2024年3月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります

(単一セグメント)
  • セグメント別売上構成
  • セグメント別利益構成 セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
  • セグメント別利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 セグメント別
売上高
(百万円)
売上構成比率
(%)
セグメント別
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 1,863 100.0 134 100.0 7.2

事業内容

3【事業の内容】

日・米・欧をはじめとした世界の主要国・地域は、地球温暖化対策として2050年のカーボンニュートラルを目指すことに同意しました。この実現にはエネルギーシステムをはじめとした抜本的な対策が必要となりますが、二酸化炭素の約30%を排出している製造業においては、再生可能エネルギー由来の電力をベースにした徹底的な「電化」が必須と言われております。当社のコアテクノロジーとなるマイクロ波プロセスは電気を用いて発生させますが、これに自然エネルギー由来の電力を活用することで、化石資源を利用している従来プロセスと比較して大幅な二酸化炭素削減が可能となるため、カーボンニュートラル実現に向けた有望な製造技術として注目されています。

運輸や通信産業などにおいて馬車から内燃機関、電話からインターネットなどのイノベーションが起こる中、化学産業は勃興期と言われている20世紀初頭において生産開始されたドイツにおける1913年高温高圧ハーバーボッシュ法によるアンモニア合成や、1940年代のアメリカにおけるナフサ熱分解法よりほとんど姿を変えておらず、未だ重厚長大のエネルギー大量消費型のプロセスが多く残っています。現在、化学産業は、石油、天然ガスや石炭など総計12億トンの化石資源を燃料(全体の約30%)や原料(全体の約70%)として使用しており、世界全体の使用量の約5%を占めています。

当社は、「何を作るか」ではなく「どのように作るか」に着目し、製造プロセスを化石資源由来の「熱と圧力」から電気由来の「マイクロ波」に置き換えることで、「省エネルギー」・「高効率」・「コンパクト」な環境対応型プロセスのグローバルスタンダード化を目指す技術プロバイダーです。

 

(1) マイクロ波プロセスの原理、優位性及び歴史

 伝統的なモノづくりの方法においては、エネルギー伝達手段として、伝熱プロセスが用いられています。ガス、熱媒、蒸気といった熱エネルギーを、空間のある場所から対象物質に移動させることによって、反応を起こそうとするプロセスです。このプロセスにおいては、エネルギー伝達が外部から間接的なものとなり全体を加熱するためにエネルギーロスが生じることから、対象物質の反応に必要である以上のエネルギーが必要となります。また、大規模生産をしようとすると、対象物質へのエネルギー伝達が不均一になってしまうため、収率低下、品質劣化という問題が生じます。

 一方、マイクロ波プロセスにおいては、エネルギー伝達の方法が全く異なります。

 マイクロ波とは,波長約1mm~1m(300MHz~300GHz)の電界と磁界が直交した電磁波です。

 マイクロ波は、特定の物質に内部から直接かつ選択的にエネルギーを伝達できるという特徴を有しており、これにより媒体を介してのエネルギー伝達が不要となるため、必要最小限のエネルギーしか要しません。また、目的とする物質のみが共鳴する周波数のマイクロ波を照射することで、均一にエネルギー伝達することができるため、ムダ・ムラを排除し高収率・高品質を達成します。

 このような特徴を有するマイクロ波の化学への適用は、1980年代の電子レンジの改造ラボ装置からスタートしました。そして、現在に至るまで、有機合成を始めとした各種の化学反応において、反応時間短縮、高収率、素材の性能向上などの圧倒的な効果がラボスケールで報告されてきました。しかしながら、2000年に入っても化学プロセスとして大型産業化された例は無く、「化学反応においては、マイクロ波を制御することが困難であり、産業利用することは不可能である」という見解が化学業界の常識となっていました。

 

(2) 技術プラットフォームの構築

 当社は、2007年の創業以来、上述のような常識に挑み、ついにマイクロ波プロセスを用いて年産3,000トン規模での商業生産を実現しました。当社は、その過程で「デザイン力の獲得と強化」及び「要素技術群の開発と蓄積」の2点に着目し、技術プラットフォームを築いてきました。

①デザイン力の獲得と強化

■ 反応系のデザイン

各々の物質において、マイクロ波を吸収できる能力(マイクロ波吸収能)は異なり、周波数依存性と温度依存性を示します。最適な反応を得るためには、ターゲット物質に合わせてマイクロ波の周波数を選定する、すなわち「反応系のデザイン」が重要となります。しかし、様々な状態におけるマイクロ波吸収能を測定できる手法は確立されておらず、加えて、膨大なデータ及びノウハウの蓄積が必要となるため、マイクロ波が汎用的なモノづくりプロセスとして採用されるための大きな障壁となっていました。当社はマイクロ波吸収能の測定方法を独自開発・確立し、データベース化を進め、それに基づいた反応系デザインのパターン認識とノウハウ蓄積を進めることで体系化しました。

 

■ 反応器のデザイン

 マイクロ波プロセスにおいては、反応器という閉鎖空間の中でマイクロ波を照射しますが、研究段階では小さな反応器でマイクロ波の優位性検証を行います。一方で、マイクロ波を産業利用するためには、研究段階の小さな反応器を数千から1万倍程度の大きさにスケールアップする必要がありますが、マイクロ波プロセスの反応器デザインにおいては、従来の熱伝導を利用したプロセスにおけるそれとは全く異なった技術が必要となります。

 マイクロ波反応器デザインでは、波の特性(吸収、透過・反射)を加味し、マイクロ波の分布(電磁界分布)を制御することが重要となります。しかしながら、反応系デザインに基づいた電磁界分布をデザインする必要があること、加えて、電磁界分布をシミュレーションするためには、各々の物質のマイクロ波吸収能が解析上必要となることにより、スケールアップが困難とされてきました。当社はシミュレーション技術の開発を進め、加熱対象物温度分布等のシミュレーション結果を、実際の反応器内部において高い精度で再現させるために、電磁場解析、熱流体解析を連成させました。また、スーパーコンピューターを導入することにより反応器の大型化、及びマイクロ波分布と流動している加熱対象物とが相互に作用し合う複雑系にも対応可能になりました。さらに、反応器製作後に、その実証データとシミュレーションの齟齬を認識、フィードバックを繰り返すことで精度を上げ、スケールアップの最適解を導くことができました。

 

②要素技術群の開発と蓄積

要素技術群とは、マイクロ波環境下で化学プロセスを実施するために保有している複数の要素技術で、スケールアップ過程で開発を行ってきたものです。これは、4つのカテゴリに分類され(下表)、さらに20の各技術に細分化されます。

 

 

③技術プラットフォームの確立

 当社は、マイクロ波プロセスを産業化する過程で「①デザイン力」と「②要素技術群」を構築・強化し、これらで構成される技術プラットフォームを確立しました。そして、この技術プラットフォームを用いることで、化学・エネルギー産業における多様な課題に対して最適なソリューションを提供しています。

 具体的には、顧客から得た課題に対して、蓄積してきた課題解決データベースから類似系を抽出することにより、顧客から得た課題を解決するための要素技術を複数選定し、初期的な概念検証であるラボ開発フェーズ、または実機導入を見据えた実証開発フェーズにおいて、デザインを行います。

 

 なお、当社が、上述のような技術プラットフォームを確立し、マイクロ波プロセスの産業化に成功した背景として、以下のような点が挙げられます。

1) チーム

 問題解決のために、多様な分野の知識を融合したことが挙げられます。具体的には、反応系デザインに関しては、化学、物理、電気、電磁気の知見を有するサイエンティスト、反応器デザインに関しては、化学工学・機械工学の知見を有するエンジニア、シミュレーションのための専門家、加えて、生産技術確立のための、製造技術者といった様々なバックグラウンドを持つ人材が当社には集結しています。

2) インフラ

 当社が有するラボは、マイクロ波に特化した大規模な研究設備を備えており、プロセス検討の初期的な研究開発を担っています。特に反応系デザインに重要な周波数のバリエーションは豊富で、一般的な産業部門やラボ機で用いられる周波数は2.45GHzの1種類がほとんどのところを、当社は主に5種類の周波数を使い分けます。また、大阪事業所の「実証棟」は、実機導入のためのパイロット実証施設として機能しています。このように、当社は、研究・開発→実証→事業化すべてのフェーズにおいてソリューションの提供が可能なインフラを有しています。

3) データベース・ノウハウ・実証経験

 当社は10年以上にわたり、様々な化学企業と多種多様な化学品に関する共同開発を重ねているため、データベース・ノウハウ・実証経験において、膨大な蓄積を有しております。

 

(3) 当社の事業内容

 当社は、顧客課題に応じて、研究開発からエンジニアリング・製造支援までをワンストップでソリューションとして提供しています。技術プラットフォームを様々な化学製品の製造プロセスに応用することを目指していますが、化学産業は研究開発段階から商業化まで時間とコストがかかるため、顧客との長期的な関係を構築し安定的な収益を確保します。

 当社は、顧客の課題解決を目指して研究開発を行う研究開発会社としての側面と、マイクロ波プロセスを設計して反応器を納入するエンジニアリング会社的な側面を併せ持っております。研究開発及びエンジニアリングのソリューションは4つのフェーズで提供していますが、各フェーズの具体的な実施内容は以下の通りであります。

 開発段階のフェーズ1ないし2では、共同開発費や実証機の設計費という形で収益を計上します。顧客が事業化するフェーズ3ないし4では、プロジェクトマネジメントフィーや設計費を計上した上で、顧客がマイクロ波プロセスを導入することによって生み出すことができたコスト削減や付加価値向上などの価値の一部、及び当社が所有するバックグランドIPの使用料としてライセンス収入を、一時金やロイヤリティという形で計上します。

 中長期的には事業化したパイプラインから得るロイヤリティをはじめとした継続的な収益が当社の利益に貢献することを想定しています。

 

 事業の成功率を高めるためには、当社内でフェーズ0と位置づけている初期段階における開発課題の特定、事業仮説や期待値の設定が重要であり、事業開発チームによる徹底的なヒアリングを実施します。ヒアリング内容をデータベース化し成功パターンを認識し、必要に応じて簡単な試験をすることで、効率の良い案件獲得に繋げていきます。さらに、その前段階となる顧客からの引き合い数を増やすことに注力することで、事業性の高い案件の受注を目指します。

 

フェーズ1

ラボ開発

概念検証(POC/Proof of Concept)。顧客の課題に合わせたソリューションの検証。マイクロ波を用いた反応系のデザイン。

フェーズ2

実証開発

実機を想定してベンチ機・パイロット機を用いた実証開発。反応器のデザイン。実機導入に向けた経済性の検証。

フェーズ3

実機導入(装置販売)

実機を設計・製作し納入。

フェーズ4

製造支援

多くの顧客がマイクロ波設備の使用経験がないため、生産技術部員を派遣して設備の立ち上げから製造やメンテナンスを支援。

 

 

 

 

(4) 技術及び事業の標準化

 当社の事業は、顧客課題にソリューションを提供すると、これが当社の技術プラットフォームの強化とこれを支える要素技術群の充実につながり、この強化された技術プラットフォームが顧客課題のソリューション力向上に貢献するという、好循環を実現可能な事業モデルです。これは、ソリューションの提供を通して獲得した装置・プロセスを中心とした知財・ノウハウを当社がある程度自由に展開できる自律拡張的な仕組みとしているからですが、顧客から見ても過去に積み重ねたバックグランドIP・ノウハウを含む技術プラットフォームを低コストで活用でき、メリットを享受することができます。

 

 

さらに、技術プラットフォームを「標準化」し、特定の顧客ではなく、業界・市場に共通した「課題」に対するソリューションを提供することで、技術を横展開しスケールする事業を実現します。

具体的な例としては、①ケミカルリサイクル事業、②鉱山プロセス事業があります。

 

① ケミカルリサイクル事業

サーキュラーエコノミー構築の為に、廃棄プラスチックを分解し、再度、化学品の原料として利用できるようにする事業であり、マイクロ波熱分解技術を標準化して、家電や車などに使われているプラスチックからレジ袋まで多様な廃棄プラスチックに対応することで、事業の横展開を目指しています。当社では2021年3月期からマイクロ波技術を用いたケミカルリサイクルへの取り組みを開始し、これまで計20社以上×30件以上のプロジェクトを通じて要素技術を蓄積してきました。今後も大阪事業所に実証設備を導入して、多様なプロジェクトを通じて得られた技術の標準化を進めるとともに、パートナー企業との共同開発案件の早期の事業化・社会実装を目指します。

 

② 鉱山プロセス事業

金属製錬/鉱山プロセスにおける、煆焼・焼成・還元などの、従来工程で化石燃料を燃焼し大量の二酸化炭素を排出する工程を、電気で発生するマイクロ波プロセスに置き換えることをビジョンとする事業で、標準化装置を自己投資して開発し、各共同開発案件に汎用的に活用することで、プロジェクトの投資コストを抑え、開発スピード・確度を上げることを目指しています。

標準化装置の開発事例として、マイクロ波を利用した鉱石の高温焼成・反応に対応可能な標準ベンチ装置を2024年3月に大阪事業所に完工しました。従来手法において化石燃料を燃焼し大量の二酸化炭素を排出する反応工程を、マイクロ波に置き換えて電化した昇温装置であり、当社独自で開発したため今後あらゆるプロジェクトへ展開することができます。

 

(5) 事業系統図

 上記事業モデルを、以下の事業系統図に示します。なお、当社はマイクロ波化学関連事業の単一セグメントであります。

 

(6) 用語

 本書で使用する用語の解説は次のとおりであります。

用語

用語の解説

伝熱

熱エネルギーが空間のある場所から別の場所に、物質によって移動する現象

バックグランドIP

もともと自社が所有する知的財産

反応器

化学反応を起こさせる装置。リアクター、反応炉とも言う

カーボンニュートラル

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること(環境省「脱炭素ポータル」より)

再生可能エネルギー

石油、石炭、天然ガスといった有限な資源である化石エネルギーとは異なり、太陽光、風力、地熱、バイオマス等、エネルギー源として永続的に利用することができるもの

ベンチ機

パイロット機設計に先立ち、必要な設計データ収集のために試験的に組み立てる、ラボで行う研究とパイロット機を用いた試験の中間の位置づけの試験で使われるプラント

パイロット機

実機設計に先立ち、必要な設計データ収集のために試験的に組み立てる、ほぼ実機と同様の機能を持った試験段階と実用の段階との中間の位置づけとなるプラント

電磁場解析

反応器内に照射されたマイクロ波がどのような状態で反応器内及び加熱対象物内に分布するのか、また効率よくマイクロ波を照射するために反応器のどの部分から照射すれば良いかなどを決めるために、専用のコンピューターシミュレーターを用いて解析すること

熱流体解析

反応器内に存在する気体、液体、固体(粉体)などが、その中でどのような動き(流れ)をしているのか、それに伴い熱がどの様に伝播するのかを専用のコンピューターシミュレーターを用いて解析すること

連成解析

2つ以上の物理現象が相互に及ぼす影響を考慮した解析をすること

パイプライン

フェーズ1(ラボ開発)、フェーズ2(実証開発)、フェーズ3(実機導入)、フェーズ4(製造支援)のいずれかにある開発プロジェクト

 

 

 

業績

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

① 財政状態の状況

(資産)

 当事業年度末の資産合計は1,894,973千円となり、前事業年度末に比べ1,182,426千円減少しました。

 これは主に、建物が80,304千円、機械及び装置が94,314千円それぞれ増加したのに対し、現金及び預金が716,864千円、売掛金が31,968千円、仕掛品が21,887千円、リース資産が19,936千円、関係会社株式が319,444千円それぞれ減少したことによるものであります。

 

(負債)

 当事業年度末の負債合計は1,038,682千円となり、前事業年度末に比べ332,672千円減少しました。

 これは主に、未払金が74,380千円増加したのに対し、買掛金が61,379千円、1年内返済予定の長期借入金が192,146千円、契約負債が120,475千円それぞれ減少したことによるものであります。

 

(純資産)

 当事業年度末の純資産は856,291千円となり、前事業年度末に比べ849,754千円減少しました。

 これは主に、資本金及び資本準備金がそれぞれ47,577千円増加したのに対し、利益剰余金が944,895千円減少したことによるものであります。

 

② 経営成績の状況

 製造業の中でも化学産業は、原料や素材を担う産業として経済の発展を支えてきました。しかしながら、多くの製品や製法にイノベーションが起こる中、同産業は長きにわたってその登場からほとんど姿を変えておらず、現在も未だ重厚長大のエネルギー大量消費型のプロセスが多く残っています。

 当社は、「何を作るか」ではなく「どのように作るか」に着目し、製造プロセスを化石資源由来の「熱と圧力」から電気由来の「マイクロ波」に置き換えることで、「省エネルギー」・「高効率」・「コンパクト」な環境対応型プロセスのグローバルスタンダード化を目指す技術プロバイダーです。

 当社は、「デザイン力」及び「要素技術群」からなる技術プラットフォームを駆使して、顧客課題に応じて、ラボ開発、実証開発といった研究開発フェーズから、実機製作、製造支援といった事業フェーズまでをワンストップでソリューションとして提供しております。現在では、炭素素材、ケミカルリサイクル、金属製錬/鉱山プロセス、電子材料、医薬品などの幅広い分野において研究開発のパイプライン拡充及び積極的な事業開発活動を行っております。

 

 近年、地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて、「カーボンニュートラル」を目指す動きが世界的に加速しております。わが国でも2020年10月、臨時国会で「2050年カーボンニュートラル」が宣言されたことを受け、経済産業省により2兆円のグリーンイノベーション基金が造成されるなど、二酸化炭素排出の削減を経営課題として取り組む企業等に対して、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援を行う機運が高まっております。

 マイクロ波プロセスは、従来の「外部から」「間接的」「全体」にエネルギーを伝達するプロセスに対して、「内部から」「直接的」「ターゲットした物質」に効率的にエネルギーを伝達することが可能であり、エネルギー削減を実現することができます。さらに、2000年代以降、安価、かつ発電量が増えてきた自然エネルギー由来の電気と組み合わせた「電化」のプロセスとして大幅な二酸化炭素削減が可能であるため、カーボンニュートラル実現に向けた有望なキーテクノロジーとして注目されております。

 

 実際に当社では複数の化学企業と協業しながら、従来の製造プロセスを当社技術プラットフォームによって革新していく共同開発プロジェクトを進めております。具体的に当事業年度に推進した主要な開発プロジェクトとして下記が挙げられます。

(1) マイクロ波を活用した革新的な炭素繊維製造プロセスに関する三井化学株式会社との共同開発において、先方の名古屋工場内に実証設備を完工・導入。

(2) 自動車部品等に使用されるポリアミド66の製造工程で発生する端材・廃材をケミカルリサイクルする技術を旭化成株式会社と共同開発。

(3) 廃プラスチックを発生地の近傍で分解処理する小型分散型ケミカルリサイクルシステムを横河ソリューションサービスと共同開発。

(4) 電気自動車(EV)の電池等に使われるリチウムについて、その製錬におけるCO2排出の主要因となっている煆焼のプロセスを電化し、環境負荷の低い、世界初となるマイクロ波を利用した製錬技術を確立すべく、三井物産と共同開発を開始。

(5) 大量のCO2が排出されている製鉄プロセスにマイクロ波を適用し、ラボスケールでマイクロ波により鉄鉱石を還元することに成功(自主開発)。

(6) ニッケル鉱石の製錬技術に関する大平洋金属との共同開発において、マイクロ波標準ベンチ装置を用いたニッケル鉱石の煆焼及び還元に成功。

 

 このような「カーボンニュートラル」に貢献する開発テーマを中心に、新規案件の獲得活動に注力したほか、ラボフェーズに続いて実証フェーズに進んだ案件の開発を着実に進めた結果、当事業年度は、新規案件獲得数は通期計画28件に対して27件、契約済みの案件総数は通期計画65件に対して64件となりました。

 以上の結果、当事業年度における経営成績は、売上高1,863,320千円(前年同期比53.3%の増加)、営業利益は

134,409千円(前年同期比124.6%の増加)、経常利益は130,893千円(前年同期比401.9%の増加)となりました。また、当社の関連会社であるティエムティ株式会社の解散に伴う関係会社整理損を特別損失1,029,464千円として計上したこと等により、当期純損失は944,895千円(前年同期は75,393千円の当期純利益)となりました。

 また、当社は、マイクロ波化学関連事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しておりま

す。

 

③ キャッシュ・フローの状況

当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末に比べ716,864千円減少し529,404千円となりました。

当事業年度におけるキャッシュ・フローの概況は以下のとおりです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動によるキャッシュ・フローは、205,747千円の収入(前事業年度は372,940千円の収入)となりました。これは主に、減価償却費79,261千円、固定資産圧縮損53,504千円、関係会社株式評価損319,444千円、貸倒引当金の増加額710,019千円、売上債権の減少額31,968千円、棚卸資産の減少額21,887千円、前払金の減少額70,123千円を計上したのに対し、税引前当期純損失897,453千円、仕入債務の減少額61,379千円、契約負債の減少額120,475千円、未収入金の増加額34,973千円を計上したことによるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動によるキャッシュ・フローは、797,816千円の支出(前事業年度は282,477千円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出274,694千円、関係会社貸付けによる支出500,000千円を計上したことによるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動によるキャッシュ・フローは、124,794千円の支出(前事業年度は935,277千円の収入)となりました。これは主に、株式の発行による収入95,155千円を計上したのに対し、長期借入金の返済による支出200,000千円を計上したことによるものであります。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当社は生産活動を行っておりませんので、該当事項はありません。

 

b.受注実績

 当事業年度の受注実績は、次のとおりであります。なお、当社はマイクロ波化学関連事業の単一セグメントであるため、売上高の主な内訳別に記載しております。

区分

当事業年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

フェーズ1(千円)

480,480

104.5

フェーズ2(千円)

1,025,040

86.1

フェーズ3(千円)

フェーズ4(千円)

その他(千円)

27,600

150.8

合計(千円)

1,533,121

91.9

 

c.販売実績

 当事業年度の販売実績は、次のとおりであります。なお、当社はマイクロ波化学関連事業の単一セグメントであるため、売上高の主な内訳別に記載しております。

区分

当事業年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

フェーズ1(千円)

565,112

99.6

フェーズ2(千円)

1,274,108

214.5

フェーズ3(千円)

0.0

フェーズ4(千円)

その他(千円)

24,100

125.5

合計(千円)

1,863,320

153.3

 (注)1.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前事業年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

当事業年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

三井化学㈱

268,090

22.1

866,123

46.5

住友化学㈱

255,500

21.0

三菱ケミカル㈱

163,600

13.5

2.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績のうち、当該販売実績の総販売実績に対する割合が10%未満の相手先につきましては、記載を省略しております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成にあたっては、当事業年度末日における資産及び負債、会計年度における収益及び費用について会計上の見積りを必要としております。この見積りに関しては、過去の実績及び適切な仮定に基づいて合理的に計算しておりますが、実際の結果と相違する場合があります。

 当社の財務諸表の作成にあたって採用している重要な会計上の見積りは、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しております。

 

② 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当事業年度における財政状態及び経営成績の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態の状況 ② 経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

③ キャッシュ・フロー、資本の財源及び資金の流動性

 当社は、基盤技術の強化をはかるべく、積極的に研究開発活動を実施してまいりましたが、今後も継続して実施する方針であり、必要な資金は、自己資金、金融機関からの借入金、新株発行による調達資金により充当することとしております。

 当社の資金の流動性については、「(1)経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 

④ 経営方針、経営戦略又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標の分析

 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等につきましては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」に記載のとおり、1)新規契約獲得数、2)契約総数、及び3)フェーズ別売上高を主な経営指標として重視しており、各指標の進捗度は以下のとおりです。

 

新規契約獲得数及び契約総数

 

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

新規契約獲得数

18件

27件

27件

契約総数

41件

61件

64件

 

フェーズ別売上高

 

2022年3月期

2023年3月期

2024年3月期

フェーズ1

309,950千円

567,193千円

565,112千円

フェーズ2

320,460千円

593,960千円

1,274,108千円

フェーズ3

30,000千円

35,000千円

フェーズ4

200,100千円

その他

19,200千円

24,100千円

合計

860,510千円

1,215,353千円

1,863,320千円

 

 当事業年度においては、「カーボンニュートラル」に貢献する開発テーマを中心に、新規案件の獲得活動に注力したほか、ラボフェーズに続いて実証フェーズに進んだ案件の開発を着実に進めた結果、堅調に推移したものと認識しております。