2025年3月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります

(単一セグメント)
  • 売上
  • 利益
  • 利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 売上
(百万円)
売上構成比率
(%)
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 175 100.0 -590 - -336.9

事業内容

3【事業の内容】

 当社は、ヒトiPS細胞由来の再生医療等製品の開発・商業化、並びに当社独自の設計コンセプトに基づくラボ一体型の商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」を利用した製造開発受託(CDMO)事業(以下「CDMO事業」という。)等を通じ、世界中のひとびとの健康と人生に貢献する新たな医療を創り出すことを経営理念として2017年3月に設立されました。

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートは、拡大培養したiPS細胞から心筋細胞への分化誘導(※1)を経て、シート化等の独自技術を用いて作製するもので、現在の内科的治療では治癒しない重症心不全の治療を目的とした再生医療等製品です。また、当社の作製するヒトiPS細胞由来心筋細胞シートは、他の再生医療等製品(研究開発中の再生医療等製品を含む)と比べ、構成する細胞数が多いため、iPS細胞を心筋細胞へ大量にかつ同時に分化誘導する高い技術が要求されます。当社は、iPS細胞を大量の心筋細胞に分化誘導する技術と、残存する未分化の細胞を検出限界以下のレベルまで高度に除去することにより心筋細胞を高純度に精製する技術を有しています。これらの細胞培養技術を活用して、ベンチャー企業等へのCDMO事業を行っております。

 なお、当社グループの行う事業は、再生医療等製品事業の単一セグメントであるため、セグメント情報の記載を省略しております。

 

(1) 事業モデル

当社グループは、ヒトiPS細胞由来の再生医療等製品の開発・商業化、並びに当社独自の設計コンセプトに基づくラボ一体型の商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」を利用したCDMO事業を主たる事業としております。

当社グループの主要な製品であるヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの事業モデルは、大学や大手製薬企業との共同研究開発を通じて得られた発明、ノウハウ等の成果物に対して、当社が実施権の許諾を受け製造販売を行うものです。具体的には、大阪大学から取得した再実施許諾権付の独占的実施権、第一三共株式会社が保有する精製技術及び第一三共株式会社と当社の間で締結した共同研究開発契約から得た成果物等を組み合わせ、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造・販売を行う事業です。

 CDMO事業は、当社が保有するヒトiPS細胞の培養技術やヒトiPS細胞由来心筋細胞の製造・精製技術等で培った知見と経験を活かし、顧客に対する製造プロセス開発の支援に加え、受託製造による細胞及び原材料としての各種細胞を提供するものです。

 

(2) 当社事業モデルの特徴

 当社は、(ⅰ)大阪大学との共同研究開発により培った再生医療等製品の開発ノウハウ、(ⅱ)大手製薬企業や医療機器メーカー等との共同研究開発アライアンス、(ⅲ)高度な管理技術に基づく細胞製品の製造施設、(ⅳ)シーズから商用生産レベルまで一貫して開発された細胞製造、加工、評価に関する技術ノウハウ、という4点を強みとしております。

 

(ⅰ) 大阪大学との共同研究開発により培った再生医療等製品の開発ノウハウ

 当社は2017年の設立以来、大阪大学に最先端再生医療学共同研究講座を設置し、ヒトiPS細胞を用いた重症心不全治療の実用化を目的とした共同研究開発を実施しております。共同研究講座は、大学が企業等から資金や研究者を受け入れて研究組織を設置し、学内の常勤教員等と連携して共同研究を行う仕組みであり、より柔軟かつ迅速に研究を推進できることが特徴です。

 大阪大学は日本有数の心臓移植手術実績を有しており、当社取締役 最高技術責任者であり同大学大学院医学系研究科において長年にわたり心臓血管外科領域で教授を務めた澤芳樹名誉教授は、これまでに心臓手術数1,000件超、心臓移植数100例超、人工心臓手術数400例超の実績を有します。また基礎研究から臨床応用まで20年以上にわたる実績と幅広いノウハウを有しており、骨格筋芽細胞(※2)シートの発明や開発にも携わっていました。したがって、大阪大学の豊富な経験と確かな技術を基盤とすることで、スムーズな応用研究及び臨床開発の推進が可能となります。

 

(ⅱ) 大手製薬企業や医療機器メーカー等との共同研究開発アライアンス

 当社は、2017年9月に第一三共株式会社と共同研究開発契約を締結しております。本共同研究開発の目的は、大阪大学大学院医学系研究科において開発されたヒトiPS細胞由来心筋細胞の製造及びシート化技術と、第一三共株式会社が有するヒトiPS細胞由来心筋細胞の精製技術を融合した再生医療等製品を製品化することであり、国内における虚血性心疾患(ICM)を対象としたヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの共同研究開発を行っています。

 また、朝日インテック株式会社と次世代の治療モダリティ(※3)の共同開発を行っています。さらに、四国計測工業株式会社、佐竹マルチミクス株式会社、株式会社ニチリョー、フクシマガリレイ株式会社等との自動大量培養・凍結装置等の共同開発、横河電機株式会社との製造実行・ラボ情報管理システムの共同開発、日産化学株式会社との分注凍結溶液の共同開発等を進めており、海外展開まで見据えた原料段階から商用生産に至るまでのアライアンス構築を積極的に実行しております。

 

(ⅲ) 高度な管理技術に基づく細胞製品の製造施設

 当社は、大阪大学による医師主導治験(※4)用の細胞製造や将来的な商用生産、CDMO事業の拠点として、大阪府箕面市に研究施設を一体化した商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」を設置し、2020年8月に稼働を開始しました。

 本施設は、清浄度が同一グレードのクリーンブースを複数並列化する等の独自の設計コンセプトに基づく局所制御技術(※5)を活用することにより大幅なキャパシティ増加を実現した効率的かつ実効的な最先端の細胞培養加工施設です(日本(特許第7609440号)及び欧州(特許No.4079376)で特許取得済、米国で特許出願中)。製造プロセス開発から商用生産まで一貫して対応可能なワンストップな施設であり、2021年9月に再生医療等安全性確保法に基づく「特定細胞加工物製造許可」(施設番号:FA5210001)を取得しました。さらに、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認の取得を見据え、2024年8月に再生医療等製品の製造販売業許可、2025年4月に再生医療等製品の製造業許可を取得しており、製造販売承認後には商用生産を開始する予定であります。

 本施設では、大阪大学が実施する重症心不全に対する医師主導治験のための治験用製品製造を行っており、CDMO事業においても同時利用可能な細胞培養加工施設です。

 

(ⅳ) シーズから商用生産レベルまで一貫して開発された細胞製造、加工、評価に関する技術ノウハウ

当社は、大阪大学との共同研究開発を通じて、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた再生医療等製品の開発と商業化に不可欠な以下の技術を強みとして有しております。

これらの技術には、自社特許に加え、大阪大学より独占的実施権を受けた特許権(「未分化細胞が除去された分化誘導細胞集団、その利用及びその製造方法」(特許第6938154号、権利者:大阪大学、存続期間満了日:2035年11月6日))及びノウハウ、並びに当社と大阪大学が共有するノウハウが含まれています。特許権及びノウハウの主な内容は以下のとおりです。

・ヒトiPS細胞の安定的な未分化継代培養方法

・ヒトiPS細胞の分化誘導及び分化細胞作製方法(主に心筋細胞)

・ヒトiPS細胞及びiPS細胞由来細胞の大量製造方法

・ヒトiPS細胞由来心筋細胞の高純度精製及び未分化細胞除去方法

・ヒトiPS細胞由来細胞の高効率凍結融解方法

・ヒトiPS由来細胞の加工技術

・ヒトiPS細胞及び分化細胞の分析、特性評価解析法

 これらの技術は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造にとどまらず、他の組織を対象とした細胞製品の開発にも活用可能であり、当社の新たなパイプラインやCDMO事業においても利用されます。

 

(3) 当社技術の特徴

① iPS細胞について

 iPS細胞は、英語では「induced pluripotent stem cells」と表記され、その頭文字をとって「iPS細胞」と呼ばれています。世界で初めてiPS細胞の作製に成功しノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授により名付けられ、日本語名では「人工多能性幹細胞」と称されます。iPS細胞は、ヒトの体細胞に複数の多能性誘導因子を導入し培養することで作製でき(図1)、ほぼ無限に増殖する能力を持つとともに、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力を有します。

 

図1 iPS細胞の作製の過程

 

(出所:京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)iPS 細胞研究センター((現)iPS細胞研究所(CiRA))発行 「幹細胞ハンドブック ̶ からだの再生を担う細胞たち」より当社作成)

 

② 研究開発の経緯

 大阪大学大学院医学系研究科の澤芳樹名誉教授(当社取締役 最高技術責任者)らの研究グループは、京都大学の山中伸弥教授と2008年から共同研究を開始し、ヒトiPS細胞を用いた重症心疾患患者の治療法について研究開発を進めてきました。

 その間、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて、ブタの虚血性心疾患モデルの心機能を改善させることに成功し、ヒトiPS細胞由来心筋細胞のサイトカイン(※6)の解析や、レシピエント心筋(※7)との電気的・機能的結合による同期拍動等、心機能の改善に関するメカニズムの解析を行ってきました。

 そして、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から提供される医療用ヒトiPS細胞ストックを用いて心筋細胞の製造方法を改良することにより、安全性の高い心筋細胞の大量作製及びそのシート化に成功しました。

 現在は、虚血性心疾患の患者にヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを移植する治験が完了し、製造販売承認を申請中です。また、拡張型心疾患の患者を対象とした医師主導治験を大阪大学が実施中です。治験の詳細及び進捗状況については、「(4)② a.PJ1 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:虚血性心疾患(国内))、b.PJ2 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:拡張型心疾患(国内))」をご参照ください。

 

③ ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートについて

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートとは、ヒトiPS細胞から作製した心筋細胞を主成分とした他家細胞(※8)治療薬であり、シート状に加工された心筋細胞を心臓に移植します。補助人工心臓装置(VAD)(※9)の装着又は心臓移植に至る前の患者を対象とし、心機能の改善や心不全状態からの回復といった治療効果が期待されます。

 具体的には、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から提供されたヒトiPS細胞を心筋細胞に分化誘導した後、精製・加工を行い、未分化iPS細胞を除去した上で凍結保存します。患者への移植スケジュールに合わせてヒトiPS細胞心筋細胞を解凍し、シート化したものを病院へ輸送し、患者の心臓に直接貼付します(図2)。移植されたシートが患者の心臓の血管新生を促進し、機能が低下した心臓の部位の回復に寄与することが期待されます。詳細な作用メカニズムは、「④ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの作用メカニズム」をご参照ください。

 現在、薬剤等による内科的治療では回復が見込めない心疾患患者への治療法は確立されていないため、時間の経過とともに症状が悪化し、最終的な治療手段として補助人工心臓装置の装着又は心臓移植に至ります。しかしながら、補助人工心臓装置はその耐久性や合併症の課題から長期使用には適さず、心臓移植は日本において臓器提供者が慢性的に不足していることに加えて他人の臓器に対する免疫拒絶反応等の問題があることから、重症心不全患者に対する新しい治療技術の実用化が大いに期待されています。

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートは、従来の内科的治療では改善が見込めない患者に対して、補助人工心臓装置の装着又は心臓移植が必要な状態となるまでの病態の進行を抑制することを期待したものであり、従来の製品ではカバーできないアンメットメディカルニーズ(有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ)に応えるものです(図3)。

 

図2 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの作製手順

(出所:大阪大学提供資料をもとに当社作成)

 

図3 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの期待される効果(イメージ)

(出所:当社作成資料)

 

④ ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの作用メカニズム

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートによる治療効果は、心筋梗塞モデル動物への移植後の心機能改善により確認されており、その作用メカニズムは、これまでに実施されたin vitro(試験管内)実験及び大小動物を用いたin vivo(生体内)実験に基づく数多くの基礎的研究から、以下のように推定されています。

 

・移植されたヒトiPS細胞由来心筋細胞シートが、サイトカインと呼ばれる特有の因子を産生することにより、心筋梗塞部位の近傍からの血管新生を促進し、梗塞部位の修復に寄与する(「パラクライン効果」)。

・心筋細胞を主構成体とする心筋細胞シートが、移植後に患者の心臓と機能的及び電気的に結合し、患者の心臓と同期して収縮弛緩することにより、患者の心臓の機能を力学的にサポートする。

 

 これらの作用により、虚血等で休眠している患者の心筋細胞を刺激して活性化させ、心筋細胞の再生を目指すものです(図4)。

 

図4 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの作用メカニズム

(出所:当社作成資料)

 

 上記の期待される効果を得るためには、移植後一定期間(約3か月)、患者の免疫拒絶を回避し、移植したシート内の細胞を生存させるため、免疫抑制剤を投与し、一時的に拒絶反応を抑制する必要があります。しかし、大阪大学では免疫抑制剤を漸減させながら治療効果を維持し、免疫抑制剤の投与を短期間で終了する方法を開発しました。これにより、免疫抑制剤による腎臓障害等を最小限に抑え、移植後に残存する細胞に起因する腫瘍化リスクを低減できるとともに、患者が生涯にわたって免疫抑制剤を投与される必要がなくなります。特に新型コロナウイルス感染症のような感染症流行時には、免疫抑制剤使用による免疫機能低下がもたらす感染及び重症化リスクを軽減できる点で大きな利点があります。

 

 

⑤ ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートが有するメリット・デメリット

a.他家のヒトiPS細胞を用いることのメリット・デメリット

 

(メリット)

・自家移植の場合には患者から細胞を採取するための外科的侵襲(※10)を伴いますが、他家移植の場合には細胞を採取する必要がなく、患者の負担がより小さくなります。

・自家移植は、患者自身の細胞を採取し、その細胞を細胞培養施設で培養して初めて移植することができるため 、採取から移植可能となるまでに時間を要します。一方、他家移植であるヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの場合は、事前に健康なボランティアより血液の提供を受け、細胞培養施設において再生医療用のiPS細胞を作製しストックしています。その後、心筋細胞への分化のし易さを確認し、対象疾患に対する有効性及び安全性の確認を厳重に済ませたiPS細胞だけを増やしてバンク化しておき、事前に細胞培養施設で心筋細胞を培養して保管しておくことで、急な移植スケジュールであっても、速やかにシートの製造を行い、医療機関や研究機関に迅速に製品を提供できます。

・自家移植の場合、患者から細胞を採取するため、患者の年齢や容体によって細胞の状態が大きく異なり、必要な質で必要な数の細胞を得ることが困難な場合があります。一方で、他家細胞であるiPS細胞を用いることで、一定の品質で大量の細胞を治療に用いることができます。

・自家移植の場合、作製した細胞は患者本人にしか用いることができないため、その有効性や安全性の確立には多くの症例が必要で、多大な労力と時間を要します。一方、他家移植では、作製した細胞を多くの患者に使用することが可能となり、自家細胞と比較して有効性と安全性の確立を進めやすいと言えます。

・総じて、他家移植とすることで、自家移植に比べて、広く多くの患者を対象にすることができ、まとめて輸送出来るメリットを活かして国内だけでなく海外への展開も期待できます。

 

(デメリット)

・他家移植の場合、自身の細胞に由来しない細胞を移植するため、患者の持つ免疫機能により拒絶反応が生じます。これを抑えるため、移植後一定期間は免疫抑制剤の投与が必要となり、その間、患者の免疫が低下し、疾病に罹患するリスクが上昇します。自家移植の場合は、患者自身の細胞由来であるため、このような問題は大幅に少なくなります。

 

b.当社技術の課題と対応

ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートによる再生医療・細胞治療の研究開発過程で、再生医療等製品特有の対処すべき課題がありました。しかし、大阪大学及び第一三共株式会社との共同研究成果に基づき、以下のような対応策を講じています。

課題

対応

最終製品として生きた細胞を用いることから滅菌処理ができないため、製造工程における微生物等の不純物混入リスクに対する高度な品質管理方法の確立

先進的な局所クリーン技術を活用した細胞培養加工施設における厳密な衛生管理により、微生物汚染リスクを徹底的に抑制した安定的な生産体制を構築している。

無限増殖能を有するiPS細胞を用いることにより生じる癌化リスク

当社独自の未分化iPS細胞の除去精製技術により、未分化のiPS細胞が残存することによる癌化リスクの軽減化を図っている。大阪大学で実施する医師主導治験において、本製品を移植した患者から本製品に由来する腫瘍が確認されたという報告はなされていない。

患者の自己細胞を用いる場合に生じる細胞採取に伴う侵襲の増加、品質の不安定化及び移植までの期間の長期化

移植する細胞は他家のヒトiPS細胞由来であるため、患者から原料となる細胞を採取するという外科的処置が不要になると共に、患者の年齢や容体等による品質のばらつきが解消される。また、生産工程の長期化については、他家のヒトiPS細胞を用いるため、分化誘導した心筋細胞を予め凍結保存しておくことが可能となる。その凍結した心筋細胞をシート化するために要する生産期間は数日程度であり、移植スケジュールを早期にかつ柔軟に設定することが可能となる。

他人から得られたドナー細胞を用いる場合に生じる免疫拒絶

他家のヒトiPS細胞を用いるため、本製品を移植した患者は免疫抑制剤の使用が不可避ではあるものの、短期間の投薬のみで効果が期待される治療技術が大阪大学で開発されている。

保存・輸送等の制約

当社が独自に開発した温度管理技術等により、日本国内においては心筋細胞シートを生きたまま安定的に輸送及び保存するが可能となる。

 

c.当社技術の強み

 当社技術の最大の強みは、患者に移植した細胞の癌化リスクの徹底的な軽減です。これは、心筋細胞への分化誘導工程において残存する未分化のiPS細胞を、高度にかつ効率的に除去することができる当社独自の精製方法によるものです。一般的にiPS細胞は癌化するリスクがあると言われますが、最大の原因はiPS細胞が獲得した無限増殖能であり、様々な細胞へ分化誘導するプロセスにおいて目的の細胞に分化せず、未分化の状態のまま数多く残存すると、それだけ癌化するリスクが高まります。当社では、大阪大学と第一三共株式会社の技術を融合し、複数の工程で構成し最適化された独自の未分化細胞除去技術を用いており、2020年1月より開始された医師主導治験において、現段階において癌化した事象の報告を確認しておりません。

 また、当社のヒトiPS細胞由来心筋細胞シートは、シート化したヒトiPS細胞由来心筋細胞を患者の心臓の表面に貼付するだけで、穿刺等の心臓に直接的なダメージを与え得る侵襲を伴わないことから、不整脈が発生するリスクを最小限化することを可能にしております。さらに、手術自体もバイパス手術等とは異なり開胸手術ではなく、左肋間に7センチ程度の比較的小さな隙間を空け、その隙間からシートを挿入する手術です。通常のバイパス手術が4時間程度要するのに対し、シートの移植手術は50分程度で完了することが可能で、患者への侵襲を限りなく小さくするとともに、執刀医の負担も大幅に軽減されることが期待されます。

最後に、当社技術の大きな特徴としては、シート形状で長距離輸送が可能である点です。凍結細胞の冷凍輸送ではなく、凍結細胞を解凍・培養してシート化した状態のまま常温帯で輸送した場合でも、シート内の細胞が一定期間生存しており、例えば大阪府箕面市にある当社の商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」から東京の医療機関まで、新幹線等で輸送することが可能です。また、輸送する際にヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを保護する役割を持つ輸送液にも独自技術を活用しており、常温帯で2日はシートの形状と細胞の生存を保ったまま輸送することができます。さらに、シート形状のまま輸送可能であるということは、移植を行う医療機関側において、シートを軽く洗浄する程度で移植が可能となり、医療機関の負担も大幅に低減することが可能となることを意味します。

 

(4) 研究開発パイプライン

① 心疾患について

 当社が製品化を目指し、開発を進めているヒトiPS細胞由来心筋細胞シートは、心疾患治療に対するものです。以下において、心疾患に関する説明をいたします。

 心疾患は非常に広い概念です。心臓は全身に血液を送り出す役割を担っておりますが、この重要な担い手が心臓の筋肉(心筋)です。

 心筋は他の筋肉と同様、伸縮することで全身に血液を送り出しますが、心疾患は何らかの原因で心筋に障害が発生することで心筋の伸縮(心臓のポンプ機能)がうまく働かなくなった状態を指します。

 当社は、心疾患の中で二つの重症の病態である「虚血性心疾患/虚血性心筋症(ICM)」及び「拡張型心疾患/拡張型心筋症(DCM)」に対する新規の治療法とするため、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの開発・実用化を進めております。

 

虚血性心疾患(ICM)

 虚血性心疾患とは、心臓に栄養を与えている血管(冠動脈)が動脈硬化等によって狭くなり(冠動脈狭窄)、詰まること(閉塞)により、心筋に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなることで起こる心筋梗塞や狭心症など心筋障害の程度が高度な心疾患です。一時的にでも完全に血流が途絶えると、心筋の機能が低下した状態が続くことになり、この状態を「虚血性心疾患」と呼びます。

 

拡張型心疾患(DCM)

 心筋の収縮が弱くなり、心臓が次第に拡張していく病気です。十分な血液が全身に送れなくなると、それを補うために心臓はその容積を大きくして、1回の収縮で送り出す血液の量を増やそうとします。しかし、この状態が長く続くと、心臓の中に血液が滞って心臓はさらに拡大し、心筋は引き伸ばされ薄くなっていきます。これによって心臓にかかる負担はむしろ大きくなっていくという悪循環を招きます。心臓の機能が低下して全身に十分な血液が行き渡らなくなると、脳から心臓に強く働くよう〝指令〟が出る一方、腎臓では尿として排泄される量が減り、その分、体内の水分(体液)の量が増え、心臓にかかる負担はさらに増加します。

 

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの対象患者は、内科的な治療では心疾患による心臓の悪化を防ぐことができず、心臓移植又は補助人工心臓の装着まで悪化していない患者で、NYHA(※11)心機能分類Ⅲ度の後期(Ⅲ度B)及びⅣ度の初期の患者です。心不全患者のうち、NYHA心機能分類でⅠ度の患者の割合は35%、Ⅱ度は35%、Ⅲ度は25%(Ⅲ度Aは15%、Ⅲ度Bは10%)、Ⅳ度は5%存在すると推定されています(Miller LW. (2011). Left Ventricular Assist Devices Are Underutilized. Circulation, 123, 1552–1558.)。公益財団法人日本心臓財団によると、日本での心不全患者数は、2030年には130万人に達すると推計されており、当社の対象患者に最も近いとされるNYHA心機能分類Ⅲ度Bの患者は心不全患者全体の10%であるため、日本での対象患者数は13万人程度存在すると推計されます。

 同様の推定を米国及び全世界において行うと、米国での心不全患者数は600万人であるため、NYHA心機能分類Ⅲ度の患者数が150万人(うち、Ⅲ度Bの患者数は60万人)、Ⅳ度が30万人と推計されます。また、全世界ベースでは心不全患者数が2,600万人であるため、NYHA心機能分類Ⅲ度の患者数650万人(うち、Ⅲ度Bの患者数は260万人)、Ⅳ度が130万人となり、相当数の患者数が存在すると推測されます。(Savarese G, Lund L.H. (2017). Global Public Health Burden of Heart Failure. Card Fail Rev., 3(1), 7–11.)

 

日本におけるヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの年間ベースでの対象患者数を試算すると、まず、厚生労働省が発表した2023年(令和5年)の「患者調査」によると、虚血性心疾患患者は約6.3万人(うち入院患者数が約1.1万人)、さらに陳旧性(慢性的な)心筋梗塞患者が0.9万人おり、合計で約7.2万人程度が年間治療を受けています。入院患者の約1.1万人は、NYHA心機能分類のⅢ度ないしはⅣ度と類推すると、上述のとおり、NYHA心機能分類でのⅢ度とⅣ度の比率は5:1であることから、Ⅲ度が約0.9万人、Ⅳ度が約0.2万人と推計されます。また、Ⅲ度AとⅢ度Bの比率は1.5:1であることから、日本におけるヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの年間ベースでの対象患者数(Ⅲ度B)は年間で0.4万人と推測されます。

公益社団財団法人日本臓器移植ネットワークによりますと、2025年3月末時点で心臓移植希望登録者は813人となっており、これらを勘案すると当社製品の対象患者は相当数存在すると考えられます。

また、当社が効能追加を目指している拡張型心疾患の患者数については、公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターが発表した「特定医療費(指定難病)受給者証所持者数」では、2023年度末現在で18,108人存在しているというデータがあります。

 

 

 以上のデータに基づく日本、米国及び全世界の患者数の推計と当社研究開発領域は図5のとおりです。

 

図5 日本、米国、世界の患者数と当社研究開発領域

 

 

② 研究開発パイプラインの状況

当社の研究開発パイプラインとその進捗状況は以下のとおりです(図6)。

 

図6 研究開発パイプライン

 

 

 

a.PJ1  ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:虚血性心疾患(国内))

 当社では、虚血性心疾患(ICM)を対象としたヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの開発が最も進んでおり、製造販売承認の取得に向けて注力しております。

 本開発製品の製造販売の承認申請までの流れを以下に説明します。

 

本開発製品については、大阪大学による医師主導治験が完了しています。前半(コホートA)3症例と後半(コホートB)5症例の計8症例について、本開発製品の移植実施後12か月間の経過観察結果を取りまとめ、2025年4月に厚生労働省に対し、製造販売承認申請を行いました。今後は、厚生労働省及び医薬品医療機器総合機構(PMDA)が申請資料の内容を審査し、当社は審査に関する質問事項に応答します。審査が終了し、承認が得られた場合には、速やかに製造販売を開始する予定です。

 

 再生医療等製品については、承認制度として2014年に「条件及び期限付承認制度」が創設されました。「条件及び期限付承認制度」とは、治験の対象患者の集積が難しいことや、対象製品の品質の不安定性等の理由により、臨床第Ⅲ相(PⅢ)試験といった検証的臨床試験の実施に長期間を要するような医薬品、医療機器及び再生医療等製品について、少数例の治験データに基づき、安全性が確認され、一定の有効性が見込まれる製品を一定条件と期限を付したうえで早期に承認し、販売後に有効性を評価する制度です(図7)。

 当社のヒトiPS細胞由来心筋細胞シートもこれらの性質を有するため、本制度を活用して製造販売承認を取得することを想定しております。なお、条件及び期限付承認を得られた場合、製造販売開始後の一定期間、使用成績調査や製造販売後臨床試験を実施し、製品の有効性及び安全性を追加で検証する必要があります。そのため、調査・試験に関するデータ収集、及び管理に係る体制を構築していきます。

 

 

図7 再生医療等製品の承認制度と当社の承認申請の状況

 

 次に、PJ1の現時点における進捗状況の詳細を以下に説明いたします。

 

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの臨床試験として、大阪大学により医師主導治験が実施されました。本開発製品の臨床開発は、高度な医療手技を伴うため、豊富な経験と知見を有する医師が自ら治験を実施することにより、医学的・科学的判断を迅速に行い、治験の質を向上させることが期待されたためです。他社で実施されている複数の再生医療等製品の臨床開発においても、医師主導治験が採用されています。

 本医師主導治験の前半となるコホートA(ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートが初めてヒトに移植されることから慎重に治験を進めるためのフェーズ)では、計3症例の被験者に対して移植が行われました。2020年1月に第1例目への移植を実施し、2020年11月には第3例目の移植を実施しました。大阪大学内に設置され、独立した評価を実施する効果安全性評価委員会が、コホートAの3症例での安全性や有効性の評価を行い、その結果、治験を継続することが認められました。

 続いてのコホートB(コホートAでの安全性及び有効性評価に応じて用量の増加を可能とするフェーズ)は多施設共同試験として、2022年8月、同年12月に順天堂大学医学部附属順天堂医院にて、それぞれ1症例ずつ移植が実施され(※12)、2023年1月には九州大学病院及び大阪大学医学部附属病院、2023年3月には東京女子医科大学病院にて移植が行われ、計画していた計5症例の被験者への移植を完了しました。治験で使用するヒトiPS細胞由来心筋細胞シートは、当社のCLiC-1で製造し、各治験実施施設へ輸送を行いました。

 これら8症例の移植完了後、移植後26週までの有効性評価、52週までの安全性評価を実施し、試験データの統計解析等を行いました。その結果をもとに、厚生労働省へ提出する承認申請資料の作成を行いました。承認申請書類の作成過程では、重症度の高い心不全患者の病態を踏まえ、長期間データを組み込むなど治験結果の評価を最大限に反映する対応を行い、PMDAとの協議も重ねながら、2025年4月に厚生労働省へ承認申請資料の提出を行いました。

 

大阪大学の研究チームがコホートAの3症例を対象に解析結果をまとめた論文を公表しています(※13)。本解析結果は、iPS細胞由来心筋細胞シートの移植後、免疫抑制剤を3か月間投与し、1年間の観察期間を経て、心機能の変化、心臓の血流、心不全の病状及び免疫反応等を調べたものです。移植の対象は、(a)左心室駆出率が35%以下、(b)NYHA(ニューヨーク心臓協会)の心機能分類がⅢ度以上であり、既存の治療を受けている患者です。

調査結果の概要は、以下のとおりです。

 

・副作用、病状の悪化等については観察されず、心機能の改善が観察された。

・特に3症例中2症例は、左心室の伸縮性の改善及び心筋への血流改善が観察された。

・免疫反応については、免疫抑制剤投与終了後は、3症例全てで移植細胞に対する抗体値が上昇しており、さらに、心機能の改善が弱かった1症例については、移植前からHLA-DQに対する抗体値(非自己細胞を認識し、免疫を活性化する抗体の一種)が上昇していた。

・今回の研究の結論は、安全性に関しては、問題がなかった。一方、治療効果及び免疫反応との関連性に関しては、引き続き症例数を増やすことが必要である。

 

3症例のプロフィールとNYHAによる心機能分類の改善

 

 

年齢

性別

身長(cm)

体重(kg)

心不全の症状

(術前→1年後)

Case1

51

男性

167.4

58.8

NYHA class Ⅲ→Ⅰ

Case2

76

男性

166.2

64.0

NYHA class Ⅲ→Ⅱ

Case3

65

男性

159.7

67.8

NYHA class Ⅲ→Ⅰ

 

 

ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートについては、上記論文の発表の他に、2023年11月に大阪大学の研究グループがAHA(American Heart Association:米国心臓協会)のサイエンティフィックセッションにおいて、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートのヒトへの初の移植事例である医師主導治験の結果について発表を行いました。

AHAは、1924年に心臓病専門医によって設立された心臓分野における世界最大規模の医学系学会で、世界中の心血管疾患の権威ある医師によるプレゼンテーションや議論を通じて、最先端の研究や臨床技術に触れることができる循環器領域の世界最高峰の学会として、研究発表への採択が最も難しい学術集会と評されています。このような権威ある当学会でオーラルセッション(口頭発表)に採択され、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの3症例の移植による安全性の確認と今後の可能性をテーマに発表を行いました。

なお、発表の概要は以下のとおりです。

・タイトル:First in Human Clinical Trial of Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Cardiac Patches for Ischemic Heart Failure Patients

・セッション:Scientific Sessions

・形式: オーラルセッション(口頭発表)

・発表者: 河村拓史(大阪大学大学院 医学系研究科 心臓血管外科 助教)

・発表内容:iPS 心筋細胞シート3症例の移植による安全性の確認と今後の可能性

 

 

[PJ1 事業系統図]

 

 

b.PJ2  ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:拡張型心疾患(国内))

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートについては、PJ1 虚血性心疾患(ICM)の他に、拡張型心疾患(DCM)に対する研究開発を大阪大学が進めており、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和5年度「再生医療等実用化研究事業」として採択されています(公募課題「拡張型心筋症に対するヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートを用いた臨床試験」)。

 拡張型心疾患は、虚血性心疾患と同様に、微小循環(※14)を含む心筋組織の虚血による心筋細胞の肥大化や線維化であり、これらが進行することで心機能が低下する状態となるため、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの治療メカニズムから見て効果があるのではないかと考えられ、拡張型心筋症(DCM)の効能追加の研究開発を推進しています。当社は、DCMモデル動物を用いたヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの有効性を基に、大阪大学が進める医師主導治験のプロトコル設計を支援しました。これまでに、2症例への移植が行われ、当社は治験に使用するヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを作製し、大阪大学に提供いたしました。

 

 

c.PJ3  ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:虚血性心疾患(海外))

 虚血性心疾患(ICM)を対象としたヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの開発については、国内(PJ1)だけでなく海外での製造販売承認の取得を計画しております。

 当連結会計年度において、米国における当社製品の研究開発、事業化及び将来のパートナー探索等の現地活動強化を目的に、経済産業省が米国カリフォルニア州パロアルトに設立したビジネス拠点「ジャパン・イノベーション・キャンパス」内に連結子会社としてiReheart Inc.を設立いたしました。

また、2024年12月には、スタンフォード大学心臓胸部外科と共同研究開発契約を締結いたしました。米国では、既存の心筋細胞シートを米国向けに改良した製品及び新しいコンセプトのiPS細胞由来製品の開発を行う予定であり、心筋梗塞ブタの心臓に移植する動物実験からなる共同研究プログラムを実施いたします。本大学病院は、2024年-2025年の「U.S. News & World Report」誌の Best Hospitals Honor Roll特集号において、循環器科、心臓・血管外科、肺・呼吸器外科で全米トップの病院の一つに選ばれています。本共同研究を通じ、FDAへの治験薬申請に使用するデータを収集し、米国での治験の実施を目指してまいります。

 さらに、翌事業年度の上半期にFDA相談の実施を目指し、外部専門家との協議を開始しております。

 

d.PJ4 カテーテル

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートと比べ、軽度の心疾患に対応するパイプラインとして、カテーテルによる新たな血管内アプローチによりヒトiPS細胞由来細胞を心臓へ移植する治療技術の開発を、朝日インテック株式会社との共同開発(※15)により進めております。同社が有するカテーテル製品開発技術と当社のヒトiPS細胞由来細胞の開発を組み合わせることにより、新しい治療技術を創出します。

本製品は、循環器内科医が急性心筋梗塞(AMI)(※16)・慢性完全閉塞性病変(CTO)(※17)等の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)(※18)と併用することによって、開胸等の新たな侵襲を患者に加えることなく、心機能の回復を高める治療技術を目指しております。

 日本におけるカテーテル治療の市場規模は年間30万件を超えており(出所:日本循環器学会)、循環器内科における心疾患の治療法として位置付けられています。

 

日本におけるカテーテル治療

(単位:件)

 

2018年

2019年

2020年

2021年

2022年

2023年

2024年

緊急PCI

76,807

78,420

79,472

76,075

76,665

77,949

80,057

待機的PCI

201,478

192,670

187,960

171,916

172,789

165,567

165,095

AMI患者へのPCI

54,085

56,713

56,666

55,995

55,525

56,856

58,316

補助LVAD

260

250

342

329

315

327

399

合計

332,630

328,053

324,440

304,315

305,294

300,699

303,867

(出所:日本循環器学会「循環器疾患診療実態調査 報告書」をもとに当社作成)

 

朝日インテック株式会社との共同研究開発では、カテーテル及び投与する細胞の研究開発が順調に進捗し大動物への実験を行っております。また、今後も両社間でより緊密に研究開発を行うこと、日本及び米国における事業化の検討を推進すること、さらには心臓以外の他臓器治療への応用を議論すること等について、朝日インテック株式会社と合意に至っております。

 

e.PJ5 体内再生因子誘導剤

 オキシム誘導体(YS-1301)を低用量使用することにより、組織の再生を促進する各種体内再生因子(肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、ストローマ由来因子(SDF-1)(※19)、骨髄細胞動員因子(HMGB1)等)が誘導される薬理作用に基づき、細胞保護、抗線維化、抗炎症作用による血管新生、組織再生が期待されます。具体的には、肝硬変・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)(※20)、閉塞性動脈硬化症(ASO)(※21)、慢性腎不全(CKD)(※22)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(※23)等への治療薬としての開発を目指します。オキシム誘導体をごく低用量使用する治療薬とすることから、安全性の担保がなされているのも特徴となります。また、本案件は、開発済の化合物を活用するドラッグリポジショニング(※24)であり、効率的な開発、製品化を目指すものです。

 大阪大学との探索研究を進めている他、2023年10月には国立大学法人新潟大学と共同研究契約を締結し、肝硬変・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)等の肝疾患モデル動物を対象に体内再生因子誘導剤を投与し、炎症や線維化の抑制、肝機能改善等の効果を検証しております。また、2024年11月には大阪大学と共同研究契約を締結し、炎症性腸疾患の病態改善効果を検証しております。

 

 

以上が、当社が有する研究開発パイプラインとなります。

 

当社は、日本で発明されたiPS細胞による世界初のヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた最先端の再生医療技術の研究開発及び実用化の実績と経験に裏付けされた高い技術力により、iPS細胞による次世代の再生医療技術はもとより、アカデミアによる有望なシーズの実用化支援、様々な周辺技術を開発する企業等との共同研究開発アライアンス、受託開発及び受託製造を通じて、国内外の再生医療分野の迅速かつ健全な普及発展に寄与するべく、当社のリソースを最大限に活用した積極的な事業展開を進めてまいります。現在、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートによる重度の心疾患の治療から、カテーテルを活用した新しい治療技術による軽度の心疾患の治療に至るまで、特定の疾患領域に限定せず、心臓における幅広い領域の治療に対応すべく、当社が有する再生医療技術の実用化に向けた研究開発を進めているところです。

 

(5) CDMO事業

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの研究開発・事業化を通じて培った大量培養技術・ノウハウ及び独自の設計コンセプト(特許出願中)に基づき、効率的かつ実効的な最先端の商業用細胞培養加工施設「CLiC-1」を活用し、様々な細胞製品のCDMO事業にも取り組んでおります。CLiC-1は、上記の独自設計コンセプトに加え、製造プロセス開発や非臨床細胞製造が可能なラボを併設しており、これらの施設や技術ノウハウを最大限に活用した製造プロセスの初期検討から非臨床、臨床試験、商用製造に至るまでのスケーラブルな開発をワンストップで進めることを可能としております。これにより、各段階で多大な労力と時間及びコストが強いられる技術移管等を大幅に効率化することに成功し、再生医療技術の開発や安全で安定した治療用細胞の製造及び提供に寄与するため、再生医療等安全性確保法に基づく「特定細胞加工物製造許可」(施設番号:FA5210001)を2021年9月に取得し、活発な事業活動を展開しております。大企業が有する大規模な細胞培養加工施設では対象としない、少量製造も対応するのが当社サービスの強みでもあります。小回りの利いたきめの細かいサービスを提供することで、バイオベンチャーからの引き合いも増加しているところです。

 また、2025年4月から開催されている「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)において、株式会社パソナグループが出展するパビリオン「PASONA NATUREVERSE」及び大阪府・大阪市が出展するパビリオン「大阪ヘルスケアパビリオン」向けに当社が開発・製造したiPS心臓や心筋細胞シートが展示されており、当該展示物に当社の技術が活用されています。

 

(6) その他ビジネス

 2023年12月に連結子会社としてクオリプスヘルスケアサイエンス株式会社を設立し、メーカー等へ原材料供給を行うため、研究開発、動物実験等を通じて、同供給の企画推進を行っています。

 

(7) 今後の展開

 当社グループにとって最初のプロジェクト製品となる「PJ1 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:虚血性心疾患(国内))」の製造販売承認の取得と、製造販売に必要となる体制の整備を優先に取り組んでまいります。具体的には、当社のヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認の取得後を見据え、製造販売後調査のための体制整備や販売及び流通のためのロジスティクスの構築等であります。ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートについては、当社自身での販売及びプロモーション活動を行い、販売先を確保する方針であり、営業・販売活動の人員を含む必要なリソースの確保を行うと共に、販売先の拡大とそれを支える製造販売体制の充実に努めます。

さらに、これまでに得られた高度な技術及び知見を蓄積した人材、並びに先進的な設備等のリソースを最大限活用した様々な事業展開が考えられます。例えば、海外展開においては日本での治験等の結果をベースに欧米の製薬企業等へライセンスを供与する、又は米国での治験を行い、さらに付加価値を高めてからジョイントベンチャーを設立し、欧米企業との提携若しくは出資関係の構築又はライセンス供与を行うこと、心臓以外の他臓器への再生医療事業への展開、より低侵襲性の心不全への治療製品の開発等、様々な方策を検討しております。開発が先行しているヒトiPS細胞由来心筋細胞シートは、文字どおり心筋に作用し、血管新生因子等を出すことで心疾患の治療に資するものとして開発を進めているところです。心筋細胞シートにより産出される血管新生因子は周辺の細胞にも作用するパラクライン効果が推定されておりますが、これは心筋細胞だけではなく、その他の細胞にも同様の作用があるものと考えております。将来的には、当社が有する心筋細胞シートの技術を心臓だけではなく、肝臓やその他の臓器にも応用することで、様々な部位の疾患に対する治療製品の開発を展開していきたいと考えております。

当社グループはバイオベンチャーとして、複数のパイプラインを抱えており、既に、探索研究、非臨床研究も推進しております。こうしたパイプラインについても、今後、大手製薬企業との研究開発アライアンスにより、マイルストーン契約的な事業モデルを選択する可能性もあります。

当社グループが、ヒトiPS細胞由来の再生医療等製品の開発・商業化を進めていくためには、財政基盤を盤石にしていくことが不可欠です。外部からの資金調達や資金提供だけでなく、CDMO事業やその他ビジネスを成長させることにより獲得する収益は、当社グループの財政基盤の強化にも資するものとなります。

当該事業の更なる強化のために、提供するサービスの品質向上に加え、営業・マーケティングの強化等、収益力の強化を図る取り組みを進めてまいります。

 

[全体事業系統図]

 

当社グループは、従来の研究開発を中心としたバイオベンチャー企業とは異なり、商業用細胞培養加工施設と技術を活用し、アカデミア、製薬企業、医療機器メーカー等をつなぎ合わせ、探索研究から商用生産までワンストップで提供すること、及び難治性疾患に対するものを含む次世代の治療モダリティや関連するソリューションを創造し提供することを目指しております。

 また、再生医療等製品の開発・商業化だけではなく、研究開発ラボと商業用細胞培養加工施設を一体化したCLiC-1を活用し、アカデミアによる有望なシーズの実用化支援、様々な周辺技術を開発する企業等との共同研究開発アライアンスを推進し、CDMO事業等を通じて再生医療分野の迅速かつ健全な普及発展に寄与すると共に、他のパイプラインとは異なる市場へのアプローチを行い、リソースを最大限に活用した積極的な事業展開を進めてまいります。

 

 

(8) 用語解説等

※1

分化誘導

幹細胞を異なる細胞種に変化させること。

※2

骨格筋芽細胞

骨格筋内に存在する未分化性の細胞であり、発生期や再生期に増殖して筋細胞に分化する細胞。

※3

治療モダリティ

治療技術や手段の意味。モダリティは「様式」といった意味があるが、医療分野では、技術の方法や手段の分類を指す。

※4

医師主導治験

製薬企業が主体的に行う企業治験に対して、医師が自ら治験を行うこと。2003年の薬事法改正により、医師主導治験が可能となっている。医師主導治験においても、企業が治験薬や資金等を提供するなどの支援は可能であるが、治験準備から試験の実施、試験結果の結論付けなどは治験責任医師が実施することであり、治験の根本に係るプロセスに企業は関与しないことが原則である。したがって、治験を実施した医師等が報告・公表するまで、企業は試験の実施状況や結果などの情報を得ることは困難である。

※5

局所制御技術

開口部に扉を設けないことで、開口部からブース外へ一方向の気流を形成させ、再生医療等製品の製造を行うエリアを高い清浄度に保つ技術。ダイダン株式会社が開発したクリーンブースに当該技術が導入されている。

※6

サイトカイン

さまざまな細胞から分泌され、特定の細胞の働きに作用するタンパク質。

※7

レシピエント心筋

レシピエントとは、臓器移植等における臓器の受容側を指す。この場合、動物実験におけるヒトiPS細胞由来心筋細胞を受け入れた動物の心筋を指す。

※8

他家細胞

患者以外の別の方の細胞。他家細胞に対し、患者自身の細胞は自家細胞という。

※9

補助人工心臓装置(VAD)

様々な原因により急性あるいは慢性の経過から重度の心不全状態(急性心原性ショックを含む)に陥ってしまった心臓の代わりとして、血液循環を補助するポンプ機能を補う医療機器。VADは、Ventricular Assist deviceの略。

※10

侵襲

医学的には、生体の恒常性を乱す事象のこと。怪我、病気に加え、手術、投薬等の医療行為による影響を意味する。

※11

NYHA

ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)の略称。

NYHA心機能分類は、NYHAが心機能を重症度に応じて、以下の四つに分類したもの。

I度:心疾患を有するが、そのために身体活動が制限されることのない患者

Ⅱ度:心疾患を有し、安静時には無症状であるが、通常の活動で疲労、動悸、呼吸困難、狭心症になる患者

Ⅲ度:心疾患を有し、身体活動が高度に制限される患者であり、通常以下の活動で疲労、動悸、呼吸困難、狭心症になる患者

Ⅳ度:非常に軽度な活動や安静時でも心不全や狭心症を起こす患者

※12

順天堂医院における移植事例

2022年9月12日付の順天堂大学発表ニュースリリース

https://www.juntendo.ac.jp/news/00616.html

※13

「コホートA」論文

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcvm.2023.1182209/full

※14

微小循環

心筋組織内の細い血管から成る血管網のこと。心臓の筋肉に酸素や栄養を届け、老廃物を回収する役割を担う。

※15

朝日インテック株式会社との共同開発

2022年4月12日付の同社発表ニュースリリース

http://www.asahi-intecc.co.jp/r/2977/

※16

急性心筋梗塞(AMI)

心臓の血管が詰まり血流が止まることで、心筋に酸素と栄養が十分に供給されないことで心筋が壊死した状態となる病気。体内に酸素等が十分に供給されなくなることで、致死的な状態となる可能性がある。AMIはAcute myocardial infarctionの略。

※17

慢性完全閉塞性病変(CTO)

心臓の冠動脈が3か月以上にわたり完全に閉塞し、血流が止まっている状態。CTOはChronic Total Occlusionの略。

※18

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)

虚血性心疾患に対して、冠動脈内腔の狭窄部分にカテーテルを使用して拡張する治療法。PCIはPercutaneous Coronary Interventionの略。

※19

ストローマ由来因子(SDF-1)

ストローマ(Stromal Cell)とは、臓器の結合組織の細胞であるストローマ細胞を指す。ストローマ細胞から派生する因子の意。SDFはStromal Cell-Derived Factorの略。

※20

肝硬変・非アルコール性脂肪肝炎 (NASH)

非アルコール性脂肪性疾患の一部。脂肪変性、炎症、肝細胞障害等を伴う。病状が進行した場合、肝硬変や肝臓がんにもつながる。NASHはNonalcoholic Steatohepatitisの略。

※21

閉塞性動脈硬化症(ASO)

手足の血管動脈の硬化が進行し、狭窄や閉塞が発生することにより、血流が悪化する病気。手足に酸素、栄養分の供給が不足することとなり、冷感、しびれ感、間歇性跛行(歩行中の足の痛み)、疼痛、潰瘍、壊疽等の症状が発生し、症状が進行した場合には、手足の切断に至る場合もある。ASOはArterio-Sclerosis Obliteransの略。

※22

慢性腎不全(CKD)

腎臓の機能が低下し、老廃物を十分に排泄できなくなった状態。病状が進行した場合、定期的な透析や腎臓移植が必要となる。CKDはChronic Kidney Diseaseの略。

※23

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

タバコ等の有害物質を長期吸引することで発症する病気。以下のような症状を伴う。① 気管支に炎症がおき咳や痰が出る、気管支が細くなることによって空気の流れが低下する。② 気管支の奥にあるぶどうの房状の肺胞が破壊され、酸素の取り込みやCO2の排出する機能が低下する。COPDはChronic Obstructive Pulmonary Diseaseの略。

※24

ドラッグリポジショニング

既存薬再開発とも言う。開発済の薬や化合物を、別の疾患治療用に開発を行うもの。ゼロから開始する新薬開発に比べ、安全性や危険性が明らかになっていること、開発にかかる費用の削減や時間の短縮が可能となること等の利点があげられる開発手段。

 

業績

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は以下のとおりであります。

 

① 財政状態の状況

(資産)

 当連結会計年度末の流動資産の残高は、前連結会計年度末に比べ487,021千円減少し、5,125,116千円となりました。これは主に、有価証券(外貨建てMMF)が177,738千円、CDMOサービスに関連する契約資産が153,792千円増加した一方で、研究開発費、事業運営費の支出や運転資本の増加等により現金及び預金が966,183千円減少したことによるものであります。固定資産の残高は、前連結会計年度末に比べ43,892千円増加し、616,493千円となりました。これは主に、投資その他の資産が30,141千円増加したことによるものであります。

 この結果、総資産は、前連結会計年度末に比べ443,128千円減少し、5,741,609千円となりました。

 

(負債)

 当連結会計年度末の流動負債の残高は、前連結会計年度末に比べ11,300千円増加し、177,315千円となりました。固定負債の残高は、前連結会計年度末に比べ349千円減少し、34,595千円となりました。

 この結果、負債合計は、前連結会計年度末に比べ10,950千円増加し、211,911千円となりました。

 

(純資産)

 当連結会計年度末の純資産の残高は、前連結会計年度末に比べ454,079千円減少し、5,529,698千円となりました。これは主に、新株予約権の行使等により資本金が72,403千円、資本剰余金が72,141千円増加した一方で、親会社株主に帰属する当期純損失を644,342千円計上したことによる減少であります。

 

② 経営成績の状況

 当連結会計年度における経済情勢は、我が国においては春闘による大幅な賃上げや日銀の金融政策正常化の動きがあり、国内景気は一部で足踏みするも緩やかに回復しました。しかしながら、依然としてエネルギー価格の高騰や円安による物価上昇が継続しています。

 米国においてはFRBが利下げを開始しましたが、トランプ政権の政策動向への不透明感やインフレ再燃への警戒感、地政学リスクの高まり等もあり、当社グループを取り巻く経営環境は不透明な状況が続いております。

 

 このような状況下で、当社グループはヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを中心として事業を推進してまいりました。主なプロジェクトの研究開発状況は以下のとおりであります。

 

PJ1 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:虚血性心疾患(国内))

 当社は、虚血性心疾患(ICM)による重症心不全を適応症とするヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認の取得に向け、国立大学法人大阪大学(以下、大阪大学)が実施する医師主導治験を支援しております。本医師主導治験は、2020年1月に1症例目の被験者に移植が行われ、2023年3月には予定した8症例の被験者に対する移植が完了しております。

 当連結会計年度においては、役員及び従業員が一丸となって承認申請業務に取り組み、2025年4月に厚生労働省に対し、再生医療等製品製造販売承認申請を行いました。今後は、患者様に一日も早くヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを提供できるよう、規制当局による審査等に迅速に対応し、承認取得を目指してまいります。

 

PJ2 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:拡張型心疾患(国内))

 大阪大学はヒトiPS細胞由来心筋細胞シートに拡張型心疾患(DCM)を効能追加するための研究開発を進めています。拡張型心疾患(DCM)の研究開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和5年度「再生医療等実用化研究事業」として採択されています(公募課題「拡張型心筋症に対するヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートを用いた臨床試験」)。当社は分担機関として、その一部の研究開発の再委託を大阪大学から受けており、大阪大学が進める臨床試験を支援しております。

 当連結会計年度においては、大阪大学で医師主導治験が開始され、2症例の被験者に移植が行われました。当社は被験者に移植するヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを作製し、大阪大学に提供いたしました。

 

PJ3 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:虚血性心疾患(海外))

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートについては、日本だけでなく海外でも製造販売承認の取得を計画しております。

 当連結会計年度において、米国における当社製品の研究開発、事業化及び将来のパートナー探索等の現地活動強化を目的に、経済産業省が米国カリフォルニア州パロアルトに設立したビジネス拠点「ジャパン・イノベーション・キャンパス」内に連結子会社としてiReheart Inc.を設立いたしました。

また、2024年12月には、スタンフォード大学心臓胸部外科と共同研究開発契約を締結いたしました。米国では、既存の心筋細胞シートを米国向けに改良した製品及び新しいコンセプトのiPS細胞由来製品の開発を行う予定であり、心筋梗塞ブタの心臓に移植する動物実験からなる共同研究プログラムを実施いたします。本大学病院は、2024 年-2025 年の「U.S. News & World Report 」誌の Best Hospitals Honor Roll 特集号において、循環器科、心臓・血管外科、肺・呼吸器外科で全米トップの病院の一つに選ばれています。本共同研究を通じ、FDAへの治験薬申請に使用するデータを収集し、米国での治験の実施を目指してまいります。

 さらに、来年度の上半期にFDA相談の実施を目指し、外部専門家との協議を開始いたしました。

 

PJ4 カテーテル

 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートと比べ、軽度の心疾患に対応するパイプラインとして、カテーテルによる新たな血管内アプローチによりヒトiPS細胞由来心筋細胞を心臓へ移植する治療技術の開発を、朝日インテック株式会社(本社:愛知県瀬戸市)との共同開発により進めております。同社が有するカテーテル製品開発技術と当社のヒトiPS 細胞由来心筋細胞を組み合わせることにより、新しい治療技術を創出します。

 本製品は、循環器内科医が急性心筋梗塞(AMI)、慢性完全閉塞性病変(CTO)等の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と併用することにより、開胸等の新たな侵襲を患者に加えることなく、心機能の回復を高める治療技術の開発を目指しております。

 当連結会計年度において、朝日インテック株式会社との共同研究開発では、大動物実験を行いました。

 

PJ5 体内再生因子誘導剤

 オキシム誘導体(YS-1301)の低用量使用により体内再生因子(HGF、VEGF、SDF-1、HMGB1等)が誘導される薬理作用に基づき、細胞保護、抗線維化、抗炎症作用による血管新生、組織再生が期待されます。肝硬変・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)(※4)、閉塞性動脈硬化症(ASO)(※5)、慢性腎不全(CKD)(※6)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(※7)等への治療薬としての研究開発を行っております。小野薬品工業株式会社及び株式会社カルディオより各種特許・ノウハウ等の承継を完了しており、対象疾患の薬効メカニズム検証・製剤開発を進めております。

 当連結会計年度においては、大阪大学と肝硬変・肝切除等を対象とする共同研究を継続しております。

 

 上記の他、大阪府大阪市北区にオープンした未来医療国際拠点Nakanoshima Qrossにて、次世代モダリティの開発を促進する細胞大量製造バリューチェーン開発コンソーシアムを発足いたしました。

 本コンソーシアム発足の背景として、ヒトや動物の細胞を用いた技術は、再生医療等製品や医薬品にとどまらず、多方面でグローバルに進展していますが、これらに共通する課題は大量に細胞を製造する必要があること、さらに大量製造は多様かつ複雑な工程で構成されることから、製造装置及びシステム、利用されるデバイス、原材料等のアプリケーション開発において様々な企業が持つ技術や知見を結集する必要があります。当社グループとしても、日本のみならずグローバルでの事業展開を見据えた場合、さらなる製造能力の拡大や生産・製造技術の高度化を推進する必要があります。

 当社グループは、iPS細胞由来再生医療等製品の製造及び品質管理技術、並びに大量製造を実現する独自の細胞培養加工施設の設計技術をもって本コンソーシアムに参加し、参画する各企業と共同で細胞の大量製造を構成する「培養~回収~充填・分注~凍結~保存」の各工程を統合したプラットフォームシステムと、本システムで利用されるアプリケーションの開発を世界に先駆けて行います。本コンソーシアムにおける活動の成果は、当社グループの事業への導入だけでなく、各社と協力して作り上げたパッケージシステムとして国内外で活用します。また、各社の独自事業での利用を促進するオープンイノベーション拠点として本コンソーシアムを位置づけ、特定の企業による独占的な開発や、原則的に当社グループが成果を独占しないことを方針として、様々な技術・ノウハウを有する企業との開発を推進してまいります。

 

 売上高については、主に製造開発受託サービス(CDMOサービス)に係る売上を計上いたしました。

 

 この結果、当連結会計年度の経営成績は、売上高175,205千円(前年同期比658.4%増)、営業損失590,262千円(前年同期は588,487千円の損失)、経常損失642,014千円(前年同期は627,930千円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失644,342千円(前年同期は632,183千円の損失)となりました。

 当連結会計年度において発生した研究開発費(総額)は1,029,399千円(前年同期比30.5%増)でありましたが、共同研究開発パートナーから共同研究開発費(以下、共同研究開発費受入額)を受領しており、共同研究開発費受入額を控除した金額334,133千円(前年同期比59.3%増)を販売費及び一般管理費において研究開発費として計上しております。

 なお、当社グループは、再生医療等製品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。

 

③ キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ788,445千円減少し、4,793,824千円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、812,616千円の支出(前年同期は451,060千円の支出)となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失642,014千円の計上や、売上債権及び契約資産の増加額160,035千円によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、119,992千円の支出(前年同期は34,998千円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出80,196千円によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、145,113千円の収入(前年同期は3,125,418千円の収入)となりました。これは主に、新株予約権の行使による株式の発行による収入141,000千円によるものであります。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 当社グループが提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、記載を省略しております。

 

b.受注実績

 CDMO・コンサルティングサービスにおいては、一部受注生産を行っておりますが、ほとんどの場合において、生産に要する期間が短く、受注残高が僅少であることから記載を省略しております。

 

c.販売実績

 当連結会計年度の販売実績は、以下のとおりであります。なお、当社グループは再生医療等製品事業の単一セグメントであるため、サービス別に記載しております。

サービスの名称

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

金額(千円)

前年同期比(%)

CDMO・コンサルティングサービス

167,605

625.5

その他

7,600

(注)最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のと

おりであります。

相手先

前連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当連結会計年度

(自 2024年4月1日

至 2025年3月31日)

金額

(千円)

割合

(%)

金額

(千円)

割合

(%)

株式会社パソナグループ

120,900

69.0

株式会社乃村工藝社

18,911

10.8

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度の財政状態及び経営成績は、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に記載のとおりであります。

 また、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因として、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (3)業績・財政状態に関するリスク」に記載のとおりであります。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 キャッシュ・フローの状況の分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 当社グループは、研究開発を行う上で必要な資金は、共同研究開発パートナーとの共同研究開発契約を通じて確保しております。また、設備投資や事業運営費等の資金は、第三者割当増資や公募増資により確保しております。

 資金の流動性については、一時的な余資は主に流動性の高い金融資産で運用しており、投機的な取引は行わない方針であり、資産効率を考慮しながら、現金及び現金同等物によって確保を図っております。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて作成されております。資産・負債及び収益・費用の測定にあたり、金額を直接観察できない場合には、経営者は過去の実績やその他の様々な仮定を設定し、合理的に算定しておりますが、見積金額の測定には、固有の限界があるため、将来においてこれらの見積りとは異なる場合があります。

連結財務諸表等の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

セグメント情報

(セグメント情報等)

【セグメント情報】

当社グループは、再生医療等製品事業の単一セグメントであるため、記載を省略しております。

 

【関連情報】

前連結会計年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)

1.製品及びサービスごとの情報

 単一の製品・サービスの区分の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の90%を超えるため、記

載を省略しております。

 

2.地域ごとの情報

(1) 売上高

 本邦の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の90%を超えるため、記載を省略しております。

 

(2) 有形固定資産

 本邦に所在している有形固定資産の金額が連結貸借対照表の有形固定資産の金額の90%を超えるため、

記載を省略しております。

 

3.主要な顧客ごとの情報

(単位:千円)

顧客の名称又は氏名

売上高

関連するセグメント名

レグセル株式会社

19,106

再生医療等製品事業

セルソース株式会社

3,600

再生医療等製品事業

 

当連結会計年度(自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)

1.製品及びサービスごとの情報

 単一の製品・サービスの区分の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の90%を超えるため、記

載を省略しております。

 

2.地域ごとの情報

(1) 売上高

 本邦の外部顧客への売上高が連結損益計算書の売上高の90%を超えるため、記載を省略しております。

 

(2) 有形固定資産

 本邦に所在している有形固定資産の金額が連結貸借対照表の有形固定資産の金額の90%を超えるため、

記載を省略しております。

 

3.主要な顧客ごとの情報

(単位:千円)

顧客の名称又は氏名

売上高

関連するセグメント名

株式会社パソナグループ

120,900

再生医療等製品事業

株式会社乃村工藝社

18,911

再生医療等製品事業

 

【報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報】

該当事項はありません。

 

【報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報】

該当事項はありません。

 

【報告セグメントごとの負ののれん発生益に関する情報】

該当事項はありません。