リスク
3 【事業等のリスク】
本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主なリスクは、以下のようなものがあります。
当社グループでは、リスクの顕在化の可能性及び顕在化した場合の影響度を十分に認識し、顕在化の回避及び顕在化した場合の対応に努めておりますが、このような諸策の成否には不確実性が存在します。したがって、当社株式に関する投資判断は、本項及び本書中の本項以外の記載内容を併せて、慎重に検討した上で行われる必要があります。また、必ずしも事業上のリスクに該当しない事項についても、投資家の投資判断上、重要であると考えられる事項については、積極的な情報開示の観点から記載しておりますが、以下の記載は、当社株式への投資に関連するリスクをすべて網羅するものではない点にご留意ください。
当社グループは軌道上サービスの研究開発を行っておりますが、当社グループが想定する軌道上サービスやその提供に必要な技術の開発及び実証は未だ完了しておらず、また、研究開発・実証ミッションを除く商業サービスとしての顧客への提供実績もありません。軌道上サービスの研究開発及び実証は、長い年月をかけて複数の段階を経て行われるものであり、多くの時間と多額の研究費用を要するとともに、すべての研究開発及び宇宙空間でのミッションが成功する保証はなく、様々な事情による遅延のリスクもあります。また、当社グループが属する宇宙産業自体、未だ市場草創期であり確立した市場は存在しておらず、将来の市場規模及びその拡大には不確実性を伴います。このように、当社グループの事業はその性質上、様々な不確実性とリスクを有しており、当社株式への投資は、一般投資者による投資対象としては相対的にリスクが高いものといえます。当社株式に関する投資判断は、本項及び本書中の本項以外に記載される当社グループの事業の性質、事業環境、研究開発・実証の状況、不確実性、リスク等を慎重に検討した上で行われる必要があります。
なお、本項における将来に関する事項については、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)技術開発・実証に係るリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループ事業の成功には、軌道上サービスに必要な技術開発が完了し、当該技術が実証実験を通じて確認されることが不可欠です。また、これらの技術を基にしたサービスを、ビジネスとして成立する商業サービスとして提供できるようになることも必要です。
しかしながら、本書提出日現在において、当社グループの想定するビジネスモデルを含め、軌道上サービスやそれに必要な技術のいずれも実証できてはおりません。EOLサービスの技術開発については、2021年8月25日に、実証実験機であるELSA-dが宇宙空間で磁石を使用した手動制御による模擬デブリの捕獲実験を成功させたほか、2022年1月25日より実施した一連の実証実験において、自律的な軌道維持アルゴリズムにより模擬デブリから30メートルの距離を維持するとともに、最大1,700キロメートル離れた模擬デブリに対して安全に160メートルの距離まで接近し、遠距離からの物体の観測及び追跡、非制御物体への誘導接近、絶対航法から相対航法への切替えなど、複雑で高難度な技術を実証いたしましたが、現在完了している宇宙空間での実証実験はこれらに限られ、協力物体又は非協力物体の自律的な捕獲等については、今後も更なる実証実験が必要です。また、ISSAサービスの技術開発については、2024年2月18日に同サービス初となる実証ミッションのサービサー衛星であるADRAS-Jの打上げに成功しました(本書提出日現在の状況については、上記「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.5 ADRAS-J(アドラス・ジェイ)」参照)。ADR及びLEXにつきましては、本書提出日現在において、地上での技術開発や試験の実施にとどまっており、宇宙空間での実証実験はなされておりません。そのため、今後も技術開発・実証実験等を進める必要があり、そのために更なる時間を要する見込みです。
当社グループは、前記「第1 企業の概況 3 事業の内容 3 研究開発の状況」に記載のとおり、必要となる技術開発を進めておりますが、技術開発に想定以上の期間を要する場合や技術開発に失敗するリスクも考えられます。このような場合には、商業サービスとしての提供開始が遅延し、又は商業サービスとしての提供を断念する可能性があります。特に、EOLサービスの想定顧客である民間衛星運用者は、サービサー衛星「ELSA-M」を用いた宇宙実証が完了するまで、当社グループとの間の商業サービスの提供に関する契約の締結を差し控える可能性があります。また、予期せぬ事故などによってサービサー衛星が故障又は喪失する事態が発生した場合、原因究明や実証実験の再開に相応の期間を要する可能性もあります。加えて、実証実験に成功した場合でも、商業サービスとしての提供に至る保証はなく、また、商業サービスの提供が実現した場合においても、顧客に提供する将来の各ミッションの成功が保証されるものではありません。さらに、実証実験や商業サービスにおけるミッションの失敗や遅延等によって当社グループに対する評価が低下し、既存顧客との契約解除が増加し、新規顧客の獲得が困難となる可能性や、顧客からの損害賠償請求や契約に基づく補償請求など、保険では賄いきれない金額の損害を当社グループが負う可能性があります。これらの事態が発生した場合には、商業サービスの提供の時期が想定よりも大幅に遅れたり、提供を断念せざるを得なくなったりすることで、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
なお、上記のとおり、本書提出日現在、当社グループはサービサー衛星「ADRAS-J」を使用した宇宙空間での実証ミッションを遂行中です。本書提出日以降に発生する可能性のある、当該ミッションの進捗、サービサー衛星の不具合その他の問題に関して、当社グループがリアルタイムで詳細な情報を取得、把握し、完全かつ正確な開示を適時に行うことができる保証はありません。また、当社グループのコントロールが及ばない形で、当該ミッションに関する正確ではない報道や論評が行われる可能性があります。
(2)人工衛星の開発・製造及び運用に係るリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、将来に向けて継続的に軌道上サービスを提供・維持・拡大するために、効率的な人工衛星の開発・製造と打上げが欠かせません。人工衛星は極めて精密な機器であり、僅かな欠陥でもシステム全体に対して甚大な影響を及ぼす可能性があります。例えば、ELSA-dにおいては、サービサーに搭載されたスラスタの一部が故障したため、予定されていた実証の一部を実施することができませんでした。そのため、細心の注意を払いつつ、輸出入規制を含む複雑な規制要件を遵守した開発・製造に努めておりますが、他の業界と比較して、経費増大や設計・開発・製造に関するスケジュール遅延が生じる可能性が高いといえます。例えば、当社は2023年4月にELSA-Mの構造適格性評価モデル(SQM)について一連の試験を実施し、その結果、一部の部品に構造上の脆弱性があることが判明いたしました。この問題に対処し、追加テストを実施した結果、ELSA-Mの開発に遅れが生じる結果となりました。
上記に加え、人工衛星の製造から運用開始までの過程で発生するサプライヤーによる部品納入遅延、許認可取得の遅れなど、何らかの事由により、運用開始の遅延が生じる場合があります。商業サービスにおいては、サービスの提供を既存の他の衛星で代替できない場合、顧客の利益の喪失及び損失が生じる可能性もあり、これらのリスクは当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(3)人工衛星の打ち上げに係るリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、衛星の打上げ技術を有していないため、外部の政府機関や民間事業者等と打上げに関する契約を締結する必要があるところ、打上げの遅延や軌道投入の精度の低さなどによって、運用開始までの期間が当初の想定より延びる可能性があります。また、当社グループは、事業計画に沿った打上げを実現するために外部の政府機関や民間事業者等とコミュニケーションをとっておりますが、打上げに失敗した場合、サービサー衛星を完全に喪失する可能性があります。さらに、打上げ契約は、打上失敗時の相互免責条項など、技術提供者側にとって有利な契約条件で締結されることが一般的であり、また、打上げに必要な許認可の取得や打上げ時の天候条件、技術提供者側の都合等によって、当社グループの想定通りの内容で打上げ許可が下りない、打上げ許可の取得に想定以上の時間を要する、又は何らかの事情により打上げが遅延若しくは再契約を要することとなる可能性もあります。その結果、打上げ機会が制限され、次の打上げ機会までに相応の時間を要する場合があります。実際に、ADRAS-Jミッションにおいては、当初2023年9月の打上げを予定していたところ、直前のRocket Lab社の打ち上げ失敗の影響を受け、打上げが遅延したことにより、最終的には2024年2月18日付での打上げとなりました。更に、打上げに関しては、契約の相手方が、当社グループのような民間事業者よりも国家プロジェクトを優先する可能性があり、これによるスケジュールの変動や費用の増大も予想されます。
(4)軌道上サービスの市場が想定通りに創造・拡大しないリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループでは、合理的と考えられる情報に基づき軌道上サービスの市場規模を推計しておりますが、当該市場は草創期にあり、現時点では正確な市場規模の測定や予測は困難です。政府や民間企業から寄せられる軌道上サービスに対するニーズは近年著しく増加しているものの、軌道上サービス市場が、以下のような要因等により、当社グループの想定する規模に達しない可能性があり、その場合は当社グループが目指す収益性を達成することができず、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
① 民間事業者の需要の変化
当社グループのEOLサービスは、コンステレーション事業者を主な顧客として想定しています。2023年5月時点の軌道上の衛星の数は約7,560機(Union of Concerned Scientists (May 1st, 2023) "In-depth details on the 7,560 satellites currently orbiting Earth, including their country of origin, purpose, and other operational details")ですが、コンステレーション事業者による打ち上げを中心として、2030年までに新たに約20,000機が打ち上げられると推計(Space News(2023) "Industry report: Demand for satellites is rising but not skyrocketing")されています。しかしながら、景気減速その他様々な理由によるコンステレーション事業者の財政状態の悪化、技術的な障害、デブリ抑制に関する規制の動向、コンステレーション事業者のサービスへの需要の減退、事業者間での統合その他の組織再編等の原因により、現在予定されているコンステレーションの打ち上げが予定通りに実現しない可能性があります。また、当社グループでは、顧客衛星の寿命を概ね5~7年と想定し、かつ、ミッション期間中の故障率を7~8%と見込んでおりますが、当社グループが想定する技術レベルを上回る技術革新等により、想定以上に顧客衛星の寿命が延びた場合、故障率が低下した場合、軌道修正能力が向上した場合のほか、近年向上傾向にある顧客衛星のPMD率がさらに向上し、当社グループによるデブリ除去と遜色ないコストで実現可能となった場合等においては、軌道上サービスの市場が当社グループの想定通りに拡大しない可能性があります。
② 宇宙環境の悪化
近年では一部の国による衛星破壊実験が実施されており、一回の実験当たり数千個のデブリが発生しています(出所:https://www.nasa.gov/mission_pages/station/news/orbital_debris.html、NASA「Space Debris and Fuman Spacecraft, May 27, 2021」)。今後、衛星破壊実験が更に増加することや、宇宙空間における武力行為等やデブリ同士の衝突によって、デブリの急速な増加が起きる可能性があります。その場合、宇宙環境の悪化により、宇宙空間での活動自体が難しくなり、軌道上サービスの市場が当社グループの想定通りに拡大しない可能性があります。
③ 法規制改正、政府推進政策及び予算の変化
本書提出日現在、国際機関や業界団体、米国、EUや日本をはじめとする宇宙開発先進国等においては、宇宙開発やそれを取り巻く環境に係る各種の政策推進・取り組みが実施されております。その中でも、デブリ除去を促進し、若しくは義務付ける関連法規や業界内のベストプラクティス等が確立しない(若しくは、確立に時間を要する)、又は、違反時の罰金が低額であるなど確立した関連法規の実効性が低い等の理由により関係者がこれを遵守しようとしないことにより、軌道上サービス市場の需要が当社グループの想定ほど顕在化しない(又は、顕在化が遅れる)リスクが存在します。また、各国政府における政策上の優先度の変化や景気減速等を要因とした宇宙関連予算の削減等によっても、軌道上サービスの市場が想定通りに拡大しない可能性があります。
④ その他の要因
デブリ問題に対する社会全体の関心の低下、或いは軌道上サービスに対する社会的評価の低下が生じた場合、軌道上サービスの市場が想定通りに拡大しない可能性があります。
(5)当社グループが目指すビジネスモデルが実現できないリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループのサービスは、現在研究・開発段階にあります。政府機関からは、具体的な大型の実証ミッションの獲得に成功し始めている一方で、民間事業者との間では、複数のミッションに関する商談を継続しておりますが、現状、民間事業者からの実際の収益寄与は限定的であります。現時点では、各事業について以下のようなビジネスモデルを想定しているものの、想定通りのビジネスモデルが実現できない場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
① EOL
EOLサービスでは、当社グループは顧客となるコンステレーション事業者から、サービス提供の対価として、研究開発段階ではマイルストーン収入を受領することを想定しております。また、商業サービス段階では、衛星開発や打上げに関する費用の大部分に対応する打上げ前のマイルストーン収入とミッション成功時の支払いの組み合わせを標準的な支払モデルとして想定しておりますが、当社グループとしては、事業運営上確保されるべき資金回収のタイミング及びマージンを堅持しつつ、支払モデルの変更(定額払い等の採用)については顧客の要望に柔軟に対応する方針でおります。
しかしながら、実際に顧客との間で当社の想定通りの契約内容で合意できる保証はなく、また、サービサー衛星の製造費用、顧客衛星の寿命、故障率、運用高度及び重量等により、前述の収益体系、顧客衛星一基あたりの除去収益、一つのミッションで除去する顧客衛星の数などは、当社の想定通り実現できない可能性があり、その結果、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
② ADR
ADRサービスにおいては、主に各国政府や政府機関を顧客とし、マイルストーン収入を前提とした収入体系を想定しています。しかしながら、前述のEOLサービス同様、収益体系やミッション当たりの収入などが想定通りに実現できない場合、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
③ LEX
LEXサービスにおいては、政府及び民間双方を顧客として想定しており、顧客の属性に応じた収益体系を想定しています。
政府顧客に対しては、当社グループからサービサー衛星を提供し、静止衛星等へのドッキングによる引渡し以降は、当社はサービサー衛星の運用に関与しない形態を想定しており、収入体系としてはサービサー衛星の販売収入を見込んでいます。しかしながら、かかる収益体系、一基当たりの販売価格などが想定通りに実現できない場合、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
一方で、民間顧客に対しては、年間の手数料収入を前提とした収入体系を予定しています。しかしながら、かかる収益体系、ミッション当たりの年間手数料収入などが想定通りに実現できない場合、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
④ ISSA
ISSAサービスにおいては、主に各国政府や政府機関を顧客とし、マイルストーン収入を前提とした収入体系を想定しています。しかしながら、かかる収益体系、ミッション当たりのマイルストーン収入などが想定通りに実現できない場合、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
(6)収益認識方針に関するリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは、政府系の研究開発案件等、長期にわたるプロジェクトにおいて、財又はサービスを顧客に移転する履行義務の充足に対応する形で、一定の期間にわたり収益を認識しております。履行義務の完全な充足に向けた進捗度を合理的に測定できる場合には、プロジェクトの見積総原価に対する発生原価の割合で進捗度を測定し、当該進捗度に基づき収益を認識しております。また、進捗度を合理的に測定できない場合には、履行義務の結果を合理的に測定できるようになるまでに発生した原価のうち、回収可能性が高いと判断される部分と同額を収益として認識しております。
本書提出日現在における主要なプロジェクトについては、発生した原価のうち、回収可能性が高いと判断される部分と同額を収益として認識しておりますが、今後のプロジェクトの内容及び契約条件によって、現在とは異なる収益認識方針が適用された場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループのいずれの事業も、本書提出日現在において商業サービスを開始しておらず、将来において商業サービスが開始された際に採用される収益認識方針も、現時点で確定しておりません。実際に適用される会計処理及び採用される収益認識の方針が現時点での想定と異なる場合、収益認識額や収益認識のタイミングが想定と異なるものとなり、当社グループの期間損益に影響を与える可能性があります。
(7)収益の不確実性について
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
本書提出日現在、当社グループが締結済みの軌道上サービスの提供に関する法的拘束力のある契約は少数に限られており、本書に記載された当社グループが取り組むプロジェクト(上記「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.3 開発・運用状況」に記載されたものを含みます。)には、当社グループがその全部又は一部のフェーズにつき法的拘束力のある契約を締結していないものが含まれます。そして、当社グループがこれらのプロジェクトにつき法的拘束力のある契約を締結し、また、契約上定められたマイルストーンを達成するなどして想定される収益を確保できる保証はありません。また、法的拘束力のある契約は、一般に、当社グループによる契約違反、顧客側の都合、不可抗力等を理由として、顧客側より解除される可能性があります。そして、顧客が契約を解除した場合、当社グループは、当該契約から得られるはずであった潜在的な収益の全てを失う可能性があります。
また、当社グループは、本書提出日現在において、少数の見込み顧客との間で、将来のEOLやLEXサービスの提供に関する一定の覚書等を締結しています。しかしながら、これらの覚書等は、将来のサービス提供に関する拘束力のある契約ではなく、また、かかる契約を将来締結する義務を課すものでもありません。また、これらの覚書等には多くの場合、サービス提供価格やサービスの独占提供に関する具体的な合意が含まれておらず、また、見込み顧客による必要な許認可の取得が拘束力のある契約の締結の前提条件とされている場合もあります。そのため、覚書等の締結によって、当社グループが想定する条件での将来のサービス提供やそれに伴う収益が確保されたわけではなく、また、かかる契約が将来締結される保証もありません。加えて、当社グループが締結するこれらの覚書等は、何年も先のサービス提供開始を見据えたものであることも多いため、覚書等を締結した見込み顧客が覚書等の締結時に想定していた取引や条件を実行可能な経済的基盤を将来にわたり有している保証はなく、覚書等が締結されていても実際には当社グループが想定した収益にはつながらない可能性があります。また、覚書等において想定されているサービスは、当社グループにおいて研究開発途上の技術に依拠したものである場合があり、その場合、当社が実際にかかるサービスを想定する条件で提供できるか否かは、当該研究開発の成否に依存することになります。他方で、宇宙ミッションの計画及び開発には長期の準備期間を要するため、当社グループは、見込み顧客との法的拘束力のある契約の締結を待たずにミッションの開発に着手する場合があります。そのため、当社グループの想定するタイミングや条件でサービス提供に関する契約が締結されない場合や、最終的にかかる契約の締結に至らない場合には、当社グループが現時点で想定するタイミング及び金額での収益を実現することが難しくなるほか、当社グループが先行して支出したミッションの開発費用が回収不能となり、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(8)「収益機会」並びに「受注総額」、「受注残総額」及び「想定受注残総額」の数値について
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社は、「第1 企業の概況 3 事業の内容 2.3 4つの軌道上サービス」において、各軌道上サービスに係る「収益機会」を開示しております。かかる「収益機会」は、当社グループがその全部又は一部のフェーズにつき受注済みの実証ミッションに係る、一定の前提に基づき当社が試算した想定契約金額を示したものであり、今後の各ミッションにおける受注金額の総額や対価の支払形態は、各ミッションにおける調達費用、顧客との交渉その他の事情により今後決定されます(各軌道上サービスに係る「収益機会」の算定上の前提及び留意事項については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 2.3 4つの軌道上サービス」の記載及び注記を併せてご参照ください。)。そのため、当社グループが後続フェーズを受注できない、あるいは実際の契約金額は上記の金額と大きく異なる可能性があり、また、今後のミッションを「収益機会」の金額の範囲内で受注できる保証もありません。また、各プロジェクトにつき、当初の計画通りのタイミングで打上げ等を実施し、また、プロジェクトの内容を当初の計画通りに実現できる保証はありません。従って、各軌道上サービスに係る実際の収益は、「収益機会」として記載した金額と大きく異なる可能性があります。
また、当社は本書において、各軌道上サービスに係る「収益機会」のほか、当社の軌道上サービスミッションの受注状況を管理するための経営指標である「受注総額」及び「受注残総額」を開示しております。当社グループの技術開発の進捗その他当該契約において定められた条件が実現に至らない場合、サービス提供に応じて支払われるマイルストーン収入の一部が支払われない可能性があり、そのため、当社が開示した「受注残総額」の全てにつき、収益認識に至らない可能性があります。加えて、当社は本書において、特定の連結会計年度又は四半期連結累計期間の末日時点において、契約の締結には至っていないものの、当社が現時点で競合の存在を認識していないことから、当社グループによる受注が期待できると認識する既存ミッションの後続フェーズに係る「想定受注残総額」を開示しておりますが、かかる後続フェーズについては契約の締結に至っていないため、当社グループが後続フェーズを受注できず、又は、実際の受注金額が当社の想定と異なる可能性があります。
(9)特定の顧客への依存について
(顕在化可能性:中、発生時期:長期的に低下、影響度:大)
当社グループは各国政府及び政府機関と多数の契約を締結しており、これらの政府系顧客から獲得する収入は、2024年4月期のプロジェクト収益の94.8%を占めています。取引先別には、ESAからプロジェクトの資金提供を受けているNetwork Access Associates Limited (Eutelsat OneWeb社)が31.1%、米国宇宙軍30.4%、JAXAが15.3%となっております。
政府予算の縮小や事業環境の悪化、他の事業者との組織再編等といった主要顧客側での事情又は当社グループによるサービス提供の遅延等により、主要顧客との関係が悪化した等の事情により、当該主要顧客との取引が縮小、又は解除された場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
また、政府系顧客が実施するミッションでは、フェーズごとに入札手続が設けられていることがあります。当社グループが初期フェーズを受注しているミッションについても、特に競合入札事業者が存在する場合には、当社グループが当該ミッションの後続フェーズを受注できない可能性があります。
今後も、ADR、ISSA、LEXの各サービスについては、政府系顧客が需要の大部分を占めると考えられ、当社グループの収益の大部分を政府系顧客に依存する状況が継続する可能性があります。当社グループは、民間事業者からの新規契約の獲得を通じて収益の分散化を図っていきますが、今後何らかの事情により、収益分散が予定通り実現できない可能性も考えられます。なお、上記「(6)収益認識方針に関するリスク」のとおり、政府系顧客から当社グループに拠出される資金は、会計上、その他の収益のうち政府補助金収入として計上されることがあり、その場合、当該資金の受領は当社グループの売上収益として計上されず、売上収益の伸長に貢献しないことになります。また、当社グループは、将来実施するプロジェクトについても政府補助金の申請をすることがありえますが、申請した政府補助金を取得できない可能性があります。
政府系顧客との契約は、相手国の政策方針の変更その他当社グループのコントロールが及ばない要因によって終了となる可能性があります。また、一部の契約では、当社グループが追加の規制、監督、報告義務等の対象となる可能性があり、これに対応するために追加的費用が発生し、利益の減少、法令や契約上の義務違反時の課徴金及び他のミッションへの入札禁止等につながる可能性があります。加えて、特に機密性の高い案件に関与した場合、機密保持の観点で案件情報の開示が制約される可能性もあり、その場合は投資家への情報提供が十分に行えない可能性があります。また、当社米国子会社のAstroscale U.S. Inc.が、米国における国防に関する一定の事業(Classified Business)に関与する場合等においては、米国のFOCI(Foreign Ownership, Control, or Influence)規制等に基づき、非米国企業である当社による米国子会社等の管理について、一定の制約が生じる可能性があります。さらに、政府系顧客との契約においては、当社グループに支払われる対価の額が契約時点で確定額として設定されることが一般的であるため、契約締結後に当社グループにおいて予期せぬサービス提供費用の増加等が生じた場合、これを顧客に転嫁することができず、当初想定していた利益を得られなくなる可能性があります。
また、ADR、LEX及びISSAのサービス収益は、プロジェクトの進捗度に応じて測定され、その収入は所定の成果達成に基づくマイルストーン収入となることを見込んでいます。しかし、この収益及び収入の発生時期は、開発・実証の進捗に依存する不確実なものです。したがって、開発・実証の遅延や未達が生じた場合、当社グループの業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
現在、EOLサービスの収益の大部分はEutelsat OneWeb社との契約に依存しています。今後、他の衛星通信コンステレーション事業者との契約締結により、収益の分散化を進める計画ですが、Eutelsat OneWeb社との協業が拡大すると、当面は当社グループのEOLサービスの収益の大部分をEutelsat OneWeb社に依存する状況が続く可能性があります。なお、Eutelsat OneWeb社がこれまでに打ち上げたコンステレーション衛星の大部分には、当社グループが設計に協力したAltius社製のドッキングプレートが搭載されており、当社グループのサービサー衛星による捕獲が可能となるよう設計されておりますが、他社がそれらの衛星を捕獲する技術を開発した場合には、当社グループが実際の除去を担う事業者として選定されず、また、将来的に、当社グループの捕獲技術に対応したドッキングプレートが同社の衛星に搭載されなくなる可能性があります。
ISSAサービスの収益は、現在、主にJAXAとの契約から得ていますが、今後、複数の顧客から契約を受注することを見込んでおり、一定程度の分散が期待されます。
ADRサービスでは、今後、JAXA及びUKSAとの契約から獲得される収入が見込まれるため、一定程度の分散が期待されますが、ISSAと同様に、今後も一部の契約に収益の大部分を依存する状況が続く可能性があります。
LEXサービスについては、2023年12月に特定顧客との間で、取引条件等に関する法的拘束力のない一定の合意を締結した上で、ミッションの実施に係る最終契約の締結に向けた交渉を行っておりますが、一定数の契約が積み上がるまでは、他の事業同様に、少数の契約に収益の大部分を依存する状況となる可能性があります。
(10)地政学及び海外展開に関する事業リスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、事業戦略の一環として、海外に拠点を構え、海外市場における事業の拡大を図っております。また、各国政府及び政府機関との複数の契約を締結しており、その事業は契約相手である政府の施策やその優先順位、政策決定及び国際的な地政学的状況の影響を受ける可能性があります。これらの地政学的事象は、当社グループの事業や輸出権限に影響を与えるだけでなく、必要なライセンスの取得を困難にし、国家側での意思決定や商品・サービスの提供・支払いに遅延をもたらす可能性があります。
例えば、米国の政府機関や企業との関係性を考慮し、当社グループは、本書提出日現在において、ロシア又は中国に所在する政府機関や企業を顧客とする契約を締結しない方針を採用しています。
また、2023年10月に開始したイスラエルとイスラム組織ハマスの紛争は、イスラエルに製造拠点を有する当社グループのLEXサービスに影響を及ぼす可能性があります。本書提出日現在において、事業面への影響は認識しておりませんが、今後情勢が悪化した場合には、予備兵招集による人的リソースへの影響、サプライチェーンやロジスティクス面での影響、製造拠点への物理的損害などの影響も想定されます。
本書提出日現在において、当社グループは不安定で流動的な国際政治情勢の影響を大きく受けておりませんが、将来的には当社グループの調達、事業提携の機会、顧客基盤などが制約を受け、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループの海外事業は、事業を行う海外の各国において、以下を含む様々な要因による悪影響を受ける可能性があります。
・投資及び輸出入に関する規制、関税、公正な競争に関する規制、贈賄禁止、消費者及び企業に関する税制(国際課税を含む。)、知的財産に関する規制、外国貿易及び外国為替に関する規制、人権や雇用・労働に関する規制、宇宙関連の事業に関する規制
・契約条項等に関する商慣習の相違、不公正な取引慣行
・各国の言語や文化の違い
・人事採用、従業員研修、労使関係その他労働慣行における相違
・その他の政治的及び社会的要因、経済の動向
当社グループは、各国の制度改定や社会・経済情勢の変化の把握に努めております。本書提出日時点において、当社グループの事業等に重大な影響を与えるこれらの事象等を認識してはおりませんが、今後、想定を超える制度改定や情勢の変化等が生じた場合には、これらの要因により、当社グループが、海外における成長戦略の目的を達成できる保証はなく、当社グループの事業の成長見通し及び経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(11)軌道上サービス市場における競合に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:小)
軌道上サービス市場はまだ草創期にあり、国内外を問わず、国際的な巨大企業を含む数多くの企業や研究機関等との激しい競争状況が存在しています。当社グループは、本書提出日現在において、軌道上サービスの技術に関する先導的な立場に位置していると認識していますが、新たな企業の参入が始まっており、当社グループが今後常に優位性を維持できる保証はありません。また、競合他社が、提携や統合、政府からの支援等を背景に多くの経営資源を投入し、技術開発を急速に進展させ、当社グループを超える技術水準を達成する可能性や、当社グループが研究開発中の磁力捕獲等の技術よりも低コスト又は効果的な技術を新たに開発する可能性も考えられます。競合他社との競争が、研究、開発、製造及び販売のそれぞれの事業活動に影響を与え、当社グループの競争優位性が低下し、事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
同時に、デブリ除去サービスに関する法規制の整備は、当社グループにとって重要ですが、その進捗や内容によっては、新規事業者の参入が容易になる可能性があります。
(12)収益化サイクルの長期化と収益未確保の営業活動のリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは、当社グループのサービスの価値を伝えるために、営業活動に多くの時間と労力を投下しています。また、顧客との契約締結にあたっては、初期の研究開発段階において、見込み顧客との間で法的拘束力のない覚書を締結し、その後時間をかけて実際のミッションに係る契約に移行するケースが一般的となっています。当社グループは、経営陣や技術者の深い関与の下、顧客ニーズを正確に理解するように努めておりますが、上記の要因により、収益化までのサイクルが長く、長期間にわたって収益が得られない営業活動が継続する可能性があります。さらに、見込み顧客との間で最終的にミッションの受注に至らず、これまでの営業活動が収益に繋がらない可能性もあります。当社グループは、営業活動を通じて、経費を賄える十分な水準の収益を確保することを目指しておりますが、収益化が遅れる場合や見込み収益が実現しない場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(13)黒字化を達成及び維持できないリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、軌道上サービスに関する宇宙技術開発を主軸とするベンチャー企業であります。このような宇宙技術の研究開発には多額の初期投資が必要であり、その回収も他産業と比べて長期に及ぶ特徴があります。そのため、ベンチャー企業が宇宙技術開発分野に取り組む場合は、一般的に期間損益において損失が先行する傾向にあります。当社グループも、第2期以降継続的に営業損失及び当期純損失を計上しています。
当社グループは、軌道上サービスに関する宇宙技術開発を通じて、将来の利益拡大を目指していますが、現在まで当期純損失を計上しており、今後も研究開発や人員増加に伴う経費が増加することにより、一定期間は損失が続く可能性があります。
また、既存の顧客契約の途中解約や顧客の倒産による収益源の喪失が生じた場合、想定顧客の獲得に失敗した場合、技術開発や衛星製造における遅延、打上げの遅延や失敗が発生した場合等には、想定した収益の達成やコスト管理が困難となり、黒字化達成が遅延し若しくは困難となり、又は黒字化達成後にそれを維持できなくなる可能性も考えられます。これらの要因により、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響が及ぶ可能性があります。
(14)社歴・業歴が浅いことに係るリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:小)
当社は、2013年5月にASTROSCALE PTE. LTD.として設立された、設立後の経過期間が11年程度と社歴の浅い会社です。宇宙開発業界は発展途上であり、軌道上サービス事業はその業態としての歴史も浅く、また、期間業績比較を行うために十分な期間の財務情報がないため、当社グループの過年度の業績のみでは、今後の当社グループの業績を判断する情報として不十分な可能性があります。
当社グループの経営計画の策定は当社グループが合理的と考える計画値に基づいておりますが、上記のような事情から、経営計画に沿った事業運営を行えるかについてはマクロ経済環境を含む不確定事象が大きく影響する可能性があり、実際に当社グループが想定するサービスの全部又は一部につき、当社グループが想定する時間軸で提供を開始できる保証はなく、また、将来的に当社グループに予期せぬ費用や損失が生じる可能性があります。当社グループが想定する顧客獲得、競争力維持、価格設定、収益化、経費管理、規制対応、技術や知的財産の開発・管理、人材獲得、社会的評価維持等が実現できない場合のほか、宇宙開発業界や軌道上サービス事業が開発途上にあることに伴うリスクや不確実性に当社グループが適切に対処できない場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(15)事業の急成長に伴うリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは、2013年にシンガポールで設立され、その後、日本、英国、米国、イスラエル、フランスに拠点を広げ、企業として成長してきました。今後も高い成長性を維持するためには、技術開発の進展、製造設備の充実、事業運営体制の強化、人材等の拡充などが必要となります。
しかしながら、これらの課題に対する対策が適時かつ適切に実行されない場合、失注による成長の鈍化、市場シェアの低下、事業の効率性低下などにつながり、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、成長に応じた管理体制の整備が追いつかない場合、事業運営の失敗やサービス品質の低下を招く可能性があり、当社グループに対する評価の低下につながる可能性があります。このような事態が生じた場合、その対応に経営陣や主要な従業員のリソースが割かれ、他の経営課題への対応が遅れることで、当社グループの成長や業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
更に、製造設備への投資や人材採用等において、想定を上回る費用が必要となる場合にも、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響が及ぶ可能性があります。
(16)人材の獲得・維持ができないリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループ事業の成功には優秀な人材の獲得と維持が不可欠です。特に、当社グループの技術開発やミッションを推進する上で、高度な技術者の存在が極めて重要です。
当社グループはグローバル企業であり、世界中の人材を採用対象としておりますが、宇宙業界全般において人材不足が常態化しており、人材獲得競争も激しくなっております。政府機関や大手企業との競合もあり、優秀な人材を獲得及び維持するためには高額の報酬や働きやすい環境を提供する必要があります。現在の当社グループの人材採用における優位性については、当社グループが軌道上サービス業界のリーディングカンパニーであるとの市場からの評価が大きく寄与していると認識しており、今後の採用活動においても、かかる評価を維持・向上させることが不可欠となります。
しかし、当社グループが想定通りに適切な人材を確保できない場合や、既存の人材が他社へ流出する場合には、新規案件への取り組みや新技術の開発を断念する場合や、顧客満足度の低下による顧客流出により、予定していた成長を実現することができず、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(17)衛星関連部品等に関するサプライチェーンに関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループが人工衛星の研究開発及び製造を行うにあたり、原材料の高騰や重要部品の供給不足が生じた場合、開発及び製造のスケジュールに遅延が生じる可能性があります。
また、当社グループは、人工衛星の研究開発・製造にかかる部品の製造、外注加工及びそれらに付随する業務の一部について、他社に委託しています。調達先が輸出規制その他の事由により部品の品質や供給を確保できない場合や、新規委託先における供給体制の整備が当社グループの想定どおりに行われない場合には、当社グループによる開発・製造に遅延が生じる可能性があります。かかる部品の品質や供給を当社グループが完全にコントロールできる保証はなく、また、調達先の業務に影響を及ぼす部品の不足や価格上昇等を、事前に予想することも容易ではありません。特に、長納期部品の需要が急増した場合、部品不足が起きる可能性が高まります。さらに、原材料や燃料価格の高騰、災害や感染症の発生・拡大等により、調達先の製造能力や財政状態に悪影響が生じる可能性もあります。また、調達先との間で既に締結されている契約を、当社グループが想定する条件で更新することができない可能性もあります。
当社グループでは、部品単位で、製造拠点・調達先における対策状況などを定期的に確認し、サプライチェーンに関するリスクの低減に努めておりますが、サプライチェーンに関するこれらの問題が発生した場合、期待したとおりの外注サービスの提供を受けることができない、又は必要な部品の確保ができない状況が生じ、また、代替となる調達先や部品の選定等にも困難をきたす可能性があります。その結果、当社グループの衛星開発・製造に遅延が生じ、計画を断念せざるを得ない可能性があります。その際には、当社グループの評判、事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(18)衛星の稼働と寿命に関するリスク
(顕在化可能性:大、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループの衛星運用において、いくつかの重要なリスクが考えられます。まず、研究開発における不確実性が挙げられます。複雑な宇宙技術の開発には多額の資金と時間を要しますが、地上試験で問題が発生し、開発が遅延、若しくは中止される可能性があります。
また、宇宙空間は極めて厳しい環境であり、真空状態、温度変化、放射線などが衛星に影響を及ぼす可能性があります。これにより、地上試験で問題なく作動した機器や部品及びシステムが宇宙環境下で予期せぬ誤作動や故障を引き起こす可能性が考えられます。加えて、宇宙空間での実証実験で問題なく作動した衛星についても、商業サービス時に同様の性能を発揮できない可能性もあります。
更に衛星の運用中に不適正な指示などの人為的なミスが生じ、サービサー衛星又はクライアント衛星の機能に重大な影響を及ぼす可能性も考えられます。
加えて、衛星の寿命設計も重要なポイントであり、設計段階で設定された寿命が、宇宙環境の影響などにより達成できない可能性があります。このため、予定よりも早い段階で衛星の機能が低下することとなります。設計寿命前に衛星が機能停止した場合、顧客へのサービス提供に重要な影響が生じる恐れがあります。
加えて、クライアントとなる衛星のPMD率の向上等の技術の進歩により、既存のサービサー衛星がその設計寿命を迎える前に、当該既存サービサー衛星又はその部品が陳腐化し、有用性が失われる可能性もあります。
当社グループでは、これらの不測の事態に対する事前に取り得る限りの対策に努めておりますが、かかる対策にもかかわらず上記のリスクが現実化した場合、顧客へのサービス提供に影響を及ぼす可能性があります。特に、商業サービスの提供が想定通りに進まない場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(19)為替変動に関するリスク
(顕在化可能性:高、発生時期:1年以内、影響度:中)
当社グループは、事業が複数の国にまたがっていることから、為替変動リスクにさらされております。
当社グループにおいては、今後、日本円、米ドル、英ポンド、ユーロが主な機能通貨になると想定されますが、連結財務諸表を作成する過程において、各子会社の財務諸表は、IFRSに沿って日本円に換算されるため、大幅な為替相場の変動があった場合には、当社グループの業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
また、人工衛星に必要な部品等の購買については、海外との取引が重要な部分を占めるため、日本円以外の通貨が取引通貨として使用されます。一方、当社グループの資金調達は日本円が重要な部分を占めると想定されるため、円安が進んだ場合、かかる為替変動の影響により、それらの国際的な取引で使用可能な金銭の額が実質的に目減りすることとなり、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
現在、当社グループは為替変動リスクをヘッジするための取引を検討していますが、実行には至っておらず、また、仮に将来かかるヘッジ取引を行う場合でも、必ずしも為替変動リスクを全てヘッジできるとは限りません。
(20)打ち上げ時や運用中の事故により衛星が損傷若しくは喪失し、保険でも損失を回収できないリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループが宇宙事業を行う際には、故障、爆発、デブリとの衝突などの事故によって、衛星が損傷又は喪失するリスクがあります。加えて、LEXサービスにおいて、クライアントの衛星との衝突によりクライアントの衛星に損傷等が生じた場合に、クライアントから損害賠償請求を受けるリスクもあります。また、宇宙業界の慣行として、打上げ時に発生した事故による損失に対する求償権は、打上げを実施する政府機関・事業者と顧客が相互に放棄することが一般的であるため、当社グループに原因がない打上げ時の事故によって、当社グループの衛星に損傷や喪失が発生した場合でも、補償を受けることができない可能性があります。
当社グループは、実施するミッションの契約内容と費用対効果を考慮し、打上げ危険担保保険や第三者賠償責任保険などに必要に応じて加入することで、事故に伴うリスクを一部カバーすることを基本方針としております。しかし、ミッションの途中に既存の保険が解約される可能性があることに加え、保険の適用期間や補償金額には限界があり、例えば、打上げ危険担保保険については、人工衛星の損傷の度合いや原因によっては十分な補償を得られない可能性があります。
また、当社グループの保険調達先である宇宙保険市場環境の変動性が大きいことから、当社グループの今後のミッションの成否等の実績によっては、将来打ち上げられる人工衛星について、当社グループの希望どおりの条件で保険を付保できず、又は保険を一切付保できない可能性があります。
これらの結果、事故により当社グループの衛星の損傷又は喪失が発生した場合、保険でも損失を回収できないリスクがあり、その場合には当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
加えて、宇宙活動において第三者に損害を生じさせた場合の責任について、宇宙条約等の国際的な取り決めは存在するものの、国家間の具体的な責任分担のあり方や、民間事業主体の責任のあり方については、不明確な点が多いのが現状です。従って、保険の組成にもかかわらず、当社グループが第三者に対して、現時点で予期し得ない損害賠償責任を負う可能性もあります。
(21)資金調達リスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、研究開発型企業として多額の研究開発資金を必要とし、長期にわたって先行投資の期間が続きます。研究開発型企業は一般に、この先行投資期間において、継続的に営業損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなる傾向にあり、当社グループも、創業以降営業キャッシュ・フローのマイナスが続いており、かつ現状では安定的な収益源を十分に有しておりません。
このため、安定的な収益源を確保するまでの期間においては、必要に応じて適切な時期に資金調達等を実施し、財務基盤の強化を図る方針ですが、必要なタイミングで資金を確保できなかった場合、或いは適切な条件で資金調達ができなかった場合は、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。そのため、当社グループでは、長期的視点での資金調達戦略の検討や適切なリスク管理対策の実施を進めております。
なお、当社グループは複数の金融機関からコベナンツ条項が付された借り入れを行っております。当社グループは、本書提出日現在において財務制限条項には抵触しておりませんが、今後、当該コベナンツ条項を遵守できなかった場合には、期限の利益を喪失し、返済を余儀なくされる可能性があります。また、今後、当社グループが負債性の資金調達を行う場合には、当社グループの事業活動を制約する契約条件が付される可能性があります。
(22)サイバーセキュリティに関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループが日常業務で使用するデータ・ネットワーク基盤の防御が十分でない場合、外部攻撃やハッキングなどのサイバー攻撃により、個人情報や技術情報の喪失や流出が発生するリスクがあります。また、当社グループは、事業を展開する上で、政府機関や民間事業者の宇宙開発技術に関する情報や機密情報等、守秘性の高い情報・技術を取り扱っていることに加え、当社グループの事業は民間需要向け及び軍事用途というデュアルユースの可能性を有するため、他の業界と比べてサイバー攻撃の対象となる可能性が相対的に高いと認識しております。したがって、当社グループ(役職員や委託先の関係者を含む。)の故意・過失、又は悪意を持った第三者によるサイバー攻撃、ハッキング、その他不正アクセス等により、これらの情報の流出や消失等が発生する可能性があり、それにより当社グループの競争力の著しい低下や適用法令への抵触が生じた場合には、当社グループの損害その他の影響は甚大なものとなる可能性があります。特に、当社グループは現時点で政府系案件の比重が高いため、新規商談案件への入札の停止や対策完了までの取引停止などが生じた場合には、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの提供する軌道上サービスにおいて、ハッキングや通信妨害等により不適切な干渉が行われた場合には、当社グループが提供すべきサービスを適切に遂行できなくなる可能性があります。こうした事態が生じた場合、当社グループの信頼性や企業イメージが低下し、顧客の維持・獲得が困難になるほか、競争力が低下したり、損害賠償やセキュリティシステム改修のために多額の費用負担が発生したりする可能性があります。その結果、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
そのため、当社グループは、災害復旧計画の策定や事業保険への加入等、サイバーセキュリティに対する適切な対策を講じることが事業継続と競争力の維持に不可欠であると認識し、これらの対策を実行しております。しかしながら、これらの対策を講じていても、実際に当社グループに生じる悪影響や損害に対して不十分である可能性があります。
(23)四半期或いは事業年度の収益変動による株価の変動リスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループの四半期或いは事業年度ごとの収益は、様々な要因により大きく変動する可能性があります。例えば、ミッションの進捗、売上や費用の増大、新サービスの導入や拡大、競争環境の変化、政府案件の入札・受注状況、予期せぬ問題の発生、訴訟の発生、経済や市場環境の悪化など、当社グループの管理が及ばない要因によって、当該期間に計上される当社グループの収益は影響を受ける可能性があります。
また、研究開発段階では、プロジェクトの計画の遅延、プロジェクトに関連する収益の減少が生じた場合、当社グループの収益に大きな影響を及ぼす可能性があります。
こうした収益の変動が市場の期待を下回る水準となった場合、当社の株価は大きく下落する可能性があります。
(24)新型ウイルスや未知のウイルスによる感染症の事業への影響に係るリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大は、当社グループの事業に様々な影響を及ぼしたと認識しています。特に、国際的な事業展開を行っている当社グループでは、国境を超える拠点間の移動制限により、研究開発や事業活動等に一定の影響が生じました。過去には、感染拡大防止のための渡航制限がELSA-dの打上げ延期につながるなど、ミッションの実施に直接的な影響が及んだこともあります。
今後も新型コロナウイルスの感染拡大が継続した場合や、未知のウイルスの感染拡大が生じた場合、サプライヤーからの調達に影響が生じる可能性や、経済環境の悪化による宇宙関連事業に係る政府予算の縮小や顧客企業の財務体質悪化などが生じ、顧客需要に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループでは従業員の安全への配慮にも努めていますが、当社グループ内で感染が拡大した場合には、当社グループの事業活動に悪影響が発生する可能性があります。
上記のような影響が発生した場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(25)主要経営陣への依存リスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループの運営において、経営陣や特に重要な従業員が果たす役割は極めて大きなものです。特に、当社の創業者兼代表取締役社長である岡田光信は、ミッションの策定や実行、企業理念、文化、戦略的方向性、サービス戦略、ブランドの確立等に大きな役割を負っているとともに、2023年9月まで国際宇宙航行連盟(IAF)の副会長として、また、現在は、IAF名誉アンバサダーとして、引き続き業界の規制の発展にも深く関与しています。重要な経営陣及び従業員につき、不測の事態や辞任が発生した場合、また、準備された代行体制が十分に機能しない場合、当社グループの事業に支障が生じる可能性があることを認識しております。
なお、当社が株式会社三菱UFJ銀行との間で2022年9月30日付で締結した実行可能期間付タームローン契約(借入実行可能額5,000,000千円)、2024年3月15日付で締結したリボルビング・クレジット・ファシリティ契約(借入実行可能額5,000,000千円)及び2024年3月15日付で締結した劣後特約付金銭消費貸借契約(借入実行金額2,000,000千円)においては、代表取締役社長である岡田光信が当社の代表取締役社長でなくなった場合には、一定の例外を除き、同契約に基づき当社が負う一切の債務(借入金返還債務を含む。)につき、期限の利益を喪失し、直ちに支払い義務が生じることが規定されており、かかる事態が顕在化した場合には、当社グループの事業や業績及び財務状態に影響を及ぼす可能性があります。
(26)法的規制に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループの事業は、人事労務、労働安全衛生、税務、輸出入管理、個人情報及びデータの保護、人の身体の健康・安全、環境保護、危険物取扱いなど、様々な関連法令による規制を受けております。
また、当社グループは、宇宙に関連する事業を行う上での様々な規制も受けます。当社グループでは、既に打上げが完了したミッション(ELSA-d、ADRAS-J)に関して、適用法令上必要となる許認可を取得しております。主な取得済の許認可として、人工衛星の運用に関わる許可(ELSA-d運用)、無線免許に関わる許可(人工衛星及び地上局の無線局免許)、人工衛星に関わる許可(人工衛星の管理に係る許可、軌道上サービスを実施する人工衛星の管理許可、衛星リモートセンシング装置使用許可、宇宙物体登録)、輸出入管理に関わる許可(人工衛星及び測定機器類)の個別輸出許可、一般包括許可(輸出及び役務取引)、推進剤のニュージーランドへの輸入許可)、運用に関わる対応(監視システムSWライセンス、打上げ許可、ペイロードライセンス、米国FCCの許認可など)、などがあります。上記以外にも、プロジェクト遂行に必要な許認可を事前に取得しております。当社グループでは法令遵守を徹底し、免許等の取消事由や更新欠格事由が発生しないように努めておりますが、将来、当社グループの免許等が何らかの理由により取消し等になった場合には、当社グループの事業や業績及び財務状態に影響を及ぼす可能性があります。本書提出日現在における、当社グループの事業活動に係る主な許認可等は以下の通りであります。
なお、現在取得している許認可はELSA-d、ADRAS-Jに対応するもののみですが、今後のミッションの進捗に応じて、適切な許認可を都度取得する必要があると当社グループは認識しております。
宇宙開発に関連する法規制は、国際法及び各国の国内法の両方で整備途上にあり、最新の技術革新に適応するために常に変更や見直しがなされる可能性があります。当社グループは、現時点では、当社グループの事業活動に直接的な制約を与える宇宙法や規制等の基本的枠組みは存在しないと認識しておりますが、今後、法律やガイドラインの追加・改正により、これまで使用が認められてきた部品等が突然全く使用できなくなるリスクや、当社グループの想定通りの内容で打上げ許可が下りないリスク、又は打上げ許可の取得に予想以上の時間や費用がかかるリスクが生じる可能性も排除できません。このような場合には、当社グループの事業戦略、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、事業の継続性を保つためにコンプライアンスを徹底し、法令遵守のための体制を整備しております。現時点では、事業の継続に支障をきたす事項は認識しておりませんが、将来において適用法令への違反が発生する可能性も排除できません。かかる違反が発生した場合、刑罰、業務停止を含む行政処分その他の制裁が課される可能性があり、社会的信用やイメージが毀損されることによって、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
また、法令の改廃や新たな法令規制が設けられた場合、かかる改廃等が当社グループの研究開発及びサービスの提供にとって不利に働いたり、当社グループのさらなる体制の整備・変更等が必要になる可能性があります。こうした規制への対応は、当社グループの事業戦略に悪影響を与え、また、これに対応するために多額の費用を要するなど、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(27)重要な訴訟等に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:小)
当社グループは、顧客、取引先、従業員、株主等を含む第三者の権利・利益を侵害したとして、損害賠償請求などの訴訟を提起される可能性や、行政機関による調査等の対象となる可能性があります。当社グループでは、法令や契約の遵守に関する従業員への教育などの対策を積極的に講じるなど、法的問題の発生を最小限に抑えるために、リスクマネジメントに注力しておりますが、将来において法的紛争が発生し、又は行政機関による調査の対象となる可能性は排除できません。仮に法令違反等が発生した場合は、当社グループの企業イメージが低下する可能性が考えられます。さらに、損害賠償責任や課徴金等の金銭負担の発生等により、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。なお、本書提出日現在において、重要な訴訟等の事象は発生しておりません。
(28)自然災害など予測困難な事情に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、宇宙技術の開発や軌道上の人工衛星との通信など、軌道上サービスの提供のため、通信ネットワークや情報システムの整備と構築を行っております。しかしながら、地震・台風・洪水・津波・竜巻・豪雨・大雪・火山活動などの自然災害、太陽フレアや微小隕石の衝突など、宇宙空間における災害、火災や停電・電力不足、テロ行為などの要因により、製造施設、通信ネットワーク、情報システムが正常に稼働せず、当社グループの軌道上サービスの提供に支障を来す可能性や、ミッションのスケジュールの遅延を生じさせる可能性が考えられます。
これらの影響が広範囲にわたり、復旧に相当時間を要する場合、当社グループの信頼性や企業イメージが低下し、顧客の維持・獲得が困難になる可能性があります。また、通信ネットワークや情報システムの復旧や改修にあたり、多額の費用負担が発生する可能性があります。
更に、大規模な自然災害は、当社グループが事業を行う国の経済に減速をもたらし、人工衛星の部品や原材料の調達先における工場の閉鎖など、当社グループのサプライチェーンを停滞させる可能性があります。当社グループでは、これらの自然災害等による損害に対処するため保険に加入しておりますが、全ての潜在的損失に対して保険が付保されているわけではなく、保険の対象となる損失であっても、その全額が補償されない可能性があります。また、保険金の支払いについて保険会社から異議が申し立てられること等により、損害の補填に遅延が生じる可能性も考えられます。
以上の要因により、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(29)知的財産権の保護及び侵害防止に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループの事業において、研究開発活動に関わる成果を、特許やその他知的財産権として確保することは、事業推進上の技術開発戦略及び知的財産権戦略として極めて重要であると認識しております。しかしながら、全ての研究成果を適切に権利化できる保証はなく、既に保有している特許や将来取得する特許によって、当社グループの権利を確実に保全できるという保証もありません。また、研究成果を機密情報として公開しないことを企図し、敢えて特許を取得しない場合もあります。
現時点では、当社グループの研究開発に関連した特許権等の知的財産権について、第三者との間で訴訟やクレームが発生している事実はありません。当社グループでは、このような問題を未然に防止するため、弁護士/弁理士の協力を得て知的財産権の侵害等に関する事前調査を実施しておりますが、知的財産権の侵害に関する問題を完全に回避することは困難であると認識しております。また、仮に当社グループが第三者との法的紛争に巻き込まれた場合、その第三者の主張の正当性の有無にかかわらず、解決に多大な時間と費用を要する可能性や、当社グループの信頼性や企業イメージが低下する可能性が考えられるため、当社グループの事業戦略、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループは、前述の通り、営業秘密や独自のノウハウを特許化せずに機密情報として管理する場合もあります。これらの情報に関しては、従業員や取引先との間で機密情報に関する譲渡契約や秘密保持契約を締結しております。ただし、これらの契約により機密情報の管理が確実となる保証はありません。これらの機密情報は当社グループの競争力の源泉であり、その管理に失敗した場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(30)当社グループのブランド・評判に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、既存顧客の維持と新規顧客の獲得、さらには新規採用等の観点で、宇宙空間の持続利用に資する軌道上サービス業界のリーディングカンパニーとしての評判を保持し、向上させることが不可欠です。そのためには、ミッションの成功を重ねること、革新的な技術開発の継続、営業活動、広報活動等、多岐にわたる取組みが求められます。
しかしながら、実証実験やミッションの失敗、サービス上の瑕疵、サイバー攻撃による技術や顧客情報の漏洩、メディアによる不利な報道や風評、労務管理その他の事象に関する従業員による告発、不法行為等によって当社の評判に悪影響が及ぶ可能性があります。また、競合他社が市場での認知度を高めることで、当社グループのブランド価値が相対的に低下する可能性も考えられます。こうした状況が発生した場合、当社グループの事業の成長が阻害され、競合対比での競争優位性が低下し、顧客獲得や維持に課題が生じる可能性があります。それに伴い、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性もあります。
(31)減損損失に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは、事業を遂行する過程で、資金をさまざまな資産に投資します。その結果、例えば、軌道上サービス事業に関する人工衛星の製造工場、人工衛星のために必要な管制局、地上局等の有形固定資産や、ソフトウエアなどの無形資産、他社との業務提携にあたり出資した株式等の金融資産を含む資産を保有しています。
これらの固定資産の連結貸借対照表計上額につきましては、IFRSに準拠しており、当該資産から得られる将来のキャッシュ・フローの見積りに基づく残存価額の回収可能性を定期的に評価しています。そのため、資産の陳腐化やその他の理由によって事業収益性が低下し、当該資産が十分なキャッシュ・フローを創出できないと判断される場合は、減損損失が発生し、当社グループの事業、財政状態及び業績に影響を与える可能性があります。
(32)買収、ジョイント・ベンチャー、戦略的提携に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:小)
当社グループは、成長戦略の一環として、他社の事業や技術に対する投資や買収、ジョイント・ベンチャー及び戦略的提携を含む機会を探求し、実行する可能性があります。しかしながら、これらの取引には、適切な投資や提携の機会を見いだせない機会探求リスク、適切な資金調達を行えず、計画した取引を実行することが難しくなる資金調達リスク、買収や提携に必要な規制当局の承認が得られない規制リスク、買収や提携後、組織の統合が円滑に進まない統合リスク、買収によって取得したのれんが期待通りの価値を生み出せず、また、これによりのれんの減損が生じるリスク、合弁事業や提携により、既存の取引先や第三者との関係が悪化するリスクなど、多岐にわたるリスクが想定されます。
なお、当社は、米国法人を通じて、2020年にLEXサービスに関連してイスラエルのEffective Space Solutions R&D Ltd.の寿命延長サービス事業を買収しています。当該買収はLEXサービスの推進に大きく貢献しておりますが、将来の買収でも同様に期待通りの成果が達成できるとは限らず、事業環境の変化や様々なリスクに対処する体制を整えることが重要と考えております。
(33)内部統制に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループでは、財務報告に係る内部統制を構築しております。当社グループでは、内部統制は、その基本的要素が組み合わさり一体となって機能することで、その目的を合理的な範囲で達成しようとするものと捉えており、このような内部統制が十分に機能しない場合、財務報告の虚偽記載を完全には防止又は発見することができないリスクが存在します。当社グループが適正な財務報告に係る内部統制を維持できなかった場合、適切なタイミングで正確な財務報告を提供できず、投資家の信頼が低下し、当社の株式価値に影響を及ぼす可能性があります。
(34)国際課税に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:小)
当社グループは、2019年1月の組織再編により、日本法人である当社と、シンガポール法人であるAstroscale Singapore Pte. Ltd.を含む当社の子会社より構成される資本関係を有しております。このため、親子間の資本関係や取引関係に起因する課税上の取扱いは、国際税務に関わる問題となります。
当社グループは、国際税務に関する課題に対処するため、専門家である税理士と業務委託契約を締結し、税務情報の収集や税務リスクの排除に努めております。しかしながら、現在想定していない国際税務リスクが潜在的に存在している可能性や、将来的に当社グループに不利な国際税務関連の税制改正が行われる可能性を否定できません。
仮にこれらのリスクが顕在化した場合、追徴税額を含む将来の税負担額が増加し、当社グループの業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは海外法人間の取引も行っており、移転価格税制等の国際税務リスクの低減に、大手税理士法人から助言を受けて取り組んでおります。ただし、国家間の法解釈の相違による紛争が発生する可能性があり、その結果として将来の税負担が増加し、当社グループの業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(35)既存株主による売出しや新株発行、新株予約権の行使に伴うリスク
(顕在化可能性:大、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
本書提出日現在における当社の発行済株式総数は116,439,800株(注1)(潜在株式を含めると総数128,346,100株(注1))であり、このうち40,495,700株(発行済株式の34.78%、潜在株式を含めた場合にはその31.55%)をベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合(以下、「ベンチャーキャピタル等」)が保有しております。
一般的に、ベンチャーキャピタル等が未上場会社の株式を取得する場合、上場時又は上場後に保有する株式を売却しキャピタルゲインを得ることがその目的のひとつであり、当社株式についても、上場後にベンチャーキャピタル等により売却される可能性があります。そのような場合には、短期的に需給が悪化し当社の株価が低下する可能性があります。
また、当社グループは宇宙開発の研究開発型企業であり、将来の研究開発活動の拡大に伴い、増資も含めた資金調達を機動的に実施していく可能性があります。その場合には、当社の発行済株式数が増加することにより、1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。
加えて、当社は、当社及び子会社の取締役、当社及び子会社の従業員、並びに外部協力者の業績向上に対する意欲や士気を高め、また、優秀な人材を確保する観点から、ストック・オプション制度を採用しており、当社及び子会社の取締役、当社及び子会社の従業員、並びに外部協力者に対して新株予約権の発行と付与を行っています。本書提出日現在における当社の発行済株式総数は116,439,800株(注1)であり、これら新株予約権の権利が行使された場合は、新たに11,906,300株(注1)の新株式が発行され、これにより当社の1株当たりの株式価値は希薄化する可能性があります。また、当社は、今後も優秀な人材の確保のため、同様のインセンティブ・プランを継続する可能性があります。従って、今後付与される新株予約権が行使された場合にも、当社の1株当たりの株式価値は希薄化する可能性があります。
なお、本書提出日現在における、行使可能日が到来する期別の新株予約権の目的となる株式の数は以下の通りです。
(注) 1.本書提出日現在の発行済株式総数及び潜在株式数には、2024年7月1日から本書提出日までの新株予約権の行使により減少した潜在株式数及び発行された株式数は、含まれておりません。
2.1,679,000株のうち、1,382,000株は2024年11月23日より、34,000株は2024年12月15日より、263,000株は2025年2月22日より、それぞれ行使可能となります。
3.2,397,000株のうち、1,926,000株は2026年1月24日より、471,000株は2026年2月9日より、それぞれ行使可能となります。
(36)資金使途に関するリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社は上場時の公募増資による資金調達を予定しており、調達資金を主に軌道上サービス事業に関するプロジェクト開発費・研究開発費及び当社グループの人件費や物件費等の運転資金に充当する計画です。ただし、当該研究開発に関わる研究開発活動の成果が収益に繋がるまで長期間を要する一方で、研究開発投資から期待通りの成果が得られる保証はありません。研究開発の成果が実際に収益を生むまでの過程は複雑であり、収益計上時期の予測は困難です。そのため、調達した資金が期待される利益に結び付かない可能性があります。
当社グループは、慎重な投資と事業計画の実行に努め、資金の適切な充当と成果の最大化のためのリスクマネジメントを行っており、事業の不確実性を考慮しつつ、将来リターンの最大化を見据えた計画と実行を進めていくことが重要と捉えています。
配当政策
3 【配当政策】
当社は株主に対する利益還元を経営上の重要課題の一つとして位置付けていますが、宇宙技術の研究開発には多額の初期投資が必要であり、その投資回収も長期にわたる傾向にあります。当社グループも創業以来、継続的に営業損失および当期損失を計上しております。
このような状況の中で、当社は積極的な開発推進によって市場の形成を急ぎ、当社グループの成長を推進し、その結果として企業価値を向上させることが、株主利益の最大化に繋がるとの考えており、これを基本方針としております。
内部留保資金につきましては、経営基盤を長期的に安定させるための財務体質の強化及び将来の継続的な事業展開を実現するための投資資金として、有効に活用する方針であります。
当社は、上記の方針から創業以来配当を実施せず内部留保を優先しており、今後の配当の実施時期等については未定であります。
なお、当社は、会社法第459条第1項の規定に基づき各号に定める事項については、法令に別段の定めがある場合を除き、株主総会の決議によらず取締役会の決議により定めることができる旨を定めております。剰余金の配当を行う場合、配当の決定機関は取締役会であり、毎年4月30日を基準日とした期末配当、毎年10月31日を基準日とした中間配当のほか、基準日を定めて剰余金の配当をすることができる旨を定款に定めております。