2023年11月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

この有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるものには、以下の表内のようなものがあります。

当社グループは、これらのリスク発生(顕在化)の可能性を認識したうえで、発生の抑制・回避に努めています。そのためにリスクマネジメント基本規程において当社のリスク管理を体系的に定め、個々のリスクを各担当部門が継続的に監視しています。直近の業績への影響が大きなリスクについては経営会議、全社的なリスクについてはリスクマネジメント委員会、気候変動を含む社会・環境に関するリスクについてはサステナビリティ委員会でそれぞれ情報を共有し、リスクの評価、優先順位および対応策などを管理しています。また、リスクマネジメント担当執行役員は、全社的リスクの評価や対応の方針・状況などを定期的に取締役会へ報告しています。

リスクの評価と選定については、社内外の経営環境の変化を広く見据え今後リスクとなりうることを洗い出し、それらの評価を行うことで重要なリスクを見極めています。「各リスクの経営への影響の大きさ」と「そのリスクの管理の程度(マネジメントコントロール度)」の2軸で評価し、対策すべきリスクを選定し優先順位づけをしています。経営への影響度が大きいにも関わらずマネジメントコントロールが不十分なリスクは『全社主要リスク』として全社横断的なプロジェクトにより、最優先でリスク低減に努めています。活動を通じて対策が効果を上げ、マネジメントコントロール度が高まったとしても、依然として経営への影響度が大きい場合は、その後の状況を監査などにより確認しています。経営への影響度が小さく経営課題とならない場合においても、感度高く社外情報の収集、モニタリングに努めています。このように社内社外両面からモニタリングを行い状況変化に応じた重要性を適時評価し機敏にリスクに向き合うように努めています。

しかしながら、当社グループの取り組みの範囲を超えた事象が発生した場合には、当社グループの信用、業績および財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、以下の表内の内容は、当社グループに係るすべてのリスクを網羅したものではありません。

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

 

事象

リスク

リスクへの対応策

市場の動向

長期にわたり漸次的にその影響が大きくなる可能性がある主なリスクは次のとおりです。

 

・国内人口減少による長期的な市場縮小

・野菜価格変動によるマヨネーズ・ドレッシングの販売影響

国内では「市販用」と「業務用」の2体制でフレキシブルな市場対応を図り持続的成長につなげています。当社グループの内食・中食・外食への展開力を活かしサラダとタマゴの可能性を広げ、健康寿命延伸に貢献することで事業機会の創出をめざします。また、お客様の食生活における悩みの解決や新たな食シーンの創造につながるような商品・サービスをスピーディーに提案し、市場と需要の開拓を推進しています。特に成長が見込まれるドラッグストアなど未開拓販路の開拓に加え、デジタルマーケティングを強化しD2C(Direct to Consumer/消費者直販サイト)市場での取り組みを進めています。

海外では、中国、東南アジアと北米を重点エリアとし、当社グループのこれまでの顧客層である富裕層から中間層へ開拓を進めます。またデジタルコミュニケーションとマーケティング機能を強化し、「キユーピーブランド(丘比、KEWPIE)」の認知率と商品使用率の向上に取り組んでいきます。人材や商品開発、マーケティング、ガバナンスなどに経営資源を集中的に投下し、持続的な成長を図っています。

原材料(主原料やエネルギー・一般原資材)の調達

・食油調達においては、大豆や菜種の相場、為替相場および需給などの変動により短期、長期的な価格変動リスクがあります。

・鶏卵調達においては、突発的な鳥インフルエンザの発生、産卵鶏の羽数変動、長期的な鶏卵の消費動向などによる価格変動および調達困難リスクがあります。

・その他当社グループで使用している原材料調達は、国際的な景気動向や需給バランス、為替の変動、地政学リスクなどによる価格変動リスクがあります。

 

また、社会的な配慮のもとでの持続可能な調達への取り組みが不十分と評価された場合、漸次的にレピュテーションが低下する可能性があります。

当社グループでは、原材料価格の上昇の影響を低減するため、商品の価格改定や付加価値化、生産効率化、グループ連携による調達体制の構築などの取り組みを進めています。また、主原料の相場影響を受けにくい事業構造への転換を進めています。

鶏卵調達においては、大手生産者を中心に各地の生産者との年間数量計画、一定価格契約、相場でのスポット契約の組み合わせ、また一部地域で鳥インフルエンザが発生して卵の移動が制限されたとしても他の地域の工場でカバーできる全国調達・割卵工場体制整備などを実施しています。鳥インフルエンザの猛威による原価上昇と減産による利益減少のリスクについては、発生時期を考慮した原料及び製品在庫を確保するとともに、商品の付加価値化を進め、収益性向上に努めています。

中長期的な持続可能性の観点では、採卵鶏のアニマルウェルフェアの課題に関係する業界や行政と連携しながら取り組んでいます。

社会的な配慮のもとでの持続可能な調達に向けて、「キユーピーグループの持続可能な調達のための基本方針」を定め、原料の品質だけでなく、サプライチェーン上での環境や人権に与える影響の確認を進めています。本基本方針の実現に向けて「キユーピーグループ サプライヤーガイドライン」を定め、サプライヤーとの相互理解のもとサプライチェーンにおけるさまざまな課題解決を行い、持続可能な調達およびサプライヤーとの共存共栄をめざして取り組んでいます。

 

 

事象

リスク

リスクへの対応策

製造物責任

異物混入や誤表示など、消費者に健康被害を及ぼす恐れのある製品事故は、重篤なリスクとして常に認識しています。

当社グループ創業以来の品質第一主義を基本として、食品安全マネジメントシステム(FSSC22000)の認証、グループを横断した品質監査の実施、FA(ファクトリー・オートメーション)を活用した製品保証やトレーサビリティ、また自社モニタリングや調達原料の品質規格書管理システムの構築など、制度・システム面から品質保証の充実を推進しています。

加えて、従業員の品質に対する意識と理解が最も重要なことから、OJTや勉強会などさまざまな機会を通じた知識・技術の習得はもちろん、品質第一主義の浸透にも努めており、永続的な企業発展の基盤となる「安全・安心で高品質な食品の提供」を担保するため、万全な体制で取り組んでいます。

自然災害などの不測の事態

巨大台風、豪雨・長雨による洪水や大規模地震などの自然災害の影響が大きくなる可能性があります。それらにより次のようなリスクを想定しています。

 

・製造や物流施設・設備などの破損

・原資材やエネルギーの調達困難

・操業に必要な人員の不足

過去の災害の経験を活かし、当社グループ横断で危機発生時の事業継続計画(BCP)を整備し、対策に取り組んでいます。

東京にある本社の代替機能を関西に設置する体制の整備、非常時の通信ネットワークの整備や物資の備蓄、生産設備や物流設備の補強、不測の事態において生産可能状況を確認するシステムの整備、主要商品に関する生産や原資材調達機能および受注機能を2拠点化することなどにより危機発生時に備えており、災害の種類毎にマニュアルを整備しています。

さらにそれらを確実に運用できるようにするために大規模災害対応訓練(初動対応訓練や商品供給訓練、安否確認訓練)も行っています。

システム障害

近年、ランサムウェアなど高度化した外部からのサイバー攻撃によりシステムが停止することで事業活動に大きな影響が出る可能性があります。

当社グループでは、サイバー攻撃を受けた場合の備えとして「防御システムの多層化」を実施し、迷惑メールや不正アクセスを防ぐ対策に加えて、24時間監視し不審なプログラムの挙動を判定し実行防止するEDRシステムなどによる対策を行っています。

並行して従業員の「リテラシー向上」に向けた対策として、攻撃メールへの対応模擬訓練、情報セキュリティ教育など定期的に実施し、さらに従業員の情報セキュリティ意識を高く保てるよう情報推進委員会が適宜情報を発信しています。

 

 

事象

リスク

リスクへの対応策

人材、労務関連

人材、労務に関しては、主に次のようなリスクを常に想定しています。

 

・製造や物流現場の活動を担う人材が不足すること

・不適切な労働時間管理、過重労働

・ハラスメント

当社グループでは、継続的な採用、教育の充実、労働環境の最適化などにより人材の確保、定着に取り組んでいます。具体的には、作業の効率化、省力化を推進し、IoT、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や各種ロボット、AIの活用に取り組んでいます。加えて外国籍の方が就労し易い環境整備も進め、雇用を拡大していきます。

すべての職場の従業員一人ひとりが安心して働くことができ、仕事と家庭生活の両立が実現できる雇用環境の整備を進め、テレワークの積極的な活用、労働時間の適正化や法令に基づく適正な労務管理、ハラスメント予防に関する従業員教育の徹底、内部通報制度(ヘルプライン)の設置などにより労務関連リスクの低減に取り組んでいます。

これらに加え、持続的成長を実現する人材を育成していくために、多様な人材が活躍できる仕組みづくりを実施し、併せて専門性の高い外部人材の採用や登用を推進しています。

海外展開

海外展開においては、主に次のようなリスクを想定しています。

 

・脆弱な経営基盤によるトラブル

・情報管理の不備による漏洩

・模倣品の流通による競争力の侵害およびブランドイメージ毀損

・地政学リスク

海外子会社においても当社グループの理念を浸透させるための現場教育、各種研修などを行っています。また、内部統制システム整備を進めており、具体的には決裁権限の明確化、契約書・規程管理や経理・財務規程、反贈収賄規程、人事評価制度など各種規程や制度の整備・運用、内部通報制度の導入、事業継続計画(BCP)および危機管理訓練などにより経営基盤の強化に取り組んでいます。

さらに会社情報や重要技術情報の取り扱い・セキュリティに関する規程の導入および盤石なICTネットワークの構築に取り組んでいます。

模倣品対策では、市場に出回る当社商標権の侵害品や紛らわしい他社品を排除するとともに、悪意ある商標出願を権利化させないように取り組んでいます。

生産拠点のある地域の政治・経済情勢や法規制の動向を確認し、エリア毎に必要な対応を検討、実施しています。また、国際情勢によって生じるカントリーリスクについては、有形・無形資産の対応、原料調達リスクの分散、知的財産の保護、従業員の退避などの観点で備えています。

 

 

事象

リスク

リスクへの対応策

地球環境問題、気候変動

地球環境問題、気候変動においては、主に次のようなリスクを想定しています。

 

・原資材調達難、価格高騰

・CO排出規制強化

・エネルギーコスト増

・大雨、洪水による生産設備被災

 

これらサステナビリティへの取り組み、対応が不十分と評価された場合、漸次的にレピュテーションが低下する可能性があります。

当社グループでは、サステナビリティにむけての重点課題として環境面では「資源の有効活用・循環」、「気候変動への対応」および「生物多様性の保全」を特定し、グループ全体で取り組んでいます。

当社グループの事業は、自然の恵みに強く依存しているため、原材料の収量の減少や品質の低下、価格高騰など、気候変動によるさまざまな影響を受ける可能性があります。機動的な価格適正化や原料相場に強い体質へ転換するため、ポートフォリオの最適化やグループ連携による調達体制の構築を進めています。気候変動に関連する事象を経営リスクとして捉えて対応すると同時に、新たな機会を見出し企業戦略へ活かします。TCFDへ賛同し、TCFDが提言するフレームワーク「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目に基づいた情報を掲載しています。

 

詳細は「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」を参照ください。

配当政策

3【配当政策】

当社では、配当金を最優先とした株主還元を行うことを基本に、中期経営計画ごとに設定する方針に基づいた株主還元を行っています。安定した配当の継続をめざすとともに、株価動向や財務状況などを考慮しながら、必要に応じて自己株式の取得・消却を検討しています。

内部留保金は、財務体質の強化を図りながら将来の事業展開に備えるため、その充実にも努め、中長期的な視野に立った設備投資や研究開発投資、競争力強化のための合理化投資などに充当していく所存です。配当金は、会社法第459条第1項および第454条第5項の規定に基づき、取締役会の決議によって中間と期末の年2回、剰余金の配当を行うことができる旨を定款に定めています。

2024年度までの中期経営計画の配当金の決定に際しては、1株当たり年間配当金45円以上を前提に、連結配当性向35%以上を基準とするとともに、4年間累計の総還元性向で50%以上を目安としています。

2023年11月期の配当金は、1株当たり年間50円(中間配当金23円、期末配当金27円、連結配当性向52.8%)となります。

 

当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりです。

 

決議年月日

配当金の総額(百万円)

1株当たり配当額(円)

2023年6月30日

3,197

23.00

取締役会決議

2024年1月19日

3,753

27.00

取締役会決議

なお、当社は連結配当規制適用会社です。