2026年3月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります

(単一セグメント)
  • 売上
  • 利益
  • 利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 売上
(百万円)
売上構成比率
(%)
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 323 100.0 -749 - -231.6

3【事業の内容】

 当社は、企業理念として『ひとりのかけがえのない命のために、ステラファーマは世界の医療に新たな光を照らします。』を掲げ、「ひとりのかけがえのない命のために」それぞれの使命を実行することを行動指針の基盤とし、「世界の医療に新しい光を照らす」ことを経営目標の策定方針としております。

 当社は、この企業理念に基づき、がん患者に対する新たな治療の選択肢としてBNCTを実用化するため、創業以来、BNCT用ホウ素薬剤の研究及び開発に取り組んでまいりました。

 

(1)事業の特徴

① BNCTの医療技術

 BNCTとは、ホウ素の安定同位体であるB-10(天然ホウ素に約20%含まれる)とエネルギーの小さな熱中性子の核分裂反応を利用して、がん細胞を選択的に破壊する放射線治療の一つの手法であります。

 ホウ素の安定同位体であるB-10の原子核はエネルギーの低い低速の中性子(熱中性子)をよく吸収し、直ちにヘリウム原子核(He核(α粒子))とリチウム原子核(Li核)に分裂します。これら原子核は細胞を破壊する能力が非常に大きい一方で、影響を及ぼす範囲が4~9ミクロン(μm)と極めて短く、また、熱中性子自体の細胞破壊能力は小さいため、B-10を含む物質が、がん細胞に選択的に集積し、そこに熱中性子が照射されると、そのがん細胞は選択的に破壊されます。この原理に基づいて考案された医療技術がBNCTであります。

 BNCTは、その特徴として、『がん細胞を選択的に破壊』することができる治療法であることから、がん細胞と入り組む正常組織への影響が少なく、術後のQOL(Quality Of Life/生活の質)も従来の治療に比べて良好であることが期待されます。

 

[BNCTの治療イメージ]

 

② ビジネスモデルについて

 当社は、2020年3月に切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌※1を効能・効果として、ステボロニン®の医薬品製造販売承認を取得しました。それに伴い、既に加速器を設置している総合南東北病院、大阪医科薬科大学病院の2つの医療施設においてBNCTによる治療が実施されており、医薬品卸売業者を介した自販モデルによる収益化を実現しております。

 今後も加速器メーカーとの共同でステボロニン®の適応拡大に向けた研究開発及び臨床試験を継続していくと同時に、当社の製品は加速器メーカーとのコンビネーションプロダクトをベースとしていることから、BNCTの認知度向上と加速器の普及に向けた事業展開も並行的に進めることで、収益拡大を実現していくビジネスモデルであります。

 

(2)開発品の特徴

① 開発品の概要について

当社が、開発、製造及び販売するステボロニン®(開発品名:SPM-011)は、厚生労働省の実施する先駆け審査指定制度※2の対象品目に指定されており、2020年3月にBNCT用ホウ素薬剤として世界初となる医薬品製造販売承認を取得しております。

BNCTは、その性質上、中性子の発生装置となる医療機器と医薬品を組み合わせた治療法であり、患部に高い選択性で集積し、かつ効果的な反応が得られるホウ素薬剤が必要となります。

 

[ステボロニン®点滴静注バッグ 9000 mg/300 mL]

② 開発品の作用機序について

 天然ホウ素には、中性子数の異なるホウ素10(B-10)とホウ素11(B-11)の2種類が存在し、B-10は約20%の割合で存在しています。BNCTにおいて核分裂反応を起こすホウ素はB-10のみであるため、効果的なホウ素薬剤とするためには、B-10を高純度に濃縮し、より多く含有する製剤を作る必要があります。

 当社の開発品であるステボロニン®は、この高純度(99%以上)B-10を含むボロファラン(10B)※3を原薬として製造しております。ボロファラン(10B)は、必須アミノ酸であるフェニルアラニン※4又はチロシン※5と構造が似ているため、がん細胞特有のアミノ酸トランスポーターであるLAT-1※6を介してアミノ酸要求性の高いがん細胞に取り込まれます。これにより、がん細胞に選択的にB-10が集積し、かつ中性子線を照射した際により大きな効果を得ることが可能となります。

 

[ボロファラン(10B)の構造式とがん細胞への取込みの作用機序]

  

 

③ 開発品の競争優位性について

 B-10を高純度(99%以上)に濃縮する技術は、ステラケミファ株式会社(以下、「ステラケミファ」という。)が国内で唯一(世界でも2社のみ)保有しているものと認識しております。

 当社は、高純度(99%以上)まで濃縮されたB-10を原料として、原薬ボロファラン(10B)を製造し、さらにステボロニン®に製剤加工しております。原料についてはステラケミファとの間で独占期間を定めた取引基本契約を締結し、安定的に原料供給を受ける調達体制をとっております。また製剤処方にかかる特許権を複数取得しており、今後も周辺特許の申請を積極的に行っていく方針であります。ステボロニン®は臨床研究において従来使用されていたフルクトース製剤に比べ安定性に優れ、さらに36ヶ月という長期の品質有効期間を保ち、治療毎に製剤を調製する必要もなく、また「医薬品の製造管理及び品質管理の基準(GMPgrade)」に適合した製剤でもあります。

 この特徴に加え、当社における長年の研究開発期間と相当程度の投資は後発事業者にとっては大きな参入障壁になると考えております。また当社の開発品であるBNCT用ホウ素薬剤「SPM-011」は、厚生労働省の実施する先駆け審査指定制度の対象品目に指定されており、2020年3月にステボロニン®として医薬品製造販売承認を取得したことは、後発事業者が同制度の対象品目に指定されるには治療薬の画期性が要件として求められるため参入障壁になると考えられることから、当社の競争優位性は一定程度維持できると認識しております。

 この競争優位性を維持しながら、ステボロニン®を「世界初、日本発」の医薬品として、治療を待つ患者様に一日でも早くお届けできることを目標として事業を推進してまいります。

 

[ステボロニン®の製造フロー]

 

(3)事業戦略

 当社は、BNCTの医療技術を軸に加速器メーカーと共同でステボロニン®の適応拡大に向けた研究開発及び臨床試験を実施し、開発パイプラインの拡充を進めてまいります。また、ステボロニン®の医薬品製造販売承認を取得したことに伴い、国内ではBNCTによる医療技術や治療実績の認知度向上と加速器の普及を目指して事業を展開してまいります。認知度の向上に向けては医療施設や大学等の研究機関への訪問活動を通じて、ステボロニン®の有効性や安全性に係る医療情報の提供を充実させていくとともに、学会や講演会を通じて、より効果的な事業活動を展開してまいります。

 海外では日本で承認を得た疾患を対象に、米国、欧州及びアジアを中心に承認取得を目指すとともに、各国のレギュレーションに通じた製薬企業等との連携によるアライアンスモデルを計画しており、パートナー企業の選定に取り組んでまいります。そして、特に成長が見込まれる海外のオンコロジー領域におけるステボロニン®の適応拡大は当社における重要な成長戦略と位置づけ、経営資源の重点配分を行ってまいります。

 

 当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであり、事業の系統図は下記のとおりです。

 

(4)開発戦略

 当社では、研究開発拠点であるさかい創薬研究センターでステボロニン®の適応拡大等に向けた研究開発に取り組んでおります。またBNCTの拡張戦略として、[18F]-FBPA-PETに使用するPET薬剤の開発についても加速器メーカーと共同で取り組んでおります。[18F]-FBPA-PETは核医学検査の一つで、BNCTの有効成分であるボロファラン(10B)をPET核種である18Fで標識化することで、腫瘍の位置や範囲を画像として得ることができるだけでなく、ホウ素薬剤が腫瘍にどの程度取り込まれているかを検知することでBNCTの有効性をあらかじめ確認することが期待できます。

 今後、BNCTの適応疾患の拡大を図るうえで、[18F]-FBPA-PETの開発は重要な役割を担っております。

 

<語句説明>

※1「頭頸部癌」

 頭頸部とは、脳の下側の顔面から鎖骨までの部分を指し、頭頸部癌とは、この範囲に含まれる鼻、口、のど、上あご、下あご、耳等にできるがんのことです。頭頸部癌は全てのがんの約5%程度と考えられており、がんが発生する部位の種類が多く、発生原因、治療法、予後が異なることが特徴とされています。頭頸部には人間が生きるうえで必要な器官が集中しており、その機能を温存できる治療法の確立が求められています。

 

※2「先駆け審査指定制度」

  一定の要件を満たす新薬等について、厚生労働省が、開発の比較的早期の段階から薬事承認に係る相談・審査

 等において優先的な取扱いを行う制度です。具体的には、「①治療薬の画期性、②対象疾患の重篤性、③対象疾

 患にかかる極めて高い有効性、④世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思」の4つの要件を満たす画期的

 な新薬等を開発段階で対象品目に指定し、新たに整備された相談の枠組みを優先的に適用し、かつ優先審査を適

 用することにより、審査期間を6ヶ月(通常は12ヶ月)まで短縮することを目指すものとされています。

  なお、先駆け審査指定制度においては、対象品目の指定時に予定される効能又は効果も指定されることから、

 製造販売承認取得後に適応疾患を拡大する際には同制度の対象外となります。当社は、再発悪性神経膠腫と切除

 不能な局所再発頭頸部癌並びに局所進行頭頸部癌(非扁平上皮癌)について、対象品目の指定を受けています。

 

※3「ボロファラン(10B)」

 「4-ボロノ-L-フェニルアラニン(L-BPA)」と呼ばれるホウ素化合物であり、分子内にホウ素原子を一つ持っています。

 

※4「フェニルアラニン」

 タンパク質を構成するアミノ酸で、食品中のタンパク質に多く含まれている必須アミノ酸の一つです。

 

※5「チロシン」

 タンパク質を構成するアミノ酸で、動物の体内ではフェニルアラニンから合成されます。

 

※6「LAT-1」

 L-type amino acid transporter-1(L型アミノ酸トランスポーター1)の略称です。

 細胞の増殖等に必要なアミノ酸の輸送に関わるタンパク質をアミノ酸トランスポーターと呼びます。アミノ酸トランスポーターは正常細胞にも存在しますが、LAT-1は多くのがん細胞に選択的かつ高発現するアミノ酸トランスポーターであり、フェニルアラニンやチロシンを輸送します。

 

業績状況

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態の状況

(資産)

当事業年度末における流動資産は4,353,125千円となり、前事業年度末に比べ890,353千円減少いたしました。これは、仕掛品が98,392千円、原材料及び貯蔵品が16,682千円増加した一方で、現金及び預金が383,465千円、売掛金が646,908千円減少したことが主な要因であります。

固定資産は133,569千円となり、前事業年度末に比べ40,056千円減少いたしました。これは、有形固定資産が19,424千円、無形固定資産が6,526千円、長期前払費用が17,678千円減少したことが主な要因であります。

この結果、総資産は4,486,694千円となり、前事業年度末に比べ930,410千円減少いたしました。

 

(負債)

当事業年度末における流動負債は259,960千円となり、前事業年度末に比べ130,483千円減少いたしました。これは、未払金が109,867千円、未払法人税等が4,482千円減少したことが主な要因であります。

固定負債は1,800,165千円となり、前事業年度末に比べ19,009千円減少いたしました。これは、長期借入金が19,640千円減少したことが主な要因であります。

この結果、負債合計は2,060,126千円となり、前事業年度末に比べ149,492千円減少いたしました。

 

(純資産)

 当事業年度末における純資産は2,426,568千円となり、前事業年度末に比べ780,917千円減少いたしました。これは、当期純損失780,917千円を計上したことが要因であります。

この結果、自己資本比率は54.1%(前事業年度末は59.2%)となりました。

 

② 経営成績の状況

 当事業年度における国内の医薬品業界においては、新薬創出の難易度が高まり、研究開発費負担が増大するとともに、医療費抑制の圧力が高まるなど、新薬開発型企業にとっては厳しい事業環境が継続しております。

 このような事業環境の中、当社はアンメットメディカルニーズの高い疾患領域において、将来のBNCTの業容拡大を見据えて、短期的な視点のみならず中長期的な視点で取り組みを進めております。

 

 販売面においては、国内では、関連学会に対する学術講演会やセミナーを積極的に開催し、医療関係者の方々との関係構築とBNCTの認知度向上による症例数の増加に向けた取り組みを継続するとともに、住友重機械工業と同社が製造・開発・販売を行うBNCT用加速器の国内の医療機関等への導入に関するパートナーシップ契約を締結し、同社との関係をより強固なものとしました。また、海外では、当社がBNCT用ホウ素医薬品ステボロニン®の供給等を行っている中国・海南博鰲(ボアオ)楽城国際医療旅遊先行区の鵬博(海南)BNCTセンターが2026年2月7日に開院し、2026年3月19日には頭頸部癌を対象としたBNCTでの第一例目の患者様への治療が行われました。当センターにおける実臨床データは、関連規定に沿った管理、研究、分析、評価等を行うことで中国本土での承認申請にも活用することができることから、引き続きBNCTの中国展開を推し進めてまいります。

 

 開発パイプラインの進捗に関しては、再発髄膜腫を対象として、2026年3月に厚生労働省に製造販売承認事項の一部変更申請を行いました。2024年9月に再発髄膜腫を対象として厚生労働省から希少疾病用医薬品※1の指定を受けており、さらに2026年2月には独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、「PMDA」という。)から優先審査の適用対象に該当するとの判断を受けていることから、通常申請と比べて審査期間が短縮される見込みであります。同じく2026年3月には血管肉腫についても、厚生労働省に製造販売承認事項の一部変更申請を行いました。血管肉腫も2023年12月に厚生労働省から希少疾病用医薬品の指定を受けていることで、同様に審査手続きにおいて優先審査を受けることができ、一般的な医薬品よりも短い期間で審査が進められる見込みであります。再発悪性神経膠腫については、大阪医科薬科大学及び住友重機械工業との間で2026年1月に契約を締結し、大阪医科薬科大学が実施する再発悪性神経膠腫を対象とした医師主導第Ⅲ相試験に必要な治験薬を無償で提供し、協力することにしました。

 胸部固形悪性腫瘍については、2026年2月にAMEDの令和8年度「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」において研究開発課題名『切除不能な進行再発食道癌に対するBNCT用ホウ素医薬品の開発(ボロファラン(10B))』が採択され、2026年4月1日から2029年3月31日までの3年間で最大約2.8億円の補助を受けることができるようになりました。

 将来の市場をさらに拡大すべく、中長期的な視点での新たな取り組みも進めております。住友重機械工業、学校法人藤田学園 藤田医科大学他と協力し、次世代BNCTシステムの開発を含め、深さの制限を緩和するとともに、より深部のがんへの適応が可能になるような研究開発を進めております。また、医療法人徳洲会 湘南鎌倉総合病院との間で、当医院におけるFBPA-PET※2陽性の難治性悪性腫瘍患者を対象として、BNCTの有効性及び安全性を検討することを目的とした研究を実施するにあたり、使用される薬剤を供給する契約を2026年2月に締結しました。

 

 研究開発活動に関しては、AMEDの次世代がん医療加速化研究事業の支援を受けた国立大学法人東京大学との共同研究により、「液体のり」に使用されるポリビニルアルコールを用いた新規BNCT用製剤の開発に関連する研究成果が得られました。また、京都大学複合原子力科学研究所、関西医科大学附属光免疫医学研究所との共同研究で、がん細胞に高発現するアミノ酸輸送体LAT1を標的とした新しいPET用診断薬5-[18F]F-αMe-3BPAを開発し、その有効性を動物モデルで実証しました。

 

 製造面においては、2025年9月に主要な製造委託先の準自己破産に伴い製造体制の見直しを余儀なくされましたが、新たな国内製造委託先との間で製造技術移管に関する開発委受託契約を2025年10月に締結し、2027年3月期中の本格的な製造開始を目指し、安定供給体制の再構築を最優先課題として、市場への製品供給維持に向けた取り組みを継続しております。製造移管の進捗としては、当初の予定通り2025年12月末までにパイロットプラント※3での試作を完了しております。

 

 財政面においては、今後の研究開発及び事業基盤整備を着実に推進するために必要な資金を確保することを目的として、2026年3月に米国の機関投資家との間で株式及び新株予約権発行プログラムの設定に係るエクイティ・プログラム契約を締結し、第三者割当による新株式及び新株予約権を発行することを決定しました。

 

 以上の結果、当事業年度の経営成績は、売上高は前期に計上された海外向売上高が計上されなかったこともあり、323,389千円(前事業年度比66.4%減)と大幅な減収となりました。利益面では減収要因に加えて、人件費や研究開発費等の販売費及び一般管理費の増加もあり、営業損失は748,957千円(前事業年度の営業損失は90,246千円)、経常損失は778,005千円(前事業年度の経常損失は137,869千円)、当期純損失は780,917千円(前事業年度の当期純損失は140,811千円)となりました。

 

(開発パイプラインの状況)

1.SPM-011 〔対象疾患:再発悪性神経膠腫〕

 再発悪性神経膠腫については、2017年4月に厚生労働省の先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、2020年7月に第Ⅱ相試験の治験終了届を提出しました。当該治験の主要評価項目は、BNCT施術の1年後における生存割合とし、安全性及び有効性の評価をしております。その結果、再発膠芽腫※424例の1年生存率が79.2%となり、試験開始前の設定期待値60%を超える結果となりました。当該試験結果をもって、先駆け審査指定制度の枠組みにおいてPMDAと一部変更申請に向けた協議を行っておりましたが、大阪医科薬科大学が提案する再発膠芽腫患者を対象としたBNCTの無作為化非盲検比較試験※5に関する研究開発課題が、AMEDが公募していた『令和7年度「革新的がん医療実用化研究事業」』に2025年3月に採択されたことを受け、当該第Ⅲ相医師主導治験※6に協力することで、その治験を踏まえて承認申請を目指す開発方針に変更することにしました。また、初発への展開については、別途、筑波大学が実施している第Ⅰ相医師主導治験に協力することで進めてまいります。

 なお、2024年9月に再発悪性神経膠腫を対象として、厚生労働省より希少疾病用医薬品の指定を受けております。

 

2.SPM-011 〔対象疾患:再発高悪性度髄膜腫〕

 大阪医科薬科大学病院において、医師主導治験としていた第Ⅱ相臨床試験は2024年2月に全例の主要評価に関する観察が終了しました。当該試験はAMEDの支援を受けて実施されたものであり、加速器を用いたBNCTとしては世界初のランダム化比較試験※7になります。当該試験の主要評価項目である第三者組織の判定に基づく無増悪生存期間※8において試験治療群が14.4ヶ月(95%信頼区間※9:7.93-26.8)であったのに対して、比較対照群は1.4ヶ月(95%信頼区間:0.93-9.13)となり、統計学的に有意な差(p=0.0157、Log-rank検定)が認められました。また副次的評価項目として設定された奏効率※10については試験治療群で27.3%の奏効が確認された一方、比較対照群では奏効は確認されませんでした。さらに、試験治療群の生存率について、1年生存率は100%、2年生存率は90.9%という良好なデータが得られたことで、本薬剤の有効性と安全性が示されました。以上のような良好な結果に基づき、2026年3月に再発髄膜腫を対象として、厚生労働省に製造販売承認事項の一部変更申請を行いました。

 なお、2024年9月に再発髄膜腫を対象として、厚生労働省より希少疾病用医薬品の指定を受けております。さらに、2026年2月にはPMDAから希少疾病用医薬品として優先審査及び優先相談の適用対象に該当する旨の評価報告を受領しております。

 

3.SPM-011 〔対象疾患:悪性黒色腫及び血管肉腫〕

 2022年11月に開始した血管肉腫を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験は、2025年7月に主要評価項目を達成しました。当該試験は、CICSが開発した加速器中性子捕捉療法装置「CICS-1」とSPM-011を用いたBNCTの奏効率を評価することを主たる目的として、国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院において、化学放射線療法や放射線治療が困難な局所進行又は局所再発の患者様を対象とし、主要評価項目をBNCT施行日から90日以内の画像中央判定※11による奏効率と設定した症例数10例の単群治験※12で実施されました。その結果、BNCTを受けた10例のうち、部分奏効が3例、完全奏効が2例の奏効率50.0%(90%信頼区間:22.2%~77.8%)を示し、90%信頼区間の下限値が臨床試験の計画時に設定した達成基準を満たしたことから、本試験の主要評価項目を達成しました。あわせて、無増悪生存期間をBNCT施行日から病勢の進行、又は死亡が最初に確認されるまでの期間と定義していましたが、無増悪生存期間中央値は6.3ヶ月(95%信頼区間:0.6~推定不能)となりました。また、安全性についても重篤な副作用等は認められず、新たな懸念等もありませんでした。以上のような有効性と安全性が示された良好な結果に基づき、2026年3月に血管肉腫を対象として、厚生労働省に製造販売承認事項の一部変更申請を行いました。

 なお、2023年12月に切除不能な皮膚血管肉腫を対象として、厚生労働省より希少疾病用医薬品の指定を受けております。

 また、第Ⅰ相臨床試験が完了している悪性黒色腫については、局所に限定した疾患から適応を広げることも含めて開発計画を検討していく予定をしております。

 

4.SPM-011 〔対象疾患:初発膠芽腫〕

 筑波大学において、医師主導治験として初発膠芽腫を対象とした国内第Ⅰ相試験が2024年1月に開始されました。当該試験の主目的は、初発膠芽腫を対象にしたBNCTの安全性及び忍容性を評価することで、最大18症例を目標に非盲検・非対照試験で行われております。

 対象は、WHO2016分類におけるIDH-wild type※13膠芽腫で、組織学的診断がつき、術後になお画像評価病変を有する初発膠芽腫の患者様です。これまでSPM-011を用いたBNCTの臨床試験は放射線治療歴のある患者様が中心でしたが、当該試験では、放射線治療歴がない患者様のみを対象とした試験となります。さらに当該試験では、BNCT施行後に膠芽腫の標準治療であるⅩ線とテモゾロミドを組み合わせた治療を受ける試験デザインとなり、SPM-011を用いたBNCTの臨床試験では、初めて他治療との組み合わせを前提とした試験デザインとなります。

 なお、当該試験は筑波大学が開発した加速器中性子捕捉療法装置「iBNCT」を用いて実施しております。

 

5.SPM-011 〔対象疾患:胸部悪性腫瘍〕

 SPM-011の胸部悪性腫瘍への適応拡大のため、第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験の第1例目の被験者の治験を2025年4月に開始しました。当該治験を進めるにあたり、国立研究開発法人国立がん研究センター、住友重機械工業並びにCICSと胸部固形悪性腫瘍患者に対する第Ⅰ/Ⅱ相バスケット試験※14に係る契約を締結しております。当該治験は、BNCTとして世界初となる胸部に発生する複数の癌を対象にした治験であり、中性子が照射される正常組織を共通化することで複数の癌をグループ化できたことから、個別の癌に対する治験をそれぞれ実施する場合と比較して開発期間が短縮されることを期待しております。胸部悪性腫瘍は初回治療で標準治療が施行された場合、再発時には薬物療法のみが選択され、選択可能な局所治療が無い状況となっております。そうした状況の中、BNCTがアンメットメディカルニーズを満たすことが出来るよう、開発を進めてまいります。なお、当該治験実施期間は、2028年10月までを予定しております。あわせて、当該治験ではBNCTの施行前に[18F]FBPA-PET検査によるBNCTの適否判定を組み込むことで、将来において患者様にあわせた最適な治療を検討することが可能になるものと期待しております。

 なお、AMEDの令和8年度「創薬支援推進事業・希少疾病用医薬品指定前実用化支援事業」に「切除不能な進行再発食道癌に対するBNCT用ホウ素医薬品の開発(ボロファラン(10B))」が採択されたことにより、2026年4月1日から2029年3月31日までの3年間で最大約2.8億円の補助を受けることができるようになりました。

 

<語句説明>

※1  希少疾病用医薬品

 希少疾病用医薬品とは、厚生労働大臣から指定を受け、優先的に審査される医薬品です。指定には、当該医薬品の用途に係る対象者数が本邦において5万人未満であること、重篤な疾病を対象とするとともに、代替する適切な医薬品もしくは治療法がない、又は既存の医薬品と比較して著しく高い有効性もしくは安全性が期待されるなど医療上の必要性が高いこと、対象疾病に対して当該医薬品を使用する理論的根拠があること、その開発に係る計画が妥当であると認められることが必要とされています。希少疾病用医薬品の指定を受けると、製造販売承認審査手続きにおける優先審査や国からの研究開発費の助成が受けられるなどの優遇措置が付与されます。

 

※2  FBPA-PET

 BNCTに使用するホウ素薬剤ボロファランの標的腫瘍内への選択的ホウ素集積量を測定する[18F]FBPA(2-フルオロ-4-ボロノフェニルアラニン)を用いたPET検査です。この検査では、BNCTにおいてがん細胞を狙い撃ちするために必要なボロファランが、がん細胞にどれだけ集積するかを画像診断により事前に確認することを目的としています。

 

※3  パイロットプラント

 商用製造を見据え、製造条件の確認及び品質評価を目的として使用する試作製造設備です。

 

※4  膠芽腫

 神経膠腫のうち、悪性度が高い神経膠腫を悪性神経膠腫と呼び、特にグレードⅣの神経膠腫を膠芽腫と呼びます。膠芽腫を含む悪性神経膠腫は、現在なお治療が困難な疾患とされています。

 

※5  無作為化非盲検比較試験

 無作為化非盲検比較試験とは、対象者を無作為に2つ以上の群に分け、一方には従来の治療法を、もう一方には新規の治療法を行い、事後の健康状態を観察し、比較することで治療法などの効果を検証する試験で、被験者がどの治療群に割付けられたかについては、試験に関わっている医師等の医療関係者、被験者、解析者等に知られている試験です。

 

※6  医師主導治験

 医師主導治験とは、医師が自ら医薬品の製造販売承認のための臨床試験を企画・立案し、治験計画届を提出して実施する臨床試験です。得られた臨床データは、被験薬を提供した製薬会社が引き継ぎ、当該医薬品の薬事承認申請に活用されます。

 

※7  ランダム化比較試験

 ランダム化比較試験とは、対象者を無作為(ランダム)に2つ以上の群に分け、一方には従来の治療法を、もう一方には新規の治療法を行い、事後の健康状態を観察し、比較することで治療法などの効果を検証する試験です。

 

※8  無増悪生存期間

 無増悪生存期間とは、がん治療の効果を測る指標の一つで、治療開始からがんの進行や再発が確認されるまでの期間、又は患者が亡くなるまでの期間のことです。

 

※9  信頼区間

 一般的に臨床試験などの結果は誤差やバイアスを含むため、正確な結果(真の値)を推定するために統計学的な解析を行いますが、当該試験では真の値がどの範囲に含まれるかを推定する解析方法を用いました。信頼区間とは、統計学で母集団の真の値が含まれることがかなり確信できる範囲のことであり、「90%信頼区間:22.2%~77.8%」とは、被験者を変えて当該試験を繰り返し行った際に、90%の割合で試験結果である奏効率の真の値が22.2%~77.8%の区間に含まれることを表しています。

 

※10  奏効率

 奏効率とは、治療の効果を評価する際に用いられる指標で、臨床試験で治療を受けた症例のうち、部分奏効(治療開始時より腫瘍が全体の30%以上縮小した状態)、又は完全奏効(腫瘍が完全に消失し、検査で腫瘍が確認できない状態)となった症例の割合を表します。

 

※11  画像中央判定

 画像中央判定とは、医薬品の臨床試験において画像評価の客観性や均一性を確保するため、独立した検査機関(中央検査機関)で有効性や安全性を評価する方法です。

 

※12  単群治験

 単群治験とは、臨床試験において被験者を複数の群に分けて比較する試験とは異なり、対象群を設けずにすべての被験者を同一の条件とし、その効果を検証する試験です。

 

※13  IDH-wild type

 細胞のエネルギー代謝に関与する酵素をコードするIDH1/2遺伝子に変異が無いことを意味します。IDH遺伝子に変異がない神経膠芽腫は再発が早く、予後が不良とされています。

 

※14  バスケット試験

 バスケット試験とは、単一の治療法を用いた複数の疾患を対象とした試験であり、通常特定の遺伝子異常等を有するがんの患者集団で、複数の癌腫を横断的に薬剤の臨床評価を実施する試験です。現在計画しているバスケット試験では、SPM-011の取り込みの期待ができる複数の癌腫を横断的に評価する計画です。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当事業年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、2,778,006千円(前事業年度末は3,161,471千円)となり、前事業年度末に比べ383,465千円減少いたしました。当事業年度末における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当事業年度において営業活動の結果、使用した資金は334,514千円(前事業年度末は140,408千円の収入)となりました。これは主に、棚卸資産が65,048千円増加した一方で、売上債権が646,908千円減少、未払金が128,562千円減少し、税引前当期純損失778,005千円を計上したことによるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度において投資活動の結果、使用した資金は15,671千円(前事業年度末は287,576千円の収入)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出10,803千円、敷金及び保証金の差入による支出4,018千円によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度において財務活動の結果、使用した資金は33,279千円(前事業年度末は721,253千円の収入)となりました。これは主に、長期借入れによる収入139,000千円があった一方で、長期借入金の返済による支出158,640千円によるものであります。

 

 

④ 生産、受注及び販売の実績

 当社は、医薬品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を行っておりません。

a.生産実績

事業部門の名称

当事業年度

(自 2025年4月1日

至 2026年3月31日)

金額(千円)

前年同期比(%)

医薬品事業

(注)1.金額は販売価格によっております。

2.当事業年度は主要な製造委託先の準自己破産に伴い製造体制の見直しを行っているため、生産実績はありません。

 

b.受注実績

事業部門の名称

当事業年度

(自 2025年4月1日

 至 2026年3月31日)

受注高

(千円)

前年同期比(%)

受注残高

(千円)

前年同期比(%)

医薬品事業

(注)当事業年度は主要な製造委託先の準自己破産に伴い製造体制の見直しを行っているため、受注生産による海外販売実績はありません。

 

c.販売実績

事業部門の名称

当事業年度

(自 2025年4月1日

至 2026年3月31日)

金額(千円)

前年同期比(%)

医薬品事業

323,389

33.6

 

(注)主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合

相手先

前事業年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

当事業年度

(自 2025年4月1日

至 2026年3月31日)

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

株式会社エス・ディ・コラボ

331,089

34.5

323,389

100.0

PENGBO(HAINAN)MEDICAL TECHNOLOGY CO.,LTD.

629,969

65.5

 

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。

 

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定につきましては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

② 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容につきましては、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に含めて記載しております。

 

③ 資本の財源及び資金の流動性

 当社の運転資金は、新株式の発行と金融機関からの借入であります。当事業年度末における現金及び現金同等物は2,778,006千円であり、充分な流動性を確保しております。当社は、研究開発投資が資金需要の大部分を占めており、今後も継続して研究開発投資を実施する方針であります。必要な資金につきましては、自己資金のほか、新株式の発行や金融機関からの借入等により、資金調達を行う方針であります。

 

④ 経営戦略の現状と見通し

 当社の経営上の目標は、BNCTの認知度の向上と上市後の安定的な収益の獲得及びそれに伴う事業基盤の確立であります。そこでBNCTの実施症例数の伸長に基づく月次売上高(ステボロニン®の受注数量)を上記目標の達成状況を判断するための主要な経営指標としております。

 当事業年度の月次売上高の推移は次のとおりとなっております。

(単位:千円)

売上高

4月

5月

6月

7月

8月

9月

年間累計

30,799

38,498

23,099

15,399

38,498

53,898

323,389

10月

11月

12月

1月

2月

3月

15,399

30,799

15,399

30,799

30,799

 今後もBNCTの認知度の向上と上市後の安定的な収益獲得が実現できるよう経営資源を重点的に配分してまいります。

 

⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について

 経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3 事業等のリスク」をご参照下さい。

 

⑥ 経営者の問題意識と今後の方針

 経営者の問題意識と今後の方針につきましては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。