2024年7月期有価証券報告書より

事業内容

セグメント情報
※セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
※セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります

(単一セグメント)
  • 売上
  • 利益
  • 利益率

最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています

セグメント名 売上
(百万円)
売上構成比率
(%)
利益
(百万円)
利益構成比率
(%)
利益率
(%)
(単一セグメント) 815 100.0 -441 - -54.1

事業内容

3【事業の内容】

(ビジョン)

 当社は、「見えないリスクを可視化する」というビジョンのもと、ドローン・ロボット等(以下「ドローン等」という。)により撮影したインフラ施設・設備等の映像情報を基に、顧客の安全性・生産性向上に資するデータへ加工して提供するソリューションを展開しております。インフラ等の老朽化や労働人口減少への対処が喫緊の社会課題であり、当社の提供するソリューションが当該課題を解決することにより、国内外企業の産業競争力の強化が図られ、ひいては、当社のミッションである「誰もが安全な社会を作る」の実現につながると考えております。

 具体的には、ドローン等を軸としたハードウェア技術と、撮影画像・映像等の加工・処理・管理といったソフトウェア技術を用い、インフラ施設・設備等へのDXソリューションを提供するインフラDX事業という単一事業を行っております。

 当該事業セグメントにおいて、ドローン等によるインフラ・プラントの調査・点検・測量に資するデータの提供や、ドローンの製造・販売を実施する「ドローン事業」と、ドローン等により取得したデータの画像処理技術等により、映像、3次元データ、異常検知に資する情報等をデジタル上に構築・提供する「デジタルツイン事業」、そして、両事業を支える事業として、当社の技術力やノウハウをベースにした新しいソリューションを開発する「ソリューション開発事業」を合わせた3つの事業を展開しております。

(当社の事業内容)

(1)ドローン事業

 「ドローン事業」とは、自社開発した屋内専用の産業用小型ドローン「IBIS」を中心に、その他ドローン等のデバイスを活用し、ユーザーが抱える各種課題の解決に資するソリューションの提供を行う事業であります。

 具体的には、調査・点検・測量等を目的としたドローン撮影画像の提供を行う「点検ソリューション」及び当該用途に供されるドローンの機体販売・レンタルを行う「プロダクト提供サービス」を展開しております。特に、ドローン等で撮影した画像は後述のデジタルツイン事業において、3次元化の基礎となる重要なデータとなります。

 サービスの中核を構成するIBISは、製鉄業等における実現場での綿密な実証実験のもと開発された、屋内の暗所・狭小空間、鉄粉の舞う環境や高温環境での飛行に耐えうる防塵性・耐熱性を有した、20cm四方程度の大きさの小型ドローンとなります。転落リスクを伴う高所空間、狭小で点検員が進入できない空間、高温あるいは半水没環境、又は有毒性のガスが含まれているような空間といった、危険かつ点検が困難な箇所を人に代わって調査・点検を行うことが可能となります。このような環境は国内外に数多く存在しており、IBISは「狭く、暗く、危険な」環境においても接近目視と同等の調査・点検を実現しております。

 「ドローン事業」においては、下記のサービスを展開しております。

点検ソリューション

今まで人が立ち入ることができなかった場所や人が入ると危険な空間にIBIS等が人に代わって調査・点検し、撮影した施設・設備等の動画をユーザーへ提供するサービス

プロダクト提供サービス

ドローンで事業展開したい事業者や自社保有施設でドローンを運用したい事業者などへ当社プロダクトIBIS等を販売・レンタルするサービス

(機体販売)

IBISと必要備品一式を販売するサービス。修理サービスや講習会サービスも提供

(レンタルサービス)

IBISと必要備品一式を月額レンタルするサービス。修理サービスや講習会サービスも提供

 

 点検ソリューションの主要顧客は製鉄業・鉄道業・建設業・製造業・官公庁等で、過年度より継続して利用しているエンドユーザーが占める売上高割合(継続顧客の売上高割合※1)は2024年7月期において59%と、リカーリング性が高いという特徴があります。また、プロダクト提供サービスにおける、2023年6月にリリースしたIBISの次世代機「IBIS2」の提供セット数は2024年7月末時点で72セットとなっており、そのうち、2024年7月期から本格的に開始した機体販売は39セット(レンタルバック取引(※2)に利用した機体販売8セットを含む)、レンタルサービスのレンタルセット数は33セットとなっております。

 

(2)デジタルツイン事業

 「デジタルツイン事業」とは、当社の関連会社であるCalTa株式会社(以下「CalTa」という。)が提供するソフトウェアTRANCITY(以下「TRANCITY」という。)や、その基幹システムを構成する当社のソフトウェアLAPIS(※3)を用いて、デジタルツインサービスを提供する事業となります。それらのソフトウェアを活用し、映像及び映像以外の周辺情報(例えば、ガス濃度、温度など、ドローン等から取得した情報等)を、デジタルツイン(※4)のプラットフォーム上に構築することで、顧客が設備の維持管理や建設現場の管理などを行う上で必要となる様々な情報の一元管理を支援しております。

 TRANCITYの顧客は、鉄道業・建設業が中心で、インフラ及び設備の維持管理のためには時系列でデータを保管することが有用となります。そのため、当社のサービスを用いてデータを保管し続けることが想定されることから、他社サービスへスイッチしにくく、継続利用が見込めるサービスであります。

 

 なお、「デジタルツイン事業」においては、下記のサービスを展開しております。

データ処理・解析サービス

IBISを用いて撮影した施設・設備等の動画データ等を基に、LAPISを通じて3次元化・オルソ化(※5)等のデータ加工処理や3次元データの解析(経年変化解析や異常検知等)、BIM(※6)等のデジタル図面化を提供するサービス。また、IBISによる撮影データだけではなく、屋外用ドローンにより撮影した動画データやレーザースキャナによる3次元データを加工、解析するサービスも提供

デジタルツインプラットフォーム

CalTaの提供するTRANCITYの画像処理に関するライセンス提供

 

 

(3)ソリューション開発事業

 「ドローン事業」「デジタルツイン事業」を展開する上で源泉となる事業であり、インフラ・プラント業界や建設業界等の企業に対し、効率化・省力化・省人化のニーズに応じたドローン等の開発やデジタルツインプラットフォームの開発、ユーザー保有施設のデジタル管理ソフトウェアなど、当社の技術力とノウハウを基にハードウェアからソフトウェアまで幅広いソリューションを自社開発にて提供する事業となります。

当事業では、導入にあたり顧客企業からのヒアリングや情報分析を徹底して行うことで課題を深く理解し、当該理解を基に活用方針を明確にし、実証実験や試作開発、本開発、さらには事業化後の継続開発まで、長期にわたり顧客企業と協働し、課題解決に取り組んでおります。

これまでに、日本製鉄株式会社(以下「日本製鉄」という。)との高温環境対応ドローンの開発や、東京電力グループとの高放射線環境下でのドローンの活用といった特殊環境特化型ドローンの共同開発等を行っており、現在も取引を継続しております。また、後述するTRANCITYもJR東日本グループから受託したソリューション開発が発端となっています。ドローンの開発にとどまらず、ロボットやデジタルツインを主とした新たなサービスの源泉となる開発を進めております。

 

 

(関連会社の概要)

 CalTaは、JR東日本スタートアップ株式会社、JR東日本コンサルタンツ株式会社及び当社が出資し、2021年7月に設立された企業となります。東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」という。)をはじめとした鉄道・インフラ業界は、施設・設備の老朽化と労働力減少の背景から建設工事・維持管理などの生産性向上が急務であります。その課題解決のため、IBIS等を用いた施設の撮影サービス事業、IBIS等のドローン・ロボットの技術等により取得した情報をデジタルツインで表現し、施工管理や維持管理に資する情報を提供するソフトウェアサービスTRANCITY事業、及び受託開発事業を展開しております。

 TRANCITYは、JR東日本グループが長年研究・蓄積していた施工管理や設備維持管理の現場における技術ノウハウと、当社の画像処理技術をベースに構築されたデジタルツインのソフトウェアサービスであり、取得した情報の時系列管理、測量、CAD(※7)化、BIM化、差分分析(※8)等を行えるサービスであります。類似サービスと比較し、より現場業務にフィットしたソフトウェアであり、鉄道業を中心に、製鉄業・通信業などにも活用が広がっております。

 当社は、CalTaがエンドユーザーから獲得した設備等の調査・点検業務や受託開発案件等の全部または一部の受託、TRANCITYの画像処理に係るライセンス供与や当該ソフトウェアの構築・アップデートを行っております。2024年7月末時点でのライセンスの供与数は115件であります。

 

・TRANCITYの特徴

 TRANCITYの特徴としては、鉄道業における現場の建設管理・維持管理に特化したUI/UX(※9)の構築、及び機能性が挙げられます。

 UI/UXについては、TRANCITYは、CalTaを通じ実質的にはJR東日本グループが監修したプロダクトであり、建設現場・維持管理現場での利用を念頭に、現場の方が直感的に操作でき、情報の連携が容易で、時系列でのデータ管理・保存を行い、位置情報との紐づけが行える機能を有しております。さらなる利便性の向上に向け、2023年6月には360°カメラへの対応、2024年6月にはBIM・点群の高精細3次元地理データとの重畳を実現しております。

 機能性については、現場ではスマートフォンやタブレットなどでの利用が想定され、それらの端末で使用するために、クラウド上で、低遅延でストレスなく操作できることや、SfM技術(※10)を活用した動画・静止画情報からの3次元化が求められます。TRANCITYは、それらに対応でき、また、SfM技術を応用したBIMサービスの展開もしております。サービスの対象となる業界に特化したプロダクトを作りこむエンジニアの開発力もまた、技術的な強みの一つであります。

 

 

 

 

(競争力の源泉)

 

(1)ハードウェア、ソフトウェア及びサービスの強み

 当社は、ハードウェア及びソフトウェアともに自社開発によりサービス構築を行い、顧客ニーズに応じたソリューションを提供することにより、屋内狭小空間での飛行実績及び撮影画像データを積み上げてきたことで、以下のような強みを有しております。

 

屋内ドローン飛行を可能とする技術力

当社のドローンIBISは、「狭く・暗く・危険な」環境における画像データの取得を可能としている屋内狭小空間に特化したドローンであり、そのような環境での飛行・撮影に資する多くの技術を組み合わせることで、機体の優位性を確保できていると考えています。

具体的には、屋内という暗く、粉塵等が舞い、配管やダクト等の障害物の多い空間の飛行は、屋外に比べ様々な制約があることから技術的なハードルが高く、また、天井裏等のより狭い空間の飛行には小型化が必須であるため、カメラ・モーター・プロペラ・バッテリー等の各部品をそれぞれ独自に設計する技術も必要となりますが、IBISはそれらの技術課題を乗り越え生み出された機体であります。

屋内外の重要設備撮影情報の解析技術と他社連携

狭小空間は、暗く、粉塵等の障害物が多いため、撮影データの3次元化等の画像処理が極めて困難な空間ですが、LAPISは、独自のアルゴリズムを構築することで、当該環境下においても顧客の求める形で画像処理を行うことができます。

また、当該画像処理技術は屋内外等の環境を問わず利用が可能となっており、当社の得意とする狭小空間においては、IBISと当社サービスを用いますが、それ以外の空間においては、他社ドローン等と当社サービスとの連携を積極的に進めております。屋内狭小空間のデータは、画像処理時のノイズ情報である粉塵が舞う空間が多く、また、暗所であることも多く十分な照度を確保できないことから、そのような環境に特化したドローンでなければ情報を得ることは容易ではありません。そのため、当社は屋内外の撮影情報を網羅的に取得できることが、競合他社と比べた当社の強みであると考えております。

屋内狭小空間における飛行・画像撮影実績

長年、屋内における小型かつ非GPS環境(※11)下での事業展開を行っているため、屋内におけるドローンの利活用実績を多く有しており、ユーザーとしては、製鉄会社・鉄道会社などの固定資産の多い重厚長大型産業に属する企業が中心です。他の機体では撮影できないプラントやインフラでの豊富な利活用実績を通じて、ハードウェアとソフトウェアの技術開発を進められていること、及び他社が有していない屋内における重要設備のドローン撮影画像データの蓄積及び撮影ノウハウが強みとなっております。

 

 上記に加えて、JR東日本グループや日本製鉄とは、長年にわたり取引関係を築いていることも、当社の強みの一つと捉えています。JR東日本グループ及び、他の鉄道事業者に対しては、CalTaを通じて各種サービスの提供をしており、日本製鉄とも設立初期より共同研究等を行い深い関係が構築できております。これらの会社が当社サービス利用先となっていることに加え、JR東日本グループや日本製鉄等が蓄積してきた設備データやノウハウを基にサービス開発を行えていることも強みの一つと捉えております。

 

(2)当社の技術的な強み

 当社は、ドローン等を開発するハードウェア技術、及びドローン等のデバイスで取得した映像情報等のデータ処理や解析、デジタルツインプラットフォームといったデジタル管理システムの開発等のソフトウェア技術を合わせ持ち、それらを一気通貫で実行できる開発体制を有しております。そのため、営業やプロダクトマネージャーが得たユーザーニーズを、各技術スペシャリストの検討のもと、正確に開発項目・要件・仕様に落とし込むことで、ユーザーニーズにフィットした製品・サービスを開発することが可能であります。

 特に当社がターゲットとするユーザーは、インフラやプラント、建設業界等に属する事業者であり、当該ユーザーが従事する環境は「狭く・暗く・危険」であることも多いため、そのような環境に耐えうる仕様の製品・サービスを開発する必要があります。

 

①ハードウェア技術

 

 当社は、前述のとおり、ハードウェアからソフトウェアまで一気通貫した開発体制を構築していることから、ユーザーに対してユーザビリティの高い製品・サービスを提供できております。特に、当社が技術的に強みを有する開発領域は、製品をユーザー各々の環境で使用可能とするために最適化された「機体制御技術」「機体設計技術」であります。

 

・「機体制御技術」

 当社が相対するユーザーニーズで最も多いのは、人による点検が困難な屋内狭小空間でのドローン等による調査・点検等であります。屋内狭小空間での飛行は、施設や設備の破損リスクがあるため、飛行安定性を担保するための「飛行制御アルゴリズム」が重要となります。
 また、人手不足に対するニーズも多く、当該ニーズに対しては、人の手を介さずにドローン等が自律的に飛行する自律型ドローンによる点検等であり、そこでは「自律化技術」が重要となります。

 

■飛行制御アルゴリズム

 IBISが利用される環境は、閉鎖環境ゆえ、周囲が壁等で囲まれており、かつ壁や天井までの距離が非常に短い空間となっております。例えば、直径50cm(IBISは縦横20cm四方程度の大きさであり、その2倍程のサイズ)の配管内で利用されることもありますが、閉鎖環境での飛行は、機体自身が吹き下ろす風が壁や床などに反射し、常に風による外乱ノイズに晒されるため、当該外乱ノイズへのフィードバック制御(※12)が重要となります。

 当社では、IBISの飛行制御に非線形ロバスト制御(※13)を採用しており、一般的に用いられるPID制御(※14)と比較した際、耐風性に優れ、閉鎖環境で安定的に飛行できる優れた性能を有しております。

 

■自律化技術

 当社は、これまで様々な自律飛行技術を基に現場での適用検証を実施しました。特に、自律飛行を実現するために、LiDAR SLAMやVisual SLAM、モーションキャプチャ等の技術により、非GPS環境である屋内空間での自律型ドローンの開発・検証を行いました。他には、オプティカルフローセンシング(※15)やUWB(※16)等のGPSに依存しない位置推定技術の開発・検証を行いました。

これらの技術により、ドローンが屋内空間を自律飛行することが可能となりますが、当社はプラントやオフィス等を巡回点検するドローンや、巡回業務を繰り返すための自動充電装置、複数のドローンを遠隔監視・安全運航監視する仕組み、巡回点検データを一括管理する管制システムなどを独自で開発しております。これまでに、上述の自律化技術を組み込んだドローンにより、建設施工現場における施工進捗の遠隔管理や、水力発電所における水漏れや異常発熱、メーター監視など発電設備の巡回監視などに取り組んでおります。さらに、ドローンが取得したデータにAI解析技術を活用してメーター自動読み取り機能や水漏れ検知する機能など、自動的に異常を検知するシステムも合わせて開発を行っております。

 

・「機体設計技術」

 当社のドローン等が利用される環境は狭小空間や閉鎖空間が多いため、ドローン等の小型化、軽量化が求められます。一方で、人の代替として利用されるためには、ドローン等に搭載する要素部品は高機能、高品質であることが必要となります。そのため、当社では、強度を高く保ちつつ小型で軽量な「機構・筐体」の開発や、粉塵が舞う過酷な環境で故障しないための「モーター」、暗所でも鮮明な撮影データを取得するための「カメラ」といった要素部品の開発にも注力しております。

 

■機構・筐体

 当社のIBISが利用される環境は、例えば天井裏やボイラー内、配管内などの狭小空間となります。しかしながら、天井裏のような複雑に入り組んだ空間を飛行する際、コンシューマー向けドローンに搭載されている衝突回避機能は、周囲にある配線・配管等の物体に対して常にセンサが反応してしまうため、操縦の障害となり機能しないことから、当社は、機体に衝突回避機能を持たせるのではなく、壁や天井、障害物等に衝突しても安定して飛行を継続できるよう、独自の機体構造を設計しております。

 また、万が一墜落が起こった際に、再離陸・再飛行を可能とする強度を保ちながら、人や設備への損傷が限りなく少なくなるよう、小型で軽量な機体設計を実現しております。

 なお、プロペラを自社開発するにあたり、プロペラの周囲で発生する気流の解析と試作開発を自社で行うことで機体の密接な解析・検証を行い、IBISに適した高効率なプロペラの開発を実現しております。

 

■要素部品

カメラ

 IBISを利用して点検等を行う環境は、その多くが、照明や日光が届かず暗い空間であります。そのような空間において、より明るく鮮明な映像を撮影するため、当社では、ソニー株式会社製のSTARVISセンサ(※17)を搭載した高感度カメラを開発しております。

 さらに、当社開発の高感度カメラは、暗い環境で明るく鮮明に撮影できるだけでなく、画像処理に適した調整が施されており、SfMによる3次元点群(※18)の作成や、ひび割れ腐食等の検出性能向上に寄与しています。

 

モーター

 一般に、多くのドローンに用いられているブラシレスモーター(※19)は、小型かつ高出力を実現するため、動作中は積極的に外部からの空気を取り入れコイルの冷却を行うことから、モーターに冷却用の穴や隙間を有する構造が採用されております。

 しかしながら、IBISが利用される発電プラントの設備内部、製鉄所の設備内部、天井裏等の環境は、多くの鉄粉や粉塵が舞う過酷な環境であります。一般的な仕様のモーターでは、鉄粉や粉塵が冷却用の穴や隙間から内部に入り込むため、破損の可能性や動作不良のリスクが高くなります。IBISは、当社とニデック株式会社で共同開発した専用の防塵モーターを採用することにより、そのような過酷な環境においても故障リスクが僅少なため、安定運用が可能な仕様となっております。

 また、自社開発の専用プロペラの特性に合わせてモーター開発を行っており、プロペラの空力特性(※20)を最大限に発揮することが可能であり、小型であるにもかかわらず、高出力・高効率を実現しております。

 

 

②ソフトウェア技術

当社は、人の進入が困難な天井裏やボイラー内、配管内などの狭小空間や閉鎖空間といった、従来は調査・点検が困難であった多くの環境に係るデータを取得してきております。そして、取得したそれらのデータを基に、3次元化を核とした高度なデータ解析技術を開発することで、インフラやプラント、建設業界等の分野で求められる「狭く、暗く、危険な」作業環境の「見える化」を実現し、ユーザーの課題解決に取り組んでおります。

 

・狭小空間、閉鎖空間における画像処理・解析技術

IBISにより、暗く、障害物や粉塵が多い環境のデータを数多く取得、解析することで、そのような環境の画像処理に特化した独自のアルゴリズムを開発し、一般的な画像処理技術と比較し、より鮮明な3次元データを生成する技術を構築しております。また、3次元データを生成するだけでなく、IBISに搭載したサーモカメラやガス検知センサによって取得した温度情報、ガス情報を3次元データと統合することで、視覚情報だけでは検知することが難しい水漏れやガス漏れなどの異常検知を可能としております。

・3次元解析クラウド「LAPIS」

 当社は、独自の画像処理・解析技術を活用して、映像データから3次元データを自動生成するクラウド「LAPIS」を開発しました。ユーザーは映像データを「LAPIS」へアップロードするだけで、手間をかけることなく簡単に3次元データを生成することが可能となります。さらに、蓄積した解析に関する独自のノウハウを基に、例えば、過去と現在の3次元データの差分を検知することで異常箇所を特定する機能や、粉状の在庫の体積を計算する機能などの拡張開発に取り組んでおります。

 

・図面がないインフラや設備等のBIMデータ生成技術

 竣工から長い時間が経過したインフラや設備等は、図面が残っていないもしくは図面が更新されていないことにより、設備トラブルの原因把握が困難であったり、補修工事が非効率などという課題を抱えていることが多くあります。また、建設済みの設備は天井裏など人が入れない環境も多くあり、建設後の図面作成は容易ではありません。

 当社は、IBISとその他データ取得機器を併用して3次元データを生成し、さらにBIMなどの図面データを生成する技術を有しており、狭小空間、閉鎖空間に特化した独自の画像処理技術とBIMデータ生成技術を組み合わせ、人が入れない環境を含む設備全体を図面化することで、上述の課題解決に取り組んでおります。

 

 

(3)コア技術に関する知財確保

 当社は、企業競争力・事業競争力の確保を企図し、競合他社が市場参入してきた際の防御策として、ドローンを構成する要素の中で、筐体設計に係る耐久性向上技術や、モーターの放熱に係る安全性向上技術に関して、下記の知財を確保しております。

 

(耐久性向上技術:特許第6554731号 フレーム組立体)

 当社の強みである機体等の「小型化」及び「軽量化」を実現するための、ドローンの筐体について特許を取得しております。本特許は、トップフレームとボトムフレームを設け、振動源であるモーターを支えるための剛性と軽量を両立させるための機構であります。また、トップフレームとボトムフレームをサイドフレームで繋ぐことで、衝突時や墜落時の耐衝撃性に強い構造を実現し、なおかつ軽量であるため、墜落時に空気抵抗によって落下速度を減速させる効果も有しております。

 

(安全性向上技術:特許第6589100号 フレーム組立体)

 IBISが飛行する環境には、製鉄所等の炉やボイラーの内部といった、非常に高温な環境が多くあります。一方、ドローン等に付属するモーターは、駆動することにより発熱し、一般には空気中に放熱されますが、当該高温環境においては、自然放熱では冷却が追いつかず、モーターの発熱に起因した故障が頻発いたします。本特許は、モーターの発熱時に、ボトムプレートに内包する金属板を通すことにより、放熱面積を増やし、冷却性を高めるものとなります。また、プロペラによって吹き下ろされる風によりボトムプレートの冷却が行われ、放熱のみならず冷却も同時に実現することを可能としております。

 

(基幹技術:特許第7240676号 粒子捕捉器及びこれを備えた回転翼機)

 IBISが利用される環境は「狭く・暗く・危険」であり、現場によっては目に見えない微小粒子状物質が舞う環境であります。そのため、点検員の健康に被害を与える可能性があり、人が立ち入る前の1次点検としてドローンによる空間環境の健全性を計測する手法の開発を国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学との共同研究にて実施しました。

 当該発明はプロペラの表面に特殊加工を行うことにより、採取したい特定の粒子のみを採取することができ、ドローンが飛行する際に吹き下ろす風を利用することにより効率的に特定粒子の採取を行うものであります。

 

 そのほかにも、今後は応用技術やAI関連技術の領域においても研究開発を推し進め、知財の確保等を進めてまいります。

 

(4)大手との取引

・JR東日本グループ

 JR東日本のグループ会社が出資し、当社の関連会社でもあるCalTaを通じ、当社は、JR東日本グループ関連の案件を多数受注しております。CalTaへの売上高は、2023年7月期は74百万円、2024年7月期は178百万円であり、2025年7月期以降も継続的な成長を見込んでおります。

 CalTaの運営に係り重要となる契約は、同社の株主であるJR東日本コンサルタンツ株式会社・JR東日本スタートアップ株式会社・当社間の合弁契約と、同社と当社間のTRANCITYに係るライセンス契約の2つとなります。

 なお、合弁契約においては、CalTaの重要な意思決定に係る協議・決定ルールを定めており、当該契約の定めに従い、当社は社外取締役として代表取締役の閔弘圭、監査役に当社従業員を派遣しております。

 

・日本製鉄グループ

 当社は、機体の開発に着手した2016年より、日本製鉄のフィールドを借り、耐環境性、ユーザビリティの高いドローンの開発を進めてきており、同社とは継続的な取引関係にあります。

 当社は、日本製鉄のグループ会社や、製鉄所における協力会社・商社等を通じ、日本製鉄関連の案件を多数受注しております。2024年7月期においては、日本製鉄の保有するプラントの保守やメンテナンス等を展開する事業者へのIBISの販売に注力したため、日本製鉄をエンドユーザーとした点検ソリューションの売上ではなく、プロダクト提供サービスの売上の増加に至りました。

 

・東京電力グループ

 当社は、東京電力ホールディングス株式会社の福島第一廃炉カンパニー等をエンドユーザーとした受託開発プロジェクトを過年度より継続して実施しております。

 福島第一廃炉カンパニーとは、廃炉内の状況を把握し、今後実施が見込まれる廃炉処理を安全・適切に進めることを最終目的としており、社会的意義の非常に高い事業であると考えております。

 

(5)産学官連携による研究開発推進及び事業化推進

 当社が身を置くドローン市場やデジタルツイン市場は、ドローンやそのシステムを構成するハードウェア・ソフトウェアの各関連領域において、めまぐるしい関連技術の発展とサービス創出がなされている状況であります。

 このような状況において、「誰もが安全な社会を作る」という大きなミッションに向けて、当社が各分野でのリーディングカンパニーとしての地位を獲得するには、最先端の技術を取り入れ、継続的に研究開発を行っていくことが不可欠と考えております。

 そのために当社は、省庁、自治体、大学、その他外部の研究機関や民間企業と積極的に産学官連携を行い、研究開発推進並びに事業化推進をしております。

 

 当社が過去、現在と取り組んできた主な産学官連携プロジェクトは以下のとおりであります。

国家プロジェクト

目的

概要

国土交通省 中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3事業)

「安全・安心な公共交通等の実現に向けた技術の開発・実証」

テーマ:鉄道施設の維持管理の効率化・省力化に資する技術開発・実証

事業化推進

鉄道環境に対応したドローンを用いた鉄道点検ソリューションの構築を目指し、コンソーシアムメンバーや協力会社と連携して事業を推進中

補助金の最大交付額は52億円

国土交通省 中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3事業)

「災害に屈しない国土づくり、広域的・戦略的なインフラマネジメントに向けた技術の開発・実証」

テーマ:建設施工・災害情報収集における高度化(省力化・自動化・脱炭素化)の技術開発・実証

事業化推進

建設現場における施工管理の省力化・高度化技術の開発を目指し、コンソーシアムメンバーや協力会社と連携して事業を推進中

補助金の最大交付額は4.7億円

NEDO「SBIR推進プログラム」(連結型)

テーマ:災害時に生き埋めになった生存者を迅速に捜索するセンシング技術やロボティクス技術の開発

事業化推進

IBIS2および関連機材を改良し、生き埋めになった生存者を迅速に捜索

補助金の最大交付額は15百万円

JWAC 令和4年度補正スマート保安導入支援事業費補助金(技術実証支援)

防爆認証特化型ドローンによるプラント点検ビジネス構築事業

研究開発推進

コンソーシアムメンバーや協力企業と連携し、日本初の防爆認証取得を目指し、防爆認証特化型ドローンの開発を実施

NEDO 次世代空モビリティの社会実装に向けた実現(ReAMo)プロジェクト

制約環境下におけるドローンの性能評価法の研究開発

事業化推進

ドローンの評価手法の標準化を目指し、複数の研究機関や関係省庁と連携し、事業を推進中

総務省 マレーシアにおけるドローン及びデジタルツイン技術を活用したインフラ点検サービスの実証

事業化推進

マレーシア国の新規顧客開拓に向け、ドローンPoC並びにICT人材育成スキーム構築

JISSUI 令和2年度補正予算(3次補正)産業保安高度化推進事業費補助金

高度センシング技術による狭小空間専用小型ドローンの構築事業

研究開発推進

サーモセンサー並びに有毒ガス検知センサーを備えたドローンを実現

SII 令和2年度補正予算 産業保安高度化推進事業費補助金

巡回点検ドローンによる遠隔監視システムの構築事業

研究開発推進

巡回点検用ドローン・システムの構築に向けて、ドローン、システム並びにアプリ開発し、その基幹技術を獲得

NEDO AIシステム共同開発支援事業

AIドローンを用いたインフラメンテナンス関連サービス創出事業

研究開発推進

故障検知AIを構築し、故障に備えたドローンを実現

NEDO 高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発

非GPS環境下におけるドローンの群制御技術及びエネルギー効率向上を可能とする要素技術の研究開発

研究開発推進

群制御技術、防塵モーター、防塵モーターに最適なプロペラ等を備えたドローンを実現

※国家プロジェクトにおいては、各プロジェクトにおいて発生した研究開発費用について、管轄機関の監査を受けており、認められた金額のみを補助金又は助成金として収受しております。なお、補助金又は助成金に関して、新規技術の研究開発に係るものについては、営業外収益として計上しております。また、既存の当社技術を用いて、委託された研究や実証実験を行うことが主目的となるものについては、売上高として計上しております。

 

大学連携

目的

概要

国立大学法人千葉大学

研究開発推進

屋内飛行に向けた制御開発を推進中

国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学

研究開発推進

自律型ドローン開発及びプロペラエアフィルタ開発を推進中

 

 

自治体連携

目的

概要

東京都

事業化推進

「UPGRADE with TOKYO」スタートアップと東京都で都政課題の解決に向けた協働取組み先として選出され、ドローンと3次元モデルを用いた工事出来形確認手法構築のための取組みを実施

事業化推進

「現場対話型スタートアップ協働プロジェクト」に採択されドローン等を用い庁舎施設の3次元モデル作成を実施

事業化推進

スマートサービス実装促進プロジェクト「Be Smart Tokyo」に採択

三菱地所が所有する都内オフィスビルの改修工事に小型ドローンの技術実装

神戸市

事業化推進

「Urban Innovation KOBE +P」事業の一環として水道施設(配水池内部)点検の実証実験を実施

事業化推進

課題解決プロジェクト 2024年度「So-I(KOBE BUSINESS PROGRAM)行政課題解決コース」に採択

地下鉄駅舎の目視が難しい天井裏空間を,ドローンを活用して点検

北九州市

事業化推進

「スタートアップSDGsイノベーショントライアル事業」実証支援プログラムに採択されドローンを活用した危険物除去の実証実験を実施

愛媛県

事業化推進

デジタル実装加速化プロジェクト「トライアングルエヒメ」に採択

愛媛県内におけるインフラ・プラント維持管理DXの実装を加速

 

・用語解説

 本項「3 事業の内容」において使用しております用語の定義について以下に記しております。

No.

用語

用語の定義

※1

継続顧客の売上高割合

点検ソリューション(関連するデータ処理・解析サービス含む)において、2期連続で受注のあったエンドユーザーの売上高を、点検ソリューション全体の売上高で除して算定

※2

レンタルバック取引

販売を行った機体について販売先と当社とでレンタル契約を結び、当社より第三者のユーザーへレンタルを行う取引を指す

※3

LAPIS

当社独自で開発した、屋内点検用小型ドローン「IBIS」で撮影した動画データを管理し、その動画から画像処理された3次元化データも一元管理することができるクラウドサービスを指す

※4

デジタルツイン

IoTセンサなどを用いて物理空間から取得した情報を基に、デジタル空間に物理空間のコピーを再現する技術

※5

オルソ化

ドローン、ラジコンヘリ、航空機、人工衛星等から中心投影として撮影された空中写真画像を補正し、正射投影された空中写真画像を作成する作業を指す

※6

BIM

「Building Information Modeling」の略称であり、コンピュータ上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、管理情報などの属性データを追加した構築物のデータベースを、建物の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューションを指す

※7

CAD

「Computer Aided Design」の略称であり、コンピュータを用いて設計をすること、又はコンピュータによる設計支援ツールのことを指す

※8

差分分析

量的調査などで用いられる統計的手法のことであり、施策の効果の因果関係を統計的に推理していく分析手法を指す

※9

UI/UX

「ユーザーインターフェースとユーザーエクスペリエンス」の略であり、それぞれ、ウェブサイトやアプリなどのデザインや操作性に関わる部分、そしてそのデザインや操作性がユーザーに与える全体的な印象や感情を指す

※10

SfM技術

「Structure from Motion」の略称であり、3次元構造を2次元のカメラ画像や動画から推定する技術

※11

非GPS環境

屋内や、構造物の近く、橋梁下において、GPS、GNSSデータが遮断され位置情報を把握することが困難な環境

※12

フィードバック制御

実際の状況をリアルタイムに取得し、それに基づいて制御入力を決定する制御技術

※13

非線形ロバスト制御

制御理論、制御技術の一つであり、一般的にPID制御よりも高度な数学が用いられ、制御対象をより正確に制御することが可能な制御技術

※14

PID制御

比例(P)制御、積分(I)制御、微分(D)制御の組み合わせによって、設定された目標値にフィードバック(検出値)を一致させる制御機能を指す。速度、圧力、流量、温度などの制御に使用される技術

※15

オプティカルフローセンシング

動画像において、各点の動きをベクトルとして求める技術を指す

※16

UWB

Ultra Wide Bandの略称であり、超広帯域を意味する無線通信技術のことであり、高精度な位置測位を可能とすることが特徴

※17

STARVISセンサ

可視光線領域に留まらず、沢山の光を集めることができる夜間の撮影にも適した高感度な裏面照射型画素技術を指す

※18

3次元点群

3次元レーザースキャナーなどで物体や地形を計測したデータ(スキャナーからの相対的なX,Y,Z情報やカメラの画像データから得た色の情報)をコンピュータ上で扱う際、物体や地形を「点」の集合体で表現したもの

※19

ブラシレスモーター

整流子やブラシなどの機械的な接触部を取り除いたモーターを指す

※20

空力特性

ドローンが飛行中やプロペラで吹き下ろす空気の流れから受ける様々な影響(機体にかかる力やモーメント、そしてそれらの力やモーメントに起因する機体の安定性や操縦性等の飛行性能)のこと

 

 

(事業系統図)

 

業績

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

 当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態の状況

(資産)

 当事業年度末における流動資産は1,356,408千円となり、前事業年度末に比べ510,323千円増加いたしました。これは主に、現金及び預金が452,572千円、売掛金が123,320千円、製品が19,285千円増加したものの、原材料及び貯蔵品が42,413千円、未収還付消費税等が41,212千円減少したことによるものであります。固定資産は160,983千円となり、前事業年度末に比べ67,236千円減少いたしました。これは主に、有形固定資産が65,937千円減少したことによるものであります。

 この結果、総資産は、1,517,392千円となり、前事業年度末に比べ443,086千円増加いたしました。

 

(負債)

 当事業年度末における流動負債は359,072千円となり、前事業年度末に比べ156,267千円増加いたしました。これは主に、未払金が54,079千円、契約負債が40,968千円、未払費用が21,106千円増加したことによるものであります。固定負債は292,690千円となり、前事業年度末に比べ15,520千円減少いたしました。これは長期借入金が15,520千円減少したことによるものであります。

 この結果、負債合計は、651,762千円となり、前事業年度末に比べ140,747千円増加いたしました。

 

(純資産)

 当事業年度末における純資産合計は865,629千円となり、前事業年度末に比べ302,339千円増加いたしました。これは主に、第三者割当増資及び東京証券取引所グロース市場への上場に伴う増資により資本金及び資本準備金がそれぞれ367,430千円増加したものの、当期純損失の計上により利益剰余金が437,972千円減少したことによるものであります。

 この結果、自己資本比率は56.7%(前事業年度末は52.4%)となりました。

 

② 経営成績の状況

 当事業年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の収束とともに、経済活動は緩やかに回復する動きが見られたものの、世界的な金融引締めや原材料等物価上昇の影響による景気下振れのリスクにより、依然として先行き不透明な状況が継続しております。一方、コロナ禍の影響を受けた企業の省人化、省力化を企図したデジタル化・DX推進の流れは継続しており、当社が主なターゲットとするインフラ業界や建設業界においても、一定の需要が見込まれております。

 また、国内ドローン市場を取り巻く環境は、地政学的リスクの高まりや不安定な世界情勢などから経済安全保障への関心が強くなっており、日本政府はドローンの調達にあたり、公共の安全と秩序維持等に支障の生じるおそれがある業務等に用いられるドローンの調達は、セキュリティが担保されたドローンに限定し、既に導入されているドローンについても速やかな置き換えを実施する方針を公表しております。そして、法制度においても、「レベル4」(有人地帯上空における目視外飛行)に関する航空法及び同施行規則等の改正が行われており、ドローンの社会実装に向けて今後もさらに市場が広がっていく見込みとなっております。

 このような環境の中、インフラ業界のDXを進めるべく、屋内狭小空間におけるドローン点検の社会実装や、アナログ手法による設備点検・調査のデジタル化を推進してまいりました。

 具体的な活動としては、2023年6月にリリースしたIBIS2や当事業年度より実施したBIM取組等の新プロダクト、新サービスのローンチ、令和6年能登半島地震への当社オペレーターの派遣、福島第一原子力発電所1号機原子炉格納容器の内部調査、パーソルクロステクノロジー株式会社との業務提携などがあります。その中でも、新プロダクト、新サービスに関しては、IBIS2の39セットの販売や、東京都に採択された「現場対話型スタートアップ協働プロジェクト」における東京都消防庁の施設のBIM取組などの実績が上がっております。

 以上の活動の結果、当事業年度の経営成績は売上高815,308千円(前年同期比114.8%増)、営業損失440,786千円(前年同期は630,906千円の営業損失)、経常損失434,732千円(前年同期は635,861千円の経常損失)、当期純損失437,972千円(前年同期は641,105千円の当期純損失)となりました。

 

 当事業年度の売上高は、ドローン事業が引き続き市場の成長と共に順調に推移したことに加え、IBIS2のローンチにより開始した機体販売が大きく寄与したこと、また、前事業年度より本格的に事業化したデジタルツイン事業もDX市場の成長と共に大きく伸長したことで、前事業年度と比べ大幅に増加いたしました。なお、当社はインフラDX事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しておりますが、当社の販売実績を事業別に区分した売上高の状況は、次のとおりであります。

 

(単位:千円)

事業別名称

前事業年度

(自 2022年8月1日

  至 2023年7月31日)

当事業年度

(自 2023年8月1日

  至 2024年7月31日)

ドローン事業

点検ソリューション

148,821

170,950

プロダクト提供サービス

90,677

401,820

小計

239,498

572,770

デジタルツイン

事業

データ処理・解析サービス

33,671

80,630

デジタルツインプラットフォーム

10,020

32,865

小計

43,691

113,495

ソリューション開発事業

96,415

129,041

合計

379,604

815,308

 

(ドローン事業)

・点検ソリューション

 点検ソリューションは、既存顧客の継続的な利用と新規顧客拡大を要因として、実績170,950千円(前年同期比14.9%増)と前事業年度に比べ22,128千円の増加となりました。

・プロダクト提供サービス

 プロダクト提供サービスは、当事業年度より開始した機体販売売上高実績281,441千円、及びレンタル会員が順調に増加したことによるレンタルサービス売上高の増加を背景に、実績401,820千円(前年同期比343.1%増)と前事業年度に比べ311,143千円の増加となりました。

 

(デジタルツイン事業)

・データ処理・解析サービス

 データ処理・解析サービスは、点検ソリューションの成長と共に点検ソリューションに紐づくデータ処理・解析の需要が多くあったこと、屋外ドローンをはじめとしたIBIS以外で取得した画像のデータ処理等の需要増やBIMサービスのローンチにより、実績80,630千円(前年同期比139.5%増)と前事業年度に比べ46,959千円の増加となりました。

・デジタルツインプラットフォーム

 デジタルツインプラットフォームは、既存顧客の継続利用と新規顧客拡大によるライセンス数の増加により、実績32,865千円(前年同期比228.0%増)と前事業年度に比べ22,845千円の増加となりました。

 

(ソリューション開発事業)

 ソリューション開発事業は、エンドユーザーが主にJR東日本グループとなるデジタルツイン関連の開発案件や、福島第一原子力発電所の原子炉調査案件等の受注により、実績129,041千円(前年同期比33.8%増)と前事業年度に比べ32,626千円の増加となりました。

 

③ キャッシュ・フローの状況

 当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末に比べ452,572千円増加し、1,061,245千円となりました。

 当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動の結果、支出した資金は253,351千円(前年同期は637,967千円の支出)となりました。これは主に、税引前当期純損失434,732千円、売上債権の増加額122,949千円等によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動の結果、支出した資金は9,158千円(前年同期は187,825千円の支出)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出6,818千円、無形固定資産の取得による支出2,340千円によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動の結果、得られた資金は715,082千円(前年同期は1,085,283千円の収入)となりました。これは、株式の発行による収入730,602千円、長期借入金の返済による支出115,520千円、長期借入れによる収入100,000千円によるものであります。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 当事業年度の生産実績は、次のとおりであります。なお、当社はインフラDX事業の単一セグメントであるため、セグメント別の生産実績の記載は省略しております。

セグメント名称

当事業年度

(自 2023年8月1日

  至 2024年7月31日)

生産高(千円)

前年同期比(%)

インフラDX事業

67,426

(注)当事業年度より製品の製造を開始しており、金額は、製品製造原価によっております。

 

b.受注実績

 当社が提供するサービスの性格上、受注実績の記載になじまないため、記載を省略しております。

 

c.販売実績

 当事業年度の販売実績は、次のとおりであります。なお、当社はインフラDX事業の単一セグメントであるため、セグメント別の販売実績の記載は省略しております。

セグメントの名称

当事業年度

(自 2023年8月1日

  至 2024年7月31日)

販売高(千円)

前年同期比(%)

インフラDX事業

815,308

114.8

(注)最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

相手先

前事業年度

(自 2022年8月1日

至 2023年7月31日)

当事業年度

(自 2023年8月1日

至 2024年7月31日)

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

CalTa株式会社

74,664

19.7

178,900

21.9

清水建設株式会社

52,954

14.0

2,324

0.3

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.財政状態の分析

財政状態の分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態の状況」に記載のとおりであります。

 

b.経営成績の分析

主な当該内容については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②経営成績の状況」に記載のとおりであります。

(売上高)

 当事業年度の売上高は、前事業年度に比べて435,703千円(114.8%)増加し、815,308千円となりました。これは主に、既存顧客の継続利用や新規顧客拡大等によるものであります。

 

(売上原価、売上総利益)

 当事業年度の売上原価は、前事業年度に比べて126,586千円(38.5%)増加し、455,418千円となりました。これは主に、売上高が増加したことによるものでありますが、当事業年度より開始した高付加価値の機体販売が順調に進捗したこと、及び点検ソリューションやデータ処理・解析サービスの案件に係る人件費やサーバー償却費等の固定費に比して、当該サービスの案件数が増加したことにより、売上総利益率が大幅に改善しております。この結果、売上総利益は359,889千円(前年同期比608.8%増)となりました。

 

(販売費及び一般管理費、営業損失)

 当事業年度の販売費及び一般管理費は、前事業年度に比べて118,996千円(17.5%)増加し、800,675千円となりました。これは主に、事業拡大に向けた人員増加及び研究開発により人件費が42,712千円増加、研究開発費が53,760千円増加したこと等によるものであります。この結果、営業損失は440,786千円(前事業年度は630,906千円の営業損失)となりました。

 

(営業外収益、営業外費用、経常損失)

 当事業年度の営業外収益は、前事業年度に比べて3,562千円(10.5%)減少し、30,462千円となりました。これは主に、補助金収入が2,255千円減少したことによるものであります。営業外費用は、前事業年度に比べて14,572千円(37.4%)減少し、24,408千円となりました。これは主に、上場関連費用の計上により10,646千円増加したものの、支払手数料が32,850千円減少したことによるものであります。この結果、経常損失は434,732千円(前事業年度は635,861千円の経常損失)となりました。

 

(特別利益、特別損失、税引前当期純損失)

 当事業年度において、特別利益及び特別損失は発生しておりません。この結果、税引前当期純損失は434,732千円(前事業年度は639,205千円の税引前当期純損失)となりました。

 

(法人税等、当期純損失)

 法人税等は3,240千円を計上したことにより前事業年度に比べて1,340千円(70.5%)増加しました。この結果、当期純損失は437,972千円(前事業年度は641,105千円の当期純損失)となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 キャッシュ・フローの状況につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。当社の主な資金需要は、ドローン等開発のための研究開発費や販売費及び一般管理費等の事業費用であり、これら事業上必要な資金は手許資金で賄う方針でありますが、事業収益から得られる資金だけでなく、エクイティファイナンスや金融機関から必要な資金の獲得により調達しております。また、資金の流動性については、資金効率を考慮しながら、現金及び現金同等物で確保するよう図っております。現預金保有残高については、2024年7月期末における現金及び現金同等物が1,061,245千円であり、十分な流動性を確保しております。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。

 財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5経理の状況 1財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

④ 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりですが、当社においては、コアクライアントと当社の取引量を拡大することが、売上規模の拡大に寄与することから、コアクライアント数及びコアクライアント売上高を特に重視しております。

 当該指標について、第8期のコアクライアント数は3グループとなっております。また、コアクライアントとの深耕により第8期におけるコアクライアント売上高は250,242千円となっております。

 

(単位:千円)

 

 

前事業年度

(自 2022年8月1日

至 2023年7月31日)

当事業年度

(自 2023年8月1日

至 2024年7月31日)

コアクライアント売上高

150,270

250,242

(注)コアクライアント売上高は、コアクライアント及びコアクライアントが構成している企業グループに対する売上高を当社が集計したものであります。