リスク
3 【事業等のリスク】
DNPグループは、地球環境の持続可能性を高め、健全な社会と経済、快適で心豊かな人々の暮らしを実現していく新しい価値の創出に努めており、それによって当社自身の持続的な成長を達成していきます。社会環境の急変など、経営に影響を与える変動要因がますます多様かつ広範囲になるなか、全社のリスクを適切に評価・分析して中長期的な経営戦略に反映し、事業機会へと変換するプロセスを強化することが、よりサステナブルな社会への貢献と、当社が標榜する「未来のあたりまえ」につながると考えています。こうした考えに基づき、中長期的なリスクの管理と事業機会の把握、経営戦略への反映を担う「サステナビリティ推進委員会」を代表取締役社長が委員長に就いて運営しています。また、自然災害をはじめとする有事の際も社員の安全を確保して生産活動を維持し、企業継続を担保する「BCM推進委員会」、企業継続の基本となる社員のコンプライアンス意識の向上を図り、リスクの低減を図る「企業倫理行動委員会」を合わせた3つの委員会が互いに連携し、全社的リスクを網羅する体制を構築して、統合的なリスクマネジメントを推進しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在においてDNPグループが判断したものです。
(1)人権に関するリスク
人権に関する課題に対しては常に、自社だけでなくサプライチェーン全体を通じて、企業が責任を果たすことが求められています。強制労働や児童労働、低賃金や未払い、長時間労働、安全や衛生が不十分な労働環境、ハラスメント等の社会課題の解決に向けて、デュー・ディリジェンスによるサプライチェーンの可視化や、人権侵害が懸念される国・地域からの輸入禁止など、法規制も含めて人権の尊重を担保する動きが加速しています。また、AIの活用範囲の拡大など、技術革新による新たな人権問題も生じています。これらの社会課題を解決していくため、国際的な基準や規制の整備も進むなか、企業に対しても適切な取り組みが求められています。こうした対応を行わない企業は、社会的信頼を失うだけでなく、法的なリスクのマイナスの影響や経済的損失を被る可能性があります。これら企業を取り巻く状況の変化は、当社グループの事業環境にも大きな影響があると認識しています。
これらの人権に関するリスクの事業への影響に対して、当社は「DNPグループ人権方針」に基づいて、多様な活動を行っています。また、当社の事業活動が、自社の社員だけでなく、サプライヤーや地域社会を含むサプライチェーン上の全てのステークホルダーの人権に影響を及ぼすことを認識しています。それらに対する負の影響を防止・軽減するため、人権デュー・ディリジェンスの実施や各ステークホルダーが利用できる通報窓口の実効性の強化、ステークホルダーとの対話などをそれぞれの責任部署を定めて強化・推進しています。
<人権の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=36
(2)労働安全に関するリスク
近年ますます多様化する働き方や労働環境の変化により、社員の健康と安全を確保する企業の責任が一層重要となっています。特に、労働災害やメンタルヘルスの問題に対する社会的関心が高まっており、企業にはその具体策を講じることが求められています。また、各国・地域で労働安全に関する法律や規制が強化され、違反が発覚した場合には企業の信用失墜や経済的損失につながる可能性があります。これらの環境変化は、当社グループの事業運営にも深刻な影響を及ぼす可能性があると認識しています。
こうした状況に対して当社は常に、社員が業務を通して負傷することなどはあってはならないとの認識のもと、人権上の重要課題である労働安全の確保のために、労使一体でグループ全体の安全衛生のレベル向上に努めています。さらに、人的資本ポリシーに基づいて定めた「DNPグループ安全衛生憲章」及び「DNPグループ健康宣言」のもと、代表取締役社長をトップとして安全衛生活動を推進しています。労働災害の防止に向けては、国の示す労働災害防止計画や社内の労働災害発生の動向を踏まえて、3年ごとに基本計画を見直し、具体的な活動を強化・推進しています。製造部門の全拠点においては、「真に健康と安全を全てに優先させる風土」の実現に向けて、「月1時間の対話・教育(ツキイチキョーイク)活動」を継続的に実施しています。特に重篤な災害につながる設備の対策については、既存・新規を問わず全ての設備について、リスク部位を抽出して“見える化”を行っています。そのなかでも特に重篤度の高い部位から優先して、全ての職場において、当社が独自に策定した設備安全規格に準じた安全対策を展開することで、「不安全な状態」や「不安全な行動」の見直しと改善を実践し、リスクアセスメント活動とそれに基づく対策に重点的に取り組んでいます。
<労働安全の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=57
(3)製品・サービスの安全と品質に関するリスク
製品・サービスの安全と品質は、企業の社会的信頼の基盤を形成する重要な要素です。顧客企業や生活者は、企業が提供する製品やサービスに対して高い安全性や正確性を求めており、これに応えることは企業の責務です。近年はこうした企業責任に対する社会からの要請が一層高まっており、世界の各国・地域で新たな規制や品質基準の検討・制定が進行しています。このような環境変化は、当社グループの事業活動に対して深刻な影響を及ぼす可能性があります。特に、製品の不具合や品質問題が発生した場合、企業のブランドイメージや顧客からの信頼に対するダメージは非常に大きく、法的な責任や経済的損失を引き起こす可能性があります。したがって、製品安全・品質に関するリスクを適切に管理し、継続的な改善を図ることが不可欠です。
当社は「品質経営」の基本方針として、自社の製品・サービスに関して、必要な規格や法の規制に適合させることはもちろん、顧客企業や生活者のニーズと期待を上回る安全性と品質を提供し、企業としての社会的責任を果たすことを定めています。その実現に向けて当社は、製品・サービスの安全性と品質の確保のために実施すべき事項を全社ルールとして定めるとともに、品質マネジメントシステムと製品安全管理の体制を構築・運用しています。また、当社が提供する全ての製品・サービスに対し、設計段階からリスクの抽出・評価を行い、検出したリスクの負の影響の低減を図り、安全性と品質の両面から、顧客企業や生活者等が安心できる品質・価値の継続的な提供に努めています。
また、品質マネジメントシステムの運用状況の確認や品質不正の防止の観点から、本社の品質保証統括部門による「品質システム検査」を年1回実施しています。この点検の結果は「DNPグループ品質保証・製品安全委員会」及び「企業倫理行動委員会」に報告し、指示に基づく改善を進めています。
<製品・サービスの安全と品質の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=76
(4)情報セキュリティに関するリスク
社会の急速なデジタル化にともない、世界規模な情報ネットワークでのデータ連携が活発化する一方で、サイバー攻撃や情報漏えいなどのリスクが一層高まっています。近年は特に、個人情報の保護が重要視されるなか、各国・地域で規制の強化などが進められています。これらの環境変化は、当社グループの事業運営に対して深刻な影響を及ぼす可能性があると認識しています。仮に情報漏えいが発生した場合、顧客企業や生活者の信頼を失うだけでなく、法的責任や経済的損失を招く恐れがあり、その影響はサプライチェーン全体に派生する可能性があります。そのため情報セキュリティに関するリスクを適切に管理し、常に最新の対策を講じることが不可欠です。
当社は国内外の環境変化を先取りして、いち早く対応し、一層の情報セキュリティ施策の強化に努めています。具体的には、全社の統括組織として、本社に情報セキュリティ委員会と情報セキュリティ本部を設置し、事業部・グループ会社への検査・指導を実施しています。また、サイバーセキュリティの対応組織としてDNPシーサート(DNP Computer Security Incident Response Team)を本社に設置し、不測事態(インシデント)発生時の事業継続性を維持・強化しています。当社はこうしたマネジメント推進体制のもと、「組織的対策」「人的対策」「物理的・技術的対策」を柱として、情報セキュリティ関連の施策を進めています。
<情報セキュリティの取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=107
(5)法令・社内規定の遵守に関するリスク
近年は特に、企業の社会的責任や倫理的な行動を重視する傾向が強まっており、法令や社内規定を遵守することは、企業の信頼性を維持・向上させるためにますます不可欠となっています。仮にコンプライアンス違反が発生・発覚した場合、企業のブランドイメージや顧客の信頼を損なうだけでなく、法的な責任や経済的損失を引き起こすリスクがあります。これらのリスクは、当社グループの事業運営にも深刻な影響を及ぼす可能性があると認識しています。当社は、あらゆるステークホルダーから信頼される企業であり続けるために、事業活動を遂行するにあたり、社員一人ひとりが単に法令を遵守するだけでなく、高い倫理観を持つ必要があると考えています。それによって、常に公正・公平な態度で秩序ある自由な競争市場の維持・発展に寄与することで初めて、社会や人々からの信頼を得ることができると認識し、グループ全体での企業倫理の浸透・定着を図っています。
具体的な取り組みの一つとして、当社は社員に対する研修・教育を徹底し、統合的なコーポレート・ガバナンスの充実に努めています。また、企業活動において全ての社員が取るべき行動を「DNPグループ行動規範」として制定し、そのなかで「法令と社会倫理の遵守」などの10の項目を定めています。この規範の各項目については、社会環境などの変化に合わせて定期的に見直しを行い、「階層別研修」や国内外の全グループ社員を対象とした「自律的企業倫理研修」を通じて、教育・浸透を図っています。また、社員が万が一不正行為等に遭遇した際、上長や周囲の社員に適時・適切に相談するとともに、自部門だけでは解決できない場合の相談・通報の窓口として、2002年に「オープンドア・ルーム」を設けました。加えて、2015年には弁護士が相談・通報を受け付ける「オープンドア・ルーム」の外部窓口を、2020年には多言語に対応した「グローバル内部通報窓口」を整備し、組織の自浄能力をDNPグループ全体でさらに適正に機能させるよう努めています。
<公正な事業慣行の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=99
(6)サプライチェーンに関するリスク
近年、グローバル・サプライチェーンの拡大にともない、人権・労働、汚職・腐敗等の社会課題や、気候変動をはじめとした環境問題など、企業活動が社会と環境に及ぼす影響は一層大きなものになっています。そのなかで、原材料の調達から生産・利用・廃棄・リサイクルまでのサプライチェーン全体を見据え、起こりうるリスクを把握・分析して、適切に課題を解決するマネジメントの強化がさらに重要となっています。加えて、グローバルに広がるサプライチェーン全体のリスクを的確に捉え、多様な課題を解決して持続可能な社会に貢献するため、国内外のサプライヤーや業務委託先(以下「ビジネスパートナー」)とともに「責任ある調達」に取り組むことがますます重要になっていると、当社は認識しています。
当社は、「DNPグループ サステナブル調達ガイドライン」に則した取り組みを条項の一つとして定めた「取引基本契約書」をビジネスパートナー各社と締結しています。特に重要度が高い個別のテーマについては、「DNPグループ印刷・加工用紙調達ガイドライン」や「DNPグループ化学物質に関するグリーン購入ガイドライン」などを制定し、ビジネスパートナー各社の指導に努めています。また、ビジネスパートナーに対する定期的な「サステナブル調達ガイドライン」遵守状況の調査とその結果のフィードバック、各種説明会を通じたサプライチェーンマネジメントの強化なども継続的に行っています。また、毎年、年間購入額の上位9割程度を占めるサプライヤーや事業継続上重要なサプライヤーに対し、「サステナブル調達ガイドライン」に基づく調査及びリスクアセスメントを実施しています。リスクが認められる一部のサプライヤーに対しては、改善計画の提出を求め、書類指導や個別面談を行い、課題や改善策を確認して次年度の活動に反映するといった継続的なマネジメントを行っています。
<責任ある調達の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=68
(7)自然災害等に関するリスク
気候変動による豪雨や洪水等の水リスクや、大規模地震発生の可能性の高まり、新たな感染症の発生なども含む自然災害等によるリスクは増大しています。仮に甚大な規模の自然災害等の緊急事態が発生して、社員や家族の安全が脅かされ、建物・設備・インフラや取引先・サプライヤー各社の被害によって事業活動が中断することは、自社だけではなく、顧客企業や取引先で働く人たちをはじめ、さまざまなステークホルダーに影響を及ぼすことになります。
DNPグループはこれらのリスクの負の影響を低減するため、対策推進組織として本社にBCM推進委員会を設置するとともに、各事業部に事業部グループBCM推進委員会を設置しています。この体制を活かし、「災害発生時の人的安全対策を最優先すること」「会社の災害に対する対応力と復旧力を高めること」を基本として、日頃から災害リスクを正しく認識し、適切な予防対策などを推進しています。具体的には、製造設備やその他の主要施設に防火・耐震・水害対策等を施すとともに、製造拠点や原材料調達先の分散を図り、生産活動の停止や製品供給の混乱を最小化する事業継続計画(BCP)を策定し、その適切なマネジメント(BCM)を推進しています。各種保険によるリスク移転も図っており、事業の存続を脅かすような緊急事態が発生した場合でも、事業活動が早急に復旧できる強い企業体質の構築に努めています。
体制としては、当社グループ全体の基本的な防災対策を整備・推進する「中央防災会議」、各事業の特性に合った具体的な防災対策を推進する「事業部・グループ会社防災会議」、地区・エリアでの連携を深めて防災対策を推進する「地区防災会議」を設置し、防災計画の作成や予防対策の推進を行っています。災害等の不測の事態に対しては、「DNPグループ災害基本規程」として基本方針や推進体制を定め、社員と家族、関係者の安全を確保し、多様なステークホルダーに安心していただけるようにさまざまな防災対策を進めています。
(8)中長期的に特に対応が必要なリスク
① 環境関連のリスク・機会となる変動要因
‐ 気候変動による自然災害の頻発・激甚化、渇水や洪水等の水リスクの高まり
‐ プラスチック汚染や生物多様性の損失の加速
‐ ネイチャーポジティブ・カーボンニュートラル・循環経済への移行の加速、規制の強化
‐ 環境ポジティブな市場拡大、技術革新の加速 など
地球環境の持続可能性を高めていくことは、企業活動や社会全体において、ますます重要なテーマとなっています。気候変動による自然災害の頻発や激甚化は、企業の運営に直接的な影響を及ぼし、特に渇水や洪水といった水リスクの高まりは、サプライチェーンや生産工程に深刻な影響を及ぼす可能性があります。さらに、プラスチック汚染や生物多様性の損失が加速しており、これらの問題は企業の社会的責任も強く問うものとなっています。
グローバルな市場においては、ネイチャーポジティブやカーボンニュートラル、循環経済への移行が強く求められるようになっており、それにともなう規制の強化が進んでいます。これらの変化に適応できない企業は、競争力を失うだけでなく、法的リスクや経済的損失を被る可能性もあるため、環境ポジティブな製品・サービスの市場拡大に対応した技術革新を加速させることが強く求められています。
こうした状況に対してDNPグループは、事業活動と地球環境の共生を絶えず考え、「DNPグループ環境ビジョン2050」を掲げて「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の実現に向けた取り組みを加速させています。このビジョンを実現していくため、2030年をターゲットとした中期目標を設定し、環境負荷の低減・削減を計画的に進めています。一方で、GHG排出量削減のさらなる強化、脱石化製品への移行の加速と代替素材への切り替え要請の高まりなどによって、当社の目標の一層の引き上げや、製品・サービスの仕様の見直しなどが必要となる場合があり、その際は事業に大きな影響が及ぶ可能性があります。
また、当社の事業は、印刷用の基材である紙やプラスチックフィルム、鉱物資源等の原材料、製造工程で使用する水やエネルギー等の資源、事業所における土地利用など、さまざまな形で自然の恩恵を受けています。さらに、グローバルなサプライチェーンの構築にも関わり、原材料の原産地やビジネスパートナーがいる地域社会とも密接に関係しながら、事業活動を展開しています。
現在はさらに、気候変動への対応や生物多様性の保全に関する法規制や要請が、各国・地域で厳格化する傾向にあります。当社は、こうした変化を先取りし、迅速かつ柔軟に対応していくことに加え、自ら主体的に「より良い未来」の実現に向けた変革を起こすことによって、価値創造と基盤強化の両輪で環境課題の解決に取り組んでいます。
具体的な当社の活動については、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」及び当社Webサイトにて紹介しています。
<環境関連の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=14
② 社会関連のリスク・機会となる変動要因
・人的資本関連
‐ グローバルビジネスの進展(グローバルでの人口増加)
‐ 国内生産年齢人口の減少・少子高齢化・労働力不足
‐ 人々の尊厳(人権・労働環境)に関する意識の変化
‐ 経済的な不均衡
・サプライチェーン関連
‐ 地政学的リスク・カントリーリスクの拡大
‐ 文化や制度・ルールの違いによるリスクの顕在化
‐ 企業の社会的責任・倫理的行動の重要性の高まり など
社会関連の中長期的なリスクは、企業の持続可能性にとって、ますます重要な要素となっています。
「人的資本」の観点では、世界人口の増加と国内の少子高齢化が進むなかで、国内の労働力不足や、グローバルでの雇用の流動化が加速しています。これによって企業は、高い専門性を持つ人材の確保・育成が一層困難になり、競争優位性を維持・強化するための組織体制構築の課題がさらに顕在化する可能性があります。また、心身の健康や安全衛生など、あらゆる人が心地よく生きるための条件や環境も国内外で変化しており、企業はこれらに対応した職場環境の整備も求められています。加えて、人口動態の変化などによる地域間の格差や、世帯間での教育格差なども拡大しており、社会的な分断が一層深まることも懸念されています。
「サプライチェーン」に関しては、各国・地域の法制度や政治制度等の変化、地政学的リスクやカントリーリスクの拡大が加速しています。これらによって企業は、国際的な取引や原材料調達において、新しい急激なリスクに直面する可能性が高まっています。特に、労働環境の適正化や人権への配慮が強く求められるなかで、当社及びビジネスパートナーが活動する国・地域の法制度やルールを遵守するだけでなく、現地の文化にも寄り添って事業を展開することがますます重要になると認識しています。
こうした状況に対して当社は、“人に対するDNPグループの普遍的・基本的な考え方”を「人的資本ポリシー」として制定し、人的資本の強化・最大化を加速させるため、社員の心理的安全性が高く、健康で活力ある職場の実現に注力しています。具体的には、注力事業領域等の強靭な事業ポートフォリオの構築に向けた採用・人材配置・リスキリングや、多様な強みを掛け合わせる「ダイバーシティ&インクルージョン」の取り組みを推進し、社員一人ひとりの状況に配慮した働き方を実現しています。これらの取り組みを通じて当社は、社会関連の中長期的なリスクに適切に対処し、持続可能な成長につなげています。企業としての社会的責任を果たしながら、変化する社会環境に柔軟に対応することに加え、DNP自らが変革を起こしていくことが、今後の発展にとって不可欠であると考えています。
当社のサプライチェーンについては、グローバルに拡大しているため、原材料の調達から生産・利用・廃棄・リサイクルまでのサプライチェーン全体を見据え、起こりうるリスクを把握・分析して、適切に解決していくマネジメントの強化がますます重要になっていると認識しています。当社は、グローバルに広がるサプライチェーン全体のリスクを的確に捉え、多様な課題を解決して持続可能な社会に貢献するため、DNPグループとサプライヤーや業務委託先の各社が取り組むべき事項として、「サステナブル調達ガイドライン」を定めています。特に、調達段階において重要度が高いテーマについては、「印刷・加工用紙調達ガイドライン」や「化学物質に関するグリーン購入ガイドライン」など、自社とサプライヤーが取り組むべき事項を個別に制定し、周知・徹底を図っています。また、定期的な「サステナブル調達ガイドライン」遵守状況の調査とその結果のフィードバック、各種説明会を通じたサプライチェーンマネジメントの強化も継続的に行っています。グループ内では、例えば購買業務のスタッフに対して、調達に関する基本的な知識やマネジメント手法の習得を目的とした専門資格取得のフォロー研修を実施するなど、社員の理解と適切な行動を促進しています。
具体的な当社の活動については、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」及び当社Webサイトにて紹介しています。
<社会関連の取り組み>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=34
③ 経済関連のリスク・機会となる変動要因
・経済活動関連
‐ 市場・サプライチェーンのグローバル化
‐ 地政学的要因によるバランス変化やサプライチェーンの分断化
‐ 経済指標の急激な変動
‐ 各種規制の強化
・技術的動向関連
‐ DXの推進・AI利用の拡大
‐ デジタル技術の革新による生活・ワークスタイルの変化、グローバルネットワーク等の加速
‐ 情報・サイバーセキュリティの脅威、規制の強化
‐ 情報格差の拡大やプライバシー侵害 など
経済関連の中長期的なリスクは、企業の持続的な成長に直結する重要な要素であり、特にグローバル市場における経済活動や技術動向の変動が大きな影響を及ぼします。DXの推進やAIの利用拡大、デジタル技術の革新は、ビジネスモデルやワークスタイルを大きく変革させるとともに、企業の生産性や業務効率の向上、取引先等のビジネスパートナーとの接点の強化などにつながります。一方で、情報セキュリティやサイバーセキュリティへの脅威も増大しており、各国・地域での規制強化が進むなか、企業はこれらの変化を適切に把握し、迅速に対処するための体制を整える必要があります。
また、地政学的要因による世界経済のバランス変化や分断化のリスクも高まっています。各国・地域の政策の変化や法令・規制等の強化、各種経済指標の急激な変動、エネルギーや資源の供給不足・価格高騰などは、企業の経営戦略に影響を与え、事業運営の不確実性を増加させています。
こうした状況に対して当社は、特定の業種・業態に偏らない数万社の企業や、自治体・各種団体、生活者と多様な事業活動を行うことで、強靭で安定的な事業基盤を強みとして構築しています。グループ全体の「オールDNP」の相乗効果を強みとし、社外のパートナーとの連携も深化・強化させて、「成長牽引事業」と「新規事業」の「注力事業領域」と、安定的に長期間キャッシュを生み出す「基盤事業」、新たな市場開拓と構造改革をともに進める「再構築事業」の4つの事業で価値創出を加速させることで、事業環境の変化に対しても揺らぐことのない強い事業ポートフォリオの構築に努めています。
また、デジタル技術の進展、AIの利用拡大にともない、リアルとデジタルをつなぐ価値の創出や、事業化のスピードアップに取り組んでいます。AIを取り巻くリスクに対しても、「DNPグループAI倫理方針」を策定するなど、AIの適切かつ効果的な利活用を推進しています。このような情報システムの技術革新や利活用が進むなかで、日々巧妙化するサイバー攻撃に対しては、情報セキュリティを経営の最重要課題の一つとして捉え、体制の強化や社員教育、セキュリティ人材の採用強化などに取り組み、システムとデータの持続的な運用・保守・管理を実現するために万全を期しています。これらの情報セキュリティに対する取り組みは、当社の社会的信用を高めるだけでなく、当社が保有する知的財産やノウハウの適切な保護と活用に対しても重要な役割を果たしており、他にはない競争力の維持・向上にも寄与しています。
原材料の調達における経済的な変動要素に対しては、国内外の複数のメーカーから印刷用紙やフィルム材料等を購入するなど、安定的な数量の確保と最適な調達価格の維持に努めています。しかし、地政学的リスクの高まり、石油価格や為替の変動、新興国での急激な需要の増加、天然資源の枯渇、気候変動の影響などによって需給バランスが大きく崩れる懸念があります。為替相場のリスクに対して当社は、現地生産化や為替予約などによってリスクをヘッジしていますが、これらの状況が急激に変動する場合には、業績に影響を与える可能性があります。
当社は、これらの経済関連の中長期的なリスクに対して、戦略的な事業展開とリスクマネジメントを通じて、持続可能な成長に努めています。引き続きDNPグループは、未来の不確実性に立ち向かい、市場環境の変化に柔軟に対応するだけでなく、DNP自身による技術革新の挑戦を続けて、企業価値の向上に努めるとともに、持続可能な社会の実現に貢献していきます。
具体的な当社の各活動については、Webサイトにて紹介しています。
<部門別事業戦略>
https://www.dnp.co.jp/ir/library/annual/pdf/DNP_integrated2024j.pdf#page=17
<知的資本の強化>
https://www.dnp.co.jp/ir/library/annual/pdf/DNP_integrated2024j.pdf#page=30
<情報セキュリティ>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=107
<責任ある調達>
https://www.dnp.co.jp/sustainability/report/pdf/DNP_sustainabilitywebarchive2024.pdf#page=68
配当政策
3 【配当政策】
当社は、利益の配分については、株主の皆様に安定的かつ継続的に行うことを基本とし、中長期の経営視点から、財務基盤の安定性を維持しつつ、成長事業への投資と株主還元のバランスを考慮した上で、業績や配当性向などを総合的に勘案して実行していきます。また、将来の事業展開に備えて、適切な内部留保を確保し、経営基盤の強化を図ります。
内部留保資金については、資金需要や市場動向を鑑みながら、今後の新製品・新サービス・新技術の開発投資、新規事業展開のための設備投資、戦略的提携やM&A、それらを支える人財への投資などに充当していきます。こうした施策は将来にわたる利益の増大に寄与し、株主の皆様への利益還元につながるものと考えております。
この方針に基づき、当期の配当金については、期末配当金を1株当たり22円とさせていただく予定です。なお、当社は2024年10月1日付で普通株式1株につき2株の割合で株式分割を実施しており、この期末配当金を当該株式分割前に換算すると1株当たり44円に相当します。中間配当金(1株当たり32円)とあわせて、年間配当金は76円となり、前期の64円から12円の増配となります。
当社は会社法第454条第5項に定める中間配当をすることができる旨を定款に定めており、中間配当と期末配当との年2回の剰余金の配当を行っております。剰余金の配当の決定機関は、中間配当については取締役会、期末配当については株主総会であります。
なお、当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりであります。