2025年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下の通りであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

1.通商・地政学リスク

当社グループはグローバルに事業活動を展開しており、中国・アジアを中心とした生産拠点や、世界各地に販売会社を有しております。このため、米中関係やロシア・ウクライナ情勢、中東情勢などの国際情勢の変化は、当社の事業運営に大きな影響を及ぼすリスクとなります。特に、米国の関税政策は既に一部で発動されており、今後さらなる強化や対抗措置が講じられる可能性も懸念されます。これにより、追加関税や新たな規制が発動された場合、輸入コストの上昇やサプライチェーンの混乱を招く恐れがあります。また、各国の貿易政策やエネルギー政策の変更、予期しない法制度や規制の改定なども、当社グループの業績及び財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、グローバルでの国際情勢を注意深く見守り、懸念されるリスクに対して組織横断での連携を実施し、当社現地法人からの情報収集を通じて、機動的な対応を行っております。米国の関税政策変更に伴うコスト増加リスクに対しては、関税動向や規制変更を常に注視し、追加関税が発動された際には迅速に影響を分析いたします。関税増加分については、製品価格への適切な転嫁やコスト削減を進めることで、収益への影響を緩和いたします。さらに、今後の関税リスクや市場環境の変化を踏まえ、生産拠点の最適化も継続的に検討してまいります。これらの取り組みにより、関税リスクによる事業への影響を最小限に抑えるよう努めてまいります。問題が長期化しているロシア・ウクライナ情勢に対しては、各国の経済制裁や規制強化をはじめ、さまざまな国際情勢の動向を常に情報収集し、状況に応じた適切な判断を行ってまいります。中東情勢悪化に伴うスエズ運河の航行リスクに対しては、各生産拠点における利用航路・港の複線化を進めてまいります。

2.プリンティング市場の縮小

オフィス・ホーム向けのプリンティング市場は、デジタル化の加速や働き方の多様化を背景に、プリントボリュームの減少が続いており、今後も市場全体の緩やかな縮小が予想されます。プリンティング・アンド・ソリューションズ事業は、売上収益・営業利益ともに当社グループの半分を超える規模を占めているため、全社業績への影響が大きい事業領域です。そのため、市場環境の変化に迅速かつ的確に対応できない場合、当社グループ全体の経営成績や収益基盤に影響が及ぶ可能性があります。

プリンティング市場の縮小リスクに対応し、既存事業の収益力強化とともに、事業ポートフォリオの変革を進めてまいります。オフィス・ホーム向けには、契約型サービスやサブスクリプションなど「つながるビジネス」を拡大し、顧客との継続的な関係構築と顧客生涯価値(LTV)の向上を目指します。業務用ラベリング事業では、用途に応じた最適なソリューション提供を強化し、事業拡大に注力しております。また、ドミノ事業と産業用プリンター事業を含むインダストリアル・プリンティング事業では、アナログからデジタルへの移行や自動化ニーズの高まりを背景に成長が続いており、これまでの技術を活かして、産業用印刷市場でのさらなる成長と収益性向上、持続可能な事業構造への転換を目指しております。

3.企業間競争

当社グループはプリンティング・アンド・ソリューションズ事業を始めとして、多くの市場において他社との激しい競争にさらされております。当社グループよりも多くの経営資源を有している企業との競合や、新興国の地場メーカーの台頭、あるいは競合先間の提携が行われ、市場競争が激化することが想定されます。企業間競争が激化すると、販売価格の低下や現在の市場シェアを維持できなくなることにより、当社グループ全体の経営成績や収益基盤に影響が及ぶ可能性があります。

各市場において顧客価値を実現する製品の提供に加え、当社の強みである各地域の販売会社や販売チャネルネットワークを活用したサービス展開に取り組んでおります。また、業務効率化を推進し、手戻りの少ない開発や製造コスト削減を実践することで、スピードとコスト競争力を兼ね備えた事業運営基盤の構築を進めております。さらにサステナビリティの観点から、製品の環境性能向上や消耗品カートリッジの回収・リサイクル拡大など、循環経済型ビジネスの推進にも積極的に取り組み、持続可能な成長を目指してまいります。

4.世界経済状況の変動

当社グループはグローバルに事業を展開しているため、世界経済の変動が関連市場の需要に影響を与える場合、当社グループの経営成績等に影響することが想定されます。

例えば、プリンティング・アンド・ソリューションズ事業の製品・サービスはオフィス・ホーム・業務用向けとして幅広いお客様にご利用いただいており、インダストリアル・プリンティング事業とマシナリー事業の製品・サービスは消費財の包装、自動車、アパレルなど多様な製造業のお客様にご利用いただいております。

したがって、世界経済の変動によってお客様の経営状況が悪化し、当社の製品・サービスへの投資が抑制される場合、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

短期的な経済変動に左右されにくい安定した収益基盤の確立を目指し、高付加価値の製品・サービスを提供するとともに、開発からアフターサービスまで一貫した機能強化に取り組んでおります。

プリンティング・アンド・ソリューションズ事業では、A4機を主力としたSOHO(Small Office・Home Office)市場向け製品や、成長分野である業務用ラベリングに注力し、ストレスフリーな印刷体験の提供や消耗品自動配送など「つながるビジネス」の拡大によって収益力を強化してまいります。

インダストリアル・プリンティング事業では、新製品投入やサービス・ソリューション事業の強化、事業基盤の最適化を進めております。自動化やデータ分析など高付加価値サービスの提供を通じて、顧客の生産性向上と市場競争力の強化を図ります。

マシナリー事業では、高生産性・省エネ製品の展開やグローバルな販売・サービス体制の強化により、お客様の競争力向上とCO2排出削減に貢献し、加えて固定費や原材料費の削減を進めることで、経済変動に強い収益構造を構築してまいります。

また、当社グループは日本、アジア、米州、欧州地域でバランスの取れた売上構成を持ち、特定地域の景気変動リスクが抑制されております。今後もグローバルネットワークを活かし、各地域での事業展開を推進してまいります。

 

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

5.サプライチェーン

・サプライチェーンの断絶

・CSR調達

・サプライチェーンの断絶

当社グループは、生産・販売拠点をグローバルに展開しております。主要な生産拠点はベトナム・フィリピン・中国等であり、販売拠点は世界各国に広がっております。国や地域における経済的な対立や戦争、大規模火災、台風、巨大地震、地球温暖化に伴う異常気象、感染症の再拡大に加え、お取引先の事業ポートフォリオの見直し(事業採算悪化、設備の老朽化等)により重要部材の継続調達が困難になる等、部材調達・生産面で支障が発生するリスクがあります。

また、国際物流が混乱し船のスペース不足やコンテナの滞留、航路制限が発生すると、部品輸入遅延や出荷遅延及び運賃コスト高騰リスクがあります。

結果として市場への商品供給不足による販売機会の損失や顧客流失により経営成績に影響を与える可能性があります。

 

・CSR調達

当社グループは、その生産拠点の多くを海外に置いており、主要な生産拠点はベトナム・フィリピン・中国等となっております。これら諸拠点では部品調達先との取引関係がありますが、その調達先を含むサプライチェーンで発生する人権問題、例えば強制労働や児童労働などがあった場合、お客様からの信頼を失うだけでなく、当社とお客様のお取引に影響が出る可能性があります。また、調達先のさらにその先をたどっていくと、原材料に行き着きます。その原材料となる鉱物の取引において、アフリカなどの紛争地域及び高リスク地域産出の一部の鉱物の取引が当地の武装勢力の資金源となり、紛争の助長、人権侵害、労働問題、環境破壊などに関与していることが判明した場合にも、同様にお客様からの信頼を失う可能性が出てきます。

・サプライチェーンの断絶

生産体制については、主要な消耗品を複数拠点において生産するほか、予備の生産設備を保有するなどのリスク対応策を実施しております。部品に関しては、調達先の複線化や重要部材の戦略的な在庫保有を進め、特定の国やサプライヤーへの依存度を下げる活動を推進しております。販売拠点においては、欠品を防ぐための在庫水準の適正化を継続的に行ってまいります。物流面においては、生産拠点所在地域において自社倉庫や外部倉庫による製品や部材の在庫保管スペースの確保及び利用航路・港の複線化を進めております。

また諸拠点においては、防火対策や地震・台風等の自然災害に対する一定の防災・減災施策を講じております。本社機能が位置する日本でも南海トラフ地震を想定した防災危機管理体制を確立しております。

・CSR調達

リスク低減に向け、当社は「CSR調達方針」を制定し、ホームページでの開示の他、取引先説明会、書面などで調達先の皆様へ方針説明をおこなうとともに、主要事業の一次サプライヤーに対して人権への取り組みを要請しております。また、その上流のサプライヤーに対しても一次サプライヤーを通じて同様の取り組みを要請することで、サプライチェーンにおける責任ある調達を目指しております。また、人権への取り組みをより推進するために「ブラザーグループ人権グローバルポリシー」を制定し、当社の役職員及び製品・サービスの全ての関係者の皆様に同ポリシーの理解及び当社の取り組みへのご協力を要請しております。さらにRBA(Responsible Business Alliance)に加盟し、RBA行動規範の遵守をサプライヤーに対し要請することで、人権問題だけでなく、安全衛生・地球環境への影響を削減するなど、サプライチェーンにおけるリスク評価と是正への体制を強化しております。責任ある鉱物調達については、「責任ある鉱物調達方針」を制定し、ホームページに開示するとともに、鉱物の使用状況について調査を実施し、調達先の皆様と連携を図りながらサプライチェーンにおける鉱物調達の透明性確保及び紛争鉱物の使用回避に向けた調達活動に取り組んでおります。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

6.部材に関するリスク

当社グループの製品に使用されている調達部材について、お取引先での火災・地震等の自然災害や、お取引先の事業環境変化・ポートフォリオの見直しによる事業撤退から、部材調達困難な状況が新たに発生するリスクがあります。

また、カーボンニュートラル、再生材料利用率向上といったサステナブル対応に伴う対応費用や各国法規制対応の為の価格転嫁、地政学リスク対策の為の調達先の限定、通商問題による部材入手困難、原材料価格の上昇、エネルギーコストの高騰、人件費の上昇等、さまざまな複合要因により価格上昇が発生しており、その状況が高止まりするリスクがあります。

これらの影響を製品の販売価格に転嫁できない、あるいは経費削減、能率改善でコストを十分に吸収できない場合、将来の収益性に一定の影響を及ぼすことが想定されます。

部材の調達難に対しては、代替え困難な部品の長期在庫確保、調達の複線化、現地化などのBCP対策を継続するとともに、お取引先における電気設備点検等の防災活動を推進することで、強靭なサプライチェーンの構築を推進します。

部材価格の高騰に対しては、樹脂材料・電子部品、鋼板や銅などの原材料やエネルギーコストの価格高騰リスクを計画時点でも織り込むことで想定収益への影響を低減しております。通商問題に対しては、変化する状況に素早く対応する事により生産活動に影響が出ない様に部材調達を進めます。一方、調達コストの低減においては、各市況の変化を正確に把握することで、お取引先に対し適切なタイミングにおける値戻しを依頼していきます。併せて、お取引先と連携したVA提案活動を推進します。

7.品質・製造物責任

すべての製品に対し欠陥がなく、将来に製品安全問題や品質問題が発生しないという保証はありません。それらの重大な問題が発生した場合の可能性として、多額のコストを要するほか、ブランドイメージや社会的評価が低下し、顧客の当社グループ製品への購買意欲を減少させ、当社グループの経営成績等が影響を受けることがあります。

当社グループは、高品質の魅力ある製品を提供するため、厳格な品質管理基準に従って生産管理体制を確立し、製品の製造を行っております。製造委託先から供給を受ける製品に対しても、適正な品質レベルであることを検証しております。また、仮に製品起因の事故が発生した場合には、被害者への対応を第一優先に行うとともに情報公開、官公庁への報告など被害拡大の抑制に取り組んでいきます。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

8.法規制

・コンプライアンス全般

・税制

・コンプライアンス全般

当社グループは、事業活動を行っている各国・地域において、さまざまな法令や規制の適用を受けております。各国・地域の法令・規制の新設・変更によって、当社グループの事業活動が大きく制限され、法令や規制対応のために多額の費用負担が発生する可能性があり、意図せずに法令・規制に違反した場合には、当社グループの経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、従業員による不正行為によって当社グループにおいて損害が発生し、当社グループの事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

主要なコンプライアンスとして「不正会計・横領」「不公正な取引方法(競争法違反)」「贈収賄(腐敗リスク)」「品質不正」の4つを特定しております。

不正会計については、各国・地域の法令や当社グループの会計ルールなどに反する会計処理によって決算の修正やステークホルダーからの信頼失墜につながるリスクがあります。また、役職員の横領によって会社の財産が棄損されるリスクがあります。

不公正な取引、贈収賄については、各国・地域の競争法・反腐敗法に違反する事業活動によって、競争法当局からの罰金や当社グループの事業活動への制限がかけられるなどのリスクがあるほか、法令や規制対応のために多額の費用負担が発生する可能性があります。

品質不正については、当社製品の開発や製造・検査上の不正(性能や検査に関するデータ改ざん等)によって製品のリコールやそれに伴う多額の費用負担、ブランドイメージの低下などのリスクがあります。

上記のリスクが顕在化した場合、当社グループの事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

・コンプライアンス全般

当社グループでは、コンプライアンス(法令・倫理の順守)は、さまざまなリスクを回避する上で経営上不可欠なものであると考えております。グループ全体でコンプライアンスを徹底するために「ブラザーグループ グローバル憲章」の行動規範のひとつである「順法精神・倫理観」と、企業としての責任を明確に定義し行動していくための「ブラザーグループ社会的責任に関する基本原則」に基づいて、従業員の行動基準を定めております。

当社では、コンプライアンス委員会の設置や相談通報窓口(ヘルプライン)を設けて不祥事の未然防止や早期対応、再発防止に努めております。海外を含むグループ各社でも個別にコンプライアンス委員会・部門やコンプライアンスヘルプラインを設置して対応しております。

重要なコンプライアンス案件については、グループ各社のコンプライアンス委員会・部門だけでなく、当社のコンプライアンス委員会にも通知され、グループ一体となって対応する体制を築いております。

 

主要なコンプライアンスリスクに関する対応状況は以下の通りです。

・不正会計・横領:当社グループ会社の決算を分析し、不正の兆候の有無を把握するとともに、必要に応じ個別に調査を実施しております。

 

・不公正な取引(競争法違反):日本国内においては、サプライチェーンのお取引先や価値創造を図る事業者の皆さまとの連携・共存共栄を進めることを明示した「パートナーシップ構築宣言」を公表するとともに、下請法の順守体制を構築しております。特に、下請業者からの労務費上昇に基づく価格交渉については、下請事業者から協議の申入れがあった場合には、労務費上昇分の影響を考慮するなど下請事業者の適正な利益を含むよう、十分に協議することとしております。また、グループ会社(欧米、アジア)の役職員に対して競争法リスクに対する意識向上のための定期的な教育を実施しております。

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

8.法規制

・コンプライアンス全般

・税制

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・税制

当社グループは、グローバルに事業活動を展開しており、事業拠点を有する各国・地域における税制の適用を受けております。各国・地域における税制や税率が変更された場合、当社グループの経営成績等にマイナスの影響を与える可能性があります。
また、BEPS問題(税源浸食と利益移転)に対処するため各国・地域の税務当局による取組が強化されており、今後、法規制が変更された場合や税務執行が厳格化された場合、追加課税や国際的な二重課税が発生し、税負担が上昇するリスクがあります。

・贈収賄(腐敗リスク):腐敗リスクが高い国や地域(主にアジア)のグループ会社において、反腐敗に関するポリシーを定めることや、お取引先による腐敗行為の防止に関するスクリーニングなどの活動を行っております。また、役職員の反腐敗意識を高めるために反腐敗に関する教育(E-Learning等)を行っております。

 

・品質不正:品質データ管理システムの導入などデータ改ざんを防ぐ体制、当社グループの主要製造拠点・開発拠点に対する品質不正監査体制の構築活動を進めております。また、品質コンプライアンス意識向上のための教育(E-Learning等)を実施しております。

 

・税制

重要な税務上の事項については、各地域の統括会社を通して、当社税務部門に適宜共有され、税理士法人などの外部専門家のサポートを受けるだけでなく、必要に応じて税務当局ともコミュニケーションを取って対処しております。また、当社グループ間の取引については、独立企業間価格となるように、各国・地域との移転価格を適切に管理しており、移転価格課税リスクの高い取引については、APA(事前確認制度)を活用することで税務リスクを低減しております。

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

9.環境

・環境に関する

社会的要請

・環境規制、環

境汚染

・環境に関する社会的要請

グローバルに事業活動を展開する当社グループにとって、次のリスクは現在から将来にわたって極めて重要な課題であり、事業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

気候変動は、災害等による人的被害、操業の停止、サプライチェーンの断絶など、生産・販売活動に大きな影響を与える物理的リスクに加え、脱炭素社会への急速な移行に伴う法規制強化や対応コスト増、対応遅れによる販売機会喪失などの移行リスクがあります。特にマシナリー事業では自動車産業における内燃機関からEVへの移行リスクがあります。

サーキュラーエコノミーの進展は、欧州各国中心に資源消費を抑えつつ経済発展を目指す政策が推進されており、法規制強化や対応コスト増、対応遅れによる販売機会喪失などの移行リスクがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・環境に関する社会的要請

気候変動に対しては、その原因となっている温室効果ガス排出を削減するため、「1.5℃目標」のSBT(Science Based Targets)認定を受けた2030年中期目標を設定しております。この目標の達成に向けて、スコープ1・2については事業所の省エネ及び再生可能エネルギーの積極的な利用等、スコープ3については温室効果ガス排出量の80%以上を占める製品の部材調達、使用、廃棄段階での排出を削減するため、調達する部材の省資源化・再生利用、製品の省エネルギー性能の向上・リサイクル性向上などに注力して取り組んでおります。さらに2023年度からレーザープリンター製品及びインクジェットプリンター製品において、部品サプライヤーと協働し、部品製造時に使用される電力に再生可能エネルギーを導入することにより、部品製造時のCO2排出量を2024年度までの2年間で3.0万t-CO2の削減ができました。またマシナリー事業では内燃機関部品に替わって需要が増加しているEV向け部品で求められる大型のアルミ部品や、さまざまな加工ニーズに応えることができる製品“SPEEDIO”シリーズを開発することで、EV部品加工ソリューションを提供し、自動車産業におけるEVへの移行リスクに対応しております。

サーキュラーエコノミーの進展に対しては、当社グループの資源効率を向上させるため、2030年中期目標(特に資源使用量の多いプリンティング&ソリューション事業を対象にして、製品に投入する新規資源量を25%削減)を設定しております。その達成に向けて「プリンターの消耗品カートリッジの回収・リサイクルの拡大」、「製品のリユース促進」、「サブスクリプションサービス等のお客様とつながり続けるビジネスの拡大」を主要な取り組みと位置付け、資源の有効利用、資源循環を推進し、CO2排出削減にも貢献しております。

また、当社は2020年2月に金融安定理事会が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」、2025年3月に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Task Force on Nature-related Financial Disclosures)の提言に賛同致しました。TCFDへの対応として、当社グループの全ての事業に対して気候変動が与える財務的な影響の分析を実施し、Web等にて開示しました。TNFDへの対応として、TNFD提言に沿った開示に向けた検討・準備を進めております。今後も情報開示の充足に努めてまいります。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

9.環境

・環境に関する

社会的要請

・環境規制、環

境汚染

・環境規制、環境汚染

グローバルに事業を展開する当社グループは、世界各国・地域において様々な環境法規制の適用を受けております。中でもEU-RoHS指令をはじめとする製品含有化学物質に関わる法規制は、世界各国・地域において新設及び改正が頻繁に行われております。これら規制に対する違反が発生した場合、製品のリコール、生産・販売の中止、課徴金の負担、刑事罰及び社会的信用の失墜等により、当社グループの事業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。

・環境規制、環境汚染

当社グループは、禁止、制限及び管理対象とすべき化学物質を「ブラザーグループグリーン調達基準書」に明示すると共に、サプライヤーによる部材の適合保証、成分情報の伝達、サプライヤー監査及び納入品の抜き取り検査等を実施することにより、確実な法規制遵守に努めております。

また、環境法規制の新設や改正に対しては、その動向を早期に把握して、製品設計変更を含めた対応をすることで、新規制発行時に確実に順守できるように努めております。

10.安全保障貿易

当社グループは、多種多様な事業をグローバルに展開しております。米中貿易摩擦やロシア・ウクライナ情勢、中東情勢などの地政学的リスクが高まる中、各国で輸出規制や安全保障関連法令の強化が進行しており、今後も短期から中長期にわたり、規制強化が想定されます。特に、当社の工作機械の一部は輸出関連法令の対象となっており、規制がさらに強化された場合、法令違反リスクや事業・業績への影響が増大します。万一、法令違反が発生した場合、法的制裁や行政指導、一定期間の全製品輸出停止、社会的信用の失墜など、当社グループの事業経営に重大な影響を及ぼす恐れがあります。

各国・地域の規制動向を把握・分析し、リスクの重要度や緊急度に応じて、迅速かつ柔軟に管理体制や社内ルールを見直し・強化しております。また、グループ全体での輸出管理体制強化、従業員への教育・研修の徹底、サプライチェーン全体でのコンプライアンス意識向上に取り組んでおります。これにより、法令違反や事業中断リスクの早期発見・未然防止を図り、急激に変化する国際環境下でも持続的な成長と企業価値の最大化を実現します。

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

11.情報・システム

・情報セキュリティ

・情報ネットワーク

・情報セキュリティ

何らかの原因で個人情報及び機密情報が外部に漏洩した場合、お客様からの信頼を失うとともに、ブランドイメージの低下を招くなど、当社グループの事業活動や経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、顧客サービスの充実を目指して、製品情報やサポート情報の提供並びに、関連サービスの提供を行っております。このようなWebサイトや関連するシステムにつきましては、安全な情報セキュリティレベルを維持することに努めておりますが、マルウェア感染や標的型攻撃などのサイバー攻撃により、データの破壊や改ざん、サービスの停止などの被害等が発生した場合、事業活動に悪影響を及ぼすことが考えられます。

また、近年は、IoT 製品をターゲットとしたサイバー攻撃の脅威が増大しており、当社製品からお客様の個人情報や機密情報が漏洩した場合、お客様からの信頼を失い、ブランドイメージが失墜し、当社グループの事業活動や経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。各国政府もIoT製品のセキュリティ向上や個人情報保護を目的とした法整備を活発化しており、法令に準拠しない製品は、対象国で販売できなくなる可能性があります。

・情報セキュリティ

当社グループは、情報管理規程を定めると共に情報管理委員会を設け、情報セキュリティ運用ルールを策定しております。また、SNS等のソーシャルメディアの利用に関しても、利用規程を定めております。それらの運用ルールや利用規程に基づくセキュリティ対策や社内教育を行うことで、個人情報及び機密情報の漏洩防止、サイバー攻撃へのグローバルで統一した多層防御対策の強化に努めております。また、近年はスマートフォン等により一部の社内情報の利用が出来ますが、利用端末の制限や暗号化等により管理体制の強化に努めております。さらに、個人情報や機密情報へのアクセスに関しましては、アクセス制御やアクセスログ管理を行っており、不正な取り扱いを回避しております。

当社グループは、お客様に安心して製品をお使いいただくために、「製品情報セキュリティ基本方針」を定め、グループ全体で製品セキュリティの向上を図っております。また、製品に関する脆弱性リスクが発生した場合の報告ルートや製品情報セキュリティ事故の対応体制に関する社内規程を定め、体制を構築することでリスクを最小化する対策を実施しております。各国の法令順守に関しては、海外子会社と連携し、法令等の新設・改訂の情報を察知し、法律の内容を十分に理解したうえでグループのビジネスや製品サービスへ迅速に反映するよう努めております。

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

11.情報・システム

・情報セキュリティ

・情報ネットワーク

・情報ネットワーク

当社グループは、生産管理・販売管理及び財務等に関する情報を、ネットワークを通して管理しております。また、近年は外部データセンターやクラウドサービスを活用し、社内のみならず社外に配置した情報システムもネットワークを通して使用しております。万が一ネットワークの切断、システムの停止等が発生した場合、これらは事業活動の阻害要因となり得ます。また、マルウェア感染や標的型攻撃などのサイバー攻撃につきましても、予期し得ない外部からの侵入や攻撃がなされた場合、その内容や規模によっては、事業活動に悪影響を与える可能性があります。

また、財務報告の信頼性を維持し高めることが求められている中、予期し得ない統制上の問題が生じた場合には、財務報告の信頼性を担保できないような状況が起こり得る可能性があります。

・情報ネットワーク

情報の保存、設備の保全等の対策には万全を期しておりますが、サプライチェーンに影響する重要システムは、万が一の故障時にもダウンタイムを最小限にして早期復旧を可能とするシステム構成にしております。

予期し得ない外部からの侵入や攻撃への対策として、グローバルで統一した多層防御に基づくセキュリティ対策の強化を行っており、定期的に見直しを行っております。24時間365日のセキュリティ監視を行うことで、PC、及びサーバ上の不正なふるまいをいち早く検知し、脅威を除去することで高度化するサイバー攻撃への対応も行っております。

上記のように、対応し得る最善の仕組みで対策を行うと同時に、日々進化するITテクノロジーに対応するため、システムを運営、利用する人材を継続的に教育することでレベルアップを図っております。万が一事故が発生した場合に備え、日頃より社内の対応組織の訓練を行い、迅速に対応することで被害を最小限に抑えるよう努めております。

内部統制への対応として、IT全般統制の視点から情報システムの開発・保守・運用業務の品質向上活動を継続し、適正なIT業務運用に努めております。

12.人材

・労働災害、

人的被害

・人材確保

・労働災害、人的被害

当社グループはグローバルに事業拠点を展開しており、多様性や環境、安全に対する意識並びに順守すべき法律も拠点所在国・地域によって異なっております。そうした労働条件において軽微なものから障がいが残る重篤な災害まで多くのリスクが労働環境には潜んでおります。加えて、昨今の想定を超えた天災から生じる被害や機械・設備などが起因となる火災、爆発などの事故で製造拠点の操業を停止することで社会的責任が果たせなくなると共に当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

・人材確保

労働市場における人材の獲得競争は激化しており、有能な人材の採用や雇用の継続が困難になった場合は、研究開発に十分な資源を投入できないことによる製品競争力の低下や労働力不足による製品の安定供給への支障など、結果として当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。発生可能性は現時点で低いものの、特にブランドイメージが著しく損なわれた場合に発生することが想定され、影響は案件の内容次第となります。

・労働災害、人的被害

グループ各拠点の安全防災事務局から毎月の事故・災害状況を入手して、発生した災害に関しては原因の究明や再発防止策などの情報を共有し水平展開を図ることで同種・同類災害の再発を防止しております。また、各拠点で実施されている安全防災活動を支援し、工場監査を通じて実施状況の確認を行っております。
なお、火災・爆発のリスクに関しては、2017年に「ブラザーグループ防災体制・管理規程」を制定し、各国の消防法令の枠を超えたグループ標準を設けて遵守事項についての監査を実施しております。

 

・人材確保

当社グループは、グローバルに展開する企画、開発、設計、製造、販売、サービス等の各機能に必要な人材確保に努めております。
人材の定着においては、従業員が長期にわたって活躍できるよう人事制度の進化や職場環境の継続的な改善に取り組むとともにキー人材についてはサクセッションプランの策定を行っております。
またブランドイメージの維持向上については、グローバル憲章による社員啓発や企業広報の強化に取り組んでおります。

 

 

 

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

13.M&A(減損リ

スク)

当社グループは産業用領域のさらなる拡大・新規事業の創出・育成等に向けて、M&Aも含めた成長投資を加速する方針を掲げております。
M&Aなどの実施においては、事業の統合に当初想定以上の負荷がかかることや投資時点において想定した通りに投資先が事業を展開できないこと等により、予想された通りの投資効果が得られないリスクがあります。
当社グループは、2025年3月31日現在の連結財務諸表上、のれんを53,679百万円(総資産の5.8%)計上しており、そのうち、2015年に買収したドミノ事業に関連するのれんが53,214百万円を占めております。上記のリスクが顕在化し将来キャッシュ・フローの見積りが変動した場合、また、将来の金利水準や長期的な市場成長率などの変動が生じた場合、これらののれんや有形固定資産、無形資産等の減損損失が生じ、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

当社グループは中期戦略「CS B2027」において、M&Aを推進する組織能力・体制を大幅に強化する方針を掲げ、機動的な投資実行とガバナンスの強化を両立しながら、PMIにおける本社の積極的な関与と支援を実施してまいります。

また、中期戦略「CS B2027」において、ドミノ事業を含むインダストリアル・プリンティング事業を、ブラザーグループの成長エンジンを担う成長事業と位置付け、「製品及びビジネス領域の拡大」、「サービス・ソリューション事業の強化」、「事業基盤の強化」を重要施策として取り組んでおります。

また、のれんにつきましては少なくとも年に1回、減損の兆候の有無にかかわらず、将来得られるキャッシュ・フロー見積りと、帳簿価額を比較して、のれんの資産価値を確認しており、適正な評価額で計上しております。

14.為替変動リスク

当社グループは、海外での製造・販売比率が高く、外貨建取引に係る為替変動リスクが定常的に発生しております。2025年3月期の実績ベースで試算した場合、対ユーロで円高になると、1円当たり、年間約10億円の利益の減少要因となります。また、対米ドルで円安になると、1円当たり、年間約2億円の利益の減少要因となります。
また、中国・東南アジアなど、主要な製造拠点の所在地域の通貨が上昇した場合、製造・調達コストを押し上げる要因になるなど、中長期的な為替レートの変動が、経営成績等に一定の影響を及ぼすことが想定されます。

海外子会社の保有する現地通貨建ての資産(負債を控除した純額)は、各現地通貨に対して円高になると、円換算後の金額が目減りします。これは直ちに連結損益には影響しませんが、その他の包括利益が減少し、純資産を押し下げる要因となります。

リスク低減のため、外貨建取引における受取と支払のリンク率向上を図る一方で、短期的には為替予約取引を行うなど、リスクを効率的に管理し、回避するよう努めております。

 

 

項 目

リスクの内容・可能性・時期・影響の程度

対応策

15.知的財産

(1)第三者による模倣品の販売など、第三者による当社グループ所有の知的財産権の侵害が発生する可能性があります。この結果、当社グループの経営成績等が悪化したり、信用が低下したりする可能性があります。

 

(2)第三者所有の特許権等について、第三者より当社グループに対し、侵害の訴えが提起される可能性があります。第三者の主張が認められると、製品の販売の差止めや、損害賠償の支払などが求められる可能性があります。

 

(3)当社グループは、必要に応じて、特許権等知的財産権に関するライセンス契約を他社と締結しつつ、事業活動を行っております。しかしながら、ライセンス契約の条件によっては事業活動が影響を受ける可能性があります。

 

 

(4)発明者より、発明の報奨に関する訴えが提起される可能性があります。

(1)当社グループは、第三者による侵害行為に対しては、経営成績等や信用への影響度を考慮しつつ、知的財産権を行使しております。

 

 

 

(2)当社グループは、他社の特許権等の知的財産権を尊重して事業活動を行っておりますが、第三者から侵害の訴えが提起された場合には、内容を精査した上で、防御や和解などの対策を講じております。

 

(3)当社グループでは、研究開発の成果として多数の特許権を取得しております。保有する一部の特許権について相手方へライセンスを供与するなどの対策を講じつつ、事業活動への影響が最小限になるように契約を締結しております。

 

(4)当社グループは、発明報奨規程を設けており、発明者に対する報奨を適切に行っております。

 

 

配当政策

3【配当政策】

剰余金の配当等の決定に関する方針につきましては、将来の成長のために必要な内部留保の確保やキャッシュ・フローの状況などを総合的に勘案しつつ、安定的かつ継続的な株主還元を行うことを基本方針としております。

当社は、中間期末と期末の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としており、「取締役会の決議によって、会社法第459条第1項各号に掲げる事項を定めることができる」旨定款に定めております。

当連結会計年度を最終年度とする中期戦略「CS B2024」においては、未来に向けた先行投資を行う一方で、1株 当たり年間68円の配当を下限水準とし、業績状況等に応じて配当水準の引き上げを含めた追加的な株主還元を検討 すること、加えて、自己株式の取得については機動的に実施することを掲げてまいりました。当連結会計年度の配当金につきましては、期末配当を1株当たり50円とし、すでに実施済みの中間期末の配当(1株当たり50円)と合わせ、前連結会計年度から16円の増配となる、1株当たり年間100円の配当といたしました。

2025年度よりスタートする中期戦略「CS B2027」においても、これまでの増配・維持の流れを引き継ぎ、株主還 元をさらに強化していく予定です。1株当たり年間100円の配当を下限水準とし、配当性向40%を目安として還元します。また、「CS B2027」の期間中に合計600億円の自己株式の取得を予定します。加えて、業績等の状況に応じて追加還元も検討していきます。この方針のもと、株主還元と資本効率の向上、及び機動的な資本政策を遂行するため、200億円を上限として自己株式を取得(期間:2025年5月12日~2026年4月30日)することを、2025年5月9日の取締役会で決議いたしました。

 

なお、当連結会計年度に係る剰余金の配当は以下の通りであります。

決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2024年11月8日

12,812

50.0

取締役会決議

2025年5月19日

12,813

50.0

取締役会決議