者での共同研究契約を締結しました。
〔 RS5441_男性型脱毛症治療薬 〕
(対象疾患)
毛髪は複数の相からなる周期を持って成長し、毛が伸びる成長期、毛が抜けやすくなる退行期、毛が抜ける休止期があります。男性型脱毛症(AGA)は,毛周期を繰り返す過程で成長期が短くなり,休止期にとどまる毛包(毛根を包み成長させる組織)が多くなることを病態の基盤とし,臨床的には前頭部や頭頂部の頭髪が,軟毛化して細く短くなり,最終的には頭髪が皮表に現れなくなる現象で、いわゆる禿げになります。外見上の印象を大きく左右するのでQOLに与える影響は大きいと考えられます。日本人男性の場合は、20歳代後半から徐々に進行して40歳代以後に完成され、その頻度は50代以降で40%以上になります。男性型脱毛症の発症には遺伝と男性ホルモンが関与しますが、遺伝的背景としては X 染色体上に存在する男性ホルモンが関与します。男性型脱毛症(AGA)に対して著明な発毛・育毛効果を認める薬はまだありません。外用薬で処方薬として認められているミノキシジルの効果は弱く、男性ホルモンの代謝に関わる酵素の阻害剤であるフィナステリドは性欲減退や勃起不全などの副作用があります。
(概要)
米国ノースウェスタン大学でPAI-1を過剰発現するマウスを作成したところ、脱毛が著しいことが明らかとなりました(J Thromb Haemost 2007)。当社のPAI-1阻害薬RS5441を当該マウスに与えたところ、著明な発毛が認められました。RS5441の投与により総毛包数が93.5%増加し、退行期の毛包数は64%減少しましたが、成長期と休止期の毛包数はそれぞれ62%と80%増加し、8週間の投与期間にわたって外観は正常化しました。この効果は、毛包細胞の増殖と関連することが示されています。以上のことから、PAI-1は脱毛症及び毛包の循環と成長の障害に関連しており、PAI-1阻害薬が脱毛症の予防と治療に役立つ可能性が示唆されました。
当社は、2016年6月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾しました。また2023年4月及び6月にエイリオン社が行使したオプション権の対価を受領しました。同社は、今後第Ⅰ相試験を実施する予定です。
(b) RS8001(ピリドキサミン)
〔 ピリドキサミンと精神疾患 〕
私たちが喜怒哀楽を感じたり、様々なことを感じたりする時、脳内では「神経伝達物質」が行き交っています。神経伝達物質は神経細胞と神経細胞を接続する部分(シナプス)から分泌され、他の神経細胞へ情報を伝達します。神経伝達物質には様々な種類があり、その中でアミノ基を有した物質を脳内モノアミン(*23)と言います。代表的なものとして、抗ストレス作用を有するγ-アミノ酪酸(GABA)(*24)、精神安定をもたらすセロトニン(*25)、意欲や多幸感を高めるドーパミン(*26)などがあり、これらは月経前症候群 / 月経前不快気分障害、更年期障害の精神疾患などの発症に関与することが知られています。
当社で開発中のRS8001(ピリドキサミン)は、天然ビタミンB6のひとつのタイプです。水溶性のビタミンで、極めて安全な医薬品ですが、日本を含めて先進国では未承認の医薬品です。ピリドキサミンは、GABAやセロトニンの産生や代謝を改善し、脳内でのこれら神経伝達物質の増加をもたらすことが、化学反応や動物試験から推測されています。
当社は、東京都医学総合研究所と共同で、自殺や殺人といった自傷他害行為を伴う重篤な統合失調症の多発家系からグリオキサラーゼ1(GLO1)遺伝子変異が原因であることを見出したことを皮切りに精神疾患領域における検討を開始しました。グリオキサラーゼは解糖系から生成する反応性カルボニル化合物(RCOs)であるメチルグリオキサールを無毒化するので、グリオキサラーゼの活性低下に伴い蓄積するRCOsにより脳内モノアミンが捕捉されてしまうことが、統合失調症の一部の発症機序であると示唆されました。また、東北大学との共同研究で、ピリドキサミンがカルボニル化合物と脳内モノアミンの反応を阻止することを発見しました。ピリドキサミンは、脳内モノアミン生合成に不可欠な補酵素としてその産生を促進するだけでなく、カルボニル化合物による脳内モノアミンの分解を阻害することで、脳内モノアミンの量を調節する作用を有すると考えられます(図表14)。
< 図表14 ピリドキサミンの作用機序と天然ビタミンB6の構造 >
■ピリドキサミンの作用コンセプト
(出典:東北大学)
実際に、マウスを用いた実験において、脳の細胞外液に含まれる各種伝達物質を、最新の質量分析技術で解析したところ、ピリドキサミン投与により、額のすぐ後ろにある前頭前皮質ではGABA濃度は変化しませんでしたが、脳の深いところにある海馬及び線条体では脳内GABA濃度が上昇していました。神経細胞に光感受性分子を発現するラットを使い、光ファイバーを介して海馬の神経細胞を刺激してピリドキサミンの作用を検討したところ、光刺激を繰り返すとラットは興奮性の発作を引き起こしますが(4日目がピークとなる)、ピリドキサミン投与により発作は著明に抑制されました。このようにピリドキサミンは神経細胞の過剰な興奮性を抑制します。
〔 ピリドキサミンの薬剤概要 〕
ピリドキサミンの製造販売承認申請に必要となる非臨床試験の成績は、薬機法に基づく医薬品GLP(医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令)とICH(医薬品規制調和国際会議)のガイドラインに従って収集しました。
非臨床安全性GLP試験
1)安全性薬理試験ではhERG試験で陰性、2)ラットの中枢神経系(1,000 mg/kg)、イヌの心血管系及び呼吸器系試験(300 mg/kg)で陰性、3)一般毒性試験ではラットの6か月間経口投与試験(無毒性量100 mg/kg/日)、イヌの12か月経口投与試験(無毒性量50 mg/kg/日)、4)遺伝毒性試験は3法定試験で陰性、5)生殖・発生毒性試験も陰性です。以上の安全性試験の成績を含めて、薬物動態試験や物性データなどの製造販売承認を行うために必要なフルセットでの非臨床試験成績を有しています。
第Ⅰ相臨床試験(健常成人男子)
薬機法に基づくGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)条件下での医師主導治験で、GMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準)で製造された治験薬を用いて実施しました。第Ⅰ相単回投与試験では、RS8001の1,200 mgまでの安全性が確認され、第Ⅰ相反復投与試験においては、900 mg(1日2回分服用)を7日間経口投与した際に発現した有害事象はいずれも軽度でした。
知的財産権
RS8001について、パイプライン各適応症の用途特許を出願しております(①自閉スペクトラム症用途特許、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:米国 登録済、存続期間満了日:米国 2038年9月25日;②月経前不快気分障害及び月経前症候群用途特許、出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、存続期間満了日:2035年12月28日)。また、RS8001大量投与に伴いビタミンB1欠乏(ウェルニッケ脳症(*27))が起こることを見出したので、ビタミンB1(チアミン)と組み合わせて予防する特許も日本及び米国に出願して権利を補強しています(出願人:株式会社レナサイエンス、最新状況:日本、米国 登録済、存続期間満了日:2035年8月26日)。また、三井化学株式会社と、RS8001を組換え微生物で製造する製法特許を共同で出願しています(出願人:三井化学株式会社・株式会社レナサイエンス、最新状況:日本 登録済、存続期間満了日:2038年5月11日)。
適応症
月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)に対する第Ⅱ相医師主導治験が終了し2024年6月に治験総括報告書が纏められました。また、更年期障害の臨床研究を実施中です。
第Ⅱ相臨床試験(医師主導治験)の課題
精神領域での薬剤の有効性を評価する第Ⅱ相試験で重要な点は、1)適切な対象患者の選定と2)プラセボ効果を減少する治験計画です。PMS/PMDDや更年期障害はいずれも多様な精神症状を呈するheterogeneous(質的に異なる)な疾患集団ですが、ピリドキサミンは全ての症状に有効な薬剤ではありません。本薬剤の有効性を適切に評価するための対象患者を適切に選択することが重要な課題です。heterogeneous(質的に異なる)な疾患や症状のために統計学的な有意差を得るには多くの症例数が不可欠です。また、精神領域での治験では、プラセボ効果が強く影響することが治験の評価を困難にする大きな原因となっています。そこで、現在実施中のPMS/PMDDの第Ⅱ相試験及び更年期障害の臨床研究では、最初にプラセボ薬のみを登録患者全員に服用頂き、有効性を認めた患者(プラセボ効果が高い患者集団)を除外した患者を対象に、実薬とプラセボ薬の二重盲検法による試験(プラセボリードイン方式)を採用し、プラセボ効果の排除による適切な薬剤評価の手法を採用しています。
導出
2019年12月に、あすか製薬株式会社に対してPMS/PMDD薬としての利用において、ライセンス契約に関するオプション権を許諾しています。
〔 月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬 〕
(対象疾患)
精神症状を伴うPMS、その重症型であるPMDDは、月経前の不快な精神症状を特徴とし、女性のQOL上重要な医学的課題です。PMSは成熟期女性の50〜80%、PMDDは2〜5%に認められ、多くの女性が苦しんでいると言われております。政府の成長戦略においても「女性の活躍促進」は重要課題として位置付けられ、女性が活躍できる環境整備が唱えられており、PMS/PMDDに対して安全で有効な治療法の開発は、医学的かつ社会的にも重要な意義を持つと考えます。
PMS/PMDDに対しては、ホルモン療法、更には抗うつ薬(SSRI(*28))や低用量ピルが適応外処方で使用されていますが、抗うつ薬投与による自殺念慮・自殺企図や低用量ピルによる血栓症のリスクなどの副作用があります。更に、抗うつ薬やホルモン療法に対する一般女性の抵抗感もあり、これらの治療は普及していません。
(概要)
東北大学は、AMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業」において精神症状を伴うPMS及びPMDDにおけるピリドキサミンの有効性に関する検討(非盲検、臨床研究)を行い、ピリドキサミンの有効性と安全性を示唆する結果を得ました。その後、2020年3月にAMED「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」に採択され、2020年11月から近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学で第Ⅱ相医師主導試験を開始しました(2024年6月終了予定)。本治験では、プラセボ効果をできる限り排除する目的で、最初にプラセボ薬のみを登録患者全員に服用頂き、有効性を認めた患者(プラセボ効果が高い患者集団)を除外した患者を対象に、プラセボリードイン方式を採用した二重盲検法で実施しました。2023年7月までに近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と民間5施設で434名の同意を取得し、最終的に2023年10月末までに目標症例数を超える120例の本登録を行い、2024年2月には問題となる有害事象等を生じることなく治験を終了し、2024年6月に治験総括報告書が纏められました。
〔 更年期障害 〕
(対象疾患)
更年期の女性では、内分泌学的変動に加えて心理・社会的ストレスが加わることにより、ホットフラッシュ(*29)・発汗などの血管運動神経症状、易疲労感・関節痛などの身体症状、うつ・不安・不眠などの精神症状を発現し、生活に支障を来す状態を更年期障害と呼びます。更年期障害に対する代表的な薬物療法としてエストロジェンを少量補充するホルモン補充療法がありますが、有害事象に対する危惧などから日本での使用率は2%程度に留まっており、多くの患者が不正確な情報を基に自己判断で様々な補完代替療法を行っているのが現状です。
(概要)
東京医科歯科大学・女性健康医学講座では、更年期女性のQOLを低下させる2大症状であるホットフラッシュとうつ症状のそれぞれに関して、ビタミンB6の摂取量と症状の重症度とが逆相関することを見出し、更年期障害の2大症状に対してピリドキサミンが有効である可能性が示唆されました。2021年12月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結し、更年期障害の2大症状(ホットフラッシュとうつ)の治療薬としてRS8001の臨床研究を準備してきました。2023年3月にAMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業(代表機関:東京医科歯科大学、当社は協力機関)」に採択され、3年間の臨床研究を開始しました。本臨床研究でも、プラセボ効果をできる限り排除する目的でプラセボリードイン方式を採用した二重盲検法で実施しています。
(c) RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)
(バイオデザイン)
優れた技術があっても、医療現場の課題やニーズに合致していない、医療現場のスペックに不適切であるなどの理由から、医療応用(実用化)が難しい事例は多く、技術を有する多くの企業でもこの問題に直面しています。当社は、医療現場のニーズを出発点として問題の解決策を提案し、医療現場で最終製品をイメージして最適化開発を行い、イノベーションを実現する「バイオデザイン」という考えに基づいて医療機器やプログラム医療機器の開発を進めています。ディスポーザブル極細内視鏡もバイオデザインに基づき開発された医療機器です(図表15)。
< 図表15 当社のディスポーザブル極細内視鏡開発手法 >
(出典:東北大学)
(研究概要)
腹膜透析(*30)は在宅透析を可能とし、医療経済的にもメリットのある治療法です。血液透析患者ではCOVID-19の重症化が問題となっていますが、在宅医療を基本とする腹膜透析医療では、密な状態で実施する血液透析治療(週3回4時間、医療機関で実施)と比較して感染機会が少なく理想的な治療法です。しかし、腹膜が経年劣化し重篤な合併症を引き起こす場合があるので、5年程度で中断を強いられています。現状では腹膜の状態を確認するためには、開腹手術若しくは腹腔鏡による観察といった患者負担の大きい方法しかありません。
腹膜透析患者は、透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入した状態にあります。当社は、この細いチューブを通して挿入し、非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡を東北大学など複数の大学と共同で開発しました。多くの医師の意見を基に、ファイバースコープ(※1)の技術を有する企業に委託し、医療現場のスペックに適した径約1mm程度のディスポーザブル製品です。順天堂大学、東京慈恵会医科大学で承認のための検証試験(医師主導治験)を実施しました。本医療機器は、従来の消化器系の内視鏡とは異なるコンセプトで開発されたもので、胃瘻チューブ、尿道バルーン、気管チューブ、注射針からの挿入が可能で、様々な臨床的有用性も期待できます(図表16)。2022年8月にはファイバースコープ(本体)が独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。本製品の詳細は、以下のとおりです。
・ 承認番号:30400BZX00294000
・ 一般的名称:軟性腹腔鏡
・ 販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW
・ 類別コード:器 25
2022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。
ディスポーザブル極細内視鏡については、2020年5月に米国Baxter Healthcare Corporation とライセンス契約を締結しておりましたが、2024年5月にBaxter Healthcare Corporationとのライセンス契約を解約し、新たに株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結しました。ガイドカテーテル(※2)とファイバースコープを合わせて2024年度後半~2025年度に薬事申請する予定です。
< 図表16 内視鏡全体図 >
腹腔内を直接観察するためには、外科的手術が必要で、実施可能な施設も
限られていますが、既に患者が装着しているカテーテルを活用することにより
侵襲性が低く、経時的に直視下で観察可能となります。
(出典:当社作成)
(※1)ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。
(※2)ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。
(d) AIを活用したプログラム医療機器(Software as a Medical Device:SaMD)
医療分野へのAIの応用は大きな可能性を秘めた医療テーマですが、研究開発に重要な役割を担うステークホルダーが、個々に課題を抱えている状況です。医師などの医療者(医療機関)は、医療の課題や問題(ニーズ)を熟知し、豊富な医療データやアイデアなどを有してはいるものの、AI技術の活用方法やITベンダーとのネットワークが乏しく、具体的な研究開発に着手できない状況です。一方、AI技術を有するITベンダーは、成長が見込める医療分野への応用に興味はあるものの、医療者(医療機関)とのネットワークが少ないため、医療ニーズや医療データの取得が困難です。更に薬機法など薬事行政の経験も不充分なために実用化は簡単ではありません。また、AIの医療応用を事業化したいと考える出口の製薬・ヘルステック企業も、研究から事業開発までを自社単独で全て対応することは時間的にもリソースの観点からも困難な場合も多いです(図表17)。課題を有する医療者(医療機関)、AI技術を有するITベンダー、出口の製薬・ヘルステック企業が当初から連携し開発を進める枠組みが重要になります。
AIを活用したプログラム医療機器のプロダクトライフサイクルは医薬品ほど長くないため、効率的な研究開発には開発初期から許認可や実臨床への出口を見据えた計画が不可欠になります。そのためにも、異分野分業のオープンイノベーションが重要で、医師に加えて、データサイエンティスト、AI研究者、薬事専門家が連携して取り組む必要があります。
< 図表17 AIに興味を持つ参画者の課題 >
(出典:当社作成)
当社は、1)医療ニーズの把握と医療現場での開発を重視する視点、2)多くの医師や診療科とのネットワーク、3)医薬品や医療機器の医師主導治験で蓄積された経験やノウハウを基に、医師と医療機関、AI技術を有するITベンダー、出口の製薬・ヘルステック企業間を結ぶハブとなり、医療分野でのAI研究から事業までをつなげるエコシステムの構築に取り組んでいます。具体的な取り組みとして、2022年1月に東北大学メディシナルハブにオープンイノベーション拠点「東北大学-レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)」を設立しました。TRExに当社研究員を常駐させることで、医師、大学の研究者、メディシナルハブに属するITベンダー及び製薬企業と共同でプログラム医療機器の研究開発を推進することが可能となっています。また、2023年4月には広島大学と「包括的研究協力に関する協定」を締結し、第二のオープンイノベーションラボとして、広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。HiRExを活用し、維持血液透析医療支援プログラム医療機器及び糖尿病治療支援プログラム医療機器の臨床性能試験(プログラム医療機器)を継続的に実施しています。さらに、研究体制強化のため、2022年11月には、ITベンダーであるNECソリューションイノベータ株式会社(NES)とAIを搭載したシステム開発に関する基本合意書、また、2023年6月には日本電気株式会社(以下、「NEC」)との間で人工知能の医療応用に関する共同研究契約を締結しました。
当社の強みは、薬機法にのっとった臨床試験(医師主導治験)の実施が可能なため、実地臨床に役立てられる本格的なプログラム医療機器(診断、治療)の開発が可能な点にあります。現在、呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援、嚥下機能低下診断、乳がん病理診断、心臓植込みデバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測の7つの研究開発パイプラインを有しています(図表18)。今後も、様々な診療科の医療課題を解決できるプログラム医療機器(診断、治療)を開発する方針です。なお、これらのAIを活用したプログラム医療機器(SaMD)は平時だけではなく、災害時等の緊急事態に医療関係者が不足する被災地などにおいて、地域医療を支える基盤技術となると期待されます。そこで、東北大学が研究代表機関として採択されている国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)に、当社も2024年度から参画し災害医療の質を維持向上するためにAIを活用した医療ソリューションに基づくデジタルツインモデル(*31)の開発を進めています。なお、AIを活用したプログラム医療機器に関する当社の取組みが、2024年3月科学誌『Nature』に掲載されました。
< 図表18 AIプログラム医療機器開発パイプライン >
(出典:当社作成)
〔 RSAI01_呼吸機能検査診断プログラム医療機器 〕
(対象疾患)
世界保健機関(WHO)では、がん・糖尿病・循環器疾患に加えて呼吸器疾患を重要な非感染性疾患(NCDs)として考えています。代表的な呼吸器疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息などです。厚生労働省「健康日本21」の改定でも、COPDは重要な疾患として取り上げられ、「肺の生活習慣病」と言われています。しかし、呼吸器機能を診断する検査の普及が不充分なために、COPDなど呼吸器疾患の有病率、罹患率、死亡率などは明らかではありません。
呼吸器疾患や呼吸器機能の検査の中でスパイロメトリー(*32)が最も重要ですが、その普及は進んでいません。被験者(患者)の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非呼吸器専門医には難しいためです(図表19)。非呼吸器専門医でも簡便に結果解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。
< 図表19 スパイロメトリー検査(フローボリューム曲線)での診断 >
(出典:当社作成)
(概要)
当社は、京都大学及びNESと共同研究で、スパイロメトリーの検査結果(フローボリューム曲線)から得られる情報を用いて、呼吸器疾患及びスパイロメトリー検査時のエラーを画像から判断するAIアルゴリズムを開発しています。最適な予測AIアルゴリズム決定のための初期精度検証は、1,900例のスパイロメトリー画像データを用いて行いました。その後、本分析として、正しい例のデータセットを構築後、COPD、気管支喘息、特発性肺線維症(IPF)、健常人、気管支拡張症、気腫合併肺線維症(CPFE)、結核後遺症の7つの疾患データを分析しました。その結果、スパイロメトリー画像データを用いた結果はそれぞれ、86%(健常人)、95%(気管支喘息)、85%(COPD)、93%(IPF)、75%(気管支拡張症)、66%(CPFE)、47%(結核後遺症)と精度の高い結果が得られており、今後実臨床での使用に向けて検証する予定です。
スパイロメトリーの結果を自動解析するプログラム医療機器の開発により、検査の解釈が非専門医でも可能となり、呼吸器疾患の早期診断、早期介入が期待されます。2020年7月にスパイロメトリーのリーディングカンパニーであるチェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結し一時金を受領しました。また、2023年6月には事業化段階移行に合意し、対価としてマイルストーンを受領しました。今後は、実用化に向けたシステム等の開発をチェスト株式会社が主体となって実施する予定です。
〔 RSAI02_維持血液透析医療支援プログラム医療機器 〕
(対象疾患)
維持血液透析は慢性腎不全患者の生命維持に必要な治療です。患者数は33万人を超え、医療費は1兆円を超えます。通常、透析病院では数十名の患者を対象に、1名の医師、数名の看護師や臨床工学技士を中心に管理が行われていますが、人的資源は充分ではなく、透析中に発生する急激な低血圧(Intradialytic Hypotension:IDH)などの合併症の発生は、少ない人的資源を消費し、患者の生命予後にも悪影響を及ぼすために、重要な医療課題となっています。また、維持血液透析患者の除水不足は心肺機能に障害を与える一方、無理な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象を生じます。血液透析医療において、除水は最も重要な医療課題であり、有害事象が生じにくいドライウェイト(DW:体の中の水分が適正な状態)や除水量の設定は医師が苦心する課題です。
(概要)
当社は、東北大学、東京大学、聖路加国際大学及び複数の民間医療機関並びに日本電気株式会社(NEC)と維持血液透析医療を支援するプログラム医療機器を開発しています。透析専門医の経験知(暗黙知)を学習することにより、1)透析開始前に血圧低下発生有無を予測し、2)当日の目標総除水量を提示、3)透析中の時間除水量を設定することを目的としています。医療データとして透析情報(週3回)、血液検査結果(月2回)、患者プロファイルを活用しましたが、これら医療データの取得間隔(サンプリングレート)が異なるため、東北大学やNEC北米研究所と共同で独自のAIエンジンDual-Channel Combiner Network(DCCN)を開発しました。DCCNはディープラーニングをベースとしたもので、サンプリングレートが異なる時系列データをそのまま使用できます。また、透析専門医は、直近の透析情報だけでなく過去からの透析情報(履歴)も参考にして目標除水量を決定しています。本プログラム医療機器でも、AIの予測に過去何回の透析データを使用すべきか検討しました。直近1回、3回、5回、7回、9回と入力期間を変えて評価した結果、過去2週間の情報を含む直近5回分の透析情報を入力した場合の予測精度が一番高かったことから、直近5回分の透析情報を利用することとしました。また、日本透析医学会「血液透析装置に関する通信共通プロトコールVer. 4.0」に設定されている透析データを採用し、透析前に計測する体重等の情報(透析前データ)及び直近の血液検査結果と患者プロファイルも入力情報として利用しました。
医療データとして、最終的に約2,800名、725,619回の透析実施記録を国内の透析医療機関(民間クリニック)から取得しました。透析専門医によって処方された総除水量に対して本AIで予測された除水量との誤差を検証した結果、約130 ml(コップ1杯程度)の誤差で予測可能であり、透析中血圧低下(20 mmHg以下)の発生予測に関しても透析開始前に機械学習の評価指標のひとつであるAUC(Area Under the Curve(*33)) 0.91の精度で予測することが可能であったため、本品は臨床的にも使用可能な段階にあると判断しました。透析治療は専門性が高く、非専門医等では経験豊富な透析専門医と同様な除水量設定を行うことは難しいです。しかし、透析専門医数は充分ではなく、地方や夜間では非専門医が従事することが多く、多くの透析施設では透析専門医の指示の下で非専門医や経験豊富な看護師、臨床工学技士が除水量設定の補助をしているのも現状です。本プログラム医療機器は、少ない人的資源で透析診療に携わる医療従事者の負担を軽減でき、安全安心な透析治療の実施を可能とします。2023年2月にはAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択され、2023年5月にはPMDAの開発前相談を実施し、2024年1月に臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を完了しました。今後承認申請のための検証試験である臨床性能試験を行う予定です。
実用化に向けた取り組みとして、本プログラム医療機器は、2021年5月に血液透析のリーディングカンパニーであるニプロ株式会社と共同研究契約を締結し、2022年5月には契約期間延長に伴う契約一時金を受領しました。また、開発段階が臨床性能試験の実施まで進捗したことから、2024年3月にニプロ株式会社と共同開発契約を新たに締結し契約一時金を受領しました。さらに、血液透析における除水量や血流量の調節を制御する血液透析機器搭載型AIの開発に着手し、2023年12月に東レ・メディカル株式会社と共同開発契約を締結しました。
RSAI02_維持血液透析医療支援プログラム医療機器に関して、2022年10月に基本特許を出願し、2023年5月に国際出願を行いました。また、2024年1月には新たな特許を追加出願しました。(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。
〔 RSAI03_糖尿病治療支援プログラム医療機器 〕
(対象疾患)
糖尿病患者数は国内で1,000万人以上と予想され、糖尿病治療を取り巻く治療薬も次々と開発され、治療のオプションが急激に拡大しています。糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります(図表20)。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非糖尿病専門医に受診することが多いのが現状です。
< 図表20 糖尿病患者のインスリン製剤投与における血糖値の変化 >
(出典:当社作成)
(概要)
当社は、東北大学及びNECと共同で、糖尿病専門医の治療を模倣し、血糖値から最適な超即効型インスリン(朝・昼・夕)及び持効型インスリン(就寝前)の投与単位を提示するプログラム医療機器を開発しています。本プログラム医療機器を臨床現場で活用することにより、非専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援することができます。NECが有するディープラーニングをベースにしたスキル獲得学習「SAiL(Skill Acquisition Learning)」を基に、糖尿病インスリン投与量予測に最適化するため、医師やAI研究者と共同でカスタマイズを行い開発した「DM-SAiL」を活用しています。
東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく開発が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するAIが開発できています。開発したAIの東北大学病院患者及び東北大学病院以外の4医療機関からの医療データでの正解率は高く、また専門医処方からの誤差(平均絶対値誤差、MAE(*34))も極めて小さいことから、本品は臨床的にも使用可能な段階にあると判断しました(図表21)。現在、NESと本プログラム医療機器をクラウド上で使用するためのシステム開発を進めています。
< 図表21 超速効型+持効型 インスリン予測制度>
2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されました。2022年12月にはPMDA開発前相談を終了し、2023年5月に実施したPMDAプロトコール相談の助言に従い、臨床性能試験のための予備的な試験を実施しました。予備試験の結果を基に、2024年2月にPMDAプロトコール相談を追加で実施し、承認申請のための臨床性能試験のプロトコールが確定しました。2024年度臨床性能試験を実施する予定です。
RSAI03_糖尿病治療支援プログラム医療機器に関して、2022年6月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。
〔 RSAI04_嚥下機能低下診断プログラム医療機器 〕
(対象疾患)
加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、更には全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加しており、高齢者の主な死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によって生じているとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在の嚥下機能評価方法は、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なプログラム医療機器を開発しています。
(概要)
当社は、東北大学の複数の診療科(耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及びNECと共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数の時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)を用いて解析しており、現時点で、健常者の音声のベースライン(性差、年齢差、個人差等)を確認し、健常者の発音と患者の発音の違いを検出し、嚥下機能の低下を診断するAIが開発できています(図表22)。今後、より高解像度で評価するため、音声データに加えて、口腔機能、咽頭・喉頭の機能や嚥下機能に関連する臨床データも学習することで、嚥下機能の重症度分類を可能とするAIの開発を目指します。嚥下機能低下を有する高齢者医療データを更に学習させることで、実用化に向け開発を進めます。
< 図表22 発音による嚥下機能低下の評価イメージ >
(出典:当社作成)
本プログラム医療機器が実用化されれば、誤嚥性肺炎等を生じる可能性のある嚥下機能低下患者を簡便かつ早期に診断することができると期待されます。2023年12月にPMDA開発前相談を終了、今後、臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を予定しています。
RSAI04_嚥下機能低下診断プログラム医療機器に関して、2023年3月に東北大学と共同で基本特許を出願しました(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。
〔 その他のプログラム医療機器 〕
実用化を視野に入れた呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援、嚥下機能低下診断などのプログラム医療機器に加えて、下記の探索研究段階でのプログラム医療機器の開発も実施しています(「第2 事業の状況 6 研究開発活動」をご参照ください)。
・乳がん病理診断プログラム医療機器
乳がんは日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人と言われています。しこりや画像診断等で乳がんが疑われた場合、最終診断は病理診断ですが、診断には経験を積んだ病理医が必要です。当社は東北大学と共同で、病理画像から乳がんの病変部を検出するAIを開発しています。現在、探索研究段階では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました(科学誌『Journal of Pathology Informatics』 に掲載)。今後、乳がん領域では「術中迅速病理検体」を用いたAI診断の開発にも取り組む予定です。
・心臓植込み型デバイス患者における不整脈・心不全発症予測プログラム医療機器
心不全患者には植込み型除細動器(ICD)、両心室ペースメーカ(CRT-P)など心臓植込み型電気デバイスが広く使用されます。これら心臓植込み型電気デバイスを活用することで、自宅にいながら、刻々と変化する生体情報の経時的な遠隔モニタリングが可能となります。当社は東北大学と共同で、心臓植込み型電気デバイス患者の遠隔モニタリング情報を活用し、心不全及び致死性不整脈の発症を事前に予測するAIを開発しています。
・人工心臓患者における血栓発生予測プログラム医療機器
当社は、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発 に取り組んでいます。2022年9月に、株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルとの共同研究契約を締結しました。
(e) 診断薬
〔 血中フェニルアラニン測定キット 〕
(研究概要)
フェニルアラニンは生体内タンパク質を構成するアミノ酸の1つで、体内で酵素によって代謝されてチロシンという別のアミノ酸に変わります。この酵素活性が生まれつき低いためにフェニルアラニンが代謝されずに体内に蓄積してしまう疾患がフェニルケトン尿症で、難病に指定されている小児疾患です。この疾患は、適切な治療を行わないと知能発達遅延やけいれんなどの重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりましたが、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、採血など定期的な医療機関での検査が必要です。しかし、数か月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。糖尿病患者のような自宅での血糖測定システムは無く、自己管理が難しい状況です。
当社は、自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを東北大学と共同開発しています。この新規検査系をキット化し、自己管理の保険償還につなげることを目的としています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。
2021年5月に診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。
[用語解説]
業績
4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績等の状況の概要
当社の経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)及び研究開発活動の概要は、次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。
① 経営成績の概要
当社は、医療現場の課題を解決するために、多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を医師/研究者とともに医療現場で研究開発しています。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業です。一方、医療機器やプログラム医療機器パイプラインの事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインを進めることにより、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。
これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合は、なかなか難しいのが現状です。当社は、公的資金や外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自社資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部リソースや外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。当社は、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施しています。
当社は、COVID-19が蔓延し世界的にも大きな医学及び社会の課題として認識されていた2021年9月24日に東京証券取引所マザーズ市場に上場いたしました。上場後約2年半経過しましたが、第Ⅲ相試験のパイプラインを2本有するなど研究開発は予定どおり順調に進展しています。当該事業年度においても、東北大学メディシナルハブに設置したオープンイノベーション拠点(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)及び広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を活用することにより、これら多様なモダリティの効率的な研究開発を実施し、また新たな研究開発パイプラインも拡大しています。当事業年度の医薬品、医療機器及びAIを活用したプログラム医療機器の進捗並びに特に注力しているパイプラインを下記に記載します。
(研究開発活動の実績)
a. 医薬品
特に、PAI-1阻害薬RS5614のがん領域及び呼吸器疾患領域での臨床開発に注力しています。
(がん)
- 慢性骨髄性白血病(CML、第Ⅲ相):2022年3月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて第Ⅲ相試験(医師主導治験)を開始しました。2023年12月末で症例登録を終了し、最終的に解析に必要な症例数を上回る57例が登録されました。
- 悪性黒色腫(第Ⅱ相終了):2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、同年7月に第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。2022年6月に目標の半数の登録を達成し中間解析を実施し、2023年3月末時点で目標症例数40例全例の患者登録が完了しました。外科的切除が難しく、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが無効な悪性黒色腫患者に対して、ニボルマブとPAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することにより、既承認の治療であるニボルマブとイピリムマブ併用以上の奏効率が得られました。また、実臨床で問題となっているニボルマブとイピリムマブ併用による重篤な副作用は、ニボルマブとRS5614の併用では見られず、安全性が確認されました。また、2024年3月に悪性黒色腫治療薬を希少疾患用医薬品指定制度に申請しました。
- その他:上記2つの疾患での治験が順調に進んでいることから、新たながん領域の適応症で臨床開発を展開することを決定しました。具体的には、2022年10月に広島大学と非小細胞肺がんに関する共同研究契約を締結しました。その後研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したため、2023年4月には「広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(HiREx)」を開設し、2023年9月から非小細胞肺がんの第Ⅱ相試験、2023年10月から皮膚血管肉腫の第Ⅱ相試験(いずれも医師主導治験)を開始しました。また、当社のがん治療薬の取材記事が、2023年9月に科学誌『Nature』に掲載されました。
(呼吸器)
- COVID-19に伴う肺傷害(後期第Ⅱ相終了):2021年6月からAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて後期第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。2022年10月に患者登録を完了し、2023年4月に治験総括報告書が纏められました。本後期第Ⅱ相試験はオミクロン株の変異等により対象となる新型コロナウイルス肺炎患者(中等症、入院患者)数が減少し、目標より少ない症例数で治験を終了しましたが、特に早期治療におけるRS5614の有効性を示唆する結果を得ることができました。また、2022年11月に第一三共株式会社と、抗がん剤治療等から生じる間質性肺炎に対するRS5614の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、オプション契約の期間を延長し契約一時金を受領しました。前期及び後期第Ⅱ相医師主導治験の成績は、2024年1月に科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
- 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相試験):2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて、2023年10月から第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。
- 特発性間質性肺炎(非臨床試験):RS5614が間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)を改善することを示唆する非臨床試験の成績に基づき、特発性間質性肺炎の急性増悪を対象とした臨床開発を視野に入れ、2022年12月に京都大学と共同研究契約を締結しました。肺障害領域での研究開発を展開するために、2023年6月に京都大学及び第一三共株式会社と当社の3者での共同研究契約を締結しました。
b. 医療機器
- ディスポーザブル極細内視鏡(薬事承認済):2022年8月にはファイバースコープがPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。2022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。2024年5月、株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結し、ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2024年度後半~2025年度に薬事申請する予定です。
c. AIを活用したプログラム医療機器
特に、呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援、嚥下機能低下診断の領域におけるプログラム医療機器(SaMD)開発に注力しています。また、当社は、2024年度から国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)(代表機関:東北大学)に参画し、災害医療を支援するためのAIを活用した医療ソリューションに基づくデジタルツインモデルの開発を進めています。なお、当社のAIを活用したプログラム医療機器に関する取材記事が、2024年3月に科学誌『Nature』に掲載されました。
- 呼吸機能検査診断SaMD(開発研究終了):京都大学、チェスト株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社(NES)と共同開発を実施しています。2023年3月に開発段階の研究を完了し、同年6月にはチェスト株式会社より事業化段階への移行に関するマイルストーンを受領しました。
- 維持血液透析医療支援SaMD(開発研究):聖路加国際大学、東北大学、ニプロ株式会社、日本電気株式会社(NEC)、NESと共同開発を実施しています。2023年2月にはAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました。2023年4月にPMDA開発前相談を実施し、2024年1月にはPMDAプロトコール相談を完了しました。現在、実用化へ向けた臨床性能試験の準備を進めています。更に、血液透析における除水量や血流量の調整を制御する血液透析装置搭載型AIの開発に着手し、2023年12月に東レ・メディカル株式会社、2024年3月にニプロ株式会社と共同開発契約を締結しました。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願を行いました。また、2024年1月には新たな知財を追加出願しました。
- 糖尿病治療支援SaMD(開発研究):東北大学、NEC、NESと共同開発を実施しており、2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されています。2022年12月にはPMDA開発前相談を終了し、臨床性能試験のための予備的な試験を実施しました。この予備試験の結果を基に2024年2月にPMDAプロトコール相談を実施し、臨床性能試験のプロトコールが確定しました。2024年度に試験を開始する予定です。また、2022年6月に基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。
- 嚥下機能低下診断SaMD(開発研究):東北大学、NECと共同開発を実施しており、音声から嚥下機能の低下を診断するプログラム医療機器を開発しています。既に、健常者と嚥下機能低下患者の音声を区別できるAIが開発し、2023年3月に基本となる知的財産権を出願しました。更に、2023年12月にはPMDA開発前相談を実施しました。
- その他SaMD:乳がん病理診断、心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などの新たなAIを活用したプログラム医療機器研究を開始しました。人工心臓患者における血栓発生予測では株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと共同研究を開始しました。
(事業収益に関する実績)
米国のEirion Therapeutics, Inc.(エイリオン社)とPAI-1阻害薬RS5441の皮膚科領域における独占的実施権を許諾するライセンス契約を締結しており、オプション権行使の対価を受領しました。
呼吸機能検査診断プログラム医療機器においては、チェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結しており、事業化段階移行への合意の対価として一時金を受領しました。
血液透析装置搭載型AIにおいては、東レ・メディカル株式会社と共同開発契約を締結し、契約一時金を受領しました。
また、当社ではCML、悪性黒色腫、糖尿病治療支援SaMDに関するAMED採択プロジェクトにつき、研究開発主体として研究業務を受託しています。当事業年度は、当該受託研究業務が全て計画どおりに完了したことから、受託業務の対価を受託研究収入として計上しています。
以上の結果、当事業年度における事業収益は、皮膚疾患治療薬(RS5441)及び呼吸機能検査診断プログラム医療機器及び人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器に係る一時金の受領に加え、AMED事業に係る受託研究収入の計上などにより194,165千円(前事業年度100,545千円)となりました。また、営業損失は、慢性骨髄性白血病(CML)治療薬や月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬に加え、非小細胞肺がん治療薬及び皮膚血管肉腫治療薬等に係る研究開発費236,331千円を含む事業費用417,979千円を計上したことにより252,335千円(前事業年度営業損失333,870千円)、経常損失は、為替差益394千円を計上したことなどにより251,875千円(前事業年度経常損失333,839千円)、当期純損失は、減損損失4,502千円、法人税、住民税及び事業税1,957千円を計上したことにより258,335千円(前事業年度当期純損失335,797千円)となりました。
なお、当社の事業は単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
② 財政状態の概況
(資産)
当事業年度末の流動資産は、前事業年度末の2,267,362千円と比べて180,888千円減少し、2,086,473千円となりました。これは主として研究開発費や人件費などの支払いにより、現金及び預金が185,586千円減少したことなどによるものです。
また、当事業年度末の固定資産は、前事業年度末の7,456千円と比べて5,096千円減少し、2,360千円となりました。これは主として減損損失の計上などによるものです。
この結果、資産合計は、前事業年度末の2,274,818千円と比べて185,984千円減少し、2,088,833千円となりました。
(負債)
当事業年度末の流動負債は、前事業年度末の100,158千円と比べて25,850千円増加し、126,008千円となりました。これは主として、研究開発費などに係る未払金が25,750千円増加したことなどによるものです。
また、当事業年度末の固定負債は、前事業年度末の309,600千円と比べて46,500千円増加し、356,100千円となりました。これは、AMED採択プロジェクトであるPMS/PMDD治療薬の開発に関し、研究開発費を長期借入金としてAMEDから借入れたものによるものです。
この結果、負債合計は、前事業年度末の409,758千円と比べて72,350千円増加し、482,109千円となりました。
(純資産)
当事業年度末の純資産は、前事業年度末の1,865,059千円と比べて258,335千円減少し、1,606,724千円となりました。これは当期純損失258,335千円を計上したことによるものです。
③ キャッシュ・フローの概況
当事業年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前事業年度末の1,831,780千円に比べ185,586千円減少し、1,646,193千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と主な変動要因は次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の営業活動資金の支出額は230,519千円(前事業年度は284,641千円の支出)となりました。これは主として、税引前当期純損失256,377千円の計上などによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の投資活動資金の支出額は1,567千円(前事業年度は232千円の収入)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出1,577千円を計上したことなどによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の財務活動資金の収入額は46,500千円(前事業年度は110,371千円の収入)となりました。これは、長期借入れによる収入46,500千円を計上したことによるものです。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社は研究開発を主体としており生産活動を行っておりませんので、該当事項はありません。
b.受注実績
当社は研究開発を主体としており受注生産を行っておりませんので、該当事項はありません。
c.販売実績
当社の事業セグメントは医薬品等の開発・販売等事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の販売実績の記載はしておりません。前事業年度及び当事業年度における販売実績は、次のとおりであります。
(注)1.最近2事業年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。
2.売上高割合が10%未満の相手先については、記載を省略しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。
財務諸表の作成にあたっては、一定の会計基準の範囲内で見積りが行われている部分があり、これらについては、過去の実績や現在の状況等を勘案し、合理的と考えられる見積り及び判断を行っております。ただし、これらには見積り特有の不確実性が伴うため、実際の結果と異なる場合があります。
なお、当社が財務諸表を作成するに当たり採用した重要な会計上の見積りは、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
② 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.財政状況
財政状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② 財政状態の概況」に記載のとおりです。
b.経営成績
(事業収益)
当事業年度の事業収益は、194,165千円(前事業年度100,545千円)となりました。前事業年度は、維持血液透析医療支援プログラム医療機器及び糖尿病治療支援プログラム医療機器における契約一時金、ディスポーザブル極細内視鏡及び呼吸機能検査診断プログラム医療機器に係るマイルストーン収入、COVID-19に伴う肺傷害治療薬及び悪性黒色腫に係る受託研究収入などを計上した一方、当事業年度における事業収益は、皮膚疾患治療薬(RS5441)及び呼吸機能検査診断プログラム医療機器及び人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器に係る一時金の受領に加え、AMED事業に係る受託研究収入を計上したことによるものです。
(事業原価、売上総利益)
当事業年度の事業原価は、28,521千円(前事業年度250千円)となりました。前事業年度は、COVID-19に伴う肺傷害治療薬に係るオプション料に係るレベニューシェア支払額を計上した一方、当事業年度は、悪性黒色腫における治験薬の製造にかかる費用を計上したことによるものです。
この結果、当事業年度の売上総利益は、165,643千円(前事業年度100,295千円)となりました。
(事業費用、営業損失)
当事業年度の事業費用は、417,979千円(前事業年度434,166千円)となりました。主な要因は、研究開発費が前事業年度に比べて1,087千円増加した一方、専門家への業務委託費が前事業年度に比べて10,061千円減少したことなど、全社的なコスト削減の効果によるものです。
この結果、当事業年度の営業損失は252,335千円(前事業年度333,870千円)となりました。
(営業外収益、営業外費用、経常損失)
当事業年度の営業外収益は、460千円(前事業年度31千円)となりました。主な要因は、為替差益394千円や雑収入40千円を計上したことなどによるものです。
当事業年度の営業外費用は、未発生(前事業年度未発生)となりました。
この結果、当事業年度の経常損失は251,875千円(前事業年度333,839千円)となりました。
(特別利益、特別損失、当期純損失)
当事業年度は特別損失として減損損失4,502千円を計上しております。これらの結果を受け、当事業年度の当期純損失は、258,335千円(前事業年度335,797千円)となりました。
c.キャッシュ・フローの状況の分析
キャッシュ・フローの状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの概況」に記載のとおりです。
d.資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社は、創薬等のコンセプトやシーズの研究費及びパイプラインの製品化に向けた開発費並びに係る販売費及び一般管理費等の事業用費用について資金需要を有しております。当社は、主に公的機関の研究開発助成金や第三者割当増資により調達を行った手許資金により事業用費用に充当して参りましたが、現下では、金融機関の当座貸越枠を確保するなどしており流動性に支障はないものと考えております。中長期眼では、次世代の医療ソリューション開発を掲げ一層の事業拡大や係る投資を想定しており、第三者割当増資などによる財務基盤の増強が必要であると認識しております。
なお、現状の現金水準については、2021年9月の株式上場による資金調達や上記当座貸越枠も確保していることから、2年分の研究開発費は十分維持しております。
e.経営成績等の状況に関する認識
経営成績に重要な影響を及ぼす要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。