事業内容
セグメント情報
セグメント情報が得られない場合は、複数セグメントであっても単一セグメントと表記される場合があります
-
セグメント別売上構成
-
セグメント別利益構成 セグメントの売上や利益は、企業毎にその定義が異なる場合があります
-
セグメント別利益率
最新年度
単一セグメントの企業の場合は、連結(あるいは単体)の売上と営業利益を反映しています
セグメント名 | セグメント別 売上高 (百万円) |
売上構成比率 (%) |
セグメント別 利益 (百万円) |
利益構成比率 (%) |
利益率 (%) |
---|---|---|---|---|---|
(単一セグメント) | 2,431 | 100.0 | -1,336 | 100.0 | -54.9 |
事業内容
3【事業の内容】
(1) 事業環境
バイオ関連技術の発明と発達とともに、医薬品産業における成長の源泉である新薬の創出は、化学合成による低分子医薬品から、抗体医薬品を中心とするバイオ医薬品をはじめ、細胞医薬・遺伝子治療等の新規創薬モダリティ(治療手段)を含むバイオロジクスへと大きく移行しています 。新たな技術によって、今まで治療が困難であった様々な疾患に対する画期的な治療薬が開発され、グローバル医薬品売上高上位の半数以上をバイオロジクスが占めるようになりました。また、創薬モダリティの多様化に伴って、新薬創出の80%はバイオベンチャーが担うなど、医薬品産業においてバイオベンチャーの存在感が世界的に高まっています。
このように、新たな技術が多くの患者の健康に寄与する一方で、技術の高度化・複雑化等に伴う研究開発期間の延伸や開発費・製造費の高騰等を反映し 、新たに開発された医薬品の薬価が上昇するとともに、医薬費の増大が進んでいます。医薬費の削減に向けた取り組みとして、日本を含む多くの国々においては、 既に低分子医薬品の後発品であるジェネリック医薬品の使用が一般化しています。また、多くの大型品を含むバイオ医薬品についても、今後次々と先行品の特許期間・再審査期間の満了を迎える時期を迎えていることから、その後続品であるバイオシミラーについても、普及が進んでいくことが見込まれております。
(2) 当社のビジネスモデル
当社は、創業事業であり先行バイオ医薬品の研究開発を行うバイオ新薬事業、先行バイオ医薬品の後続品であるバイオシミラーの開発及び開発品の上市達成後における原薬等の供給を行うバイオシミラー事業、乳歯歯髄幹細胞(SHED: Stem cells from Human Exfoliated Deciduous teeth,シェド)を活用した再生医療等製品の実用化を目指す細胞治療事業(再生医療)の3つを主要事業としてまいりました。しかし、当事業年度において、新たな経営体制での協議、検討の結果、企業価値の最大化と株価の回復・成長の早期実現を目的として、3事業に分散していた経営資源を、安定的な収益基盤であるバイオシミラー事業と成長基盤である細胞治療事業に戦略的かつ集中的に投下することを決定いたしました。なお、バイオ新薬事業につきましては、既に取得済みの研究成果の外部機関での活用に向けた事業開発活動に専念いたします。経営資源の戦略的な投下に加え、構造改革等を通じて事業間の連携を強化し、事業ごとに蓄積してきた研究開発ノウハウ、経験、知見を組み合わせることで、バイオシミラー事業と細胞治療事業における研究開発活動を更に効率的かつ強力に推進してまいります。
(3) 当社のビジネスモデルの特長
当社は、市場ニーズを勘案した医薬品開発を重視し、以下の2点を特長とした研究開発活動を行っております。
① ハイブリッド事業体制
バイオシミラー事業においては、既に長年に渡る治療実績を 有する先行バイオ医薬品と同等の品質、安全性及び有効性を有する医薬品を開発しており、新たなサイエンスや技術に過度に依存しないために、先行品の開発と比べ、開発リスクが限定的で開発計画が立てやすく、より少ない経営資源で開発が可能です。一方で、バイオシミラーの薬価は原則先行品の70%と定められているために、高い収益性を確保するためには製造費用を引き下げる必要があります。
一方、多くのバイオベンチャーも取り組む細胞治療事業においては、従来の医薬品で治療の難しい疾患に対して革新的な医薬品開発の可能性があり、大きな収益成長が期待できる反面、新たなサイエンスと技術に大きく依存しているために、バイオシミラー事業と比較して開発リスクは大きく、研究開発には多くの経営資源を投入する必要があります。
そこで当社は、安定性の高いバイオシミラー事業で安定的な収益基盤を築きながら、細胞治療事業に取り組むことで高い成長性を目指す、ハイブリッド型の事業モデルを構築しております。。
② バーチャル型研究開発及びプロジェクトマネージメント
医薬品開発には、薬効・薬理研究、製造プロセス開発、GMP製造、臨床開発等、多岐にわたる人財や施設が必要な一方、当社の経営資源には限りがあるため、全てを当社単独で担うことできません。そこで当社は、社外の受託機関の積極的な活用を前提に、バイオロジクスの研究と製造プロセス開発等に当社の人的資源を集中し、専門性の向上に努めています。また、当社が主体となって製造受託機関等との連携を強化することで、当社人的資源の効率的な活用と設備投資の大幅な削減に取り組み、プロジェクトごとに最適な製造プロセス開発体制を構築することで、それぞれの得意分野を融合し、開発力強化・開発スピード向上を図っております。
また、当社は、パートナー製薬企業との早期連携による開発費用の分担を進めるとともに、上述の人的資源の効率的な活用と合わせて、同時並行で複数の開発プロジェクトに取り組む体制を整え、開発リスクの分散を進めています。
(4) 開発の流れ、収益モデル及び開発品目の選定方針
① バイオシミラー事業
バイオシミラー事業においては、患者の経済的負担の軽減による治療継続や、医療費削減による健康保険制度の維持に向け、先行バイオ医薬品と同等の品質・安全性・有効性を有するバイオシミラーの事業化に取り組んでいます。今後も国内外の大手製薬企業等により多くの先行バイオ医薬品が開発され、上市後に特許期間・再審査期間が満了を迎えることで、新たなバイオシミラーの参入機会が提供されることに加え、2029年までに先行品からの置き換え率が80%超の成分を全体の6割以上に引き上げるとす る厚生労働省によるバイオシミラーの普及目標の設定、バイオシミラーの使用促進に向けた診療報酬の新設等を受け、バイオシミラー市場は継続的に拡大することが予測されています。
当該事業では、現在日本国内において承認されているバイオシミラー18製品 の内4製品の開発に携わり、当該4製品全てが市場に1番手で上市した結果、上市済み製品による販売収益等が、研究開発費を除いた一般管理費、すなわち固定費を上回る利益を生み出す規模に成長し、今後中期的に安定的かつ継続的な収益を生み出すことが想定されることから、バイオベンチャーとしては特長的な戦略である「安定と成長の両立」による企業価値最大化を支える重要事業と位置付けております。
イ 開発の流れ(図表1、図表2)
バイオシミラー事業において求められるのは、先行バイオ医薬品と同等の品質、安全性及び有効性を有する医薬品を開発することですが、そのための取り組みは、バイオシミラー原薬製造の根幹である産生細胞株の構築、あるいは既に研究機関等が構築を終えた産生細胞株の導入から始まります。産生細胞株の構築または又は導入後に、製造受託企業と協業して、当該産生細胞株を用いて原薬製造プロセスの開発・最適化に取り組みますが、バイオ医薬品の原薬製造プロセスは、化学合成による原薬製造プロセスと比べて複雑であり、経験の蓄積に裏付けされた様々な問題解決能力が求められます。そして、原薬製造プロセスの開発が進んだところで、物性、工程由来不純物、活性が先行バイオ医薬品と同等であることを確認するための品質特性比較試験を実施します。なお、産生細胞株の構築・導入段階からパートナー候補製薬企業との提携協議を開始し、原薬製造プロセス開発や品質特性比較試験と同時並行で提携交渉を進めることで、より早期にパートナー製薬企業との提携を実現し、製剤製造プロセス開発、安全性及び有効性評価の為の非臨床試験、臨床開発については、遅延なく当該パートナー製薬企業が実施できる開発体制を構築します。
製剤製造プロセス開発後は、原則パートナー製薬企業が臨床開発を主導し、臨床試験において先行バイオ医薬品との安全性及び有効性の同等性が確認された後に、厚生労働省にバイオシミラーの製造販売承認の申請を行います。パートナー製薬企業が主導する臨床開発段階において、当社は、製造受託企業に原薬等の製造を委託し、当該原薬等をパートナー製薬企業に提供するとともに、パートナー製薬企業に対して開発推進及び製造・品質に関する承認申請資料作成支援を行います。さらに、バイオシミラーの上市後にも、パートナー製薬企業に対する原薬等の提供を通じて、当該バイオシミラーの安定供給に貢献しております。
図表1 開発の流れと収益モデル(バイオシミラー事業)
(注) 各開発ステージにおける年数は、一般的なバイオシミラー開発における所要年数であります。
図表2 事業系統図(バイオシミラー事業)
ロ 収益モデル(図表1)
現在の事業モデルにおける、バイオシミラー事業の収益としては、臨床試験開始や製造販売承認の申請、上市等、開発の進捗によって得られる開発マイルストンペイメントによる収益と、開発段階及び上市後において、バイオシミラー原薬等をパートナー製薬企業に供給することによって得られる販売収益があります。また、契約体系によっては、パートナー製薬企業の販売実績に応じたロイヤリティ収益を得ることもあります。
ハ 開発品目の選定方針
バイオシミラー事業において求められるのは、既に長年に渡る患者の治療実績を有する先行バイオ医薬品と同等の品質、安全性及び有効性を有する医薬品の開発であり、新たなサイエンスや技術に過度に依存しないために、先行品の開発と比べ、開発リスクが限定的で開発計画が立てやすく、より少ない資金で開発が可能です。一方で、バイオシミラーの薬価は原則先行品の70%と定められているために、先行品と比べて製造コストを大きく引き下げることが、プロジェクトの収益性には重要です。また、バイオシミラーの市場シェアは上市の順番で大きく変動する可能性が高いことから、先行品の特許期間・再審査期間の満了に合わせて一番手で上市できるように開発を進める必要があります。そのために、数多く上市している先行バイオ医薬品の中から、市場 規模、特許期間・再審査期間の満了時期、競合他社の存在等に基づいて、開発品の選定を進めます。
なお、開発品であるバイオシミラーの市場規模については、先行バイオ医薬品の薬価 を基に算出される当該バイオシミラーの薬価、先行品の数量ベースの市場規模、バイオシミラーへの置換率の3つを乗じて求めることができます。このようにして求めたバイオシミラーの市場規模に、当社開発品の想定シェア、原価率等を乗じることで当社の売上や利益予測を行い、想定開発費等と合わせて正味現在価値を求め、開発品の最終的な選定を行います。
② 細胞治療事業(再生医療)
細胞治療事業においては、2019年3月に買収した株式会社セルテクノロジーの技術を基に、健常小児ドナーの乳歯から採取できるSHEDを活用し、革新的な再生医療等製品等の研究開発に取り組んでおり、当社の飛躍的な事業価値向上を支える成長事業と位置付けております。細胞治療(再生医療)は、これまで有効な治療法のなかった難病や希少疾患等の治療ができるようになることが期待され、2012年にiPS細胞の発見に対して京都大学山中伸弥教授らがノーベル医学・生理学賞を受賞したことも受け、応用研究や産業化に向けた取り組みが大きく進捗しています。
当社が事業化に取り組むSHEDは、すでに一部の疾患で実用化され安全性が確認されている間葉系幹細胞(MSC)の一種ですが、これまで広く研究されてきた骨髄や脂肪組織由来のMSCと異なり、小児の組織由来であることから細胞の年齢が若く、増殖能が高いため、わずか1本の乳歯から大量の再生医療等製品等の製造が可能です。また、原料となる乳歯は日本国内で安定的・持続的に入手可能であることから、海外ドナー由来の再生医療等製品等と比べて、安定的な医療の提供が可能になる点も、再生医療等製品の原料として重要な要素です。
2019年以降、自社及びパートナー企業・アカデミアとの連携・共同研究を通じて、SHEDのサイエンスを追求するとともに、SHEDを原料とする再生医療等製品の製造法の開発に取り組んでまいりました。2020年3月には、経済産業省から、再生医療等製品の製造を目的としたヒト細胞原料の供給における法的・倫理的・社会的課題を整理した「ヒト(同種)細胞原料供給に係るガイダンス(初版)」(2021年3月に第2版を公表)が取りまとめられるなど等、事業環境の整備も進んだ結果、当社は2022年8月に国内において臨床応用可能なSHEDマスターセルバンク(MCB)構築を完了させ、さらには2024年3月に米国FDA基準に準拠したMCBの製造も完了しており、MCBを用いた再生医療等製品の臨床開発に向けた取り組みを着実に進めています。また、この過程で構築した、乳歯ドナーの募集から、提携する医療機関での抜歯、GMP施設におけるMCB製造に至る一連のシステム(S-Quatre®、エスカトル)を活用し、自社パイプラインだけでなく、再生医療等製品やエクソソーム等の細胞関連医薬品を開発する他企業に向けて、MCBを提供するプラットフォームビジネスとしての展開にも取り組んでおります。
なお、当社独自の製造法によるSHED(SQ-SHED:2024年4月1日付で当社100%子会社として株式会社S-Quatre設立によりKWB-SHEDから呼称変更)は、他の組織由来のMSCや、同じSHEDでも一般的な方法で製造したSHEDとは異なる遺伝子発現パターンを示し、特に神経成長、血管新生、細胞遊走に関する遺伝子発現が高く、関連するタンパク栄養因子の産生量も高いことを見出しております。また、実際に、SQ-SHEDがこれらの生物活性を強力に促進することを、細胞機能試験及び動物モデル試験において確認し、2022年10月に特許出願いたしました。
イ 開発の流れ(図表3、図表4)
細胞治療事業の研究開発において、再生医療等製品等の原料となるSHEDについてサイエンスの追求が重要であることは当然ですが、将来的な安定供給に向けたSHEDの製造プロセス開発についても優先的に取り組んできました。なお、これらの基礎研究活動については、自社研究及びパートナー企業・アカデミアとの連携・共同研究の実施に加え、研究の加速や研究データの信頼性の保証と 再現性の確認のために、試験受託機関への研究委託も積極的に活用しています。また、これらの基礎研究活動から得られたデータを基に、SHEDを活用した再生医療等製品等の対象疾患を選定し、当該疾患に対する有効性と安全性の予備的試験を実施するとともに、製造受託機関と協業して、臨床開発に向けた製造プロセスの確立を進めています。
なお、バイオシミラー事業と異なり、細胞治療事業においては、自社開発品を守るための特許戦略も欠かせない重要な取り組みです。基礎研究や製造プロセス開発から得たデータ、そして他社特許の調査を基に、積極的に特許出願を進めています。
基礎研究や製造プロセス開発、特許出願等の取り組みと同時並行で、パートナー候補製薬企業との協議を継続しています。臨床開発以降は、原則パートナー製薬企業が主導し、臨床開発において安全性及び有効性が確認された後に、厚生労働省に再生医療等製品等の製造販売承認の申請を行います。パートナー製薬企業が主導する臨床開発段階において、当社は、製造受託企業に原薬たる細 胞等の製造を委託し、当該原薬等をパートナー製薬企業に有償で提供するとともに、パートナー製薬企業に対して開発推進及び製造・品質に関する承認申請資料作成支援を行います。さらに、再生医療等製品等の上市後にも、パートナー製薬企業に対する原薬たる細胞等の提供を通じて、当該再生医療等製品等の安定供給に貢献することを想定しています。
図表3 開発の流れと収益モデル(細胞治療事業)
図表4 事業系統図(細胞治療事業)
ロ 収益モデル(図表3)
細胞治療事業の収益としては、パートナー製薬企業との提携時に得られる契約一時金収益、臨床試験開始や製造販売承認の申請、上市等、開発の進捗によって得られる開発マイルストンペイメントによる収益と、開発段階及び上市後において、再生医療等製品等の原料となる 細胞等をパートナー製薬企業に供給することによって得られる販売収益があります。また、契約体系によっては、開発段階において、当社のノウハウなど等をパートナー製薬企業に提供することで得られる役務収益や、パートナー製薬企業の販売実績に応じたロイヤリティ収益を得ることもあります。
ハ 開発品目の選定方針
細胞治療事業の開発品目の選定においても、バイオシミラー事業と同様に、想定される市場規模、収益性等を考慮します。一方で、革新的な医薬品に対するニーズ、既存の医薬品とSHEDを活用して開発する再生医療等製品等との経済性評価についても、開発品の選定に欠かせない視点です。なお、研究開発活動の進捗や競合環境、規制等を踏まえた開発品の優先順位の変更に加え、研究開発活動の中断・中止判断も適切に行うことで、開発可能性を高め、開発パイプラインの最適化に努めています。
(5) 主力上市品・開発品
バイオシミラー事業においては、パートナー製薬企業と協業して、既に4製品を上市させた実績を有しています。また、今後多くの大型品を含む先行バイオ医薬品の特許期間・再審査期間が満了を迎える時期を迎えていることから、その後続品であるバイオシミラーの参入機会が次々と訪れることが予想され、当社も新規バイオシミラーの開発について、複数のパートナー候補製薬企業等との協議を継続しております。継続的な新規バイオシミラーの上市を可能とするパイプラインの構築により、安定的な収益基盤の強化に取り組んでいます。
また、細胞治療事業(再生医療)においては、共同研究成果を基に、脳性麻痺を対象とした臨床研究が名古屋大学において実施されています。自社研究に加え、他のバイオベンチャーや大学等との共同研究にも積極的に取り組むことで、開発パイプラインの強化を図っています。
① バイオシミラー事業
・フィルグラスチムバイオシミラー(開発番号:GBS-001、対象疾患領域:がん)
顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)は、白血球の一種である好中球の分化・増殖を促進させるほか、骨髄からの好中球の放出を促進したり好中球機能を亢進する作用があります。当社は、2007年10月より富士製薬工業㈱と共同で当該バイオシミラーの開発を推進し、2012年11月21日に富士製薬工業㈱と持田製薬㈱が国内での製造販売承認を取得し、2013年5月31日に上市しました。現在、当社は富士製薬工業㈱に対する当該医薬品原薬の安定供給を担っており、富士製薬工業㈱が当該バイオシミラーの販売を行っております。当社のフィルグラスチムバイオシミラーの産生細胞株は韓国のDong-A ST Co., Ltd.(旧東亜製薬㈱)から導入しており、同社にはロイヤリティを支払っております。なお、他社によるバイオシミラーを含めて、先行品からの置き換え率は80%を超えています。
・ダルベポエチンアルファバイオシミラー(開発番号:GBS-011、対象疾患領域:腎疾患)
当該先行品は、腎性貧血治療薬であるエポエチンアルファの効果の持続性を高めた製品です。当社は、日本市場に向けて㈱三和化学研究所と当該バイオシミラーの共同開発を推進し、2019年9月20日に㈱三和化学研究所が国内での製造販売承認を取得し、2019年11月27日に上市しました。以後、製造販売については㈱三和化学研究所が単独で行い、当社は販売売上に応じた利益の分配を受けております。なお、他社によるバイオシミラー等を 含めて、先行品からの置き換え率は80%を超えています。
・ラニビズマブバイオシミラー(開発番号:GBS-007、対象疾患領域:眼疾患)
当該先行品は、血管内皮増殖因子の働きを抑えることにより、新生血管の成長を抑える作用があります。当社は、千寿製薬㈱と当該バイオシミラーの共同開発を行ってきましたが、2021年9月27日付で同社が国内での製造販売承認を厚生労働省より取得し、同12月9日に上市しました。現在、当社は千寿製薬㈱に対する当該医薬品製剤の安定供給を担っており、製品化された当該バイオシミラーを同社が販売しております。当該バイオシミラーの競合となる先行品メーカーによるバイオセイム(バイオ医薬品におけるジェネリック)や他社によるバイオシミラーは上市されておらず、千寿製薬㈱の販売は上市直後から当初予想を上回る勢いで推移しており、さらに2023年9月に追加適応症が承認された影響を受け、先行品からの置き換えペースが加速しています。
・ペグフィルグラスチムバイオシミラー(開発番号:GBS-010、対象疾患領域:がん)
当該先行品は、フィルグラスチムにPEG(ポリエチレングリコール)を修飾することで、投与回数を減らし効果の持続性を増す等、高付加価値を付与した次世代型フィルグラスチムです。当社は、2016年12月に持田製薬㈱と当該バイオシミラーの共同事業化契約を締結し、共同での開発を推進してまいりましたが、2023年9月25日付で同社が国内での製造販売承認を厚生労働省より取得し、同11月22日に上市しました。現在、当社は持田製薬㈱に対する当該医薬品原薬の安定供給を担っており、製品化された当該バイオシミラーを同社及びニプロ㈱が 販売しております。当該バイオシミラーの競合となる先行品メーカーによるバイオセイムや他社によるバイオシミラーは上市されておらず、持田製薬㈱とニプロ㈱の販売は上市直後から当初予想を上回る勢いで推移し、先行品からの置き換えは順調に進捗しています。
・新たなバイオシミラー製品の開発向けた取組み
当社は、バイオシミラーの社会的役割を認識しつつ、安定的かつ継続的な収益基盤の更なる強化を目的として、新たなバイオシミラーの開発に向けた取り組みを推進しており、既に、多面的な評価に基づく新たな開発候補品の選定を実施し、開発パートナー候補企業等との協議を進めています。
② 細胞治療事業(再生医療)
・SQ-SHEDを活用した再生医療等製品の開発(開発番号:GCT-102、対象疾患:腸管神経節細胞僅少症)
腸管神経節細胞僅少症は、腸管の蠕動運動を司る神経細胞の不足により腸閉塞症状を示す難病(指定難病 101)で、効果的な治療方法がいまだ確立されていません。SHEDは腸管神経節細胞と同じ神経堤由来の細胞であるため、投与されたSHEDが不足している腸管神経節細胞の機能を補う働きをすることにより、腸管蠕動運動が回復することが期待できます。当社は、当該疾患を対象とした再生医療等製品を開発するべく、持田製薬㈱と共同事業化契約を締結し、当社が保有するSQ-SHEDと持田製薬㈱の消化器領域における知見と実績を組み合わせることで、新たな治療法の創出を目指しています。
・SQ-SHEDを活用した再生医療等製品の開発(開発番号:GCT-103、対象疾患:脳性麻痺)
脳性麻痺は、周産期と呼ばれる出産前後の期間に起きた酸素欠乏や感染症など等が原因となり、運動障害など等の神経症状が現れる疾患です。出産直後、すなわち急性期においては症状が明確でないことも多く、症状の予測も困難なため、急性期を過ぎて病状が固まった後の遠隔期(慢性期)から治療を開始しても効果をもたらす新規治療法の開発が望まれています。現在、共同研究先の名古屋大学附属病院総合周産期母子医療センターにて、脳性麻痺(遠隔期)を対象とした自家SHEDの臨床研究が進められていますが、並行して、構築済みのMCB を用いた同種(他家) SHEDの企業治験実施に向けた準備を進めております。
・第二世代SHEDの研究
名古屋大学医学部脳神経外科との共同研究においては脊髄損傷を、浜松医科大学との共同研究においては脳腫瘍を対象として、それぞれ異なる遺伝子改変SHEDの研究を進めております。
業績
4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
(1) 経営成績等の状況の概要
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 経営成績の状況
当事業年度における当社業績は、売上高 2,431,236千円(前期比 12.4%減)、営業損失 1,335,597千円(前期は550,929千円の営業損失)、経常損失 1,389,601千円(前期は624,769千円の経常損失)、当期純損失 1,422,078千円(前期は657,434千円の当期純損失)となりました。バイオシミラー事業において、2023年9月にラニビズマブバイオシミラー(GBS-007)が新たな追加適応症承認を、またペグフィルグラスチムバイオシミラー(GBS-010)が当社第4製品として製造販売承認を取得した一方で、薬価下落、一部製品の納品時期の期ズレ及び支払い条件変更の影響を受けたことに加え、細胞治療事業(再生医療)において前期計上したマスターセルバンク構築完了に伴う売上高の影響がなくなったことから、売上高は減収となりました。また損益につきましては、売上高の減収に加えて、バイオシミラー製品の構成変化や円安及び海外における物価上昇の影響を受けた利益率の低下、順調に研究開発活動が進捗したことによる研究開発費の増加に伴い、営業損失、経常損失、当期純損失は前期比で赤字幅が拡大しました。
前述のとおり、当事業年度においては、3事業に分散していた経営資源をバイオシミラー事業と細胞治療事業に集中的に投下することで、研究開発活動を更に効率的かつ強力に推進してまいります。
当事業年度における各事業の進捗状況は以下のとおりであります。
イ バイオシミラー事業
当事業年度においては、2023年9月に、当初予定通りGBS-007の追加適応症とGBS-010の製造販売が承認され、今後の更なる収益拡大に向けた事業基盤が確立されました。一方で、上市済みのフィルグラスチムバイオシミラー(GBS-001)、ダルベポエチンアルファバイオシミラー(GBS-011)及びGBS-007は、2021年度以降、毎年薬価改定による薬価下落の影響を受けております。加えて、製造委託先企業における製造スケジュールの調整等の影響で、当期に納品を予定していたバイオシミラーの一部の納品が次期(2025年3月期)にずれ込むこと、バイオシミラーの一部について、パートナー製薬企業から製造委託先企業に対し、製造費用を一時的に直接お支払いいただく等の支払い条件変更の結果、当期売上高は前年対比で減少いたしました。
ロ 細胞治療事業(再生医療)
SQ-SHEDの特徴を活かし、治療効果が期待できる疾患として、脳性麻痺(遠隔期)、骨疾患等を選択し、研究を進めてきた結果、当事業年度において、共同研究先の名古屋大学主導による脳性麻痺(遠隔期)を対象とした臨床研究が開始され、2023年10月には第一症例の患者が登録されました。また、2025年度中の治験計画届出を目指し、MCBを用いた治験製品の製法開発、及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構への相談が順調に進んでおります。加えて、2024年3月には、海外市場への参入に向けた第一歩として米国FDA基準に準拠したMCBの製造を完了いたしました。当該事業は今後、当社100%子会社として設立した株式会社S-Quatreにて遂行、展開してまいります。
② 財政状態の状況
(資産)
当事業年度末における総資産の残高は、前事業年度度末比30.6%増の5,085,550千円となりました。これは主に、製品が213,007千円減少したものの、普通預金が1,164,249千円、仕掛品が453,345千円増加したことによるものであります。
(負債)
当事業年度末における負債の残高は、前事業年度末比59.9%増の4,254,077千円となりました。これは主に、バイオシミラー製品に関する製造費用の一部について、パートナー製薬企業からの契約負債(前受金)として1,117,774千円、長期借入金(1年内返済予定を含む)が625,000千円増加したことによるものであります。
(純資産)
当事業年度末における純資産の残高は、前事業年度末比32.6%減の831,473千円となりました。これは主に、資本金及び資本剰余金がそれぞれ527,226千円増加したものの、当期純損失を1,422,078千円計上したことによるものであります。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、2,231,411千円となりました。各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により減少した資金は453,634千円となりました。これは主に、契約負債(前受金)の増加が1,117,774千円あったものの、棚卸資産の増加が240,337千円、税引前当期純損失を1,420,527千円計上したことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動による資金の増減はありませんでした。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により増加した資金は1,617,883千円となりました。これは主に、長期借入金の返済による支出が375,000千円あったものの、長期借入れによる収入が1,000,000千円、新株予約権の行使による株式の発行による収入が970,083千円あったことによるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当事業年度における生産実績は、次のとおりであります。
区分 |
当事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
||
生産高(千円) |
前年同期比(%) |
||
バイオシミラー事業 |
1,391,852 |
113.8 |
|
|
原薬等販売収益 |
1,391,852 |
113.8 |
合計 |
1,391,852 |
113.8 |
(注)金額は、製造原価によっております。
b.受注実績
フィルグラスチムバイオシミラー及びラニビズマブバイオシミラーにつきましては、ロット単位での受注であり、各ロットの生産高に応じて売上高が変動し、受注金額を確定できないことから、記載を行っておりません。
なお、上記以外の品目につきましては、研究開発段階での売上であり、その不確実性に鑑み、記載を行っておりません。
c.販売実績
当事業年度における販売実績は、次のとおりであります。
区分 |
当事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
||
販売高(千円) |
前年同期比(%) |
||
バイオシミラー事業 |
2,425,813 |
94.3 |
|
|
原薬等販売収益 |
2,140,405 |
91.8 |
|
知的財産権等収益 |
285,407 |
118.3 |
細胞治療事業(再生医療) |
5,422 |
2.7 |
|
|
知的財産権等収益 |
5,422 |
2.7 |
合計 |
2,431,236 |
87.6 |
(注)最近2事業年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先 |
前事業年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
当事業年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
||
販売高(千円) |
割合(%) |
販売高(千円) |
割合(%) |
|
千寿製薬㈱ |
1,369,494 |
49.3 |
1,382,368 |
56.9 |
持田製薬㈱ |
396,070 |
14.3 |
646,776 |
26.6 |
富士製薬工業㈱ |
665,880 |
24.0 |
211,260 |
8.7 |
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する分析・検討内容
当事業年度における売上高は、新たに販売開始となったラニビズマブバイオシミラーを含めて主にバイオシミラーの原薬等の販売が順調に推移したことに加え、ダルベポエチンアルファバイオシミラーの販売に伴うロイヤリティ収益、バイオシミラーの第4製品目の製造プロセス開発に係る原薬販売等により、2,431,236千円となりました。一方、主にバイオシミラー事業におけるラニビズマブバイオシミラーの商用製造に向けた最終段階の開発及び将来の原価低減に向けた開発費用並びに細胞治療事業(再生医療)におけるSHEDマスターセルバンク開発等に取り組んだ結果、研究開発費を1,453,349千円計上したため、営業損失は1,335,597千円、当期純損失は1,422,078千円となりました。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
資本の財源及び資金の流動性につきましては、バイオシミラー事業における上市済製品によって得られる販売収益等の範囲の中で研究開発費以外の事業活動を実施することで、資金の流動性を安定的に確保することを基本方針としております。しかしながら、当期においては、GBS-007及びGBS-010がそれぞれの当初需要想定を大きく上回るペースで成長したことを受けて上方修正されたパートナー製薬企業による需要予想に基づき、原薬等の製造回数の追加等を進めており、原薬を製造する海外での物価上昇及び円安の影響も受けて増加し続ける運転資金に対応すべく、2023年7月には第三者割当による新株予約権(行使価額修正条項付)を発行し、未行使である新株予約権を除いて約10億円、さらに金融機関からの借入による10億円、総額約20億円規模の資金を調達いたしました。また、運転資金の増加を少しでも抑えるために、パートナー製薬企業との間で取引条件の見直し等にも取り組んでいます。なお、当該製品の市場シェア成長が一巡し市場シェアが安定した際には運転資金が安定することから、上述の原価低減策の成果と合わせ、バイオシミラー事業の販売収益等により、研究開発費を含む事業活動資金を全て賄えるようになることを見込んでおります。
安定的な資金の流動性の確保に取り組む一方で、バイオシミラー事業、細胞治療事業共に、継続的な成長のためには、今後も中長期的な戦略に基づいた研究開発投資の維持が必須です。しかし、上述の通り、GBS-007とGBS-010が大きく成長している期間においては運転資金が拡大するため、バイオシミラー事業における販売収益等に加えて外部からの研究開発資金の獲得が重要です。次期以降においては、当社はバイオシミラー事業に、子会社の株式会社S-Quatre(エスカトル)は細胞治療事業に特化し、それぞれの事業特性に合わせた独自の研究開発資金調達に取り組んでまいります。具体的には、開発パートナー企業等との資本業務提携や契約一時金の獲得、各種助成金等の活用を想定しており、必要に応じた直接及び間接金融等からの資金調達と合わせた資金調達手段の多様化と最適化を図ります。また、バイオシミラー事業及び細胞治療事業の双方において、研究開発活動の進捗及び事業性に基づいてパイプラインの優先順位を機動的に見直すとともに、早期のパートナリング等による役割と費用負担の分担等を通じて、メリハリのある研究開発投資の実行と研究開発投資リスクの低減に取り組み、将来の成長性を毀損することなく、安定的な財務基盤の確立を目指します。
なお、当社は、当事業年度末で現金及び預金並びに売掛金を合わせて3,112,818千円の残高を有しております。未行使である新株予約権の行使に加え、当期から継続しているパートナー候補企業との協議の一部が契約締結に至ることで、今後中期的に予定されている研究開発投資の実施に向け十分な資金を確保できる見込みです。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成しております。この財務諸表の作成にあたり、見積りが必要となる事項につきましては、合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。これらの見積りには不確実性が伴うため、将来において、これらの見積り及び仮定とは異なる結果となる可能性があります。
当社の財務諸表で採用した重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 注記事項 (重要な会計方針)」に記載しております。