2024年12月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の投資判断上重要であると考えられる主要な事項を以下に記載しております。ただし、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ない、又は重要と見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。

なお、当社グループは、グループの持続的成長と価値提供のための重要課題としてマテリアリティを策定し、2023年8月に公表しております。マテリアリティに関する詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご覧ください。後述のとおり、公表したマテリアリティも念頭においた当社グループの全社的リスク評価(Enterprise Risk Assessment、略称ERA)を新たに2024年に実施いたしました。

また、本項に記載した将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

当社グループのリスク管理体制

当社グループでは、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要」に記載のコーポレート・ガバナンス体制図にあるコーポレート・ガバナンス体制の下、リスク管理を所管するグループリスク委員会を設置してERM(Enterprise Risk Management: 全社的リスクマネジメント)のアプローチを基軸に、グループ経営上重要なリスクを識別・評価し、そのリスクの顕在化の予防及び顕在化した場合の影響の最小化のため、リスク対応の責任者となるリスク・スポンサーを選定し、リスク対応計画の策定と実施を委任しております。対応すべきリスクとその評価は、グループリスク委員会で定期的に見直しその対応状況とともにグループ・マネジメント・ボードならびに取締役会に定期的に報告しております。

2024年より、グループリスク委員会によるOne dentsuとしてのガバナンス強化を目的に、日本、Americas、EMEA、APACの4リージョンCEOも新たにグループリスク委員会の委員に加えました。また、グループ・マネジメント・チームから新たにグローバル内部統制&リスク責任者を任命し、リスク管理活動を強力に推進しております。さらに、グループリスク委員会傘下に、海外3リージョンにリスク&コンプライアンス委員会、日本にリスク委員会を設置し、グループリスク委員会がグループ横断的にリスク管理を統括できる体制を整備しております。

 

主なリスク項目とその対応策

当社グループでは、2024年に実施したERAの一環として、グローバルCEO、グローバルCGO/CFOをはじめとするグループのリーダー、リージョン・主要マーケットのリーダー、社外取締役へのリスクに関する広範なインタビューを行い、そこから得た洞察をグループリスク委員会及びグループ・マネジメント・ボードで検討し、重要と判断するリスクの一覧であるリスク・レジスターを更新いたしました。

 また、グループリスクの網羅性をより確実なものにするために、用語整理を含めたリスクの体系化も同時に行いました。本項では、当該体系に基づき重要であると考えられる主要なリスクを記載しております。

 

(1) 戦略リスク

当社グループは、戦略リスク領域として「事業開発と成長リスク」、「事業変革リスク」、「サステナビリティ・リスク」を識別・評価・対応しております。具体的には「競争力・長期戦略」、「事業変革」、「サステナビリティ目標の未達」などに係るリスクがあります。

 

 

① 競争力・長期戦略

 2025年2月、当社グループは中長期に渡る成長を実現していくための基本的な方針として、2025年度から2027年度までの3年間を対象とした「中期経営計画」を策定し、公表しました。本計画においては、競争優位性及び収益性の回復を目標として掲げており、その実現に向けて、事業戦略のフォーカス、経営基盤の再構築、不振ビジネスの見直しに取り組みます。当社グループがまず着手する取り組みは、不振ビジネスの見直し・事業モデルの再構築を中心とした収益成長力の回復です。併せて、経営基盤の見直しを行い、計画的かつ持続的なコスト改善に取り組みます。

 当社グループは各マーケットにおける顧客のグロースパートナーとなることを目指してまいります。そして、この成功を積み上げることでグローバル全体での成長を実現していきます。そのために、マーケット、顧客及びケイパビリティの各戦略を更新し、当社グループの競争力を明確化した上で、事業戦略のフォーカスを加速してまいります。

 さらに、将来の柱となる事業創出の取り組みも並行して進めます。その一環として、これまで主に日本事業の下でビジネスを行ってきたスポーツ&エンターテインメント事業をグローバルに展開し、非連続的な成長を目指します。

 しかしながら、業界内外でのメディアプラットフォームなど巨大プレーヤーの台頭やテクノロジー企業・コンサルティング企業他によるAI等への巨額の投資など、競争環境の激化等によって当社グループのポジションも相対的に変化していくことが想定されます。このような環境下において、当社グループが競争力を維持できず、戦略目標や財務目標を達成できない場合、既存顧客の維持や新規顧客獲得に影響が出ることにより、市場シェアの喪失、協賛権・放送権並びにコンテンツのブランド価値の低下、財務上の損失につながる可能性があります。

 

② 事業変革

 当社グループは、事業・競争環境の急速な変化に対応するため、事業変革を推進しております。2024年1月より、顧客企業に提供するサービスと価値を、グローバルに効率的かつ迅速に最大化するための事業管理モデル「One dentsu オペレーティング・モデル」を導入し、意思決定の迅速化、責任の明確化、権限委譲を可能にする簡素化された組織構造への変革を進めております。

 しかしながら、同事業変革が想定どおりに進まなかった場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、事業環境や構造改革の変化に対応できなかった場合、内部統制の脆弱化、管理体制の不備が顕在化するリスクがあります。

 

③ サステナビリティ目標の未達

 2024年に当社グループの「2030サステナビリティ戦略」は、当社グループを取り巻く事業環境やサステナビリティに関わる世の中の状況・認識の急速な変化に対してOne dentsuとしてより能動的に対応し、社会やステークホルダーに対する責任を果たしていくことを目的に、「人」、「地球」、「イノベーション」の3つの重点領域にわたって、5つのマテリアリティ(「企業倫理とコンプライアンス/データ・セキュリティ」「DEI」「人的資本の開発」「気候変動へのアクション」「イノベーションに導くリーダーシップ」)を反映したアップデートを行いました。

 「2030サステナビリティ戦略」の進捗と、5つの重要課題への取り組みの状況は、年4回開催されるグループサステナビリティ委員会を通じて管理し、全てのアクションプランとKPIが達成されるよう、委員会メンバーと担当部門は連携して推進しています。2024年より、気候変動リスクへの対応をはじめとする「2030サステナビリティ戦略」の実行を統括するグローバル・チーフ・サステナビリティ・オフィサーを任命いたしました。

 しかしながら、社会・経済の外部環境要因などにより、これらの目標達成が計画どおりに進捗しなかった場合、当社グループのレピュテーションなどに悪影響が生じる可能性があります。

 

 

(2) オペレーショナル・リスク

当社グループは、オペレーショナル・リスク領域として「ガバナンスと監督リスク」、「第三者に係るリスク」、「レジリエンス・リスク」、「人的資本リスク」、「データ管理リスク」、「テクノロジー・リスク」、「情報セキュリティ・リスク」を識別・評価・対応しております。具体的には「人財の獲得、開発、維持」、「エンタープライズ・テクノロジーの統合及び導入」などに係るリスクがあります。

 

① 人財の獲得、開発、維持

 当社グループは、創業以来一貫して「人が資本」の企業であり、創造力と実行力に長けた多様な人財こそが持続的な企業価値向上の源泉です。そのため、必要な人財を十分に獲得、維持できない場合、顧客への高度なサービス提供ができずに当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは「People Discussion」と呼ばれる人財についての議論の場を設定して、人財の可視化を行うとともに、そのポテンシャルを最大化すべく、グローバル/ローカルのさまざまな環境で自身をストレッチできる機会、スキルや視野を広げるプログラムを戦略的に提供しています。また、当社グループらしいリーダー像を定義した「dentsu Leadership Attributes」を人財マネジメントのバックボーンとして設定・活用し、リーダーシップについてのあるべき育成投資を行います。

 人財獲得については特に人財流動性の高い海外市場において注力しており、採用業務の効率化と精度向上を目指したテクノロジー活用を進めています。これにより、募集から採用までの期間短縮などの成果も現れています。上級職の採用に特化した専門チームを設置し、コストを抑えつつ社内に専門知見を蓄積する活動も進めています。「人的資本の開発」は、当初グループのマテリアリティの1つでもあります。

 

② エンタープライズ・テクノロジーの統合及び導入

 当社グループは、2024年1月に導入した事業管理モデル「One dentsu オペレーティング・モデル」によって、ビジネス・オペレーションとエンタープライズ・テクノロジーの強化及び高度化を目指しています。これらは、組織の簡素化と統合の実現(部門の垣根をこえた協働を可能にすることで、オペレーショナル・エクセレンスを実現する組織の構築)とスピードの向上(ITインフラへの投資と拡張を実現することで、俊敏で柔軟性のある組織を実現)を推進する鍵となります。

 しかしながら、適切なテクノロジーソリューションへの投資が実行できない場合、また、グループとしてのITマネジメントが適切に実行できない場合、業務の管理及び事業の成長に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 情報セキュリティ、サイバーセキュリティに係るリスク

 当社グループは、その業務遂行の過程で、顧客の未公開の商品・サービスや事業に係る情報を受領することが頻繁にあります。当社グループでは情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格を取得するなど、情報管理には万全を期しておりますが、仮に情報漏えい等の事故が発生した場合、当社グループに対する信頼が損なわれ、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、想定外の外部サイバー攻撃、従業員又はサプライヤーによって、重大なビジネスシステム及びデータの機密性、完全性又は可用性が脅かされ、その結果、重大な運用・規制・財務・レピュテーション上の問題、又は顧客への影響が生じる可能性があります。

 当社グループでは、セキュリティ・リスクへの対応を確かなものとするため、国内・海外のネットワークのセキュリティ部門を束ねるグループ・セキュリティ機能を設けて、進化する脅威の重大性を継続的に評価し、ERMアプローチに沿ったリスク管理・統制の有効性評価を行っております。

 

 

④ 個人情報等に係るリスク(データ・ガバナンス)

 当社グループは、その業務遂行の過程で、顧客にとってのエンドユーザーに関する個人情報を受領することがあります。また、顧客からエンドユーザー一人ひとりにカスタマイズしたマーケティング・コミュニケーションへの要求が高まる中、パーソナルデータを利活用した商品・サービスを開発して顧客企業に提供しております。

 当社グループは、国内・海外を問わず、個人情報保護法及びEU一般データ保護規則等の法令又は諸規制を遵守し、これら法令又は諸規制の改定に迅速に対応しております。また、グループ共通の「グローバルデータ保護原則」を制定しており、現時点においてこれらの法令又は諸規制が当社グループの事業に悪影響を及ぼすことは想定しておりません。

 しかしながら、仮に個人情報の漏えい等の事故が発生した場合、当社グループの信頼性が損なわれ、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、今後、これら法令又は諸規制が改定され、倫理的な観点から、当社グループのパーソナルデータの利活用に何らかの制限が課され、商品・サービスの一部を顧客企業に提供できなくなった場合、当社グループの事業に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) コンプライアンス&法務リスク

当社グループは、コンプライアンス&法務リスク領域として「コンダクト・倫理リスク」、「クライアント契約の遵守に係るリスク」を識別・評価・対応しております。具体的には「企業文化」、「コンプライアンス」などに係るリスクがあります。

 

① 企業文化

 当社グループの人財は、一歩先のより良い社会を創りだすことにモチベーションを見出します。

顧客企業やステークホルダーの皆さまとともに、「人が生きる喜びに満ちた活力ある社会」の実現を目指してイノベーションを進めていく企業文化は、当社グループのDNAであり、世界中のチームに浸透しています。

 しかしながら、人財を管理するリーダーたちが自らの責任を果たさない、人的資本に関する適切な経営を実行しない、「倫理」や「インテグリティ」を企業価値のトップに据えて適切な社内浸透を図らない等の場合、当社グループの企業文化が損なわれ、従業員のモチベーションや生産性に悪影響が生じる可能性があります。

 

② コンプライアンス

 当社グループは、当社グループのマテリアリティ及び「2030年サステナビリティ戦略」において、「企業倫理とコンプライアンス/データ・セキュリティ」を重要課題に掲げ、「インテグリティを最優先に仕事に取り組む」ことをこの課題に対応するゴールイメージとしております。社会をはじめすべてのステークホルダーに対して、企業倫理とコンプライアンスを順守し、インテグリティを実践することは、当社グループが企業活動を行う上での大前提です。

 しかしながら、故意又は過失不注意により、当社グループの事業において法規制や会社方針を無視する、或いはこれに違反した行動が発生した場合、当社グループのレピュテーションが低下し、企業価値を著しく損なう可能性があります。

 

③ 訴訟等に係るリスク

 当社グループ会社が広範な領域にわたり遂行している事業は、国内・海外問わず、政府機関・顧客・媒体社・協力会社等から調査・訴訟・メディア監査等に基づく請求・課徴金等を受けるリスクを内包しております。

 当社グループでは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会関連事案に関して、2023年5月15日に「dentsu Japan改革委員会」を設置し、意識行動改革に取り組んでまいりました。そして、2023年5月よりdentsu Japan改革委員会の下で進めてきた再発防止のための17施策については、2024年12月18日に全ての施策を完了しました。2025年1月からは、インテグリティを最優先する組織風土の定着、高いレベルでのコンプライアンスの徹底などを目的に、これまでの取り組みを発展させ、「意識行動改革プロジェクト」を推進しております。

 

 

(4) その他外部リスク

① 景気変動及び社会的変革に伴うリスク

 当社グループの業績は、景気によって主要な顧客である企業からの予算が増減されることが多いため、景気変動の影響を受けやすい傾向があります。世界経済は緩やかな回復基調にあるものの、地政学上のリスクの顕在化やインフレ再燃懸念等により、未だ不確実な状況にあると言わざるを得ません。

 また、2020年以降のコロナ禍の影響は、経済面に留まらず、生活者の意識と行動様式の変化を加速させ、より個人化された体験が重要になっております。企業も、D2Cコマースのチャネル構築やデジタルトランスフォーメーションの実装、生成AIの活用など企業活動の本質的な転換が迫られる中、当社グループへの顧客のニーズは、従来の広告・コミュニケーション領域を超えて高度化・複合化しており、データとテクノロジーを活用した顧客体験の設計や体験価値の向上に拡大しております。これらのニーズに当社グループが適切に対応できない場合は、中長期的な事業成長に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

② 災害、事故並びに地政学に関わるリスク

 当社グループが事業を遂行又は展開する地域において、自然災害、電力その他の社会的インフラの障害、通信・放送の障害、流通の混乱、大規模な事故、伝染病の爆発的な流行、戦争、テロ、政情不安、社会不安等が起こった場合、当社グループ又は当社グループの取引先の事業活動に悪影響を及ぼし、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、リージョン・マーケット等で想定される上記の問題に対し、クライシス・マネジメントや事業継続計画(BCP)を定期的に検討しております。

 

配当政策

 

3 【配当政策】

(1) 配当の基本的な方針

当期においては、安定性を重視しつつ、連結業績動向、財務状況等を総合的に勘案し、配当額を決定しました。

当社グループを取り巻く外部環境については、業界内外において巨大なプレーヤーが台頭し、その競争環境は活発化しています。また、コンサルティング会社及びテクノロジー企業は、AI等の領域を中心に巨額の投資を行っており、その動きは隣接業界にも及び、競争環境や事業環境に大きな変化が予測されます。このような変化を踏まえ、2027年度を最終年度とする中期経営計画では、力強いオーガニック成長に回帰することを目的とし、事業のコアとなる当社グループの強みを改めて見直した上で、戦略的に重要なマーケットにおいて、より選択と集中に特化した差別化戦略を推進していきます。また、経営基盤の再構築を行い、持続的な収益性回復を図ります。これらの活動を通して得られる利益の適切な配分と本源的な企業価値の向上を通じて、株主の皆様への利益還元に努めることとし、2025年度以降の配当方針としては、基本的1株当たり調整後当期利益に対する配当性向を35%とする所存です。但し、2025年度の1株当たり配当金につきましては、上記方針に基づきつつ、競争力及び収益性の回復のための投資が先行する過渡期である点に鑑み、一時的措置として当期と同額の年間配当金139.50円を維持する予定であります。

 

(2) 当期における配当の回数についての基本的な方針及び配当の決定機関

当社の剰余金の配当は、中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としております。配当の決定機関は、中間配当に加え、期末配当についても取締役会であります。

 

(3) 当期の配当決定に当たっての考え方

当期期末配当につきましては、安定性を重視しつつ、連結業績動向、財務状況等を総合的に勘案し、2025年2月14日開催の取締役会において、1株当たり69.75円と決議しております。この結果、中間配当金として既に1株当たり69.75円をお支払いしておりますので、年間の配当金は1株当たり139.50円となります。

 

(4) 内部留保資金の使途

内部留保資金については、2027年度を最終年度とする中期経営計画において、2025年は不振ビジネスの見直しと、経営基盤の再構築による収益性の回復に集中するため、競争力及び収益性の回復のための投資に係る資金活用が見込まれます。

 

当社は、取締役会の決議によって、中間配当及び期末配当を行うことができる旨を定款に定めており、中間配当を行う基準日は6月30日、期末配当を行う基準日は12月31日といたしております。

 

(注)基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は、以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額
(百万円)

1株当たり配当額
(円)

2024年8月14日

取締役会決議

18,193

69.75

2025年2月14日

取締役会決議

18,105

69.75

 

(注)1.2024年8月14日開催の取締役会決議による配当金の総額には、役員株式報酬信託に係る信託E口が保有する当社株式に対する配当金62百万円が含まれておりません。

2.2025年2月14日開催の取締役会決議による配当金の総額には、役員株式報酬信託に係る信託E口が所有する当社株式に対する配当金62百万円が含まれておりません。