リスク
3【事業等のリスク】
1.リスクマネジメント体制と重要リスク特定のプロセス
当社グループは、日本、北米、EMEA、アジア/オセアニアという4つの地域(リージョン)軸、地域を跨いだ機能(ファンクション)軸と製品(フランチャイズ)軸を組み合わせたグローバルマネジメント体制「One Kyowa Kirin」で事業活動を推進しています。4つの地域にそれぞれリージョナルCSR委員会を設置し、各地域の重要リスクを議論しています。各地域の重要リスクへの対応については、日本リージョナルCSR委員会事務局が取りまとめて同委員会に報告しています。また、4つの地域の関係者が参加するグローバルな位置づけのグループCSR委員会を年2回開催し、グループ全体のリスクマネジメントに関する戦略や活動方針の審議、半年間の活動状況のモニタリングを行っています。これらの委員会で議論された重要リスクの低減策やモニタリングの結果は取締役会に報告されています。
重要リスク特定のプロセスについては、四半期に1回、業務執行部門が社内外の環境変化を踏まえてリスクを洗い出し、経営に与える影響度と発生頻度(発生する可能性)を分析します。CSR委員会事務局は社内外の環境変化やリスクトレンドについて業務執行部門と対話しながら分析結果を調整した後、リスクをカテゴリー毎に整理し、重要リスクを特定します。CSR委員会では重要リスクの特定が適切かを確認するとともに、その低減策と進捗のモニタリングを行い、業務執行部門のリスクマネジメントを支援しています。
また、サステナブルな社会の実現に貢献すると同時に、企業の持続的な成長を実現するために、社会と事業の両方の視点から重要な経営課題(マテリアリティ)を中長期的に解決すべきリスク・機会として特定し、中期経営計画に反映させて取組み、CSR委員会においてリスク・機会についての認識の変化や、取組みの進捗を議論しています。
当社グループのリスクマネジメント体制(2022年4月より)
2.デジタル活用によるリスクマネジメントのグローバル一元管理
当社グループでは、グループ全体のリスクをデータベースで一元管理するためのシステムを導入し、デジタル化を進めています。業務執行部門がリスク台帳やインシデント情報をデータベースに登録した後、ワークフローを通してリスクを専門的かつ全社的な立場で支援・助言・モニタリングする部門に情報を共有したり、リスクマップにて重要リスクの見える化を実施したりするなど、リスクの状況を効果的かつ効率的にモニタリングする体制の整備を進めています。
3.クライシスマネジメント体制と演習の強化について
当社グループでは、グローバル、リージョン、ローカルの三層構造からなるエリア対策本部や、専門性を活かして対応するファンクション対策本部が、グループクライシスマネジメント規程のもと自律的にクライシスマネジメントを実行し、グローバルな対応が必要な場合は、各対策本部が連携して、迅速に影響低減を図るための仕組みを構築しています。また、重要リスクを中心に日本をはじめ、各地域とグローバル本社をつないだクライシス・BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)演習(生成AI不正利用によるなりすまし、政情不安、人材流出など)、また組織ごとのクライシス・BCP演習(サイバー攻撃、生成AI利用による情報漏洩、自然災害、出荷停止など)の実施を通じて、最悪の事態を想定したクライシス対応や事業継続体制の強化を図っています。演習を通じて対応力向上を図るとともに、リスク評価や低減策を見直し、リスクの予兆発見のためのモニタリングに繋げるなど、急激な環境変化の中、全社的な課題に対して、平時のリスクマネジメントと有事のクライシスマネジメントを一貫して取組むことで、困難な状況にもしなやかに適応するレジリエントな組織を目指しています。
当社グループのクライシスマネジメント体制(2021年4月より)
4.事業等のリスク
当連結会計年度末(2023年12月31日現在)において当社グループが特定した重要リスクを以下に記載していますが、社内外の環境変化により想定していないリスクが発生する可能性や、ここで記載していないリスクが当社グループの経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性があります。
グローバル戦略品の価値最大化に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 当社グループは、X染色体連鎖性低リン血症治療剤Crysvita(日本製品名:クリースビータ)及び抗悪性腫瘍剤Poteligeo(日本製品名:ポテリジオ)等をグローバル戦略品と位置づけ、これらの価値最大化を進めています。Crysvitaは、2023年4月に北米における自社販売を開始していますが、市場の拡大による売り上げ及び利益の増加が達成されるかについては引き続き注視していく必要があります。またグローバル戦略品全般のリスクとして、上市準備が遅延し事業エリア拡大が遅れる、潜在患者の掘り起しの難航等で市場への浸透が進まない、新規上市国での価格が想定と乖離して売上が予測から大きく下振れする又は品質や製造トラブルの発生等により安定供給に支障が生じた場合は、経営目標の達成が困難になる可能性があります。 |
主な対策 グローバル戦略品の価値最大化に向けては、市場浸透施策や欧米を中心とした事業地域の拡大を進めています。また、グローバルレベルで各機能(部門)や各地域(関係会社)間のシームレスな連携を可能にするグローバルマネジメント体制に加えて、各グローバル戦略品の責任者を任命し、同責任者を中心とした機能・地域横断のチームが一体となって各製品の価値最大化の戦略策定と遂行に取組んでいます。Crysvitaの北米における自社販売を開始していますが、引き続き、治療を必要とする患者さんの特定とコミュニケーション体制の充実、フィールド活動のモニタリング、並びに、それらの活動に携わるフィールドチームのさらなるレベルアップといった施策に対して万全の態勢で臨んでいきます。なお、品質や製造トラブル等については、「製品品質に関するリスク」及び「生産・安定供給に関するリスク」において主な対策を記載しています。 |
医療費抑制策に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 国内外において医療費抑制のトレンドが高まっており、医薬品の保険償還価格引下げや、後発医薬品の使用促進等の各国における医療制度改革の動向は、当社グループの経営成績及び財政状態等にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。また、このような状況下においては革新的で、アンメットメディカルニーズに応える医薬品であることがステークホルダーからの高い評価を得るうえで重要になりますが、追加的有用性・革新性を有する新薬等の開発が停滞する場合は、将来の成長性と収益性が低下する可能性があります。 |
主な対策 各国の医療政策動向を注視するとともに、患者さんにLife-changingな医薬品を確実にお届けするために、その医薬品のもつ価値を多様な側面から評価する方策を戦略的に検討しています。また、価格設定については、各国制度に準拠しながら、革新的な医薬品を継続的に創出していくために適正な売上収益の確保に繋がるよう、事業への影響の評価も踏まえて検討しています。 |
生産・安定供給に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 各地域における詳細で精度の高い需要予測ができない場合、特に他社の供給トラブル等により市場の需給状況が著しく変動した場合、さらには自社工場や委託先、原材料資材等の調達先を含むサプライチェーンにおけるコンプライアンス違反や災害被害によって供給能力が維持できない場合には、当社グループの製品の安定供給に支障が生じ、上市スケジュールの遅延、製品の限定出荷等により、製薬会社としての信頼の失墜や売上収益の減少等が生じる可能性があります。 |
主な対策 製品の売上情報や外部環境変化に伴うニーズの動向を速やかに把握して需要予測の精度を高めるとともに、需要と供給をバランスさせ、事業計画に沿った調整を迅速かつ柔軟に行うためのS&OP(Sales and Operations Planning)と呼ばれるプロセスを展開しています。またBCPの策定、リスクに応じた安全在庫保有方針の見直しのほか、業界に求められている自己点検の実施、客観的な安定供給指標の設定とモニタリング、需給計画のシステムによる可視化、さらには委託先の拡充、自社工場への設備投資、製造作業効率化のためのデジタル化推進、製造並びに品質管理部門の増員と教育システムの充実を進めています。 |
人的資源に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 当社グループは、多様な背景を持つ人たちが、自らの持つ能力を発揮して国内外の事業活動を推進するグローバルマネジメント体制の定着を進めていますが、グローバルマネジメント体制を担う人材を育成、採用できない場合は、当社事業活動の継続や持続的な成長の阻害要因になる可能性があります。 |
主な対策 当社グループは、人材をイノベーションの源泉と捉え、多様な背景を持つ社員一人ひとりの能力を最大限引き出し、変革に挑み新しい価値を創造し続ける人と組織を作るべく、人事部門の2025年のありたい姿として描いた「Global Talent Management Basics for 2021-2025」の達成に向けた取組みを推進しています。これまでOne Kyowa Kirin体制を推進するグローバル共通の人事基盤整備として、具体的にはグローバルキーポジションとその人材要件の特定、グローバル共通のグレーディングの整備、リーダーシッププリンシパルの策定、グローバル人事システム(HRIS)の導入と機能拡充などを推し進めてきました。また、並行してグローバル全体のマネジメント体制強化のため、グローバルキーポジションのサクセッションプランを作成、人種、国籍、性別、年齢等に関係なく次世代リーダー候補をノミネートしており、さらに人材パイプラインの強化のために、サクセッサーごとの個別の育成計画(グローバルサクセッションプラン)を策定し、グローバルでの短期派遣による人材育成プログラム(グローバルエクスチェンジプログラム)などを通じて、計画的に人材育成を実施しています。また、グローバルHRビジネスパートナーが中心となり地域の枠を超えてタレントレビューを行い、グローバルレベルでの適所適材を実現していきます。 上記取組みの浸透度や定着度は、従業員意識調査(Global Engagement And Motivation Survey)や企業文化改革に関する簡易調査等によりモニタリングしています。これら人事部門での各取組みについては、人事担当役員だけでなく他の機能を担当する役員も複数名委員として参画する人材育成委員会にて、より実効性ある取組みとなるように議論を行っています。 |
研究開発に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 研究開発では、技術、疾患及びオープンイノベーションを軸とした以下の戦略を立てて、画期的な医薬品の継続創出を進めています。①抗体技術の進化へ挑戦を続けることに加え、多様なモダリティを駆使して、画期的新薬を生み出すプラットフォームを築く、②グローバル戦略品であるCrysvita・Poteligeoを生み出した、これまでの疾患サイエンスを活かしつつ、有効な治療法のない疾患に、“Only-one value drug”を提供し続ける、③アカデミア・スタートアップ等との共同研究活動(サンディエゴ地区を活用した情報収集など)の継続と、ベンチャーキャピタルファンド出資などを介した情報への早期アクセスを融合することによる、進化したオープンイノベーション活動により外部イノベーションを積極的に取り込んでいます。しかしながら、長期間にわたる新薬の研究開発の過程において、期待どおりの有効性が認められない場合や安全性等の理由により研究開発の継続を断念しなければならない場合には、パイプラインの充実ができず、将来の成長性と収益性が低下する可能性があります。 |
主な対策 当社グループは、グローバル候補品等の次世代を担う新薬パイプラインを強化するために、研究開発への積極的な投資(研究開発費率18~20%を目処)を進めています。自社での研究に加え、基盤技術やパイプラインの獲得に向けた戦略的パートナリング(導入、提携等)など、産官学すべてを視野に入れたオープンイノベーション活動にも力を入れています。具体的事例として、2018年より開始した人工知能(AI)や機械学習のアプリケーションを有する米国のInveniAI社との共同研究を拡大しており、当社グループが独自に開発した次世代抗体技術に適合する新規標的探索、評価、最適化を実施中であることに加え、同社が有するAI技術プラットフォームへのアクセスも行うことで、研究開発のデジタルトランスフォーメーションを進めています。さらにベンチャーキャピタルファンド活動への出資を通じ、高機能ミトコンドリアを単離する独自技術を有するルカ・サイエンス(株)との協業を2022年から開始し、ミトコンドリア創薬技術開発を通じた、革新的な治療法の創成にも取組んでいます。また、アカデミアが有する最先端の創薬技術へのアクセスを一層強化することを目的に、東京工業大学生命理工学院との創薬技術開発を目的とした組織的連携を本年より開始しました。加えて、日本以外のグローバルでのイノベーションも取り込むため、海外のKyowa Kirin North America研究所を通じた世界有数の研究機関であるラホヤ免疫研究所(La Jolla Institute for Immunology)との連携強化、CVC(Corporate Venture Capital)活動の推進を引き続き実施しています。なお、2023年10月には英国に拠点をおく造血幹細胞遺伝子治療を専門とするOrchard Therapeutics社を買収する契約を締結しました。この買収を通じ、当社が有する創薬技術や経験と同社の造血幹細胞遺伝子治療技術を組み合わせることで、当社のビジョンであるLife-changingな価値を継続して創出するための研究開発力を大幅に強化していきます。 |
自社及びグループ会社管理に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 日本発のグローバル・スペシャリティファーマとして経営目標の実現を図るために、当社グループは、「内部統制システム構築の基本方針」に従い、当社グループのコンプライアンス、リスクマネジメント、財務報告の適正性確保等について適切な体制を構築するとともに、その運用状況を取締役会で報告し、グループのガバナンス強化に取組んでいます。これらの取組みが十分に機能しない場合、リスクの顕在化による生産活動や販売活動等の制限や停止、製薬会社としての信頼の失墜等につながる可能性があります。 |
主な対策 「リスクマネジメント」では、未来を予測し先手を打った全社的リスクマネジメントを目指し、グループ全体のリスクを一元管理するITツールを導入し、各地域と本社をつないだグローバル及び国内外各地域におけるクライシス・BCP演習の継続的な実施、中長期的に解決すべきリスク・機会であるマテリアリティの議論を通じて、新たなリスクや潜在化するリスクへの対応力向上を図っています。特にグループ及びリージョンの重要リスクについては、それぞれグループCSR委員会及び各リージョンのCSR委員会で報告・モニタリングされ、その内容はそれぞれの取締役会に報告しています。また、The Institute of Internal Auditorsが提唱する3ラインモデルに準拠し、リスクに対する適切な対応を行う体制を確保しています。 なお、コンプライアンスは「コンプライアンスに関するリスク」に、財務報告の適正性確保は「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」にそれぞれ記載しています。 |
製品品質に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 医薬品製造には、GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準)に適合した設備(ハード)と手順や人材(ソフト)が求められます。各国当局のGMP査察や社内監査において、GMP上の重大な問題が見つかった場合には規制当局より製造停止や出荷停止を指示される可能性があります。また、使用する原料や製造工程において、何らかの原因により製品の安全性や品質に懸念が生じた場合は、出荷停止や製品回収が発生する可能性があります。 |
主な対策 品質保証の機能は社長直属のグローバルQAヘッドが、グローバル品質保証委員会、定期及び臨時のグローバル製品協議会等にて、各地域統括会社から報告される重大な品質関連事項についての協議、新たな製造場所の選定における品質面からの評価、製品品質の定期的レビュー、課題別のグローバルタスクフォースの活動状況のレビュー、監査で確認された課題及びその対応状況のモニタリング等を通じて、各地域の品質保証活動に関する情報を収集・共有し、迅速に意思決定を行う体制を構築しています。また、グローバルでの独立した専門の監査チームによる自社及び委託先への品質監査の強化を図っています。さらに、膨大な品質保証業務に関する情報をグローバルレベルで適切に管理、活用し、プロセスと信頼性を継続的に改善するために、品質マネジメントシステムの電子化が完了しており、主要な品質マネジメントプロセス(教育訓練、文書管理、逸脱、苦情、是正及び予防措置、変更管理、監査、製造所管理等)の電子的管理を行っています。 なお、品質保証部門と安全性管理部門は常に密に連携しており、品質に懸念が生じた場合は患者さんへの影響を速やかに評価し、また製品の安全性モニタリングの際には常に品質による影響を考慮し、患者さんへの健康被害を未然に防ぐ体制を構築しています。 |
取引先・委託先管理に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 当社グループは、他社との共同開発、共同販売、技術提携及び合弁会社設立等の提携、又は医薬品の原料供給、製造、物流、販売等に関して国内外のサプライヤーへ業務を委託しています。しかしながら、サプライヤーにて人権、法令遵守、環境及び情報セキュリティ等の問題が発生し、提携や業務委託による成果物が得られなかった場合や提携解消等が発生した場合、成果物の品質に問題が発生した場合には、当社製品の安定供給、物流や販売等に支障が生じ、製薬会社としての信頼の失墜や売上収益の減少又は承認申請遅延等が生じる可能性があります。 |
主な対策 高品質な製品を安定して供給するために、サプライヤーとともにサステナブル調達を推進していくことを表明した「協和キリングループ調達基本方針」に沿って、サステナブル調達の推進に取組んでおり,協和キリンのサステナブル調達の取組みをご理解頂くために、サプライヤーの皆様が参加してのオンライン説明会を定期開催しています。また、社会との関係、従業員との関係、ルールの遵守、人権尊重、環境保全、情報管理、リスクマネジメントの7つの項目について、サプライヤーに理解・協力を求める事項を「サプライヤー行動指針」としてまとめ、サプライヤーとの取引に際しては「サプライヤー行動指針」に遵守することを取引契約書の条項に加えるとともに、「サプライヤー行動指針」の遵守状況を確認するためにアンケートを実施し、結果を公表しています。また、外部機関からリスク情報や信用調査情報を入手し、客観的な情報に基づく評価も行っています。取引中も同様の情報を随時取得するとともに、懸念情報があった場合にはサプライヤーに状況を確認します。また、リスク情報を入手した場合には、必要に応じてサプライヤーに是正を求めたり、サプライヤーの変更を検討したりするなど関係部署と速やかに共有し協働してリスク低減を図っています。各地域で整備された調達機能・体制にて、リスク低減の取組みを実施しており、状況をモニタリングしています。 2022年12月に制定した協和キリングループ人権基本方針に基づき、今後、人権デュー・デリジェンスの取組みも進めています。 |
情報セキュリティに関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 当社グループは、各種ネットワークや情報システムを使用しているため、システムへの不正アクセスやサイバー攻撃を受けた場合は、システムの停止や秘密情報が社外に漏洩する可能性があります。取引先がサイバー攻撃を受けた場合にも、当社グループの秘密情報や個人データの漏洩、事業活動の停止、ブランド棄損等の被害につながる可能性があります。在宅勤務の促進により生産性が向上する一方で、自宅の通信環境の利用や一人業務が増加するため、ネットワーク通信の盗聴、サイバー攻撃、メール誤送信、PC端末の紛失などのリスクが高まり、情報漏洩が発生する可能性があります。またクラウドサービスの利用増加により、外部サービス側でのセキュリティ事故(サービス自体が利用できなくなることを含む)が当社の事業継続に直接影響する可能性があります。 |
主な対策 当社グループでは、年々多様化かつ巧妙化するサイバーセキュリティ上の脅威に対する技術的な対策に加え、サイバーインシデント発生時の初動対応の処理フローや手順書をプレイブックとしてまとめる等、情報セキュリティレベルを向上するための取組みを進め、インシデント発生時における対応体制を整備しています。また、セキュリティ業界の標準的なフレームワークを利用した外部評価を定期的に実施することで、客観的なリスク評価に基づく対応計画を策定し継続的な改善を図っています。さらに取引先に対してもモニタリングを実施し、セキュリティ対策の対応状況を確認する等、各種リスク低減のための取組みを進めています。また、インシデントが発生した場合に迅速に対処して被害を最小化するための取組みとして、各地域における、ランサムウェア等のサイバー攻撃に対応するクライシス演習などを継続的に実施しているほか、従業員の情報セキュリティレベルを向上させるための、教育研修の定期的実施や、標的型攻撃メール訓練の実施、最新の攻撃手法の特徴に合わせて、コンピュータウイルスに感染しないための情報や注意点などを従業員向けセミナーやサイバーセキュリティに関する特設サイト等を通じて周知、啓発をしています。また、クラウドサービス利用の制限があることを想定したBCP整備や演習を進めています。 |
コンプライアンスに関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 医薬品の研究開発及びその製造販売や輸出入には遵守すべき各種の法令等の規制があります。また、患者さんを中心においた活動のための患者団体等との交流や、医薬品のプロモーションには各国の法規制に加えて業界の自主規範があり、製薬会社にはその遵守が強く要請されています。これらの法令等の規制や自主規範を遵守できなかったことにより、これらに基づく制裁を受け、新製品開発の遅延や中止、生産活動や販売活動等の制限や停止、製薬会社としての信頼の失墜等につながる可能性があります。 |
主な対策 当社グループではコンプライアンスを法令遵守だけではなく、社会の要請をいち早く察知かつ正しく理解し、倫理的に行動することと捉え、役員及び従業員一人ひとりがとるべき全般的な行動を「協和キリングループ行動規範」として定めています。各種法令等の規制や自主規範を遵守するための体制を構築するとともに、教育研修を継続的に実施しています。コンプライアンスの遵守状況と重要課題への対策の進捗状況については、定期的に開催される各リージョナルCSR委員会やグループCSR委員会にて議論し、継続的な改善を進めています。加えて、行動規範に反する行為や当社グループのブランド価値を著しく損ねる行為を予防、早期発見、是正するために、内部通報窓口も設けています。さらに、毎年、従業員コンプライアンス意識調査を実施し、潜在的なリスクを洗い出すとともに、回答内容の事実関係の確認や対処など初期段階でのリスクの低減を図っています。調査結果は、CSR委員会や取締役会にも報告しています。また、2021年より開始したグループコンプライアンス強化プロジェクトでは、「協和キリングループ行動規範」を補完する各グループ基本方針やグローバル製薬企業として遵守すべき各種法令等の領域をベースとした各主管部署における取組みの状況をモニタリングする仕組みや、グローバル本社を含む各リージョンのコンプライアンスプログラムに対する全社的なモニタリングの仕組みを整備しています。モニタリング結果に応じて、改善に向けた対策の実行を行うことで、グループのコンプライアンスレベルをより高めていきます。 |
自然災害に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 各地で起こりうる地震や台風等の自然災害により、当社グループの本社、工場、研究所、事業所等が閉鎖又は事業活動が停滞し、創薬研究や臨床開発の進展、製品の安定供給、安全性情報の収集、製品の情報提供等に影響が生じ、当社グループの経営成績及び財政状態等に悪影響を及ぼす可能性があります。 |
主な対策 当社グループでは、災害発生時の従業員とその家族の安全を確保するため各拠点と連携して防災計画を立て、安否確認訓練や備品の補充と点検を定期的に進めています。また、通常の事業活動が継続困難な状況に陥った場合においても、医薬品の供給、安全性の監視及び情報提供を継続するために、BCPを策定しています。超大型台風の発生、首都直下型大地震などを想定したBCP演習を実施し、演習を通して課題を抽出し、BCPの継続的な改善を進めています。2021年に制定したオールハザード型のグローバルBCPガイドラインに基づき、様々な事象に対応できるよう、各地域での事業継続体制の強化も進めています。例として、高崎工場内に免震構造を有する新たな倉庫棟の建設を予定しています(2023年10月着工、2026年1月稼働開始予定)。 |
気候変動に関するリスク |
リスクの内容、リスクが顕在化した場合の主な影響 気候変動に伴う異常気象による水害の発生が、当社の製品の安定供給や研究活動など全ての事業活動に影響を及ぼす可能性があります。さらに、将来、炭素税の導入や環境規制強化への対応等による新たなコストの発生や、温室効果ガス削減目標を達成できない場合には当社グループのブランド価値が低下する可能性があります。 |
主な対策 事業活動への影響に加え、持続可能な社会の実現に向け、気候変動(温暖化の防止)への対応は重要と捉えており、中長期的な温室効果ガス削減のためのロードマップを作成して全社で様々な取組みを進めています。中期的には、省エネの取組みと再生可能エネルギーの導入や拡大を中心に温室効果ガス削減を加速させています。2020年以降、現時点までに高崎工場、富士事業場、宇部工場、及び本社の購入電力を100%、温室効果ガスを排出しないRE100適合の再生可能エネルギーに切り替えています。 なお、宇部工場では2023年3月にオンサイトPPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)モデルによる大規模太陽光発電設備(1.47MW)が稼働すると共に、同年4月に竣工した新事務所棟は、省エネルギー対策により一次エネルギー消費量を削減した上で再生可能エネルギー等を導入し、エネルギー収支を正味ゼロにすることを目標とした建築物に与えられるZEB(net Zero Energy Building)認証を、当社グループ及びキリングループで初めて取得しています。 また、高崎工場では2022年12月に、新たな品質保証関連複合施設「Q-TOWER」が竣工しましたが、Q-TOWER建設では、工場であらかじめコンクリート部材を製作し現場で組み立てるPCaPC(Precast-Prestressed Concrete)工法を採用することにより建設時の環境負荷も低減しています。 一方、海外の事業場(協和麒麟(中国)製薬有限公司)でも、新倉庫棟建設にあたり太陽光発電設備を設置し、再生可能エネルギーの導入を促進しています。 当社グループのバリューチェーンにおけるGHG排出量(Scope3)については、GHGプロトコルに整合した環境省のガイドラインに従い15のカテゴリーに分け算定し、削減施策の初期仮説、並びにロードマップの初期案を策定しています。今後、Scope3削減に向けた中長期目標を設定すると共に、委託製造・サプライヤーと連携・協働し、削減に向けた施策を展開していきます。なお、環境パフォーマンスデータの内、特に気候変動並びに取水量については重要指標と捉えており、データの信頼性を担保するため第三者保証を取得しています。 TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)提言については賛同を表明し、気候変動が事業に及ぼすリスクと機会、及びその影響を見極め、TCFDの提言に沿って、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク・機会の管理」及び「指標と目標」の4項目について、以下のとおり情報開示しています。 |
気候変動関連の情報開示(TCFD提言に基づく情報開示)
<ガバナンス(環境課題に対するガバナンス)> 気候変動課題を含めた環境管理全般の最高責任者として、代表取締役副社長が任命されています。 気候変動におけるリスクや機会に関する課題や、環境活動方針・結果などについては、定期的に開催される代表取締役副社長を委員長としたCSR委員会のグループの環境管理における重要事項として報告・審議・決定し、その内容は、取締役会に報告しています。 なお、2020年度より環境管理統括機能を担うCSR推進部内にTCFD検討担当を設置し、気候変動におけるリスクと機会の特定、評価、対応について検討しています。 特定したリスクと機会の担当部署は、これらを定期的に見直し、CSR委員会へ付議するとともに対応の進捗を報告し、経営戦略の一環として気候関連課題に取組んでいます。
<戦略> パリ協定における「平均気温上昇を1.5℃以下に抑えた世界」を目指すとともに、気候変動に関するリスクと機会に対するシナリオ分析結果及びキリングループ環境ビジョン2050を踏まえ、当社の気候変動への対応について見直し、事業戦略に落とし込み対応を進めています。 緩和策としては、2050年までのバリューチェーン全体のGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量ネットゼロ実現に向けてSBT1.5℃目標*1に対応したCO2削減目標へと上方修正するとともに、目標達成に向けたロードマップを作成し、再生可能エネルギーの早期導入・拡大、省エネルギー、エネルギー転換などの施策を推進し、脱炭素社会への移行リスクに対応します。 適応策としては、工場・研究所の敷地内への浸水等による長期間の操業停止など、グローバルな生産活動への影響に対し、大規模自然災害に対するBCPを策定し、水害に対しては浸水防止措置や設備投資対応(生産に関する重要資産の地理的分散保管、建物の防水化、重要設備の高層・高所配置化、浸水防止壁設置など)を実施し、物理的リスクに対応します。今後、サプライチェーン全体における影響評価・対応も実施し、継続的にリスクの最小化を図っていきます。 一方、気温上昇により花粉症患者数が増加し、結果としてアレルギー薬市場に対する機会が見込まれましたが、実質的な売上収益への影響は限定的と考えています。当分野の新規開発については、経営理念に基づき医療ニーズに応えていくため、継続して検討していきます。 *1 パリ協定の水準に整合する、科学的根拠に基づいた企業における温室効果ガス排出削減目標
<気候変動に関するリスク・機会と財務影響の分析>
(分析条件)
<リスク・機会の管理> リスクと機会の特定については、リスクと機会ごとにシナリオ分析に基づき、発生時期や発生確率、影響範囲とその大きさ、対策内容などを総合的に評価し優先度合を決定しています。事業への影響が大きいものや社会的責任の高いもの、発生確率の高いもの等を特定し管理します。 なお、特定したリスクについては、その対応も含めてCSR委員会にて報告、審議・承認を得るとともに、四半期ごとに対応状況をモニタリングし、総合的にリスクを管理しています。
<指標と目標> 2021年にSBT1.5℃目標に基づく新たな2030年CO2排出量削減目標:2019年比55%削減を策定しました。また、本目標の達成に向けロードマップを作成するとともに、2021-2025年中期経営計画に組み込み、単年度ごとに目標の設定・管理を行い、施策の検討・展開を行っています。なお、2022年にはCO2排出量削減に向けた短期目標(2024年度CO2排出量削減目標:2019年比51%削減)も新たに策定しました。
なお、当社グループが所属するキリングループでは、キリングループ環境ビジョン2050に基づき、「2050年にバリューチェーン全体のGHG排出量ネットゼロ」の目標*4を掲げています。中期目標としては、GHG削減目標を2030年までに2019年比でScope1*5+Scope2で50%削減、Scope3で30%削減(SBT1.5℃目標承認取得済み)、使用電力の再生可能エネルギーを2040年に100%(RE100加盟)とすることも設定(いずれも2020年に実施)しています。当社グループにおいても、キリングループと同様に2050年にバリューチェーン全体のGHG排出量ネットゼロ、及び2040年までに使用電力の再生可能エネルギー100%化の達成を掲げ、キリングループと連携し取り進めると共にScope3排出量削減についても、継続して取組んでいきます。
なお、詳細は、当社ホームページ(https://www.kyowakirin.co.jp/sustainability/trust/environment/tcfd/index.html)をご参照ください。
*4 パリ協定が求めるGHG排出削減の水準と整合した科学的根拠に基づいた目標であるとして「SBTネットゼロ」の認定を取得。 *5 Scope1、Scope2、Scope3:組織活動に伴って発生するサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量のこと。Scope1(直接排出量)、Scope2:(エネルギー起源の間接排出量)、Scope3(その他の間接排出量)から構成される。 |
その他、国内外製薬業界の事業活動に潜在するリスクとして、知的財産権に関するリスク、副作用に関するリスク、訴訟に関するリスク、製品競合・特許権満了に関するリスク、原燃料価格の変動リスク、為替・金融市場の変動リスク、地政学リスク、カントリーリスク、感染症リスク等、様々なリスクがあります。なお、当社グループの経営成績及び財政状態等に悪影響を及ぼす可能性のあるリスクは、ここに記載されたものに限定されるものではありません。
配当政策
3【配当政策】
当社は、株主の皆様に対する利益還元を経営の最重要課題の一つとして位置付けています。
当社の利益配分に関する方針は、今後の事業展開への備えなど内部留保の充実を図るとともに、毎期の連結業績、配当性向等を総合的に勘案しながら、安定的な配当を行うことを基本としています。また、自己株式の取得につきましても、株価状況等を勘案した上で機動的に検討し、資本効率の向上を図っていきます。内部留保資金につきましては、2025年以降の持続的成長と企業価値最大化に向けた成長投資(R&D投資、戦略投資、設備投資)への充当を最優先に考えています。
配当方針につきましては、2021-2025年中期経営計画で掲げたコアEPSに対する配当性向40%を目処とし、中長期的な利益成長に応じた安定的かつ持続的な配当水準の向上(継続的な増配)を目指していきます。
当社は、取締役会の決議によって、毎年6月30日を基準日として、会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨を定款に定めており、中間配当と期末配当の年2回の配当を実施する方針としています。これらの配当の決定は、中間配当については取締役会、期末配当については株主総会で実施しています。
以上の方針に基づき、当事業年度の剰余金の配当につきましては、期末配当金を1株につき29円とし、中間配当金27円と合わせ、年間では1株につき56円とさせていただく予定です。
なお、基準日が当事業年度(第101期)に属する剰余金の配当は、以下のとおりです。
決議年月日 |
配当金の総額 (百万円) |
1株当たり配当額 (円) |
2023年8月3日 |
14,515 |
27.00 |
取締役会決議 |
||
2024年3月22日(予定) |
15,591 |
29.00 |
定時株主総会決議(注) |
(注)2023年12月31日を基準日とする期末配当であり、2024年3月22日開催予定の定時株主総会の議案(決議事項)として提案しています。