事業内容
セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
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売上
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利益
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利益率
最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています
セグメント名 | 売上 (百万円) |
売上構成比率 (%) |
利益 (百万円) |
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利益率 (%) |
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(単一セグメント) | 195 | 100.0 | -213 | - | -109.4 |
事業内容
3 【事業の内容】
当社は、どんな疾患の患者さまも治療法がないと諦めたり、最適な治療が受けられないと嘆いたりすることのない、そんな希望に満ちたあたたかい社会の実現に貢献するため、メッセンジャーRNA(mRNA)を標的とする低分子医薬品(以下「mRNA標的低分子医薬品」という)の創出に取り組んでいます。mRNAを標的とする低分子創薬(以下「mRNA標的低分子創薬」という)は、従来のタンパク質を標的とする創薬技術では狙えなかった様々な疾患にも対応可能な新しい創薬アプローチであり、アンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療薬や治療法がなく未だ満たされない医療ニーズ)の充足につながることが期待されます。当社は、mRNA標的低分子創薬でより多くの医薬品を患者さまにお届けするため、自社でパイプラインを保有する「パイプライン型」のビジネスではなく、当社独自の創薬プラットフォームibVISⓇ(以下「ibVISⓇプラットフォーム」という)を活用し、複数の製薬会社と共同で創薬研究を実施する「プラットフォーム型」のビジネスを展開しています。
なお、当社のセグメントは創薬プラットフォーム事業のみの単一セグメントであります。
(1) 事業の背景
現在の医薬品市場は、主に疾患の原因となるタンパク質(以下「疾患関連タンパク質」という)に直接結合し、その機能を制御することで異常な働きを止める医薬品(低分子医薬品、抗体医薬品※6など)が主流です(図1)。しかし、これらの医薬品が創薬標的として狙うことのできる疾患関連タンパク質の数はもともと限られているため、長年にわたる医薬品の研究開発※7の結果、新薬開発が求められている医療ニーズの高い疾患に対して新たに医薬品を創出することが難しくなっています。このように、創薬標的となる疾患関連タンパク質が限られてきている現状、すなわち「創薬標的の枯渇」が、製薬業界共通の課題となっています。
mRNAは、DNA※8から特定のタンパク質に関する遺伝情報を書き写した設計図です。疾患関連タンパク質の設計図であるmRNAを制御することができれば、疾患関連タンパク質の機能を医薬品で直接制御する場合と同様に、その疾患を治療することが可能になり、「創薬標的の枯渇」の解決につながることが期待されます(図1)。
mRNAを標的とする医薬品は、核酸医薬品によって実現されています。核酸医薬品は研究開発期間を短くできる可能性があり、患者数が少ない希少疾患の治療に適しています。しかし、経口投与が難しく、製造コストが高いため、多くの患者さまに広く治療を提供するには適していないと考えられます。当社は、低分子医薬品のように経口投与が可能で患者さまの負担が少なく、開発・製造技術が確立している安価で供給に問題がない医薬品でmRNA標的創薬を実現することが製薬業界の真のニーズであり、そのためmRNA標的低分子医薬品は今後の成長市場になる可能性があると考えております。それにもかかわらず、mRNA標的低分子医薬品はこれまでほとんど創出されておりませんでした。低分子創薬では、創薬標的全体の構造を精密に解析し、創薬標的上に低分子医薬品が結合して薬効を示すことが期待できる構造を最初に特定すること(このプロセスを、以下「ターゲット探索」という)が重要です。しかしながら、mRNAは1つの決まった構造をとらず、創薬研究を始める際に精密な構造の解析を行うことが困難であるため、mRNAを創薬標的にして低分子創薬を実施することは難しいという業界の常識がありました。このような状況において、当社の創業者である中村が2000年代前半より技術開発してきたインシリコ※9RNA構造解析技術により、mRNAを創薬標的としたターゲット探索が可能になり(詳細は「(2) 当社の事業領域 ② ibVISⓇプラットフォーム c mRNA標的低分子創薬を可能にするインシリコRNA構造解析技術」を参照)、ターゲット探索の結果を活用した実用的な低分子化合物のスクリーニング※10法と合わせて、当社の創薬プラットフォームの基礎となっています。
図1. 現在の主な医薬品市場(タンパク質標的医薬品)と当社が取り組む今後の成長市場(mRNA標的医薬品)
(注) mRNA標的低分子医薬品の研究開発は世界的に見てもほとんどが研究段階であり、
本創薬で上市された低分子医薬品はありません(2024年12月末現在)。
mRNAを標的とした創薬(低分子医薬品及び核酸医薬品)は、タンパク質を標的とした従来創薬では医薬品の研究開発が不可能もしくは困難であった様々な疾患に適用できる潜在性を秘めています。そして疾患関連タンパク質において大きな割合を占めるブルーオーシャン(競争相手のいない又は競争相手の少ない未開拓な市場)を開拓できる創薬アプローチであると考えております(図2)。特に、mRNA標的低分子創薬は、患者さま、製薬業界及び医療経済的な観点からも社会に望まれる低分子医薬品の創出に取り組めることから、次世代創薬の本命の一つとして期待されています(詳細は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4) 経営環境」を参照)。
図2. mRNA標的創薬によるブルーオーシャン開拓の可能性
出典:The Human Protein Atlas, DrugBank, KS analysis, 2018 をもとに当社にて作成
現在の医薬品市場の中心の一つであるタンパク質標的低分子医薬品とその創薬標的であるタンパク質の関係は、ちょうど「鍵」と「鍵穴」の関係に例えられ、低分子創薬とは、創薬標的上に「鍵穴」を探索し、様々な工程(「鍵候補」を見つけるスクリーニングなど)を経て「鍵穴」にピタリとはまる「鍵」を創出する一連のプロセスであると言えます(図3)。
当社は、独自のインシリコRNA構造解析により、多くのmRNA上には局所的に低分子医薬品(「鍵」)が結合できる構造(「鍵穴」)があること(当社では、mRNA上に局所的に存在する構造を「部分構造」、そのうち標的として定める構造を「ターゲット構造」と呼んでおり、「鍵穴」は「ターゲット構造」に該当します)、しかも多くの場合、複数の「鍵穴」が存在することを見いだしました。また、これらの「鍵穴」に対して「鍵候補」を見つけるための独自改良したスクリーニング法の確立等により、従来のタンパク質標的低分子創薬と同様に、新しい創薬アプローチであるmRNA標的低分子創薬の実施が可能になっています(図3)。
図3. 低分子創薬のターゲット探索(鍵穴の探索)とスクリーニング(鍵候補を見つけるプロセス)
(注1) 様々な化合物の中から一定の基準を満たす化合物を選択するためのプロセス(鍵穴に対して鍵候補を見つけるプロセス)
(注2) スクリーニングで一定の基準を満たした化合物(鍵候補)
(2) 当社の事業領域
当社は、インシリコRNA構造解析技術をはじめとしたデジタル技術(informatics)と創薬技術(biology)を統合したibVISⓇプラットフォームを活用したmRNA標的低分子創薬を主事業としており、製薬会社との共同創薬研究を通じて、mRNA標的低分子医薬品の創出に取り組んでいます(図4)。また、核酸医薬品の自社創出を本格的に事業化するための準備も進めています。その他、将来の事業の多角化のため、インシリコRNA構造解析技術を応用した各種RNA関連創薬の取り組みも進めています(図4)。
図4. Veritas In Silicoの事業領域
① mRNA標的低分子創薬
a mRNA標的低分子医薬品の作用メカニズム
私たちの体は、各部位の機能に応じて、その機能を発揮するために必要なタンパク質で構成されています。各部位の細胞内では、細胞の核の中にあるDNAがもつ全ての遺伝情報から、各部位に必要なタンパク質の遺伝情報のみがmRNAに書き写されます(転写)。mRNAは核内から外に運び出された後、リボソーム※11というタンパク質合成機構によってタンパク質の合成の設計図として用いられます(翻訳)。タンパク質の翻訳の際、まずリボソームがmRNAの一方の端(5'末端)に取り付き、このリボソームがもう一方の端(3'末端)に向かって進行しながらmRNAの遺伝情報を読み取り、20種類のアミノ酸(タンパク質の構成要素)の中から遺伝情報に対応するアミノ酸をつなげていくことでタンパク質が合成されます(図5)。この時、mRNA上にある程度安定な構造があっても、通常ならリボソームが構造をほどいて翻訳していきますが(図5左)、より強固でほどけにくい構造がmRNA上にある場合には、リボソームによる翻訳反応の進行が妨げられます(図5右)。
当社のmRNA標的低分子創薬では、mRNA上にある程度安定で低分子医薬品が結合しうる部分構造を見いだしてターゲットとし、そのターゲット構造に結合し安定化する低分子医薬品を見出します。そしてその低分子医薬品がより強固でほどけにくい構造体をmRNA上に構築することで、リボソームによるタンパク質の翻訳を阻害もしくは制御することを狙っています。これにより、疾患の原因となる疾患関連タンパク質の生成を抑えられれば、従来の低分子医薬品や抗体医薬品等で直接疾患原因タンパク質の機能を阻害もしくは制御する場合と同等の効果が得られると考えています。
図5. mRNA標的低分子医薬品の作用メカニズム
(注) 通常、ある程度安定なmRNA構造があっても、リボソームは構造をほどいてタンパク質を合成する。ある程度安定なmRNA構造が低分子医薬品によってより安定で強固になると、リボソームは構造をほどけずタンパク質の合成がストップする。
b mRNA標的低分子創薬の特徴 ― 研究開発 ―
一般的に医薬品の研究開発は、創薬標的を決定した後、医薬品候補化合物※12を創出するまでの創薬研究(研究段階)、非臨床試験、臨床試験、承認取得(開発段階)と、完了までに長い年月を要します(表1)。当社が製薬会社と実施しているmRNA標的低分子創薬では、従来のタンパク質標的低分子創薬と標的は異なりますが、最終目的物は同じ化学的特性をもつ低分子化合物であることから、表1に示す創薬研究以外の非臨床試験、臨床試験、承認審査、さらには承認後の製造・販売で必要となる技術及びインフラは従来の低分子創薬と共通しています。mRNA標的低分子創薬で臨床試験以降の開発に進んでいる例は世界的にみてもまだ限られておりますが、化学的特性が従来の低分子創薬の医薬品候補化合物と同等であることを鑑みると、開発以降のリスクや成功確率は概ね従来の低分子創薬の医薬品候補化合物と同程度であると考えられます。また、低分子医薬品の場合には開発ガイドラインも確立されているため、開発段階以降の障壁は他の新規創薬技術と比較して小さいと考えられます。
以上のことから、mRNA標的低分子創薬で重要なのは、医薬品として十分な効果・安全性等を示す医薬品候補化合物を創出するまでの創薬研究であると言えます。
表1. 一般的な医薬品の研究開発プロセス
(注1) 研究は、医薬品として十分な効果・安全性等を示す医薬品候補化合物を創出するまでの段階
(注2) 開発は、創薬研究で取得した医薬品候補化合物の効果・安全性等を規制当局に証明していく段階
c mRNA標的低分子創薬の特徴 ― 薬物動態・安全性 ―
医薬品の創薬研究では、疾患関連タンパク質の機能を抑制する効果など、医薬品の主作用(薬効)だけではなく、医薬品が投与されてから血中へ吸収されるか、血中から目的とする組織・細胞へ移行するかといった点や、医薬品が体内で代謝や排泄される過程、さらには安全性を確保するための毒性の低減、といった様々な課題について検討し、最適化する必要があります(医薬品を投与してから「吸収」「分布」「代謝」「排泄」される過程を「薬物動態」という)。
mRNA標的低分子創薬の創薬研究においても同様に薬物動態や安全性等の検討・最適化が必要ですが、従来のタンパク質標的低分子医薬品と比べてmRNA標的低分子創薬の研究過程に特有の検討課題は、細胞内で標的とするmRNAに作用して疾患関連タンパク質を減少させられるかという「細胞内での効果」の工程のみであり、それ以外は従来の低分子創薬と共通しています(図6)。つまり、創薬研究段階におけるmRNA標的低分子創薬の新規創薬技術として特有のリスクは、概ね「細胞内での効果」が得られるか、という点になります。もちろん他の工程にもリスクはありますが、そのリスクは従来の低分子創薬と同様であると考えられ、この点については、長年の創薬研究を通じて各製薬会社には技術やノウハウが豊富に蓄積されています。逆に言うと、「細胞内での効果」は十分にあっても、従来の低分子創薬と同じ薬物動態や安全性の課題により、創薬研究が中断するリスクがあります。そのため、mRNA標的低分子創薬により患者さまに医薬品を届けるためには、従来の低分子創薬を通じて蓄積された各製薬会社の技術やノウハウが重要であると考えられます。当社ではこのリスクを鑑み、mRNA標的低分子創薬により患者さまに医薬品を届けるためには、より多くの製薬会社と共同創薬研究を実施することが重要であると考え、「プラットフォーム型」のビジネスに注力しています(詳細は「(3) ビジネスモデルの特徴」を参照)。
当社と製薬会社とのibVISⓇプラットフォームを活用した共同創薬研究において、当社が担当するのは表1の創薬研究の中でも標的とする「細胞内での効果」に関するものであり、「ターゲットの探索」「スクリーニング」「ヒット化合物検証」「リード化合物最適化」で構成されます。それ以外の薬物動態や安全性研究、動物を用いた化合物の効果を検証するための実験、非臨床試験以降の開発段階については、従来の低分子創薬での経験や知見が豊富な提携先の製薬会社にて実施されます(製薬会社との役割分担の詳細は、「② ibVISⓇプラットフォーム b ワンストップで医薬品候補化合物まで取得」を参照)。
図6.低分子医薬品の創薬研究で検討が必要な課題
② ibVISⓇプラットフォーム
a 多種多様な疾患に適応可能
当社は、これまで国内外の多くの製薬会社に、当社のibVISⓇプラットフォームの創薬技術及びデジタル技術を紹介してきました。これらの製薬会社より、ibVISⓇプラットフォームでmRNA標的低分子創薬を実施したいと開示をうけた創薬対象遺伝子(Gene of Interest;GOI)の数は既に100を超え、そこから推定される疾患領域は、がん領域、中枢神経、各種希少疾患の順に多く、その他は循環器疾患、免疫疾患、感染症など多種多様です(図7)。これは、製薬会社という創薬の専門家から見て、ibVISⓇプラットフォームが様々な疾患に適応可能と考えられていることを示唆していると当社では考えております。中でも市場の大きいがん領域の割合が突出しており、医薬品が血液脳関門(神経細胞に影響のある物質をブロックする保護システム。Blood Brain Barrier;BBB)を通過する必要のある中枢神経疾患の割合ががん領域に続いております。これらは、製造コストが低く巨大な市場にも供給可能であり、BBBを通過できる低分子医薬品の強みを活かせる疾患領域であると考えられます。
図7. 創薬対象遺伝子(GOI)からわかるmRNA標的低分子創薬の適用疾患領域
(注) 2024年12月末現在において製薬会社から開示されたGOIに基づき当社にて作成
b ワンストップで医薬品候補化合物まで取得
当社のibVISⓇプラットフォームは、mRNA上に存在する低分子医薬品の「鍵穴」の候補となる部分構造を網羅的に解析し、その中から標的に適した「鍵穴」すなわちターゲット構造を定める「ターゲット探索」から、数多くの低分子化合物の中からターゲット構造に対して結合が認められる化合物を実験的に選択する「スクリーニング」、スクリーニングで取得したヒット化合物※13とターゲット構造の結合の強度や結合の特徴を詳細に検証する「ヒット化合物検証」、ヒット化合物検証により取得したリード化合物※14を医薬品レベルにまで効果を高める「リード化合物最適化」により、最終的に非臨床試験以降に進める医薬品候補化合物を取得するまで、mRNA標的低分子創薬に必要な全ての創薬技術とデジタル技術を備えていると当社は考えております(図8、表2)。さらに、それらの創薬技術とデジタル技術が単に個々の技術としてではなく、一つの創薬システムとして統合されており、各製薬会社はibVISⓇプラットフォームを活用することで、mRNA標的低分子創薬で直面する多くの課題をワンストップで解決することが可能になると当社は考えております。
特に当社の「ターゲット探索」は、独自のデジタル技術を活用したインシリコRNA構造解析により、製薬会社が任意に選択したmRNAから高速かつ正確に複数のターゲット構造を探索することが可能であり、当社の競争優位性の一つとなっています。
図8. 創薬技術とデジタル技術を備えたワンストップ創薬プラットフォーム
(注)共同創薬研究において製薬会社は、当社が技術供与したスクリーニング法を使ったスクリーニングの実施及び細胞実験を主に担当します。加えて製薬会社側では、化合物の合成展開※15、薬物動態及び安全性研究、化合物の効果を検証する動物実験などが実施されます。
表2. ibVISⓇプラットフォームの創薬技術とデジタル技術
c mRNA標的低分子創薬を可能にするインシリコRNA構造解析技術
mRNAは分子内で相互作用して立体構造をとる巨大分子であり、細胞内の環境下では1つの決まった立体構造をとらず、様々なパターンの構造をとってそれらが混在するという性質があります。よって、一般的に一定の構造をとるタンパク質を標的とする従来の創薬と同様の理論では、mRNA標的低分子創薬を実現することはできませんでした。
当社の中村は、約20年にわたる創薬研究の経験に基づき、1つの決まった状態をとらない事象を取り扱う統計力学※26理論及び熱力学※27理論がmRNAの性質を解析する上で有用な方法であることを見出しました。具体的には、統計力学理論によりmRNA上に局所的に存在する部分構造の存在確率を計算し、熱力学理論により各部分構造のエネルギー状態の計算から安定性・不安定性を評価します。このように、既存創薬の研究領域(化学~生物学)に統計力学理論及び熱力学理論を適切に応用することにより、mRNA上の各部分構造を存在確率や安定性・不安定などの各指標にもとづき定量的に評価する方法論を確立し、その結果、mRNA上にはいつも同じ構造を取ろうとする安定な部分構造が存在することを明らかにしました(図9)。
図9. mRNA標的低分子創薬実現への突破口
当社は、これらの方法論を実装した当社独自のRNA構造解析ソフトウェア「MobyDickⓇ」により、任意のmRNAから高速で網羅的に部分構造を発見し、低分子医薬品の標的に適したターゲット構造(一般的に、存在確率が高く安定であり、低分子化合物の結合が期待される部分構造)を定量的な評価にもとづき特定できるという強みを持っています。このターゲット探索の強みを活かして、製薬会社の幅広い創薬ニーズに応えるmRNA標的低分子創薬を可能にしています。
d 高い達成率を誇るターゲット探索とスクリーニング
当社のibVISⓇプラットフォームは、ターゲット探索とスクリーニングにおいて高い達成率を誇っています。製薬会社との共同創薬プロジェクトでは、これまでに製薬会社が選定したがん、中枢神経疾患、感染症等に関連するmRNAに対してターゲット探索を実施し、ターゲット探索で得られたターゲット構造に対して数万から数十万の化合物ライブラリーを使用した高速・高感度スクリーニング(qFRET)を実施しました。その結果、ターゲット探索の達成率は約98%(42個中41個のmRNAでターゲット構造を複数同定)、スクリーニングの達成率は約96%(54個のターゲット構造に対してスクリーニングを実施し、52スクリーニングで当社が定義するヒット化合物を複数取得)であり(図10)、結果的に創薬対象とするmRNAの選定から約94%の成功率でヒット化合物を取得しています(2024年12月末現在)。
図10. 高い達成率を誇るibVISⓇプラットフォームのターゲット探索とスクリーニング
(注1) ターゲット探索の図中のターゲット構造はイメージであり、実際の創薬研究で用いているターゲット構造ではありません。
(注2) ターゲット探索とスクリーニングの達成率は2024年12月末現在のものです。
e ヒット化合物検証(細胞実験)
ヒット化合物を得た後は、化合物の「細胞内での効果」を確認するため、細胞実験にてヒット化合物が対象となる疾患関連タンパク質の発現量に与える影響を確かめます。これまでの製薬会社との共同研究では、様々なヒット化合物が細胞実験により対象となる疾患関連タンパク質を減少させている、すなわち「細胞内での効果」を示す結果が得られています(図11)。この効果を示す化合物の濃度は、この後の医薬品候補化合物の取得を目指した合成展開を開始するのに十分であると当社は考えております。また、こうしたヒット化合物の特性は、ibVISⓇプラットフォームの創薬技術に含まれるBLI/ITCによる結合の強度測定やNMRによる結合の特徴測定によっても確認されます。
図11.スクリーニングにより取得したヒット化合物の細胞内での効果検証(細胞実験結果)
左図:疾患関連タンパク質(c-Myc)のmRNA上に発見したターゲット構造に対してスクリーニングで取得した化合物(VSC0075)を細胞に添加することで、細胞内のc-Mycタンパク質量が下がっています(一般的なタンパク質の代表であるHSP90 betaにはほとんど影響がない)。
右図:これまでに共同創薬研究を実施した製薬会社のうち6社について、スクリーニングで取得した化合物(Compound A-H)の細胞実験結果をそれぞれ一例ずつ示しています。
③ 核酸医薬品創薬
当社のインシリコRNA構造解析は、mRNAの構造を詳細に解析できるという一般性から、核酸医薬品の創出への応用が可能です。当社は今後、社内でもパイプラインを保有するハイブリッド型ビジネスにビジネスモデルを転換する方針であり、主事業のmRNA標的低分子創薬に続く事業として、当社単独で実行が可能な核酸医薬品の創出に向けた取り組みを進めています。核酸医薬品の創出は、当社がビジネスモデルをハイブリッド型ビジネスへ転換する際の大きな武器になります(ビジネスモデル転換の詳細は「(3) ビジネスモデルの特徴 ④ ビジネスモデルの転換」を参照)。
当社では、これまで理論的な配列設計が困難とされてきた核酸医薬品の一種であるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)※28の配列設計にインシリコRNA構造解析を応用します。当社のインシリコRNA構造解析により、短期間で医薬品候補化合物となるASOを取得でき(当社では最短8カ月で取得)、その結果研究開発費を抑えることが可能になると考えております。当社はこれまでに、ASOの創薬研究で医薬品候補化合物を獲得し、物質特許を取得した実績があります(詳細は「(4) プロジェクトの進捗状況 ③ 核酸医薬品及びその他プロジェクト(自社研究)」を参照)。そのため、低分子化合物だけでなく、ASOを有力な自社パイプライン候補とすることを想定しています。自社パイプラインの対象疾患については、当社の株主価値の向上につながるかどうかを基準に、具体的な検討を開始しています(詳細は「c パイプライン創出の方針」参照)。
a 核酸医薬品の特徴
核酸医薬品は、製造コスト(変動費)が高い一方、医薬品候補化合物を獲得するまでの研究期間と費用(固定費)は低減される傾向があります。また、希少疾患の臨床試験は小規模で短期間に行える可能性があるため、開発費(固定費)の低減にもつながります。この高変動費・低固定費の構造は、低分子医薬品の低変動費・高固定費(製造コストは低いが、研究開発の期間が長く費用が高い)の構造と対照的です。すなわち、低分子医薬品が患者数の多い慢性疾患や一般疾患に治療を提供するのに適しているのに対して、核酸医薬品は患者数が少ない希少疾患に治療を提供するのに適しています。
当社は、核酸医薬品の高い製造コストを今後改善する必要があると考えています。製造しやすい核酸医薬品を創出すること、製造パートナーを確保すること、そして患者さまの用法及び用量を考慮した製造方法を創薬研究の初期段階から検討することが重要です。
b 核酸医薬品の最大の課題
核酸医薬品が臨床試験を終え、承認申請を経て実際に販売に至った例はこれまでのところ限定的です。「 第II相試験終了後、 第III相試験を開始・終了し、申請等を終えて市場に出る」までの確率は、低分子医薬品がおおむね40-50%程度であるのに対し、核酸医薬品は8-10%程度にすぎません。つまり、核酸医薬品における最大の課題の一つは、第III相試験で初めて明らかになる毒性です。具体的には、タンパク質への予測不可能な結合による毒性や、ヒトにおいては重篤になってしまう核酸医薬品に施された各種化学修飾による化学毒性が挙げられます。核酸医薬品を市場に出すためには、臨床後期に判明するこれら毒性を回避することが最も重要であるというのが当社の考えです。
こうした背景の中、世界の新規核酸医薬品の研究開発においては、新規の製剤方法やリガンド等の工夫によって対象細胞・臓器や細胞内へのデリバリーを可能にしたり、新規の修飾核酸の使用等で対象細胞内での活性を大幅に上げることを期待して、新たな技術が採用されています。結果として薬の効果を高めることで、副作用を引き起こさない低い濃度でも十分な薬効を担保できるというのが一般的な作業仮説であり、この方向性で核酸医薬品の第III相試験の課題は解決されつつあるようにも見受けられます。しかし、ヒトでの毒性が未知な新しい技術を用いることで、第III相試験に新たなリスクを持ち越すことになるので、核酸医薬品の最大の課題を正面から解決するために最良の手法であるかは議論が分かれると考えております。
c パイプライン創出の方針
当社では、製造コストを可能な限り低減し、第III相試験に未知の毒性リスクを持ち越さないため、すでに臨床応用されたことのある技術のみで十分な活性を持つ、短い核酸医薬品の創出を目指しています。これが実現できれば、核酸医薬品の最大の課題を抜本的に解決できます。当社はこれまでに、急性腎不全と筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する核酸医薬品の創出を社内的に取り組んでおり、社内技術を高めるとともに、それぞれ物質特許を出願するに至っています。
自社パイプラインの対象疾患の選定については、社外の専門家を交えて具体的な検討を開始しています。その検討にあたっては、特に市場性を重視することで、現在の株主価値に資する現在価値の高いものを選定する方針です。すなわち、(i)将来価値の総額が大きく、(ii)販売開始までの期間が短く、そして(iii)直近のコストを低減させる施策をとれるものです。これら三つの観点は、将来の医薬品の価値を販売開始までの期間や成功確率からディスカウントキャッシュフロー(DCF)法により現在の価値に換算する際、高い現在価値を形成するために重要です。今後は、当社が創出するパイプラインの現在価値が当社の株主価値に織り込まれるように、パイプラインの情報については適時適切な開示等に努めてまいります。
市場性を基準に自社パイプラインを選定することは、製薬会社にとって事業性の高いパイプラインを創出することにもなります。これにより、将来的に行うパイプライン導出の成功確率も高まることが期待できます。実は、先に述べた核酸医薬品の第III相試験における成功率の低さには(詳細は「b 核酸医薬品の最大の課題」参照)、バイオテク企業が導出先の製薬会社を見つけることができずに開発がストップしてしまうことも含まれており、当社の手法はこの成功率低下要因に対しても解決策となると考えております。
以上の方針にもとづき、製造コストを低減しつつ、毒性リスクを第III相試験に持ち越さず、さらに隠された市場性の問題にも対応することで、患者さまにまで医薬品として届く可能性の高いパイプラインの創出に取り組みます。
④ その他のmRNA関連創薬の取組み
当社のインシリコRNA構造解析は、mRNAの構造を詳細に解析できるという一般性から、様々な創薬モダリティ(医薬品の作られ方の基盤技術の方法・手段、もしくはそれに基づく医薬品の分類)への応用が可能であると考えております。当社は、主事業のmRNA標的低分子創薬とこれに引き続く核酸医薬創薬にとどまらない、mRNA関連創薬への多角化についても視野に入れています。
主事業及びASOの創薬研究を通じてmRNAについて深く理解し、インシリコRNA構造解析技術を向上させたことで、新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチンに代表されるmRNA医薬品の体内での不安定性や凝集などの各種課題を解決する配列設計や、mRNA以外のRNA(以下「ncRNA」という)を標的とした創薬にもインシリコRNA構造解析技術の適用が可能になりました。これらmRNA医薬品とncRNA標的医薬品のプロジェクトも、初期的ではあるものの進行中であり(プロジェクトの進捗は「(4) プロジェクトの進捗状況 ③ その他プロジェクト(自社研究)」を参照)、製薬会社等から共同研究や事業協力の申し出があれば将来的に当社事業として組み込むことを想定しています。
(3) ビジネスモデルの特徴
当社は、これまでのプラットフォーム型ビジネスから、自社パイプラインも創出しつつプラットフォーム事業も営むハイブリッド型ビジネスに転換します。自社パイプラインについては、今後具体化する際にパイプラインごとに個別具体的なビジネスモデルをご説明しますので、ここではプラットフォーム型のビジネスモデルについてご説明します。
① ビジネスモデルの概要
当社は、より多くのmRNA標的低分子医薬品を迅速に社会に届けるため、製薬会社の幅広いニーズに応える汎用性の高いibVISⓇプラットフォームを武器として、複数の製薬会社と多数の共同創薬プロジェクトを同時に進行させる「プラットフォーム型」のビジネスを展開しています(図12)。製薬会社との契約では、契約一時金、研究支援金にとどまらず、マイルストーン、ロイヤリティ等の対価を規定することにより、契約締結直後から長期的かつ継続した事業収益の確保を目指します。当社のようなバイオテク企業にとって、複数の共同創薬プロジェクトを同時進行するプラットフォーム型ビジネスは、安定した事業収益を確保する観点や、製薬会社との提携によってmRNA標的低分子医薬品の潜在的な市場のシェアを確保して数多くの医薬品を患者さまにお届けする観点から、合理的なビジネスモデルであると考えております。
当社は2024年度末時点において、プラットフォーム型ビジネスのもと、主な事業収益の源泉となる製薬会社との共同創薬プロジェクトを効率的に進めるため、アカデミアとの共同研究をはじめ、各種機関・企業と提携関係にあります(図13)。
図12. 創薬系バイオテク企業のビジネスモデル
図13. Veritas In Silicoの事業系統図
(注) 製薬会社から当社への対価の詳細は下記「②契約形式」をご参照ください。
② 契約形式
プラットフォーム事業では、製薬会社と医薬品候補化合物を取得するまでの創薬研究を共同で実施する共同創薬研究契約を締結することを基本としています(図14)。共同創薬研究契約では、製薬会社から創薬対象とするmRNA(標的遺伝子)の情報を受領後、その標的遺伝子ごとにプロジェクトを設定し、各プロジェクトの進捗状況に応じて一連の継続的な事業収益が得られるように規定しています(図14、表3)。
当社と製薬会社の共同創薬研究契約に基づくパートナーシップ(以下、当社と共同創薬研究契約等に基づき、共同で創薬研究を実施する製薬会社を「パートナー」という)は、当社技術を用いて当社とパートナーが共同で医薬品候補化合物を創出する創薬研究段階と、医薬品候補化合物の創製における当社貢献部分をパートナーに譲渡し、パートナーが医薬品候補化合物の開発・販売を行うことで当社に事業収益が発生する開発・販売段階で構成されます(図14)。各段階において当社が計上する主な事業収益は以下の通りです。
図14. Veritas In Silicoの収益構造
(注1) 現時点(2024年12月末現在)、当社と製薬会社との協業から製薬会社による開発・販売段階にまで進んだ実績はありません。
(注2) 上市までの期間については、実際の研究開発状況により大きく異なる可能性があります。
(注3) ibVISⓇプラットフォームを使用した当社と製薬会社の協業は、創薬研究期間中に限られます。
(注4) 開発・製造・販売ライセンスに関する取り決めについては、共同創薬研究契約に盛り込まれる場合もあります。
表3. 主な事業収益の内容
a 創薬研究
当社の共同創薬研究契約では、通常締結時にibVISⓇプラットフォームの使用に対する技術アクセスフィー等として「契約一時金」をパートナーより受領します。研究開始後、研究実施に対する費用支援・対価等として標的遺伝子ごとに設定された「研究支援金」を研究期間中毎年受領します。また、創薬研究中に追加的な研究が必要となる場合には、追加の「研究支援金」を標的遺伝子ごとに受領します。さらに、パートナーと事前にいくつかの研究達成目標、すなわちマイルストーンを設定し、当該マイルストーンを達成した場合には、パートナーより「研究マイルストーン」を受領します。
b 開発・販売
当社の共同創薬研究契約では、基本的に、創薬研究における成果の当社貢献度に基づき、当社が開発・販売において受領する「開発マイルストーン」、「ロイヤリティ」、「売上マイルストーン」等の経済条件についても以下のとおり規定しています。
創薬研究で医薬品候補化合物を取得し、パートナーにより非臨床試験に進む判断がされた場合には、当社はこの段階で、最初の「開発マイルストーン」を受領します。その後、医薬品候補化合物の開発はパートナーに委ねられますが、パートナーによる開発が進み、臨床試験に移行した場合には、臨床試験の段階ごとに追加的に「開発マイルストーン」を受領します。さらに、最終的に医薬品として上市された場合には、売上金額に一定の料率を乗じて得られる金額を「ロイヤリティ」として受領します。加えて、上市された医薬品の年間の売上高が所定の売上額に達した場合には、「売上マイルストーン」を受領します。
なお、2024年12月末現在において、当社とパートナーとの共同創薬研究は全て創薬研究段階であり、パートナーが単独で実施する開発・製造・販売にまで進んだ実績はありません。
③ 知的財産戦略(特許及びソフトウェア著作権)
当社は、ibVISⓇプラットフォームの「ターゲット探索」と「スクリーニング」の特許による権利化と、各種自社製作ソフトウェアで構成されるデジタル技術の秘匿化により、プラットフォーム全体の独占性を二重に担保しています(図15)。
特許「RNAの機能を制御する化合物のスクリーニング方法」により権利化した技術は、デジタル技術の「MobyDick2D」と創薬技術の「qFRET」です。主に、これらの技術を利用するibVISⓇプラットフォームの「ターゲット探索」と「スクリーニング」では、権利化した特許によって他社の利用を排除しつつ、当社の優位技術として製薬会社に活用いただいています。
創薬研究の各プロセスは、当社が独自開発し継続的にアップデートしている大量のデータ解析や実験のサポートをする自社ソフトウェアを使用することにより、はじめて実施可能となります。また、各プロセスに導入しているこれらデジタル技術により、並列処理による効率化と精度の高い創薬の実現にくわえ、製薬会社のニーズに応じた技術移転を容易とすることで、拡張性のある創薬が可能になっています。
図15. ibVISⓇプラットフォームに係る知的財産権及び自社製作ソフトウェアによる独占性の担保
(注) 特許6781890号 RNAの機能を制御する化合物のスクリーニング方法
④ ビジネスモデルの転換
当社は、2025年度より、mRNA標的低分子創薬のプラットフォーム事業にくわえ、自社でパイプラインの研究開発も進めるハイブリッド型ビジネスへ転換します。プラットフォーム型ビジネスによりパートナー数を増やし、パートナーから中長期的に充分な収益が見込めるようになった段階で(当社では2026年頃と想定)、自社パイプラインの非臨床試験を開始することを目指しますが、当面は、なるべく早い段階で製薬会社にライセンスアウトする方針です。
当社は、核酸医薬品を最初のパイプライン候補とする方針です。核酸医薬品のパイプライン創出の方針については、「(2) 当社の事業領域 ③ 核酸医薬品創薬 c パイプライン創出の方針」をご参照ください。
(4) プロジェクトの進捗状況
① mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(共同創薬研究)
mRNA標的低分子創薬のプラットフォーム型ビジネスを展開する当社は、多額の開発費を投入して少数の自社パイプラインを育てる代わりに、共同創薬研究のパートナー数を増やすとともに、各パートナーとのプロジェクトを進捗させることで、相乗的な事業拡大を図っています。当社はこれまでに、プラットフォーム型ビジネスの特徴を活かしたパートナーとの共同研究を通じてibVISⓇプラットフォームの技術力向上を達成し、より高収益の共同創薬研究契約の締結が可能になりました(図16)。現在、共同創薬研究のパートナー4社(東レ株式会社、塩野義製薬株式会社、ラクオリア創薬株式会社、武田薬品工業株式会社)とのプロジェクトが進捗しています。
図16. プラットフォーム型ビジネスを活用した技術力向上と事業拡大
(注) Oncodesign ServicesとはMOUのもと新規顧客獲得で協力関係にありますが、具体的な事業提携はしておりません(2024年12月末現在)。
4社とのプロジェクトで最も進んでいるプロジェクトは、現在「ヒット化合物検証」を実施中です(図17)。
図17. 共同創薬研究中の製薬会社のプロジェクト進捗状況
(注1) 製薬会社との共同創薬プロジェクトは契約上守秘義務があるため、プロジェクトで対象としている疾患及び経済条件については、一部記載を「非開示」としています。
(注2) 東レとの共同創薬研究では、医薬品候補化合物の権利は東レと当社で共有し、、当社は化合物の持分に応じた収益を受領します。
当社は、共同研究及び共同創薬研究の契約にもとづき、これまでに合計8.3億円の事業収益を獲得しています(2024年12月末現在)。今後は、共同創薬研究中のパートナー4社との契約にもとづき、短期的(創薬研究期間中)には17.9億円(このうち8.3億円は取得済)の研究支援金又は研究マイルストーン、中期的(開発期間中)には80.5億円の開発マイルストーンを事業収益として獲得する可能性があります(図18)。さらに、医薬品が上市した場合には、長期的(販売期間中)に、数パーセント程度のロイヤリティ及び販売額に応じたマイルストーン収入(最大1,050億円)が見込まれます(図18)。なお、東レとの共同創薬研究においては、医薬品候補化合物の権利を東レと当社で共有することになっており、当社は化合物の持分に応じた収益を受領することを取り決めております。
研究・開発・売上マイルストーンの金額については、いずれも既存のプロジェクトが全て成功した場合の最大値を示しています。創薬の成功確率は相対的に高いとはいえず、現実的に全てのプロジェクトが成功するわけではなく、一部又は全部のプロジェクトが成功に至らない場合や、成功に至った場合であっても当初想定した売上が達成できない場合等には研究・開発・売上のマイルストーンが減少する可能性がある点に十分ご留意ください。
図18. 既存の共同創薬研究契約から得られる事業収益のポテンシャル(2024年12月末現在)
(注) 取得済総額は、共同研究により取得した収益を含みます。マイルストーンは、いずれも既存のプロジェクトが全て成功した場合の最大値を示しています。創薬の成功確率は相対的に高くはなく、現実的に全てのプロジェクトが成功するわけではない点に十分留意が必要です。
② mRNA標的低分子創薬のプロジェクト(自社研究)
mRNA標的低分子創薬は様々な疾患への応用展開が可能なことから、共同創薬研究開始後、パートナーあたりのプロジェクト数が積み上がる場合がある一方、パートナー側の社内優先順位等の関係で、一部のプロジェクトが中止される場合もあります。当社は、パートナーとの契約締結の際に開発・製造・販売ライセンスに関する取り決めを盛り込む場合を除き、中止されたプロジェクトの成果の当社への譲渡について契約書に規定することにより、自社プロジェクトへ転用することを可能にしています。実際に、中止されたプロジェクトのうち有望なプロジェクトについては自社プロジェクトに転用しており、事業開発や創薬プラットフォームの技術開発のために活用しています。
当社のmRNA標的低分子創薬のプロジェクトは、医療ニーズの高いがん領域が中心であり、当社のビジネスモデルをハイブリッド型に移行するにあたり、これらのプロジェクトが自社パイプラインの有力な候補になると考えております。現時点においては、一部のプロジェクトについて、事業開発や創薬プラットフォームの技術開発を目的とした社内研究を実施するにとどめており、具体的に自社パイプライン候補として進捗しているプロジェクトはありません(2024年12月末現在)。
③ 核酸医薬品及びその他プロジェクト(自社研究)
当社は、希少疾患を中心に、ハイブリッド型ビジネスを見据えた核酸医薬品 (核酸医薬品の一種であるASO) のプロジェクトを保有しています。また、mRNA医薬品及びncRNA標的医薬品のプロジェクトでは、現在基礎研究(ターゲット探索)を実施中です(図19)。
核酸医薬品のプロジェクトは、急性腎不全や脱毛症を対象疾患とした遺伝子p53に対するASO、及び東京慈恵会医科大学の岡野ジェイムス洋尚教授との共同研究により創出された、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患を対象疾患としたASOであり、両プロジェクトともに医薬品候補化合物を取得して物質特許を出願し、p53のASOについては日本で特許が権利化されました。当社では核酸医薬品の自社単独での創出が可能であること、医薬品候補化合物を最短8か月で取得できることから、急性腎不全やALSにこだわらず、市場性を考慮したうえで、新規プロジェクトを選定し、自社パイプラインとして進める予定です。
mRNA医薬品(mRNA補充療法)では、タンパク質補充療法の実例があるファブリー病とハンター症候群に着目し、これら疾患の治療で補充すべきタンパク質の設計図となるmRNAをもとに、血中で安定し、自己凝集しないmRNA医薬の配列設計を開始しています。ncRNA標的医薬品のプロジェクトとしては、ncRNAの中でも機能が解明され、多発性骨髄腫への関与がわかっているncRNAに対して、核酸医薬品を創出するプロジェクトを開始しています。
図19. 核酸医薬品、mRNA医薬品及びncRNA標的医薬品の自社プロジェクト進捗状況
<用語解説>
業績
4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績等の状況
当事業年度(2024年1月1日~2024年12月31日)におけるわが国の経済は“コロナ明け”後の経済活動が本格化するなか、名目賃金の伸びが続き実質賃金がプラスに転じたことを裏付けに、個人消費に持ち直しの兆しが現れるなど、景況感にやや明るさが見られました。その一方では、エネルギー価格の高止まりや円安基調の長期化などの懸念材料も依然として払拭されておらず、今後の見通しには不透明感が残りました。
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という)の状況の概要は以下の通りです。
① 経営成績
当社のmRNA標的低分子創薬事業においては、創薬プラットフォーム ibVISⓇを活用し、東レ株式会社、塩野義製薬株式会社、ラクオリア創薬株式会社、並びに武田薬品工業株式会社との共同創薬研究を進めております。また、さらなる提携先の獲得に向け、mRNA標的低分子創薬に関心を持つ国内外の製薬会社を対象に、当社のプラットフォーム技術紹介等のアプローチを進めました。また当社が保有している特許のうち、創薬プラットフォームibVISⓇをカバーするものについて、欧州域内にて2025年1月1日付で特許権が付与されました。
mRNA標的低分子創薬事業の取り組みと並行して、当社で実行可能な核酸医薬品をはじめ、mRNA標的医薬品の自社パイプラインを創出する取り組みも進めました。
核酸医薬品の開発においては、当社は既にp53遺伝子のmRNAの量を低下させ、疾患の原因となるタンパク質の発現を抑制する核酸医薬品の一種、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を発見し、日本国内で特許を取得するとともに、さらに効率よく活性の高いASOを取得するための独自研究を進めております。また、三菱瓦斯化学株式会社との間では、ASOの研究・開発・製造を目的とした協業の可能性について2023年12月より継続的に検討を進めております。
低分子医薬品の開発においては、2024年10月に英国 Liverpool ChiroChem 社とのmRNAを標的とした低分子創薬に関するパートナーシップ合意、さらに同社とは同年12月に共同開発及び商業化契約を締結いたしました。
また当社は2024年2月8日、東京証券取引所グロース市場へ株式上場いたしました。
これらの結果、当事業年度における経営目標の主要な指標であるKPI達成状況は、新規契約締結数については年間目標2社に対し1社(英国 Liverpool ChiroChem 社)、事業収益は黒字確保の目標に対し、当事業年度内の契約締結を見込んでいた案件の成約が翌事業年度内となったことを主な要因として赤字となりました。
当事業年度における事業収益等の経営指標は、共同創薬研究契約に基づき定期的に受け取る研究支援金や、スポット的に発生するマイルストーン収入等により事業収益は194,643千円(前事業年度比46.0%減)を計上しました。事業費用には研究開発費172,475千円を含む407,494千円を計上し、営業損失は212,851千円(前事業年度は37,623千円の営業利益)となりました。営業外損益においては、当社株式の東京証券取引所グロース市場上場に伴う費用12,820千円、公募増資の実施に伴う新株発行費用9,351千円を営業外費用に計上したこと等により、経常損失は233,562千円(前事業年度は35,898千円の経常利益)、当期純損失は236,442千円(前事業年度は33,048千円の当期純利益)となりました。
② 財政状態
(資産)
当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べて593,426千円(35.9%)増加し、2,248,958千円となりました。流動資産は主に現金及び預金の増加624,247千円により602,865千円(37.0%)増加し、2,232,073千円となりました。固定資産は、主に減価償却による有形固定資産の減少9,530千円により9,438千円(35.9%)減少し、16,885千円となりました。
(負債)
当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べて40,482千円(50.7%)減少し、39,410千円となりました。これは主に流動負債にて前受金の減少26,143千円、その他に含まれる未払消費税の減少23,753千円等があったことによるものです。
(純資産)
当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べて633,909千円(40.2%)増加し、2,209,548千円となりました。これは2024年2月から3月にかけて実施した公募増資等による資本金及び資本準備金の増加870,351千円及び、同4月に実施した減資による資本金の減少448,000千円、その他資本剰余金の増加448,000千円並びに、利益剰余金の減少236,442千円があったことによるものです。
これらの結果、自己資本比率は、前事業年度末の95.2%から3.0ポイント上昇し、98.2%となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」と表記)の残高は、前事業年度末より1,375,752千円減少し173,358千円となりました。当事業年度におけるキャッシュ・フローの状況は、以下の通りです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の営業活動により支出した資金は217,944千円となりました。これは主に税引前当期純損失233,562千円、売上債権の減少38,050千円、前受金の減少26,143千円等によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の投資活動により支出した資金は2,005,988千円となりました。これは定期預金の預け入れによる支出2,000,000千円、有形固定資産の取得による支出5,702千円等によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度の財務活動により獲得した資金は848,179千円となりました。これは株式の発行による収入860,999千円、上場関連費用の支出12,820千円によるものです。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社の行う事業は、提供するサービスの性質上、生産実績の記載になじまないため、当該記載はしておりません。
b.受注実績
当社の行う事業は、提供するサービスの性質上、受注実績の記載になじまないため、当該記載はしておりません。
c.販売実績
当事業年度における販売実績は、次のとおりであります。
(注)1.当社は創薬プラットフォーム事業の単一セグメントであるため、事業セグメント別の記載を省略しております。
2.主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、下表のとおりです。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当事業年度の事業収益は194,643千円(前事業年度は360,356千円:前期比46.0%の減少)となりました。事業収益が減少した要因は、当事業年度内の契約締結を予定していた新規案件の成約が翌事業年度内となったことによるものです。当事業年度の事業費用は407,494千円(前事業年度は322,733千円:前期比26.3%の増加)となりました。これは主として研究活動の進捗に応じた研究開発費の増加35,923千円、各費目の支出増加による販売費及び一般管理費の増加48,837千円によるものです。これらの結果、当事業年度の当期純損失は236,442千円(前事業年度は当期純利益33,048千円)となりました。
なお、財政状態の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(1)経営成績等の状況 ② 財政状態」に含めて記載しております。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当事業年度のキャッシュ・フローの分析につきましては、「第2 事業の状況4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
当社における主な資金需要は、人件費にかかる支出及び研究開発にかかる支出です。この資金需要に対しては、原則として自己資金を充当することを基本としております。
なお、当事業年度末において、金融機関等からの借入金はありません。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている企業会計の基準に基づいて作成されております。この財務諸表の作成にあたっては、当事業年度末における財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与えるような見積り、予測を必要とされております。当社は、過去の実績値や状況を踏まえ合理的と判断される前提に基づき、継続的に見積り、予測を行っております。しかしながら実績の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。
当社の財務諸表を作成するに当たって採用した重要な会計方針は「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 (重要な会計方針)」に記載のとおりであります。
また、財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しておりますが、重要な会計上の見積りを要する項目はないと判断しております。
④ 経営成績に重要な影響を与える要因について
経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。
⑤ 経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標」に記載しております。