2025年3月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(ベトナム事業について)

当社グループは、ジルコニウム化合物の安定的かつ持続可能な調達体制を確立し、中国依存リスクを軽減することを目的として、ベトナム現地法人であるVIETNAM RARE ELEMENTS CHEMICAL JOINT STOCK COMPANY(以下、「VREC」という。)において、オキシ塩化ジルコニウム(以下、「ZOC」という。)の内製化を進めております。2025年7月からの本格稼働を予定し、各種設備の導入や現地体制の強化を進めております。

現在、製造コストの最適化に向けた取り組みも継続しており、生産初期段階においては、安定稼働の実現や製造条件の見直しが必要とされる場面が想定されます。また、エネルギーコストや資材価格の変動といった外部要因により、想定を上回るコストが発生した場合には、当社グループの収益性に影響を及ぼす可能性があります。

これらのリスクに対し、当社グループは、VRECにおける製造工程の安定化とコスト構造の最適化を目的とした専任プロジェクト体制を敷き、課題の早期把握と対応を図っています。進捗状況は週次で管理しており、安定稼働に向けた各種施策を着実に実行しています。また、資材調達の見直しや、現地従業員への教育訓練の強化など、多角的な対応を進めております。万が一、稼働の遅延やコスト改善の進捗が想定を下回る場合には、短期的な収益圧迫や追加的な対応コストが発生する可能性もあるため、事業採算性のモニタリングと柔軟な対応を継続してまいります。

 

(戦略分野の進展について)

当社グループは、自動車排ガス浄化触媒向け製品への依存リスクを低減し、バランスの取れた収益構造への転換を図るべく、半導体、エネルギー、ヘルスケアの3分野を戦略分野として重点的に取り組んでおります。

2025年3月期においては、半導体及びヘルスケア分野において堅調な需要を背景に販売を伸ばし、計画を概ね達成しました。一方で、エネルギー分野においては、主要顧客の在庫調整や電動車市場の減速の影響を受け、販売が伸び悩み、業績計画を下回る結果となりました。

当社グループでは、戦略分野の売上構成比を更に高め、持続的な成長を実現するため、顧客の用途ごとのニーズを的確に捉え、それに対応した提案型の価値提供力を強化していきます。あわせて、開発・製造・営業に加え、新事業創出チームを含む関係部門が一体となり、製品の企画段階から市場導入・拡販に至るまでのプロセスを有機的に連携させ、変化の激しい市場環境にも柔軟かつ迅速に対応できる体制を構築していく方針です。

これらの取り組みが計画通りに進展しない場合、中長期的な収益構造の改善が遅れ、当社グループの財務状況及び企業価値に影響を及ぼすおそれがあります。こうしたリスクに備え、今後も戦略の進捗を継続的に点検・見直し、機動的な対応を徹底してまいります。

 

(為替変動について)

当社グループは、外貨建での収益・債権・債務を多数保有しており、特にベトナム現地法人との親子ローン取引は、為替差損益に大きな影響を与える構造となっております。為替相場の急激な変動が発生した場合、経常利益が大きく変動する可能性があります。こうしたリスクに対し、当社では為替予約やデリバティブ取引の活用などを通じて、為替変動による損益の振れ幅を抑える対応を進めています。為替ヘッジの実施状況や市場動向によっては、なお一定の収益変動が発生する可能性は残ります。

今後も為替市場の動向を継続的に注視し、ヘッジ方針や運用体制の見直しを適宜行いながら、為替変動による経営成績への影響を抑制していきます。

 

(投資設備の減損について)

ZOCの内製化をはじめ、当社グループは国内外において積極的な設備投資を行っておりますが、想定通りの需要が得られなかった場合には減損損失が発生し、業績に影響を与えるおそれがあります。特に、戦略分野での拡販が進展しない場合や製造コストの回収が遅れた場合には、回収可能価額の見直しが必要となり、損益への影響が避けられません。

今後も、需要動向を注視しつつ、柔軟かつ適時な投資判断を行ってまいります。

 

 

(情報セキュリティについて)

当社グループでは、システム導入や社員教育を通じた情報セキュリティ対策を講じておりますが、サイバー攻撃や内部不正による情報漏洩等が発生した場合、社会的信頼の毀損や損害賠償リスクが生じる可能性があります。近年は、攻撃手法の高度化や退職者による情報の持ち出しなど、脅威が多様化・複雑化しており、リスクの特定と対応の難易度も高まっています。

こうした状況を踏まえ、当社ではマニュアルの整備や定期的な訓練、技術的対策の強化を継続的に実施し、情報資産の保護とセキュリティレベルの維持・向上に努めてまいります。

 

(気候変動及び環境規制について)

気候変動への対応として、温室効果ガス削減、省エネ設備導入、排出権取引の活用などに取り組んでおりますが、各国での環境規制の強化によりコスト増加や追加投資が必要となる可能性があります。将来的には、脱炭素技術への対応や環境報告義務の厳格化が企業経営に与える影響が大きくなることが想定されるため、当社としてもこうした動向を注視しながら、必要に応じて対応に向けた行動を進めてまいります。

 

(原料の仕入れについて)

当社グループが取り扱う主要原料であるジルコニウム、希土類、セシウムは、すべて海外からの輸入に依存しており、特定国への過度な依存が構造的なリスクとなっております。現在、ZOCについては、中国及びベトナム現地法人VRECの2拠点から調達する体制を整え、供給リスクの分散を図っています。一方で、イットリウムや中重希土類、セシウムといった一部原料については、依然として供給元が限定されており、地政学的リスクや輸出規制等の影響を受けやすい状況にあります。調達の遅延や価格高騰が生じた場合には、当社の安定供給体制や採算性に影響を及ぼす可能性があります。

こうしたリスクに対し、当社グループでは、原料在庫の積み増しによる備蓄強化に加え、官民一体となった安定調達体制の構築にも取り組んでおります。引き続き、複数調達先の確保やリスクの早期把握・対応を通じて、持続可能な供給網の整備を推進してまいります。

 

(海外事業活動におけるカントリーリスクの影響について)

アジアや北米などでの事業展開において、政情不安や貿易摩擦、規制変更などの影響を受ける可能性があります。とくに米中対立の長期化は、調達・販売に影響を及ぼすリスクが高まっており、継続的な情報収集と社内共有を通じて対応を図っています。

今後は、カントリーリスクの変動に応じて、サプライチェーンの見直しや再構築を進めるとともに、グローバルな規制への対応力を高め、外部環境の変化に柔軟かつ確実に対処できる体制を整えていきます。

 

(自然災害・事故災害による影響について)

当社グループは、海外を含め、生産及び物流の拠点を分散配置することで、リスクの低減を図っております。しかしながら、地震・台風等の自然災害によって生産拠点が被災した場合や物流網の遮断等が発生した場合においては、当社グループの経営成績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

これに対して、当社グループでは、可能かつ妥当な範囲で保険を付すとともに、事業継続計画(以下、「BCP」という。)の策定・整備を進めております。

 

配当政策

3 【配当政策】

当社の利益配分についての考え方は、将来の事業展開と経営体質の強化のために必要な内部留保を確保しつつ、安定した配当を継続することを基本方針としております。業績と戦略分野への投資推進等を総合的に勘案しながら配当性向30%を基本とし、積極的に利益還元を行ってまいります。

当社は、中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としており、これらの剰余金の配当の決定機関は、取締役会の決議で行う旨を定款に定めております。

当事業年度の配当につきましては、本配当方針と現下の経営状況に鑑み、期末配当金を1株につき14円とし、中間配当金12円とあわせて年間26円の配当といたします。

内部留保資金につきましては、今後予想される経営環境の変化に対応すべく、今まで以上にコスト競争力を高め、市場ニーズに応える技術・製造開発体制を強化し、更には、グローバル戦略の展開を図るために有効投資をしてまいりたいと考えております。

また、当社は2025年5月度開催の取締役会において、配当方針の変更を決議いたしました。変更後の配当方針は、株主の皆様への安定した還元姿勢をより明確にするため、配当性向30%を基本とすることに加え、新たな指標として業績の変動に左右されにくい株主資本配当率(DOE)1.8%を下限に追加し、当社の成長と株主還元の両立を目指してまいります。変更後の配当方針は2026年3月期より適用いたします。

なお、当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりであります。

 

決議年月日

配当金の総額
(百万円)

1株当たり配当額
(円)

2024年11月12日

290

12.00

取締役会

2025年5月13日

取締役会

339

14.00