リスク
3 【事業等のリスク】
当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」)に重要な影響を及ぼす可能性のある主なリスクには以下のようなものがあります。当社は、これらのリスクが発生する可能性を認識した上で、発生の防止または最小化に努めるとともに、発生した場合には的確な対応に努めていく方針です。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものです。また、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見できない又は重要と見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。
(1) 新製品の研究開発に関わるリスク
当社グループは、独創性の高い国際的に通用する有用な新製品の開発に取り組んでいます。しかしながら、新薬開発の難度が高まる中、開発が必ずしも計画どおりに進み承認・発売に至るとは限らず、有効性や安全性の観点から開発が遅延し、または開発を中止しなければならない事態も起こり得ます。大型化を期待している研究開発品目においてそのような事態が発生した場合には、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは研究開発リスクも踏まえつつ、医薬品および再生医療等製品の研究開発に注力し、精神神経領域、がん領域およびその他領域(感染症領域等)における選択と集中を進めています。また、戦略的な計画の策定、効率的な研究開発をグローバルで連携して推進しています。当社では、開発ステージの移行時期にあわせて計画修正の是非等を確認する会議体などを通じて適宜研究開発方針を見直し、適切にポートフォリオを管理しています。
(2)連結売上収益に関するリスク
当社グループの収益の柱である、オルゴビクスおよびジェムテサ(以下「当該製品」)の当連結会計年度の北米での売上収益は、当社連結売上収益の37%を占めています。当該製品の有力な競合品の出現(これには先発医薬品メーカーによる競合品の上市のほか、後発医薬品メーカーによる当該製品の競合品の発売が含まれますが、これらに限りません。)または原材料調達を含むサプライチェーンへの影響その他の予期せぬ事情等により、売上収益が減少した場合には、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(3) 知的財産権に関わるリスク
当社グループは研究開発において種々の知的財産権を保有していますが、当社グループの技術を十分な範囲で権利化できない場合、競合他社が当社グループの知的財産権を回避した場合、または当社が厳格に管理しているノウハウなどの営業秘密が予期せぬ事態により外部に流出した場合には、競争上の優位性を確保できない可能性があります。また、当社グループの事業は多くの知的財産権によって保護されていますが、保有する知的財産権が第三者に侵害された場合のほか、知的財産権の有効性や帰属を巡る係争が発生した場合には、競争上の優位性を十分に保持できない可能性があります。これらのリスクが顕在化した場合には、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。他方、当社グループは、事業活動に必要な知的財産権について適法に使用する権限を有していると認識していますが、当該認識の範囲外で第三者の知的財産権を侵害する可能性があります。
当社グループでは、主となる物質特許のみならず、用途、製法、製剤などの関連特許を含めたパテントポートフォリオを構築し、製品および開発品の総合的な保護を図っています。
(4) 医療制度改革について
国内においては、少子高齢化の急速な進展等により国家財政が悪化する中、先発医薬品の価格抑制や長期収載品の選定療養の導入、毎年の薬価改定などの薬剤費抑制策が図られ、あわせて医療制度改革の論議も続けられています。また、米国においては、インフレーションが進む中でブランド薬の適正な価格の維持、負担について議論が進められています。さらに、中国においては国家医療保険償還医薬品リスト収載による価格引き下げや集中購買制度による安価な後発医薬品の使用が推進されています。医薬品市場は各国の政策による様々な規制を受けており、これら各国の薬価・医療制度改革の方向性によっては当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(5) 副作用に関わるリスク
医薬品は開発段階において試験を実施し、世界各国の所轄官庁の厳しい審査を受けて承認されていますが、市販後に新たな副作用が見つかることも少なくありません。当社グループが販売する医薬品について市販後に予期せぬ副作用が発生した場合は、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、国内外で収集された安全性情報をデータベースで一元管理して評価し、医薬品の安全性確保および適正使用のために必要な対策を立案し、タイムリーな安全対策の実施につなげています。このような活動は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」や「医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後安全管理の基準に関する省令」を遵守した医薬品安全性監視活動として実践しています。
(6) 品質に関わるリスク
当社グループは、自社もしくは委託先の製造所において、厳格な品質保証の下で製品の製造を行っていますが、重大な品質問題が発生した場合には、製品回収、行政処分、社会的信用の毀損等により、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。当社製品のグローバルな製造および流通については、関係各国の薬事法、医薬品等の製造管理及び品質管理の基準(GMP)等の薬事関連法規や、医薬品規制調和国際会議(ICH)ガイドライン等に準拠するとともに、厚生労働省所管の独立行政法人である独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)、米国食品医薬品局(FDA)等の所管当局の厳しい査察を受け、許可を得ています。また、これら製造所に対しては当社グループにて定期的な品質監査を行い、重大な品質問題や法令違反がないことを確認しています。さらにグローバル品の製造所に対しては、海外提携企業からの品質監査も受けており、グローバルレベルの厳しい品質基準もクリアする、高い品質保証体制や構造設備基準を整えています。
(7) 主要な事業活動の前提となる事項について
当社グループの主な事業は医療用医薬品事業であり、国内においては、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」等の薬事に関する法令に基づき、その研究開発および製造販売等を行うにあたり、「第一種医薬品製造販売業」、「第二種医薬品製造販売業」(いずれも有効期間5年)等の許可等を取得しています。また、海外においても医療用医薬品事業を行うにあたっては、当該国の薬事関連法規等の規制を受け、必要に応じて許可等を取得しています。これらの許可等については、各法令で定める手続きを適切に実施しなければ効力を失います。また各法令に違反した場合、許可等の取消し、または期間を定めてその業務の全部もしくは一部の停止等を命ぜられることがある旨が定められています。当社グループは、現時点において、許可等の取消し等の事由となる事実はないものと認識していますが、将来、当該許可等の取消し等を命ぜられた場合には、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、コンプライアンスの推進を全ての事業活動の土台と位置付け、「行動宣言」において誠実な企業活動を行うことを宣言し、法令および企業倫理の遵守に努めています。当社では、「コンプライアンス行動基準」を制定し、事業活動における具体的な行動の規範としています。また、当社および国内外におけるグループ会社のコンプライアンスに関する事項を統括するコンプライアンス担当執行役員を設置しています。コンプライアンス担当執行役員は、当社のコンプライアンス委員会に加えて、国内グループ会社コンプライアンス委員会および海外グループ会社コンプライアンス委員会の委員長を務めるとともに、各委員会の活動状況を取締役会に報告しています。
(8) 訴訟に関わるリスク
当社グループの事業活動に関連して、医薬品の副作用、製造物責任、公正取引等に関連し、訴訟を提起される可能性があります。これらの訴訟およびその他の訴訟には性質上不確実性があり、その動向によっては、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(9) サプライチェーンマネジメントに関するリスク
当社グループの工場や原材料調達先、外部製造委託先などのサプライヤーが、品質や技術上の問題、火災、地震、その他の災害、サイバー攻撃、感染症拡大等により閉鎖または操業停止となり、製品の供給が遅滞もしくは休止した場合、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、予測を超える急激な需要変動が生じた場合、製品の安定供給に支障をきたす可能性があります。当社では、事業継続計画(BCP)の定期的な見直しおよび教育訓練の実施、製品在庫の適正化、原材料調達先の複数化、サプライヤーとの連携強化、製品別リスクアセスメントの推進など、医薬品の安定供給体制を整備し、サプライチェーン全体でリスクの低減を図っています。また、サプライヤーにも「住友ファーマ ビジネスパートナーのためのサステナブル行動指針」の遵守をお願いすることで、当社グループと同様のサステナビリティへの取組を求めています。
(10) 非金融資産の減損損失リスク
当社グループは、持続的成長のために、企業買収や開発品の導入等を行っていますが、これに伴い、のれんおよび特許権や仕掛研究開発等の無形資産を計上しています。前連結会計年度において、北米事業の事業予想を見直したことにより、「マイフェンブリー」に係る特許権(無形資産)の一部およびのれんの一部について、それぞれ1,335億円および359億円を減損したことに加え、一部の開発品目の開発を中止したことにより、当該開発品に係る仕掛研究開発(無形資産)について106億円を減損するなど、総額1,809億円の減損損失を計上し、当連結会計年度においては、「ツイミーグ」に係る特許権(無形資産)42億円を減損するなど、総額55億円の減損損失を計上しました。今後も、開発の中止や当初想定した利益の実現が見込めないこと等による期待する将来利益の低下、金利動向による割引率の上昇等により、買収および導入等から見込まれる回収可能価額が、のれんや無形資産の帳簿価額を下回ると想定される場合、減損損失が発生し、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、定期的にこれらののれんや無形資産の減損テストを通じて評価額を把握し、適切に処理しています。
(11) 金融資産に関わるリスク
当社グループは、他社株式等の金融資産を保有しています。これら保有する金融資産の市場価額または公正価値が帳簿価額を下回った場合、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。当社は、企業提携、重要な取引先との取引関係の構築・維持その他事業上の必要性のある場合を除き、新たに他社の株式を保有しないこととしています。また、定期的にこれらの金融資産の評価額変動の把握および必要な処理を行っています。
(12) 金融市況および為替変動による影響について
金利や株価などの金融市況の変動によっては、借入金等の支払利息が増加するほか、確定給付制度債務の増加や制度資産の減少など、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、為替相場の変動によっては、外貨建て金融資産および連結子会社業績等の円換算において、重要な影響を受ける可能性があります。
(13) 資金調達に関するリスク
当社は、過去の企業買収などに関連して、金融機関からの借り入れや社債などにより資金を調達しています。これらの債務の中には、財務制限条項が付されているものもあり、当該財務制限条項に抵触した場合には、期限の利益の喪失等により当社の財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
また、将来、当社の財務状況の悪化や親会社による債務保証の終了などによる信用格付けの引き下げや、世界的な経済状況の変化により、資金調達が計画どおりに実施できない場合、支払利息の増加や、当社が希望する条件で資金調達することが困難になり、当社グループの経営成績や財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(14) 親会社との取引について
当社と親会社である住友化学との間で、研究所および工場の土地賃借、これらの事業所等で使用する用役や主に原薬を製造する際に使用する原料の購入契約を締結しています。当該契約等は、一般的な市場価格を参考に双方協議のうえ合理的に価格が決定され、当事者からの申し出がない限り1年ごとに自動更新されるものです。また、当社グループの金融機関からの借入金等について、親会社による債務保証を受けています。このほか、親会社から出向者の受入を行っています。今後も当該取引等を継続していく方針ですが、親会社との契約・取引内容等に変化が生じた場合には、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。
当社が親会社と行う重要な取引等については、当社の企業価値の向上の観点からその公正性および合理性を確保するために、グループ会社間取引利益相反監督委員会への諮問を経て取締役会において承認を得ることとするなど、重要性に応じて適切に監督しています。
(15) 海外事業展開、大規模災害・感染症等に関するリスク
当社グループは、北米、中国、東南アジアを中心にグローバルな事業活動を展開していますが、各国の規制・制度変更や外交関係の悪化、政情不安、紛争等のリスクが内在しており、このようなリスクに直面した場合、当社グループの事業計画が達成できず、経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、大規模災害や感染症の大流行に直面した場合、当社グループの事業計画が達成できず、経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。当社では、事業活動に影響を及ぼすリスクに対応するため「リスクマネジメント規則」を制定し、社長がリスクマネジメントを統括することを明確にするとともに、リスクごとにマネジメントを推進する体制を整備しています。大規模災害発生・感染症の大流行に際しては、直ちに対策本部を設置して全社的な対応体制を構築するとともに、医薬品企業の使命として製品供給を第一に考え、生産・供給体制を整備いたします。
(16) 情報管理に関するリスク
当社グループは、各種情報システムを使用しているため、システムの障害やコンピューターウィルス等により、業務が阻害される可能性があります。また、個人情報を含め多くの機密情報を保有していますが、これらが社外に漏洩した場合には、損害賠償、行政処分、社会的信用の毀損等により、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。さらに、サイバー攻撃により、当社グループまたはビジネスパートナーのシステムやネットワークに障害が発生し、または当社グループの機密情報が漏洩した場合は、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、記録・情報の取扱いおよびITセキュリティに関するルールを定め、継続的に社員教育を実施し、適切な運用に努めています。また、サイバー攻撃への対策として、Computer Security Incident Response Team(CSIRT)を設置し、外部からの不正アクセスを常時監視するとともに、有事の際に迅速かつ適切に対処する体制を整備しています。
(17) 環境保全に関するリスク
当社グループは、研究開発および製品製造のために種々の化学物質を使用しており、重大な環境問題が発生した場合には、操業停止、行政処分、社会的信用の毀損等により、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、将来の環境関連法規制等の強化、環境負荷低減の追加的な義務等による環境保全に関連する費用が増加した場合、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。更には、地球規模の課題である気候変動およびそれに関連する水リスクに関して、大型台風や集中豪雨等の自然災害の増加が国内外事業所および調達先での操業に影響した場合や炭素税導入などの規制強化によって原材料・用役コストが増加した場合にも、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
気候変動に関するリスクと機会については、TCFD(Task Force on Climate Related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿った取り組みを進め情報開示を行っています。今後もステークホルダーとの対話を大切にし、様々な視点から気候変動によるリスクと機会を見つめなおし、「緩和」と「適応」の両面から考えることで、より一層のリスク低減を図るとともに、的確に機会をとらえていきます。
(18) 継続企業の前提に関する重要事象の解消
当社グループは、前連結会計年度において、多額の親会社の所有者に帰属する当期損失を計上し、シンジケートローン契約に付されている財務制限条項への抵触による期限の利益の喪失事由に該当しました。
この状況に対し、基幹3製品をはじめとした既存製品の事業拡大を図るとともに、グループ全体での抜本的構造改革を断行することにより、当連結会計年度において親会社の所有者に帰属する当期利益を計上しました。
また、当該シンジケートローン契約については、新たなシンジケートローン契約の締結により財務制限条項への抵触を解消するとともに、当面の安定的な資金を確保しました。
以上により、当連結会計年度末において継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような状況は解消したものと判断しています。
なお、上記以外にもさまざまなリスクがあり、ここに記載されたものが当社グループのすべてのリスクではありません。
配当政策
3 【配当政策】
当社は、株主の皆様へ常に適切な利益還元を行うことを最も重要な経営方針の一つとして位置付けています。
当社は会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨を定款に定めているため、当社の剰余金の配当は、中間配当および期末配当の年2回を基本的な方針としています。配当の決定機関は、中間配当は取締役会、期末配当は株主総会です。
配当方針につきましては、業績に裏付けられた成果を適切に配分することを重視しており、安定的な配当に加えて、業績向上に連動した増配を行うこととしています。また、企業価値のさらなる向上に向け、将来の成長のための積極的な投資を行いつつ、強固な経営基盤の確保と財務内容の充実を図っています。
前連結会計年度は、多額の減損損失を計上したことなどに伴い、親会社の所有者に帰属する当期損益は3,150億円の損失と、大変厳しい業績となったことから無配といたしました。
当連結会計年度の業績は、基幹3製品の伸長に加え、北米および日本における事業構造改善等によるコスト削減効果の発現もあり、コア営業損益は432億円、親会社の所有者に帰属する当期損益は236億円と大きく改善しました。しかしながら、前連結会計年度末に発生したシンジケートローン契約に付されている財務制限条項への抵触については、当連結会計年度末に実施したリファイナンスにより解消したものの、当連結会計年度末の有利子負債残高は3,054億円と財務面では依然として厳しい状況が続いており、2025年3月期の期末配当については、期初の予想のとおり、無配とさせていただきます。
また、2026年3月期はコア営業利益560億円を見込みますが、当面は財務体質の改善を優先する必要があることから、2026年3月期の配当についても、誠に遺憾ながら無配を予定しています。