リスク
3【事業等のリスク】
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがある。なお、当社は、当社グループにおける各種リスク発生の可能性を把握し、発生の回避及び発生時に迅速・的確な対応ができるようにするための体制の確立に努めている。
また、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものである。
(1) 経営環境に関するリスク
当社では、下記①~⑤に記載する、経済、市況、金融、災害、政治・社会をはじめとした各環境変化に対して迅速な対応をはかるべく、毎月の取締役会、および四半期ごとの予算編成会議において、各事業部門からの報告に基づいて対応策の議論と意思決定を行い、また、経営計画における指標や財務状況の適時・適切な見直しと開示に努めている。
①経済動向および製品市況の動向
当社グループ製品の事業展開エリアである日本、北米、欧州、アジアなどでの経済環境の動向や、モビリティ、エレクトロニクス、住宅、建築、インフラなどの市場の動向は、当社グループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性がある。
具体的には、世界的に収束に向かっているとみられるCOVID-19の感染状況や、ロシアのウクライナ侵攻を契機とした原燃料価格の高騰、そこから波及した世界的な物価高は、消費マインドを減退させているが、今後の状況によって、当社グループの業績にも影響を及ぼす。
事業別に見ると、高機能プラスチックスカンパニーの事業のうち、モビリティ分野の事業が対象とする市場は、グローバルな自動車産業や航空機産業の景況・需要動向の影響を受けやすく、エレクトロニクス分野の事業が対象とする市場は技術的な進歩が速く、また需要の変動も大きく、短期間に需要が縮小する場合もある。それらのリスクへの対応として、サプライチェーンのコスト革新に継続的に取り組み、またR&Dセンター強化検討や新技術・M&A候補の探索を進めている。また、住宅カンパニーの事業では、国内の住宅取得に関する政策や税制、金利動向および個人消費や各エリアの経済動向の影響を受けるが、エリア別の商品戦略を取ることでリスクを低減している。また、建設業就業者数が減少傾向であることから必要な労働者を確保できず工期の遅れや労務費の上昇に繋がるリスクがある。その対応として、ユニット住宅の生産工場内の物流効率化等の生産革新計画を進めており、また現地での施工工数削減についてもテーマ化し研究を進めている。環境・ライフラインカンパニーの事業は、官公庁との取引を含むため、政府および地方自治体の政策によって決定される公共投資の動向による影響を受ける可能性がある。更に住宅、非住宅の着工戸数の動向にも影響を受ける可能性があるが、それらの対応としてエリア(国内/海外)や顧客(公共/民間)等のポートフォリオを組み、管理していくことでリスク分散している。ライフサイエンス分野の事業では社会環境変化等を背景とした医療制度改革に影響を受ける可能性があるが、その対応として事業領域の拡大や新製品開発に注力することでリスクヘッジしていく。
また、当社グループ全体としても、事業の多角化や展開地域のグローバル化等によりリスクをヘッジしているが、製品需要が大きく変動した場合、業績に大きな影響を及ぼす可能性がある。
②原材料の市況変動及び調達
当社グループの生産活動に使用される鉄鋼、木材、塩化ビニル・オレフィン等石油関連の原材料の価格は、世界各国の経済環境や需給バランスの変動による供給の逼迫や遅延、供給国の通商政策の影響を受ける。また、一部の希少な原材料については、安定調達に関わるリスクがある。
急激な原材料価格の高騰は、生産コスト上昇につながり、また、希少原材料の需要動向やサプライヤでのトラブルは当社グループの製品供給に支障をきたす可能性がある。
当社グループでは、原材料調達ソースの多様化等により、安定的な調達に努めるとともに、原材料価格の上昇に対しては、継続的な原価低減施策を行うと同時に、製品の付加価値を高め、必要に応じて販売価格の改定を行い、それらのリスクをヘッジしているが、価格変動が大きな場合等は、業績に大きな影響を及ぼす可能性がある。
③為替・金利・保有資産価格の変動
当社グループは、グローバルに事業展開しており、2024年3月期の海外売上高比率は30.8%となっている。そのため、外貨に対する円の価値変動は、外国通貨建ての取引や、在外連結子会社等の財務諸表項目の円換算額に影響を及ぼす可能性がある。外国通貨建ての取引では社内為替レートを使用しているが実勢の乖離を回避すべく、四半期ごとに米ドルおよびユーロの社内為替レート見直しを行っている。また、現在の事業展開と規模において、乖離が出た際の営業利益への影響額は1円/米ドルにつき約5億円、1円/ユーロにつき約1億円と認識して開示している。
また、金利の変動は、当社グループにおける受取利息・支払利息の増減や、住宅事業の需要に影響を与える可能性がある。
当社グループが保有する土地などの不動産、その他棚卸資産や有形固定資産、のれんなどの無形固定資産、投資有価証券等の投資その他の資産についても、市場環境や経営環境の変化により減損処理が必要となるリスクがある。
これらによって、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。
④大地震、自然災害等
当社グループの事業拠点における大地震・津波等の自然災害および感染症の蔓延等の発生に伴い、当社グループの事業活動の中断などのリスクが存在する。
それに伴い生ずる社会的信用の失墜、補償等を含む産業事故災害への対応費用、生産活動の停止による機会損失および顧客に対する補償等により、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。
⑤政治・社会
当社グループは成長戦略の1つとしてグローバル展開を進めており、現在は22ヵ国に拠点を構え、生産および販売活動を行っている。
海外における事業活動では、世界経済全体の動向に加え、テロ・戦争などの政治的混乱、関税報復措置、予期しない政策・法律・規制の変更、税制改正、産業基盤の脆弱性、自然災害、感染症、人種差別、不買運動その他の要因による社会的または政治的混乱のリスクが存在する。
これらのリスクが顕在化した場合、当社グループの海外での事業活動に支障が生じ、当社グループの業績および将来計画に影響を与える可能性がある。
当社グループは米国・欧州・中国・ASEANの4か所に地域統括会社を設置し、当社グループが拠点を構える各国の経済・社会・政治的状況や、各国法規制の動向について情報を収集している。
また対応が必要な事象が生じた際には、当該グループ会社、地域統括会社および日本本社の専門部門が連携して適宜対応している。
(2) 業務リスク
積水化学グループでは、当社の持続的な成長および企業価値を毀損する可能性のあるリスク項目のうち、特に重大なものを全社重大リスクとして位置づけ、領域別の各分科会、サステナビリティ委員会、取締役会を経て、対応方針と施策を決定し、各部署の実行計画に落とし込んでいる。また、当社のサプライヤに対しても「持続可能な調達」調査の実施などにより、責任あるサプライチェーンを構築し、持続可能な調達の実現・維持に向けて取り組んでいる。
①安全・衛生、産業事故
当社グループの工場および研究所における周辺地域に影響する大きな産業事故(火災や爆発、有害物質漏洩等)、それに伴い生ずる社会的信用の失墜、補償等を含む産業事故災害への対応費用が発生するリスクが存在する。
当社グループでは、火災や爆発、有害物質漏洩等の産業事故の未然防止に向けて、自然災害も想定した各生産拠点でのリスクマネジメント活動によるリスク抽出と対応を行うとともに、本社の専門部門による実地監査と是正指導(設備本質安全化等)をグローバルで定期的に実施している。
あわせて海外においては、海外危機管理事務局が中心となって地域統括会社とともに自然災害を含む危機管理情報の共有やタイムリーな注意喚起等を行っている。
②製品、品質
当社グループでは品質に万全を期すための品質保証・向上の取り組みを継続している。
しかしながら、それらにも関わらず、重大な製品事故が発生した場合、製品に対する安全性・環境問題・各国法規制対応等に疑義が持たれた場合、知的財産に係る紛争が生じ当社グループに不利な判断がなされた場合等において、商品の回収や製造中止およびこれらに伴う補償や顧客からの信頼を失うリスクがある。
これらのリスクが顕在化した場合には、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。
当社グループは、お客様に継続的に選択していただける価値を常にお届けする「CS 品質経営」に取り組んでいる。「重要品質問題ゼロ」を当社グループの重要指標の1つとして設定し、商品化後に起こりうる品質リスクの開発段階での事前予測による品質問題の発生の未然防止、製造部門が実行すべき日常の管理の基本的指針の徹底など、バリューチェーン全体で一貫した品質管理を行い、そのレベルの向上を図っている。
また、当社グループでは、技術の「際立ち」を最大限に活かすために知的財産戦略を重視し、強い特許の獲得による事業競争力確保を目指しているが、あわせて他者の知的財産を侵害しないよう調査を行うとともに、知的財産侵害に対する回避・予防策などの適切な措置をとっている。
③コンプライアンス
当社グループは事業の遂行にあたり、様々な法規制の適用を受けている。
これらの法規制の改正や予期しない法規制の導入等に起因した違反事案や、業績目標達成のプレッシャー等に起因した不正等の重大なコンプライアンス違反事案が発生した場合、その対応に要するコストに加え、顧客からの信頼を失い、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。
当社グループでは、2003年に「コンプライアンス宣言」を制定し、「社会への貢献」「信頼される企業」「法やその精神の遵守」などの考え方を基本として、当社グループの理念体系や企業行動憲章に掲げられた精神に則り、コンプライアンスを通じて社会から高い信頼を獲得する姿勢を明確にしてきた。2020年10月には、当社社長加藤のもと、当社グループにとって成長の基盤となるものがコンプライアンスであり、役員・従業員(一人ひとり)が社会常識に反する行為をせず、高い倫理観と責任感を持った行動をとることを宣言している。
また、取締役会において、「コンプライアンスに関する基本方針等」の審議を行うとともに、当社および当社グループ会社におけるコンプライアンス体制の構築および実践を図ることを目的として、社長が委員長を務めるサステナビリティ委員会の専門分科会として「コンプライアンス分科会」を設置し、コンプライアンスに関する重要事項の企画、検討及び決定を行っている。さらに、本社の専門部門による監査と是正指導をグローバルで定期的に実施している。
当社グループが広く社会から信頼されるよう、コンプライアンス意識の向上に今後も取り組んでいく。
④情報管理
当社グループは、生産、販売、研究開発、調達、会計などのビジネスプロセスにおいて、ITを効率的に活用する一方で、ITシステムへの依存度は高くなっている。また、これらビジネスプロセスの機密情報に加え、住宅事業ではその特性上、多くのお客様の個人情報を取り扱っている。
そのため、サイバー攻撃や停電、自然災害、機器やソフトウェアの障害・欠陥等に伴う事業の中断や損害賠償の発生、個人情報や高度な技術情報を含む機密情報の漏洩等のリスクが存在する。これらのリスクが顕在化した場合、当社グループの事業活動に支障が生じ、当社グループの業績および財務状況に影響を与える可能性がある。
当社グループでは、指針となる「情報セキュリティ方針」を制定の上、対応強化のためにCSIRT(シーサート、Computer Security Incident Response Team)を設置し、システム上でインシデント発生の有無を常時監視するとともに、万一の発生時には適切な対応と再発防止を図る体制を整備し、従業員教育による人的な情報漏洩の未然防止も図っている。
また、大地震などの自然災害等による基幹システム停止リスクに対しては、データセンターの複数か所への分散設置、重要業務システムの完全二重化等の対策を講じている。
更に、より機密性の高い特定の事業においては、関係省庁のサポートを受けながら情報管理を推進している。
⑤気候変動・環境問題
気候変動や、資源枯渇、水リスク、海洋プラスチックごみ等は社会の共通課題であるとの認識が世界で共有される中、環境保護を後押しする政策や規制への対応の遅れは、炭素税等によるエネルギー調達コストの上昇、製品の低炭素化に必要な材料の調達難、社会からの信頼の喪失・レピュテーションや競争力の低下につながり、財務状況に影響を与える可能性がある。
当社グループは、環境や社会の課題解決に寄与することで地球および社会のサステナビリティを向上するサステナビリティ貢献製品の創出・認定とその市場拡大、温暖化対策としての2030年までの購入電力の100%再生可能エネルギー化、燃料使用設備の電化や低炭素燃料への転換、非化石由来および再生材料の使用拡大、廃棄物の再資源化などにサプライヤとも連携してサーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいる。また、海洋プラスチック問題を解決するための企業イニシアティブの「CLOMA※1」や「JaIME※2」にも参加するなど、産官学での連携を通じ、同問題の解決を促進する活動も行っている。
※1 経済産業省と農林水産省が主体となる海洋プラスチックに対処する企業イニシアティブ
※2 日本化学工業協会が主体となる海洋プラスチックに対処する企業イニシアティブ
⑥人的資本
当社グループは長期ビジョンにおいて、2030年の貢献量倍増を目指し、戦略的創造による成長の加速と現有事業の強化を推進している。一方で、採用競争力の低下や離職の増加、挑戦機会やマネジメント経験の不足、労務構成の偏りや事業ニーズにスキルが適合しない場合等、人的資本の不足によって事業計画の未達や想定する成長スピードが実現できない可能性がある。
これを解消すべく、「挑戦する風土の醸成」「適所適材の実現」「ダイバーシティの実現」を推進している。人材公募制度などの挑戦機会の提供やキャリア自律に向けた風土づくり、ビジネスリーダー候補者の早期育成と抜擢や高度専門人材の確保と事業ニーズに即したリスキル、多様な人材の活躍推進と健康で安心して働ける環境整備、これらに取り組むことで、長期ビジョンを実現するサステナブルな組織を目指している。
(3) 戦略リスク
第三者との提携や合併・買収、およびR&D活動を通して新規事業への参入を模索する可能性があるが、その取り組みが成功しないことや想定以上に期間がかかるといったリスクが存在する。また、新規事業への参入が成功した際にも、当該市場における新たな経営環境リスクが発現することが考えられる。
(4) リスクの特定、管理体制
積水化学グループでは、専門領域別および海外地域別にリスク情報を網羅的に収集し、「起こりやすさ」と「インパクト」「バリューチェーン上における波及効果」の3軸で評価を行っている。その結果を踏まえ、各専門領域の管掌役員による全社リスク検討部会において一元的評価を行い、全社重大リスクを特定している。これらリスクの発現を未然に防止する活動(全社リスク管理:ERM)と、リスクが顕在化した時に対応する活動(危機管理)を一元的に管理するリスクマネジメント体制を推進しており、この一元化により、組織の状況に応じて、常に変化するリスク危機に適応できる体制を構築している。
また、万一の災害、事故等の発生時においてグローバルでの早急に把握する緊急連絡網の体制を構築するとともに、適切な初動対応のための従業員教育を強化している。
配当政策
3【配当政策】
当社は、企業価値を増大させ、株主への利益還元を積極的に行うことを経営上の重要課題の一つと位置づけている。株主還元については、2023年度の剰余金配当等の基本方針として、連結配当性向40%以上、DOE(自己資本配当率)3%以上、総還元性向は50%以上(D/Eレシオが0.5以下の場合)を確保し、業績に応じ、かつ安定的な配当政策を実施していく、としている。
当社は、中間配当と期末配当の年2回の配当を行うことを基本方針としており、これらの配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会である。
当事業年度の期末配当については、1株につき普通配当39円とする旨、2024年6月20日開催の第102回定時株主総会において決議された。これにより、中間配当35円を含めた当期の年間配当金は、1株につき74円となる。
また、内部留保資金の使途については、将来の企業価値を高めるために必要不可欠な研究開発、設備投資、戦略投資、投融資等に充てる方針である。
なお、当社は、会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨を定款に定めており、当事業年度の剰余金の配当については以下のとおりである。
決議年月日 |
配当金の総額(百万円) |
1株当たり配当額(円) |
2023年10月30日 |
14,928 |
35 |
取締役会決議 |
||
2024年6月20日 |
16,478 |
39 |
定時株主総会決議 |