2025年2月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

社長を委員長とする「髙島屋グループリスクマネジメント委員会」は、当社グループの横断的なリスク管理体制の構築に努めるとともに、経営環境の変化に伴う新たなリスクに適切に対応できるよう、常に管理体制を見直し、強化しております。また、リスクが事業に与える影響度や発生頻度・可能性を検証し、リスクマップを作成、重要なリスクの選定と対策の策定を実施しております。加えて、サステナビリティを巡る課題への対応が、リスクの減少、ひいては収益機会の拡大や企業価値向上に繋がるという認識のもと、「髙島屋グループCSR委員会」においてグループESG経営に積極的に取り組んでおります。

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクには、以下のようなものがあります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社が判断したものであり、以下の記載は、当社の事業等のリスクをすべて網羅することを意図したものではないことにご留意ください。

また、以下に記載したリスクのうち、新たな成長領域への事業拡大に関する法令違反や情報漏洩、お客様が損失を被るような事故等により、レピュテーションが低下するリスクは全ての項目において常に内在しています。当社は「コンプライアンスの徹底」を何よりも優先すべく、経営トップが強い意志を持って、グループ全体のリスクマネジメント体制の強化、内部統制システムの充実、取締役会の機能強化に取り組んでまいります。

 

(1)経営戦略リスク

 

①ESG経営への取組遅れのリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*ステークホルダーからの信用喪失

*グループ収益の根幹となるブランド価値の毀損

*法令違反によるレピュテーションの低下、営業損失

機 会

*当社グループの持続的成長

*新たなマーケットの獲得

*当社グループの社会的評価向上

 

<対応策>

当社のESG戦略においては、環境・社会・ガバナンスそれぞれの面において、ステークホルダーに対して当社ならではの価値を提供することで共感を獲得し、社会課題解決と事業成長を両立しつつ、最終的には全ての人々が21世紀の豊かさを実感できる社会の実現を目指しております。

ESG経営を確実に推進していくために、グループの視点での方針管理、進捗管理を充実するための「グループ環境・社会貢献部会」を設置し、より一体的でかつ実効性が発揮できる体制を整えております。

持続可能な社会の実現に向け、環境負荷軽減や多様性を尊重する(インクルーシブ化)商品やサービスの提供を通じ、お客様やお取引先と共に取り組む当社のサステナブル活動「TSUNAGU ACTION」をはじめ、環境面においては、再生可能エネルギー転換や省エネ対策などによる脱炭素化推進や、廃棄物の削減・リサイクルの推進を全社で推進しています。

社会面におきましては、人権尊重に基づく事業活動、国籍や人種・宗教、LGBTQ+などに係わらないDE&Iの推進、教育機会、福利厚生の提供など、多様な価値観を受け入れる基本指針の策定と、その浸透に向けた意識の醸成を推進してまいります。

ガバナンス面では、取締役会が果たすべき責務・役割が発揮できているか、機能発揮のための適切な体制整備や取締役会運営ができているかという視点で、年1回、全取締役・監査役対象のアンケートと、その結果に基づく社外取締役・監査役への個別ヒアリングを通して取締役会の実効性評価を行っております。更に、評価結果から得られた改善点に対しては速やかに次年度取締役会に反映するなどPDCAサイクルを徹底し、取締役会の実効性向上に努めてまいります。

また当社では社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」を設置し、コンプライアンス経営の徹底に加えて内部統制の状況や新しい社会課題に対するCSR領域への取組状況等をグループ横断的に検証し強化する体制を整えております。また、不正行為等の通報を匿名でも受け付ける窓口「髙島屋グループ・コンプライアンス・ホットライン」「ハラスメント・ホットライン」「就労相談窓口」「法務相談窓口」を設置し、通報者に不利益が及ばないことを確保しつつ、より多くの内部通報を受け付けて自浄作用を高める仕組みを整えております。国内、海外問わず事業拡大に応じて増えつつある子会社・孫会社などグループ全体に行きわたるモニタリングと三線ディフェンスの一層強化に努めてまいります。

 

②海外事業展開におけるリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*突発的な政治・経済情勢の変化や為替変動に伴う資産価値の変動と投資回収の遅れ

*現地法律や規制変更への未対応、現地採用従業員の文化・宗教等の違いからくるガバナンス破綻

機 会

*カントリーリスクを踏まえた展開による盤石な事業基盤の確立と

 海外における事業拡大

 

<対応策>

当社においては、経営における迅速な判断・軌道修正を可能とするため、現地法人を設立して当該法人にイニシアチブを持たせています。その上で、グループ本社とはリモート会議等によるタイムリーな情報共有や、自主点検シートを活用した経営状況のチェックなど、三線ディフェンスの強化によるグローバルガバナンスの徹底を図ってまいります。また、当社が注力しているアジア事業のリスクマネジメント体制の強化へ向け、アジア統括駐在員事務所をベトナム・ホーチミンに新規開設し、現地の専門コンサルタントと協働しています。さらに、現地従業員との人権尊重に基づく雇用関係確立、国籍や人種・宗教・LGBTQ+などに係わらない平等な賃金・教育機会・福利厚生を提供してまいります。そのうえで、現地従業員の幹部登用も視野に入れた能力開発を積極的に進め、同じ当社の一員としての共通目標、意識の共有を図ってまいります。

 

(2)事業環境リスク

①社会構造の変化による国内人口の減少に伴うリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*少子高齢化、若年層の百貨店離れなど消費行動の変化に伴うマーケット縮小

*労働人口の減少に伴う事業戦略に基づいた必要人材の確保難

機 会

*リスキリングによる人材有効活用の促進

 

<対応策>

抗えないこれらの外部環境変化に対応するため、百貨店においてはお客様の興味・関心に即した売場の再編、エシカルな消費行動に対応した独自商品の販売を強化し、魅力ある品揃えの実現に努めてまいります。また多様化するニーズに対応した販売の仕組みづくりや、単なる商品販売に止まらず、金融サービスなどライフタイムバリュー(LTV)全般の向上に寄与する商品提供による来店動機・機会の向上に努めてまいります。更に、実店舗に頼らないECの訴求力向上、百貨店のないエリアへの通販カタログ配布などを通じて商圏の拡大およびお客様との接点の拡大を図ります。

また、街のアンカーとしての機能強化につながる拠点開発や異業種・外部企業とのアライアンスによって非商業分野も取り込んだ新たなコンテンツ開拓を通じ、百貨店を核とするSCを中心事業とし、生活を彩るさまざまなモノを提供することはもちろん、記憶に残るコト、大切な人と過ごすトキといった「体験価値」も包含し、ワンストップで提供することで幅広い世代のお客様の支持を獲得してまいります。

一方、労働人口減少への対策としては、新卒にこだわらない採用活動、専門人材の登用、外国人労働者の受け入れを積極的に推進するほか、品揃え強化に向けたバイイング能力の向上、リスキリングなど社内の人材育成にも努めています。定年後の処遇も改善し、最長70歳までの再雇用延長制度のもとベテラン社員が高いスキルやノウハウを発揮して活躍し続ける仕組みを導入しています。様々な就労ニーズに応えるコース別の雇用管理と、柔軟な働き方が選択できる勤務制度を採用し、多くのベテラン社員が活躍しています。

 

②自然災害(地震・台風・洪水等)のリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*店舗など営業用資産の損壊によるビジネス機会の逸失

*交通機関や通信網の破綻によるビジネス機会の逸失

機 会

*安心・安全に向けた取組を通じた、社会インフラとしての地域への貢献

 

<対応策>

当社は関西・関東隔たりなく拠点を展開しており、大規模かつ広域にわたる甚大な災害が起きた場合でも、関西・関東のいずれかに危機管理対策本部を速やかに設置し、情報連携および指示命令系統を損なわない体制を整えております。また被災店舗への救援体制の整備、重要データ消失を防ぐクラウド化の推進、事業を最低限継続できる各種インフラや備品の整備など、BCP対策の徹底を図っております。

主要都市に拠点を持つ企業として求められる社会的使命を果たす観点から、大規模災害時に帰宅困難者を受け入れるスペースを店舗施設内に予め確保するほか、生活関連物資を中心とした店頭商品の拠出ができるよう、あらかじめ仕入先と取り決めておくなど、直ちに被災者救援活動を行う体制を整えております。また、行政と連携しながら、地域の防災拠点としての機能を果たすべく取組を進めております。

 

③戦争・地政学・世界経済減退のリスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*物流や人流が制限されることによる商品調達や売上機会への影響

*海外拠点・事業における方針変更の可能性

*金融市場の混乱による資金調達への悪影響

*世界同時株安にともなう消費マインドの低下

機 会

*新規マーケット、お取引先、調達ルートの開拓

*企業活動における有事の際のレジリエンス向上

*国産商品の需要拡大

戦争・地政学上の混乱発生時に想定される、サイバー攻撃に起因するリスクに関しては、「(3)-①サイバー攻撃によるシステム障害・情報漏洩発生リスク」において記載しております。

<対応策>

ロシアによるウクライナ侵攻や米中二国間関係の悪化による台湾有事リスクなど、国際情勢は日々変化を続けています。当社のサプライチェーンは多国間にわたることから、世界規模の混乱は商品調達や適正な価格形成、事業活動のためのエネルギーコストに大きな影響を与えます。予期せぬ損失の発生可能性を回避するため、国内取引先の開拓、調達先の切り替えや、遅延リスクを見越した発注・展開計画策定などに取り組んでおります。また、当社が成長のドライバーと位置付ける海外事業においても、現地従業員の安全対策やBCP計画の策定とともに、利益影響の試算を実施しながら随時戦略の見直しを図ります。

市場の混乱が金融領域に及んだ場合には、当社が通常求める条件での資金調達ができないリスクが考えられます。現時点で必要な資金は確保しておりますが、将来におけるリスクシナリオを想定し、多様な資金調達手段により十分な手元流動性を確保してまいります。

また、相互関税に端を発し世界同時株安が進み、消費需要の減退リスクが高まっております。社会・経済状況の変化次第では、更なる売上減少リスクが増大することも想定されるため、状況に応じた抜本的なリスク削減策を実施してまいります。

 

④新たなパンデミックの発生リスク

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*店舗の休業・営業時間の短縮によるビジネス機会の逸失

*消費行動の変化および来店頻度の減少

機 会

*新たな社会環境や消費行動に対応した事業展開

*アセットの多角化、経営資源の有効活用によるグループ事業の成長

 

<対応策>

コロナ禍の経験と反省を踏まえ、このようなパンデミック影響の極小化に向けて事業ポートフォリオを見直し、経営の更なる安定化を図ります。百貨店の事業基盤を一層強化すると共に、商業開発業、金融業などの成長領域事業の積極拡大を進めてまいります。

また、リアル店舗の魅力向上と合わせて、ECなどの無店舗販売チャネルの強化拡大、デジタル技術を活用したリモート接客システムの導入など非接触型販売の仕組みを積極的に導入してまいります。

 

 

 

⑤サプライチェーンの破綻リスク

<リスクと機会> ・・・影響度=大

リスク

*お取引先の倒産や事業終了による百貨店の商品調達への支障、品揃えの魅力度低下

*テナントの賃料支払能力低下による賃貸収入の減少

*生産・物流・販売段階における人材不足による営業活動への影響

機 会

*お取引先との強固な関係構築による品揃えの魅力度向上と安定的な利益確保

サプライチェーン上における人権問題(不当労働、差別等)に起因するレピュテーション低下、不買運動などによる損失の発生リスクに関しては「(4)-①事業活動における人権問題発生リスク」において記載しております。

 

<対応策>

当社は、事業活動における一連の取引において、法令順守はもとより、環境保全や人権などに配慮し、公平・公正な取引を推進するために「髙島屋グループ取引指針」を策定しております。

「髙島屋グループ取引指針」では、「人権の尊重」の視点に加え、法令順守、持続可能なサプライチェーンの構築などを事業活動において重視すべき項目に掲げています。この指針に則り、主要なお取引先と目標を共有・協働し、新たなお取引先開拓による安定した商品調達やОМОによる在庫の効率化、ドライバー・車両不足へ対応した配送スキームの検討など、様々な面でお取引先とともにサプライチェーン全般に及ぶリスクの低減へ向けた取組を推進しております。

国内商業開発業・海外商業開発業においては、専門店テナントとの共同販促活動を一層強化推進するほか、経営状態が厳しいテナントに対しては、敷金からの一時的な家賃への充当、当面の家賃支払猶予など資金支援を行い、共存共栄を原則とした取組に努めてまいります。

 

(3)情報セキュリティリスク

①サイバー攻撃によるシステム障害・情報漏洩発生リスク

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*外部からの不正アクセスによる改ざんや破壊によるシステム障害がもたらす

 営業機会の逸失

*個人情報等、機微な情報漏洩による社会的信用の失墜

機 会

*サイバーレジリエンスの向上

*顧客からの信頼や社会的信用の向上

 

<対応策>

当社は、情報管理規則に基づき、事業活動を通じて得るあらゆる情報の取り扱いについて、その特性に応じた組織機能により適正に管理しております。また、各職場・職能に応じた適切なデジタルスキルの取得へ向けた教育機会も設けております。

サイバー攻撃の脅威・要防御範囲が増す中では、適切なセキュリティマネジメントがなされなければ、ステークホルダーからの信頼失墜、ひいては企業の存続に関わるリスクを発生させかねません。今や情報管理の範囲は従来のクローズド環境からSaaSアプリやインターネット上のサービスを含む外部へ拡大しており、自社のセキュリティの仕組みだけでなく、外部サービス事業者を含めた網羅的な対策が必要と認識しております。米国立標準技術研究所(NIST)のサイバーセキュリティフレームワークと当社の情報セキュリティ基本方針に基づき、「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」の各レベルで必要な防御策を講じるとともに、侵害に備えた対応を実施するべくロードマップを敷いて取組を進めております。

同時に、システム利用不可のシナリオを想定し、業務継続方法を確立するなど被害発生時のレジリエンス強化にも取り組んでおります。

 

 (4)社会的リスク

①事業活動における人権問題発生リスク

<リスクと機会> ・・・影響度=特に大

リスク

*接客時や媒体表現における差別的対応(国籍・ジェンダー等)によるレピュ

 テーション低下

*就業上のカスタマーハラスメントやハラスメントへの対策不足によるエンゲージメントの低下

*サプライチェーン上における人権問題(ハラスメント、不当労働、差別等)に起因するレピュテーション低下、不買運動などによる損失発生

機 会

*人権を尊重する経営の実践によるステークホルダーからの信頼獲得と髙島屋

 ファンの増大

 

<対応策>

当社は、1831年の創業以来、商いの行動規範である「店是(てんぜ)」において、「顧客の待遇を平等にし、いやしくも貧富貴賤(ひんぷきせん)に依りて差等を附すべからず」を掲げるなど、人権を尊重する創業の精神を受け継いできました。この「店是」の精神を起点に、人権の尊重を変えることのない基本的価値観として全従業員に共有しています。

人権を尊重する経営については、社長を委員長とする「髙島屋グループCSR委員会」においてグループ横断的な進捗確認と対応を推進していきます。また、お取引先やビジネスパートナーと協働し、サプライチェーン全体の直接的な人権侵害だけでなく、間接的に負の影響を助長・関与する人権侵害リスクの防止・是正に努めていくことを、「人権コミットメント」として制定し、社内外に公表しております。

サプライチェーン上の人権リスクの防止・是正に向けては、国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく人権デューデリジェンスに取り組んでおり、グループの事業領域ごとの人権リスクを洗い出し、課題を特定しています。人権リスクを防止・軽減するため、管理監督者を対象としたコンプライアンス研修のテーマに「ビジネスと人権」を取り上げ、仕入れ担当者に対してはサプライチェーン上における人権リスク課題などについての教育を実施しました。

また、事業活動における一連の取引を公平・公正に推進するため新たに策定した「髙島屋グループ取引指針」について、お取引先にも同意・協力を依頼するとともに、お取引先アンケートを通じて各社の状況を確認しております。当社はお取引先と公平で良好なパートナーシップを築きながら、より良い取引を継続的に推進し、共存共栄を図ってまいります。

 

 

配当政策

3【配当政策】

 当社では、安定的な配当水準を維持することを基本スタンスとしながら、業績や経営環境を総合的に勘案し、株主の皆様への利益還元を図ってまいります。

 当社は、「取締役会の決議によって、毎年8月31日を基準日として中間配当をすることができる。」旨を定款に定めております。

 当社の剰余金の配当は、中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としております。配当の決定機関は、中間配当は取締役会、期末配当は株主総会であります。

 当期の剰余金の配当につきましては、安定的な配当水準を維持することを基本スタンスとしながら、業績や経営環境を総合的に勘案し、1株につき13円としております。

 当社は2024年9月1日付で普通株式1株を2株とする株式分割を実施いたしました。同年8月31日を基準日としてお支払いしました中間配当金(1株につき23円)は、当該株式分割実施後の1株あたり配当金に換算すると11円50銭に相当しますので、期末配当と合わせた当期の年間配当金相当額は1株あたり24円50銭となります。なお、年間配当金1株につき24円50銭は、株式分割前の1株あたりの配当金に換算すると1株につき49円となり、前期の年間配当金の37円から12円の増配となります。

 内部留保資金につきましては、各店舗の改装など営業力の拡充及び財務体質の強化のための原資として活用させていただく所存であります。

(注) 当期を基準日とする剰余金の配当の取締役会又は株主総会の決議年月日は以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額(百万円)

1株当たり配当額(円)

2024年10月15日

3,627

23.00

取締役会決議

2025年5月20日

3,943

13.00

定時株主総会決議