2024年12月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 当社グループは中長期に会社の業績に大きな影響を与えるマテリアリティ(重要課題)を抽出しています。マテリアリティについては、確実で効率的な対応を心がけつつ、2022年スタートの長期経営計画「DIC Vision 2030」(注1)における成長シナリオをイメージしながら事業の推進に役立てています。また、経営環境の変化やリスクの多様化に適切かつ柔軟に対応するとともに、潜在的なリスクが顕在化することによる事業への影響を速やかに最小限に抑えるため、リスクマネジメント活動を進めています。広範なリスクのうち、「外部環境リスク」、「コーポレートリスク」は当社グループのサステナビリティ活動の審議機関であるサステナビリティ委員会及び下部組織のリスクマネジメント部会で、「ビジネスリスク」については業務執行に係る重要な事項の審議機関である執行会議など重要会議を通じて適切にモニタリングし、リスクが顕在化した場合の影響を低減するように各リスクに主管部署を定めてリスク対策を実施しています。

 後述する重要な事業リスクについては、当社グループの事業活動におけるマテリアリティ(注2)をベースにリスクマネジメント部会で実施する調査結果を踏まえて、各リスクが顕在化した場合に、当社グループのビジネス及びステークホルダーに与え得る影響度合いを大、中、小に分類しています。

なお、将来に関する事項についての記載は、当連結会計年度末現在における判断に基づくものであり、また当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではありません。

 

(注1)長期経営計画「DIC Vision 2030」の詳細は、以下をご覧ください。

https://www.dic-global.com/pdf/ir/management/plan/DIC_Vision_2030.pdf

https://www.dic-global.com/pdf/ir/management/plan/Revision_%20DIC_Vision_2030_ja.pdf

(注2)事業活動におけるマテリアリティの詳細は、本報告書「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。

 

リスクマネジメント体制

 

リスクマネジメント活動の全体像

 

(1)重要な事業リスク

 投資家の判断に重大な影響を及ぼす可能性のある当社グループのリスクは以下のとおりであると考えています。

 これらの重要なリスクは、執行役員や本社管理部門の部長等を評価者としたリスクアセスメントにより、影響度、発生可能性、想定されるリスクシナリオ、その他の社内外の諸事情や要因を加味した上で、リスクマネジメント部会が重大リスクとして選定し、サステナビリティ委員会と取締役会での審議、確認を経て毎年特定しているものです。

 一部については、積極的な情報開示の観点から、必ずしも重大な影響を及ぼすとまでは言えないリスクも記載しています。

 

掲載

順序

リスク分類

リスク項目

影響度

発生

可能性

時期

区分

関連

1

外部環境

需要の急減な変化や低迷に伴うリスク

短~中

①②③

A・B

2

地政学に関するリスク

不明

①②

3

金利・為替の急激な変動に起因するリスク

短~中

①③

4

大地震発生に伴うリスク

短~長

①③

5

環境・資源

気候変動に伴う環境変化や

社会変革への対応に関するリスク

中~長

①②③

A・B

6

環境負荷低減の要請に関するリスク

短~長

①②③

A・B

7

経営戦略

・事業戦略

買収戦略失敗のリスク

短~中

①②③

A・B

8

事業ポートフォリオマネジメント失敗のリスク

短~中

①②③

A・B

9

サプライチェーンに関するリスク

短~長

①②③

A・B

10

管理・業務

コンプライアンスに関するリスク

不明

A・B・他

11

イノベーションの停滞・失敗のリスク

中~長

②③

A・B・他

12

人材確保に関するリスク

短~長

②③

A・B

13

品質問題発生のリスク

不明

②③

A・B

14

サイバーセキュリティに関するリスク

不明

15

知的財産に関するリスク

不明

①②③

A・B

 

影響度(当連結会計年度末現在における各リスクが発現したときに起こり得る影響の大きさ)

大:影響度が大きい  中:影響度が中程度  小:影響度が小さい

 

発生可能性(当連結会計年度末現在における各リスクが将来的に顕在化する可能性)

高:可能性が高い   中:可能性が中程度  低:可能性が低い

 

時期(当連結会計年度末現在における各リスクが顕在化し得る時期やタイミング)

長期:5年超  中期:概ね3~4年程度  短期:概ね2年以内

不明:顕在化するタイミングが予想できない

 

区分(発生要因別の当社における管理上のリスク区分)

①:発生防止を自社でコントロールできない外部環境リスク

②:会社のマネジメントで発生防止対策を取り得るコーポレートリスク

③:事業の中で認識すべきビジネスリスク

 

関連(長期経営計画「DIC Vision 2030」で定めた事業戦略との関連)

A:成長実現に向けた事業ポートフォリオの変革

B:グローバル経営、ESG経営及び安全経営を下支えする経営基盤の強化

C:キャッシュフローマネジメント

他:事業戦略の関係なし

 

1.外部環境に関するリスク

(1) 需要の急激な変化や低迷に伴うリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループは、グローバルに事業を展開しており、世界の各地域、各国で需要急減、低迷長期化のリスクがあります。欧州経済や中国経済の低迷長期化等により、域内需要の減少に止まらず、世界同時不況に発展する可能性があります。また、先行きに対する不安や所得の伸び悩み等により、個人消費を中心に需要が急減し、深刻なデフレの再来や長期化の可能性があります。新興国においては、政治や経済の混乱に起因した通貨暴落等、通貨危機の可能性が想定されます。

②当社グループの取組

当社グループでは、インテリジェンス機能としてグローバルで政治・経済情勢を定期的にモニタリングし、地域ごと、需要業界ごとに事業環境の変化を把握しています。また四半期事業検討会や予算・ローリング検討会等を通じて、各事業への影響と実行すべきアクションについての考察や経営改善の意思決定を行うとともに、必要に応じて地域ポートフォリオの見直しを行い、リスクの分散と低減に努めています。

 

(2) 地政学に関するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

政治・社会情勢の著しい変化や、各種法規制・国際条約の変更等に関する予期せぬ事態が生じた場合、これらに起因して生じるコスト増、製品・原料の輸出入制限、送金停止、サプライチェーン分断等が、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。例えば、米中対立による製品・原料等の輸出入停止及び関税率アップに伴うコスト急増、渡航規制強化による適時適切な現地対応や人材配置の制限、あるいは中東における紛争・政治不安、その他政変・テロ・暴動等に起因するエネルギーや天然資源の価格高騰、物流の混乱等が挙げられます。

②当社グループの取組

当社グループでは、本社による全体的な管理に加え、地域統括会社による日常的な管理により、事業面及び機能面の双方で事業を展開する各国における様々なリスクをモニタリングしています。生産・販売面においては、事業部門を主体としたBCP(事業継続計画)の確立や原料の複数調達体制の構築を通じて、カントリーリスクへの対応に取り組んでいます。サプライチェーンの分断には、世界中に広がる当社グループのネットワークを有効活用することで、リスクを低減しています。加えて、人命・信用・資産等、各種経営資源の保全に向け、必要に応じて現地拠点とも協力しながらグループ全体での情報共有・対策立案・教育訓練にも取り組んでいます。

 

(3) 金利・為替の急激な変動に起因するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

金融危機については、何らかの契機によってリスク資産が急落するとともに信用リスクが上昇した場合、まず社債・CP市場の機能不全から始まり、銀行が資産価格下落による自己資本比率低下から資金回収に転じることで、資金調達に支障が生じる可能性があります。為替については、金融市場の混乱から急激な円高が進行、輸出採算悪化や海外子会社収益の円換算額が減少し、業績に著しい影響を与えます。さらに為替換算調整勘定のマイナスが拡大し、純資産が棄損することで財務バランスが悪化する可能性があります。金利については、金利上昇によって支払利息が増加します。当社グループのグロス有利子負債は5千億円程度であり、金利が1%上昇することで、中期的に年間50億円程度の支払利息増加となるリスクがあります。

②当社グループの取組

金融危機対策としては、将来の資金需要を一定期間カバーする手元資金及びコミットメント空き枠を維持しています。また、資金調達に占める長期比率を8割程度としているほか、長期資金の期日分散化を図っています。為替、特に円高への対策としては、輸出入や配当等の決済における為替変動リスク低減のため、先物予約等を活用しています。また、為替リスク管理委員会でヘッジ方針を策定し、実施状況を適宜モニタリングしています。エクスポージャーが大きなドル・ユーロについては、100百万ドル及び100百万ユーロの純投資ヘッジを実施しました。なお、対象となる通貨・金額は、ヘッジコストとヘッジ効果に鑑み、為替リスク管理委員会で総合的に判断しています。金利上昇対策としては、引き続きグループ運転資本の適正化に向け、事業部門ごとの年間目標を設定し、月次で進捗管理を実施するほか、現預金の圧縮による有利子負債調達の抑制によって金融収支改善を図っています。

 

(4) 大地震発生に伴うリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

特に、本社機能がある日本での大地震発生を想定しています。南海トラフ地震が発生した際の災害状況としては、四日市工場、堺工場、滋賀工場、小牧工場、大阪支店で震度6程度が予想され、本社のある東京でも2~3mの津波が発生する可能性があるほか、堺工場や四日市工場では液状化現象が発生する可能性もあります。また、首都直下地震の場合、本社で震度6強、東京工場、千葉工場、総合研究所、鹿島工場で震度5弱の地震発生の可能性があります。これらの事業所では、電力会社からの供給停止、配管ラインの損傷による工業用水の停止、ボイラー停止による蒸気停止、排水設備の損傷による排水停止等の可能性があります。生産設備は、配管ラインの破損と原材料の漏洩、地盤の隆起による設備の傾斜、生産ライン中の異常反応、ユーティリティ供給停止による設備破損、通信不能によるDCS制御停止、津波による浸水等の可能性があります。人員面では、交通網遮断による帰宅・出社困難、厚生施設の機能停止、構内常駐協力会社の手配困難等の可能性があります。また、本社ビルは一時滞在施設に指定されているため、地域の帰宅困難者受入を図る必要があります。これらの結果、数週間から数ヵ月程度の生産停止、設備・機材・人員不足による復旧工事難航、原材料入荷や製品出荷の遅滞・停止等のほか、行政による安全検証作業のための事業活動停滞の可能性があります。

②当社グループの取組

(i) 当社グループでは、BCPの管理指標を見直し、海外グループ会社への展開も進めながら、より実効性を向上させるよう取り組んでいます。また、災害発生時専用ポータルである「DIC BCPortal」を構築し、その運用や必要な訓練を進めています。本社では、地域の帰宅困難者等への適切な対応や一斉帰宅抑制の対応を想定した体制整備も進めています。

(ii) 大地震発生リスク自体の大きさは変わっていませんが、事業環境や地域事情等の違いから、BCPに関する海外と日本とのギャップは大きいため、グローバルに事業を展開している当社グループにとって、地政学リスクも考慮するとリスクが増大している側面もあります。

 

2.環境・資源に関するリスク

(1) 気候変動に伴う環境変化や社会変革への対応に関するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループは2021年6月より「DIC NET ZERO 2050」として、「2030年CO2排出量の50%削減(2013年度比)」と「2050年カーボンネットゼロの実現」を長期目標に掲げています。この目標を達成するための活動において、以下をリスクと捉えています。

a.排出権取引、化石燃料賦課金等の諸政策実施に伴って原料価格や電力価格が上昇した場合、収益が低下する可能性があります。

b.CO2排出量削減の社会的要求や顧客ニーズに極端な変化が生じた場合、既存事業の縮小・撤退や新規投資案件の中止も検討せざるを得なくなる可能性があります。

c.循環型社会に向けた急激な需要変化に対応できない場合、収益の低下や既存事業からの撤退を余儀なくされる可能性があります。

d.異常気象による気象災害の深刻化・頻発化が事業所の稼働停止や原料調達の不安定化につながった場合、収益が低下する可能性があります。

e.国際的に情報開示に対する要求が厳しくなっている中、不適切な情報開示を行った場合、レピュテーションが毀損したり、グリーンウォッシュ訴訟を提起されたりする可能性があります。

②当社グループの取組

(i) 当社グループは、積極的な環境投資と省エネ施策の推進を通じてCO2排出削減に取り組んでいます。当社グループで統一した製品カーボンフットプリント(PCF)算出のガイドラインを策定し、製品のPCF算定を実施しています。2024年はアジアパシフィック地域、中国地域の製品の算定を開始しました。2025年1月には、サステナビリティ委員会の下部組織として気候変動部会を設置しました。グループ目標として相応しいCO2排出削減目標とそれを達成するための計画を策定していきます。また、気候変動による需要の変化に的確に対応すべく、脱炭素社会に向けた5R(Reuse, Reduce, Renew, Recycle, Redesign)のグループ定義を掲げ、サーキュラーエコノミーを含めた製品・サービスの開発を進めています。物理的リスクに対しては、重要原料の供給対策も含むBCPの策定を進めているほか、沿岸立地事業所の気象災害リスクへの対策強化にも努めています。

(ii) 確度の高い情報収集とグループ内での情報共有により、高度な情報開示要求に対し、グリーンウォッシュのような実態に陥ることなく、グループ全体の情報の適切な開示に努めています。

 

(2) 環境負荷低減の要請に起因するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループには、生産活動を通じて様々な環境負荷が発生するリスクがあります。具体的な環境負荷としては、以下のような大気汚染物質や水質汚濁物質、産業廃棄物、プラスチック廃棄物が挙げられます。

a.通常は環境負荷の排出を一定レベルに抑えていますが、トラブル等によって環境負荷物質を想定以上に排出してしまった場合、その回収コストの負担や損害賠償責任が発生する可能性があります。

b.環境負荷に対する環境規制の強化、業界基準の変更、さらには社会的要請等に適切に対応できなかった場合、生産を継続することができなくなる可能性があります。また、社会情勢の変化に伴う製品要求性能の急変に対応できなかった場合、事業収益の低下や事業継続の可否に関わるリスクが顕在化する可能性もあります。

②当社グループの取組

(i) 当社グループは、生産と事業の両面から環境負荷の低減に努めています。生産面においては、生産拠点所在地における環境負荷低減に関連する様々な法令や規制の遵守はもとより、具体的な削減目標を定めた上で定期的に環境負荷データをモニタリングして、環境負荷物質の削減に努めています。また、トラブルに対しては、緊急事態に対応したマニュアルを整備し、環境負荷物質の排出を最小限に抑える体制をとっています。同時に、社会的変化に対応すべく環境保護設備の積極的な導入に努めています。

(ii) 事業活動においても、製品の環境負荷低減を図りながら、地球環境と社会課題に貢献できるよう努めています。具体的には、バイオベース材料やマスバランス方式原料の採用、製品の再利用や再商品化、ケミカルリサイクルあるいはマテリアルリサイクルを含めたサーキュラーエコノミーを視野に入れた製品、サービスの開発及び普及に取り組んでいます。

 

3.経営戦略・事業戦略に関するリスク

(1) 買収戦略失敗のリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループは、事業ポートフォリオ変革のため、企業買収や資本提携を積極的に実施しています。当社グループが実施する統合・協業が不十分又は想定どおり進まない場合、当初計画していた効果が得られないため、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

②当社グループの取組

当社グループでは、設定した指標に基づいて投資判断を行うとともに、自社による調査のほか、外部機関も活用して徹底したデューデリジェンスを行ってリスクを事前に洗い出し、対策を講じています。買収後はグループ一体となったPMI(統合活動)の推進やシナジーの実現に向けたアクションを実施することにより、リスク低減に取り組んでいます。また、買収後に業績不振に陥ったときは、グループ一体となって構造改革や効率化の取組みをスピードアップし、収支構造の改善に取り組んでいます。

 

(2) 事業ポートフォリオマネジメント失敗のリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

長期経営計画「DIC Vision 2030」では、社会課題を解決し、社会の持続的繁栄に貢献する5つの重点事業領域を定め、そこに経営資源を集中させることで事業ポートフォリオの変革に取り組んでいます。事業ポートフォリオの変革に遅れが生じた場合、硬直化によって成長が鈍化した場合、及び製品ライフサイクルに伴い成熟事業の収益性が徐々に低下した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

②当社グループの取組

当社グループは、長期経営計画「DIC Vision 2030」において、サステナブルエネルギー領域、ヘルスケア領域、スマートリビング領域、カラーサイエンス領域、サステナブルパッケージ領域を5つの重点事業領域として定め、成果創出に注力しています。また、当社グループの事業戦略にそぐわない低収益事業の縮小・撤退の基準を設けて定期レビューを行うとともに、取締役会及び執行会議では長期経営計画で定めた事業戦略の進捗を定期的に確認し、事業環境に応じて施策を更新、追加しています。長期的計画を確実に実現させるため、2025年までの前半の4年間は「DIC Vision 2030」の目指す姿を実現するための基盤づくりの期間、2030年までの後半の5年間を目指す姿を実現して展開する期間と位置づけています。これまでの成果と課題を踏まえ、早期かつ確実に成果を得られる施策を絞り込み、メリハリのある経営資源配分を徹底します。また、短期的にはケミトロニクスを中核としたスマートリビング領域にリソースを集中し、次世代・成長事業の早期創出を目指します。さらに、直近の経営環境を踏まえ、2026年以降の計画をより実効性のあるものに見直しながら、引き続き「DIC Vision 2030」の目指す姿の実現に取り組んでいきます。

 

(3) サプライチェーンに関するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループは、短期及び中長期的な視点で原料の安価・安定調達に加え、持続可能なサプライチェーンの構築、原料調達の実現に向けた取り組みを推進しています。本件に関するリスクとして、国際商品市況の影響による原料価格上昇、原料サプライヤーの事故・トラブル・自然災害等を起因とした需給バランスの変動、その他の事情に伴う物流混乱、化学物質に関する法規制・業界規制の強化等によって原料の調達が困難になる場合、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。また中長期的観点では、サステナビリティ活動への取り組みが不十分なサプライヤーからの原料調達は、供給の不安定化に加え、サプライチェーン全体の価値低下やそれに伴う顧客等からの信用失墜につながり、当社グループの事業継続に支障を来たす可能性があります。

②当社グループの取組

(i) 当社グループは、複数購買・契約購買・代替原料の導入等を通じ、原料コストの削減や調達リスクの低減を図り、安価で安定した調達を目指しています。また、中長期的観点では、環境負荷低減や人権尊重を始めとしたサステナビリティ活動全般への取り組みをサプライヤーに要請するとともに、外部評価機関や自社製アンケートを使用した活動状況の調査及び改善啓発を行い、持続可能な原料調達の実現を目指しています。

(ii) これらの取り組みを通じた製品の供給安定化や品質安定化、健全化により顧客からの信頼確保を図るとともに、収益性を確保するための適切かつ計画的な価格設定等にも努めています。

 

4.管理・業務に関するリスク

(1) コンプライアンスに関するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループは、世界各国で事業活動を行っており、商取引、安全、環境や化学物質等に関する様々な法規制の適用を受けています。法規制等に違反した場合、事業の停止命令や罰金が課され、又は損害賠償責任が発生し、当社グループの業績や財務状況に影響を与えるだけでなく、社会的信用の失墜にもつながる可能性があります。

②当社グループの取組

(i) 当社グループでは、法規制のほか、ビジネスを実践する上で遵守すべきコンプライアンスに関する基準として「DICグループ行動規範」を定めています。社長は、役員を含む全社員に向けて、コンプライアンスの重要性や、ビジネスよりもコンプライアンスが優先すべき価値であることを折に触れて自らの言葉で発信しています。全社員は、具体的事例を取り上げたeラーニングや研修によって、その認識を深めています。さらに、コンプライアンス上の疑問を持った場合に相談できる体制を整備し、内部通報制度の活用や担当部署から独立した部署による監査・調査等を通じ、コンプライアンス違反があった場合の早期発見、早期是正を図っています。また、相談を行った者や調査等に協力した者に報復することは禁じられており、「DICグループ行動規範」に対する重大な違反となります。

(ii) 法規制変更時の周知徹底、化学物質情報管理システムの運用徹底・DX(デジタルトランスフォーメーション)化や効率化、デザインレビューの運用徹底等、あらゆる段階でコンプライアンスリスクの低減に必要な対策を講じています。

 

(2) イノベーションの停滞・失敗のリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループは、環境面における社会変革への対応が非常に重要と捉え、「グリーン社会、デジタル社会、QOL社会」に貢献する製品開発をグループ一丸となって取り組んでいます。同時に、急速に進展するデジタルテクノロジーの活用、DX推進に遅れを取らないように対策を進めています。しかしながら、当社グループのイノベーションが停滞して社会要請に応える製品を開発・上市できない場合、成長が鈍化する可能性があります。

②当社グループの取組

(i) 当社グループは、保有する既存の基盤技術に加え、無機材料やバイオに関する新しい基盤技術を活用して、グリーン社会に貢献する次世代向けパッケージ、デジタル社会に貢献する高速通信関連材料、環境に配慮した非PFAS素材、QOL社会に貢献する高機能ニュートリション等、様々な市場やニーズに応じたサステナブル製品の開発を進めています。技術部門では、製品開発の成功率アップと開発期間短縮のために最新の実験計画法や機械学習ツールを積極的に活用するとともに、量子コンピュータのコンソーシアムへの参加等、オープンイノベーション活用による最先端デジタルテクノロジーの導入を積極的に進めています。

(ii) 生産技術部門においても、工場のスマート化に向けた生産技術のDX推進に精力的に取り組んでいます。

 

(3) 人材確保に関するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

先進国を中心に少子化に起因した労働人口減少が進む中、期待水準を満たす人材の獲得が困難になるとともに、人材獲得競争が激化する可能性があります。また、労働市場の流動化が高まる中、社員から見た当社の魅力が相対的に落ちた場合、優秀人材の離職が進むことで事業継続が困難になる可能性があります。

②当社グループの取組

(i) 日本においては、新卒採用は広報活動強化により企業認知度を向上させ、ターゲット層の掘り起こしを図っています。初任給水準を含む賃金設定の柔軟化も検討しています。キャリア採用は、スペシャリストや嘱託等の柔軟な処遇体系の設定に加え、アルムナイ、リファラル採用の開設・定着を図る等、多様な採用チャネルを活用しています。海外各地域における採用活動の実態も把握しており、グローバルHR会議で課題を設定しながら今後も取り組みを強化していきます。各社のニーズに応じ、ブランディング、採用ツール、採用ノウハウ面でもグローバル共通の取り組みに着手していきます。リテンションの面において、日本ではエンゲージメントサーベイを実施していますが、調査→分析→対策策定→実施のPDCAをさらに磨いていきます。海外でも中国などサーベイを展開している拠点もあり、今後はグローバルでの合同実施も検討していきます。

(ii) 優秀人材確保は普遍的課題であり、特に日本においては、採用力の強化、エンゲージメントの向上、日本人に頼らない仕組み作りを優先事項としています。

 

(4) 品質問題発生のリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループの製品やプロセスに欠陥・不正・偽装が疑われた場合、重大なクレームや製造物責任が問われるなどの事象が発生した場合、あるいは製品回収や損害賠償責任が生じた場合、出荷や生産の停止が生じるだけでなく、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。さらに、これらの事象の発生が当社グループの社会的信用の失墜につながる可能性があります。

②当社グループの取組

(i) 年度計画に基づき、各工場で品質監査を実施し、監査結果を品質委員会に報告しています。品質監査においては、実態確認に基づく改善・是正要求と対応だけでなく、その後のフォローアップを確実に行うことで、ルールやプロセスに対する運用の適正化に取り組んでいます。

(ii) 当社グループは、「常に信頼される製品を提供して顧客と社会の繁栄に貢献する」を「品質に関する方針」としています。本方針に基づき、2024年1月に組織変更を実施しました。これにより、本社と事業所における品質保証や品質管理に関係する部署の機能と役割を、より明確に整理しました。今後も全社における品質部門の機能と役割の定着や更なる浸透により、より正しくガバナンスを利かせることができる体制の構築を図っていきます。

 

(5) サイバーセキュリティに関するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

懸念される重大リスクシナリオとして、ランサムウェア等のサイバー攻撃により、外部の攻撃者が当社グループネットワークに不正侵入し、社内サーバー等を乗っ取って重要機密情報を含むデータを窃取、暗号化することが想定されます。当社グループがインシデント対応手順を誤って被害の拡大を招くと、各種ITシステムが長期間にわたり使用できなくなる可能性があります。また、当社グループの従業員や元従業員による重要機密情報の不正な持ち出し・持ち込み、あるいは改竄・破壊・不正利用等の内部不正行為も想定されます。さらに、急速に業務適用が進展する生成AIにも不適切利用に関するセキュリティリスクがあります。生成AIの不適切利用としては、社外の生成AIに不用意に入力した当社グループの機密情報が学習データに利用されて外部公開される、又は、生成物に含まれる第三者の著作物をそれと気づかず対外利用してしまうということが想定されます。これらのリスクが発現した場合、業務プロセス、生産ライン、サプライチェーン、デジタルエコシステム等が中断・停止され、当社グループの事業活動や収益だけでなく、顧客や取引先、地域社会にも多大な影響を与えてしまいます。さらに、重要技術情報等の外部漏洩が生じた場合、当社グループの技術的優位性の喪失、新製品開発の遅延、市場での競争力低下等をもたらします。また、財務データが破壊・改竄されると、財務報告の誤りや不正確な情報公表につながり、投資家の信頼を失うことにもなります。これらの結果として、短期・長期での企業競争力低下、会社のブランドイメージ棄損、顧客や社会からの信頼喪失等を惹起するほか、損害賠償を含む法的対応の義務が生じる可能性もあります。

②当社グループの取組

(i) 当社グループでは、国内外グループ会社におけるITインフラのセキュリティ対策強化、インシデント対応力強化、従業員のセキュリティ意識向上、生成AI利用ガイドラインの浸透を図っています。

(ii) 各種訓練や啓発活動も計画的かつ継続的に実施しており、リスクは確実に低減しています。

 

(6) 知的財産に関するリスク

①リスクの内容・業績に与える影響の内容

当社グループは、事業活動の中で生み出される新たな技術やノウハウを保護するため、知的財産権の取得に努めています。一方、他社の権利を侵害しないよう適切な対応を講じ、第三者の正当な知的財産権を尊重した事業活動を行っています。しかしながら、権利の解釈や見解の相違等により、知的財産に関する紛争が発生した場合、製品開発や販売の停止、又は損害賠償金の発生等により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、当社グループが保有する技術情報やノウハウが不測の事態により外部に流出した場合、当社グループ製品の模倣品や類似品が流通し、製品の競争力が失われ、事業収益に影響を与える可能性があります。その他、第三者が当社グループのロゴや商標を不当に使用して類似品や劣化品を市場に流通させることで、当社グループの業績への影響やブランド毀損が生じる可能性があります。

②当社グループの取組

(i) 当社グループでは、製品開発の各ステージにおいて、第三者の知的財産権の侵害予防調査を実施し、知的財産部門に在籍する弁理士や、国内外の特許事務所及び法律事務所の弁理士、弁護士による判断のもと、第三者の正当な知的財産権を尊重した製品化を行っています。万一、知的財産に関する紛争が発生した場合にも、事案に応じて社内外の弁理士、弁護士が適切に連携して対応できる体制をとっています。また、当社グループでは、「情報セキュリティに関する方針」のもと、「機密情報管理規程」を制定し、技術情報等を厳格に管理しています。外部への技術情報の開示に際しては、学会発表や展示会への出展等、開示形態に応じた監視体制を整え、機密情報の漏洩を防止しています。

(ii) 当社グループのロゴや商標の不当使用に対しては、電子商取引サイトの監視や商標データベース調査により、当社グループのロゴや商標の不正使用、悪質な類似商標出願を確認した場合には、電子商取引サイトの出店差し止め請求や、類似商標の登録防止措置を講じています。

 

配当政策

3【配当政策】

 当社は、安定した経営基盤の確立を目指すとともに、株主への利益還元をより充実させていくことを基本方針と考えています。また内部留保資金については、その充実に努めるとともに、企業体質を一層強化することで株主の将来的な利益拡大に寄与すべく、より有効に使用していきます。なお、第127期から第129期までの3事業年度においては、1株当たりの年間配当額の下限を100円に設定しています。
 当社は中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としています。これらの剰余金の配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会であり、「取締役会の決議によって、毎年6月30日を基準日として中間配当をすることができる。」旨を定款に定めています。

 当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりです。

   決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2024年8月9日

4,748

50

取締役会決議

2025年3月27日

4,748

50

定時株主総会決議

(注)1.2024年8月9日取締役会決議に基づく配当金の総額には、株式給付信託(BBT)が所有する当社株式に対する配当金14百万円が含まれています。

2.2025年3月27日定時株主総会決議に基づく配当金の総額には、株式給付信託(BBT)が所有する当社株式に対する配当金14百万円が含まれています。