2025年3月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります

(単一セグメント)
  • 売上
  • 利益
  • 利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 売上
(百万円)
売上構成比率
(%)
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 1,357 100.0 235 100.0 17.4

事業内容

3 【事業の内容】

株式会社坪田ラボは「ビジョナリーイノベーションで未来をごきげんにする」をミッションに掲げ、近視(*1)・ドライアイ(*2)・老視(*3)・脳疾患を対象に、画期的な治療法の創出を目指す慶應義塾大学医学部発ベンチャー企業です。当社は、慶應義塾大学医学部眼科学教室における研究成果を社会に届けること、並びに医療分野においてイノベーションを実現することを目的として、2012年5月に株式会社ドライアイKTとして設立されました。近視、ドライアイ、老視は、いずれも超高齢社会における健康長寿の延伸およびQuality of Vision(視覚の質)の観点から重要な課題と認識されているものの、現在も根本的な治療法が確立されていない、いわゆるアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患領域(*4)であると認識しております。世界的には、近視は約26億人、ドライアイは約7.5億人、老視は約18億人の患者が存在すると推定されています。当社では、これら3つの疾患領域に加え、眼と同様に中枢神経系に属する脳疾患領域にも研究対象を拡大しており、提携大学等との連携のもと、先進的な研究を推進しております。パートナー企業への導出、共同開発等を通じて、こうした研究成果を社会への新たな価値として提供することを目指しております。なお、当社の事業は研究開発事業に特化しており、単一の事業セグメントで構成されています。


 主な提携研究機関 :学校法人慶應義塾

主なパートナー企業:株式会社ジンズホールディングス、ロート製薬株式会社、わかもと製薬株式会社、

          マルホ株式会社、Laboratoires Théa、Shenyang Xingqi Pharmaceutical Co., Ltd.

 

*1 近視:無調節の状態で眼に入る平行光線が網膜の前方で結像する眼の屈折状態。視力障害を伴うものは疾  患であり、進行抑制・治療の必要がある。

*2 ドライアイ:様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある。

*3 老視:40歳前後からはじまる誰もがなる眼の老化で、水晶体の弾力性が弱まり、調節力が低下した結果、近いところが見えにくくなる症状のこと。

*4 アンメット・メディカル・ニーズ領域:いまだ有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズがある領域   のこと。

 

 

(1) ビジネスモデル

当社は、パートナー企業との共同研究開発契約や実施許諾契約による契約一時金、マイルストーン、さらにパイプラインの上市後に得られるロイヤリティ収入によって事業収益を確保し、その収益を新たな研究開発に再投資する循環型のイノベーションモデルを採用しています。現時点においては、契約一時金およびマイルストーン収入が当社収益の中心を占めています。大学では日々高度な研究が行われ、特許取得や論文発表に至るケースが多いものの、研究成果が実際に社会で活用される「社会実装」にまで至らないケースも少なくありません。こうした状況を背景に、当社は慶應義塾大学医学部発のベンチャーとして、大学の優れた研究成果や知的財産(=“サイエンス”)を事業化(=“コマーシャリゼーション”)し、社会に革新(=“イノベーション”)をもたらすことを使命としています。当社の事業は、基礎研究から初期の臨床試験(治験)段階までを担い、その成果をもとにパートナー企業への導出を行い、パートナー企業による後期臨床試験を経て最終的に患者さんのもとへ製品が届く、BtoB(企業間取引)型のビジネスモデルを志向しています。研究開発の実務は、高度な専門性を有する外部研究者(委託研究員)との連携により遂行されており、これにより効率性と柔軟性を両立しながら、多様な疾患領域に対応することが可能となっています。医薬品や医療機器の開発・販売には長い期間を要することから、当社では一般市場向け製品(コンシューマー製品)の企画・研究開発・販売も並行して進めるデュアル戦略を採用しております。加えて、コンサルティング業務等による安定的な収益基盤の確保にも取り組んでおり、現在までに数十社の企業と契約を締結しています。また、当社では経営戦略の基本方針として、「深化」と「探索」の両軸から成るT型戦略の概念を取り入れております。研究開発においては、全体の研究予算のうち約70%を「深化」(既存研究の深掘りや研究開発プロジェクト推進、知財の強化)に、約30%を「探索」(新領域における基礎研究や、基礎研究に基づく新規知財の創出など)に配分することで、短期的成果と中長期的成長の両立を図る、バランスの取れた研究体制を構築しています。

 

(2) 事業の概要

a 近視領域

近視は、網膜剥離・緑内障・黄斑変性など視覚障害を引き起こす失明原因の一つであり、有病率の急増は世界的な公衆衛生上の課題となっています。世界保健機関(WHO)が発表した『The Impact of Myopia and High Myopia』によると、2020年時点で世界の近視人口は約26億人に達しており、2050年には約48億人、世界人口のほぼ半数に相当するとの予測が示されています。また、近視は単なる屈折異常にとどまらず、進行すると強度近視となり、不可逆的な視機能障害を引き起こすことから、早期の介入と予防的治療法の確立が求められています。2024年には、日本国内において低濃度アトロピン点眼液が小児の近視進行抑制薬として初めて承認され、近視治療に対する医療関係者・保護者・行政の関心が一層高まっています。近視領域は、全世界で数兆円規模の市場が見込まれており、特に疾患進行を抑制する根本的治療法の不足という点において、極めて大きなアンメット・メディカル・ニーズを抱える研究領域です。

 

 


 

 

当社代表取締役社長・坪田一男が教授を務めていた慶應義塾大学医学部眼科教室において、2017年に波長360~400nmの可視光「バイオレットライト(*5)」が、近視の進行抑制に有効であることが発見されました。その後の研究により、バイオレットライトが非視覚系光受容体(*6)であるOPN5(オプシン5)(*7)を刺激することで、脈絡膜(*8)を介して眼球内の血流を維持・増加させる作用を有することが明らかとなっています。さらに、近視進行における虚血の役割、虚血が強膜へ及ぼす影響を踏まえたこれら一連の研究成果は、当社の中核技術として特許による保護を積極的に進めており、他社との差別化を図る独自の競争優位性の源泉となっています。中でも「現代の生活環境において不足しているバイオレットライトを、効率的かつ安全に子どもたちへ提供することにより近視進行を抑制する」という技術概念は、当社の研究開発活動の根幹を成す理念となっています。この考えに基づき、当社では以下に示すような多面的な研究アプローチを展開しております。

 

*5 バイオレットライト:波長360~400nmの光を指し、JIS Z 8120 「光学用語」により、この波長域の光は可視光波長域の短波長限界と定義されている。

*6 非視覚系光受容体:光受容体のなかで、「見るため」ではない目的で働く種類のものを指す。OPN5は非視覚系光受容体の一種のこと

*7 OPN5(オプシン5):ヒトにおいて380nmにその吸収スペクトルのピークを持つ、非視覚系光受容体のこと。

*8 脈絡膜:網膜と強膜の間にあり、眼球壁を形成する膜のこと。

 

 

 

 


 

 

(a) TLG-001

TLG-001は、バイオレットライト(波長360~400nm)を照度で照射することにより、子どもの近視進行を予防することを目的とした、メガネフレーム型の医療機器です。本デバイスにおけるバイオレットライト照度は、東京における屋外の水平方向・東西南北方位の年間平均バイオレットライト放射照度に基づいて設定されており、現代の屋内中心の生活により不足しがちなバイオレットライトを適切に補うことを意図しています。デバイスの安全性については、探索的治験により確認済みであり、2022年6月より、パートナー企業である株式会社ジンズホールディングス(以下、ジンズ社)が、医療機器製造販売承認の取得に向けた最終段階の検証治験(*9)を実施しております。現在、すべての被験者が治療期間を終了し、観察期間に移行しています。当社は、ジンズ社と日本国内における実施許諾契約を締結しており、近視進行抑制を目的とした医療機器としての製造販売承認の取得を目指し、ジンズ社が当局への承認申請を行い、承認取得後販売開始を計画しています。本件におけるビジネスモデルは、契約一時金に加え、マイルストーン、ロイヤリティ収入を得る契約形態となっております。

 

*9 検証治験:医療機器開発における、医療機器承認を目指した、主に有効性を評価する臨床試験のこと。

 


 

(b) TLM-003

TLM-003は、近視進行を抑制する新規メカニズムの点眼薬です。TLG-001がバイオレットライトによって眼内血流を増大させることで眼軸伸長を抑制して近視を予防するのに対し、本点眼薬は近視の進行に伴う強膜の菲薄化を抑制し、強膜の伸展を防ぐことによって眼軸伸長を抑制する作用機序を有しています。本剤は、すでに動物実験(近視モデルマウス)において有意な近視進行抑制効果を確認しており、その有効性の裏付けとなるデータをもとに、ロート製薬株式会社(以下、ロート社)と長期の開発契約を締結しております。ロート社は、本事業年度において第1相臨床試験を終了しており、安全性が確認されており、2025年から第2相臨床試験を開始予定です。

 

 

(c) TLM-023

TLM-023は血流改善が期待される新規メカニズムの点眼薬です。近視進行においては眼の虚血が大きな役割を担っていると考えられ、本剤はその虚血を改善することで近視を予防する新規薬剤です。これまでに動物モデルでの有効性および安全性が確認されており、これらのデータをもとにヒトでの安全性を評価する臨床研究を開始予定です。

 

 

b ドライアイ領域

現代の視覚情報化社会において、眼は酷使される状況が常態化しており、乾燥環境による涙液の蒸発増大や、現代社会におけるストレスの蓄積による涙液分泌の低下が、ドライアイを引き起こす一因となっています。症状としては、眼が乾く、眼が疲れる、眼が重いといった不定愁訴(*10)が多く報告されており、日本国内だけでも約2,000万人の潜在的なドライアイ患者が存在すると考えられています(ドライアイ研究会ホームページより)。ドライアイは、涙液層の不安定性を背景とする不定愁訴を主症状とした疾患であり、その病態には涙液および眼表面の慢性炎症が深く関与していることが近年明らかになってきています。現代社会においてその有病率は急速に上昇しており、特に新型コロナウイルス感染症の影響により在宅勤務が広がったことで、ドライアイ症状を有する患者が急増していると考えられています。涙液層の不安定化の主な要因は、涙液そのものの減少、ムチン層(*11)の減少や異常、そして油層(*11)の異常による涙液の過剰な蒸発に大別されます。これらの要因はいずれも涙液層の恒常性破綻を引き起こし、それに伴って眼表面の炎症や神経異常が生じることが知られています。さらに、この炎症や神経異常は涙液分泌のさらなる低下や構成成分の異常を招き、涙液層の不安定性を悪化させるという悪循環を形成します。現在、ドライアイ治療法の開発が、世界中で精力的に進められています。とりわけ、炎症を抑制しつつ涙液層の恒常性を回復させることを目指した新たな治療戦略が注目を集めており、ドライアイは依然として大きなアンメット・メディカル・ニーズを抱える領域であると位置づけられています。当社においても、こうした複雑な病態に対応すべく、眼の周囲環境を整えるためのメガネ型デバイスの開発や、涙液分泌を内因性に促進する機能性サプリメントの研究開発を推進しています。日常生活において無理なく取り入れられるこれらの新たなアプローチにより、ドライアイに伴う症状の軽減と視機能の質(Quality of Vision, QOV)の向上を図ることを目指しています。

 

*10 不定愁訴:頭痛や食欲不振など主観的な多岐にわたる自覚症状の訴えがあるものの、検査をしても客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからない状態。

*11 涙液層(水層)、油層、ムチン層:涙を構成する3層。涙液(水)は上まぶたの涙腺から、ムチンという粘性成分は結膜から分泌される。最表層である油層は、上下まぶた裏側にあるマイボーム腺から出て、水分の蒸発を防ぐ役割がある。

 

 

 


 

 

(a) TLM-001

ドライアイは、上図に示すように油層・水層(涙液層)・ムチン層(*11)からなる3層構造の涙液層が不安定となり、眼表面に慢性的な炎症や不快感、さらには神経由来の慢性疼痛を引き起こす疾患です。これら3層のいずれか一つに障害が生じた場合でも、涙液層全体の安定性は損なわれ、視機能やQOV(Quality of Vision)に深刻な影響を与えることがあります。近年増加しているタイプのドライアイは、特に油層の機能不全に起因するものが多いとされており、この油層は、まぶたの縁に存在するマイボーム腺と呼ばれる脂腺から分泌される脂質によって構成されています。加齢や慢性炎症などの影響によりマイボーム腺機能が低下すると、油層が不安定化し、涙液の蒸発が亢進することでドライアイが悪化することが知られています。当社ではこの病態に着目し、ビタミンD関連物質がマイボーム腺機能を回復させることを、動物モデルおよび臨床研究により証明いたしました。現在、ビタミンD関連物質を主成分とする眼軟膏の開発を進めており、マルホ株式会社と本剤の全世界における開発および商業化に関する契約を締結しております。今後、本開発が進展することにより、マイルストーン収入を段階的に得るとともに、製品が上市された際にはロイヤリティ収入を受け取る契約スキームとなっており、当社のドライアイ領域における中核的なパイプラインの一つとして位置づけられています。

 

 

c 老視領域

老視は、加齢に伴って水晶体が硬化し、その弾性が低下することで生じる調節力障害であり、40歳以降の多くの人に発症する加齢性眼疾患です。最も顕著な症状として、近方視が困難になることが挙げられ、日常生活において読書やスマートフォンの操作などに支障をきたします。これまで老視に対しては、多焦点メガネや眼内レンズ、リーディンググラスなどの光学的補正手段が中心でしたが、水晶体の加齢変化そのものに対して予防あるいは治療を行う医薬品は、いまだ開発されておりません。老視の潜在患者数は、事実上40歳または50歳以上の全人類に相当するとされており、今後世界的に進行する超高齢化社会において、老視に起因する生活の質の低下は一層深刻化すると予測されます。水晶体の老化は、眼におけるエイジング現象の代表的なものであり、細胞代謝や酸化ストレス、蛋白質架橋形成など複数の老化関連因子が関与していると考えられています。当社では、この老化プロセスに着目し、代謝調節という新しい切り口から、医薬品や関連製品の研究開発を推進しております。

 

 

d 脳疾患領域
(a) TLG-005

眼が脳の神経組織の一部であることに着目し、当社では、バイオレットライトが眼のみならず脳にも血流促進効果をもたらす可能性に注目し、研究を重ねてまいりました。その結果、バイオレットライトの照射により脳内血流の増加を実証し、この作用が中枢神経系疾患に対する新たな治療的可能性を持つことが示唆されています。

従来、バイオレットライトは近視予防に有効であることが知られてきましたが、近年ではそれに加え、うつ病や認知症などの脳疾患への応用可能性についても検討が進められており、当社ではうつ病、パーキンソン病、および軽度認知障害を対象とした特定臨床研究を実施しました。いずれの研究においても、機器の安全性が確認されております。うつ病に関しては、有効性を示す結果が得られ、パーキンソン病においても、一部の症状に対してバイオレットライトの照射が改善効果を示唆する結果が得られております。軽度認知障害に関する研究では、当初設定した主要な有効性指標において統計的有意差を示すには至りませんでしたが、これまでに得られたデータを基に、現在さらなる詳細な解析を進めております。

 

 


 

 

e その他

当社では、バイオレットライトの医療応用に関する研究を多角的に展開しています。現在、バイオレットライトが脈絡膜の機能維持に寄与する可能性に着目し、後眼部疾患への応用に向けた基礎的・臨床的検討を進めています。また、光による角膜コラーゲンのクロスリンク(*12)を用いた円錐角膜治療の臨床研究(TLG-003)から得られた知見を基に今後の開発方針を検討中です。さらに、網膜に存在する非視覚系光受容体OPN5が、概日リズム(*13)を調節する上で重要な役割を果たすことが明らかとなっており、これを応用した新たな治療アプローチとして、女性の月経不順を対象としたバイオレットライト照射による臨床研究を実施中です(TLG-021)。サーカディアンリズムの調整を通じた非薬物的かつ副作用の少ない治療手段の確立を目指しています。また、ペット医療への展開も視野に入れ、老犬の体調管理を目的としたバイオレットライト照射の有用性を評価する研究を、公的支援のもとで実施中です(TLG-019)。

 

*12 クロスリンク:ドイツのSeilerらが開発した円錐角膜の手術方法のこと。リボフラビンなどを点眼し、365nmの波長の光を照射すると、角膜のコラーゲン繊維が架橋(クロスリンキング)される。

*13 概日リズム:体内時計である約24時間周期のリズムを概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ぶ。

 

(3) 当社のパイプライン

以下の表は、当社の開発製品並びにその適応症、市場、開発段階及び本書提出日現在の進捗状況を示しております。

なお、製品の開発に際しては様々なリスクを伴います。当社製品の開発リスクの概要については、「第2[事業の状況] 3[事業等のリスク]」の通りであります。

 

 



 

業績

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という)の状況の概要は次のとおりであります。

① 経営成績の状況

当事業年度(2024年4月1日~2025年3月31日)における日本経済は、賃金の伸び、インバウンド需要の回復、企業による積極的な設備投資を背景に、緩やかな回復基調で推移しました。一方で、地政学的リスクに伴うエネルギー・原材料価格の上昇、欧米との金利差に起因する為替変動、海外情勢の不透明感、さらには米国の政権交代に伴う通商問題の再燃など、不確実性の高い経済環境が継続しております。こうした状況下、当社は慶應義塾大学医学部発のベンチャー企業として、「ビジョナリーイノベーションで未来をごきげんにする」というミッションを掲げ、近視、ドライアイ、老視、脳疾患などアンメット・メディカル・ニーズの高い分野において革新的なソリューションの創出を目指し、事業の拡大と収益力の強化に取り組んでまいりました。 研究開発活動では、新たな知的財産の創出とパイプライン拡充を目的とした基礎研究に注力するとともに、共同研究先との連携を通じた開発体制の強化を進めました 近視領域では、バイオレットライト技術を用いた医療機器「TLG-001」が検証的臨床試験においてすべての被験者の治療期間を終了し、観察期間に移行しました。また、点眼薬「TLM-003」は、ロート製薬株式会社との長期開発契約のもとで第Ⅰ相臨床試験を完了し、安全性が確認されています。さらに、海外においても臨床試験の準備を進めております。新たな薬理機序に基づく近視進行抑制薬「TLM-007」については、現在、特定臨床研究を実施中です。 ドライアイ領域においては、マイボーム腺機能不全を対象とした「TLM-001」について、マルホ株式会社が国内で臨床試験を進行中です。 脳疾患領域では、バイオレットライト技術を応用した医療機器「TLG-005」に関し、パーキンソン病、うつ病、軽度認知障害(MCI)を対象とする特定臨床研究を終了しました。いずれの研究においても安全性が確認され、うつ病においては有効性が示唆され、パーキンソン病においては一部の症状に改善傾向が認められました。 その他の分野では、バイオレットライト技術を用いた女性の月経不順治療機器「TLG-021」の臨床研究を実施しており、サーカディアンリズム調整を通じた新たな治療法の確立を目指しています。また、網膜色素変性症向け医療機器「TLG-020」については、特定臨床試験の準備を進めております。加えて、老齢犬における認知機能改善を目的とした研究も公的支援のもとで進行中であり、動物医療分野への展開可能性も探っています。 事業開発面では、国内外のパートナー企業との間で4件の導出契約を締結しました。海外では、中国の大手眼科医薬品メーカーであるShenyang Xingqi Pharmaceutical Co., Ltd.と特定特許に関する独占実施許諾契約を締結し、中国市場への本格展開に向けた基盤を確立しました。また、Beijing Yijie Pharmaceutical Technology Co., Ltd.とはTLG-001に関する基本合意契約を経て、2025年3月に正式なライセンス契約を締結しました。さらに、別の海外製薬企業とも非臨床・臨床データに関するライセンス契約を締結しています。国内では、ロート製薬株式会社と開発中の点眼薬に関する独占評価契約を締結しました。また、国際学会や展示会等への積極的な参加を通じ、当社の研究成果や知的財産の認知度向上とビジネス化を推進しました。 これらの活動の結果、当事業年度の経営成績は売上高、経常利益、当期純利益のいずれも4年ぶりに過去最高を更新するなど、着実な成長を遂げました。 なお、当社は研究開発事業の単一セグメントであるため、セグメント情報の記載は行っておりません。

(単位:千円)

 

売上高

営業利益

又は

営業損失

(△)

経常利益

又は

経常損失

(△)

当期純利益

又は

当期純損失

(△)

1株当たり

当期純利益

又は

1株当たり

当期純損失

(△)

当事業年度

1,357,133

235,467

281,499

205,766

8.04円

前事業年度

673,532

△649,554

△636,371

△641,317

△25.15円

増減

683,601

885,021

917,870

847,083

33.19円

 

 

 

② 財政状態の状況

 

前事業年度

当事業年度

増減

資産合計(千円)

2,295,159

2,503,123

207,964

負債合計(千円)

927,927

915,850

△12,077

純資産合計(千円)

1,367,231

1,587,272

220,040

自己資本比率(%)

59.6

63.4

3.8

1株当たり純資産(円)

53.45

61.91

8.46

 

 
(流動資産)

当事業年度末の流動資産の残高は、2,445,308千円となり、前事業年度末に比べて221,611千円増加いたしました。これは、売掛金が528,046千円、未収消費税等が62,187千円増加し、現金及び預金が344,547千円、未収還付法人税等が28,998千円減少したことが主な要因であります。

(固定資産)

当事業年度末の固定資産の残高は、57,814千円となり、前事業年度末に比べて13,648千円減少いたしました。これは、工具、器具及び備品が7,819千円、特許権が1,970千円が減少したことが主な要因であります。
(流動負債)

当事業年度末の流動負債の残高は、846,636千円となり、前事業年度末に比べて9,088千円増加いたしました。これは、買掛金が115,296千円、未払金が28,425千円、未払法人税等が81,241円増加し、契約負債が87,816千円、契約損失引当金が121,910千円減少したことが主な要因であります。
(固定負債)

当事業年度末の固定負債の残高は、69,214千円となり、前事業年度末に比べて21,166千円減少いたしました。これは、長期借入金が21,166千円減少したことが要因であります。

  (純資産)

当事業年度末の純資産合計は、1,587,272千円となり、前事業年度末に比べて220,040千円増加いたしました。これは、新株予約権の行使により資本金及び資本準備金がそれぞれ7,137千円増加し、当期純利益205,766千円を計上したことが要因であります。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、1,538,853千円となりました。当事業年度期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果使用した資金は317,754千円(前年同期は301,350千円の支出)となりました。これは主に、税引前当期純利益281,049千円、仕入債務の増減額115,296千円、減価償却費28,754千円、法人税等の還付額27,575千円、未払金の増減額22,732千円の増加要因があった一方、売上債権の増減額528,046千円、契約損失引当金の増減額121,910千円、契約負債の増減額87,816千円、未収消費税等の増減額66,959千円の減少要因があったことによるものです。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は14,547千円(前年同期は12,001千円の支出)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出13,994千円の支出があったことによるものです。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は12,246千円(前年同期は35,736千円の収入)となりました。これは、株式の発行による収入14,274千円の収入があった一方で、長期借入金の返済による支出26,520千円の支出があったことによるものです。

 

 

④ 生産、受注、仕入及び販売の状況

a. 生産実績

当社は直接的な生産活動は行っておりませんが、製造原価の品目としては主に経費のみであることから、生産実績にはなじまないため、記載を省略しております。

 

b. 受注実績

当社の事業による共同研究は受注形態をとっておりませんので、記載を省略しております。

 

c. 販売実績

販売実績は、次のとおりであります。なお、当社は、研究開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの記載はしておりません。

 

セグメントの名称

販売高(千円)

前期比(%)

研究開発事業

1,357,113

201.5

合計

1,357,113

201.5

 

(注) 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次の通りであります。なお、前事業年度のLaboratoires Théa、Shenyang Xingqi Pharmaceutical Co., Ltd.、Beijing Yijie Pharmaceutical Technologyに対する販売実績はありません。

相手先

前事業年度

(自  2023年4月1日

  至  2024年3月31日)

当事業年度

(自  2024年4月1日

  至  2025年3月31日)

販売高

(千円)

割合

(%)

販売高

(千円)

割合

(%)

ロート製薬㈱

531,548

78.9

181,501

13.4

㈱ジンズホールディングス

105,107

15.6

9,302

0.7

Laboratoires Théa

521,688

38.4

Shenyang Xingqi
Pharmaceutical Co., Ltd.

445,870

32.9

Beijing Yijie Pharmaceutical Technology

180,000

13.3

 

 

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、提出日現在において判断したものであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績の分析

当事業年度末の経営成績につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ① 経営成績の状況」に記載のとおりでありますが、主要な表示科目に沿った認識及び分析は次のとおりであります。

 

・売上高

当事業年度の売上高は1,357,133千円(前期比683,600千円増)となりました。これは主に、国内外を対象としたTLG-001(*1)の実施許諾契約による、契約一時金280,000千円、TLM-003(*2)の実施許諾契約及び点眼薬に関する知的財産実施許諾契約により、契約一時金及びマイルストーン収入計1,047,558千円、合計1,327,558千円の計上によるものであります。

*1 バイオレットライト技術を用いた、近視進行抑制のための医療機器開発

*2 近視進行抑制作用を発揮する点眼薬開発

 

・売上原価、売上総利益

当事業年度の売上原価は180,231千円(前期比471,921千円減)となりました。これは主に、TLG-001の治験等における研究費の計上及び2026年3月期に終了予定であるTLG-001の検証的臨床試験およびその後に実施される統計解析(期間は1年を予定)に係る費用が契約一時金を超過する見込みとなり、前期に契約損失引当金として328,303千円を計上したことによるものであります。その結果、売上総利益は1,176,901千円(前期比1,155,521千円増)となりました。

 

・販売費及び一般管理費、営業利益

当事業年度の販売費及び一般管理費は941,433千円(前期比270,499千円増)となりました。これは主に、事業拡大による人件費255,989千円(前期比37,410千円増)、研究開発強化による研究開発費254,107千円(前期比48,810千円増)及び特許費用98,351千円(前期比44,781千円増)等の計上によるものであります。その結果、営業利益は235,467千円(前期比885,021千円増)となりました。

 

・営業外収益、営業外費用、経常利益

当事業年度の営業外収益は47,118千円(前期比32,589千円増)となりました。これは主に、為替差益38,170千円(前期比38,170千円増)、助成金収入4,024千円(前期比1,330千円減)及び償却債権取立益1,584千円(前期比5,966千円減)の計上によるものであります。営業外費用は1,085千円(前期比258千円減)となりました。これは、支払利息1,085千円(前期比80千円増)の計上によるものであります。その結果、経常利益は281,499千円(前期比917,870千円増)となりました。

 

・特別損失、法人税等合計、当期純利益

当事業年度の特別利益の計上はありません。特別損失は449千円(前期比449千円増)となりました。これは主に固定資産売却損449千円(前期比449千円増)の計上によるものであります。当事業年度の法人税等合計額は75,283千円(前期比70,337千円増)となりました。これは、法人税、住民税及び事業税を75,283千円(前期比74,333千円増)を計上したことによるものであります。これらの結果を受け、当事業年度の当期純利益は205,766千円(前期比847,083千円増)となりました。

 

 

② 財政状態

財政状態につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② 財政状態の状況」に記載のとおりであります。

 

③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討

キャッシュ・フローの分析につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 

④ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の分析・検討内容

当社は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」に記載のとおり、各パイプラインの事業化(上市)を目指して実施許諾または共同研究開発を行うベンチャー企業であり、事業化後(上市後)のロイヤリティ収入を安定的に計上するステージにはまだありません。従いまして、当社は、ROA(総資産利益率)やROE(自己資本利益率)といった経営指標を目的とせず、各パイプラインの進捗状況等を適時かつ正確に管理することを目標においた事業活動を推進してまいりました。当事業年度の達成状況につきまして、売上高については、国内を対象としたTLG-001の実施許諾契約によるマイルストーンを達成、TLM-003の共同研究契約によるマイルストーンを達成及び当社が保有し、また今後保有する点眼薬に関する知的財産権及び研究開発成果に関し、知的財産実施許諾契約を締結したことによる契約一時金等により1,357,133千円となりました。また、研究開発費については、254,107千円となりました。当期の経営成績並びに研究開発活動の詳細につきましては「第2 事業の状況 4経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」並びに「第2 事業の状況 6研究開発活動」に記載のとおりであります。

今後もパートナー企業とともに共同研究開発を行うため、基礎研究の強化を図るとともに、国内に展開している各パイプラインを海外へと横展開を推進し、各パイプラインの進捗状況等を目標に努めてまいります。

なお、パイプラインの開発の進捗については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (3) 当社のパイプライン」に記載しております。

 

⑤ 資本の財源及び資金の流動性

当社の資金の状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

当社は、事業上必要な資金を手許資金で賄う方針でありますが、事業収益から得られる資金だけでなく、株式市場からの必要な資金の獲得や銀行からの融資、補助金等を通して、安定的に開発に必要な資金調達の多様化を図ってまいります。資金の流動性については、資産効率を考慮しながら、現金及び現金同等物において確保を図っております。資金需要としては、継続して企業価値を増加させるために、主に継続した研究開発や必要な設備投資資金となります。

 

 

⑥ 重要な会計方針及び見積り

当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成に当たりましては、資産、負債、収益及び費用に影響を与える見積り及び判断を必要としております。

当社は財務諸表の基礎となる見積り及び判断を過去の実績を参考に合理的と考えられる判断を行った上で計上しております。しかしながら、これらの見積り及び判断は不確実性を伴うため、実際の結果と異なる場合があります。詳細については、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

また、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、特に重要なものは次のとおりであります。

 

(仕掛品の評価)

仕掛品の貸借対照表価額は、収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定しております。

当該収益性の見積りには、マイルストーンの達成などの将来の未確定事象に係る見積要素が含まれており、パートナー企業における研究開発の進捗状況に大きく依存するものであります。

そのため、翌事業年度において、研究開発結果によりマイルストーンの達成が困難となり共同研究開発が終了した場合には、損失が発生する可能性があります。

 

(TLG-001(国内)実施許諾契約に係る契約損失引当金の見積り)

TLG-001(国内) 実施許諾契約に係る契約損失引当金は、実施許諾契約で定められているマイルストーン達成に必要な見積り総費用が、マイルストーン達成時に得られる収入を超過する額を見積り損失額として算定しています。

契約損失引当金の見積り要素として、マイルストーン達成までに要する期間とその費用が含まれております。マイルストーン達成までに要する期間とは、実施許諾契約で定められている条項を達成するために要する期間であり、当初予見していなかった事象が生じた場合、その期間が延長されます。その結果、翌事業年度において、マイルストーン達成までに要する期間が延長され、追加費用の見積りが必要になるため、見積りの不確実性は高まります。

 

⑦ 経営成績に重要な影響を与える要因について

経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照下さい。

 

⑧ 経営者の問題認識と今後の方針にあたって

当社は、“ビジョナリーイノベーションで未来をごきげんにする“をミッションに掲げ、「近視、ドライアイ、老視、脳疾患の治療に画期的なイノベーションを起こす」ということを経営方針としております。この経営方針実現のために、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載の課題に対して取り組んでまいります。