2025年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

(1)当社のリスクマネジメント体制

 当社は、当社グループの事業活動に関する諸種のリスク管理を所管するリスクマネジメント委員会を設置し、リスクマネジメント委員会規則に従い、取締役会で任命された執行役及び執行役員が以下のリスク管理体制の構築と運用にあたっております。

 当社グループの事業活動に関する事業リスク及びオペレーショナルリスクについては、執行役及び執行役員の職務分掌に基づき各執行役及び執行役員が、それぞれの担当職務ごとに管理しており、リスクマネジメント委員会はそれを支援しております。また、リスクマネジメント委員会は、グループ経営上重要なリスクに関する抽出・評価・見直しの実施、対応策の策定、管理状況の確認を定期的に行っております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当連結会計年度(以下「当期」)はグループ重要リスクとして、以下の2つのリスク項目を選定しました。

・サプライチェーンにおけるリスクマネジメント

・情報セキュリティにおけるリスクマネジメント

 

(2)当社のリスクマネジメント体制の運用状況

 当社は、リスクマネジメント委員会を定期的(年2回)及び必要に応じて臨時に開催しております。この委員会では、企業活動に関して抽出されたリスクとその対応策を策定するとともに、リスクマネジメントシステムが有効に機能しているかどうかの検証・評価を行っております。当期は、同委員会を2回開催し、特に地政学リスクに起因する国際物流情勢、米中貿易摩擦に係る規制、経済安全保障や人権問題など、当社のグローバルサプライチェーンに与える影響が大きいリスクについて、事業への影響度の高い国・地域に適用される制裁や新たな法規制等の定期的なモニタリングを実施しました。

 また、リスクマネジメント委員会の協議内容は定期的に監査委員会に報告しており、取締役会への報告は必要に応じて実施し、取締役会を構成するメンバーには月次の報告が行われております。

 なお、当社では、リスクが顕在化し企業価値に大きな影響を及ぼす状況を「危機(クライシス)」と定義し、クライシス発生時には上長経由で担当役員と危機管理担当役員へ報告し、さらに担当役員と危機管理担当役員は、代表執行役へ報告を行います。様々なリスクによって発生するクライシスに対し、当社は迅速・適切に対応するためにクライシス発生時の報告ルールを設け、執行役及び執行役員や当社子会社役員等に周知しております。その報告ルールに沿って、世界各地で発生した災害・事故、その他のクライシスに関する情報を危機管理担当役員が集中管理しております。

 

(3)事業等のリスク

 当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重要な影響を与える可能性がある主要なリスクを以下に記載しておりますが、これらのリスクは必ずしも全てのリスクを網羅したものではなく、想定していないリスクや重要性が低いと考えられるほかのリスクの影響を将来的に受ける可能性もあります。

 また、当社は、リスクを「組織の収益や損失に影響を与える不確実性」と捉えております。リスクを単にマイナスの側面からだけではなく、「機会」としてのプラスの側面からも捉えたうえで、リスクマネジメントを「リスクのマイナス影響を抑えつつ、リターンの最大化を追求する活動」と位置付け、収益の源泉としてリスクを管理するため、そのマイナスとリターンのバランスに重きを置いたリスクアペタイトに考慮した取組を行っております。

 リスクへの対応と機会の考え方は、以降、個々のリスクの項目の中に記載しております。

 記載事項のうち将来に関する事項は、当期末現在において入手可能な情報等に基づいて、当社グループが判断したものであります。

 最初に、各リスク項目をリスクマップ上にプロットした図を掲載いたします。

 なお、「発生可能性」については、3年以内に発生する頻度・確率より評価し、「影響度」については、発生した際に営業利益へ与える影響により評価しております。

 また、「発生可能性」と「影響度」について、前連結会計年度(以下「前期」)より評価が変更されているリスクは、評価欄に矢印を用い、前期と当期の評価を記載しております。

 

 

 

 

 

 

①経済環境に関するリスク

1)経済動向・市場環境

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループは、複合機やデジタル印刷システム、ヘルスケア用機器製品、計測機器や光学部材、ディスプレイ材料及び関連サービス等を世界中の顧客に向けて提供しております。これらの事業の売上及び損益は各国の景気動向に大きく影響を受けます。

 当期の世界経済は比較的順調に推移しましたが、今後については米国の関税政策の影響が世界的な景気悪化に発展する可能性が懸念されます。

 日本経済は、一時停滞感を強めたものの、個人消費の復調やインバウンド需要の堅調な拡大により回復基調を維持し、幅広い分野でインフレ経済への回帰が見られました。物価上昇が落ち着く中、緩やかな回復基調を維持すると見込まれるものの、米国の関税政策等による不確実性が悪影響を及ぼす懸念があります。

 米国経済は、金融引き締めが続く中、安定した雇用情勢と賃金上昇による個人消費を中心とした国内需要に支えられ、堅調に推移しました。しかし、米国の関税政策によりインフレ率に上昇圧力がかかり、消費者の負担が増加することによる国内需要の減速が懸念されております。

 欧州(EU)経済は、雇用情勢が堅調に推移し、所得環境の改善による個人消費の回復により緩やかな回復基調で推移しました。一方、ウクライナ情勢やイスラエル・パレスチナ情勢によるエネルギー価格の高止まりや地政学リスク等により、経済見通しの不確実性は増大しております。

 中国経済は、不動産市場の長期低迷、雇用や所得環境の悪化を受けた個人消費の停滞、地方行政の財政難等により景気は停滞しました。大手不動産会社の破綻リスクが高まる等、不動産市場の低迷に起因した金融不安は解消されておらず、また、米国と相互に関税引き上げ措置を行うことに伴う対米輸出入の減少が、景気回復に悪影響を及ぼすことが懸念されます。

 こうしたリスクが発生し、各国の経済活動が停滞した場合、顧客の投資抑制や消費行動の変化を引き起こし、結果として当社の予想を超えた新規機器購入の減少、競争激化に伴う販売価格下落、在庫増加等、将来にわたり当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

2)為替レートの変動

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、高い海外売上高比率が示すようにグローバルに事業活動を展開しており、為替レート変動の影響を大きく受ける状況にあります。また、外貨建ての取引から生じる当社の資産及び負債の円貨額や海外子会社の外貨建財務諸表から発生する在外営業活動体の換算差額も変動するおそれがあります。ユーロにつきましては、為替レートが1円円安に変動した場合、欧州での利益増により、営業利益に約4億円のプラスの影響を与えます。人民元も同様に、1円円安に変動した場合、中国での利益増により、営業利益に約8億円のプラスの影響を与えます。一方、米ドルについては、1円円安に変動した場合、調達・製造コスト増等により、営業利益に約1億円のマイナスの影響を与えます。

 ●対応策

 為替レート変動の影響を軽減するため、米ドル・ユーロ等の主要通貨では為替予約を中心としたヘッジを実施しております。米ドルにつきましては、米ドル建ての調達と米ドル建ての売上を相殺することにより影響を軽減しております。また、多通貨建てのグローバルでのグループ間決済を、金融機関が提供するネッティングシステムを利用し実施しており、子会社が持つ為替変動リスクを当社へ集約することにより為替リスクの集中管理及び効率的なヘッジを実施しております。

 

 

②事業活動に関するリスク

1)デジタルワークプレイス事業 プリント環境の変化に関連するリスク

発生可能性:高 →

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:大

 ●リスク

 先進国や新興国を中心に、情報共有の媒体が紙からタブレット端末やスマートフォン等のデジタル機器に急速に移行しております。さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、世界中の企業でリモートワーク、ハイブリッドワーク及びワークフローのデジタル化が加速しております。このため、各国のオフィスにおけるプリント需要は今後も継続的に減少することが予測されます。IDC(International Data Corporation)によると、2028年の世界市場における電子写真方式による総プリントボリュームは、2019年と比べて約4割減少すると予測されております。当社グループの注力するカラープリントは2019年比で80.0%に留まる一方、モノクロプリントは46.6%にまで落ち込む予測となっております。プリントボリュームの下落が永続的に続くわけではなく、ある水準で下げ止まるとの見解もありますが、現時点では、中期的に想定を超えるプリント需要の減少が発生することをリスクとして捉えており、このような状況下で顧客動向に迅速に対応できない場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 先進国や新興国、各国における大企業を中心に紙文書のデジタル化が進む中、複合機のスキャン需要やプリント出力のセキュリティ対応、ドキュメント管理支援等のオフィスソリューションのニーズが増加すると予想されます。これにより、プリント出力にオフィスソリューションを組み合わせた新たなサービスやソリューションを提供する機会が広がるものと予想しております。

 ●対応策

 当社グループでは、複合機を活用したスキャンサービスやドキュメントマネジメントサービスの拡大を中心に、多様化する顧客ニーズとオフィスにおけるプリント出力機会の減少リスクに対応する取組を進めております。

 また、プリント出力契約においては、顧客における請求管理、支払い業務、予算管理の簡素化を図るため、米国を中心に当社独自のワンレートサービス契約(注)を提供し、好評を博しております。今後は、同契約のさらなる拡大や他地域展開に加え、リモートサービス推進によるサービス効率化・省人化の加速、物価上昇に応じた価格対応、インド等のプリント出力機会に成長余力のある国や地域におけるカラー複合機の設置拡大等を通じて、プリント出力減少の環境下でも安定的な利益創出が可能な体制を構築してまいります。

 

(注)複合機のハードウェア・消耗品・プリント管理・セキュリティ対策を含むサービスを一括提供し、定額の月額課金サブスクリプションモデルにすることにより、顧客の運用管理及び導入コストの削減を図る契約形態

 

 

 

2)各国・各地域の規制

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中

 ●リスク

 当社グループの事業活動の多くの部分は、北米、欧州及びアジア諸国といった日本国外で行われており、その国や地域固有の法制、規制や承認手続きの影響を受けております。米国による各国に対する相互関税の賦課及び各国の対応、特に米中間での技術輸出規制等の経済措置の動向には常に十分な注意を払っておりますが、将来、各国の政府や国際的枠組による規制、例えば税制、輸出入規制、通貨規制、個人情報保護規制、デジタル関税、その他各種規則等が新規に導入される、又は変更された場合には、これらに対応するための費用が発生し、事業活動に支障をきたす可能性があります。特に、個人情報規制や生成AI規制については、巨大IT企業でのターゲティング広告への規制法案、欧州GDPR、欧州AI規制法等、各国で法制化、罰則が強化され、当社で推進している関連事業への影響が高くなります。

 さらに、主要国における予期せぬ戦争状態等の発生により、それに対する各国の制裁措置が発動された場合、当社グループが予期しない法制、規制や承認手続き等の変更に直面するリスクがあります。

 また、特に、当社グループの画像ソリューション事業のヘルスケアユニットでは、事業活動を行っている各国の様々な医療制度や許認可の手続きの影響を受けております。医療制度改革等によって、予測できない大規模な医療行政の方針変更が行われ、その環境変化に速やかに対応できない場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 新制度導入や制度改定による市場参入要件の新設・変更に迅速に対応することで、当社にとって販売機会創出あるいは事業継続強化の可能性があります。特に、環境法規制への対応、個人情報保護や情報セキュリティに関する規制への対応は、当社が強みとする環境経営やITサービス・ソリューションに追い風になるものと認識し、対応を進めております。

 また、画像ソリューション事業のヘルスケアユニットでは、各国医療政策の情報収集、専門学会等との連携により対応を行なっております。医療政策による先端技術の導入は新たな市場創出につながります。

 ●対応策

 各国・各地域の法律・規制の動向、及び地政学リスクの変化には、常に十分な注意を払い、情報の収集に努めております。各地域の法務担当者と連携し、海外各地域の実情を把握し、必要に応じ、弁護士・コンサルタント等、専門機関の協力を得て、国あるいは地域ごとにリスクを判断し、対策を講じております。

 画像ソリューション事業のヘルスケアユニットにおいては、近年、診断力向上や医師の負担軽減に役立つAIを用いた画像診断の利用が、新型コロナウイルス感染症をきっかけに増大しております。当社グループは、各国の医療政策に応じた対応を進め、最先端の医療サービス実装に向けた取組を進めてまいります。

 

 

 

3)次世代技術変化

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:中

 ●リスク

 生成AIの急速な普及や環境法規制等のグローバル規模での中長期トレンドの進行に伴い、事業環境が大きく変貌するリスクがあります。これらの変化の中で、他社に先んじた技術革新は当社グループにとって重要な競争優位の源泉ですが、競合他社が先行して類似技術や代替技術を開発し事業活用する可能性があります。また、グローバルかつ広範な視点で競争優位になり得る革新的技術を開発対象として見定め、迅速・柔軟に市場に提供できなければ、長期にわたり市場でのポジションを喪失する等、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 中長期トレンドの変化は業界における企業間の競争優位性に大きな影響を持つことが予想され、新規市場への参入機会を生む場合があります。その中で、他社に先んじた技術革新による競争優位性の獲得のためにデジタル技術を駆使した開発の高速化が不可避であり、これに適応することで開発・生産が効率化されると考えられます。特にデジタル技術の変化については、生成AIを積極的に活用することで新たな事業機会を創出する可能性があります。また、競争優位を獲得・維持するために、事業に必要な技術を全て自社で用意するのではなく、オープンイノベーションも積極的に実践し、市場の変化に対して柔軟に対応する能力が欠かせないと認識しております。

 当社グループの技術開発力と、各事業において優れた技術を持つ企業が連携することにより、多様化する顧客課題に対応した解決策を導き出す機会を得ることができると考えております。こうした取組を通して、社会に価値を提供できる企業への変革に取り組んでまいります。

 ●対応策

 当社グループは、広範な技術理解に基づき、材料・光学・微細加工・画像の4分野のコア技術とIoT・AIに代表されるデジタル技術というユニークで幅広い技術ポートフォリオを有しております。研究開発拠点が相互に連携して、幅広い技術横断視点で競争優位を確立するためのコア技術を見定め、マテリアルズ・インフォマティクス等データ駆動型の開発手法を駆使して迅速に製品・サービスを開発してまいります。

 また、すでにコア技術とIoT・AIを融合した「見えないものを見える化する技術」を製品として具現化し、デジタルワークプレイス、プロフェッショナルプリント、インダストリー、画像ソリューションの各事業より顧客へ提供しておりますが、さらに生成AI技術を積極的に活用することにより、新たな顧客価値の提供や業務効率化等の実現を目指して取り組んでまいります。加えて、当社の技術戦略やコア技術資産を外部に積極的に発信し、大学、研究機関、スタートアップ等の幅広いパートナーとの共創活動の強化を進めてまいります。これらの取組により、当社グループは気候変動・デジタル革新に伴う社会課題の解決に向けたイノベーションを起こし、次世代技術変化のもたらすリスクに対応してまいります。

 

 

 

4)新製品への移行

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループが展開する事業領域では、市場投入されている競合製品・サービスのバージョンアップとの比較、または既存市場の製品やビジネスモデルを非連続的に変革し得る製品・サービスとの比較の2つの観点で、顧客が別の製品・サービスを選択する可能性があり、新製品への移行リスクが常に存在しております。前者は、個別にサービス・機能が追加された場合だけではなく、ユーザー体験自体を変容させるようなサービス・機能が市場投入され、顧客の選定基準が高度化した場合にも起こる可能性があります。後者は、破壊的技術の登場や社会的潮流に起因するビジネスモデルの変革によって引き起こされる可能性があります。

 ●機会

 市場での競争力を維持・拡大するためには、顧客の声に耳を傾け、顧客満足度を向上させていく必要があります。そのためには顧客やパートナー企業と向き合いながら、解決すべき潜在的な課題を深く理解することが重要です。当社グループには、現場に密着した開発姿勢が根付いており、現場を観察しワークフローを洞察することにより潜在的なニーズを抽出できる機会が多くあります。これらの潜在的なニーズを開発にフィードバックすることにより、顧客価値を提供できる製品やサービスを生み出すことが可能になります。

 また、今後予想されるモノづくりの複雑化や環境配慮への社会的要求は、モノづくりにおけるプロセスモニタリングの複雑化を示唆しております。これは、当社のセンシングデバイスを中心としたモニタリング技術にとり新製品投入の機会となり得ると考えております。

 ●対応策

 当社グループは、各事業分野において顧客満足度の継続的な向上を図るとともに、市場変化の激しい状況を考慮し、競合に対して競争力のある新製品やサービスを計画的に市場導入しております。こうした競争力の源泉として、「顧客関係」・「技術の融合」・「多様な人財」という当社の無形資産があります。

 「顧客関係」を起点とした新製品開発の例として、デジタル印刷機の自動品質最適化ユニット「IQ-501(インテリジェントクオリティオプティマイザー)」では、従来印刷現場のオペレーターが時間をかけて行っていた細かな調整作業に着目し、この工程を自動化し再現性を高めることにより、顧客の生産性向上に貢献しました。偏光板用新世代光学フィルム「SANUQI(サヌキ)」では、偏光板メーカーの現場に入ることにより、新たな生産課題を発見し、課題対策を新材料の機能設計に落とし込み具現化した製品を顧客へ提供しております。「技術の融合」を起点とした新製品開発の例として、画像ソリューション事業のヘルスケアユニットでは、X線動画像の撮影に、高度な画像解析AI技術を適応させることで、従来のX線静止画では得られなかった、生体内の組織の動きの情報を診断情報として取得することができる高付加価値なイメージング解析を実現しました。簡便に高度な診療を可能とする製品・サービスの提供を可能にしております。

 また、先端技術の獲得と既存技術との融合を目的とし、大学や研究機関等のパートナー連携を積極的に行い、研究開発体制の構築に取り組んでおります。例えば、世界中からAIの研究人材が集結しているトロント大学と、2020年9月より画像AI技術の応用システムに関する共同研究を実施しており、画像AIの処理性能向上や製造品質管理へのAI活用、分散システムにおけるAI活用時のデータ処理性能向上につながる技術獲得を行いました。多種多様なセンシングデバイスで取得した大量データのAI処理技術で、環境負荷を低減する材料開発や製造工程の無人化実現を目指す「AI強化センシング」への取組に注力しております。

 社会的潮流を踏まえた取組として、循環型社会の実現に向けた再生プラスチックの高度化を実践しております。再生プラスチックに高い機能性を付与してアップグレードリサイクルし、複合機をはじめとするきょう体表面に採用するほか、社外製品への展開もしております。また、生成AI市場の急速な拡大により、演算処理能力の高い半導体に対する需要は今後も増加が見込まれております。半導体製造の多様化や市場拡大を機会と捉え、半導体製造装置用光学製品の提供と先端技術の開発に注力しております。加えて、将来予想される環境対応型モノづくりにおいて市場が形成された際、迅速に製品の市場投入ができるよう、バイオものづくり領域におけるプロセスモニタリングに関する研究開発も、社会実装に向けて、外部機関と連携し実施する等の取組を行っております。これらの施策を通じて、製品のバージョンアップ並びに革新的製品の創出を両立し、当社グループの持続的な事業運営とイノベーションの創出に尽力してまいります。

 

 

 

5)他社との協業、企業買収等について

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、事業競争力の強化あるいは効率化の観点から、他社との協業、資本提携・企業買収、譲渡等を進めております。

 企業買収等に伴い、のれん及び無形資産を計上しており、定期的に減損テストを実施しております。事業環境の変化に伴い、買収対象会社にかかる将来キャッシュ・フローの低下が見込まれた場合等では、減損損失を認識する可能性があり、当社グループの経営成績及び財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 当社グループが実施する他社との協業や企業買収、譲渡等は、イノベーションの加速による社会課題解決への貢献や、事業競争力強化や効率化を目的とするものであり、事業ポートフォリオ強化にとって有効な手段であると考えております。激しい市場・競争環境の変化の中、双方が有する技術・製品・顧客基盤・人財等の経営資源を積極的に有効活用していくことにより、持続的な事業成長の機会が得られると認識しております。

 ●対応策

 当社グループは、他社との協業や企業買収等に際して、当社との戦略的適合性、計画の蓋然性、投資額の妥当性、リスク対応等の観点から投資評価を行ったうえで、投資の可否を見極めております。具体的には、投資回収期間及び投資額等の妥当性判断のため、投下資本に対する期待収益指標として事業別のハードルレート及び中期経営計画ごとの全社加重平均資本コストを基準の一つとして設定しております。また、投資実施後のモニタリングとして定期的に投資レビューを実施し、上記の加重平均資本コスト及びハードルレートの達成状況に加え、収益性、市場成長等の観点から案件ごとの当社企業価値への貢献状況を見極め、投資時点の計画からの変化に対する迅速な対応を講じられるようにしております。

 加えて、事業単位でのレビューも定期的に実施することで、必要に応じて事業ポートフォリオにおける選択と集中を図れるようにしております。

 

 

 

6)生産・調達等

発生可能性:中 →

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:中 →

 ●リスク

 当社グループの主力事業であるデジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業及びインダストリー事業では、コスト競争力強化と市場への迅速な製品供給のために海外及び日本での生産活動を継続しております。グローバルに生産活動を行う中で、法規制や労務政策変更、輸出入規制や税制、環境規制の変更、紛争等の地政学リスク等、予測困難な事態が発生する可能性が高まっております。特に米国は、相互関税等の関税政策により、コスト悪化につながるリスクが顕在化しております。また、欧州情勢や中東情勢等の影響も含め、部品・原材料価格や原油価格・エネルギー価格の急激な変動や物流障害が発生するリスクも増大しております。これらの要因により生産コストが上昇する場合、当社グループの経営成績及び成長戦略に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、特定の製品・部品や材料、エネルギー等を世界中のサプライヤーから調達しておりますが、サプライヤーにおける不測の事態や自然災害、さらには労働争議や地政学リスク等により供給が途絶・遅延した場合には、生産及び供給能力に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社グループの生産活動において使用する鉄やアルミニウム等の金属製品、原油を原料とする石油化学製品、レアアース等の希少天然資源等の原材料価格、及びエネルギー価格の高騰は当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 デジタルワークプレイス事業、プロフェッショナルプリント事業では、調達及びトナー領域において他社との協業・アライアンスによりレジリエンス力を高め、グローバル競争力の強化・安定供給、さらなる事業強化を図ることで持続的な事業成長の機会が得られると認識しております。

 ●対応策

 当社グループは、生産に関するリスクへの備え及び流動的な事業環境の変化に対する柔軟性を高めるため、日本・中国・マレーシアにおける製品組立の生産拠点を強化しております。特に近年は、サプライチェーン上のリスクが増大していることを受け、東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本での生産比率を高める活動にも注力しております。これにより、複数拠点による分散と相互バックアップ体制を強化し、供給の安定性を確保してまいります。また、部品生産及び印刷用トナーの充填を行う拠点として欧州・北米にも生産拠点を展開し、需要変動への迅速な対応や消費地生産によるコスト競争力の維持を図っております。

 調達面では、主力調達地域である日本・中国・ベトナム・タイ・マレーシアに、規制・制限・経済動向等の情報収集を行う専門部門を配置し、各地域のサプライヤーとの協業を通じて品質・生産性向上とコスト競争力を高める活動を推進しております。具体的には、サプライヤーとの品質改善活動や生産工程の自動化技術の導入支援、DX支援等を進めることで、主要な原材料・電子部品における品質・供給・コスト競争力を継続的に維持・向上させております。さらに、他社との協業・アライアンスによる調達基盤の強化や、新規サプライヤーの開拓、代替部品や材料の評価・検討を実施することで、関税リスクや地政学リスクへの対応力を高めております。

 BCP管理体制については、開発・品質保証・調達・生産各部門が連携する体制を強化し、サプライヤーの材料調達状況、生産稼働状況、物流状況を迅速かつ的確に把握することで早期の意思決定を行い、問題発生時の被害を可能な限り抑制しております。特に、米国の関税政策がもたらす供給網への影響を注視し、代替品の評価・検証から生産投入までのプロセスを最優先課題として対応することにより、当社グループの事業活動に及ぶリスクの最小化に取り組んでおります。

 

 

 

7)グローバルサプライチェーン

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:1年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループの生産、販売活動の多くは日本国外で行われており、サプライチェーンもグローバルに展開しております。各国・各地域の物流上の問題が当社グループのグローバルサプライチェーン全体に波及し、供給遅延により当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは中国・ASEANにおける生産が多く、その拠点からグローバルに供給を行っております。中国・ASEAN各国で新たな感染症のパンデミック等による活動制限が発生した場合、港湾・空港での荷役作業の停滞・混雑により物流が滞り、販売拠点への供給に大きなリスクを及ぼす可能性があります。

 また、製品の輸出先である欧米主要国では、主要各港での港湾労使交渉の長期化・決裂によるストライキの発生や、スエズ運河航行制限(喜望峰ルートへの迂回)の影響による供給リードタイム延伸とコンテナ輸送費上昇の長期化、及び米国の関税政策、中国建造船への入港料課徴施策によるコンテナ船の船腹供給と輸送需要のバランス悪化・輸送費上昇等により、販売拠点における在庫不足の発生によって顧客への納品遅延による売上機会損失等、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 日本国内においては、2024年の働き方改革関連法の施行に伴うドライバー不足の深刻化により、供給リードタイムの延伸や物流コストの上昇リスクが顕在化し、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●対応策

 当社グループの主力事業であるデジタルワークプレイス事業やプロフェッショナルプリント事業では、物流実態に応じた販売拠点の在庫見通しシミュレーションを適宜実施しております。将来の在庫見通しに応じて、各地域への供給量の振り分け、環境の変化に即した適正な販売拠点における安全在庫の確保、物流ルートの柔軟な変更等を適宜実施することにより、販売への影響を回避しております。

 中国・ASEANの港湾課題については、新規フォワーディング会社のサービス利用や通常輸出港以外の代替港利用も含めてフレキシビリティを確保し、課題発生時には、生産拠点からの貨物の優先付けを行うことで、出港地側での供給リスク回避・低減に努めております。

 海上輸送については、従来取引がある主要フォワーダーとのコミュニケーション・情報連携を強化し、コンテナ船のスペースを安定的、かつ柔軟に確保しつつ、コンテナ輸送単価の上昇幅を最小限に留める交渉・調整に努めております。特に、欧州航路においては、イスラエル・パレスチナ情勢に注視しながら、喜望峰迂回ルートによる延伸日数影響を踏まえた適切な供給調整を図り、欧州販売拠点での販売に与える影響や、物流コスト増加による影響を最小化しております。北米航路においても、米国の関税政策の動向に注視しながら、適宜最適な供給調整を図っております。また、日本国内においては、物流委託パートナー業者とともに「2024年問題」による課題へ継続的に最優先で取り組み、運搬できないというリスクを回避・低減しつつ、配送効率化施策等を積み上げ、物流コスト上昇の影響の吸収・最小化を図っております。

 当社グループでは、必要なものを必要な時に必要なだけ必要なところへ供給できる、柔軟な物流体制を構築し、引き続き、顧客の満足度向上に努めてまいります。

 

 

 

8)製造物・品質責任

発生可能性:低

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社グループは、国内外のグループ会社や生産委託先において厳格な品質保証体制を構築し、顧客に対して高い性能と信頼性を備えた製品及びサービスを提供しております。万が一、当社グループの製品あるいはサービスに欠陥が発生した場合、その欠陥に起因した損害に対して当社グループは賠償責任を負う可能性があり、また、その欠陥に対して多大な対策費用が発生する可能性があります。さらに、当該問題により、企業ブランドや製品ブランドが毀損され経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●対応策

 重大品質問題を起こさない仕組み・取組として、品質に関する責任と権限を担う執行役又は執行役員を議長とする「品質保証責任者会議」を設置し、グループ全体の品質マネジメントを統括しております。品質に起因するリスクの極小化と顧客満足度向上に向けた方針・計画の推進・進捗確認、情報共有及び是正・改善に取り組んでおります。さらに、各事業では、品質課題についてPDCAサイクルを徹底することで継続的な品質向上に取り組んでおります。

 製品品質にかかわる問題が発生した場合は、当社グループ統一の「市場品質速報データベース」に情報を登録することが義務付けられており、登録された情報は即座に品質を担当する役員と事業責任者へ伝達され、関連部門で共有、必要な対策・情報開示が迅速に行えるようになっております。また、過去に発生した品質問題に対し、原因の解析、対策の実施及び技術・評価基準への反映を行い、再発防止に努めております。さらに、法的基準よりも厳しい独自の製品安全基準を設け、製品の様々な箇所について詳細に規定し確認を行っております。これらの施策をより確実に実施するため、「製品安全教育」をグループ内に展開し、品質マインドの定着に努めております。

 また、デジタル社会の進展や新たな技術の進化により、当社が提供する製品やサービスにおいて、セキュリティの脅威にお客様を晒すリスクを持つ可能性があります。当社グループでは、リスクの極小化に向け、サービス事業及びセキュリティ対応に関連する社内規程の運用を強化しております。製品セキュリティ事故発生時の対応と脆弱性への対策・予防として、製品の脆弱性に関する情報を全社で一元管理し必要な対応を推進するとともに、公的機関等とも連携するための全社共通組織として「KONICA MINOLTA PSIRT(注)」活動を展開しております。加えて、AIを活用した製品・サービスの販売も増えており、AIガバナンス体制を構築し、リスクアセスメントの実施と社内外のAI有識者から構成する「AI倫理審査委員会」での審議等により、AI利活用における倫理的・法的な問題発生リスクの低減に努めております。

 さらに、品質コンプライアンス遵守強化に向けては、品質不正のみならず、法規制、認証、契約等の不遵守防止に向けて、ガバナンスの強化を図っております。組織の定期診断や品質従事者に向けた意識調査をもとに、改善活動のPDCAを回すことにより、リスク低減を行うほか、階層別教育や啓蒙により定期的に品質意識の醸成を図っております。

 

(注)KONICA MINOLTA PSIRT (Product Security Incident Response Team)、当社グループにおける製品脆弱性

対応チーム

 

 

③その他のリスク

1)人権

発生可能性:中 →

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 当社グループはグローバルに事業を展開している一方で、東南アジアに多くの部品・材料の取引先があり、サプライチェーン全体での人権が十分尊重されず、児童労働や強制労働等の人権に関する負の影響が発生する可能性があります。その場合、ブランドイメージの毀損等の社会的批判を受け、投資家からの信頼喪失による株価の下落、顧客からの要求に適合できないことによる販売機会の喪失等、経営成績への悪影響を及ぼす可能性があります。

 また、国連人権理事会における「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」の採択に基づき、各国で人権尊重に関する法整備が進んでおります。例えば、米国のウイグル強制労働防止法、ドイツのサプライチェーンにおける企業のデュー・デリジェンス義務に関する法律に加えて、2024年はEUにおいて企業持続性デュー・デリジェンス指令(CSDDD)や強制労働製品禁止規則の施行が決まる等、各国における法規制の強化が加速しております。これらに適合できない場合、輸入禁止や高額な罰金の対象になるおそれがあります。

 ●機会

 各国で政府調達要件や製品ラベルの取得要件に、人権デュー・デリジェンスの実施や社会的責任監査の受審等の人権リスクに関する項目を追加する動きが加速しており、これに対応することは当社グループにとって販売機会の創出につながると考えております。

 また、人権尊重の取組を通じてサプライチェーンにおける労働条件や作業環境の改善を進めることで、従業員の満足度を向上させ、エンゲージメントを高める効果が期待できます。その結果、生産性や品質の向上、離職率の低下等につながり、サプライチェーン全体の競争力の向上や持続的な成長が実現すると考えております。

 ●対応策

 当社グループは、グローバルに事業を展開する企業として、コニカミノルタグループ行動憲章、コニカミノルタグループ人権方針、コニカミノルタサプライチェーン行動規範において、事業活動における最も基本的な要件の一つとして人権尊重を規定しております。また、これらの方針に基づき人権デュー・デリジェンスを実施し、人権尊重に努めるとともに当社グループの事業に関連するビジネスパートナーやその他の関係者に対しても、人権の尊重を求めております。こうした活動では国連グローバル・コンパクト(UNGC)、レスポンシブル・ビジネス・アライアンス(RBA)行動規範等、グローバルに認知された団体の活動理念を反映させております。

 具体的な手順としては、UNGPsの人権デュー・デリジェンスの考えに基づき、潜在的又は顕在的に負の影響を受けるステークホルダーとその人権課題を抽出し影響度を評価することで、特に優先度が高いと思われる人権課題を特定しております。例えば、サプライチェーン(地域住民、先住民を含む)上の強制労働、児童労働、安全衛生等の人権課題に対して、重要取引先に対する「コニカミノルタCSR調達推進プログラム(注1)」の展開をはじめ、経済協力開発機構(OECD)によるガイダンス(注2)に基づく責任ある鉱物調達への対応をグループ全体で推進する体制を構築し、負の影響の防止又は軽減に取り組んでおります。

 人権デュー・デリジェンスを通じて人権侵害の可能性が発見された場合、又は社内外から人権侵害の申し立てが発生した場合には、ステークホルダーとの真摯な対話と速やかな調査を実行してまいります。その結果、人権に対する負の影響を直接的に引き起こしている場合(Cause)、直接的又は間接的に助長している場合(Contribute)、取引関係を通じて人権への負の影響と直接関連している場合(Directly Linked)は、社内外のしかるべき手続きを通じて是正策を講じてまいります。

 

(注1)下記の手順にてサプライチェーンのリスクの発見、改善、予防に取り組んでおります。

1.全ての取引先に対して、当社グループが定める「コニカミノルタ調達方針」、「コニカミノルタサプラ イチェーン行動規範」及び「コニカミノルタ責任ある鉱物調達方針」の遵守を要請し、書面での合意を得ております。さらに上流の取引先にも、直接の取引先を通じて要請を依頼しております。

2.当社グループの全生産拠点、及び取引金額やESGリスクの大きさより選定した重要取引先に対して自己評価質問票(SAQ)を実施。リスクが高い結果となった拠点に対して是正指導を実施しております。

3.自主的な改善が難しい場合は、必要に応じてオンサイト監査を実施し、第三者視点を入れた改善提案を実施しております。

4.社内関係者及び取引先のキャパシティビルディングのため、潜在的なリスク予防のための教育や、顕在化リスクに対する是正指導を実施しております。

(注2)責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス

 

 

 

2)大地震・自然災害・感染症等

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:大

 ●リスク

 当社グループは、研究開発・調達・生産・販売等の拠点を世界各国に置き、グローバルに事業活動を展開しております。地震・火災・気候変動に伴う大規模な台風・洪水・森林火災等の災害、大規模な感染症の発生、また戦争・テロ行為・サイバー攻撃等が起こった場合、当社グループの設備等が被害を受け、一時的に操業が停止し生産及び出荷の遅れにより、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 特に、首都直下、南海トラフ等における巨大地震の発生においては、想定を超えた規模で被害が発生する可能性があり得ると考えられます。

 当社グループは、防災対策や事業継続マネジメントを今後も継続して推進してまいりますが、このような事態が発生した場合、機能停止、設備の損壊、電力・水・ガス等の供給停止、公共交通機関や通信手段の停止、サプライチェーンへの被害等による顧客へのサービスの提供や製品出荷の停止等、当社グループの事業活動の継続に影響を及ぼす可能性があります。

 ●対応策

 当社グループは、災害や、感染症の発生、戦争・テロ行為・サイバー攻撃等が起こった場合の情報を、危機管理担当役員が集中管理し、従業員の安全を最優先として適切な対応をとる体制を構築しております。

 巨大地震をはじめとした日本国内での災害に対しては防災中期計画に基づき、予防・減災対策、応急対策・初動対応、復旧・復興対策の観点でハード・ソフト両面からの対応実践力の強化を図っております。具体的には建物の耐震対策、通信・データ関連の主要サーバーの海外設置、安否確認システム・防災情報収集システム等のITによる被災時情報共有基盤の整備等の対策を講じております。大規模災害時には国内に有する約200のグループ拠点について緊急時の情報ネットワークを構築し、被害情報の迅速な収集と、必要な支援や対策を実施できる体制を構築しております。さらに、各拠点で従業員が災害時に命を守るための自律的行動をとれるよう、定期的に実践的な防災訓練や教育を実施するとともに、働き方の変化に対応すべく、ITツールを活用し、リモートワーク時においても防災体制が機能するよう整備しております。

 また、当社グループでは、事業を継続し企業としての社会的責任を遂行するとともに、顧客が必要とする製品やサービスを安定的に供給するために、主要消耗品の生産拠点の分散化によるリスクの低減、調達リスクの高い品目については代替手段の検討、在庫の確保等、対応策の有効性の確認と改善を図っております。各拠点においては、地域の自治体と連携し、自然災害発生時の避難場所や飲料水及び物資の提供等、地域貢献にも努めております。

 

 

 

3)気候変動・環境規制

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:中

 ●リスク

 世界全体が低炭素社会へ移行した場合、環境関連の法規制が厳格化するおそれがあり、追加的義務及び費用が発生する可能性があります。ステークホルダーからの再生可能エネルギー調達及び温室効果ガス排出ネットゼロの要求が高まることにより、投融資を受ける機会及び販売機会の逸失、企業ブランドの低下につながる可能性があります。また、オフィスにおける紙への出力の減少、化石燃料や化石資源の代替化による製造・調達コストの増加等も当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 一方、世界各地で気候変動による物理的影響が顕在化した場合、森林火災の頻発化や水ストレスの高い地域での大規模な干ばつ発生により、セルロース原材料の調達が不安定になり事業機会の損失につながる可能性があります。また、大規模又は局地的な風水害が発現すると、原材料等の供給量が制限又は一時停止することで、当社グループの拠点及びサプライヤーで一時的に操業が停止し、生産及び出荷が遅延する可能性があります。

 加えて、大気汚染、水質汚染、有害物質の除去、廃棄物処理、製品含有化学物質、製品リサイクル、容器包装、土壌・地下水汚染等に関する様々な環境法及び規則の適用を受けており、それらの遵守のために必要な経営資源を投入しておりますが、現在及び過去の生産活動、及び開発・販売活動にかかわる環境責任に伴う費用負担や賠償責任が発生する可能性があります。

 

気候変動に関するリスクの詳細は、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しております。

 ●機会

 低炭素社会への移行が加速した社会では、顧客の気候変動に関する課題の解決に貢献することで、事業機会につながる可能性があります。当社グループが培ってきた画像技術とAI技術を融合させ、社会・顧客の移行計画の実現へ貢献する新たなサービスやソリューションを提供することで、売上増大を図ることが期待できます。

 短期から中期的には、印刷産業及びアパレル産業のサプライチェーンを変革するデジタルソリューション、製品のカーボンフットプリントを低減した機能材料、使用済みプラスチックの分別性・リサイクル率向上に貢献する材料技術やセンシング技術、インクジェット技術による生産プロセスの変革、メタンガスの漏えいの早期発見と排出量の削減に貢献できるガス漏えい検査システムを提供してまいります。

 中長期的には、バイオものづくり、再生プラスチック技術等の成長の芽を全社強化テーマとして掲げ、成長基盤の確立を目指してまいります。

 一方で、気候変動の影響が発現する場合においても、事業機会を生み出す可能性があると考えております。

 中期的には、異常気象・自然災害への防災・減災に貢献するセンシングソリューション、災害医療現場で活用できる画像診断ソリューション等、社会の新たな需要を取り込むことができると考えております。

 当社グループでは、こうした社会課題の解決に直結した事業を強化しております。

 ●対応策

 リスク低減策としては、当社グループでは生産工程の効率化を徹底して追求するとともに、生産技術の開発・改善を進め、CO2排出削減とコストダウンを同時に実現する「グリーンファクトリー活動」を推進しております。また、自ら培った省エネ技術・ノウハウをデジタル化して提供し、サプライヤーと一体となりエネルギー削減に取り組む「カーボンニュートラルパートナー活動」を通じて、サプライチェーン全体でのエネルギーコスト削減とCO2排出削減の最大化を目指しております。加えて、再生可能エネルギー100%での事業運営を目指し、国際リーダーイニシアチブ「RE100」に加盟しております。

 気候変動による物理的影響が顕在化した場合への適応策として、原材料の供給ルートを粗原料まで遡り把握し、安定供給リスクが高い原材料は、調達先の複数確保や代替材料の検討に取り組んでおります。また、デジタルワークプレイス事業・プロフェッショナルプリント事業では、消耗品として供給する部品生産並びに印刷用トナーの生産及び充填を行う当社グループの生産拠点を、日本、欧州、北米に展開し、消費地で供給できるレジリエンスの高いサプライチェーン体制を確保するよう努めております。

 機会最大化の仕組みとして、グリーンプロダクツを創出し、事業企画や商品企画の段階で気候変動の課題解決への貢献を最大化してまいります。

 

「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に関連事項を記載しております。

 

 

4)知的財産権

発生可能性:低

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:小

 ●リスク

 当社グループは、製品やサービスの開発の中で多くの技術あるいはノウハウを蓄積し、それらを保護するための知的財産権の取得に努めております。しかしながら、一部の地域・国では、知的財産権を保護する制度やその適正な運用が不十分な場合があり、第三者が当社グループの知的財産権を使用して類似製品を製造、販売することを防止できない可能性があります。

 また、当社グループでは他社の権利を侵害しないように製品等の開発を進めておりますが、見解の相違等により他社の知的財産権を侵害しているとされ、製品等の開発や販売に支障をきたす可能性や多額の損害賠償責任を負う可能性があります。さらに、現在当社グループがライセンスを受けている第三者の知的財産権の使用が将来差し止められる、あるいは不当な条件に変更される可能性があります。

 ●機会

 当社グループの事業、製品、サービス等により提供される顧客価値の源泉となる当社独自のビジネスモデル、技術、データ等の知的財産について、特許権等の知的財産権の取得、不正競争防止法によるノウハウ・データの保護要件を満たす管理等、その特性に応じた適切な保護・活用を行うことにより、知的財産を当社グループの持続的な競争優位性の維持、成長のドライバーとしております。なお、各国の産業構造や事業ライフサイクルに鑑み、当社で事業継続するよりも他社で事業化又は事業強化した方がよい場合は、当該事業に関連する特許権等の知的財産権を他社に譲渡又はライセンス供与することにより、産業界全体への貢献及び当社の収益向上を図っております。

 さらに、知的財産による社会貢献にも積極的に取り組み、世界知的所有権機関(WIPO)が運営する持続可能な社会の実現を目指す技術移転のための国際的なプラットフォーム「WIPO GREEN」にパートナー企業として参画し、環境技術関連特許群をWIPO GREENに登録することでSDGsの推進に知的財産面から貢献しております。

 ●対応策

 当社グループは、技術等を保護する知的財産権(例えば特許権)を適切に取得・執行することが困難な国・地域においては、商標権等に基づいて、行政機関と協力し模倣品の押収や輸入差し止めを行う、運営業者と連携し模倣品取扱業者の電子商取引(EC)サイトへの出店差し止めを行う等、様々な方法により類似製品の流通阻止に努めております。

 他社の知的財産権に関しては、製品開発の各フェーズにおいて入念な調査・確認を実施し、他社の知的財産権を侵害していないことを商品化の要件としております。万が一、見解の相違等により他社から知的財産権の侵害を指摘された場合やライセンス条件の変更等の事態に備え、非侵害の主張やライセンス条件等の交渉・訴訟対応を行うための専門人財を当社知的財産部門に配置するとともに、経験豊富な国内外の弁護士と連携し、事案の内容に応じて適切に対応する体制を整えております。

 これらのリスク対応に加え、知的財産が競争優位性の維持・強化の有効なツールであるとの認識に基づき、当社グループの持続的な事業成長を知的財産面から推進するため、各事業の特性や事業ポートフォリオ上の位置付けに対応して事業ごとに知財戦略を構築し、戦略に沿った知財投資及び知財活動を実行しております。

 また、これらの知財戦略構築や知財活動の実効性を高めるため、専門性の高い人財育成のための戦略と施策を策定・実行し、専門知識・スキルとビジネスセンスを兼ね備えたプロ人財の育成に努めております。

 

 

5)人財確保

発生可能性:中

発生する可能性のある時期:3年以内

影響度:大

 ●リスク

 当社グループの新規事業を中心とした将来的な成長には、優秀な人財の継続的な獲得が欠かせないと認識しております。特に、データサイエンティスト等の先端技術人財は、当社事業の競合企業のみならず金融・サービス等、業界を超え、グローバルレベルで獲得上のコンペティターが多く存在しております。

 当社でも雇用環境の整備や採用部門の強化を図っておりますが、会社の魅力や働くことの付加価値への訴求に対する重要性が増しており、多様な働き方のニーズへの適合や、従業員が成長できる環境をアピールできない場合は、人財確保がより困難になる可能性があります。

 ●機会

 当社グループは、様々な製品やサービスを創り出しており、多様な技術領域を有しております。また、BtoBビジネスを営む中で豊富な「データ」を蓄積しております。このデータを活用して、製品とサービスとの組合せ、材料技術とデータとの組合せ等、様々な組合せからなる「形」を無限に創り出せる可能性に魅力を感じる人財は、マーケットに多く存在していると考えております。

 また、当社グループが有する豊富な顧客データは、その存在そのものが、当社グループのデータビジネス展開を有利に進める基盤となっており、データ分析に魅力を感じる優秀な人財を獲得できる機会につながると考えております。

 さらに、副業やリモートワーク、コア時間のない裁量労働等、従業員に柔軟な働き方を認めている点も、当社グループの魅力として訴求できる点になります。

 ●対応策

 先端技術人財の獲得にあたり、データサイエンスやAI開発、アーキテクチャ開発等、複数の長期インターンシップを実施しております。この中で、社内研究開発のテーマに取り組みジョブマッチングを向上させるとともに、当社の持つ魅力を対象者に体感いただくことを通じて、人財の獲得に成功しております。また、比較的手薄であった関西地区に2020年10月、「Innovation Garden OSAKA Center」を新設し、本格的な拠点展開を図ることにより、関西地区での人財確保を進めております。

 さらに、海外の大学から専門性の高い外国籍のIT人財を10年以上にわたり継続採用しており、2022年度からはベトナムの大学に対するリクルート活動を開始しております。これらの活動は、優秀なエンジニアの獲得につながるとともに、日本人の技術者にも大きな刺激となっております。

 DX人財の育成では、社内におけるDX人財の認定制度を設け、スキルアップに必要な教育プログラムを整備しました。2023年度までに1,000名のIT技術者を育成するという目標を達成し、さらなる活用に向けた人財の配置を行っております。また、当社本体及び国内販売子会社の役員・社員全員に2023年度より年2回のDXアセスメントを実施し、社内全体のITスキルの底上げをしております。

 人事制度の見直しも実施しております。管理職制度を「エキスパート」・「エンパワーメントリーダー」の複線型にし、「エキスパート」にはデータサイエンティストを含めた専門人財のキャリアアップの道筋を明確にしました。一方の「エンパワーメントリーダー」には多様なスキルを有する人財を統括し育てる、より高度なリーダーシップを求めております。

 DX推進による業務環境とプロセスや働き方の急速な変化により、IoT機器の一つとしてドキュメントを扱う複合機の利用方法は顧客により多様化しております。グローバル市場における様々な顧客要望に、より迅速に対応し課題を解決するソリューションを継続的に提供するため、2024年4月、ベトナムの大手IT企業と合弁会社を設立しました。これにより継続的に最先端の人財を確保し、当社の技術を進化させてまいります。

 

 

6)情報セキュリティ

発生可能性:高

発生する可能性のある時期:特定時期なし

影響度:大

 ●リスク

 昨今、企業を狙ったサイバー攻撃の攻撃手法が高度化、巧妙化しており、中でも、ユーザーアカウントのログオン認証を窃盗し、集中管理されている社内ネットワークに侵入し管理者権限を奪取、不正操作を行うといった被害事例が国内外で多数発生しております。また、各種IT機器やソフトウェアの脆弱性をついた攻撃も増えており、このようなサイバー攻撃に対するリスクは拡大しております。

 当社グループにおいても、サイバー攻撃により管理者権限が奪取された場合、不正操作等により、技術、営業秘密、人事等にかかわる当社グループの秘密情報が第三者に漏えいし、不正、売買に使用される等の重大な情報セキュリティインシデントが発生する可能性があります。この場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 ●機会

 当社グループは顧客の働き方やセキュリティ対策強化支援も継続的に行っております。IT管理のサービスとしてネットワークやアプリケーションの脆弱性の監視・管理サービス、リスクアセスメントを行うとともに、複合機からの情報漏えいを防止するためのデータの暗号化、パスワード設定やログ管理の機能、設定状況の監視と通知サービスを行う「bizhub(ビズハブ)SECURE」をグローバルに展開しております。

 「bizhub iシリーズ」には、社内ネットワークへのウイルス拡散を防止するため、全ての文書・FAXデータのウイルスをチェックする機能を搭載しております。

 また、米国のIT管理サービスにおいては、セキュリティソリューションを包括的に支援できる体制を用意しております。医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPPA)、経済的及び臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律(HITECH)、家族の教育の権利とプライバシーに関する法律(FERPA)等の規制に準拠できるような支援も行っております。

 国内では、高度化するIT技術活用のために、設計、導入、保守、運用を顧客にあわせてパッケージ化し、マネジメントIT管理サービスである「IT-Guardians(ITガーディアンズ)」による包括的なセキュリティ対策(多層防御システム)も提供しております。

 これらの機能は継続的に更新を行っており、サイバー攻撃の手法が変化する中においても顧客のセキュリティ対策強化支援を行うことができております。

 ●対応策

 情報セキュリティについて、ネットワークの監視を行い、多様化する攻撃によるサービス停止の早期発見に努めるとともに、定期的にネットワーク侵入テストを実施し、悪用される脆弱性を早期確認する対応を行っております。また、攻撃への備えとして、サイバー保険に加入し、事故発生時の対応フローを整備、当社グループ全体を網羅したセキュリティ推進体制において速やかに対処できるようにしております。

 リモートワーク勤務を行う従業員向けとしてセキュリティに配慮した物理的な勤務環境を提供するために、外部からの不正アクセス防止のための暗号化通信によるセキュアなネットワーク環境と会社支給パソコン以外の会社のネットワーク接続制限を実現しております。情報漏えい等の注意喚起のため従業員への教育等も定期的に行っております。

 さらなる対応強化のため、包括的セキュリティマネジメント体制(Security Management Office)下においてグループ各社に対しグローバルセキュリティ基準を制定し、5地域のIT責任者と連携しながら個社ごとのセキュリティ対応レベルの自己評価とその評価に基づく対策計画の策定・実行を確認するプロセスを運用しております。これらの活動を通じグループ全体のセキュリティレベルの向上を実現しております。

 

 

配当政策

3【配当政策】

 剰余金の配当等の決定に関する方針といたしましては、連結業績や成長分野への投資、キャッシュ・フローなどを総合的に勘案し、配当を基本として利益還元の充実に努めることを基本方針としております。自己株式の取得につきましては、当社の財務状況や株価の推移等も勘案しつつ、利益還元策の一つとして適切に判断してまいります。

 また、当社は、会社法第459条第1項に基づき、剰余金の配当に係る決定機関を取締役会とする旨を定款で定めております。配当の回数につきましては会社として基本的な方針を定めておりませんが、定款上、毎年3月31日、9月30日及びその他の基準日に剰余金の配当ができることとしております。

 当事業年度の配当につきましては、会社業績や経営環境を踏まえ総合的に勘案した結果、誠に遺憾ではございますが、第2四半期末配当及び期末配当ともに見送ることといたしました。