2023年12月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります

(単一セグメント)
  • セグメント別売上構成
  • セグメント別利益構成 セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
  • セグメント別利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 セグメント別
売上高
(百万円)
売上構成比率
(%)
セグメント別
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 63 100.0 -1,930 100.0 -3,061.6

事業内容

 

3 【事業の内容】

当社は創薬バイオベンチャー企業として研究開発先行型の事業を展開しており、独自性のがんのウイルス療法や重症ウイルス感染症治療薬などの開発と事業化を推進しています。

特に、がんのウイルス療法テロメライシンや次世代テロメライシンOBP-702などの「がんのウイルス療法領域」と、ウイルス感染症治療薬OBP-2011を中心とした「重症ウイルス感染症領域」でパイプラインを構築し、「ウイルス創薬企業」として成長を目指しています。また、これまでHIV感染症治療薬として開発してきたOBP-601はドラッグリポジショニングにより神経難病治療薬として開発されています。今後は、各パイプラインの製薬企業へのライセンス活動や自社による承認申請を推進して商業化を早め、さらに新規パイプラインの創製にも取り組んでゆく方針です。

 

これまで当社は、パイプラインの開発を一定段階まで進め、その後の開発や販売は製薬企業へライセンスを許諾し、その対価として契約一時金やマイルストーン、ロイヤリティ収入などを得るというライセンス型事業モデルを展開していました。しかし、今後は上記のライセンス型事業モデルに加えて、一部のパイプラインに関しては、自社で製造販売承認を得る製薬会社型事業モデルの展開も検討し、「ライセンス型事業モデルと製薬会社型事業モデルのハイブリッド」で事業を展開してゆく方針です。

 

「オンコリスなしでは医療現場が、ひいては患者様が困る」そういう存在感ある創薬を展開することを基本方針とし、いち早く医療現場の課題解決に貢献してゆきたいと考えています。

なお、当社は、創薬開発プランを創出し、その製造、前臨床試験及び臨床試験をアウトソーシングするファブレス経営による医薬品開発を行い、開発期間の効率化・開発経費の最適化を図っています。当社の事業系統図は以下のとおりです。

 

[事業系統図]


 

注:上記のライセンス型事業モデルに加えて、一部のパイプラインに関しては、自社で製造販売承認を得る製薬会社型事業モデルの展開も行っていきます。

 

 

(1) 主要なパイプライン

当社は、ウイルス遺伝子改変技術を活用した新規がん治療薬、新規がん検査薬、さらに感染症領域の新たな治療薬の開発を行い、がんや重症感染症領域の医療ニーズ充足に貢献することを目指しています。

特にがん領域では、がんのウイルス療法テロメライシンや次世代テロメライシンOBP-702の開発を進めるとともに、がんの超早期発見又は予後検査を行う新しい検査薬のテロメスキャンを揃えることで、がんの早期発見・初期のがん局所治療・予後検査・転移がん治療を網羅するパイプラインを構築しています。

 

①  がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301)

テロメライシンは、5型のアデノウイルス[*1]を遺伝子改変した腫瘍溶解ウイルスです。5型のアデノウイルスは風邪の症状を引き起こすもので、自然界にも存在します。テロメライシンは、細胞の寿命を決定づけるテロメラーゼの活性が高いがん細胞で特異的に増殖することによって、がん細胞を破壊します。一方、がん細胞と比較してテロメラーゼ活性が低い正常な細胞の中では、増殖能力が極めて低いため、臨床的な安全性を保つことが期待されています。

また、用法としては局所療法が中心となるため、体の負担も少なく、放射線治療や免疫チェックポイント阻害剤などとの併用により、さらに強力な抗腫瘍活性が導き出せることも明らかになっています。さらに局所注射した部位以外でのがんの縮小効果が示唆されており、がん免疫療法等との併用効果が期待されています。これまで嘔吐・脱毛・造血器障害などの重篤な副作用は報告されていないことから患者様のQOL(Quality of Life)の向上が期待されます。

 


a) 対象疾患

食道がんなどの固形がんを対象にします。

b) 技術導入の概況

テロメライシンは、2006年10月に日本国内の特許(特許第3867968号)を、2012年4月に米国での特許(米国特許第8163892号)を取得したのをはじめ、欧州14か国を含む世界24か国での特許取得が完了しています。日本の特許は、当社と関西ティー・エル・オー株式会社の共有、海外指定国における特許及び特許出願は当社単独で保有しています。

(特許取得済みの国)

日本・米国・欧州(14か国)・南アフリカ・シンガポール・ニュージーランド・オーストラリア・中国・香港・韓国・カナダ

c) アライアンスの状況

2008年3月にMedigen Biotechnology Corp.(台湾)と戦略的アライアンス契約を締結しました。また、2024年2月に富士フイルム富山化学と日本における販売提携契約を締結しました。

d) 研究開発の概況

活動の詳細に関しては、「第2 事業の状況 6.研究開発活動」をご確認ください。

なお、食道がんへの開発に対して、2019年4月に日本国内において厚生労働省より先駆け審査指定制度の対象品目に指定されております。また、2020年6月に米国においてオーファンドラッグ(希少疾患治療薬)の指定を食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)から受けております。

e) 製造体制

当社は本剤を自社製造しておらず、他の製造会社に委託して製造しております。

f) 販売体制

日本国内に関しては、富士フイルム富山化学が販売する予定です。海外に関しては、大手製薬企業等とライセンス契約又は販売提携契約を締結し、契約先が販売する予定です。

 

<テロメライシンの構造>

 テロメライシンは、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)遺伝子プロモーターをアデノウイルス5型遺伝子のE1領域[*2]に組み込み、さらに同領域にIRES配列[*3]を導入することによってがん細胞内での複製効率を高めたがん細胞で特異的に増殖する腫瘍溶解ウイルスです。
テロメライシンのDNA構造は以下のとおりです。

 


 

② LINE-1阻害剤OBP-601(censavudine)

OBP-601(censavudine)は、神経変性疾患への応用が新たに期待されるLINE-1阻害剤です。レトロトランスポゾン[*4]というヒトの遺伝子がRNAからDNAに逆転写されて、DNAの様々な場所に入り込んでしまうことで神経組織の炎症反応が起こり、その結果、筋萎縮性側索硬化症(以下「ALS」)などの神経変性疾患を引き起こされることが近年明らかになりました。OBP-601は、このRNAからDNAへの逆転写を司る酵素を抑制する作用を有しており、これまでにない新しい作用機序をもった神経変性疾患の治療薬になることが期待されています。

 

a) 対象疾患

PSP(進行性核上性麻痺)、C9-ALS(筋萎縮性側索硬化症)、FTD(前頭側頭型認知症)、AGS(アイカルディ・ゴーティエ症候群)などの神経変性疾患を対象にします。

b) 技術導入の概況

当社は、OBP-601(censavudine)の特許を出願・保有するYale大学(米国)と独占的ライセンス導入契約を2006年6月に締結しています。また、神経変性疾患治療薬の開発を目的に設立されたTransposon社と、2020年6月に全世界における再許諾権付き独占的ライセンス導出契約を締結しました。今後の開発は、Transposon社が全額費用を負担し、欧米を中心に実施します。

c) 研究開発の概況

活動の詳細に関しては、「第2 事業の状況 6.研究開発活動」をご確認ください。

d) 製造体制

当社は本剤を自社製造しておらず、製造はライセンス導出先のTransposon社が行います。

e) 販売体制

Transposon社が第三者である大手製薬企業等へOBP-601のライセンスを再許諾した場合、ライセンス再許諾先が販売を行います。

 

<OBP-601(censavudine)の作用メカニズム>


 

③ ウイルス感染症治療薬OBP-2011

OBP-2011は、新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2を強く阻害する新規メカニズムを持った治療薬として開発を行っていました。これまでに行われた前臨床試験の結果から、経口投与が可能であることが確認され、探索的毒性試験や探索的遺伝毒性試験においても問題となるような検査の異常は認められていません。また、アルファ株・ベータ株・ガンマ株・デルタ株・オミクロン株などの変異型コロナウイルス株に対しても、野生型と同等の活性を示すことが細胞培養系の実験で確認されています。今後は、開発優先順位を引き下げ、メカニズム解明を進めるとともに、他のウイルス感染症治療薬としての可能性を探索していきます。

 

a) 対象疾患

ウイルス感染症を対象に効果を探っています。

b) 技術導入の概況

当社は、2020年6月に鹿児島大学と抗SARS-CoV-2薬の特許譲受に関する契約を締結しました。

c) 研究開発の概況

活動の詳細に関しては、「第2 事業の状況 6.研究開発活動」をご確認ください。

d) 製造体制

当社は、本剤を自社製造しておらず、他の製造会社に委託して製造する予定です。

e) 販売体制

大手製薬企業等へライセンスを導出し、導出先が販売を行う予定です。

 

④  次世代テロメライシンOBP-702

 OBP-702は、テロメライシンに強力ながん抑制遺伝子p53を搭載した次世代テロメライシンです。p53遺伝子[*5]の欠失又は変異によって細胞ががん化する割合は、がん全体の30~40%になると報告されています。OBP-702はがん細胞に投与されると、ウイルス自体ががん細胞のテロメラーゼ活性を介して増殖し、がん細胞を破壊するのに加え、同時にp53蛋白をがん細胞の中で生成させることにより、さらに強力にがん細胞をアポトーシスさせる機能を有しています。これまでの非臨床試験の結果では、テロメライシンと比較し、抗がん活性が約10倍~30倍高いことが示唆され、免疫チェックポイント阻害剤との併用効果が示されています。今後、既存の治療法に抵抗を示すがんや、テロメライシンで効果が得られにくかったがん種等、アンメット・メディカル・ニーズを充足させる治療薬を目指して開発してゆきます。

 

a) 対象疾患

膵臓がんなどの各種固形がんを対象にします。

b) 技術導入の概況

当社は、2015年に次世代テロメライシンOBP-702をパイプラインに加えています。

c) 研究開発の概況

活動の詳細に関しては、「第2 事業の状況 6.研究開発活動」をご確認ください。

d) 製造体制

当社は、本剤を自社製造しておらず、他の製造会社に委託して製造する予定です。

e) 販売体制

大手製薬企業等へライセンスを導出し、導出先が販売する予定です。

 

<次世代テロメライシンOBP-702の構造>


 

⑤  検査薬 テロメスキャン(OBP-401)

テロメスキャンは、がん細胞内で特異的に増殖し、緑の蛍光色を発するタンパク質(GFP)を産生させてがん細胞を特異的に発光させる機能を持った遺伝子改変アデノウイルスです。5型のアデノウイルスの基本構造を持ったテロメライシンにクラゲの発光遺伝子を組み入れ、がん細胞や炎症性細胞などのテロメラーゼ陽性細胞で特異的に蛍光発光させる検査用ウイルスです。

 

<テロメスキャンの構造模式図>

テロメスキャンを用いた検査プラットフォームは、これまでの技術では検出が困難であった血液中の微量な生きたままのがん細胞(CTC:Circulating Tumor Cell)の検出を可能とし、幅広いがん種での体外検査による予後予測・がん遺伝子検査・超早期発見などへの応用を目指して開発を進めています。特に、肺がん等でがんの組織生検を行うことなく、血液採取でがん患者様に適したがん治療の選択肢を増やすことを目指しており、医療現場での高品質な検査への応用が期待されています。

 

a) 技術導入の概況

テロメスキャン(OBP-401)は、テロメライシンと同様に発明者及び関西ティー・エル・オー株式会社から「特許を受ける権利」や「特許権」を正当に譲り受け、事業化が推進できる体制を築いています。今後、AIを用いた検査系の立ち上げを行い、検査感度・精度及びスループットの向上を目指してゆきます。
 テロメスキャンF35(OBP-1101)は医薬基盤研究所より2011年4月28日付で世界における独占実施権を獲得しています。

b) 研究開発の概況

活動の詳細に関しては、「第2 事業の状況 6.研究開発活動」をご確認ください。

c) アライアンスの状況

2015年11月にペンシルベニア大学の研究成果商業化を目的に設立されたLiquid Biotech USA Inc.(米国、以下「Liquid Biotech社」)との間で、北米エリアでの独占使用権を付与するライセンス契約を締結しましたが、2021年12月に同契約を解消しました。

d) 製造体制

当社は、兵庫県神戸市の神戸リサーチラボにおいて、自社製造体制を構築しています。また、必要に応じて他社に委託して製造する予定です。

e) 販売体制

国内外の検査会社等への遺伝子改変ウイルスを用いたがん検査薬の実施権の許諾と、研究機関や製薬企業へのがん検査及び検査薬販売が主体となります。将来は、検査キットを検査会社や医療機関に提供してゆきます。

 

⑥  HDAC阻害剤OBP-801

OBP-801はヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase:HDAC)阻害剤[*6]です。OBP-801は、正常細胞のがん化に強く関係しているHDACという酵素の活性を阻害することで、がん細胞の増殖抑制や細胞死などを誘導する効果を示すことを期待して開発されていました。しかし、米国での各種固形がんを対象にしたPhase1臨床試験で用量制限毒性が生じたため、がん領域での開発を中断しています。現在、眼科領域への応用が試みられています。

 

a) 対象疾患

眼科疾患領域への応用

b) 技術導入の概況 

当社は、2009年10月にアステラス製薬株式会社よりOBP-801に関する独占実施権を獲得しています。

c) 研究開発の概況 

活動の詳細に関しては、「第2 事業の状況 6.研究開発活動」をご確認ください。

d) 製造体制 

当社は本剤を自社製造しておらず、他社に委託して製造しております。

e) 販売体制 

将来的に大手製薬企業等へライセンスを導出し、導出先が販売を行います。

 

〔主要なパイプラインにかかる用語解説〕

[*1] アデノウイルス

アデノウイルスは、正二十面体構造の二本鎖DNAウイルスで、ヒトの場合は気道に感染し、のどの腫れなどのいわゆる風邪の症状を起こします。アデノウイルスには、1型から51型まで51の血清型があり、ヒトアデノウイルス5型は小児の上気道感染症の原因となるウイルスで、36kbの2本鎖直線状のDNAゲノムを有しています。組換えDNA実験ではアデノウイルス5型がよく使われます。この属のウイルスは深刻な疾患の原因とはならず、サイズの大きな遺伝子を組み込むことができることから、遺伝子治療に応用されてきました。

 

[*2] E1領域

ヒトアデノウイルスゲノムは、5'逆方向末端反復配列(ITR)、パッケージングシグナル(ψ)、初期遺伝子領域E1A及びE1BからなるE1、E2、E3、E4、後期遺伝子領域L1~L5、及び3’ITRを含みます。E1及びE4は調節タンパク質を含み、E2は複製に必要なタンパク質をコードし、L領域はウイルスの構造タンパク質をコードします。E1A及びE1B遺伝子は、ウイルスの増殖に必須な初期遺伝子です。

 

[*3] IRES配列

IRES(Internal Ribosome Entry Site)と呼ばれる遺伝子配列は、一本のメッセンジャーRNAの途中から翻訳を開始させることができる配列です。このため複数の遺伝子を含むベクターに組み込んで使われています。

 

[*4] レトロトランスポゾン

ヒトゲノムの約40%を占めており、逆転写酵素などの作用によってレトロトランスポゾンの複製が行われ、遺伝子内にランダムに転移が起きます。その結果、遺伝子の突然変異が起こりやすくなり、様々な病気が発生すると考えられています。このレトロトランスポゾンがランダムに複数コピーされてくると、様々な反応によりインターフェロンが産生され、神経細胞を傷つけることによりALSなどの神経変性疾患が発生すると考えられています。

 

[*5] p53遺伝子

がん抑制遺伝子の中でも代表的な遺伝子の1つであり、「細胞分裂の停止により、破損した遺伝子が修復するための時間稼ぎ」と「変異した遺伝子を持つ細胞の分裂を、強制的に阻止させる細胞死の発動」の役割を担っています。そのため、p53遺伝子は、ゲノム(遺伝子)の守護神という別名を持っています。

 

[*6] ヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase; HDAC)阻害剤

染色体を構成するタンパク質を脱アセチル化することで染色体構造を緊密にし、遺伝子の発現を抑制する酵素を阻害する薬の総称です。

業績

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概況

当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

 ① 財政状態及び経営成績の状況

当事業年度におけるわが国経済は、2023年12月日銀短観での大企業業況判断Diffusion Index(以下、「DI」)が製造業・非製造業とも市場予測を上回り、幅広い業種で業況判断DIが上昇し良好な結果が示されました。一方で、イスラエル内戦や欧米の政策金利引き上げによる急速な円安進行など、国内外の不安定な状況は今後も継続する見通しのようです。

 

このような状況下、当社は「未来のがん治療に新たな選択肢を与え、その実績でがん治療の歴史に私たちの足跡を残してゆくこと」をビジョンとし、経営の効率化及び積極的な研究・開発・ライセンス活動を展開いたしました。

特に、がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301)を中心に研究・開発・ライセンス活動を推進させています。また、LINE-1阻害剤OBP-601(censavudine)は、Transposon Therapeutics, Inc.(以下「Transposon社」)とのライセンス契約の下、同社の全額費用負担により臨床試験が進められています。

当社活動の詳細に関しては、「第2 事業の状況 6.研究開発活動」をご確認ください。

以上の結果、当事業年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりとなりました。

 

a.財政状態

当事業年度末における資産は、現預金の減少等により2,040,598千円(前期比23.0%減)となりました。負債は、未払金の増加や長期借入金の借入れ等により566,500千円(前期比15.2%増)となりました。純資産は、新株発行による増資や当期純損失等により1,474,097千円(前期比31.7%減)となりました。

 

b.経営成績

当事業年度は、売上高63,038千円(前期は売上高976,182千円)、営業損失1,929,986千円(前期は営業損失1,204,506千円)を計上しました。また、営業外収益として受取利息1,475千円、為替差益27,598千円等を計上し、営業外費用として支払利息3,602千円、株式交付費8,777千円等を計上し、経常損失1,913,816千円(前期は経常損失1,163,008千円)になりました。さらに、固定資産売却益136千円を特別利益、当社が保有するテロメライシンに関する分析装置等の減損損失21,898千円を特別損失として計上した結果、当期純損失1,938,505千円(前期は当期純損失1,148,938千円)を計上しました。

 

② キャッシュ・フローの状況

当事業年度末における現金及び現金同等物は、1,287,763千円(前期比12.2%減)となりました。当事業年度における各キャッシュ・フローは次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは1,336,922千円の支出(前期は1,717,135千円の支出)となりました。これは主として、税引前当期純損失1,935,578千円、減損損失21,898千円の計上、前払金の減少223,713千円、未収入金の減少123,411千円、未払金の増加132,727千円等によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは5,392千円の支出(前期は20,117千円の収入)となりました。これは、主に有形固定資産の取得による支出5,686千円等によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは1,142,542千円の収入(前期は113,830千円の支出)となりました。これは主に株式の発行による収入1,223,450千円、長期借入れによる収入100,000千円、長期借入金の返済による支出194,444千円、リース債務の返済による支出4,540千円等によるものです。

 

 ③ 生産、受注及び販売の実績

(1) 生産実績

該当事項はありません。

 

(2) 受注実績

該当事項はありません。

 

(3) 販売実績

当事業年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。なお、当社は、創薬事業の単一セグメントであるため、セグメント別の販売実績の記載は省略しております。

 

セグメントの名称

当事業年度

(自 2023年1月1日

至 2023年12月31日)

前年同期比(%)

創薬事業(千円)

63,038

△93.5

合計(千円)

63,038

△93.5

 

(注) 1.当事業年度において、販売実績に著しい変動がありました。これは、中外製薬株式会社とのテロメライシンのライセンス契約が2022年10月に終了したためであります。

   2.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

相手先

前事業年度

(自 2022年1月1日

至 2022年12月31日)

販売高(千円)

割合(%)

中外製薬株式会社

913,107

93.5

 

 

相手先

当事業年度

(自 2023年1月1日

至 2023年12月31日)

販売高(千円)

割合(%)

岡山大学

35,000

55.5

Transposon Therapeutics

28,038

44.5

 

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日時点において判断したものであります。

① 重要な会計方針及び見積り

当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては、一定の会計基準の範囲内にて合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。

 

 ② 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当事業年度の経営成績等の状況については、上記「(1)経営成績等の状況の概況」をご参照ください。

当社は、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、創薬バイオ企業として研究開発先行型の事業を展開しており、独自性の高い遺伝子改変ウイルスによるがん治療薬、重症ウイルス感染症治療薬及びがん検査薬などの開発と事業化を推進しています。特に、ウイルスの増殖能力を利用してがん細胞を殺す「がんのウイルス療法」と、ウイルスの増殖を止めて治療を行う「重症ウイルス感染症治療薬」を事業領域とし、ウイルスを軸にした業界でも類を見ない『ウイルス創薬』を展開して参りました。また、これまでHIV感染症治療薬として開発してきたOBP-601は、そのメカニズムを基に応用を拡大して神経難病治療薬としての開発が進められています。今後も、各パイプラインの製薬企業へのライセンス活動を推進して商業化を早め、さらに新規パイプラインの創製にも取り組んでゆく方針です。

 

当事業年度では、テロメライシンの日本国内での承認申請を目的とした臨床試験の組入れを完了させ、商用製造の基礎となるGMP製造を推進させました。さらに、テロメライシンの承認申請に向けて、日本国内での販売提携パートナーの獲得に向けたビジネス活動を進め、2024年2月に富士フイルム富山化学と販売提携契約を締結し、製造販売体制の確立に向けた活動を進めました。また、OBP-601のライセンス先であるTransposon社による神経難病患者を対象とした臨床試験が進みました。

 

当社の経営に影響を与える大きな要因としては、1)研究開発の進捗度合い、2)ウイルス製剤の製造、3)ライセンスや販売提携に伴う資金獲得、4)医薬品市場動向及び5)為替動向等が挙げられます。

1) 研究開発については、特に臨床試験では適格な症例を組み入れることがその試験の成功を左右させる大きな要因となります。当社の開発方針はUnmet Medical Needs(治療法が確立されていない医療領域)を対象に臨床開発を展開しており、対象症例が非常に希少であるために臨床試験の症例組み入れが予想よりも遅延する可能性があります。そのために臨床試験受託会社(CRO)を的確にオペレーションし、臨床試験担当医師との情報交換を頻度高く行うなどの努力を最大限行って臨床試験の質とスピードを向上させることを重要視しています。

2) ウイルス製剤の製造においては、テロメライシンの商用製造に向けて原薬及び製剤をHenogen社(ベルギー)に委託しています。これまでに商用に向けての製造開発が実施され、スケールアップが行われてきました。今後、商用製造に移行していく計画ですが、ウイルス製造は未だ確立された方法論がなく、試行錯誤の連続になります。ウイルス製造には大きな費用が掛かり、さらに品質試験や安定性試験にも時間と費用を要します。これらの遅延又は失敗により、テロメライシンの承認申請時期を大幅に遅らせる可能性があります。このような状況を防ぐために、当社ではウイルス製造時に当社製造担当者を派遣し、製造受託企業スタッフと綿密な情報交換を行い、当社神戸リサーチラボにおいても補足的検討を即時的に行い、効率的かつ高品質なウイルス製剤が製造できるよう努めています。

3) ライセンス契約や販売提携契約に関しては、研究開発の大幅遅滞や失敗、医療行政の変動、競合薬の進展などのリスクに加え、契約締結先の経営戦略変更により契約が解消されるリスクなどが挙げられます。これらのリスクを回避・低減するため、契約条件をより当社に有利にできるよう、過去の契約事例を参照して不足事項を補い、コンサルタントや弁護士の助言を最大限に活用し、より良い契約が完遂できるよう努力していきます。

4) 市場動向については、国内外の大手製薬会社やバイオ企業との熾烈な研究開発競争が今後も展開され、がん治療の標準的治療法が年々変更される時代となったために、マーケット調査を強化して将来を見据えた開発方針を立てる必要があります。常に競合情報やマーケット情報をキャッチアップできるよう、国内外の情報収集に努めてゆきます。

5) 為替動向に関しては、当社の海外における臨床試験や製造などが主に外貨建てで行われているという理由により、経営成績が大きく影響を受けるため、為替変動リスクを最小限に抑える必要があります。今後は外貨建て収入を増加させることで、外貨建て債務に係る為替リスクの低減を図っていきます。

 

このような中で、当社はグローバル市場におけるリスク対応力の高い人財を育成し、「ウイルス創薬」という新しい業態において名実ともに存在感のある企業として成長していくために、収入増大による経営基盤の強化を図り、企業統治を高度化していきます。

 

 

③ 資本の財源及び資金の流動性

a.資金需要

当社の事業活動における運転資金需要の主なものは、医薬品及び検査薬の研究開発に伴う研究開発費、各種ライセンス契約や戦略的アライアンス契約に伴う特許関連費、各事業についての一般管理費があります。また、設備・投資資金需要としては、各種機器や戦略的投資に伴う固定資産投資等があります。

 

b.財務政策

当社は事業活動の維持拡大に必要な資金を、ライセンス契約や販売提携による一時金やマイルストーン収入のみならず、商業化によるロイヤリティー収入や製品販売収入を軸とした事業収入によって確保することを第一に考え、内部資金を活用し、必要に応じて資本市場からの資金調達を行っています。また、運転資金及び設備・投資資金は、当社において一元管理しています。

「ウイルス創薬」による医薬品や検査薬の研究開発という成果を実現させるまでには、相対的に時間を要する事業を行っているために、資本性の高い長期資金を得ることで、資金特性のバランスを考慮しています。