リスク
3 【事業等のリスク】
リスク管理の枠組みおよびガバナンス
当社の事業運営は、現在および将来において様々なリスクにさらされており、これらのリスクは、当社の業績、財務状況、キャッシュ・フローおよび長期戦略に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社は、リスクと機会は本質的に相互に関連しており、同一の戦略的検討事項の異なる側面を示すものであると認識しています。この認識に基づき、当社は、戦略目標およびサステナビリティに関する目標達成に伴う不確実性の低減を図りながら、患者さん、人材、資産および当社の社会的評価を保護しつつ価値創造を追求する観点から、十分な情報に基づくリスクベースの意思決定を行うよう努めています。
当社のリスク管理の取り組みは、グローバル ビジネス レジリエンスの枠組みの一部を構成する全社的リスク管理(「Enterprise Risk Management:ERM」)プログラムを通じて運用されています。本枠組みでは、積極的なリスクの特定、適切なエスカレーション、ならびに事業中断の際の迅速な対応および復旧を可能とするべく、ERMを事業継続管理および危機管理と統合しています。
(ERMフレームワークの概要)
当社のグローバルERMプログラムでは、当社の戦略との整合性を有する相互に関連したポートフォリオとしてリスクを包括的に評価するとともに、主要なリスクの特定、評価、優先順位付け、低減、モニタリングおよび報告を行うための体系的な手法を適用しています。
ERMフレームワークの中核的要素は以下の図表のとおりです。
本フレームワークは、下記の5つの中核的要素によって支えられています。
当社は、適切なガバナンス、企業文化、ツールおよびテクノロジーを活用しながら、これらの要素により、組織全体の意思決定プロセスにリスク管理の考え方が組み込まれることを確保しています。
(ガバナンス体制)
当社は、適切なリスクの責任主体への帰属および監視を確保するため、経営陣、ビジネス&サステナビリティ・コミッティー (「BSC」)、リスク・サブコミッティー(「RSC」)、タケダ・エグゼクティブチーム(「TET」)ミーティングおよび取締役会による定期的なレビューを含む、明確なガバナンス体制、役割分担および責任を組織全体において定めています。
ERMプロセス全体は、グローバルジェネラルカウンセルが統括し、取締役会は主要なリスクの監視およびリスクの優先順位付けのレビューを行っています。BSCおよびRSCは、リスク低減計画および新たに顕在化しつつあるリスクの動向について全社的な観点から監視を行います。また、TETを含む経営陣は、それぞれの責任領域におけるリスクの特定および低減に責任を負っており、リスク・コーディネーターは実施およびエスカレーションのプロセスを支援しています。
ERMプログラムの継続的改善および主要リスク
当社は、変化するリスクを適時かつ効果的に特定および評価し、これに対応する能力を強化するため、ERMプログラムの高度化に継続的に取り組んでいます。具体的には、地政学的動向や規制の動向およびサステナビリティ関連の動向を含む外部環境を踏まえた視点の強化、一貫したリスクの特定、エスカレーションおよび意思決定を支援するためのリスク許容度の概念の明確化、リスクおよびその低減策に対する管理の強化、ならびにリスク意識の企業文化および日常業務へのさらなる浸透等を行っています。
また、当社は、リスクの透明性、機能横断的な整合性および経営陣による監視を高めるために、全社的リスク評価プロセスについても継続的に強化しています。当社は、堅実なガバナンス、より明確な説明責任、ならびにデータおよびテクノロジーの効果的な活用を通じて、リスク管理実務の質および一貫性のさらなる向上を図っています。
さらに、当社は、情報が限定的な段階であっても、経営陣への報告チャネルやその他の報告手段を通じて潜在的なリスクを早期にエスカレーションすることを従業員に奨励しており、これにより、新たなリスクの予見的な特定および低減を促進しています。
しかしながら、当社は継続的にリスク管理の高度化に努めているものの、リスクを完全に排除することはできません。グローバルに事業を展開する当社を取り巻く事業環境は非常に流動的かつ複雑であり、不確実性や予期せぬ事象が今後も発生する可能性は否定できず、また、当社の低減策によって常にリスクを完全に低減できるとは限りません。
以下では、当年度末現在において、当社が重要と認識している主なリスクを記載しています。なお、以下に記載したリスクは、当社が直面する可能性のあるすべての潜在的なリスクおよび不確実性の全部を必ずしも網羅するものではありません。現時点で当社が認識していない、または重要ではないと判断している追加的なリスクや不確実性も、当社の事業に悪影響を及ぼす可能性があり、投資家が投資判断を行う際の考慮要素になる可能性があります。
(1)研究開発に関するリスク
当社は、持続的成長を実現するために、最先端の科学で革新的な医薬品を創出することを目指しています。当社は、研究開発機能の向上および社外パートナーとの提携等により研究開発パイプラインを強化するとともに、世界各国の市場への一日も早い新製品の上市を目指し、質の高い革新的な研究開発パイプラインを構築することで研究開発の成功確率を高める等により効率的な研究開発活動に努めています。しかしながら、医薬品は、自社創製候補物質、導入候補物質にかかわらず、所轄官庁の定めた有効性と安全性に関する厳格な審査により承認されてはじめて上市可能となります。
研究開発の途上において、当該候補物質の有効性・安全性が、承認に必要とされる水準を充たさないことが判明した場合またはその懸念があると審査当局が判断した場合、その時点で当該候補物質の研究開発を途中で断念、または追加の臨床試験・非臨床試験を実施せざるを得ず、それまでにかかったコストを回収できないリスクや製品の上市が遅延するリスク、および研究開発戦略の軌道修正を余儀なくされる可能性があります。
(2)知的財産権に関するリスク
当社の製品は、物質・製法・製剤・用途特許等の複数の特許によって、一定期間保護されています。
当社では特許権を含む知的財産権を厳しく管理し、当社が事業を行う市場における知的財産権や第三者からの侵害状況を継続的にモニタリング、評価および分析し、知的財産権に関するリスクの回避と、受けうる影響の低減を図っていますが、当社の保有する知的財産権が第三者から侵害を受けた場合には、期待される収益が大幅に失われる可能性があります。また、当社の自社製品等が第三者の知的財産権を侵害した場合には製造販売の差止めおよび損害賠償等を請求される可能性があります。
(3)特許権満了等による売上低下リスク
当社は、効能追加や剤型変更等により製品のライフサイクルを延長する努力をしていますが、多くの製品について、特許または規制上の独占権の喪失・満了による後発品の市場参入は避けられず、米国や欧州では後発品が参入すれば通常、短期間で先発品から後発品へ切り替わり、先発品の収益が大きく減少します。国内では、当局が後発品の使用促進を積極的に進め、また、長期収載品のさらなる価格引下げが行われています。これに加え、競合品の特許権満了によるその後発品、および競合品のスイッチOTC薬の出現などによって、国内外の競争環境は格段に厳しいものになってきており、その影響如何で当社製品の大幅な売上低下を招く可能性があります。
なお、特許権満了時期等の詳細については「第2 事業の状況 6 研究開発活動 知的財産」をご参照ください。
(4)副作用に関するリスク
医薬品は、世界各国の所轄官庁の厳しい審査を経て発売されます。当社は発売後の医薬品について安全性情報を収集し有効性とリスクのバランスを評価することを含め、安全性監視活動とリスク最小化活動を実施し、ファーマコビジランス活動を推進し、副作用に関するリスクの回避と受けうる影響の低減に努めていますが、市販後の使用成績が蓄積された結果、発売時には予期していなかった副作用が確認されることがあります。新たな副作用が確認された場合には、添付文書の「使用上の注意」への記載を行う、使用する対象患者を制限する、使用方法を制限するなどの処置が必要となるほか、重篤なケースが認められた場合には、販売中止・回収等を余儀なくされることもあり得ます。また、このような場合において、当社は製造物責任を負うとともに、金銭的、法的および社会的信頼に関する損害を負う可能性があります。
(5)薬剤費抑制策による価格引き下げに関するリスク
医薬品市場では、多くの国々において医療予算の削減が推進され、医療技術評価および国際価格を参照する政策により医薬品価格が低下しています。最大市場である米国では、医薬品価格を下げるための医療計画や仲介機関による取り組みに加え、継続的な法令および規制の制定により先発品への価格引き下げ圧力が一層高まっています。2022年には、米国議会において、インフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)が可決され、薬価上昇率がインフレ率を上回った製薬会社に対するペナルティの賦課、メディケア受給者の自己負担額の上限設定、2026年よりメディケアの対象となる特定の医薬品に関する連邦政府への価格設定権限の付与等、メディケア・プログラムに基づく医薬品の補償条件が大幅に変更されました。また、2025年5月には、米国の処方薬価格を、選定された「同等に発展した国々」での最も低い価格に連動させる価格設定メカニズムである「最恵国待遇(Most Favored Nation:MFN)」価格の導入に関する大統領令が発出されました。米国における制度改革や参照価格制度は、いわゆる参照国(price-basket countries)を含む他市場の価格期待や価格交渉にも影響を及ぼし、結果としてグローバルな価格圧力を一段と高める可能性があります。日本においては、政府による一層の後発品の使用促進に加え、医療保険制度における多くの製品の公定薬価が、毎年引き下げられています。欧州においても、薬剤費を抑制し、価格透明性を高め、国際価格を参照する政策により、医薬品価格が低下しています。欧州連合は、知的財産保護や市場独占期間に影響を及ぼす可能性のある医薬品関連法制の改正を検討しており、これにより将来的に医薬品価格に影響が生じる可能性があります。当社は、中国を含む新興国等のその他の国・地域においても同様の価格圧力を受けており、これらの国・地域における事業拡大に伴い、今後もこうした圧力が継続すると見込まれます。
当社は、各国の薬剤費抑制策の詳細な分析やモニタリングを行い、医薬品の価格状況を管理する組織体制を構築することでリスクの影響低減の努力を行うとともに、各国政府や医療サービス供給者・保険者等と協力して、革新的な医薬品に対する適切な報酬制度を確立するために、価値に基づく新しい価格設定モデル(バリューベースド・プライシング)等の解決策を追求していますが、これら各国の薬剤費抑制策による価格引き下げにより、当社製品の価格が影響を受け、当社の業績および財務状況に悪影響が生じる可能性があります。
(6)戦略的取引および関連するバランスシート上の価値毀損・財務リスク
当社は、持続的な成長を加速させ、研究開発パイプラインおよび製品ポートフォリオを強化するため、必要に応じて企業買収、事業買収または資産取得ならびにライセンス契約を含む戦略的取引を実施しています。しかしながら、これらの取引には、取得した事業や導入した資産の統合の際の問題の発生、商慣習の相違、税制度を含む法令や規制の変更、政情不安、経済の不確実性、複数の法域で事業を行うことに伴う複雑性等、様々なリスクが伴い、結果として当初想定した買収効果やシナジーまたは戦略目標が十分に実現されない可能性があります。
また、買収、取得またはライセンス契約その他の戦略的取引に関連して、当社は、貸借対照表上にのれんおよび無形資産を計上したり、多額の一時金の支払、マイルストン支払義務その他の長期的なコミットメントを負う場合があります。取得または導入した資産について、臨床試験結果が期待に沿わない場合、開発または上市が遅延した場合、または業績への寄与が想定を下回った場合には、のれん、無形資産またはその他投資に関連する減損損失が発生し、当社の業績、財務状況および配当可能利益に悪影響を及ぼす可能性があります。また、取得した事業の統合や導入した資産から期待される価値の実現に失敗した場合にも、当社の業績および財務状況に悪影響が生じる可能性があります。
さらに、これらの戦略的取引は、当社の有利子負債水準を引き上げ、または資本構成に影響を及ぼす場合があります。
当社は、過去の戦略的取引に関連して発生したものを含め、多額の債務を負っています。当社は、利益の創出および選択的な非中核資産の売却等を通じてレバレッジの速やかな低下を進めてきましたが、当社の財務状況は依然として業績や市場環境の変動に影響を受けやすい状態にあります。当社の財務状況が将来悪化した場合には、当社の信用格付けが引き下げられ、その結果、既存の債務の借り換えや新規借入れ、その他資金調達の条件にも悪影響を及ぼす可能性があります。さらに、当社のコミットメントラインは必要に応じて随時資金の引き出しが可能なものでありますが、これに関連して、一定の制限条項が付されています。かかる条項に抵触した場合には、当該コミットメントラインの利用が制限され、また、同コミットメントラインを使用した全ての債務残高等について即時返済が求められる可能性があり、その結果、当社の財務状況に影響を及ぼすおそれがあります。
当社は、これらのリスクに対応するため、規律ある取引評価プロセス、綿密な統合計画、継続的な状況のモニタリング、慎重なバランスシートおよび資本管理、ならびに金融機関その他のステークホルダーとの積極的な対話を実施しています。しかしながら、これらの施策が十分に有効である保証はなく、当社が戦略的取引の実行や統合に失敗した場合、取得または導入した資産の価値が低下した場合、または財務の柔軟性が制約された場合には、当社の業績、財務状況および長期成長戦略に悪影響が生じる可能性があります。
(7)リーダーシップの移行および組織変革に関するリスク
当社は、最高経営責任者および経営陣の交代を含むリーダーシップの移行に加え、広範な組織および事業運営モデルの変革を進めています。こうした変化は、とりわけ移行および適応の期間において、短期的な不確実性および執行リスクをもたらす可能性があります。
リーダーシップの移行および組織変革により、戦略上の優先順位に影響が生じ、意思決定が遅延または複雑化し、ガバナンス、内部統制、または役割および責任の明確性が一時的に不十分となる可能性があります。また、重要な人材や組織における知識の喪失、企業文化の一体感の低下、従業員エンゲージメントおよび定着率の悪化といった影響が生じる可能性があります。
当社は、これらのリスクを低減するため、変革期における継続性および規律ある執行を支えるガバナンスおよび監督の枠組みを整備しています。具体的には、暫定的なリーダーシップ体制、変革を監督する仕組み、役割および責任の明確化、当社の価値観および戦略との整合を図るための継続的なコミュニケーション等を実施しています。また、当社は、潜在的な課題を適時に特定し対応するために、リーダーシップの有効性、従業員のエンゲージメントおよび定着率、業務パフォーマンス等の組織健全性指標をモニタリングしています。しかしながら、これらの施策が意図したとおりに機能せず、リーダーシップの移行または組織変革の施策が適切に実行されなかった場合には、業務の混乱、ガバナンスまたは内部統制の弱体化、重要人材の喪失、または社会的信頼への悪影響が生じ、当社の事業、業績、財務状況および長期的な戦略目標に悪影響を及ぼす可能性があります。
(8)安定供給に関するリスク
当社は、販売網のグローバル化に確実に対応するとともに、当社製品への需要に対し適切な供給量を確保していくため、供給ネットワークと品質保証体制を強化しており、具体的には、製造設備への適切な投資、必要に応じて複数のサプライヤーと適切な在庫水準を確保するための製造供給戦略の策定、代替サプライヤーの選定、当社内の製造ネットワークに係る危機管理規則の制定、事業継続管理システムの導入および定期的な内部監査等を行っています。しかしながら、当社または委託先の製造施設・物流施設等において、技術上もしくは法規制上の問題、原材料の不足、想定を超える需要、または自然災害の発生や新興感染症の流行、進出国における紛争あるいは各国・地域間における地政学的緊張の高まり等により、製商品の供給に大幅な遅延または安定供給への支障が発生する可能性があります。その動向によっては、当社の業績、財務状況および社会的信頼に影響を及ぼす可能性があります。
(9)IT セキュリティ、情報管理およびデジタル技術に関するリスク
当社は、顧客ニーズに合致したビジネスモデルの進化を支えるため、デジタル技術を活用しています。デジタル技術活用の強化は、当社の長期的な持続的成長に不可欠であり、当社の成長戦略の重要な基盤として位置付けています。こうした状況のもと、事業の特性上、秘匿性の高い個人情報を含む大量の機密情報を取り扱っていることから、データ保護ならびにセキュリティ対策の重要性が一層高まっています。データ活用やデジタルプラットフォームへの依存度が高まる中、大規模かつ複雑なIS/IT システム(アウトソーシング企業のシステムを含む)の利用に伴い、システム停止やセキュリティ上の問題が発生するリスクは増大し、その影響範囲も拡大しています。
また、当社は、生産性向上、意思決定支援および全社的な業務プロセスの高度化を目的として、人工知能(AI)およびエージェント型テクノロジーの導入・活用を検討し、順次実装を進めていますが、これに伴い新たに進化するリスクにも直面する可能性があります。かかるリスクには、AIの能力の過大評価、AIを活用した意思決定に関する責任所在の不明確さ、AIエージェントとユーザー認証情報またはアクセス権限との不整合、機密情報の意図しない漏えい・誤用、ならびにAIを利用した攻撃、プロンプトインジェクション、敵対的操作等の新たなサイバー脅威が含まれます。
当社は、業務効率と収益性の向上を目的として、ネットワーク基盤の改修とクラウド移行、ガバナンスの枠組みの強化およびグローバルなサイバーセキュリティ戦略の策定等、テクノロジー投資を行っています。これらの取組みの一環として、アプリケーションセキュリティ、資産管理、ネットワークセキュリティ、脆弱性管理およびパッチ管理等の基盤的能力を強化するため、機能横断的な専門チームを配置しています。しかしながら、技術変化のスピードが極めて速いことから、導入したデジタルまたはAIソリューションが比較的短期間で陳腐化する可能性があり、継続的な投資、ガバナンスおよび統合の取り組みの強化が必要となります。デジタルおよびAI施策に対するガバナンスが断片的または不十分である場合には、コンプライアンス、業務運営および社会的信頼に関するリスクが高まります。
こうした状況の中、当社がデジタル変革から期待される効果や利益を十分に実現できない場合、またはシステム停止、セキュリティ上の問題、もしくはデジタル技術の不適切な利用が発生した場合には、当社の事業活動、業績、財務状況および社会的信頼に悪影響が生じる可能性があります。
(10)コンプライアンスに関するリスク
当社は事業の遂行にあたって、薬事規制や製造物責任、独占禁止法、個人情報保護法等の様々な法的規制やGMP (Good Manufacturing Practice)、GQP(Good Quality Practice)、GCP (Good Clinical Practice)、GLP (Good Laboratory Practice)等のガイドラインの適用を受けています。
加えて、当社の事業は、医療従事者、医療機関、政府関係者、患者さんおよび患者団体等との広範な接点を伴うものであり、これらの活動は製薬業界の特性上、本質的にコンプライアンスリスクを伴うものです。これらの関係者との連携や取引は、多くの場合、サプライヤー、学術提携先、卸売業者その他の商業パートナー等の第三者を通じて、またはこれらの第三者と連携して行われるため、適切なガバナンスが講じられない場合には、コンプライアンスリスクがさらに高まります。さらに、規制当局による取り締りの強化、複数の法域にわたって進化し、また断片的に変化する法制度、地政学的な不安定性、ならびにデジタルおよびオムニチャネルのエンゲージメントモデルを含む急速に変化する事業慣行等により、これらのリスクは一層高まっています。
当社は、当社の事業活動および第三者との関係全般におけるコンプライアンスを推進するために、グローバルエシックス&コンプライアンス部門を設置し、ポリシー、手続および統制のための制度を整備しています。また、オンボーディング、デューデリジェンス、継続的モニタリングおよび是正措置を含む取組み等の、第三者との関係のライフサイクル全体を対象としたリスクベースの第三者リスク管理の枠組みを導入しており、ガバナンスの強化、説明責任の明確化および組織全体のコンプライアンス意識の向上を継続的に図っています。しかしながら、こうした取組みにもかかわらず、コンプライアンスリスクを完全に排除することはできません。ステークホルダーとのやり取りを適切に管理できない場合、または既存の取決めを含め、第三者との関係をそのライフサイクル全体にわたり有効に統治できない場合には、法令または社内ポリシーへの違反、規制当局による調査または措置、金銭的制裁、訴訟、業務の混乱または社会的信頼への悪影響が生じ、当社の業績および財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
(11)進出国および地域におけるカントリーリスク
当社は、グローバルな事業展開に伴い、進出国や地域における政治不安、経済情勢の悪化、医薬品に対する関税を含む関税その他の貿易制限措置、新興感染症の流行、社会混乱、進出国における紛争、各国・地域間における地政学的緊張の高まり等に伴う投資、データの越境規制など様々なリスクにさらされています。また、政府機関または規制当局における業務の混乱や機能不全が生じた場合、医薬品の承認手続の遅延や審査プロセスの変更につながる可能性があり、その結果、当社の事業活動や成長計画に悪影響を及ぼす可能性があります。加えて、各国においてビジネスと人権に関する法規制の整備が継続的に進んでおり、バリューチェーン全体での人権侵害リスクへの対応の必要性が高まっています。
当社は、各部門の連携のもと、これらのリスクが当社の事業に与える影響の分析や各地域における社会情勢のモニタリング、人権デューデリジェンスの実施等を通じてリスクに対応する体制を構築しております。また、地政学的情勢や政策動向の急速な変化に対応するため、部門横断的なモニタリングおよび対応体制を整備するとともに、適時のエスカレーションおよび意思決定を可能とするため、事業継続計画および危機管理計画について定期的なテストを実施しています。さらに、地政学的リスクは、製品供給の継続性、コンプライアンス上の義務、ならびに越境データ規制等の他のリスクを増幅させる可能性があることから、当社はシナリオ分析や経営陣によるレビューをリスク管理の枠組みに組み込んでいます。当社は、医薬品に対する患者さんのアクセスを確保することを最優先としており、これらのリスクの低減方法およびこれらのリスクへの対応方法を確認しながらリスク管理を行うよう努めています。しかしながら、当社または当社と協力関係にある第三者が事業を行っている地域において、不測の事態が生じた場合には、当社の業績、財務状況および社会的信頼に影響を及ぼす可能性があります。
(12)金融市場環境に関するリスク
当社の当年度における海外売上収益は4兆726億円であり、連結売上収益全体の90.4%を占めており、そのうち米国での売上収益は2兆1,648億円にのぼり、連結売上収益全体の48.0%を占めています。
従って、売上収益については円安は増加要因である一方、研究開発費をはじめとする外貨建ての費用は円安の場合には収益に悪影響を及ぼす可能性があります。また、機能通貨以外で実行される事業上の取引、金融取引および投資に関して為替変動リスクにさらされています。さらに、金利変動による資金調達コストの上昇や、世界的なインフレーションの進行が当社の利益を圧迫する可能性があります。当社は為替および金利リスクを集約的に管理し、これらの財務リスクをヘッジするためにデリバティブ取引を行うとともに、取引先との契約条件の見直し等により潜在的な影響の緩和を図っていますが、経済環境や金融市況が当社の想定を超えて変動した場合には、当社の業績および財務状況に影響が生じる可能性があります。
(13)訴訟等に関するリスク
当社の事業活動に関連して、現在関与している訴訟のほか、将来、医薬品の副作用、製造物責任、労務問題、公正取引等に関連し、訴訟を提起される可能性があり、その動向によっては、当社の業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。なお、係属中の重要な訴訟の詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 31 コミットメントおよび偶発負債」をご参照ください。
(14)環境に関するリスク
環境はウェルビーイング(心身の健康)の基礎であり、私たちは事業活動に欠かせない自然資源を環境から得ています。環境保全に対する責務の遂行は、当社の事業の発展に不可欠であり、当社の価値観(バリュー)に沿うものです。これは、単に正しい行いをするというだけではなく、人生を変えうるような医薬品やワクチンを責任をもって患者さんにお届けできるようにするものです。そのために、当社は、ステークホルダーからの期待に沿いつつ法規制にも遵守した厳格な環境マネジメントシステムおよび社内プログラムを整備するとともに、これらが有効に運用され、期待する結果を実現していることを確認するための内部監査手続を定めています。しかしながら、万が一、予期せぬ汚染や法規制への不適合、不十分な環境保全活動が顕在化した場合には、社会的信頼を損なうとともに、行政措置の対象となり、保険の適用範囲外または補償金額を超える支払義務を伴う改善措置の実施や法的責任を負うことにより、当社の事業活動に悪影響が生じる可能性があります。また、環境法規制の改正や社会の期待の変化により、より厳しい要請への対応が課せられ、当社の研究、開発、製造その他の事業活動に影響が及ぶ可能性もあります。かかる要件の遵守や課題への対応が行われない場合には、法規制上の責任を負い、当社の社会的信頼に影響を及ぼすとともに、当社の業務遂行能力に悪影響が生じ、ステークホルダーに対する魅力が低下する可能性があります。
これまでのところ、気候変動に起因するコンプライアンスまたは訴訟等の重大な影響はありませんが、当社は、気候変動を、人々の健康に大きな影響を及ぼす深刻なグローバル課題であるとともに、当社の事業に財務的なリスクをもたらす可能性のある課題であると認識しています。当社は、2024年度に気候関連リスクと機会に関するシナリオ分析を更新し、移行リスクおよび物理的リスクに焦点を当てた評価を実施しました。当該評価には、特定のサプライチェーンリスクも含まれています。移行リスク評価では、規制、技術、市場、および評判に関するリスクを対象とし、気候変動に対するグローバルな対応レベルによる異なる3つの気候変動シナリオ(すなわち、「迅速な気候変動対策(Rapid Climate Action)」、「気候変動対策の遅延(Delayed Transition)」、「中道的な気候変動対策(Middle of the Road)」)に基づき、2050年までの時間軸における当社への影響を評価しました。物理的リスク評価では、当社の事業運営および第三者である主要な医薬品製造受託機関(CMO)およびサプライヤーについて、気温、水、風および土地に関連する危険性を、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって設定された2つの共通社会経済経路シナリオ(SSP2-4.5(注)1とSSP5-8.5(注)2)に基づいて評価しました。本プロセスを通じて、当社に潜在的に該当する気候関連リスク・カテゴリーを特定することができました。これには、潜在的な各国および地域レベルでの炭素税導入に伴うサプライヤーからのコストの増加の可能性、および高温ストレス、水資源の不足、洪水による当社の事業運営および医薬品製造受託機関(CMO)への物理的リスクが含まれており、これらが顕在化した場合には、当社の事業、業績および財務状況に影響が生じる可能性があります。また、当社では、気候変動関連リスクを全社的リスク管理体制に組み込んでおり、今後新たに顕在化しうるリスクの傾向を適切にモニタリングできる体制を取っています。当社では、潜在的な影響を緩和するため、低炭素型事業への移行を進めています。当社は、2022年度まで、カーボンニュートラルを維持してきましたが、2024年度からは気候変動対策の目標としてのカーボンニュートラルからの転換を行い、ネットゼロのロードマップを進めるための取り組みにリソースを集中させる一方で、バリューチェーンを超えた自然を活用したカーボン除去プロジェクトへの投資を継続しています。
当社の重要なステークホルダーは当社に対して優れた環境保全活動を遂行することを期待していると認識しており、当社は自社の製品および事業活動から生じる環境への影響を緩和するための方策を継続的に模索しています。当社は、事業活動およびバリューチェーン全体における温室効果ガス排出量の最小化、自然環境への影響の低減、ならびに持続可能性に配慮した製品設計および生産に重点を置いて、環境サステナビリティ活動に取り組んでいます。また、これらの取り組みを補完する分野にも引き続き注力しており、水資源の保全を支援するための自然資源保護への取り組み、責任ある廃棄物処理をはじめとし、製品ライフサイクル全体を通じて環境への影響を最小限に抑えるため、製品開発のすべての段階においてサステナビリティに配慮しています。これらの取り組みにより成果が得られた場合には、地球の生態系と人々の健康を守りながら、当社に対する社会的評価の向上と当社事業の強化に繋がることとなり、患者さんに貢献するという当社の揺るぎない使命を果たし続けられることになります。一方で、当社が掲げているサステナビリティの高い目標に向けた行動を実施できない場合や、ステークホルダーの期待に沿う結果が得られない場合には、当社に対する社会的信頼が損なわれ、その結果、従業員の採用・維持や顧客、投資家との関係の構築において問題が生じ、当社の業績および財務状況に影響が及ぶ可能性があります。
(注)1 SSP2-4.5シナリオ:温室効果ガス排出量が2050年まで現在のレベルで続き、その後減少するが、2100年までに地球の気温が2.1~3.5℃上昇すると推定される中程度の排出経路を示しています。
2 SSP5-8.5シナリオ:現在のCO2排出量が2050年までに約2倍、2075年までに約3倍に増加し、2100年までに地球の気温が3.3~5.7℃上昇すると推定される、非常に高い温室効果ガス排出経路を示しています。
(15)人材の採用および配置に関するリスク
当社の長期的に持続可能な成長には、人材の獲得競争の激しい市場や地域において、事業を支える適切な人材の採用と配置が重要であると認識しています。当社は、組織の有効性、文化、価値観を維持しながら、働き方の柔軟性をより高め、職場環境をより良くする施策を実施するとともに、継続的なキャリア開発機会の提供やエンゲージメントの推進を図り、従業員に対して魅力的な価値を提案することで、人材採用における競争力の強化と人材の定着を促進しています。しかしながら、計画通りに採用や定着が進まない場合は、人材の喪失や不足を通じて、当社の競争力が低下し、その結果、当社の業績および財務状況に影響が及ぶ可能性があります。
配当政策
3 【配当政策】
当社は、革新的な医薬品を創出し続けるという「私たちが目指す未来」(ビジョン)のもと、健全な財務基盤を維持しながら(堅実な投資適格格付を維持し、調整後純有利子負債/調整後EBITDA 倍率(注)2倍を目指す)、患者さんに持続的な価値を、株主には魅力的なリターンを提供できるよう資本を配分してまいります。
当社の資本配分に関する基本方針は次のとおりです。
・ 成長ドライバーへの投資
・ 株主還元
「成長ドライバーへの投資」では、新製品の上市やパイプライン拡充のための社内外の機会、血漿分画製剤事業に対して戦略的な投資を行ってまいります。また、「株主還元」においては、毎年の1株当たり年間配当金を増額または維持する累進配当の方針を採用し、自己株式の取得については適切な場合に取り組んでまいります。
なお、当社は中間配当ができる旨を定款に定めており、当社の剰余金の配当は中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としております。剰余金の配当等会社法第459条第1項各号に定める事項については、法令に別段の定めのある場合を除き、取締役会の決議によって定めることができる旨を定款に定めております。
(基準日が当事業年度に属する剰余金の配当については、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 25 資本及びその他の資本項目」をご参照ください。)
(注)定義については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ④当社グループが定義および表示するIFRSに準拠しない補足的財務指標」をご参照ください。