2025年3月期有価証券報告書より
  • 社員数
    1,505名(単体) 10,332名(連結)
  • 平均年齢
    43.1歳(単体)
  • 平均勤続年数
    16.4年(単体)
  • 平均年収
    8,355,658円(単体)

従業員の状況

 

5 【従業員の状況】

(1) 連結会社の状況

(2025年3月31日現在)

セグメントの名称

従業員数(人)

水産事業

3,757

〔2,622〕

食品事業

4,657

〔6,119〕

ファイン事業

261

〔38〕

物流事業

692

〔93〕

その他

694

〔74〕

全社(共通)

271

〔42〕

合計

10,332

〔8,988〕

 

(注) 従業員数は就業人員であり、臨時従業員は〔  〕内に年間の平均人員を外数で記載しております。

 

(2) 提出会社の状況

(2025年3月31日現在)

従業員数(人)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(円)

1,505

〔1,128〕

43.07

16.35

8,355,658

 

 

セグメントの名称

従業員数(人)

水産事業

247

〔95〕

食品事業

793

〔959〕

ファイン事業

194

〔32〕

物流事業

0

〔0〕

その他

0

〔0〕

全社(共通)

271

〔42〕

合計

1,505

〔1,128〕

 

(注) 1.従業員数は就業人員であり、臨時従業員は〔 〕内に年間の平均人員を外数で記載しております。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

 

(3)管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異

 ① 提出会社

当事業年度

 

管理職に

占める

女性労働者

の割合(%)

(注1)

男性労働者の

育児休職

取得率(%)

(注2)

労働者の男女の賃金の差異

(男性の賃金に対する女性の賃金割合)

(%)(注1)

全労働者

正規雇用労働者

パート・

有期雇用労働者

 全体

7.9

106.7

58.0

72.9

75.8

 生産部門以外

63.4

67.3

72.6

 生産部門

54.7

76.5

76.2

 

(注) 1.「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規定に基づき算出したものであります。

2.「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(平成3年労働省令第25号)第71条の4第1号における育児休業等の取得割合を算出したものであります。

3.管理職に占める女性労働者の割合については、他社への出向者を除いております。

4.当社は組織の中で担う役割と行動で等級を区分し、それぞれの役割に応じた成果によって等級を定める役割等級制度を運用しており、同一役割等級内における性別の違いによる賃金の差はありません。賃金は基本給及び賞与、基準外賃金を含んでおります。但し、時間外勤務などの変動要因によるものは除いています。

<職位別人員構成比(Pコース)>

役割等級制度のコースの一つに将来のマネジメントを担うPコースがあります。Pコースにおける人員構成は初任級から徐々に女性職員比率が下がっており、特に女性管理職(課長級や部長級)及び係長級の母集団形成が充分でなく、男女の賃金差異の要因となっています。長期ビジョンとして2030年に執行役員・管理職に占める女性の比率を20%とすることを目標に掲げており、管理職に占める女性比率向上に向けて、新卒、及び経験者採用における女性職員の計画的な採用や育成に加え、仕事と育児の両立環境の整備を進めています。尚、これらの取り組みにより、近年次期管理職候補となり得る係長級においては、女性比率が向上してきており、男女の賃金の差異は縮小していくと考えています。

 

 

   <職位別 人員構成比>

 


  <職位別 年間平均賃金>

 


 

        <係長級の女性比率の推移(過去5年間)>


 

5.生産部門においては、女性のパート・有期雇用労働者数が多く全労働者平均に与える影響が大きくなっています。

 

    <生産部門、生産部門以外における雇用管理区分の構成比>

 


 ② 開示対象となる連結子会社

当事業年度

 

管理職に

占める

女性労働者

の割合(%)

(注1)

男性労働者の

育児休職

取得率(%)

(注2)

労働者の男女の賃金の差異

(男性の賃金に対する女性の賃金割合)

(%)(注1)

全労働者

正規雇用労働者

パート・

有期労働者

株式会社日本デリカサービス

13.3

53.8

68.5

79.5

91.0

日本海洋事業株式会社

3.2

77.8

66.5

68.4

28.5

日水物流株式会社

6.3

66.7

66.7

 

(注) 1.「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)の規定に基づき算出したものであります。

2.「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定に基づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」(平成3年労働省令第25号)第71条の4第1号における育児休業等の取得割合を算出したものであります。

3.日本海洋事業株式会社において、パート・有期雇用労働者の男女の賃金の差異が大きい要因は、男性の嘱託船員と女性のパート労働者との賃金・人数の差によるものであります。

 

 

(4)労働組合の状況

当社グループには、2025年3月31日現在日本食品関連産業労働組合総連合会に所属するニッスイアドベンチャークラブ(組合員数1,228人)等があります。

なお、労使関係について特に記載すべき事項はありません。

 

サステナビリティに関する取り組み(人的資本に関する取組みを含む)

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1)サステナビリティ全般

<ニッスイグループのサステナビリティ>

ニッスイグループは創業以来、さまざまな自然の恵みを活用して事業を行ってきました。創業の理念、ミッションに掲げるサステナブルな事業活動は私たちの重要な使命です。私たちはニッスイの5つの遺伝子(お客様を大切にする、現場主義、グローバル、イノベーション、使命感)、サステナビリティ行動宣言に基づき、ステークホルダーの皆さまとの連携・協働のもと、事業を通じてマテリアリティ(重要課題)に取り組み、社会課題の解決を目指します。

 

<ガバナンス>

当社グループでは、持続的な成長と企業価値向上の実現に向けてサステナビリティ経営を進めており、その推進組織として、全執行役員と社外取締役で構成し、CEOを委員長とするサステナビリティ委員会を設置しています。年6回開催するサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しており、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。なお、サステナビリティを巡る各課題については、サステナビリティ委員会傘下のテーマ別の8つの部会および執行役員会・品質保証委員会・経営基盤リスク委員会傘下の部会において、委員長が指名した部会長(執行役員)と、部会長により任命されたメンバーで部門横断的に対応を行っています。

また2030年の長期ビジョン、経営計画達成に向けて役員報酬体系を2022年度より改定し、業務執行取締役の変動報酬部分の評価指標に、水産物の持続可能性や自社グループ拠点のCO2排出量削減等のサステナビリティ目標の達成度を加えています。

 


 

<戦略>

当社グループでは、サステナビリティ経営を長期ビジョン達成のための柱の一つとして位置付け、環境価値、社会価値、人財価値、経済価値の4つの価値創出を目指しています。サステナビリティ課題をリスクと機会の両面から捉え、環境価値、社会価値、人財価値の創出に取り組むことで非財務資本を強化し、経済価値の創出につなげます。

2025年度を初年度とする中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」においては、サステナビリティ経営の深化を基本戦略の一つとし、競争力の源泉となる人的資本とブランディングの取り組みを強化するとともに、マテリアリティ基点でビジネスモデルを構築することで競争優位を獲得し、企業価値の向上を目指します

 

<リスク管理>

当社グループは、事業活動の妨げとなるリスクの未然防止に努め、緊急時には人命尊重を第一に損失の発生を最小限に抑え、経営資源の保全と事業の継続に最善を尽くすことで、企業価値を維持・向上していくことをリスクマネジメントの基本方針としています。サステナビリティ課題を含む重要リスクについては、執行役員会、サステナビリティ委員会、品質保証委員会、経営基盤リスク委員会が中心に対応し、社長直轄の組織であるリスクマネジメント委員会が、全社重要リスクを一元的に把握・管理する統合リスク管理機能として審議・承認し、取締役会へ報告することで、全社的リスクマネジメントシステムの構築とその維持・向上に努めています。リスクの詳細は「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご覧ください。

 

<指標と目標>

中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」において、経済価値、環境価値、社会価値および人財価値の創出に向け、10のKPIを定めました。関連するマテリアリティの推進組織により、各指標の進捗をモニタリングし、結果に基づき取り組みに反映していきます。

重点テーマ

指標

基準年度

単位

2030年度目標

2027年度目標

健康課題の解決

当社指定の「健康領域商品」売上

2021年度

3倍

2倍

責任ある調達

1次サプライヤーアセスメント比率

-

100%

(ニッスイグループの

主要サプライヤー)

100%

(国内グループの

主要サプライヤー)

製品の安全安心・品質保証

食品安全の第三者認証取得率

-

100%

(ニッスイグループ)

100%

(国内グループ)

商品回収等の重大品質事故

-

発生ゼロ

発生ゼロ

従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントスコア(注)

2021年度

20%のスコア上昇

18%のスコア上昇

女性活躍

女性幹部職比率(注)

-

20%

15%

水産資源の持続可能性

持続可能な調達比率

-

100%

85%

CO2排出量削減

CO2排出量(Scope1,2)

2018年度

総量

30%削減

20%削減

2050年カーボンニュートラル

-

-

-

プラスチック削減

容器包装におけるプラスチック使用量(注)

2015年度

原単位

30%削減

15%削減

 

(注):対象範囲はニッスイ個別

 

 

(2)テーマ別課題

≪人的資本への対応≫

①人的資本に対する考え方

2030年長期ビジョン「人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー」の実現に向けて、私たちは「人財こそが欠かせない価値であり、競争優位の源泉である」との認識を共有しています。こうした考えのもと、当社グループでは、社員一人ひとりが自律的に成長し続けられる企業であること、そして多様な背景を持つ人財が融合しそれぞれの知見や経験を活かしイノベーションの創出や新たな価値創造につながる企業風土を築くことを、重要な経営課題と捉え下記体制で取り組んでいます。

② ガバナンス

「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の通り持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けて優先的に取り組むべき経営上の重要課題としてマテリアリティを設定していますが、人的資本についても以下のとおり執行役員が責任者を務める推進組織が主体となり施策を立案・実行するとともに、取締役会・執行役員会等において取組の進捗を定期的にモニタリングし人財価値向上の取り組みを後押ししています。

 


③ 人財戦略の基本的な考え方

ミッションとして掲げた「健やかな生活とサステナブルな未来を実現する新しい“食”の創造」を実践していくためニッスイグループの「人財マネジメントポリシー」を策定しました。ポリシーでは「主体性」「変革」「挑戦」「共創」「完遂」を体現し、未来志向で事業変革と価値創造を牽引する人財が必要であることを明示しており、本人財マネジメントポリシーを基点に①成長事業領域への人財シフト、②個のキャリア自律と多様性を推進する仕組みの整備、③個々の成長を見守り支える組織文化醸成の3つの軸に基づいて人財戦略を推進しています。


 

④人財戦略の具体的内容

当社グループでは、以下の通り人財戦略に関する具体的な取り組みを推進しています。

なお、記載内容のうち、一部の施策、制度、目標、実績等については、グループ各社での実施がない、あるいは今後展開を予定しているものが含まれており、当社において先行的または独自に推進しているものです。これら取り組みについては、本文中において「当社」の表記を用いております。

(1)計画的な人財確保・育成・配置による成長事業領域への人財シフト

(イ)人財確保部会の設置

ニッスイグループは長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」において「事業ポートフォリオマネジメント強化」と「サステナビリティ経営の推進」を両軸に企業価値向上を目指しています。事業ポートフォリオマネジメント強化では、持続的に成長が見込まれる領域に経営資源を集中する事としており、「海外事業」「ファインケミカル事業」「国内外養殖事業」を成長事業領域と定めています。成長事業領域に人財をシフトすべく、質・量の観点で「あるべき人財構成」を定義し、現在の人員構成とのGAPを分析、具体的な議論をスタートするため、各事業の副執行をメンバーとする人財確保部会を設置しました。採用、育成、配置の各プロセスに反映し、経営戦略と整合した人的資本経営を推進しています。

(ロ)公募の取り組み

「主体性」「挑戦」を引き出すため「挑戦したい」と考える社員に、自ら手を挙げる機会を提供し、支援する仕組みの構築を進めています。これにより従来の会社主導の人事異動に加え、社員の意思を尊重した人財配置を可能とし「成長を支える組織」と、「個人の挑戦」を後押し、意欲とスキルの両面を備えた人財の配置を進めることで、成長分野の加速度的な拡大を通じ企業価値を高めてまいります。

(ハ)経営人財育成

当社グループでは、長期的な企業価値向上を支える中核的要素として、「経営人財」の計画的な育成と継承体制の構築を重視しています。市場環境や事業構造の変化が激しさを増す中、意思決定を担う経営人財の計画的な確保と育成は、持続的成長の基盤となる重要課題です。この認識のもと、2024年度より「人財育成委員会」を新設し、社長を委員長とする体制のもと、グループ各社を含めた経営人財の後継者の確保と育成を推進しています。10年単位の長期的視点で、将来の事業リーダーに求められる要件を定義し、候補人財の選定から、必要な経験・スキルの明確化、育成プランの策定とモニタリングに至るまで、一貫したプロセスを整備しました。今後も経営人財の確保と育成にむけた仕組みの強化を目指してまいります。

(ニ)グローバル人財育成

当社グループは、海外事業展開の加速を掲げており、国や文化の枠を越えて価値を共創できる人財の確保と育成が急務と考えています。語学力や異文化理解力に加え、主体性や柔軟性、多様な価値観の中で協働し、新しい価値を創出する力を持つ「グローバル人財」の育成のため、海外への出向に加え、横断プロジェクトへの参加機会の提供等を通じ、実践的な成長機会を提供、国際競争力のある人財の強化を進めています。

その一方で、国内におけるグローバル業務に対応可能な人財、特に中堅以上の層における不足が課題となっており、計画的な育成と人財基盤の整備の強化を進めています。具体的には、候補者に対し、語学力や異文化理解、業務経験の習得を支援する研修や育成機会を提供するほか、海外拠点への出向やグループ横断プロジェクトへの参画といった実践の場を通じて、現場感覚とマネジメントスキルの双方を磨くキャリア形成を促進して参ります。また、グローバル業務に必要な知識・経験を段階的に習得できるキャリアパスの構築に取り組むとともに、人財不足が顕著な領域については経験者採用も活用し、多様な視点と専門性を持つ人財の登用を進めています。今後も、拡大する海外市場や複雑化する国際環境に対応できる人財基盤を整えることで、グループ全体の国際競争力と価値創造力を高めてまいります。

(ホ)専門性の高い人財の育成

R&D、サステナビリティ、ガバナンス、DXなどの専門性の高い人財の確保は、これまで以上に経営の重要なファクターとなっています。2024年度に導入した高い専門性を持つ人財を処遇する人事制度コース(ネクストエキスパート)を弾力的に運用し、専門性の高い人財の採用、登用を推進していきます。また、社内人財についても、専門性を身につけることができる〜など制度の整備に加え、コース異動の柔軟化を進めることで、専門性の発掘とキャリア形成を支援し、変化に強い組織構築を図っていきます。

 

(2)個のキャリア自律と多様性を支える仕組み

当社は社員が「ありたい姿」を自ら描き、自律的にキャリアを形成していけるよう、各自のキャリア意向に合わせた選択肢を提供するコース別人事制度、スキルアップサポート支援、公募制度、キャリア申告制度に留まらず、入社10年間の間には異分野で経験をつむことができるローテーション制度等を整備しています。また、性別・年齢・国籍・障害の有無などに関わらず、多様な社員がその力を発揮できる組織づくりを推進しており、経験者採用の充実に加え、女性活躍推進、障害者雇用、シニア活躍支援等、多様性を軸とした施策に取り組んでいます。

なお、グループについても、当社に準じてこれらの施策を今後さらに推進してまいります。

(イ)女性活躍推進

当社では、女性がより意欲的にキャリアを築き、意思決定層への登用が進むよう、継続的な育成と支援を行っています。特に2030年までに女性管理職比率20%を目指し「30% Club Japan」への参画、アンコンシャスバイアスのコントロール、育児支援策の拡充など、多角的な取り組みを推進しています。

採用者に占める女性比率は着実に上昇してきており、将来の管理職候補となる女性社員の母数が増加しています。一方で、育児休業や看護休暇の取得状況に性別差が残っていること、若手層におけるキャリア志向の醸成が課題であり、今後は女性職員に対するスキル向上支援に加え、更なる男性育休取得の促進など職場風土改革にも注力して参ります。

 

<男性育児休職取得率及び日数の推移> 

 

2022年度

2023年度

2024年度

取得率

78.9%

110.0%

106.7

取得日数

13.6日

14.8日

37.5

 

 

(ロ)障害者雇用推進

障害のある社員が安心して働き、能力を発揮できる職場づくりにも積極的に取り組んでおり、就業部署と担当業務も徐々に多様化、近年では、契約社員から正社員登用への実績も生まれています。この結果、2025年3月時点の障害者雇用率は法定を超える3.00%となっています。

また、多様な人へ向き合うためのマインドと実践を体系的に学ぶ「ユニバーサルマナー検定」や、障害のある社員が自分の言葉で語る「合理的配慮研修」、成長と活躍を支える「雇用担当者会議」の実施など相互理解向上にも取り組み、雇用部門の偏り是正で活躍の場を増やしています。今後も障害特性を活かした多様なキャリア支援の強化に取り組み、多様性を活かす意識と実践を広げて参ります。

(ハ)シニア職員活躍推進

年齢に関わらず、すべての社員がその経験と知見を活かし持続的に活躍できる環境づくりに取り組んでいます。特に、長年にわたって培われた専門性や技能を持つシニア職員は職場における重要な人財と捉え、その活躍を積極的に支援しています。

2025年度からは、再雇用後の役割や処遇体系を再構築しました。新制度では、職務内容や専門性に応じた等級制度と評価体制を導入し、多様な働き方を可能にする柔軟な仕組みを整備しています。また、次世代への知識・技能の継承を明確な役割と位置づけ、世代間連携を通じた組織の持続的成長を目指しています。

加えて、健康や介護といった加齢に伴う課題に配慮した福利厚生制度の導入や、キャリア支援制度の再設計を通じ、シニア職員が安心して働き続けられる環境整備にも取り組んでいます。今後も、年齢や雇用形態にとらわれず、すべての人財がいきいきと活躍し続けられる企業風土の醸成に努めてまいります。

 

(3)個々の成長を見守り支える組織文化の醸成

当社グループでは「主体性・挑戦・変革・共創・完遂(5Words)」の精神を基に行動する社員が、グループ全体に広がっていく事を期待しています。その実現のためには、会社が一方的に方向を示すのではなく、社員と対話を重ね、互いの想いを共有しながら成長する組織文化を築いていくことが重要だと考えています。一人ひとりの志を大切にしながら、エンゲージメントを高めるとともに、5Wordsの精神を基に行動する社員を支える職場の風土を、共に育て、共に進化させる取組を進めています。

(イ)ミッション(ブランドプロミス)の社内浸透活動

2022年度のリブランディングにあわせ、ミッション(ブランドプロミス)の社内外浸透活動を行ってまいりました。当社向けには、2023年度「GOOD FOODS Talk」として、ミッションの理解・共感を深め、自らの行動に繋げるために職場で語り合う活動を継続した結果、各部門の「理念の発信と伝達」「理念の現場浸透度」については向上していることが確認できました。

一方、「全社の一体感」が十分でないという課題が見えてきたことから、2024年度には「GOOD FOODS Talk~Unity~」と題し、異なる部署同士を組み合わせミッションや会社について語り合う機会を設けることで、全社の一体感の醸成に努めつつ、共感を自らの行動に繋げる取り組みを進めてきました。また、ミッションを体現し行動した人を賞賛する「GOOD FOODS Prize」を創設、年に一度全社員が集まる経営方針説明会において賞賛する機会を設けました。

2025年度は社員一人ひとりの志と当社のミッションの重なりにフォーカスし、組織として行動する一歩を踏み出すため「ミッションワークショップ」を全社で実施する予定です。

グループについては、国内経営陣の集まるグループ経営会議においてミッションを共有することはもちろん、グループ会社の役員・部署長を対象にミッションへの理解および自社での展開を検討するワークショップを2023年度より2年間で7回(計256人)実施するとともに、グループ会社の全従業員を対象に、ミッション・ビジョンの理解度を上げるためのオンライン説明会を2回(2,171人参加)実施しています。2025年からは「GOOD FOODS Talk+」と称し、各社の職場において、ミッションの理解・共感を深め、自らの行動に繋げるため語り合う活動をスタートとしています。

 

<2024年度 ミッションの社内浸透活動取り組み一覧>


 

(ロ)エンゲージメント

当社では2021年から社員の思い入れや貢献意欲、愛着心等を測定するためにエンゲージメント調査を定期的に実施しています。導入以降、職場ごとに対処すべき課題を抽出し、アクションプランを実行してきた結果、2024年度の全体スコアは21年度比で16.8%アップしました。今後も、前述の「人財マネジメントポリシー」で定めた「個人が目的に向かって変化にチャレンジし続け、自由闊達に意見交換する事で、新しい価値を創造し、一体感を持って実現する組織作り」の実現に向けた、人事施策(制度・評価・処遇・教育等)を進めて参ります。

グループについては2025年より当社のミッション浸透に関する調査項目を活用しエンゲージメント調査を開始することとしており、課題の抽出を行うとともにアクションプランにつなげる活動を進めていきます。

 

<エンゲージメントスコアの推移> 


⑤ 職場環境整備

多様な人財が自由闊達に意見を交わし議論できる、心理的安全性の高い組織風土はミッションに近づくための重要な要素ですが、同時にオフタイムも充実できることも大事だと考えています。ニッスイグループは、2017年一人ひとりが能力を十分に発揮できること、社員やその家族のQOLの向上を目指して心と体の健康をサポートする「健康経営宣言」をしています。「GOOD FOODS 2030」においても、健康経営は人財価値向上の重要施策のひとつであるとし、以下の取組みを進めております。

(1)働きやすい環境整備

  <制度面>

当社では、目標取得率や取得推奨日を定め、休暇取得計画を作成し部署内で休暇予定を共有することで、業務の事前調整や休暇取得管理の一助としており、休暇取得率は向上しています。

また、コアタイムのないフレックスタイム、テレワーク、時間単位有給休暇などの柔軟な働き方に向けた制度改定をおこなうとともに、IT化や適正な人員配置などを通じた時間外勤務の削減を進めています。

 

2022年度

2023年度

2024年度

有給休暇取得率/年)(※1)

77.4

79.3

77.5

1人あたり時間外平均時間/月)

15.9

15.1

14.8

 

(※1)従来、一定の事由により取得できる有給の特別休暇等を含めていましたが、理由を問わず自由に取得できる年次有給休暇の利用度合いを計る本来の趣旨に基づき、対象を年次有給休暇のみとし過去の実績から修正しています。

<オフィス環境>

当社では社員同士の円滑なコミュニケーションを促進し、多様な働き方を支えるオフィス環境の整備に努めています。

部署単位で利用できるエリアを設定し、その範囲で座席を柔軟に使用できる「グループアドレス席」を導入することで部署内の連携を高めるとともに、コロナ終息後の出社率の増加への対応や、働く場所の選択肢を拡げるために「フリーアドレス席」「個人用ブース」「ファミレス席」など、誰でも自由に利用できる座席も設置しています。さらに自宅近くや出張先でも業務が行えるよう、契約型のサテライトオフィスの活用も進めています。また、会議室や打合せスペースにはモニターやWeb会議機器を整備し、業務のペーパレス化も推進することで、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を実現しています。

こうした取組みにより、活発なコミュニケーションと生産性の向上を両立できる働きやすい職場環境を目指しています。

(2)健康経営

人財戦略の土台となる社員の心と身体の健康については、誰もが安心して活き活きと業務に専念できる状態になっていることを目指し、健康促進や疾病予防、早期発見、疾病時のケアから早期復職に向けた様々な仕組みを設け、施策を展開しています。2017年「健康経営宣言」以降、当社は2018年に水産・農林業で初めて「健康経営優良法人」に選ばれて以降、水産物由来の機能性成分を活かした施策で社員の健康づくりに注力していること等を評価頂き、2019年から5年連続で「健康経営銘柄」に選定されました。

2025年はその取り組みを更に強化し、ウォーキングやEPA摂取イベント、健康セミナー、産業看護職面談やストレスチェックフォロー、二次健診徹底など、改めて社内現場の声や産業看護職等専門者の意見もより積極的に反映して展開し、成果に繋げていきます。

グループの健康経営についても、各社で実態に沿った年度健康目標を定めるとともに、定期的に情報・意見交換の場を設け、各社間の協力・連携を推進することで成長を後押ししています。2024年度は取組の結果、前年より更に増加し10社が「健康経営優良法人2025」(うち2社は「ブライト500」「ネクストブライト1000」)に選定されました。2027年度には国内の全てのグループ会社が優良法人認定を得られるよう、専門者によるアドバイスを積極的に発信し、好事例を共有展開しながら取組を加速していきます。

 

⑥指標と目標

当社は人財戦略の実効性を管理するため、以下の人的資本に関する指標を設定しています。

 

指標項目

実績(2024年度)

2027年度目標

2030年度目標

成長事業

領域への
 人財シフト

グローバル人財登録者数

85人

134人

人財が力を発揮出来ている状態

経営人財候補者数

34人

次年度以降設定

公募制度活用者数

(2025年:集計開始)

次年度以降設定

キャリア自律と
 多様性支援

女性管理職比率

7.9%

15%

20%

女性採用比率

41.8%

50%

50%以上を継続

障害者雇用率

3.0%

3.0%以上維持

3.0%以上維持

男性育休取得率

106.7%

100%

維持・定着

経験者採用比率

29.9%

50%

50%

個々の成長を見守り支える組織文化醸成

従業員エンゲージメントスコア

116.8%(2021年比)

118%以上(2021年比)

120%以上(2021年比)

「理念の現場浸透度」に関する
 エンゲージメントスコア

満足度スコア3.3

(5段階中)

満足度スコア3.5

(5段階中)

ミッションが日々の業務や意思決定に反映されている状態

 

 

 

≪人権の尊重に関する取り組み≫

企業活動のグローバル化と多様化が進む中、国内外のバリューチェーン全体で人権尊重の取り組みが求められています。ニッスイグループは、事業に関わるすべてのバリューチェーンにおいて、人権を最優先に尊重すべきとの認識のもと、「国際人権章典」および「労働における基本的原則および権利に関するILO宣言」に記された人権を支持し、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた取り組みを進めています。

 

<ガバナンス>

人権の尊重に関する取り組みは、サステナビリティ委員会傘下の「人権部会」、「サステナブル調達部会」の2部会を中心に対応しており、リスクに応じて関連するその他の部会と連携しながら対応を行っています(注)。各部会では方針や戦略の立案・実行を行い、サステナビリティ委員会に報告しています。年6回開催されるサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しています。また、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。


(注):上記以外に経営基盤リスク委員会傘下の「労務安全衛生部会」、「倫理部会」とも連携しています。

 

<戦略>

ニッスイグループは、「人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー(GOOD FOODS 2030)」という長期ビジョンを掲げ、持続可能な社会の実現に向けて人権の尊重を企業価値向上の重要な要素と位置付けています。

 

人権への負の影響を防止・軽減するための取り組み


 

(イ)方針によるコミットメント(人権方針の策定)

当社では2020年9月に国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいた「ニッスイグループ人権方針」を策定し、人権の尊重を経営課題として位置付けました。本方針は企業活動のグローバル化・多様化に伴い、国内外のバリューチェーンにおける人権尊重の取り組みが求められる中、ニッスイグループの事業に関わるすべてのバリューチェーンにおいて、人権は最優先に尊重されるべきであるとの認識のもと、この責任を果たしていくことを改めて表明したものです。また、本方針はニッスイグループの役員および従業員に適用するとともに、サプライヤーを含むビジネスパートナーの皆さまにも本方針を支持し人権の尊重に努めていただくことをお願いしています。

 

人権方針の周知

対象

方法

ステークホルダー

ウェブサイト

サプライヤー

サプライヤーガイドライン

グループ内従業員

人権研修(年1回)

 

 

(ロ)人権デューデリジェンスの実施

重要人権リスクの特定

当社グループのバリューチェーンにおける実際のまたは潜在的な人権への負の影響の把握のため、2020年12月に部門横断型のワークショップ形式で人権リスクアセスメントを実施し、リスクを絞り込みました。その結果、以下の3つの重要リスクを特定し、重点的に対応を進めています。

人権リスクアセスメントのプロセスは「リスク管理」の項に記載しています。

 

リスク

主な対応策

進捗・実績

①水産原料に関わる強制労働、児童労働(原材料調達~生産)

・「ニッスイグループサプライヤーガイドライン」改定(2022年6月)

・1次サプライヤー505社に「サプライヤーガイドライン」を説明

・ガイドライン同意確認書の回収率98.2%

・SAQ(注)への回答率97.5%

・回答結果を基にしたサプライヤーとの対話

・大学との協働により、ベトナムエビ農家約200世帯を対象に労働・環境調査を実施(児童労働は確認されず)

②日本における外国人技能実習生の労働環境(生産)

・外国人労働者の労働環境調査(全53項目セルフチェック)の実施

・外国人の労働災害防止(掲示物、マニュアル、教育などの多言語化対応)

・外国人労働者向けの外部相談窓口の設置

・労働環境調査は外国人を雇用する国内全生産事業所を対象に実施(年1回)

・書類の多言語化のほか、ピクトグラムの活用をグループ内で横展開

・2023年度から外国人労働者向けの外部相談窓口を設置(22言語対応)

③労働安全衛生(漁業・養殖)

・漁業:漁船上の労働環境整備、第三者認証の取得

・養殖:潜水作業の安全管理、重篤災害の撲滅に向けた対策

・漁業:安全性、労働負荷の軽減、居住性を含め人権に配慮した漁船の新造、MSC漁業認証の取得、外部相談窓口の設置(22言語対応)

・養殖:潜水士向け教育内容の見直し、海上作業の可否判断基準の明文化

 

(注)SAQ:Self-Assessment Questionnaire。自己評価調査票。

 

(ハ)救済措置(苦情処理メカニズムの整備)

当社グループでは、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、グリーバンスメカニズムを構築し、救済へのアクセスを確保しています。社内および社外の窓口で通報を受け付ける内部通報制度に加え、2023年度から国内の生産事業所や漁業における外国人労働者を対象として、責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)が提供する企業協働プログラムに参画し、22言語に対応した相談窓口を設置しています。また、サプライヤーをはじめとする幅広いステークホルダーを対象として、ビジネスと人権対話救済機構(JaCER)に参加し、ビジネスと人権に関する苦情・通報窓口を設置しています。このように自社だけでなく専門の第三者機関と連携しながら、対話と救済の仕組みを整えています。

 

 


 

また、上記以外に、お客さまと直接対話する仕組みとして、お客様サービスセンターを設置しています。「消費者の安全や知る権利」も企業活動の中で尊重すべき人権と考え、お客さまの声をタイムリーに受け止め、正確な情報をお伝えすることを心がけています。

 

<リスク管理>

(イ)人権リスクを識別・評価・管理するプロセス

当社グループのバリューチェーンにおける実際のまたは潜在的な人権への負の影響を把握するため、人権部会で人権リスクアセスメントを実施しています。外部環境の変化に対応し、国や専門機関、NGOの報告書や苦情・通報窓口への通報・相談内容、ステークホルダーとの対話を通じて収集した情報をもとに、新たなリスクの特定や優先順位の決定を行っています。直近では2024年7月にアセスメントを実施し、サステナビリティ委員会での議論を経て、同年10月に重要リスクを特定しました。2025年度以降は人権部会で年に一度の見直しを行い、人権リスクアセスメントは中期経営計画の策定タイミング(3年に一度)を目安に実施する計画です。

 

リスクアセスメントの手法

バリューチェーンの各プロセスにおいて、「一般的・業界横断的な人権リスク」と「水産業・ニッスイグループ特有の人権リスク」の2つの視点からリスクの洗い出しを行っています(下図参照)。特に後者の分析では、国別リスクや魚種別リスクといった視点も取り入れ、より詳細な評価を行っています。抽出されたリスクに対しては、発生頻度や可能性、発生時の影響の大きさを基準とした「インパクトアセスメント」を実施し、重要なリスクを特定・絞り込んでいます。

 

人権リスクアセスメントワークショップにより抽出された人権リスク


(注):赤字は再特定した重要人権リスク、青字は追加した人権リスクを示しています。
 

2024年度の人権リスクアセスメントで特定した重要人権リスク

1.サプライチェーン上の強制労働、児童労働

2.日本における外国人労働者の労働環境

3.重大労働災害、事故

 

(ロ)総合的リスク管理への統合状況

2024年度に再構築したリスクマネジメント体制のもと、人権部会やサステナブル調達部会で特定された人権リスクもリスクマネジメント委員会に共有され、全社グループ視点で経営戦略への反映や優先度に応じた対応策の実行が図られています。

 リスクマネジメント委員会で特定した人権に関連する重要リスクは以下の通りです。

分類

重要リスク

重要リスク管理組織

報告先

経営戦略リスク

サプライチェーンの環境・人権に関するリスク

サステナブル調達部会

人権部会

サステナビリティ委員会

リスクマネジメント委員会

経営基盤リスク

労働安全衛生に関するリスク

労務安全衛生部会

経営基盤リスク委員会

 

リスクマネジメント体制と重要リスクについては、「第2  事業の状況  3  事業等のリスク」をご覧ください。

 

 

<指標と目標>

当社グループは、人権の尊重に関する指標を設定し、その進捗をモニタリングしています。主要な指標と実績、および目標値は以下の通りです。

指標

目標

2024年度実績

1次サプライヤーアセスメント比率

2030年度 100%

(グループの主要なサプライヤーを含む)

97.5%

外国人労働者の労働環境モニタリング

外国人を雇用するすべての事業所で実施

45/45事業所

人権研修受講者数、受講率

対象者における受講率100%

ニッスイ個別:1,641名、91.3%

グループ会社:1,493名、95.1%

 

 

(イ)1次サプライヤーアセスメント比率

ニッスイ個別の1次サプライヤー(直接の取引関係がある国内・海外のサプライヤー)に対し、SAQによる確認を進めています。基準に満たない場合は、回答の意図確認や実態把握のため、サプライヤーに対して訪問/オンラインでヒアリングの機会を設けるとともに、改善に向けた要請やアドバイスを行っています。

2022年度に22%だったSAQへの回答率は2024年度には97.5%まで拡大しました。2030年までに海外も含めたグループの主要サプライヤーにも対象を広げ、100%実施を目標に取り組みを進めています。

 

(ロ)外国人労働者の労働環境モニタリング

国内のグループ会社で外国人を雇用する全生産事業所を対象に年1回の労働環境調査を実施しています。調査では深刻な人権侵害リスクの兆候は認められていませんが、一部の事業所において言語面の課題が確認されており、人権部会より国内のグループ各社に対して多言語化対応の周知を図っています。グループ全体で統一した対応を進め、その対応状況を人権部会で確認しています。また、国内グループ会社の生産拠点45事業所に在籍する外国人労働者を対象に、22言語に対応した第三者相談窓口(JP-MIRAIアシスト)を導入し、労働問題から生活まわりの相談まで、外国人労働者がワンストップで相談できるハードルの低い仕組みを導入しています。

 

(ハ)従業員に対する人権研修実施状況

従業員(注)を対象とした人権研修を継続的に実施しており、2024年度には3,134名がeラーニング研修を受講しました。今後も毎年研修を実施し、従業員一人ひとりへの人権方針の浸透と意識向上を図ります。

(注):2024年度はニッスイ個別の全従業員と国内グループ会社の幹部職以上が対象

 

これらのKPIは人権部会・サステナブル調達部会を中心にPDCAサイクルで取り組みを改善しており、サステナビリティ委員会や取締役会に定期報告され、目標達成度合いや課題が議論されています。また、目標と指標は外部環境の変化やステークホルダーの声を踏まえてアップデートしています。

 

≪自然資本の持続可能性向上に向けた対応≫

当社グループのビジネスは自然資本に依存しており、さまざまな生態系サービスの恵みを受けて事業を行っていることから、自然資本の持続可能性が損なわれることは、大きなリスクであると認識しています。特に気候変動は当社グループをとりまくさまざまなリスクと関連しており、また、生物多様性も気候変動と相互に影響しあって、原材料調達などのリスクに大きく影響します。そのためこれらの環境課題に対して、統合的なアプローチと対応が重要であり、リスクに対応することでレジリエンスを高め、成長機会につなげていくことが重要と考えています。

①気候変動への対応(TCFD提言への取組)

<ガバナンス>

気候変動問題については、CFOがプロジェクトオーナーを務める部門横断型プロジェクト「TCFD対応プロジェクト」において、リスク・機会の分析と財務インパクト対応策の検討を行っています。検討結果はサステナビリティ委員会での審議を経て取締役会に報告し、取締役会からの意見や助言を反映しています。CO2排出量削減などの気候変動緩和策については、サステナビリティ委員会傘下の環境部会がグループ全体の取り組みを推進しています。


 

<戦略>

連結売上高の95%以上を占める水産事業、食品事業、ファインケミカル事業を対象とし、TCFD提言に基づく気候変動のシナリオ分析を2つのシナリオで実施しました。気候変動リスクと機会の特定、財務インパクトの評価を行い、その対応策を検討しました。明確化された重要なリスクと機会に対して、対応策を講じることで、リスクの低減と機会の確実な獲得につなげ、気候変動に対してレジリエントな状態を目指します。

 

(イ)戦略におけるシナリオ分析の概要

TCFDの提言に従い、気候変動シナリオ分析を実施しました。分析対象は水産事業と食品事業、ファインケミカル事業とし、バリューチェーン全体を幅広く分析しました。1.5℃/2℃および4℃の気温上昇時の世界を想定し、リスク・機会の抽出と2030年における財務インパクトの評価、および対応策を検討しました。

その結果、1.5℃/2℃シナリオでは炭素税の導入による操業コストが事業成長の阻害要因となり、積極的な温室効果ガス削減とともに生産活動の効率化に取り組み、新たな顧客需要を捉えることにより、事業成長につなげることが可能であることがわかりました。また、4℃シナリオでは自然災害の激甚化に伴う物理リスクが事業成長の阻害要因となり、養殖事業の高度化に取り組みこれらのリスクに対応することで収益への影響を最小化することが必要であることがわかりました。

 

シナリオ

世界観の描写

1.5℃/2℃

シナリオ

(RCP2.6)

●社会からの脱炭素への要求により、コーポレートやバリューチェーン全体に対して、脱炭素に向けた規制や対応要請が強まる

●社会からの脱炭素への要求により、脱炭素な過程で生産された原材料の仕入れや持続可能な漁業・養殖が必要になる

●消費者や小売業者の志向変化により、低カーボンな製造・製品や持続性に配慮した調達品の取引や販売が求められる

4℃

シナリオ

(RCP8.5)

●自然災害の激甚化に伴い、養殖・製造・物流等拠点の被災リスクが高まり、被災した場合、供給・運営停止などのリスクが高まる

●自然災害の激甚化や気温上昇により、植生や海洋環境が変化することで、作物の収量や水産資源の漁獲量・生産量の減少リスクが高まる

●自然災害が頻発することで災害食に対する需要の増加や、気温変化により健康状態が悪化することで健康ニーズを満たす製品要望が高まる

 

 

1.5℃/2℃シナリオ

リスク
/機会

分類

想定される
主なリスクと機会

事業
インパクト

影響
時期

財務
インパクト

主な対応策

移行リスク

規制

環境関連規制強化による影響

カーボンプライシングの導入による対応コストの増加

中期

・事業所毎の排出量削減目標の設定

・再エネ導入拡大、省エネ設備投資

省エネ・GHG排出等の規制強化による対応コストの増加

・容器包装プラスチック削減

・モーダルシフト、輸送効率化

・フードロス削減

・ICP(注1)導入の検討

フロン規制強化による脱フロン要請の高まり

中期

・自然冷媒への切り替え

評判

気候変動対応が不十分な場合の投資家・金融機関からの評判低下

-

中期

・Scope 3まで含めたCO2削減目標の設定

・気候変動対応情報の積極開示

機会

製品

サービス

消費者の購買行動の変化

(環境意識の高まり、持続可能性への配慮)

 

持続可能性に配慮した製品に対する需要増加

短期

・取り扱い水産物の資源状態調査の継続実施

・環境配慮商品や認証品の取り扱い拡大

低カーボン需要の高まりによる代替タンパクへの需要増加

中期

・代替タンパク商品の開発、拡大

低カーボンとしての水産物の需要増加

長期

・LCA(注2)の実施と積極的な情報発信

資源の効率性

省エネ技術導入、再エネ・燃料転換による操業コスト低減

エネルギーの消費量削減、効率化に伴う操業コストの低減

中期

・エネルギー高効率な省エネ設備対応

 

影響時期は、短期(3年以内)、中期(3-10年以内)、長期(10-20年程度)とした。

(注1)ICP:インターナルカーボンプライシング

(注2)LCA:ライフサイクルアセスメント

 

 

4℃シナリオ

リスク
/機会

分類

想定される
主なリスクと機会

事業
インパクト

影響
時期

財務
インパクト

主な対応策

物理リスク

急性

風水害の激甚化による事業停止リスク/管理コスト増加

製造/物流拠点被災による被害

中期

・拠点の分散によるリスクヘッジ

・物理的被害に備える保険内容の見直し

・BCP見直し、社内訓練の実施

養殖施設の損壊による被害

短期

・浮沈式生簀の導入、施設の補強

・赤潮発生を予測し、被害を最小化

・陸上養殖への対応強化

異常気象による原材料(米・鶏肉)の調達リスク

原材料調達コストの増加

短期

・産地の分散化や調達先の多様化によるリスク低減

異常気象による原材料(水産物)の調達リスク

漁獲量減少と調達コストの増加

長期

・EPA原料魚油(カタクチイワシ)の在庫確保

・代替原料(ポストEPA)の開発

急性


慢性

渇水による操業停止リスク

養殖拠点の渇水被害

短期

・高リスク拠点の特定、移転、設備強化

製造/物流拠点の渇水被害

短期

・使用水の節約、井水の使用

・拠点の分散によるリスクヘッジ

慢性

海洋環境の変化による水産物の調達リスク

天然魚、養殖魚の漁獲量の減少

中期

・調達ネットワークの構築

陸上養殖の対応強化

・高温耐性品種の開発、養殖適地の探索

養殖飼料向け原料魚の漁獲量減少・調達コスト増加

中期

・代替飼料の開発(低魚粉配合飼料)

機会

製品と
サービス

災害や気候変動に対応する製品・サービスを通じた需要増加

天然資源減少に伴う養殖需要の増加

短期

・陸上養殖の対応強化

・高温耐性品種の開発、養殖適地の探索

スマート養殖対応によるコスト低減

短期

・AI、IoTを活用した効率化、省人化

気温上昇に伴う健康意識の高まり

健康需要を満たす製品の需要増加

短期

・健康領域商品の販売拡大

・水産物の機能性追求

 

影響時期は、短期(3年以内)、中期(3-10年以内)、長期(10-20年程度)とした。

 

(ロ)カーボンプライシングの影響

財務インパクトの中でも特に影響が大きかったカーボンプライシングについては、将来CO2排出量(Scope1、2)を2030年売上予測に基づいて算出し、2℃シナリオ、4℃シナリオごとのIEAの予測(注1)による炭素価格を掛け合わせて運営コストの影響金額を算出しました。2030年目標であるCO2排出量を総量で30%削減することにより、グループ全体で2℃シナリオでは56.0億円、4℃シナリオでは17.4億円の削減につながることがわかりました。

 

2℃シナリオ

4℃シナリオ

対応策なし(注2)

対応策あり(注3)

対応策なし(注2)

対応策あり(注3)

▲106.5億円

▲50.5億円

▲33.1億円

▲15.7億円

 

炭素税:2℃シナリオ時 135ドル/t‐CO2、4℃シナリオ時 42ドル/t‐CO2と仮定、為替レートはいずれのシナリオも1ドル=150円と仮定

 

(注1)IEA World Energy Outlook 2023

(注2)対応策なし:Scope1、2を対象とし、基準年度(2018年度)と同様の原単位でCO2が排出されると仮定

(注3)対応策あり:Scope1、2を対象とし、2030年目標を達成することでCO2排出量が2018年度から30%削減されると仮定

 

(ハ)天然水産資源(カタクチイワシ・スケソウダラ)の影響評価

調達量が多く重要な魚種であるカタクチイワシとスケソウダラについて、FAOのモデルを使用して2種類のシナリオで2030年、2050年の漁獲可能量の変化を評価しました。その結果、1.5℃シナリオにおいては両魚種ともに微減が予想されました。4℃シナリオにおいては、カタクチイワシは2030年、2050年ともに減少となり、スケソウダラは2030年は微増、2050年は増加が予想されました。2030年時点での漁獲可能量の変化率は大きくないため、財務への影響は軽微であることが確認されました。しかし、2050年の漁獲可能量の変化率は比較的大きいため、特に減少が予想されるカタクチイワシについては、対応策を確実に進めていく必要があります。

 

漁獲可能量の変化率 (%)


出所:FAO (国連食糧農業機関)「Impacts of climate change on fisheries and aquaculture(2018)」を参考に当社推計

 

(ニ)水リスクの評価

水リスク評価のグローバルスタンダードのうち、2021年度は世界自然保護基金(WWF)のWater Risk Filterを用いて国内の製造・物流拠点全体の評価を行いましたが、水リスク評価の際には拠点別の影響額を試算するために浸水深のデータが必要であることから、2022年度以降は分析粒度が細かくより精緻なデータ収集が可能である世界資源研究所(WRI)のAqueduct(アキダクト)を用いて、国内・海外の生産・物流拠点別に評価を行いました。

水害による生産中断に伴う機会損失については、各拠点の所在地に示されるAqueductの浸水深により拠点別に運転停止日数・在庫毀損率を特定し、財務影響金額を算定しました。財務への影響は中程度であることを確認しました。また、水ストレス(渇水)については、最も高いリスクレベルに該当する拠点はありませんでしたが、日本、タイ、北米、南米の生産拠点の一部が、水ストレス下にある地域に所在していることがわかりました。今後は継続的に使用水の削減に取り組むとともに、水リスク評価方法の精緻化についても検討を進めていきます。

 

■Aqueductによる洪水リスク評価結果(拠点数)

浸水幅

1.5℃/2℃

4℃

河川

沿岸

河川

沿岸

0m

59

62

59

62

0-0.5m

12

8

13

9

0.5-1m

8

7

7

6

1-2m

0

2

0

2

 

79

79

79

79

 

 

■Aqueductによる渇水リスク評価結果(拠点数)と水使用量

渇水レベル

1.5℃/2℃、4℃

拠点数

2024年度 水使用量(千㎥)

低(Low)

32

765

低‐中(Low-medium)

23

2,497

中‐高(Medium-high)

22

8,348

高(High)

2

210

極めて高い(Extremely high)

0

0

 

79

11,820

 

 

(ホ)戦略への反映

シナリオ分析の結果を受けて、中期経営計画「GOOD FOODS Recipe2」でも引き続き、優先度の高い対応策から事業計画に反映し、戦略との整合を図っています。

基本戦略

項目

内容

事業ポートフォリオ強化

グローバル展開の加速

北米・欧州を中心とした事業成長

●資源アクセス力の強化

●サステナビリティ情報開示の強化

●代替タンパク商品の拡大

新規事業・事業境界領域の開拓

社会課題を解決するイノベーティブな食を通じた成長

●新規事業開発(藻類関連・廃棄物のアップサイクル等)

●素材の機能性強化

●養殖技術の深化

生産性の革新

業務効率化の定着

●養殖の高度化(AI・IoT活用)

●スマートファクトリー化

サステナビリティ経営の

深化

サステナビリティと事業戦略の連動強化

温室効果ガス排出削減

●省エネルギー推進、燃料転換、再生可能エネルギーの利活用、モーダルシフト推進 ●養殖事業モデルの先鋭化

●特定フロンから自然冷媒への移行

●代替タンパク商品の販売拡大

プラスチック削減

●容器包装のプラスチック削減、石油由来バージンプラスチックの低減 ●事業活動に伴う廃プラスチック排出抑制

●物流資材のプラスチック削減、リサイクル推進

水産資源の持続的な利用

●取り扱い水産物の資源状態調査の継続実施

●各種水産エコラベル認証取得率向上と認証原料の取り扱 い拡大

健康訴求の強化

●健康領域商品の拡大 ●素材の機能性強化

 

 

<リスク管理>

当社グループでは、中長期的な経営戦略を見据えた重要リスクを特定するため、マテリアリティをリスクマネジメントの起点としています。2023年度に実施したマテリアリティの見直しに伴い、重要リスクについても見直しを行いました。特定した気候関連の重要リスクは以下の通りです。なお、マテリアリティの見直しに際しては、TCFDやTNFDの取り組みにおける「気候関連・自然関連のリスクと機会」の検討結果を反映させています。リスクの詳細は「第2  事業の状況  3  事業等のリスク」をご覧ください。

重要リスク

重要リスク管理組織

報告先

気候変動への対応に関するリスク

環境部会

サステナビリティ

委員会

リスクマネジメント委員会

 

 

気候変動に関連するリスク・機会の分析と対応策については、CFOがオーナーを務める部門横断型の「TCFD対応プロジェクト」が環境部会と連動して検討しています。

 

<指標と目標>

長期ビジョン「GOOD FOODS 2030」において、2018年度比で、2030年にCO2排出量を総量で30%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを掲げています。グループグローバルでの目標達成に向け、各事業所における省エネ施策の実施やエネルギー使用量の少ない高効率設備への更新、再生可能エネルギーの使用など、CO2削減計画を策定し、積極的に取り組んでいきます。

Scope3についてはGHGプロトコルに整合した環境省のガイドラインに従い、15のカテゴリーに分け算定しました。今後はデータの精度向上を図り、排出量の多いカテゴリー1の削減方法の検討などを行い、当社グループにおけるCO2排出量の削減をさらに推進します。また、調達する天然水産物、プラスチック、フードロス、水などについても、持続可能な利用を実現するための目標と施策をそれぞれ掲げ、取り組みを推進していきます。

 

(イ)CO2排出量の推移(Scope1、2)


 

(ロ)CO2排出量の推移(Scope3

 

 

単位

2021年度

2022年度

2023年度

カテゴリー1

購入した製品・サービス

t-CO2

2,316,906

2,297,014

2,514,377

カテゴリー2

資本財

t-CO2

79,343

81,241

107,296

カテゴリー3

Scope 1、2に含まれない燃料及びエネルギー活動

t-CO2

63,191

61,779

65,650

カテゴリー4

輸送、配送(上流)

t-CO2

66,819

62,181

68,035

カテゴリー5

事業から出る廃棄物

t-CO2

8,110

13,396(注)

14,545(注)

カテゴリー6

出張

t-CO2

1,256

1,228

1,317

カテゴリー7

雇用者の通勤

t-CO2

3,227

3,206

3,428

カテゴリー8

リース資産(上流)

t-CO2

対象外

対象外

対象外

カテゴリー9

輸送、配送(下流)

t-CO2

除外

除外

除外

カテゴリー10

販売した製品の加工

t-CO2

除外

除外

除外

カテゴリー11

販売した製品の使用

t-CO2

除外

除外

除外

カテゴリー12

販売した製品の廃棄

t-CO2

6,659

6,217

6,032

カテゴリー13

リース資産(下流)

t-CO2

対象外

対象外

対象外

カテゴリー14

フランチャイズ

t-CO2

対象外

対象外

対象外

カテゴリー15

投資

t-CO2

対象外

対象外

対象外

合計

t-CO2

2,545,561

2,526,262

2,780,681

 

(注):2022年度より対象範囲を変更しました。

 

(ハ)第三者保証について

2021年度から2023年度のCO2排出量(Scope1、2、3)の実績については、排出量データの信頼性向上を目的として、株式会社サステナビリティ会計事務所に第三者保証手続を依頼し、保証報告書を取得しています。

 

(ニ)目標と実績

指標

2030年目標

2024年度実績

測定・判定方法

CO2排出量

30%削減

6.4%削減

CO2排出実績

(対象:Scope1、2 基準年度:2018年度 単位:総量)

2050年カーボンニュートラル

-

-

冷媒の特定フロン

使用ゼロ

国内:特定フロン冷媒の保有28.3%

海外:特定フロン冷媒を保有する会社4/15社

特定フロン冷媒を使用した設備の使用率

(対象:ニッスイグループ)

水の使用量

20%削減

2.3%増加

水の使用量

(対象:ニッスイ国内グループ 基準年度:2015年度 単位:原単位)

廃棄物

100%

70.4%

ゼロエミッション率99%以上の事業所割合

フードロス

30%削減

12.8%削減

事業所における動植物性残渣の廃棄量

(対象:ニッスイ国内グループ 基準年度:2017年度 単位:原単位)

50%削減

20.5%削減

製品廃棄量(対象:ニッスイ個別 基準年度:2020年度 単位:総量)

プラスチック

30%削減

6.7%削減

容器包装におけるプラスチック使用量

(対象:ニッスイ個別 基準年度:2015年度 単位:原単位)

30%削減

14.3%削減

事業所におけるプラスチック排出量

(対象:ニッスイ国内グループ 基準年度:2017年度 単位:原単位)

持続可能な調達比率

水産物の持続可能な調達比率100%

75%

ODP(注)による評価手法(FishSourceスコア1~5による判定)で、「Well Managed(優れた管理)すべてのスコアが8以上」「Managed(管理)同以上」を持続可能と位置付け

 

(注)ODP:Ocean Disclosure Project。SFP(Sustainable Fisheries Partnership)が2015 年に設立した、シーフードの調達を自主的に開示するためのオンライン報告プラットフォーム。

 

②生物多様性への対応(TNFD提言への取組)

当社グループは生物多様性を守ることの重要性を考え、2014年に環境憲章を改訂し、行動方針に「生物多様性の保全」の推進をうたっています。当社グループの強みは、世界各地から水産物をはじめとした素材を調達できる資源アクセスであり、価値創造の源泉となっている一方で、事業活動を通じて自然資本に大きく依存し、また、影響を与えています。地球や海の恵みを受けて事業を営んでいることを常に心にとめ、バリューチェーンにおける生物多様性への依存と影響を把握し、その上で事業活動による負の影響の回避・低減に努めるとともに、復元・再生に取り組みます。

また、当社グループは、2023年9月にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)フォーラムに加盟し、2023年12月にTNFD Adopterに登録しました。TNFD最終提言v1.0で推奨される開示推奨項目を、「ガバナンス」、「戦略」、「リスクと影響の管理」、「指標と目標」の4つの柱に沿って開示しています。

(注):TNFD提言への取り組みの詳細は、TNFDレポートをご参照ください。

 https://nissui.disclosure.site/assets/pdf/89/2023_tnfd_ja.pdf

 

<ガバナンス>

自然資本・生物多様性に関連する取り組みは、「水産資源持続部会」、「サステナブル調達部会」、「海洋環境部会」、「プラスチック部会」、「環境部会」、「人権部会」の6部会を中心に対応しており、各部会では方針や戦略の立案・実行を行い、サステナビリティ委員会に報告しています。年6回開催されるサステナビリティ委員会では、各部会からの報告や提案を受けてサステナビリティを巡る課題に係る具体的な目標や方針、施策を検討しています。また、取締役会への定期的な報告を通じて、取締役会からの意見や助言をその取り組みに反映しています。

 


<戦略>

漁業と養殖における自然への依存と影響の関係を整理するため、LEAPアプローチ(注1)に沿って「依存と影響」の  診断と「リスクと機会」の評価を行い、以下のように整理しました。なお、今回の評価では、バリューチェーン最上流における自然との接点である「漁業」および「養殖」を対象とし、外部ツール「ENCORE(注2)」を使用した一次評価を行った上で、当社グループの操業実態に合わせた二次評価(定性評価)を行いました。その結果、漁業では海域や水産資源などの海洋生態系サービスに大きく依存し、漁獲によって水産資源量や生物種に影響を与えていることが分かりました。養殖では、陸域・水域・海域の利用に加え、水温や水質などの生態系調整サービスに大きく依存している一方で、給餌による水質悪化など、養殖場水域の汚染により自然へ影響を与えていることが分かっています。

(注1)LEAPアプローチ:TNFDが開発した、自然関連のリスクと機会を評価するためのガイダンス。分析プロセスであるLocate、Evaluate、Assess、Prepareの頭文字をとったもの。
(注2)ENCORE:ビジネスセクターと生産プロセスごとの自然資本への依存と影響を評価するツール。

 

■依存と影響の診断


 

■想定される主なリスクと機会

対象

リスク/機会

想定される主なリスクと機会

事業インパクト

主な対応策

漁業

物理リスク

水産資源の枯渇化

・調達量の減少

・調達コストの上昇

・資源アクセスのさらなる強化

・調達ネットワークの構築

・養殖事業の強化

・水産物代替原料の開発

移行リスク

漁業規制の強化

機会

水産物の持続的調達によるサプライチェーン安定化

・収益の安定化、販路の拡大

・調達における資源状態の確認

・漁業認証取得や認証品の取り扱い増

養殖

物理リスク

風水害の激甚化による事業停止・管理コスト増加

・養殖施設の損壊による被害

・浮沈式生け簀の導入、施設の補強

・陸上養殖への対応強化

魚病の蔓延

・魚の斃死による資産の損失

・独自の養殖魚健康管理システム「N-AHMSⓇ」による予防管理

移行リスク

養殖における環境規制の強化

・事業規模縮小や養殖場の閉鎖

・罰金や課税による財務影響

・養殖漁場の環境モニタリング

・飼料・給餌における環境負荷低減(EP飼料・自動給餌システム)

・沖合養殖への移行

機会

完全養殖技術による天然資源への依存低減

・レジリエンス強化、競争優位性の確立

・技術確立と対応魚種の拡大

陸上養殖技術による海洋環境への負荷低減

スマート養殖による環境負荷低減

・養殖コストの低減、養殖成績の向上

・労働環境の改善

・AI・IoTを活用した生産管理

・遠隔給餌システムの開発

共通

機会

消費者の購買行動の変化(持続可能性に配慮した製品に対する需要の増加)

・売上の拡大

・持続可能な水産資源の調達

・持続可能な養殖事業の構築

・丁寧な情報発信

 

 

(イ)水産資源の持続的な利用

イ.取り扱い水産物の資源状態調査の概要

当社では、3年ごとに取り扱い水産物の資源状態調査を行っています。2023年度に実施した第3回の調査では、当社およびグループ会社(国内16社、海外20社)において、2022年に取り扱った天然水産物・水産物加工品は原魚換算重量で約276万トンでした。調査データの分析はSFP(注)へ委託し、第三者性を確保しました。

(注)SFP:Sustainable Fisheries Partnership。持続可能な漁業のためのパートナーシップ、サプライチェーンで漁業改善を推進する米国NGO。

 

 調査方法


 

調達した天然水産物および水産物加工品の原産地(2022年)

 


 

ロ.資源管理状態の評価結果

SFPによる分析の結果、2022年に取り扱った天然水産物および水産加工品のうち、約75%が適切に維持・管理できている資源(「優れた管理」および「管理」)であることがわかりました。一方で、「要改善」状態の資源が8%、「プロフィール未登録(スコアが欠損しており判定できない資源)」が約17%ありました。

 


 

 

ハ.絶滅危惧種への対応

第3回資源状態調査の結果、取り扱った水産物の一部にIUCN(国際自然保護連合)で定められた絶滅危惧種Ⅰ類(IUCNレッドリストにおけるCR, EN)に該当する魚種が含まれていることが分かりました。2022年に「ニッスイグループ絶滅危惧種(水産物)の調達方針」を策定し、方針に基づいて魚種ごとに対応策を決定することで、持続性を確保しています。

 

2022年時点の分類に基づく絶滅危惧I類と、ニッスイグループの対応策

分類

学名

和名

重量(t)

対応策

CR

Anguilla anguilla

ヨーロッパウナギ

0.9

販売先の拡大を停止している。

EN

Leucoraja ocellata

ガンギエイ

103

MSC認証品の調達を推進している。また、販売先の拡大を停止している。

Apostichopus japonicus

ナマコ

38

新たに水産流通適正化法(日本)による管理が開始されているため、今後も管理枠内での調達が可能と判断。

Thunnus maccoyii

ミナミマグロ

20

適切にRFMO(地域漁業管理機関)が管理しているため、今後も管理枠内での調達が可能と判断。

Anguilla japonica

ニホンウナギ

5

水産流通適正化法の対象魚種に今後、ウナギの稚魚(シラス)が加わる予定であり、その動向を踏まえて、対応策を検討する。

Anguilla dieffenbachii

ニュージーランド

オオウナギ

0.3

販売先の拡大を停止している。

 

 

ニ.今後の対応策

資源状態の把握が困難な魚種(特に魚粉・魚油・すり身の加工原料となる魚種)に対し、ラウンドテーブルへの参加やFIPの支援など、優先して対応します。

・漁獲情報の収集が困難な品目の資源特定や、サプライヤーとの協働によるトレーサビリティの確保に取り組みます。

・調達資源について、人権侵害リスクを把握するための評価方法を検討します。

 

<リスクと影響の管理>

当社グループでは、中長期的な経営戦略を見据えた重要リスクを特定するため、マテリアリティをリスクマネジメントの起点としています。2023年度に実施したマテリアリティの見直しに伴い、重要リスクについても見直しを行いました。特定した自然資本・生物多様性に関わる重要リスクは以下の通りです。なお、マテリアリティの見直しに際しては、TCFDやTNFDの取り組みにおける「気候関連・自然関連のリスクと機会」の検討結果を反映させています。リスクの詳細は「第2  事業の状況  3  事業等のリスク」をご覧ください。

 

重要リスク

重要リスク管理組織

報告先

気候変動への対応に関するリスク

環境部会

サステナビリティ委員会

リスクマネジメント委員会

生物多様性への対応に関するリスク

水産資源持続部会

海洋環境部会

サプライチェーンの

環境・人権に関するリスク

サステナブル調達部会

人権部会

 

 

気候変動に関連するリスク・機会の分析と対応策については、CFOがオーナーを務める部門横断型の「TCFD対応プロジェクト」が環境部会と連動して検討しています。また、バリューチェーン上の自然資本関連のリスク・機会の分析と対応策については、水産資源持続部会、海洋環境部会、サステナブル調達部会、人権部会において検討し、サステナビリティ委員会での議論の後に取締役会に報告され、取締役会から受けた意見や助言を施策に反映しています。

 

<指標と目標>

当社グループは、水産資源の持続性確保や海洋環境の保全を経営課題と位置付けて取り組んでおり、以下の指標と目標を用いて自然関連の依存・影響、リスク・機会を管理しています。

 

対象

指標

目標

2024年度実績

測定・判定方法

漁業

養殖

持続可能な調達比率

2030年度:水産物の持続可能な調達比率100%

75%

ODP(注1)による評価手法(FishSourceスコア1~5による判定)で、「Well Managed(優れた管理)すべてのスコアが8以上」、「Managed(管理)同6以上」を持続可能と位置づけ

漁業

養殖

絶滅危惧種(水産物)の調達

特に絶滅の危険度の高い水産物に関しては、2030年までに資源回復への科学的かつ具体的な対策(右記)が取られない場合には、調達を停止

-

資源回復への科学的かつ具体的な対策

1. MSC等の認証漁業品(GSSI(注2)認証相当)または、FIP漁業品

2. RFMO(注3)等の国際的な資源管理団体による科学的な漁業管理

3.ODP(注1)が定める基準で「Managed」以上の評価

4. その他、上記1-3の実現に向けて、具体的な施策を実施している場合

漁業

養殖

CO2排出量

2030年度:CO2排出量30%削減

6.4%削減

CO2排出実績(対象:Scope 1,2 基準年度:2018年度)

養殖

養殖魚の逃亡

逃亡魚の発生ゼロ

18,733匹

逃亡実績(逃亡魚が発生した際は、発生規模を問わず、全て把握、記帳、集計)

 

(注1)ODP:Ocean Disclosure Project。SFP(Sustainable Fisheries Partnership)が2015 年に設立した、シーフードの調達を自主的に開示するためのオンライン報告プラットフォーム。

(注2)GSSI:Global Sustainable Seafood Initiative。持続可能な水産物認証プログラムを検証する国際パートナーシップ。

(注3)RFMO:Regional fisheries management organizations。水産資源の保存及び持続可能な利用の実現を目指し、個別の条約に基づいて設置される国際機関。