事業内容
セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
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売上
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利益
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利益率
最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています
セグメント名 | 売上 (百万円) |
売上構成比率 (%) |
利益 (百万円) |
利益構成比率 (%) |
利益率 (%) |
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(単一セグメント) | 961 | 100.0 | -90 | - | -9.4 |
事業内容
3【事業の内容】
当社は、企業理念として『ひとりのかけがえのない命のために、ステラファーマは世界の医療に新たな光を照らします。』を掲げ、「ひとりのかけがえのない命のために」それぞれの使命を実行することを行動指針の基盤とし、「世界の医療に新しい光を照らす」ことを経営目標の策定方針としております。
当社は、この企業理念に基づき、がん患者に対する新たな治療の選択肢としてBNCTを実用化するため、創業以来、BNCT用ホウ素薬剤の研究及び開発に取り組んでまいりました。
(1)事業の特徴
① BNCTの医療技術
BNCTとは、ホウ素の安定同位体であるB-10(天然ホウ素に約20%含まれる)とエネルギーの小さな熱中性子の核分裂反応を利用して、がん細胞を選択的に破壊する放射線治療の一つの手法であります。
ホウ素の安定同位体であるB-10の原子核はエネルギーの低い低速の中性子(熱中性子)をよく吸収し、直ちにヘリウム原子核(4He核(α粒子))とリチウム原子核(7Li核)に分裂します。これら原子核は細胞を破壊する能力が非常に大きい一方で、影響を及ぼす範囲が4~9ミクロン(μm)と極めて短く、また、熱中性子自体の細胞破壊能力は小さいため、B-10を含む物質が、がん細胞に選択的に集積し、そこに熱中性子が照射されると、そのがん細胞は選択的に破壊されます。この原理に基づいて考案された医療技術がBNCTであります。
BNCTは、その特徴として、『がん細胞を選択的に破壊』することができる治療法であることから、がん細胞と入り組む正常組織への影響が少なく、術後のQOL(Quality Of Life/生活の質)も従来の治療に比べて良好であることが期待されます。
[BNCTの治療イメージ]
② ビジネスモデルについて
当社は、2020年3月に切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌※1を効能・効果として、ステボロニン®の医薬品製造販売承認を取得しました。それに伴い、既に加速器を設置しております総合南東北病院、大阪医科薬科大学病院の2つの医療施設においてBNCTによる治療が実施されており、医薬品卸売業者を介した自販モデルによる収益化を実現しております。
今後も加速器メーカーとの共同でステボロニン®の適応拡大に向けた研究開発及び臨床試験を継続していくと同時に、当社の製品は加速器メーカーとのコンビネーションプロダクトをベースとしていることから、BNCTの認知度向上と加速器の普及に向けた事業展開も並行的に進めることで、収益拡大を実現していくビジネスモデルであります。
(2)開発品の特徴
① 開発品の概要について
当社が、開発、製造及び販売するステボロニン®(開発品名:SPM-011)は、厚生労働省の実施する先駆け審査指定制度※2の対象品目に指定されており、2020年3月にBNCT用ホウ素薬剤として世界初となる医薬品製造販売承認を取得しております。
BNCTは、その性質上、中性子の発生装置となる医療機器と医薬品を組み合わせた治療法であり、患部に高い選択性で集積し、かつ効果的な反応が得られるホウ素薬剤が必要となります。
[ステボロニン®点滴静注バッグ 9000 mg/300 mL]
② 開発品の作用機序について
天然ホウ素には、中性子数の異なるホウ素10(B-10)とホウ素11(B-11)の2種類が存在し、B-10は約20%の割合で存在しています。BNCTにおいて核分裂反応を起こすホウ素はB-10のみであるため、効果的なホウ素薬剤とするためには、B-10を高純度に濃縮し、より多く含有する製剤を作る必要があります。
当社の開発品であるステボロニン®は、この高純度(99%以上)B-10を含む「ボロファラン(10B)※3」を原薬として製造しております。ボロファラン(10B)は、必須アミノ酸であるフェニルアラニン※4又はチロシン※5と構造が似ているため、がん細胞特有のアミノ酸トランスポーターであるLAT-1※6を介してアミノ酸要求性の高いがん細胞に取り込まれます。これにより、がん細胞に選択的にB-10が集積し、かつ中性子線を照射した際により大きな効果を得ることが可能となります。
[ボロファラン(10B)の構造式とがん細胞への取込みの作用機序]
③ 開発品の競争優位性について
B-10を高純度(99%以上)に濃縮する技術は、ステラケミファ株式会社が国内で唯一(世界でも2社のみ)保有しているものと認識しております。
当社は、高純度(99%以上)まで濃縮されたB-10を原料として、原薬「ボロファラン(10B)」を製造し、さらにステボロニン®に製剤加工しております。原料についてはステラケミファ株式会社との間で独占期間を定めた取引基本契約を締結し、安定的に原料供給を受ける調達体制をとっております。また製剤処方にかかる特許権を複数取得しており、今後も周辺特許の申請を積極的に行っていく方針であります。ステボロニン®は臨床研究において従来使用されていたフルクトース製剤に比べ安定性に優れ、さらに36ヶ月という長期の品質有効期間を保ち、治療毎に製剤を調製する必要もなく、また「医薬品の製造管理及び品質管理の基準(GMPgrade)」に適合した製剤でもあります。
この特徴に加え、当社における長年の研究開発期間と相当程度の投資は後発事業者にとっては大きな参入障壁になると考えております。また当社の開発品であるBNCT用ホウ素薬剤「SPM-011」は、厚生労働省の実施する先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、2020年3月にステボロニン®として医薬品製造販売承認を取得したことは、後発事業者が同制度の対象品目に指定されるには治療薬の画期性が要件として求められるため参入障壁になると考えられることから、当社の競争優位性は一定程度維持できると認識しております。
この競争優位性を維持しながら、ステボロニン®を「世界初、日本発」の医薬品として、治療を待つ患者様に一日でも早くお届けできることを目標として事業を推進してまいります。
[ステボロニン®の製造フロー]
(3)開発パイプライン
当社は、BNCT用ホウ素薬剤の適応疾患の拡大を開発テーマとして、適応疾患別に開発パイプラインを構成しております。当事業年度末現在までの開発パイプラインの対象疾患並びにそのスケジュールについては次のとおりです。
① SPM-011[対象疾患:再発悪性神経膠腫※7]
再発悪性神経膠腫については、日本国内において2015年12月に第Ⅱ相臨床試験の治験届を提出し、2017年4月には厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定され、2020年7月に治験終了届を提出いたしました。当該治験の主要評価項目は、BNCT施術後1年後における生存割合とし、安全性及び有効性について評価しております。その結果、再発膠芽腫24例の1年生存率が79.2%となり、試験開始前の設定期待値60%を超える結果となりました。当該試験結果をもって、先駆け審査指定制度の枠組みにおいて独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)と一部変更申請に向けた協議を行っておりましたが、学校法人大阪医科薬科大学が提案する再発膠芽腫患者を対象としたBNCTの無作為化非盲検比較試験※8に関する研究開発課題が国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下「AMED」という。)が公募していた「令和7年度『革新的がん医療実用化研究事業』」に採択されたことを受け、当該第Ⅲ相医師主導治験に協力することで、その治験を踏まえて承認申請を目指す開発方針に変更することといたしました。また、初発への展開については、別途、国立大学法人筑波大学(以下「筑波大学」という。)が実施している第Ⅰ相医師主導治験※9に協力することで進めてまいります。
なお、2024年9月に再発悪性神経膠腫を対象として、厚生労働省より希少疾病用医薬品※10の指定を受けております。
② SPM-011[対象疾患:再発高悪性度髄膜腫※11]
大阪医科薬科大学病院において、医師主導治験として実施していた第Ⅱ相臨床試験は2024年2月に全例の主要評価に関する観察が終了いたしました。本試験は、AMEDの支援を受けて実施されたものであり、加速器を用いたBNCTとしては世界初のランダム化比較試験※12になります。この度、当社がホウ素薬剤として開発中のボロファラン(10B)(開発コード:SPM-011)を使用したBNCTによる再発高悪性度髄膜腫を対象とした第Ⅱ相医師主導臨床試験の結果に関する演題が2025年5月30日から6月3日まで米国イリノイ州シカゴにて開催される米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology : ASCO) 2025年次総会において、ポスターセッションに採択されました。なお、ASCOは年に1回開催されるがん治療に関する世界最高峰の学会であります。
なお、2024年9月に再発髄膜腫を対象として、厚生労働省より希少疾病用医薬品の指定を受けております。
③ SPM-011[対象疾患:悪性黒色腫※13及び血管肉腫※14]
2022年11月に血管肉腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験を開始し、2024年12月に完了いたしました。なお、血管肉腫に関しては、希少疾病医薬品の指定に向けて厚生労働省と協議を進めた結果、2023年12月に「切除不能な皮膚血管肉腫」を対象として同指定を受けております。引き続き血管肉腫を優先的に開発することとしながら、悪性黒色腫の開発は第Ⅰ相臨床試験で対象とした疾患から適応を広げることも含めて検討していく予定であります。
なお、本試験は㈱CICSが開発した加速器中性子捕捉療法装置「CICS-1」を用い、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院において実施しております。
④ SPM-011[対象疾患:初発膠芽腫※15]
筑波大学において、医師主導治験として初発膠芽腫を対象とした国内第Ⅰ相試験が2024年1月に開始されました。本試験の主目的は、初発膠芽腫を対象にしたBNCTの安全性及び忍容性を評価することで、最大18症例を目標に非盲検、非対照試験で行われます。
対象は、WHO2016分類におけるIDH-wild type膠芽腫で、組織学的診断がつき、術後になお画像評価病変を有する初発膠芽腫の患者様であります。これまでSPM-011を用いたBNCTの臨床試験は、放射線治療歴のある患者様が中心でしたが、本試験では、初めて全ての患者様で放射線治療歴がない患者様を対象とした試験となります。さらに本試験では、BNCT施行後に膠芽腫の標準治療であるⅩ線とテモゾロミドを組み合わせた治療を受ける試験デザインとなり、SPM-011を用いたBNCTの臨床試験では、初めて他治療との組み合わせを前提とした試験デザインとなります。
なお、本試験は筑波大学が開発した加速器中性子捕捉療法装置「iBNCT」を用いて実施しております。
⑤ SPM-011[対象疾患:胸部悪性腫瘍※16]
SPM-011の胸部悪性腫瘍への適応拡大のため、2024年6月に第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験の治験計画届をPMDAに提出いたしました。この治験を進めるにあたり、国立研究開発法人国立がん研究センター、住友重機械工業㈱並びに㈱CICSと胸部固形悪性腫瘍患者に対する第Ⅰ/Ⅱ相バスケット試験※17に係る契約を締結しております。本治験は、BNCTとして世界初となる胸部に発生する複数の癌を対象にした治験になります。中性子が照射される正常組織を共通化する事で複数の癌をグループ化できたことから、個別の癌に対する治験をそれぞれ実施する場合と比較して開発期間が短縮されることを期待しております。あわせて、BNCTの施行前に[18F]FBPA-PET※18検査によるBNCTの適否判定を組み込むことで、将来において患者様にあわせた最適な治療を検討することが可能になるものと期待しております。
開発パイプラインは、治験実績及び臨床研究データを吟味した上で、BNCTの効果が高いと想定される疾患を慎重に選定し、ステボロニン®の更なる適応拡大を図ります。
(4)事業戦略
当社は、BNCTの医療技術を軸に加速器メーカーと共同でステボロニン®の適応拡大に向けた研究開発及び臨床試験を実施し、開発パイプラインの拡充を進めてまいります。またステボロニン®の医薬品製造販売承認を取得したことに伴い、国内ではBNCTによる医療技術や治療実績の認知度向上と加速器の普及を目指して事業を展開してまいります。認知度の向上に向けては医療施設や大学等の研究機関への訪問活動を通じてステボロニン®の有効性や安全性に係る医療情報の提供を充実させていくとともに、学会や講演会を通じて、より効果的な事業活動を展開してまいります。
海外では日本で承認を得た疾患を対象に、米国、欧州及びアジアを中心に承認取得を目指すとともに、各国のレギュレーションに通じた製薬企業等との連携によるアライアンスモデルを計画しており、パートナー企業の選定に取り組んでまいります。そして、特に成長が見込まれる海外のオンコロジー領域におけるステボロニン®の適応拡大は当社における重要な成長戦略と位置づけ、経営資源の重点配分を行ってまいります。
当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであり、事業の系統図は下記のとおりです。
(5)開発戦略
当社では、研究開発拠点であるさかい創薬研究センターでステボロニン®の適応拡大等に向けた研究開発に取り組んでおります。またBNCTの拡張戦略として、[18F]-FBPA-PETに使用するPET薬剤の開発についても加速器メーカーと共同で取り組んでおります。[18F]-FBPA-PETは核医学検査の一つで、BNCTの有効成分であるボロファラン(10B)をPET核種である18Fで標識化することで、腫瘍の位置や範囲を画像として得ることができるだけでなく、ホウ素薬剤が腫瘍にどの程度取り込まれているかを検知することでBNCTの有効性をあらかじめ確認することが期待できます。
今後、BNCTの適応疾患の拡大を図る上で、[18F]-FBPA-PETの開発は重要な役割を担っております。
<語句説明>
※1「頭頸部癌」
頭頸部とは、脳の下側の顔面から鎖骨までの部分を指し、頭頸部癌とは、この範囲に含まれる鼻、口、のど、上あご、下あご、耳等にできるがんのことです。頭頸部癌は全てのがんの約5%程度と考えられており、がんが発生する部位の種類が多く、発生原因、治療法、予後が異なることが特徴とされています。頭頸部には人間が生きる上で必要な器官が集中しており、その機能を温存できる治療法の確立が求められています。
※2「先駆け審査指定制度」
一定の要件を満たす新薬等について、厚生労働省が、開発の比較的早期の段階から薬事承認に係る相談・審査
等において優先的な取扱いを行う制度です。具体的には、「①治療薬の画期性、②対象疾患の重篤性、③対象疾
患にかかる極めて高い有効性、④世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思」の4つの要件を満たす画期的
な新薬等を開発段階で対象品目に指定し、新たに整備された相談の枠組みを優先的に適用し、かつ優先審査を適
用することにより、審査期間を6ヶ月(通常は12ヶ月)まで短縮することを目指すものとされています。
なお、先駆け審査指定制度においては、対象品目の指定時に予定される効能又は効果も指定されることから、
製造販売承認取得後に適応疾患を拡大する際には同制度の対象外となります。当社は、再発悪性神経膠腫と切除
不能な局所再発頭頸部癌並びに局所進行頭頸部癌(非扁平上皮癌)について、対象品目の指定を受けています。
※3「ボロファラン(10B)」
「4-ボロノ-L-フェニルアラニン(L-BPA)」と呼ばれるホウ素化合物であり、分子内にホウ素原子を一つ持っています。
※4「フェニルアラニン」
タンパク質を構成するアミノ酸で、食品中のタンパク質に多く含まれている必須アミノ酸の一つです。
※5「チロシン」
タンパク質を構成するアミノ酸で、動物の体内ではフェニルアラニンから合成されます。
※6「LAT-1」
L-type amino acid transporter-1(L型アミノ酸トランスポーター1)の略称です。
細胞の増殖等に必要なアミノ酸の輸送に関わるタンパク質をアミノ酸トランスポーターと呼びます。アミノ酸トランスポーターは正常細胞にも存在しますが、LAT-1は多くのがん細胞に選択的かつ高発現するアミノ酸トランスポーターであり、フェニルアラニンやチロシンを輸送します。
※7「悪性神経膠腫」
神経膠腫とは、脳に発生する悪性腫瘍で原発性脳腫瘍の約30%を占めます。神経膠腫は、その悪性度によって4段階(グレードⅠ~Ⅳ)に分類され、中でもグレードⅢ~Ⅳに分類される悪性度が高い神経膠腫を悪性神経膠腫と呼びます。
※8「無作為化非盲検比較試験」
無作為化非盲検比較試験とは対象者を無作為に2つ以上の群に分け、一方には従来の治療法を、もう一方には新規の治療法を行い、事後の健康状態を観察し、比較することで治療法などの効果を検証するものであるが、被験者がどの治療群に割付けられたかについては、試験に関わっている医師等の医療関係者、被験者、解析者等に知られている試験です。
※9「医師主導治験」
医師主導治験とは、製薬企業等と同様に医師自ら治験を企画・立案し、治験計画届を提出して実施する治験を指します。
※10「希少疾病用医薬品」
厚生労働大臣から希少疾病用医薬品として指定を受け、優先的に審査される医薬品です。指定には、当該医薬品の用途に係る対象者数が本邦において5万人未満であること、重篤な疾病を対象とするとともに、代替する適切な医薬品または治療法がない、又は、既存の医薬品と比較して著しく高い有効性または安全性が期待される、医療上の必要性が高いこと、対象疾病に対して当該医薬品を使用する理論的根拠があること、その開発に係る計画が妥当であると認められることが必要とされています。希少疾病用医薬品の指定を受けると、製造販売承認審査手続きにおける優先審査、国からの研究開発費の助成が受けられるなどの優遇措置が付与されます。
※11「高悪性度髄膜腫」
髄膜とは脳と脊髄を保護している薄い組織層で、髄膜腫とはその内側の層の一つにできるがんのことです。髄膜腫は良性であることが多く、高悪性度髄膜腫は希少疾患である一方で、再発や転移を起こしやすい、治りにくい腫瘍の一つです。
※12「ランダム化比較試験」
ランダム化比較試験とは対象者を無作為(ランダム)に2つ以上の群に分け、一方には従来の治療法を、もう一方には新規の治療法を行い、事後の健康状態を観察し、比較することで治療法などの効果を検証する試験です。
※13「悪性黒色腫」
悪性黒色腫は皮膚がんの一つで、単に黒色腫又はメラノーマと呼ばれることもあります。皮膚の色と関係するメラニン色素を産生する皮膚の細胞で、表皮の基底層に分布しているメラノサイト又は母斑細胞が悪性化した腫瘍と考えられています。
※14「血管肉腫」
血管肉腫とは、血管の内皮細胞から発生するがんのことです。体のいたるところにできる可能性があり、皮膚に生じることが多いがんです。
※15「膠芽腫」
神経膠腫のうち、悪性度が高い神経膠腫を悪性神経膠腫と呼び、特にグレードⅣの神経膠腫を膠芽腫と呼びます。膠芽腫を含む悪性神経膠腫は、現在なお治療が困難な疾患とされています。
※16「胸部悪性腫瘍」
甲状腺より下、横隔膜より上に存在する悪性腫瘍であり、乳癌・非小細胞性肺癌・食道癌・悪性胸膜中皮腫などを対象としています。
※17「バスケット試験」
単一の治療法を用いた複数の疾患を対象とした試験であり、通常特定の遺伝子異常等を有するがんの患者集団で複数のがん腫に対して横断的に薬剤の臨床評価を実施する試験です。現在計画しているバスケット試験では、SPM-011の取り込みの期待ができる複数のがん腫を横断的に評価する計画です。
※18「[18F]FBPA-PET」
BNCTに使用するホウ素化合物L-4ボロノフェニルアラニン(BPA)の標的腫瘍内への選択的ホウ素集積量を測定する[18F]FBPA(2-フルオロ-4-ボロノフェニルアラニン)を用いたPET検査です。
業績
4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1)経営成績等の状況の概要
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 財政状態の状況
(資産)
当事業年度末における流動資産は5,243,479千円となり、前事業年度末に比べ1,614,187千円増加いたしました。これは、現金及び預金が1,153,767千円、売掛金が638,438千円、仕掛品が95,833千円、製品が18,694千円増加した一方で、有価証券が300,943千円減少したことが主な要因であります。
固定資産は173,625千円となり、前事業年度末に比べ17,705千円減少いたしました。これは、有形固定資産が15,006千円、無形固定資産が3,287千円減少したことが主な要因であります。
この結果、総資産は、5,417,104千円となり、前事業年度末に比べ1,596,482千円増加いたしました。
(負債)
当事業年度末における流動負債は390,444千円となり、前事業年度末に比べ65,155千円減少いたしました。これは、未払法人税等が4,222千円が増加した一方で、買掛金が52,976千円、未払金が18,899千円減少したことが主な要因であります。
固定負債は1,819,175千円となり、前事業年度末に比べ831,164千円増加いたしました。これは、預り保証金が1,000,000千円増加した一方で、長期借入金が165,152千円、長期未払金が12,636千円減少したことが要因であります。
この結果、負債合計は、2,209,619千円となり、前事業年度末に比べ766,009千円増加いたしました。
(純資産)
当事業年度末における純資産は3,207,485千円となり、前事業年度末に比べ830,473千円増加いたしました。これは、新株予約権の行使による新株の発行により資本金と資本準備金がそれぞれ476,549千円、当社従業員を割当先とする譲渡制限付株式制度の導入による新株の発行により資本金及び資本準備金がそれぞれ12,586千円増加した一方で、当期純損失140,811千円を計上したことが主な要因であります。
この結果、自己資本比率は59.2%(前事業年度末は62.0%)となりました。
② 経営成績の状況
当事業年度における国内の医薬品業界は高齢化の進展による医療費の抑制、後発医薬品の普及や薬価制度の改定による薬価引き下げ等により、厳しい事業環境の中で推移いたしました。
このような事業環境のもと、当社は「中期経営計画2027」を当事業年度からスタートしましたが、初年度にあたる当事業年度において、売上高、営業利益は目標値を上回ることができました。あわせて、将来のBNCTの業容拡大を見据え、短期的な視点のみならず中長期的な視点で取り組みを進めました。
まず、開発パイプラインについて、血管肉腫は、第Ⅱ相臨床試験の主要評価に関する90日間の観察期間が完了いたしました。また、再発悪性神経膠腫ならびに再発髄膜腫を対象として、厚生労働省より希少疾病用医薬品の指定を受けました。次に、胸部悪性腫瘍については、第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験の治験計画届をPMDAに提出いたしました。この治験を進めるにあたり、国立研究開発法人国立がん研究センター、住友重機械工業㈱ならびに㈱CICSと胸部固形悪性腫瘍患者に対する第Ⅰ/Ⅱ相バスケット試験に係る契約の締結を行っております。
加えて、BNCTの更なる進化のため、より深い部分にある腫瘍への適応を目指して、学校法人藤田学園、Atransen Pharma㈱、住友重機械工業㈱、㈱フジタとBNCTによる深部腫瘍治療の研究開発を推進するための覚書を締結いたしました。
海外展開の活動として、米国バイオテクノロジー企業であるTAE LIFE SCIENCES US, LLCと欧米における臨床試験の実施を含めた共同開発および商業化の基本合意の契約を締結いたしました。開発地域については欧米を最初の対象とし両社合意のもと、順次対象国を広げていくこととし、対象疾患についても頭頸部癌に続いて日本で治療を実施している疾患なども視野に入れ、今後両社で協議のうえでBNCTの事業拡大を目指してまいります。
そして、当事業年度における短期的な事業活動としては、中国・海南島医療特区へのBNCT用ホウ素医薬品「ステボロニン®」の初回出荷を行い、第4四半期だけでみますと初の黒字化を達成し、経営成績に大きく貢献いたしました。
財政面においては2022年12月に発行した「第三者割当による第4回新株予約権」が2024年7月をもって全ての権利行使が完了いたしました。しかしながら、当初予定していた資金調達額に至らなかったことから、㈱三井住友銀行をアレンジャー兼エージェントとして、金融機関3行が参加するシンジケートローン契約を締結いたしました。
以上の結果、当事業年度の経営成績としては、売上高は海外向売上高の計上により、961,058千円(前事業年度比256.6%増)と大幅な増収となりました。利益面では増収要因に加えて、海外展開の本格的な活動が翌事業年度に持ち越しになったことなどにより、研究開発費をはじめとした販管費の減少もあり、営業損失は90,246千円(前事業年度の営業損失は760,300千円)となりました。経常損失は、シンジケートローン契約の締結により、アレンジメントフィー45,000千円が発生したこともあり、137,869千円(前事業年度の経常損失は760,208千円)、当期純損失は140,811千円(前事業年度の当期純損失は763,749千円)となりました。
なお、当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、3,161,471千円(前事業年度末は
2,012,233千円)となり、前事業年度末に比べ1,149,238千円増加いたしました。
当事業年度末における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において営業活動の結果獲得した資金は140,408千円(前年同期は876,837千円の支出)となりました。これは主に、アレンジメントフィーの計上45,000千円、減価償却費の計上34,723千円、預り保証金が1,000,000千円増加した一方で、税引前当期純損失137,869千円を計上、売上債権が638,438千円増加、棚卸資産が114,472千円増加、仕入債務が52,976千円減少したことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において投資活動の結果獲得した資金は287,576千円(前年同期は9,010千円の支出)となりました。これは主に、有価証券の償還による収入300,000千円となった一方で、有形固定資産の取得による支出3,913千円、無形固定資産の取得による支出8,500千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当事業年度において財務活動の結果獲得した資金は721,253千円(前年同期は228,353千円の収入)となりました。これは主に、長期借入れによる収入730,500千円、新株予約権の行使による株式の発行による収入941,828千円があった一方で、長期借入金の返済による支出946,520千円があったことによるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
当社は、医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を行っておりません。
a.生産実績
事業部門の名称 |
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
|
金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
医薬品事業 |
1,080,184 |
218.3 |
(注)金額は販売価格によっております。
b.受注実績
事業部門の名称 |
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
|||
受注高 (千円) |
前年同期比(%) |
受注残高 (千円) |
前年同期比(%) |
|
医薬品事業 |
629,969 |
- |
- |
- |
(注)当社は、前事業年度までは市場動向の予測に基づく見込み生産による国内販売のみを行っておりましたが、
当事業年度より受注生産による海外販売を開始しております。
c.販売実績
事業部門の名称 |
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
|
金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
医薬品事業 |
961,058 |
356.6 |
(注)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合
相手先 |
前事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当事業年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
||
金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
株式会社エス・ディ・コラボ |
269,491 |
100.0 |
331,089 |
34.5 |
PENGBO(HAINAN)MEDICAL TECHNOLOGY CO.,LTD. |
- |
- |
629,969 |
65.5 |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定につきましては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
② 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容につきましては、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に含めて記載しております。
③ 資本の財源及び資金の流動性
当社の運転資金は、新株式の発行と金融機関からの借入であります。当事業年度末における現金及び現金同等物は3,161,471千円であり、充分な流動性を確保しております。当社は、研究開発投資が資金需要の大部分を占めており、今後も継続して研究開発投資を実施する方針であります。必要な資金につきましては、自己資金のほか、新株式の発行や金融機関からの借入等により、資金調達を行う方針であります。
④ 経営戦略の現状と見通し
当社の経営上の目標は、BNCTの認知度の向上と上市後の安定的な収益の獲得及びそれに伴う事業基盤の確立であります。そこでBNCTの実施症例数の伸長に基づく月次売上高(ステボロニン®の受注数量)を上記目標の達成状況を判断するための主要な経営指標としております。
当事業年度の月次売上高の推移は次のとおりとなっております。
(単位:千円) |
|||||||
売上高 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
年間累計 |
23,099 |
15,399 |
23,099 |
46,198 |
23,099 |
38,498 |
961,058 |
|
10月 |
11月 |
12月 |
1月 |
2月 |
3月 |
||
15,399 |
- |
69,297 |
- |
38,498 |
668,467 |
今後もBNCTの認知度の向上と上市後の安定的な収益獲得が実現できるよう経営資源を重点的に配分してまいります。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3 事業等のリスク」をご参照下さい。
⑥ 経営者の問題意識と今後の方針
経営者の問題意識と今後の方針につきましては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。