2023年12月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

以下に、当社の事業展開上のリスク要因になる可能性があると考えられる主な事項を記載しております。また、当社として必ずしも事業上のリスクとは考えていない事項についても、投資判断上あるいは当社の事業活動を理解するうえで重要と考えられる事項については、投資者に対する積極的な情報開示の観点から記載しております。当社は、これらのリスクの発生可能性を認識したうえで、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針であり、当社株式等に関する投資判断は本項及び本項以外の記載内容も合わせて慎重に判断したうえで行われる必要があると考えております。

文中における将来に係る事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。

なお、当社の事業等のリスクの把握及び管理体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」をご参照ください。

 

(1) 事業展開のための人員確保について

当社は訪問看護サービス事業を展開するにあたり、事業所数の拡大に伴い看護師及びリハビリ職を積極的に採用して組織体制を強化し、事業所等が所在する地域周辺のコミュニケーションを強化し、地域に根差した訪問看護サービスを展開していく方針です。

労働集約型産業である訪問看護サービス事業の業容の維持と拡大には人材確保、及び適正な要員配置と労働環境整備により従業員の定着を図ることが重要です。しかしながら、求職している看護師及びリハビリ職の中で、訪問看護へ転職しようとする看護師を見出すことには限界があると考えられます。当社は、人材紹介会社を通じて効果的な採用活動を展開するとともに、インスタグラムやYouTubeチャンネルなどのSNSを利用した情報発信によるブランディング強化をするなど、人材獲得のための方法を常に模索しております。また、訪問看護が初めての看護師及びリハビリ職でも安心して働けるようにチューターを配置しOJTによりきめ細かい指導を行うとともに、従業員を適切に育成、フォローできるよう役職者にマネジメント研修を実施する等、社内教育体制等を整備することで、人員の定着に努めております。

しかしながら、万が一、安定した人材確保を行うことができない場合、また、マネジメント人材の輩出ができず、人員計画と実際の人員配置に大幅な乖離が生じた場合には、新規利用者の獲得が計画どおりに進捗せず、財政状態及び経営成績に重要な影響を及ぼす可能性があります。

なお、当社は、人材確保及び人材定着の観点のみならず、医療従事者がいきいき働ける職場環境を提供することを使命のひとつとしており、月間の平均時間外勤務時間が概ね10時間前後に収まるようにワークライフバランスを確保できる環境の整備に努めております。

 

(2) 訪問看護サービス事業に関する法的規制について

① 訪問看護の医療及び介護報酬に係るリスク

当社は、「医療保険制度」及び「介護保険制度」のそれぞれに基づく訪問看護サービスを行っております。医療保険制度に基づく診療報酬は、2年に1回、介護保険制度に基づく介護報酬は、3年に1回改定が行われます。

2021年4月に行われた介護報酬改定は、新型コロナウイルス感染症や大規模災害が発生する中で「感染症や災害への対応力強化」を図るとともに、団塊の世代の全てが75歳以上となる2025年に向けて、2040年も見据えながら、「地域包括ケアシステムの推進」、「自立支援・重度化防止の取組の推進」、「制度の安定性・持続可能性の確保」を図るものとなりましたが、当社の事業は地域包括ケアシステムの一環として機能しており、当該改定の大きな影響はありませんでした。

また、2022年度の診療報酬改定では、「質の高い訪問看護の確保として」利用者が安心して24時間対応を受けられる体制を実現するための改定が実施されました。当社では以前より理念の一つとして、「在宅生活の安心を届ける」を掲げ「24時間365日」対応できる体制作りを推進してきており、当該改定において大きな影響はありませんでした。

2024年は診療報酬及び介護報酬の改定を予定しており、当社サービスに関連する報酬単価や加算等が、下方改定となった場合には、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

② 訪問看護サービス事業に必要な指定に係るリスク

当社は、以下のとおり訪問看護サービス事業を行ううえで必要な指定を都道府県知事等あるいは地方厚生局長から受けております。それぞれの指定には、従業者の資格要件、人員要件、設備要件及び運営要件等が規定されており、また、療養費算定や加算請求においてもそれぞれの要件規定があり、訪問看護サービス事業はこれらの規定に従って事業を運営し、各種申請を適切に行うことが非常に重要です。

 

(訪問看護事業者としての指定等の状況)

 

取得

事業所

所管官庁

許認可等の名称

許認可の内容

有効

期限

主な指定取消事由

全ステーション

 

 

 

都道府県等

 

 

 

訪問看護・介護予防訪問看護事業所の指定

 

介護保険に基づく訪問看護事業者として訪問看護費の請求が可能となる

 

 

6年ごとの更新

 

 

 

介護保険法第77条(指定の取消し等)、115条の9(指定の取消し等)に抵触した場合

 

全ステーション

 

 

 

 

厚生労働省

地方厚生局

 

 

 

訪問看護ステーションの指定

 

 

 

医療保険に基づく訪問看護事業者として訪問看護療養費の請求が可能となる

 

介護保険の指定・更新により自動更新される。

 

介護保険法第77条(指定の取消し等)、115条の9(指定の取消し等)に抵触した場合

 

 

 

当社は常に上記指定に基づく従業者の資格要件、人員要件、設備要件及び運営要件等、定められた基準に従って管理運営を行っております。看護師及びリハビリ職の入退職、及び事業所の開設・移転時には、必要な変更届や更新手続きに漏れがないよう社内の手続きやフローを整備した管理体制を構築し、細心の注意を払って運営しております。また、毎年、内部監査において、これらの手続きに不備がないか、重点的に監査を実施しております。

しかし、何らかの手違いにより、万が一、これらの指定要件を満たさなくなった場合、また報酬を不正に請求していることが発覚した場合等においては、指定の取消または停止処分を受ける可能性があります。当社では、保険適用サービスに係る売上高は全社売上の98.6%を占めており(第11期事業年度)、指定の取消または停止処分を受ける場合、財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

なお、現時点において、指定の取消事由、更新欠落に該当する事実はありません。

 

(参考)保険適用サービスに係る売上高と保険適用外サービスに係る売上高の構成割合の推移

売上種類

第10期事業年度

(自 2022年1月1日

至 2022年12月31日)

第11期事業年度

(自 2023年1月1日

至 2023年12月31日)

保険適用サービスに係る

売上高の構成割合

介護保険

62.1%

61.2%

医療保険

36.6%

37.4%

98.7%

98.6%

保険適用外サービスに係る

売上高の構成割合

1.3%

1.4%

 

 

 

(3) 訪問移動中の交通事故に係るリスク

当社が提供する訪問看護サービスは、ほとんどの従業員が自動車または自転車を使用して利用者様の自宅へ訪問し提供しており、訪問移動中に交通事故に遭ってしまった場合はサービスを提供することが困難となる可能性があります。

当社は、訪問看護サービスを提供する看護師及びリハビリ職に対して、交通事故防止のための教育研修を実施しており、事故発生時にもサービスへの影響を最小限に抑えるための多様な状況に対応できるマニュアルを整備する等により、事故の発生防止や事故発生後の事態に対応できるよう備えております。

しかし、災害等なんらかの事情により交通事故が多発し、当社の従業員の多くに被害があった場合には、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社の従業員が加害者となる重大交通事故を起こしてしまった場合には、社会的信用が低下し、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 訴訟リスクについて

当社の看護師及びリハビリ職は、主治医の指示書を遵守することを大前提として訪問看護サービスを提供しております。当社は訪問看護サービスを提供する看護師及びリハビリ職に対して、社内及び外部機関を利用した教育研修を実施し、また、事業所等で発生したインシデント事案と再発防止策の共有、利用者様の多様な状況に対応できるマニュアルを整備する等、サービス提供に係る事故の発生防止や利用者様の容態悪化等の緊急事態に対応できるように備え、事業における最重要事項として取り組んでおります。

しかしながら、サービス提供に係る重大なトラブル・クレームの発生、過失による医療事故の発生、あるいは当社のサービスとの因果関係が認められない場合であっても利用者様の病状悪化等による訴訟等で過失責任が問われるような事態が生じ、損害賠償金の支払いや、それに伴う社会的信用の低下等があった場合には、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

なお、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(貸借対照表関係)1.偶発債務」に記載のとおり、当社は、食物誤嚥による窒息で死亡した元利用者の遺族から2019年4月に、損害賠償金及び慰謝料の合計110百万円超の支払いを求めた訴訟を提起されておりましたが、2022年10月17日、東京地方裁判所は判決を言い渡し、原告の請求は棄却されました。

本判決に対し、元利用者の遺族は2022年10月21日に、東京高等裁判所へ控訴を提起しておりましたが、2023年9月14日、東京高等裁判所は判決を言い渡し、控訴人の請求は棄却されました。

なお、本第2審の判決を不服として、元利用者の遺族より最高裁判所に対し、一部の損害に限定して57百万円超の上告提起及び上告受理の申立がなされ、現在、最高裁判所の判断待ちの状況であります。

 

 

(5) 個人情報の漏洩について

当社では、訪問看護サービス事業の特性上、利用者様の氏名(ご家族も含む)、住所、生年月日、病歴等の重要な個人情報を取り扱っております。

当社は、個人情報保護の理念を明確にしたうえで個人情報保護方針を定めるとともに、これを適切に管理運用するために「個人情報保護管理規程」を制定しております。また、「情報システム管理規程」を定め、組織全体の情報セキュリティ・リスクを識別のうえ、情報セキュリティの適切な確保に努めております。情報システム部門は、情報システムのセキュリティ状況についてモニタリングを実施しており、内部監査において、情報セキュリティの適切な確保について、監査を行っております。また、介護ビジネスを中心に展開しているIT企業が提供する請求システムを使用することで、適切な情報セキュリティの確保に努めております。

このように、当社は、情報管理につきまして情報漏洩防止の厳重な対策を講じておりますが、万が一システム等からの情報流出等が発生し、当社の社会的信用が低下した場合には、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 風評等の影響について

訪問看護サービス事業は、利用者様やそのご家族のみならず地域住民や行政・医療機関に係る方々からの信頼のもとに成り立つものと認識しております。当社の従業員には企業理念である「もう一人のあたたかい家族」、「在宅生活の安心を届ける」、「地域社会へ貢献」を浸透させ、安定的かつ質の高い訪問看護を提供するよう指導、教育を行っております。しかしながら利用者様にご満足いただけなかった場合、従業員の不祥事等何らかの事象の発生等により、当社に対して不利益な情報や風評が流れた場合には、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 大規模な災害の影響について

当社は、東京都では新宿区にステーションを設置し、以西にサテライト事業所を置くドミナント展開を基本としておりますが、これとは別に地方進出に挑戦し、全国的な事業所展開を推進しております。しかしながら、当社が拠点展開している地域において、大規模な地震、台風、洪水等災害の発生により、事業所あるいは看護師やリハビリ職の従業員並びに利用者様が被災した場合には財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

   (注) ADL(Activities of Daily Living)とは日常生活動作の指標であり、「運動ADL」の13項目と「認知ADL」5項目で構成され、食事・更衣等のセルフケア、排尿・排便等の排泄、椅子・ベッド・トイレ・浴槽等への移乗、歩行・階段等の移動、視覚・聴覚等による理解、音声・非音声による表出等のコミュニケーション、社会的交流・問題解決・記憶等の社会認識の状況を評価したものです。

 

(8) 新規参入の脅威について

当社が属する訪問看護業界は、人員基準、初期投資額の観点から参入障壁が低いうえに、高齢化社会の一層の進展や医療機関における病床数の減少等により在宅医療ニーズのさらなる増加が見込まれるという社会的背景により、異業種からの新規参入や同業他社の事業規模の拡大が予想されます。

当社では、前述の重点課題(「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営方針、中長期的な会社の経営戦略及び対処すべき課題等 ⑤今後当社が対処すべき重点課題」をご参照)の遂行により、事業を成長させることに努める所存ですが、他の事業者との競争の激化が生じた場合、当社の財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

 

(9) 拠点展開について

当社は拠点別採算を勘案した出退店基準に基づき事業所展開を調整しリスクの低減を図っておりますが、看護師等の採用や新規利用者獲得数が計画通りに進捗せず、開設後の採算悪化が続いた場合や、拠点閉鎖に至った場合には、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(10) 新株予約権行使の影響について

当社は、当社従業員及び役員に対するインセンティブを目的とし、新株予約権を付与しております。これらの新株予約権が権利行使された場合、当社の株式が新たに発行され、既存の株主が有する株式の価値及び議決権割合が希薄化する可能性があります。なお、本書提出日現在これらの新株予約権による潜在株式数は35,000株であり、発行済株式総数1,414,000株の2.47%に相当しております。

 

(11) システム障害について

当社は、売上債権管理や各利用者様の請求管理に関してシステムを利用しており、また、高収益を実現する重要な要素のひとつであるIT推進のために、システム管理の専門部署を設置するとともに、社内規程やマニュアルを整備し施策を講じております。

しかしながら、何らかの事情によりシステム障害が発生した場合、適切な売上請求等を行うことができず、売上債権の回収ができなくなる恐れがあります。この場合、資金繰りの悪化やIT推進施策の遅延等が生じ、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

配当政策

3 【配当政策】

当社は、株主に対する利益還元を重要な経営課題の一つとして位置付けております。しかしながら、現在、当社は成長拡大の過程にあると考えており、経営基盤の強化及び積極的な事業展開のために内部留保の充実を図り、財務体質の強化と事業拡大に向けた運転資金に充当することで、さらなる事業拡大を実現することが株主に対する最大の利益還元につながると考えております。そのため配当は実施せず、今後においても当面の間は成長に向け、積極的な新拠点の開設、優秀な人材確保と育成、コーポレートブランドの向上、今後予想される経営環境の変化に対応するための資金として内部留保の充実を図る方針としております。

将来的には、各事業年度の財政状況及び経営成績を勘案の上、配当という形式での株主への利益還元を検討してまいりますが、現時点におきましては配当の実施及びその時期等は未定です。

なお、剰余金の配当を行う場合には、年1回の期末配当を基本方針としており、配当の決議機関は株主総会です。また当社は、機動的な配当を可能とするため、会社法第454条第5項の規定により取締役会決議にて毎年6月30日を基準日として中間配当を行うことができる旨を定款に定めております。