2024年12月期有価証券報告書より
  • 社員数
    23,457名(単体) 170,340名(連結)
  • 平均年齢
    44.2歳(単体)
  • 平均勤続年数
    19.0年(単体)
  • 平均年収
    8,657,347円(単体)

従業員の状況

5【従業員の状況】

 

(1)連結会社の状況

 

2024年12月31日現在

セグメントの名称

従業員数(人)

プリンティングビジネスユニット

111,733

メディカルビジネスユニット

13,289

イメージングビジネスユニット

25,612

インダストリアルビジネスユニット

7,740

その他及び全社

11,966

合計

170,340

(注) 従業員数は就業人員数であり、パートタイマー、期間社員等を含んでおります。

 

(2)提出会社の状況

 

 

 

2024年12月31日現在

従業員数(人)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(円)

23,457

44.2

19.0

8,657,347

 

セグメントの名称

従業員数(人)

プリンティングビジネスユニット

9,271

メディカルビジネスユニット

627

イメージングビジネスユニット

4,044

インダストリアルビジネスユニット

2,557

その他及び全社

6,958

合計

23,457

(注)1 従業員数は就業人員数であり、パートタイマー、期間社員等を含んでおります。

    2 平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

 

(3)労働組合の状況

  当社グループでは主に会社別に労働組合が組織されております。

  当社及びその販売子会社であるキヤノンマーケティングジャパン(株)にはキヤノン労働組合があり、労協N.E.T及び

全日本光学工業労働組合協議会に加入しております。現在まで労使関係は良好であります。

  また、その他の会社における労働組合に関しましても、現在まで労使関係は良好であります。

 

 

(4)管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異

①提出会社

当事業年度

管理職に占める

女性労働者の割合(%)

(注)1

男性労働者の

育児休業取得率(%)

(注)2

労働者の男女の賃金の差異(%)  (注)1・3

全労働者

うち正規雇用労働者

うちパート・

有期雇用者

4.2

64.6

75.3

75.6

74.5

(注)1 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規定に基づき算出したものです。

    2 「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基

       づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(平成3年労働省

       令第25号)第71条の4第1号における育児休業等の取得割合を算出したものです。

    3 女性に比べ男性の方が管理職比率が高いことが男女間賃金差異の要因となっております。女性管理職比率の向上

       は、当社としても重要な課題と認識しており、ダイバーシティ推進に向けた全社横断組織を発足し、女性管理職

       候補を育成する女性リーダー研修や仕事と育児の両立を支援する活動を行っております。その結果、正規雇用労

       働者の賃金差異は、前事業年度から0.6ポイント改善しました。詳細は、第2 事業の状況 2 サステナビリテ

       ィに関する考え方及び取組 (6)人的資本に記載しております。なお、正規雇用労働者のうち、同一役職レベル

       における男女の賃金の差異は、部長職で98.0%、課長職で98.4%となります。

 

②主な国内の連結子会社

当事業年度

名称

管理職に占める女性労働者の割合(%)

(注)1

男性労働者の育児休業取得率(%)

(注)2・3

労働者の男女の賃金の差異(%)

(注)1・4

全労働者

うち正規雇用労働者

うちパート・有期労働者

キヤノンマーケティングジャパン(株)

5.9

49.0

82.7

78.0

105.7

キヤノンITソリューションズ㈱

5.6

65.1

84.6

83.3

96.6

キヤノンシステムアンドサポート㈱

3.7

45.0

77.7

75.3

65.0

キヤノンプロダクション

プリンティングシステムズ㈱

1.8

100.0

54.1

76.5

50.2

キヤノンカスタマーサポート㈱

19.1

100.0

78.2

91.2

93.1

㈱プリマジェスト

7.5

60.0

21.7

65.4

49.0

クオリサイトテクノロジーズ㈱

15.8

100.0

85.6

86.6

66.8

TCS㈱

12.7

0.0

76.8

75.7

-

キヤノンITSメディカル㈱

5.3

0.0

70.4

69.8

57.7

キヤノンビズアテンダ㈱

18.9

50.0

75.8

81.9

82.4

キヤノンビジネスサポート㈱

2.0

-

91.1

85.1

-

㈱キュービーファイブ

75.0

0.0

82.3

96.0

80.3

キヤノン電子(株)

4.7

65.2

80.6

78.8

80.7

キヤノン電子テクノロジー(株)

3.6

37.5

73.9

73.7

43.3

キヤノンメディカルシステムズ(株)

4.6

64.3

65.7

70.6

88.7

キヤノンメドテックサプライ(株)

3.7

100.0

74.9

74.4

85.9

 

 

 

当事業年度

名称

管理職に占める女性労働者の割合(%)

(注)1

男性労働者の育児休業取得率(%)

(注)2・3

労働者の男女の賃金の差異(%)

(注)1・4

全労働者

うち正規雇用労働者

うちパート・有期労働者

ミナリスメディカル(株)

9.7

60.0

68.6

79.0

64.0

キヤノン電子管デバイス(株)

1.5

33.4

71.3

78.5

94.2

キヤノン化成(株)

4.2

64.7

75.6

74.4

78.3

キヤノンプレシジョン(株)

3.8

68.6

79.0

79.2

89.8

キヤノンファインテックニスカ(株)

5.5

68.8

77.6

74.6

87.8

キヤノンオプトロン(株)

5.3

33.0

76.1

88.2

142.2

キヤノン・コンポーネンツ(株)

5.0

64.3

83.2

81.6

96.5

キヤノンセミコンダクターエクィップメント(株)

0.0

100.0

68.6

69.7

80.1

キヤノンイメージングシステムズ(株)

6.8

100.0

90.0

89.0

-

キヤノンアネルバ(株)

2.0

50.0

77.5

75.3

59.5

キヤノンマシナリー(株)

1.3

33.3

74.6

76.7

72.5

キヤノントッキ(株)

1.2

78.6

75.4

74.3

72.8

大分キヤノン(株)

5.6

43.5

72.4

72.5

53.2

長浜キヤノン(株)

1.9

57.1

75.9

74.2

90.8

大分キヤノンマテリアル(株)

6.2

68.2

79.1

80.4

81.6

上野キヤノンマテリアル(株)

0.0

66.7

77.3

77.1

86.1

福島キヤノン(株)

3.3

76.9

72.6

76.2

89.8

キヤノンエコロジーインダストリー(株)

5.6

100.0

72.7

73.5

86.4

キヤノンモールド(株)

1.4

50.0

77.0

74.5

93.5

長崎キヤノン(株)

7.4

17.2

68.1

68.1

-

宮崎キヤノン(株)

5.9

65.0

74.5

74.6

83.3

福井キヤノンマテリアル(株)

20.0

100.0

91.1

91.8

89.5

(注)1 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規定に基づき算出したものです。

    2 「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基

       づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(平成3年労働省令

       第25号)第71条の4第1号における育児休業等の取得割合を算出したものです。

    3 「-」は、対象となる従業員(当該事業年度中に配偶者が出生した男性従業員)がいないことを示しております。

    4 「-」は、算出に必要な従業員が在籍していないことを示しております。

 

サステナビリティに関する取り組み(人的資本に関する取組みを含む)

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)キヤノンのサステナビリティ

当社グループは、1988年より世界の繁栄と幸福のために貢献する「共生」を企業理念として掲げ、努力してまいりました。「すべての人々が、文化、習慣、言語、民族、地域などあらゆる違いを超えて共に生き、共に働き、互いに尊重し、幸せに暮らす社会。そして、自然と調和し、未来の子どもたちに、かけがえのない地球環境を引き継ぐことのできる社会。」このような社会の実現に向け、当社グループは、イノベーションとテクノロジーの力で新たな価値を創造し、世界初の技術、世界一の製品・サービスを提供するとともに、社会課題の解決にも貢献していきます。また、すべての製品ライフサイクルにおいて、より多くの価値を、より少ない資源で提供することで、豊かな生活と地球環境の両立を目指します。当社グループは、これからもすべての企業活動を通じて、持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組んでまいります。

 

(2)マテリアリティ

当社グループは、時代とともに変化する社会の動きを捉えながら、企業理念である「共生」のもと、人間尊重、技術優先、進取の気性と言った企業DNAと、自社の強固な財務基盤や豊富な人材、高い技術力など、様々なリソースを有効に活用し、健全なコーポレート・ガバナンスを保ちながら事業を展開してまいりました。

当社グループのこれまでの取り組みや中長期経営計画に沿った様々な事業活動の中から、当社グループが取り組むべきと考える重要事項の中で、ステークホルダーの皆さまの関心が特に高い「新たな価値創造、社会課題の解決」、「地球環境の保護・保全」ならびに、これらに取り組む上で支えとなるテーマとして「人と社会への配慮」をマテリアリティとし活動を進めています。

また、2024年は欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)や国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)などで定められたサステナビリティ開示基準への対応を視野に、新たなマテリアリティの検討を開始いたしました。

 

(3)サステナビリティ推進体制

当社グループではサステナビリティ推進本部を設置し、サステナビリティ担当役員をその責任者に任命しています。当社グループ全体のサステナビリティ活動を推進するとともに、専門的な課題については、法務、人事、品質、調達などの部門が専門性を生かした取り組みを実施しています。

これに加え、当社グループが対応または取り組むべきサステナビリティ関連事項について、CEOまたは取締役会による適切かつ実効性ある判断を確保することを目的に、情報共有と事前審議を行うサステナビリティ委員会を2024年4月に新設しました。

委員会は年に2回、上期と下期にそれぞれ開催されるほか、委員長が必要と判断したときは臨時に開催されます。委員は、当社の本部、事業本部等の社長直轄部門の長からCEOが任命し、委員長はCFOが担っています。

2024年度の委員会では、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)や国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)などで定められたサステナビリティ開示基準、当社グループのサステナビリティ課題とその対応の共有、さらに外部専門家を招いたサステナビリティ勉強会を実施しました。

 

サステナビリティ推進体制

 

(4)サステナビリティ課題

当社グループを取り巻くサステナビリティの課題は多岐に渡りますが、そのうち、気候変動、人的資本、人権、サイバーセキュリティについては、以下(5)気候変動(6)人的資本(7)人権(8)サイバーセキュリティをご覧ください。またその他の項目を含め、詳細については当社ホームページに掲載されておりますサステナビリティレポートをご参照ください。

 

(5)気候変動

当社グループは、自らの事業活動だけでなく、サプライヤーにおける原材料や部品の製造、販売店等への輸送、お客さまの使用、廃棄・リサイクルに至るまで、製品ライフサイクル全体で気候変動による影響を捉え、GHG排出量削減に取り組んでいます。

2050年までにGHG排出量をネットゼロとすることをめざし、2030年までにスコープ1、2排出量を2022年比で42%削減、スコープ3(カテゴリー1、11)排出量を2022年比で25%削減を目標としており、科学的根拠に基づいたCO2排出削減目標の設定を推奨する国際イニシアティブのSBTiの認定を取得しています。そのために、再生材を使用した製品の開発、製品の小型・軽量化、生産拠点での省エネルギー活動、製品使用時の省エネルギー、製品リサイクル、物流の効率化など、様々な取組みを推進しています。

GHG排出量削減イメージ

 

                     Scope1+2                 Scope3(カテゴリー1、11)

 

 

スコープ1:直接排出(都市ガス、LPG、軽油、灯油、非エネルギー系温室効果ガスなど)

スコープ2:間接排出(電気、蒸気など)

スコープ3:サプライチェーンでの排出(1:購入した物品・サービス、11:販売した製品の使用)

 

<ガバナンス>

気候変動による当社グループへの影響や対応計画、目標については、サステナビリティ委員会の傘下の気候変動ワーキンググループ(WG)で議論しました。気候変動WGは、各事業部門とコーポレート部門の幹部社員で構成され、議論した内容は、サステナビリティ委員会にて報告し、承認を得たうえで、CEOに報告しています。

目標達成に向けては、サステナビリティ推進本部が中心となり、グループ全体で活動を推進しています。目標の進捗については、毎月経営層に報告するとともに、年間のレビューをCEOに報告しています。

 

<戦略>

当社グループは、非財務情報開示で推奨されているTCFD*フレームワークに基づいたシナリオ分析を行い、バリューチェーン上のGHG排出量の削減を図る「緩和」と物理リスクへの「適応」の両面からのアプローチが当社グループにとって重要と認識し、GHG排出削減目標の達成、及び気候関連の影響にレジリエントで持続可能なビジネスモデルの構築に向け、取組みを進めています。

* Task force on Climate-related Financial Disclosures 気候関連財務情報開示タスクフォース

  企業の気候リスク・機会関連の開示推奨項目を公表

 

■分析のために参照したシナリオ

シナリオ分析では、現在の政策の延長線上で経済活動が行われる「現行シナリオ」と、パリ協定の目標が達成されることを前提に、世界が2050年までのネットゼロ実現に向けてGHGの排出を抑制し、気候変動に関する政策や技術開発が現状以上の速度で進展する「1.5℃シナリオ」を選択しました。参照したシナリオは以下のとおりです。

現行シナリオ:(移行リスク)IEA APS、NGFS Current Policies (物理リスク)IPCC RCP8.5

1.5℃シナリオ:(移行リスク)IEA NZE、NGFS Net Zero 2050 (物理リスク)IPCC RCP2.6

当社グループが事業を営む主要地域の気候関連政策や法規制、技術の進展、顧客の行動変容、市場環境等も考慮しています。

 

■時間軸と影響度の定義

時間軸については、当社グループの中長期経営計画と整合した形で検討しています。

   短期:~2025年     中期:~2030年     長期:2030年~

影響度については、非常に重要、重要、軽微の3段階で検討し、以下の基準としています。

   非常に重要:売上高±10%以上の変動要因になりうる

   重要:売上高±5~10%程度の変動要因になりうる

   軽微:売上高±5%未満の影響

     ※各グループの影響度基準については、当該グループの売上高に基づき判断しています。

 

■現行/1.5℃シナリオの下の事業環境の想定

当社グループでは、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの産業別グループの事業によって気候関連のリスク・機会が異なるため、全社および各グループにおける主な気候関連のリスク・機会とその対応策、財務影響について検討を行いました。

現行シナリオの下での事業環境として、既存の気候関連の規制の継続、カーボンプライシングの導入、再生材やバイオプラスチックの普及、モーダルシフトの導入、顧客からの脱炭素要求と気候変動対応を意識した購買行動の拡大、各国の脱炭素に向けた産業政策の導入等を予想しています。1.5℃シナリオの下では、前述の環境がさらに厳格化し、進展するほか、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを目指す動きが加速すると想定しています。

 

■キヤノンに影響のあるリスク・機会要因と財務影響試算結果

 

移行リスク・機会(低炭素経済への「移行」に関するリスク・機会)の概要

 -移行リスク-                      -機会-

政策・法規制

・カーボンプライシング対応費用増

・規制に対応できない場合の売上減

・規制対応の設備投資増

技術

・気候変動対応のための研究開発費増

 

資源の効率性

・エネルギー効率改善による原価低下

・共同配送、モーダルシフトによる物流費の低下

エネルギー源

・低炭素エネルギー活用によるカーボンプライシング影響減

市場

・再生材の採用による原価増

・他社製品が優位となった場合の売上減

・気候変動対応コストの価格転嫁が受容されない場合の売上減

評判

・気候変動対応が十分でない場合のステークホルダーの懸念の高まりに伴う売上減

 

市場

・ステークホルダーの評価向上に伴う売上増

・資金調達の多様化

製品/サービス

・GX、資源循環対応製品の売上増

・低炭素製品の売上増

・適応製品の売上増

 

移行リスク・機会の詳細 - 全社レベル

シナリオ分析の結果、カーボンプライシングが全社的に影響を受ける可能性のあるリスク要因であることがわかりました。当社グループのスコープ1、2及び3の排出量見通しに基づき、2030年以降のカーボンプライシングの導入を想定した場合の影響額は、現行シナリオ、1.5℃シナリオの炭素価格を使用した場合、2030年で約83~445億円、2050年で約43~403億円と試算しています。リスク対応策として、グリーン技術開発を通じて脱炭素化を図る活動をすでに行っています。例えば、各拠点においては、搬送や加工など生産設備の動作単位まで電力を細かく分解し、隠れたムダを見つけ出すとともに改善ターゲットを浮き彫りにするなど、「電力の可視化」「削減ポテンシャルの分析」「削減施策の展開」の3つのステップで生産時の電力削減をめざす取り組みを進めています。電力コストの想定削減額は、2030年で約45~57億円、2050年で約97~121億円と試算しており、プラスの影響ももたらすことを確認しました。それぞれの事業特性を勘案して物流面での気候変動対応も進めており、その成果も機会としてとらえています。

さらに、全社共通で原材料調達におけるCO2排出量(スコープ3 カテゴリー1)削減に取り組み、調達における低炭素部材の検討や今後の調達に向けた準備を行っております。取引先から収集した部品原材料CO2の実データをLCA(ライフサイクルアセスメント)に組み込むなど製品開発でLCAの手法を導入し、ライフサイクル全体で環境負荷低減をめざしています。

気候変動対応が十分でない場合、気候変動対応を重視するステークホルダーの懸念の増加による評価の悪化と販売機会逸失による売上の減少をリスクとして認識しています。対応策として、実効性のある気候変動の取り組みの推進とステークホルダーへの適時かつ適切な開示を継続して行っていきます。さらに、気候変動対応の適切な開示により、投資家、顧客をはじめとするステークホルダーの理解と評価の向上や金融機関の投融資要件を満たすことによる資金調達の多様化も機会となるととらえています。

 

移行リスク・機会の詳細 - 産業別グループ別

産業別グループごとの分析では、プリンティング事業は、電機・電子業界に対する気候関連の規制や消費者選好の変化、競合他社との競争などの影響を受けることが予想されますが、規制動向の把握や規制対応のための研究開発・設備投資、調達要件の取得などリスク低減策はすでに計画に織り込まれており、試算の結果、現行シナリオ、1.5℃シナリオのいずれのシナリオ下でも大きな影響はないことを確認しました。低炭素製品の需要増に伴う販売機会の増加やエネルギー効率改善に伴うコスト削減が機会となり、プラスの影響があると見込んでいます。

メディカル事業では、欧州の顧客を中心にサステナビリティへの関心が高まり、省電力等が入札要件となる事例もあります。イメージング事業、インダストリアル事業においては、足元では規制や顧客からの要求は比較的低いものの、今後、要求が高まる可能性があります。そのため、新たな研究開発や設備投資が必要となる可能性を想定して試算を行いました。その結果、コスト増加のリスクはあるものの、事業を展開する地域における法規制動向の調査やエネルギー効率改善に向けた取り組みを始めており、影響は比較的小さいことがわかりました。エネルギー効率改善に伴う原価低減をはじめ、既存技術を活用した気候変動への適応に資する製品やGX推進など各国の産業促進策に合致した製品の販売機会増加など、機会の側面の方が大きいと考えています。

 

-移行リスク(全社・産業別グループ)-

移行リスク分類

リスク要因

全社/

グループ

財務影響

発現

時期

影響

対応策

政策・

法規制

カーボンプライシング

全社

対応費用の増加

中期

~長期

軽微

・全社でのGHG排出量削減に向けた取組み

既存製品に対する気候関連規制の強化

プリンティング

対応できない場合の売上の減少

短期

~長期

軽微

・各種規制対応の研究開発・設備投資の継続(オフィス機器の省エネルギー制度である国際エネルギースタープログラム改定への対応、再生機開発等)

プリンティング

規制対応の研究開発費の増加、設備投資の増加

短期

~長期

軽微

・規制動向に対応した研究開発計画及び設備投資計画と係る費用計画の検討

メディカル

規制対応に伴う原価の増加

長期

軽微

・省エネ性能向上の取組みの継続

インダストリアル

対応できない場合の売上の減少

長期

軽微

・規制措置(PFCs等)に対応する製品開発、生産技術開発

技術

顧客の気候変動対応に関する要望の強化

メディカル

対応できない場合の売上の減少

長期

軽微

・省エネ関連の入札要件に合致した製品開発

インダストリアル

 

対応できない場合の取引制限及び縮小に伴う売上の減少

長期

軽微

・顧客要望の変化に対応した低炭素製品開発、生産技術開発

市場

再生材の普及

プリンティング

再生材使用による原材料費の増加

短期

~長期

軽微

・各種再生材の使用に関する検討・評価を実施

・材料メーカー集約による価格交渉、長期契約による価格保証及び新規採用拡大の検討

・代替素材の情報収集

・代替素材の内製検討

競合他社との比較

プリンティング

ライフサイクルCO2が他社よりも大きい場合の売上の減少

短期

~長期

軽微

・LCAを活用した研究・製品開発の継続

・製品ライフサイクル全体でのGHG排出量管理

顧客選好の変化

イメージング

気候変動対応コストの

価格転嫁が顧客に受容されない場合の売上の減少

長期

軽微

・各国・地域の気候変動対応の価格受容調査の継続

 

 

 

 -機会(全社・産業別グループ)-

機会

分類

機会要因

全社/

グループ

財務影響

発現

時期

影響

対応策

資源の

効率性

エネルギー効率の改善

全社

電力費の削減による原価の低下

短期

~長期

軽微

・エネルギー効率改善の取り組みを全社で展開

物流費の低下

全社

共同配送、モーダルシフトによる物流費、販管費の低下

短期

~長期

軽微

・グループ内及び他社との共同輸送/ラウンド輸送

・モーダルシフトの適用拡大

エネルギー源

低炭素エネルギーへの切換え

全社

カーボンプライシング影響低減に伴う費用の低下

中期

~長期

軽微

・低炭素エネルギーの活用を含む多様な低炭素化手段を継続して検討

製品/

サービス

低炭素製品の需要増加

プリンティング

販売機会の増加に伴う売上増加

短期

~長期

軽微

・低炭素製品の開発(省エネルギー製品、製品の長寿命化、再生材の採用等)

・調達要件への対応(環境評価システム「EPEAT」登録、環境ラベル「ブルーエンジェル」等取得)

顧客選好の変化に伴う売上の増加

メディカル

販売機会の増加に伴う売上増加

短期

~長期

軽微

・省エネ関連の入札要件に合致した製品の開発

気候変動への適応に資する製品の需要増加

イメージング

販売機会の増加に伴う売上増加

中期

~長期

軽微

・気候変動への適応に資する製品の開発(防災用ネットワークカメラ、画像ベースインフラ構造物点検サービス等)

各国の半導体産業

促進策による製造装置需要の増加

インダストリアル

GX推進による半導体需要増加に伴う売上増加

短期

~長期

重要

・パワー半導体向け半導体製造装置拡大

・新工場建設等、増産体制の整備

顧客選好の変化に伴う売上の増加

インダストリアル

販売機会の増加に伴う売上増加

短期

~長期

軽微

・低消費電力製品の販売拡大(ナノインプリントリソグラフィ及び現行品のモデルチェンジ等)

・プラスチックリサイクル対応製品の販売拡大(プラスチック選別装置)

 

物理リスク(気候変動による気象変化に伴うリスク)

当社グループの施設や事務所は、世界中に点在しており、気候変動による自然災害は、事業に影響を及ぼす可能性があります。気候変動による物理リスクについては、日本と海外の主要拠点を対象に、河川洪水、高潮、暴風などのリスクについて、世界資源研究所のAqueduct、自治体のハザードマップ、XDI社の自然災害リスク分析サービス等の分析ツールを使用して検証した結果、国内外の生産拠点や事業所のうち、4拠点について河川洪水、高潮リスクが中程度または高いとの結果となりましたが、すでに止水板設置や雨水配管の改造、外周フェンスのブロック嵩上げなど、拠点の状況に応じて必要な施策を実施済みです。なお、これら4拠点の資産額が当社グループ総資産に占める割合は約3%となります。

今後も自然災害による被害及び損失の影響を低減すべく、各種対応策を検討してまいります。

 

■シナリオ分析結果

バリューチェーン上では、特に、研究開発、調達、販売において、規制強化に伴う研究開発、原材料価格の変動、お客様や取引先の低炭素製品への考え方や需要動向による影響があることが、シナリオ分析を通じて明らかになりました。

対応策を講じない場合は、いずれのシナリオにおいても販売機会の逸失やコスト増加をはじめとする財務上のリスクが生じる可能性があります。これらは配慮すべきリスクではありますが、すでに規制動向の把握や規制対応のための研究開発・設備投資、調達要件の取得など、リスク低減の取り組みを計画に織り込み済みです。各シナリオ下で実施した複数パターンの財務シミュレーションを通じて、対応策については、現在実行中の取組みや計画中のものを含め、財務に大きな影響を与えるものはないことを確認していることから、影響は限定的であると判断し、従来から実施している対応策に不足はなく、製品や生産拠点における取り組みの方向性が正しいことを再確認しました。

また、脱炭素への移行が進む世界では、消費者選好の変化や適応製品の需要の増加、GX推進に向けた産業施策の進展などに伴う当社グループの低炭素製品や適応製品、GX推進に資する製品の売上の増加やエネルギー効率改善に伴うコスト削減により、プラスの影響を見込んでいます。

シナリオ分析を通じて、気候変動によるキヤノングループ全社及び主要事業の売上高や営業利益等の財務業績、財政状態、キャッシュ・フローへの影響は、短期・中期・長期においていずれも限定的であり、ポートフォリオやビジネスモデルを見直す必要性はないことを確認しました。

ただし、今後カーボンプライシングや気候変動に関する規制等が導入された場合、対応費用や研究開発費・設備投資の増加等により、当社グループの財務業績やバリューチェーン全体が影響を受ける可能性があることも認識しており、気候関連リスク・機会への影響について分析を行うとともに、引き続き事業環境を注視していきます。

 

<リスク管理>

気候関連のリスク・機会への対応は、全社環境目標や重点施策に反映されるとともに、当社グループでは、環境への対応を経営評価の一部として取り入れており、各部門の環境目標の達成状況や環境活動の実績は、グループ全体の経営状況の実績を評価する「連結業績評価制度」の一指標として実施される「環境・CSR業績評価」の中で、年2回、評価しています。評価結果はCEOをはじめとする経営層に報告されています。

当社グループは、環境保証活動の継続的な改善を実現する仕組みとして、全世界の事業所においてISO14001によるグループ共通の環境マネジメントシステムを構築しており、特定した気候リスクは、ISO14001のPDCAサイクルに沿って管理しています。

具体的には、環境マネジメントシステムは、各部門の活動と連携した環境保証活動を推進(DO)するために、中期ならびに毎年の「環境目標」を決定(PLAN)し、その実現に向けた重点施策や実施計画を策定して事業活動に反映させています。さらに、各部門における取組み状況や課題を確認する「環境監査」や、業績評価に環境側面を取り込んだ「環境・CSR業績評価」を実施(CHECK)することで、環境保証活動の継続的な改善・強化(ACT)へつなげています。

 

<指標と目標>

当社グループは、製品ライフサイクルを通じたCO2排出量を2050年にネットゼロとすることをめざしております。その達成に向けて、2030年にスコープ1、2排出量を2022年比42%削減、スコープ3(カテゴリー1、11)排出量を2022年比で25%削減することを掲げ、SBTi(Science Based Targets イニシアティブ)の認定を2023年11月に取得しました。

また、2008年以来、キヤノングループ環境目標の総合目標として「ライフサイクルCO2製品1台当たりの改善指数 年平均3%改善」(原単位目標)を掲げています。この目標を継続的に達成することで、2030年に2008年比で50%の改善を見込んでいます。2024年は、目標を上回る年平均3.76%、2008年比44.6%の改善となりました。

当事業年度の実績は、スコープ1は198千t-CO2、スコープ2は733千t-CO2、スコープ3は7,173千t-CO2となり、ライフサイクルCO2排出量 (スコープ1、2、3合計)は8,104千t-CO2となりました。次年度以降も、目標の継続的な達成をめざします。

 

「ライフサイクルCO2製品1台当たりの改善指数」推移

  ※ 2008年を100とした場合

 

 

Scope1、2、3(カテゴリー1、11)排出量実績

           Scope1+2                  Scope3(カテゴリー1、11)

 

Scope1:直接排出(都市ガス、LPG、軽油、灯油、非エネルギー系温室効果ガスなど)

Scope2:間接排出(電気、蒸気など)

Scope3:サプライチェーンでの排出(1:購入した物品・サービス、11:販売した製品の使用)

 

 

 

ライフサイクルCO2排出量の推移

Scope1 : 直接排出(都市ガス、LPG、軽油、灯油、非エネルギー系温室効果ガスなど)

Scope2 : 間接排出(電気、蒸気など)

Scope3 : サプライチェーンでの排出(購入した物品・サービス、輸送・流通、販売した製品の使用など)

 

  なお、2024年のデータは第三者保証を取得しています。また、2022年、2023年のデータは一部、2024年算定方法に合わせて再計算しております。

 

 

 

(6)人的資本

当社は、創業以来受け継がれている「人間尊重」の企業DNAのもと、価値創造の源泉は人材にあると考え、人材価値の最大化に向けた投資を積極的に行っています。現在、キヤノンでは、グローバル優良企業グループ構想フェーズⅥにおいて、生産性向上と、新規事業創出によるポートフォリオの転換を進めています。その実現に向けて、新技術の研究開発や全社での業務自動化・内製化を推進するための人材ポートフォリオの構築を目指しています。

具体的には、イノベーションを創出する人材の獲得・育成と、多様な人材やアイデアを最大限活かす自由闊達な組織風土の醸成に取り組んでいます。また、ジョブ型の「役割給制度」を導入し、年齢や性別にとらわれない適材適所の人材配置を推進しています。また、社員一人ひとりが能力を最大限に発揮するため、さまざまな健康支援を通じて社員の心身の健康を支えています。さらに、働きやすさと働きがいを通じて、エンゲージメントを向上させることで、個人と会社の成長を実現しています。

以下に示す戦略は、キヤノン株式会社を対象とし、今後、グループ会社に対して各社の状況を考慮しながら、展開していきます。

 

多様性の確保を含む人材育成と社内環境整備に関する戦略ならびに指標及び目標

1.イノベーション人材の獲得と育成

当社は、革新的な製品を創出することによって社会に新たな価値を提供するため、優秀な技術人材の獲得と育成に取り組んでいます。

定期採用では、インターンシップを通じて当社の魅力を訴求し、学生の関心を高めるとともに、優秀な学生に直接コンタクトするダイレクトリクルーティングを強化しています。あわせて、自社にない技術を持つ人材を獲得するキャリア採用(経験者採用)も積極的に行っています。

また、技術人材育成委員会のもと、250以上の専門講座を整備し、長期的視点に立って次世代を担う技術人材を育成しています。2024年の技術研修の効果(実務への役立ち度)は、5段階で平均4.0と高い水準です。近年では、保有技術や特許情報などを集約した技術人材データベースを構築し、効果的な人材育成につなげています。

特に、イノベーションに不可欠なデジタル人材の育成については、ソフトウエア技術者の育成を専門的に担う社内教育機関「CIST(Canon Institute of Software Technology)」を2018年に設立し、ソフトウエアに関するスキルを受講者のレベルに応じて身につけられる体制を整えています。また、全社員に対して、生産性向上やDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためのIT・DXリテラシー研修を実施し、2024年までに延べ28,000人が受講しました。さらに、上級者に対しては、最先端のソフト技術を学ぶための社外の教育・研究機関への派遣を積極的に行っています。

2023年からは、「高度技術者認定制度」を導入し、高度な技術的知見を有する技術者を「Top Scientist」「Top Engineer」などとして顕彰することにより、モチベーションの向上や後進の育成に取り組んでいます。

このほか、さまざまな領域でイノベーションを牽引する事業系人材やものづくり人材などを育成するため、多様な研修やトレーニー制度を整備するとともに、各分野における幹部候補者の計画的な配置・育成を行っています。

 

 

 

 

 

〈2024年研修実績〉

 

 

研修時間

研修費用

合計

62.5万時間

40.6億円

従業員一人あたり

26.7時間

17.3万円

 

 

 

 

〈人材育成の基本的な考え方〉

 

 

 

 

〈人材育成体系図〉

 

                            CPT:Canon Production Trainee

                            CGAP:Canon Global Assignment Policy

                            CGMST:Canon Global Marketing & Sales Trainee

                            CIST:Canon Institute of Software Technology

 

 

2.適材適所と少数精鋭の推進

当社は、生産性の高い少数精鋭の組織を実現するため、戦略的な人材配置とキャリア形成支援による適材適所を推進しています。

新入社員に対しては、専門性や志向にマッチした配属を行うため、配属先を入社前に確約するジョブマッチング型の採用を拡大しています。入社3年経過時には、キャリア研修や面談を通じて職務適合性を確認し、万一の配属ミスマッチの早期解消に取り組んでいます。

また、成長領域への人材シフトと、社員の主体的なキャリア形成を実現する仕組みとして「キャリアマッチング制度」(社内公募制度)を導入しています。2015年からは、新たな職種にチャレンジする社員を支援するため、職種転換研修と社内公募制度を組み合わせた「研修型キャリアマッチング制度」を導入し、2024年までに累計2,445人が社内公募で異動しました。さらに、2021年からは、国内グループ会社に社内公募制度を拡大し、グループ間の出向・転籍を可能にすることで、キヤノングループ全体での適材適所を推進しています。そのほか、全社員に対して多様な研修メニューを定期的に紹介するなど、社員のリスキリングを強化しています。

シニア社員に対しては、主体的なキャリア形成を促すセミナーや60歳以上向けの社内公募制度を設けるほか、豊富な知識やスキルを発揮できる柔軟な勤務体系を整備し、年齢にとらわれない全社員戦力化を目指しています。

これらの取り組みの結果、離職率は全国平均(12.1%)※より大幅に少ない1.6%(定年退職扱いを除く)となり、高い定着率を維持しています。

※厚生労働省 令和5年雇用動向調査 産業、就業形態別離職率 一般労働者 産業計より

 

〈キャリアマッチングによる社内転職〉

 

 

 

 

 

〈研修型キャリアマッチング制度〉

 

 

 

 

 

 

〈社内公募異動者〉累計

 

 

 

 

3.ジョブ型人材マネジメントの進化

当社は、年齢や性別にとらわれない、優秀人材の抜擢と公平・公正な処遇を実現するため、2001年から、ジョブ型の「役割給制度」を導入しています。

役割給制度においては、ポジションごとに職務記述書を作成し、職務に求められる知識やスキルを明確化することにより、自律的なキャリア形成と適材適所の人材配置を可能にしています。

近年は、職務を基軸とした職種別採用やキャリア採用、社内公募などを拡大し、ジョブ型の人材マネジメントを強化しています。

また、処遇面においても、めざましい活躍をした人材に対して特別報酬が支払われるOS(Outstanding)評価制度や、少ない人的リソースで高い利益を創出した場合により高い賞与が支払われる仕組みの導入に加え、ベースアップを継続的に実施するなど、さまざまな報酬制度の改善を通じて人的投資を強化しています。

 

〈役割等級〉

 

                   ※T:Tentative/Training、 G:Job Grade Band 、M:Management Mission Band

 

4.創造的な組織風土の醸成

当社は、イノベーションを創出する自由闊達な職場風土を醸成するため、組織開発に取り組んでいます。

具体的には、コミュニケーションやリーダーシップなどの課題に対して、専任の社内コンサルタントの支援のもと、職場メンバーが対話を通じて課題解決に取り組む「CKI(Canon Knowledge-intensive staff Innovation)」活動を実施し、2024年までに延べ469部門、1万6,600人が参画しました。

さらに、毎年11月に、人材育成と組織開発の総合イベントとして「Canon Inspire Summit」を開催し、組織の活性化に向けた取り組みを加速しています。

また、社員の自発的な創発活動を積極的に支援しています。例えば、2018年に活動を開始した「Developers Conference」は、社員が事業の枠を超えて製品開発や技術トレンドについて意見を交わす相互啓発の場として広く定着しています。

そのほか、社員同士が活発にコミュニケーションを行うためのオフィス環境づくりを進めるなど、創造的な職場環境の整備に取り組んでいます。

 

〈基本的な考え方〉

 

 

 

 

5.ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進

当社は、多様な価値観やアイデアを取り込みながら、イノベーションを生み出していくためにDE&I※を推進しています。

DE&I推進の組織体制として、2012年に全社横断組織「VIVID(Vital workforce and Value Innovation through Diversity)」を発足し、重点施策として「女性の活躍推進」と「男性の育児参画支援」を掲げ、さまざまな活動を展開しています。

 ※ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン

 

重点施策とKPI

・女性管理職比率:2025年末までに2011年比で3倍以上とする

・男性の育児休業取得率:2025年末までに50%以上とする

 

女性の活躍推進については、女性の管理職候補育成を目的とした「女性リーダー研修」を実施し、計画的な育成に取り組んでいます。加えて、仕事と育児の両立を支援するため、育児休業復職セミナーや管理職によるメンタリングなどのサポート体制を整え、女性が活躍できる環境づくりに努めています。これらの取り組みの結果、女性活躍のKPIである女性管理職比率は、2024年末時点で、2025年末までの目標を前倒しで達成しました。さらに、部長職以上の女性幹部社員の人数は過去5年間で約50%増加するなど、着実に活躍の場を広げています。これらの実績が評価され、女性活躍推進の優良企業として厚生労働省より「えるぼし(3つ星)」の認定を受けています。

一方で、従業員に占める女性比率が低いことが当社の課題となっています。これは、当社が技術開発を重視した会社であり、一般的に女子学生の割合が少ない技術系の採用が多いことが原因です。そのため、女性の採用において目標値を設定し、女性採用をより強化するとともに、将来的には女性管理職比率を社員総数における女性比率(2024年末17.0%)と同等にすることを目指しています。また、2024年より、女子中高生の理工系進学を支援する内閣府男女共同参画局の取り組みである「リコチャレ」に賛同し、さまざまなイベントを実施しました。

なお、2024年は初の女性社外取締役が就任し、2025年は初の女性社外監査役が就任しています。

男性の育児参画支援については、育児休業制度を利用した男性社員の座談会やインタビュー、育児関連セミナーなどを実施し、男女共同参画へ向けた意識改革や職場風土醸成に努めています。これらの取り組みの結果、男性育児参画のKPIである育児休業取得率は、2024年末時点で、2025年末までの目標を前倒しで達成しました。また、育児休業の平均取得期間は、経団連平均と比較して、高い水準となっています。これらの実績が評価され、2019年から子育てサポート企業として厚生労働省より「プラチナくるみん」の認定を受けています。

そのほか、DE&I向上の取り組みとして、障がい者やLGBTQ+などマイノリティについての全社研修やイベントなどを開催し、社員の理解を深める活動を行っています。

連結子会社含む各社の女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女の賃金差異は、第1 企業の概況 5 従業員の状況をご参照ください。

 

〈女性管理職比率〉

 

〈男性の育児休業取得率・平均取得期間〉

 

KPI

目標

実績

経団連平均

育児休業取得率

50%

64.6%

47.5%

平均取得期間

-

86.5日

43.7日

         ※一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)平均は2022年実績

 

 

 

6.従業員エンゲージメントの向上

当社は、社員一人ひとりが会社の理念や戦略に共感し、意欲的に業務に取り組むためのさまざまな施策を展開しています。

まず、組織と従業員の現状を把握するため、2年に一度、従業員意識調査を実施しています。調査結果を多面的に分析した上で、調査翌年に全ライン管理職を対象とした「CAMP(Canon Active Management Program)研修」を実施しています。CAMP研修では、職場ごとに管理職が自組織の課題を議論し、具体的な施策につなげ、その効果を翌年の従業員意識調査で確認するサイクルを回しています。2023年の従業員意識調査では、前回から「担当業務における自律性」や「自己成長」をはじめとする全項目において、肯定回答率が上昇しました。特に、やりがい、自己成長、働きやすい環境などエンゲージメントに関連する項目は、着実に改善しています。

2024年のCAMP研修では、「Think Engagement」をテーマとして掲げ、140部門の約1,800名がエンゲージメント向上について議論を行いました。今後も多様な視点から、組織の課題を洗い出し、さまざまな人事施策に結びつけることによって、社員と会社の双方の成長につなげていきます。

また、若手社員に対しては、2024年より「モチベーション診断」や「パルスサーベイ」を実施し、上司・先輩・人事が一体となってエンゲージメントの向上に取り組んでいます。これらの取り組みの結果、入社後の早期離職やメンタル不調の抑止などの効果が表れています。

また、ワークライフバランスの充実をはかるため、労働時間の短縮やライフステージに合わせて柔軟に働くことができる労働環境の整備に取り組んでいます。具体的には、育児や介護を理由とした短時間勤務等の制度の充実や、計画的な休暇取得の促進のほか、ITを活用した業務効率化などを行っています。これら取り組みの結果、2024年の年間総実労働時間は、全国平均※(1,945時間)より大幅に少ない1,730時間となりました。

※厚生労働省 毎月勤労統計調査 一般労働者 調査産業計より

 

〈従業員意識調査を活用したマネジメント改善サイクル〉

 

 

 

 

〈従業員エンゲージメント〉

      ※やりがい、自己成長、働きやすい環境などエンゲージメントに関連する項目における肯定回答率

 

 

 

 

 

 

7.健康経営の推進

当社は、創業当初から「健康第一主義」を行動指針に掲げ、健康経営を推進しています。従業員の心身の状態や生活習慣、業務の状況など、健康診断で得られたデータの詳細な分析をもとに、健康保険組合と協働で8つの健康行動(こころ・がん・運動・食事・体重・睡眠・飲酒・禁煙)の目標値を設定し、実効性のある健康支援を行っています。

例えば、生活習慣病については、睡眠や喫煙が影響していることを踏まえ、良質な睡眠を確保するために専用機器を用いた個別指導や禁煙プログラムの実施などを行っています。また、2016年からは、全ての国内事業所の敷地内を禁煙とするなどの取り組みを進めた結果、2024年末の喫煙率は13.8%となり、2004年から18.6ポイント減少しました。また、健康診断や健康行動のデータを組織ごとに分析した「健康レポート」を配布し、社員の健康づくりに向けた職場の自律的な取り組みを後押ししています。

メンタルヘルスについては、ストレスチェックを毎年実施し、高ストレス者に対する産業医面談や保健師による健康相談を行うほか、職場との懇談会を実施するなど職場全体で改善を図っています。これら取り組みの結果、年々、高ストレス者の割合は減少するなど、効果が表れています。

このほかヘルスリテラシー向上の取り組みとして、健康に関するセミナーやイベントを行うなど、さまざまな健康支援を通じて社員が能力を最大限発揮することを目指しています。

 

 

 

KPI

目標値

実績

健康診断受診率

100%

100%

ストレスチェック受診率

100%

96.2%

がん検診受診率

70%

51.6%

 

 

(7)人権

<人権の尊重>

当社グループは、企業理念「共生」のもと、従業員や取引先をはじめとする事業活動に関わるすべてのステークホルダーの人権を尊重し、①人権方針の策定・見直し②人権デュー・デリジェンス(DD)③救済メカニズムの整備・運用④人権啓発活動⑤ステークホルダーエンゲージメント⑥サプライチェーンにおける人権リスクの対応などを行っています。2021年には「キヤノングループ人権方針」を定め、各国・地域のステークホルダーにWebサイトで周知することにより、人権尊重の取り組みを推進しています。

 

参考:キヤノングループ人権方針

https://global.canon/ja/sustainability/society/human-rights/pdf/hr-policy-j.pdf

 

<ガバナンス>

人権の担当役員である代表取締役CFOを責任者として、当社のサステナビリティ、法務、人事部門が事務局となり、人権対応を推進しています。事務局では、人権対応の全体計画の立案、救済メカニズムの整備・運用、ステークホルダーエンゲージメントの実施などを行い、重要案件については、担当役員に報告します。また、取締役会決議により設置されるリスクマネジメント委員会において、人権侵害リスクが重大なリスクとして特定され、当社各部門および各グループ会社において人権リスクを防止・低減するための取り組みを実施しています。取り組みの結果はリスクマネジメント委員会において毎年評価し、CEOおよび取締役会に報告される体制となっています。

 

<人権デュー・デリジェンスの実施>

当社では、人権DDをリスクマネジメント委員会下の活動として位置づけ、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」にもとづき、グループ全体で実施しています。当社の各部門および各グループ会社は、サプライチェーンを含むそれぞれの事業活動における人権に対する負の影響の洗い出し、評価および顕著な人権リスクの特定を行っています。その後、事務局は各組織の人権リスクを集約、分析、評価し、ステークホルダーエンゲージメントを経て、当社グループとしての顕著な人権リスクを特定しています。

サプライチェーンを含む当社グループの事業活動において発生する可能性がある顕著な人権リスクとして特定したのは、次の11項目であり、これらのリスクについては、リスクを防止・軽減するためのさまざまな対応策がとられています。

 

 当社グループにおける顕著な人権リスク

 

権利主体

サプライヤー・委託先従業員

自社従業員

顧客・消費者

地域社会

人種・性別・宗教等による差別

 

 

 

ハラスメント

 

 

 

児童労働

 

 

 

強制労働

 

 

 

賃金不払い・低賃金

 

 

 

過重労働

 

 

労働安全衛生

 

 

プライバシーの保護

 

 

紛争鉱物の調達

 

 

 

事業拠点の騒音、環境汚染

 

 

 

製品に起因する健康被害・事故

 

 

 

 

 

<救済メカニズム>

当社では、人権に関する具体的な懸念についての内部通報を受ける窓口を設けております。イントラネットや研修などを通じて通報窓口の周知に努めるなど、適切な利用のための施策を行っております。また、従業員が現地語で通報することができる内部通報窓口を国内外のほぼすべてのグループ会社にも設けております。さらに、当社では、社外のステークホルダーに対しても窓口を設けており、この窓口を通じて、当社グループの企業活動にともなう人権に関する具体的な懸念について通報することが可能となっております。

 

<人権啓発活動>

当社グループでは、ビジネスと人権に関わる基礎的な知識および当社グループの人権に関する取り組みの周知・啓発を目的として、2021年より従業員を対象としたeラーニングプログラムを実施しております。海外で教育を実施するにあたっては、国・地域による特性を考慮し、各社で内容を最適化し、各言語へ翻訳した上で実施いたしました。

 

<ステークホルダーエンゲージメント>

当社グループは、人権リスクを特定・評価し、その防止や軽減に取り組むにあたり、キヤノン労働組合のほか、機関投資家、サプライヤー、協力会社とも対話を実施しております。

 

<サプライチェーンにおける人権リスクの対応>

当社グループは、サプライチェーンにおけるCSRのさらなる向上を目的として、2019年にRBA(Responsible Business Alliance)に加盟しました。RBAの行動規範を採用した「キヤノンサプライヤー行動規範」を策定し、労働・安全衛生・環境・マネジメントシステムなどに配慮した調達活動を推進しております。また、主要サプライヤーについては、行動規範の遵守に関する同意書を取得するほか、RBAに承認された当社独自の調査票を用いた自己点検を毎年実施することにより、サプライヤーにおける児童労働・強制労働・不合理な移動制限・過重労働等の人権リスクの特定・評価・防止に取り組んでおります。

 

 

(8)サイバーセキュリティ

<ガバナンス/リスク管理>

当社は、情報セキュリティ担当執行役員である情報通信システム本部長を情報セキュリティの意思決定責任者と位置づけ、当社の情報通信システム本部が実務組織として、グループ全体の情報セキュリティマネジメントを担っています。情報セキュリティ担当執行役員である情報通信システム本部長は6年間にわたり情報セキュリティの意思決定責任を担っており、リスク評価・管理に関する十分な経験と知識を備えています。また、実務組織である情報通信システム本部には、サイバーセキュリティに関する実践的な知識・技能を有する専門人材の日本における国家資格である「情報処理安全確保支援士」を配置しており、リスク管理を支援しています。情報セキュリティに関する中期計画については、情報通信システム本部が策定の上、CEOの承認を得ています。

当社では取締役会決議に基づきリスクマネジメント委員会※1を設置し、情報セキュリティに関する事件・事故情報を速やかに集約・報告する体制を構築しています。万一、情報セキュリティに関する事件・事故が発生した場合は、情報通信システム本部に報告され、状況に応じリスクマネジメント委員会を経て、CEO及び取締役会に報告する体制となっています。同委員会では、当社が事業遂行に際して直面し得る重大なリスクの特定(法令・企業倫理違反、財務報告の誤り、環境問題、品質問題、情報漏洩など)を含む当社のリスクマネジメント体制の整備に関する諸施策を立案します。法務部門、ロジスティクス部門、品質部門、人事部門、経理部門など、事業活動にともなう各種リスクを所管する当社の各管理部門は、それぞれ関連する分科会に所属し、その所管分野について、当社各部門および各グループ会社のリスクマネジメント活動を統制・支援しています。当社の各部門および各グループ会社は、自律的にリスクマネジメント体制の整備・運用を行い、その活動結果をリスクマネジメント委員会に毎年報告しています。リスクマネジメント委員会は、各分科会および各部門・各社からの報告を受け、リスクマネジメント体制の整備・運用状況を評価し、その評価結果を代表取締役CEOおよび取締役会に報告しています。

 

※1 詳細は3 事業等のリスク(1)リスクマネジメント体制をご参照ください。

 

<戦略>

1.情報システムセキュリティ対策

当社は、情報セキュリティの三要素といわれる「機密性」「完全性」「可用性」※2を保持するための施策に取り組んでいます。内部からの情報漏洩対策として、最重要情報はセキュリティを強化した専用のシステムに保管し、アクセス制限や利用状況の記録を徹底しています。また、社外から自社の情報資産に安全にアクセスできる環境を構築した上で、メールのファイル添付送信やPC・記録メディアの社外持ち出しを管理しています。また、外部からのサイバー攻撃対策として、マルウェア※3などが添付された不審メールの侵入監視、社内からインターネットへの不正通信の監視を実施し、攻撃被害の拡大防止に努めています。さらに、サイバー攻撃を想定した対応訓練(NISC※4/NCA※5連携 分野横断的演習)に2017年より毎年参加し、障害対応体制の強化を図っています。また、セキュリティツールベンダーと毎月サイバーセキュリティリスクのトレンド・対策に関する情報共有も実施しております。

 

※2 機密性:許可された者だけが情報にアクセスできるようにすること

     完全性:情報や処理方法が正確で、改ざんされないよう保護すること

     可用性:許可された者が必要とする時に情報にアクセスできるようにすること

※3 不正かつ有害な動作を行う意図で作成された悪意のあるソフトウエア。コンピューターウイルス、ランサム

     ウェアなど

※4 National center of Incident readiness and Strategy for Cybersecurity(内閣サイバーセキュリティセ

     ンター)の略

※5 Nippon CSIRT Association(日本シーサート協議会)の略

 

2.生産設備の情報セキュリティ対策

当社は、マルウェアやサイバー攻撃によって工場の生産設備に稼働障害が発生し、生産計画に問題が生じることがないよう、生産設備の情報セキュリティ対策に取り組んでいます。従来、サイバー攻撃の対象は企業の業務システムやWebシステムなどの情報システムが主体でしたが、生産設備においても汎用OSの利用やIoT化が進み、情報システムと同等の情報セキュリティリスクが生じています。生産設備の運用期間は汎用OSのサポート期間よりも長期にわたり、情報システムとは別のセキュリティ対策が必要となるため、当社および国内外のグループ生産会社では、ウイルス感染などによる操業停止に陥らないよう、生産設備系ネットワークの不正通信監視を行っています。また、生産設備についてもセキュリティ監査を実施し、安全な生産環境の維持を図っています。

 

3.従業員の意識の向上をめざす情報セキュリティ教育

当社は、情報セキュリティの維持・向上のため、情報システムの利用者である従業員の意識向上にも注力しています。定期入社者、中途入社者ともに集合教育を通じて当社の情報セキュリティに関する施策やルールの徹底を図っています。また、毎年、全従業員を対象として、eラーニングによる情報セキュリティ研修を実施しています。2024年は当社の従業員全員の約2万3,000人が受講しました。研修内容は、脆弱性リスクとその対応方法、Web会議における注意点など、従業員の情報セキュリティリテラシー※6を向上させるものとなっています。また、当社およびグループ会社ののべ約6万人の従業員に対し、不審メールを受け取った際に適切に対処し被害を拡大させないための実践教育として標的型攻撃メール対応訓練も実施しました。特に、メールでの業務に慣れていない新入社員については、別途訓練を実施し、教育を強化しています。

 

※6 セキュリティ対策を実行する時に知っておくべき知識やスキル

 

4.情報セキュリティマネジメント体制

情報セキュリティインシデントに対処する専門チームCSIRT※7(シーサート)を2015年に当社情報通信システム本部内に設置しました。同時に、日本シーサート協議会(NCA)に加盟し、他社CSIRT組織との連携強化を図っています。また、当社では情報セキュリティ部門を対象として、情報セキュリティマネジメントシステムの構築・運用の国際規格ISO27001の外部認証を取得しています。

サードパーティのクラウドサービスを利用する際には、情報通信システム本部が当該サービスのセキュリティリスクを事前評価し、利用を許可するプロセスを運用しています。また利用開始後も、毎年1回同様のプロセスを実施することにより、継続的なリスク低減を図っています。

 

※7 Computer Security Incident Response Teamの略。コンピューターセキュリティにかかる事件・事故に対処

     するための組織の総称