2023年6月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります

(単一セグメント)
  • セグメント別売上構成
  • セグメント別利益構成 セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
  • セグメント別利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 セグメント別
売上高
(百万円)
売上構成比率
(%)
セグメント別
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 2,921 100.0 479 100.0 16.4

事業内容

 

3 【事業の内容】

当社は、「ゼロからイチを創る ~常識を疑い、組織力で難しい課題に挑戦する~」という経営理念のもと、ものづくり企業として、航空機エンジン部品、並びにその他製品の加工製造・販売を主な事業内容としております。また、創造性と技術力で製造業に新たな価値を提供することを目的とし、Additive Manufacturing(積層造形)※1等の新たなものづくりに向けての研究開発を推進しております。

なお当社は、「加工事業」の単一セグメントで活動しておりますが、参考として、当社の事業・機能を航空機エンジン部品加工とその他の加工の2つの分野に分類し、以下のとおりご説明いたします。

 

(1) 航空機エンジン部品加工

① 事業の特徴

当社は商業用航空機である、仏Airbus社製A320neoファミリー機と米Boeing社製737MAX機用エンジンである「LEAP」に搭載される、チタンアルミ製の低圧タービンブレードの加工生産・販売を行っております。航空機エンジンは、主にファン、低圧コンプレッサー、燃焼器、高圧コンプレッサー、高圧タービン、低圧タービンから構成されておりますが、低圧タービンは、燃焼ガスのエネルギーを回転力に変換しシャフトを介してファンに伝達する役割を担っており、当社のチタンアルミブレードは、その低圧タービンの最後段を構成しております。

 

<チタンアルミ製低圧タービンブレードの搭載図>


 

当社は、航空機エンジンメーカー大手である仏SAFRAN社と、LEAPエンジンに搭載される、当該チタンアルミブレード需要の35%のシェアを、原則として一定の価格(取引契約上は2022年6月から2026年まで同一価格、2027年以降は一定額の減少)で供給する契約を締結しております。そのため、当社のチタンアルミブレード生産量は、LEAPエンジンの生産量、並びにLEAPエンジンが搭載される737MAX及びA320neoファミリー等の生産量に影響を受けることとなります。一方で、航空機販売の特徴として、そのリードタイムの関係上、数年前から受注を受け付けることから、長期に渡って受注残高を積み上げることとなります。その結果、他業界と異なり、需要予測が長期間に渡って見込みやすい業界となります。当社においても、仏SAFRAN社からは数週間分の確定発注とともに、一定期間の発注見込みも提示されることから、一定程度の高い販売予測を見込むことができます。販売単価についても契約によって原則として定められているため、当社の売上金額は一定の精度で見込むことができます。また、当社は将来の増産に対応する設備を確保していること、材料が無償支給であることによる変動費の低さから、売上増加に伴う利益率の拡大が期待できる収支モデルとなっております。

 

 

<搭載される航空機及びエンジンとチタンアルミブレードの関係>


 

② 製品の概要

当社が生産・販売するチタンアルミ製の低圧タービンブレードが搭載されるLEAPエンジンは、米GE社と仏SAFRAN社の合弁企業であるCFM International社により開発生産され、先端の技術を搭載することにより、従来機種より消費燃料とCO2排出量の15%削減を実現したエンジンであり、航空機グローバルシェアNo.1の仏Airbus社製A320neoファミリー機とNo.2の米Boeing社製737MAX機に搭載されております(出典:一般財団法人日本航空機開発協会、2023年6月末時点)。

航空業界においては、燃料費高騰や環境負荷等への対応を背景に、燃費の向上が求められております。チタンアルミブレードは、従来使用されていたニッケル合金製のものと比較し、約半分の比重であるため機体の軽量化に貢献するとともに、高温における強度劣化が少なく、耐熱性も兼ね揃えた部品となります。そのため、旧来エンジンよりも性能を向上させることを目的に、LEAPエンジンに導入された新たな技術要素のうちの1つとなっております。なお、チタンアルミブレードは、従来材料より軽量である一方で、量産加工の難易度が高く、LEAP向けチタンアルミブレードを供給している企業は当社を含めてグローバルで2社のみとなります。当社は仏SAFRAN社と取引契約を締結し、当該チタンアルミブレードを供給しております。

当社では、最適な工程設計の開発、CAMによる加工プログラムの自社作成、加工に必要なエンドミル(切削加工に用いる工具)の自社設計と生産、設備メーカーとの協働による特殊設備の導入、治具の自社開発設計と製作、非破壊検査設備の導入や品質検査体制の自社整備等を行うことで、チタンアルミブレードの量産加工を実現しております。なお、チタンアルミブレードの量産加工の特徴は以下のとおりです。

 

<チタンアルミブレードとその量産加工の特徴>

項目

説明

硬くて脆い金属間化合物

チタンアルミとは、金属間化合物(2種類以上の金属によって構成される化合物)の一種(Ti-48Al-2Cr-2Nb)であり、比重がNi(ニッケル)合金の約半分程度でTi(チタン)合金よりも優れた耐熱強度を有するが、硬くて脆い特徴があり、加工難易度が高い

希少金属故に技術が未確立

チタンアルミは従来のニッケル合金などの耐熱合金と比較し、最適な加工条件が大きく異なり、切削加工にあたっては、工具及び切削条件の選定難易度が高く、特別なノウハウが必要となる

複雑形状且つ高精度の両立が必要

最新の空力設計を採用し、空力性能と軽量化を追求しており、複雑形状かつ要求精度が厳しい

量産化が困難

金属間化合物であるチタンアルミは、品質を維持しながら効率的な量産工程の確立が非常に難しく、量産化実現の例はグローバルでも極めて少ない

 

 

 

③ 航空業界部品で求められる能力と当社の状況

航空機エンジン産業は高度な安全性及び信頼性を確保するため、構成部品はロット番号やシリアル管理によるトレーサビリティが求められており、サプライヤーは設備の変更や加工プログラムの一部修正等の全ての生産プロセスの変更や修正において航空機エンジンメーカーの認証や許可が必要となります。そういった背景から、生産サプライヤーはあらゆる面で、高い水準の能力を具備することが求められております。

求められる能力

当社の状況

工程設計力

航空機部品においては、「難削材※2」「複雑形状」「特殊工程※3」「精密検査」が要求され、複雑に絡まった難易度の高い工程設計が必要となりますが、これらを自社で設計し、顧客要求を実現しております

工具開発力

チタンアルミ材料の特殊性や翼面の三次元形状に合わせた最適な加工を実現するためには専用工具の開発・設計が不可欠となります。3D CADを用いた工具設計や、工具形状測定機による品質保証体制を自社で構築するとともに、自社内での製造により原価の低減を実現しております。

加工技術力

航空部品量産加工には、最適な設備選定や、治工具設計、加工条件設定が重要となります。当社はこれらの技術開発を行い、自社でまとめる総合力を有しております。また、難易度の高い加工や、自動化を実現するためのシステム開発やDXにも積極的に取り組み、高効率なオペレーションを追求しております。

品質マネジメント力

当社は、航空産業の品質マネジメントシステム、顧客要求事項に準拠した品質保証の体制を独自に構築しております。 JISQ9100※4、JISQ14001※5及びNadcap※6等の認証取得に加え、社内の工程変更手続き、トレーサビリティ管理など、品質データ統合による品質管理の高度化を実現しております。また、検査工程においては、接触式、非接触式の高精度三次元測定機による検査体制と管理体制を整えております。

プロジェクトマネジメント力

海外OEMから航空エンジン部品を受注するためには、単なる『製造能力』だけではなく、グローバルコミュニケーション能力は当然のことながら、開発から量産フェーズにおける提案力、技術開発力、対応力、非破壊検査及びサプライヤーコントロールを含む一気通貫の量産体制の構築能力が不可欠となります。当社はこれらを実行する統合力を有しております。

先端検査技術力・

分析力

歩留り向上には、材料に起因する問題やクラック等のメカニズム解析が不可欠となります。当社は、材料観察やSEM分析※7、X線等の技術を駆使し、自社内で技術的な問題解決を行うことが可能です。治具構造やクランプ力の最適化を行うため、FEM構造解析※8を用いて定量的な評価や設計へフィードバックする取り組みも行っております

特殊工程の具備

航空エンジン部品には、FPI(蛍光浸透探傷検査)※9や、Xray(X線透過検査)等、いわゆる特殊工程が必要となります。特殊工程は、専門設備の他、検査員も数百時間に及ぶOJTが必要となる等、保持するには高いハードルが存在しております。当社はこれらの工程を自社で実施するための設備と技術を保有するとともに、国際特殊工程認証であるNadcapを取得しております。

 

 

④ 航空機体及びエンジン産業構造

当該事業が属する産業構造は下記のとおりであります。

a.航空機産業の特徴

航空機エンジンは高度な品質水準が求められるため、開発から品質及び生産の安定化までに長い年月と莫大な金額の設備投資が必要となります。また、品質及び生産が安定化した後も他産業と比較にならないほどの品質水準と生産管理水準が求められることが特徴です。航空機産業と自動車産業との比較は下記のとおりとなります。

 

<航空機産業の特徴~自動車産業との比較~>

 

航空機産業

自動車産業

ユーザー

・特定(航空事業者)

・不特定(主に個人)

安全基準・審査

・国際基準に照らした認証・証明が必要

・厳格な品質管理(工程管理・検査)

・各国の独自基準

・厳格な品質管理

開発期間

・通常10年以上

・通常1~2年程度

製品サイクル

・20~30年程度

・4~6年程度

部品点数

・約300万点(ボーイング777の場合)

・専用部品が多い

・約2~3万個

・部品共通化

年間生産数

・月産数十機程度

・1モデル数十万台

完成品メーカー

<機体>

・Airbus、Boeing、Comac 等

<エンジン>

・GE、Pratt & Whitney、Rolls-Royce 等

トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、ルノー、日産、ゼネラルモーターズ、現代自動車、フォード・モーター、本田技研工業、FCA、PSA、ダイムラー、スズキ、BMW、マツダ、SUBARU、三菱自動車、上海汽車、長安汽車、吉利汽車、BYD、テスラ 等

 

(出所:経済産業省「航空機産業の動向と参入のタイミング」を参考に当社作成)

 

b.航空機体及びエンジンメーカー

航空機産業はその産業構造から、参入障壁が高く、最終製品メーカー(機体及びエンジン)が少数の企業で占められていることが特徴となります。実質的に、商業用航空機体メーカーは仏Airbus社及び米Boeing社の2社、航空機エンジンメーカーは米GE社、米Pratt & Whitney社及び英Rolls Royce社の3社で大半のシェアが占められております。なお、当社の製品であるチタンアルミ製タービンブレードが搭載されるLEAPエンジンは、米GE社と仏SAFRAN社の合弁企業であるCFM International社が開発したエンジンとなります。

<主要な航空機体及びエンジンメーカー>

航空機体メーカー

航空機エンジンメーカー

仏Airbus社

米Boeing社

米GE社(仏SAFRAN社と合弁でCFM International社)

米Pratt & Whitney社

英Rolls Royce社

 

 

c.航空機エンジン産業のライフサイクル

航空機や航空機エンジンは、その長い開発期間と多額の開発費用から、ライフサイクル期間が、他産業の製品のライフサイクル期間より長期間になることも特徴です。したがって、航空機エンジン産業の事業収益モデルは莫大な初期投資と、長期に渡る品質管理体制と生産管理体制の準備と構築を必要とすることが特徴となります。一方で、参入障壁が高く、新規参入企業が少ないために将来の利益を計画しやすいという特徴があります。そして、航空機エンジン産業において、事業の初期段階である導入期には赤字事業となりますが、設備投資が一巡した成長期以降は継続的に黒字事業となることが一般的なビジネスモデルとなっております。

 

d.航空機体と航空機エンジンの種類

実質的に唯一の商業用航空機体メーカーである仏Airbus社及び米Boeing社が現在新規受注を進めている旅客用機体種類は限定されております。仏Airbus社の新規受注機体種類は、A350、A330、A220、A320neoファミリーの4機種のみであり、米Boeing社の新規受注機体種類は、777機、787機、737MAX機の3機種のみとなっています。そのうち、当社製品が搭載されるLEAPエンジンが搭載される機種は、仏Airbus社のA320neoファミリー機及び米Boeing社の737MAX機となります。

仏Airbus社のA320neoファミリー機では、LEAPエンジンを含めた2種類のエンジンが採用されており、米Boeing社の737MAX機では100%の機体でLEAPエンジンが搭載されております。LEAPエンジンが搭載される両機種は主に国内線で多く使われる中小型のNarrow Body機(狭胴機)であり、燃費が良く環境負荷が低いことが特徴となっております。

 

e.航空機輸送の考え方と受注残高機数

航空機輸送の考え方として、ハブアンドスポーク方式と、ポイントトゥポイント方式の考え方があります。ハブアンドスポーク方式は、大型のWide Body機(広胴機)等を活用し、主要空港などの大規模拠点(ハブ)に輸送を集中させ、そこから中小型のNarrow Body機等を活用して各拠点(スポーク)に輸送を行う方式となります。一方で、ポイントトゥポイント方式は、中小型機等を活用し、出発地から目的地に直接輸送を行う方式となります。以前は、大型機でないと長距離飛行ができなかったこともあり、ハブアンドスポーク方式が多く採用されておりました。しかしながら、エンジン性能の向上による規制の変更や、中小型機の燃費向上に伴う長距離飛行の実現に伴い、乗換等の手間が不要で柔軟なフライト設定が可能なポイントトゥポイント方式の考え方を取り入れる航空会社が増加しております。その結果、中小型機の需要が大きく増加する傾向にあり、仏Airbus社及び米Boeing社ともにLEAPエンジンが搭載される中小型機の受注残高が大きく増加しております。

<航空機種別の受注残高機数(単位:機)>

仏Airbus社

米Boeing社

機体種類

受注残高機数(※1)

機体種類

受注残高機数(※1)

機数

構成比

機数

構成比

A320neoファミリー(※2)

7,125

83.8%

737MAX(※2)

4,786

78.9%

A330

294

3.5%

767

112

1.8%

A350

529

6.2%

777

464

7.7%

A220

564

6.6%

787

684

11.3%

その他

△11

△0.1%

その他

21

0.3%

合計

8,501

100.0%

合計

6,067

100.0%

 

※1 一般財団法人日本航空機開発協会(2023年6月末時点)

※2 LEAPエンジン採用機種

 

(2) その他の加工

当社は、チタンアルミブレードの生産販売以外にもチタンアルミブレードの加工で培った技術・経験、並びにAdditive Manufacturing技術も活用し、eVTOL(電動垂直離着陸機、いわゆる空飛ぶクルマ)用部品やガスタービン用部品の受託加工を行っております。これら受託加工は、社内の設備で全てを加工する場合もあれば、協力サプライヤーに加工の一部を委託する場合もあります。社内の設備で加工する場合は、その量産規模にもよりますが、一定程度の設備投資が必要となる場合があります。

 

 

[事業系統図]

 


 

[用語解説]

※1 Additive Manufacturing(積層造形)とは、三次元造形する方法の一連の手法で、3Dの設計図を元に3Dプリンタで材料を積層し立体を造形する方法のことです。

※2 難削材とは、材料の性質により機械で切削加工がしにくい、あるいは「取り扱い自体が難しい材料」のことを指します。

※3 特殊工程とは、材料又は部品の物理的、化学的、電気的又は金属冶金的特性を変化させる工程であって、破壊試験、非破壊検査又は解析を行わなければ特性を評価することができない工程のことを指します。

※4 JISQ9100とは、航空宇宙・防衛産業に特化した品質マネジメントシステムに関する国際認証規格です。

※5 JISQ14001とは、 国際標準化機構(ISO)が策定した環境マネジメントシステムの国際認証規格です。

※6 Nadcapとは、米国のNPOであるPRI (Performance Review Institute)が審査機関として運営している、国際航空宇宙産業における特殊工程や製品に対する国際的な認証制度です。

※7 SEM分析とは、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって電子線を試料に当て、表面を観察する装置を活用した分析手法であり、高倍率観察(10万倍以上)が可能となります

※8 FEM構造解析とは、有限要素法(Finite Element Method)を用いて構造力学における数値解析を行う代表的手法です。構造物や物体を小さな要素(Elements)に分割して、方程式を用いて計算し近似解を求めることで、構造物にかかる荷重により発生する変位や応力の値や分布を導きます。

※9 FPI(蛍光浸透探傷検査)とは、特殊工程の1つであり、表面に開口している目視では見えにくいキズを検査する非破壊検査方法です。

業績

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 経営成績の状況

当事業年度における世界経済は、新型コロナウイルス感染症の影響が継続したものの、行動制限の緩和等による社会経済活動の正常化の動きが見られました。一方で、ウクライナ情勢を始めとする地政学リスクや原材料価格の上昇、インフレリスクなど、依然として先行き不透明な状況が続いております。このような中でドル円為替相場は、前事業年度と比較して円安水準で推移しました。

航空業界では、国内線需要の回復に加え、国際線需要についても各国の移動制限の緩和や撤廃などにより、回復の兆しが出ております。その結果、エアラインでは航空旅客需要の回復に伴う機体発注などの動きが見られるとともに、航空機メーカーにおいては、中小型航空機を中心とした一部機種の受注が増加しました。

当社の主力製品であるLEAPエンジン向けチタンアルミブレードが採用されている、中小型航空機である仏Airbus社製A320neoファミリー機、並びに米Boeing社製737MAX機は、高い燃費効率等を背景に新型コロナウイルス禍前から多くの受注残を抱えておりましたが、新型コロナウイルス禍からの回復に伴う急速な需要増加に対応するため、サプライチェーンにおける課題等を抱えながらも生産量を拡大し、その結果、当社のチタンアルミブレードの受注も増加することとなりました。

一方で、チタンアルミブレード生産に関して、材料供給元の1社依存を発端としたサプライチェーンリスクも顕在化しました。チタンアルミブレードの材料は、顧客である仏SAFRAN社からの無償支給となっており、直接的に当該材料のインフレリスクが当社の業績に影響を与えることはありませんが、その特殊性から供給元が1社となっております。当事業年度においては供給元における新型コロナウイルス等に起因する人材不足や設備故障の発生等により、材料供給の遅延が発生しました。

そのような状況下ではありましたが、チタンアルミブレードの受注拡大により、販売数量は前事業年度から大きく増加し、当社のチタンアルミブレードが搭載されるエンジン基数(チタンアルミブレード販売枚数÷LEAPエンジン1基当たりのチタンアルミブレード搭載枚数)は563基(前期比36.7%増)となるとともに、円安の影響もあり、当社の売上高は大きく増加いたしました。

当社は、今後の更なるチタンアルミブレードの受注拡大に備えるため、引き続き、業務効率化に向けた改善活動を継続し、生産性・収益性の向上に向けた取り組みを強化してまいります。その一方で、チタンアルミブレードへの事業依存度を引き下げるための新規量産案件の獲得・拡大に向けた体制強化、並びに材料供給元1社依存からの脱却に向けた新材料の開発にも注力してまいります。

以上の結果、当事業年度の経営成績は、売上高2,920,991千円(前期比48.7%増)、営業利益479,468千円(前期は、営業損失124,236千円)、経常利益は598,189千円(前期は、経常利益10,764千円)、当期純利益は673,039千円(前期は、当期純利益7,321千円)となりました。

なお、当社は、単一セグメントのため、セグメントごとの記載を省略しております。

 

② 財政状態の状況

(資産)

当事業年度末における資産の残高は、5,788,236千円であり、前事業年度末に比べ430,139千円増加いたしました。この主な要因は、有形固定資産の償却等による減少363,781千円があった一方で、現金及び預金の増加609,130千円、売掛金の増加33,138千円、仕掛品の増加74,415千円があったことによるものであります。

現金及び預金が増加した主な要因は、利益の計上、並びに新規に300,000千円の長期借入を実施したことによるものであります。

 

(負債)

当事業年度末における負債の残高は、4,166,158千円であり、前事業年度末に比べ236,931千円減少いたしました。この主な要因は、新規借入300,000千円があったものの、リース債務(1年内返済予定分含む)の返済による減少177,002千円、長期借入金(1年内返済予定分含む)の返済による減少460,380千円があったことによるものであります。

 

(純資産)

事業年度末における純資産の残高は、1,622,077千円であり、前事業年度末に比べ667,071千円増加いたしました。この主な要因は、欠損填補による資本剰余金の減少1,783,069千円があった一方で、当期純利益の計上及び欠損填補による利益剰余金の増加2,456,108千円があったことによるものであります。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当事業年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、1,728,427千円と前事業年度と比べ609,130千円の増加となりました。事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度における営業活動による資金の増加は、1,077,424千円(前事業年度は38,837千円の増加)となりました。資金の主な増加要因は、税引前当期純利益599,559千円、減価償却費438,859千円及び補助金の受取額154,865千円であり、主な減少要因は、棚卸資産の増加49,788千円及び利息の支払額41,770千円によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度における投資活動による資金の減少は、137,360千円(前事業年度は794,897千円の減少)となりました。資金の主な減少要因は、有形固定資産の取得による支出118,906千円及び無形固定資産の取得による支出20,146千円によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度における財務活動による資金の減少は、337,382千円(前事業年度は53,371千円の増加)となりました。資金の主な増加要因は、長期借入れによる収入300,000千円であり、主な減少要因は、長期借入金の返済による支出460,380千円及びリース債務の返済による支出177,002千円によるものであります。

 

④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績

当事業年度の生産実績は、次のとおりであります。なお、当社は「加工事業」の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

セグメントの名称

生産高(千円)

前期比(%)

加工事業

1,682,792

119.3

合計

1,682,792

119.3

 

(注) 金額は、製造原価によります。

 

b.受注実績

当事業年度の受注実績は、次のとおりであります。なお、当社は「加工事業」の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

セグメントの名称

受注高(千円)

前期比(%)

受注残高(千円)

前期比(%)

加工事業

3,500,935

191.7

801,595

361.7

合計

3,500,935

191.7

801,595

361.7

 

 

 

c.販売実績

当事業年度の販売実績は、次のとおりであります。なお、当社は「加工事業」の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

セグメントの名称

販売高(千円)

前期比(%)

加工事業

2,920,991

148.7

合計

2,920,991

148.7

 

(注)1.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前事業年度

(自 2021年7月1日

 至 2022年6月30日)

当事業年度

(自 2022年7月1日

 至 2023年6月30日)

販売高(千円)

割合(%)

販売高(千円)

割合(%)

Safran Aircraft Engines

1,824,854

92.9

2,819,328

96.5

 

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

経営者による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

 

① 経営成績の状況の分析・検討内容

(売上高)

当事業年度の売上高は、2,920,991千円となり、前事業年度に比べ956,297千円増加(前期比148.7%)となりました。これは主に、航空需要の回復に伴いチタンアルミブレードの販売が堅調に拡大したことによるものであります。

 

(売上原価、売上総利益)

 当事業年度の売上原価は、1,716,450千円となり、前事業年度に比べ312,313千円増加(前期比122.2%)となりました。これは主に、売上高の増加に伴う変動費等の増加によるものです。

 この結果、売上総利益は1,204,541千円となり、前事業年度に比べ643,983千円増加(前期比214.9%)となりました。また、売上総利益率は、当事業年度で41.2%となり、前事業年度と比べて大幅に向上しました。これは主に、チタンアルミブレードの販売増加に伴う貢献利益の増加、改善活動に伴う原価低減、並びに前事業年度と比較して円安が進行したことによるものであります。

 

(販売費及び一般管理費、営業利益)

 当事業年度の販売費及び一般管理費は、725,072千円となり、前事業年度に比べ40,279千円増加(前期比105.9%)となりました。これは主に、人件費の増加20,124千円によるものであります。

 この結果、営業利益は479,468千円となり、前事業年度に比べ大幅に改善(前事業年度は営業損失124,236千円)しました。

 

(営業外損益、経常利益)

 当事業年度の営業外収益は、受取保険金等の一過性収入があった一方で、為替差益等の減少により、前事業年度に比べ24,462千円減少し、167,077千円(前期比87.2%)となりました。営業外費用は、支払利息等の減少により、前事業年度に比べ8,182千円減少し、48,356千円(同85.5%)となりました。

 この結果、経常利益は598,189千円となり、前事業年度に比べ587,424千円増加(前事業年度は経常利益10,764千円)となりました。また、経常利益率は20.5%となり、前事業年度から大幅に向上しました。

 

 

(当期純利益)

 繰越欠損金の活用等に伴い法人税、住民税及び事業税の負担が少ないことや、繰延税金資産の計上に伴いマイナス(利益側)の法人税等調整額を計上したことにより、当事業年度の当期純利益は、673,039千円となり、前事業年度の当期純利益7,321千円から大幅な増加となりました。

 

② 財政状態の状況の分析・検討内容

財政状態の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ② 財政状態の状況」に含めて記載しております

 

③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a.キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容

キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に含めて記載しております。

 

b.資金需要の主な内容

当社の運転資金需要のうち、主なものは、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用であります。主要事業であるチタンアルミブレードの生産においては、材料が顧客からの無償支給であるため、当社において材料購入に関わる運転資金負担はありません。

また、投資を目的とした資金需要のうち、主なものは、チタンアルミブレードの内製化推進や自動化投資、並びに新規案件に対応した設備投資等によるものであります。成長の原資たる設備投資については今後も継続してまいります。

 

c.資本の財源

当社は、運転資金及び設備投資資金の原資につきましては、当社の財務状況を勘案して、手許現金の使用・銀行借入・リースの利用等の中から最もふさわしい方法を採ることとしております。また一方で、先行投資的な資金も必要となることから、事業運営上必要な資金は、手元流動性の高い現金及び現金同等物として保持していく方針であります。なお、当事業年度末における現金及び現金同等物の残高は1,728,427千円であります。

また、金融機関と借入コミットメントライン契約を締結しており、安定的な事業資金の確保に取り組んでおります。今後も引き続き各金融機関からの資金調達、借入コミットメントライン契約の設定、リース等様々な資金調達を検討・実施し、継続的な財務基盤の強化に努めてまいります。

 

④ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しております。この財務諸表の作成にあたっては、資産・負債や収益・費用の報告数値に影響を与える見積りを行わなければなりません。これらの見積り及び判断・評価は、過去の実績等を勘案し合理的と考えられる要因等に基づき行っておりますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果は異なる場合があります。

当社の財務諸表で採用する重要な会計方針及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 重要な会計上の見積り」に記載のとおりであります。

 

⑤ 経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社では、売上高、営業利益、EBITDAを重要な経営指標として管理しております。売上高及び営業利益を重視する理由は、企業として一定程度の売上高規模を確立することで、事業基盤の安定性を確保するとともに、安定した利益の成長を継続させることで、新規案件への投資を継続的に行うことが可能であると考えているためであります。また、当社は、設立時に主要事業であるチタンアルミブレードの増産に対応できる水準の生産キャパシティを考慮した設備投資を実施していることから、チタンアルミブレードの今後の増産に対応するための大規模設備投資は今後も限定され、現時点において、既に将来の増産に対応する水準の減価償却費が会計上計上されていると考えております。そのため、当社の収益性や現金創出力をより適切に把握するために、減価償却費の影響を排除した指標であるEBITDAを重要な経営指標として管理しております。

また、これらの源泉となる指標として、販売されたチタンアルミブレードが搭載されるエンジン基数、並びにエンジン1基当たりの営業利益をKPIとして選択しております。その理由として、当社は、チタンアルミブレード販売への依存度が現時点においては高いことから、チタンアルミブレードが搭載されるエンジン基数、並びにその収益性が、当社全体の収益力に直結すると判断しているためであります。

各指標の推移は以下のとおりであります。

 

 

前事業年度

(自 2021年7月1日

 至 2022年6月30日)

当事業年度

(自 2022年7月1日

 至 2023年6月30日)

売上高(千円)

1,964,694

2,920,991

営業利益又は営業損失(△)(千円)

△124,236

479,468

EBITDA(千円)※1

343,783

918,328

販売されたチタンアルミブレードが搭載されるエンジン数(基)※2

412

563

販売されたチタンアルミブレードが搭載されるエンジン1基当たり営業利益(千円)※3

△301

851

 

※1 営業利益+減価償却費(有形・無形固定資産)

※2 チタンアルミブレード販売枚数÷LEAPエンジン1基当たりのチタンアルミブレード搭載枚数

(販売されたチタンアルミブレードは全て新造エンジンに搭載されたと仮定しております)

※3 営業利益÷販売されたチタンアルミブレードが搭載されるエンジン基数