2024年3月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

(1)当社グループのリスクマネジメント

 ①リスクマネジメントの考え方

 当社は、「リスクマネジメント規程」において、企業の存続に影響を与えると考えられる事象発生の不確実性を「リスク」、企業が経営を行っていく上で事業に関連する内外の様々なリスクを適切に関する活動を「リスクマネジメント」と定義しており、適切な「リスクマネジメント」の実行が経営の重要課題であると認識しています。

 

 ②リスクマネジメントの基本方針

 当社グループは、水産物をはじめとする資源から様々な食品や医薬品原料などを製造し、世界の人々に対して供給することを使命としており、その責務を果たすべく安定した生産・販売の継続に努めています。そのような観点から、「リスクマネジメント規程」において、当社グループでは、事業活動の妨げとなるリスクの未然防止に努め、緊急時には人命尊重を第一に損失の発生を最小限に抑え、被災者支援など社会への配慮を行うとともに経営資源の保全と事業の継続に最善を尽くすことで、企業価値を維持・向上していくことをリスクマネジメントの基本方針として掲げています。

 

③リスクマネジメント体制

 当社は、リスクマネジメントの実効性を高めるため、全社的リスクマネジメントシステムの構築とその維持・向上を任務とする、社長直轄の組織であるリスクマネジメント委員会を設置しています。同委員会は全執行役員によって構成され、社長が委員長を務め、リスクマネジメント担当執行役員は、取締役会へ定期的に活動報告をしています。

 また2023年度からグループ全体のリスクマネジメント体制の再構築に着手しました。従来、リスクマネジメント委員会では、情報セキュリティ・倫理(コンプライアンス)・労務安全衛生・災害BCPといった重要なオペレーショナルリスクやハザードリスクを管理する4部会を傘下に置いていました。一方で、サステナビリティに関するリスクはサステナビリティ委員会、 品質に関するリスクは品質保証委員会が管理しており、また、その他の事業リスク等については執行役員会で議論されるなど、課題テーマごとのリスクマネジメント体制となっていました。

 これを、グループ全体のリスクを適宜、的確に捉える新しい体制への見直しを図っています。具体的には、リスクマネジメント委員会・サステナビリティ委員会・品質保証委員会・執行役員会の事務局が連携して、重要リスク対応を全社グループ視点で一元管理する体制へ移行し、リスク対応に優先順位を付けて経営戦略に落とし込み、将来の成長の機会とリスクの的確なマネジメントを目指します。

 新しいリスクマネジメント体制を踏まえ、リスクマネジメント委員会は全社重要リスクを一元的に把握・管理する統合リスク管理機能として、次の事項を審議・承認し、取締役会へ報告することで、全社的リスクマネジメントシステムの構築とその維持・向上の役割を果たしていきます。

 

・重要リスク(注1)の特定 (重要リスク管理組織(注2)の特定)

・重要リスク対応計画の審議 (重要リスク管理組織が策定・報告)

・重要リスク対応計画実行のレビュー (過年度総括・評価・是正)

・重要リスク対応計画の網羅的な把握・確認 (次年度計画の全社集約・一元化)

 

 

(注1)重要リスク:当社のグループ経営において極めて重要度が高く優先的に対応すべきと判断したリスク

(注2)重要リスク管理組織:重要リスクごとに設置し、全社横断的なリスク対応計画の管理責任を負う組織

 

 

④リスクマネジメントプロセス

 当社グループでは、新しいリスクマネジメント体制において、リスクマネジメントプロセスを年間のPDCAサイクルとして、リスクマネジメント活動を推進していきます。

 中長期的な経営戦略を見据えた重要リスクを特定するため、マテリアリティをリスクマネジメントの起点としており、マテリアリティを見直すタイミングで、定期的に重要リスクの見直しを図っていきます。ただし大きな環境変化があった場合は、年度の進捗確認・評価で議論します。

 


 

⑤重要リスクの特定プロセス

 当社グループは、中長期的に企業価値を維持・向上していくためには、政治・経済・社会・テクノロジーなどの外部環境の変化がもたらすリスクと機会に戦略的に対応することが重要と考えています。当社グループでは、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記述の通り、昨今の外部環境の変化を捉えたマテリアリティの見直しを行い、その過程でマテリアリティに関連する機会とリスクを抽出・分析し、中長期的な重要課題・事業戦略に重大な影響を及ぼすと認識するリスク項目を重要リスクとして特定しました。

 また、プラスとマイナスの影響を持ち併せたリスクとマイナスの影響を主とするリスクの両方を統合管理するリスクマネジメント体制へ移行するにあたり、前者を経営戦略リスク、後者を経営基盤リスクの2つに分類して整理しています。

 


 

 

■重要リスクの特定プロセス


 

<「リスク項目の特定」と「リスク評価」について>

 マテリアリティに関連するリスクを抽出・分析し、リスク属性で整理した結果、17のリスク項目を特定しました。その中から、中長期的な重要課題・事業戦略に及ぼす影響を評価し、極めて重大と判断した11の重要リスクは以下の通りです。

 

 

経営戦略リスク

経営基盤リスク

影響

重大

・人的資本への対応に関するリスク

・気候変動への対応に関するリスク

・生物多様性への対応に関するリスク

・サプライチェーンの環境・人権に関するリスク

・海外事業展開に関するリスク

・地政学的問題に関するリスク

・製品の安全安心・品質に関するリスク

・情報セキュリティに関するリスク

・コンプライアンスに関するリスク

・大規模自然災害・事故に関するリスク

・労働安全衛生に関するリスク

 

 

■リスクマネジメント推進体制図

 


 

 

(2)重要リスク

 当社グループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に重大な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を記載しています。以下に記載したリスクは、当社グループの全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。なお、本文中における将来に関する事項は、別段の記載がない限り当年度末において当社が判断した内容に基づきます。

 

 ≪経営戦略リスク≫

 (戦略1)人的資本への対応に関するリスク

<概要>当社グループの経営計画達成のために、事業創出・企画運営の能力のある経営を担う人財、海外国内を問わず活躍できるグローバル人財やプロフェッショナル人財、各生産拠点で成果を上げる人財の確保と育成が必要ですが、日本国内の少子高齢化と人口減少が進むにつれ、国内での優秀な人財確保が難しくなりつつあります。また、多様な人財が働けるダイバーシティ対応に後れをとると、必要な人財確保が困難になると想定されます。

主なリスク

・プロフェッショナル人財(※)の不足による生産性の停滞、事業拡大の停滞

(※)グローバル人財、DX人財のほか、サステナビリティ人財、R&D人財など

・従業員エンゲージメントの低下による人財確保の難化

・生産年齢人口減少に伴う現場労働力の不足による生産性停滞

・人財不足に伴う新規事業拡大の停滞、顧客ニーズへの対応不能

主な機会

・プロフェッショナル人財の確保・育成による事業拡大への貢献

・プロフェッショナル人財の確保・育成による生産性向上への貢献

・現場労働力の確保による生産性向上

関連するマテリアリティ

・人財育成と多様な人財の活躍 

・労働力確保と生産性の向上

・ミッションへの共感とブランディング

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、経営戦略と連動した人財戦略・人財育成を実行していますが、今後の事業展開にあたり、事業を牽引する人財育成が急務である一方、専門性をもって事業に貢献する人財の確保もまた重要であると考えており、社内の多様な価値観・キャリア志向尊重の観点から、外部にも通用する専門性の高い人財を育成・処遇しています。若手社員については、複数の事業・職種を経験することで、視座を高め、仕事の幅を広げ、変化対応力を高めることを狙いとした「育成ローテーション」を実施しています。将来海外で活躍するグローバル人財候補を育成する「グローバル人財育成制度」も2016年より展開しています。

 従業員エンゲージメントは2021年度から測定しており、抽出された課題に対して個別にアクションプランを策定し実行することで組織風土の改善を促しています。また、ミッションの社内浸透を図るとともに、全社員が新しい“食”について考え、意見交換を行うことでエンゲージメントの向上につなげる取り組み「GOOD FOODS Talk」を2023年度より全職場で実施しています。今後は国内グループ会社にも展開し、各社において自発的貢献意欲の向上と組織風土や職場状況を改善する施策を実施していきます。

 少子高齢化による労働人口の減少に伴う人手不足の深刻化への対応としては、多様な働き方の実現、労働環境・労働条件の改善などにより、選ばれる企業を目指しています。人財のリテンションと同時に、自動化や業務改善による省人化・省力化で生産性向上を図ることで、変化に対応できる人財ポートフォリオを構築していきます。

 

※詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)テーマ別課題 人的資本への対応」をご参照ください。

 

 

 

 (戦略2)気候変動への対応に関するリスク

<概要>近年、世界中で気候変動が深刻化し、その影響はますます顕著になっています。温暖化による異常気象や自然災害は、当社グループの原材料調達、生産、物流、販売など様々な事業活動に深刻な影響を及ぼす可能性があります。また、気候変動に対応する新たな規制や市場動向の変化によって、当社のビジネスモデルが脅かされる可能性もあります。

主なリスク

・激甚化する台風、豪雨、洪水等による事業停止に伴うビジネス機会の喪失、コスト増加

・異常気象や海洋環境の変化による天然魚、養殖魚の漁獲量の減少、調達コスト増加

・水資源の減少、枯渇による事業停止に伴うビジネス機会の喪失、コスト増加

・カーボンプライシングの導入による対応コスト増加

・省エネ・GHG排出等の規制強化による対応コスト増加

主な機会

・GHG排出量削減によるカーボンプライシング影響の軽減

・省エネ、高効率設備の導入による生産性向上・コスト削減

・サステナブル、低カーボン製品への需要の高まりに伴う水産物の販売機会拡大

関連するマテリアリティ

脱炭素・循環型社会への貢献

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、CO2排出量を2030年までに30%削減すること(2018年度対比・総量)をサステナビリティ目標として設定し、削減に取り組んでいます。生産拠点においては、省エネルギー推進や高効率機器への入替、燃料転換(電化、水素等)、魚油・廃油の燃料活用に加え、太陽光発電設備の導入や再生可能エネルギー由来電力への切り替えを積極的に進め、CO2排出量の削減に取り組みます。

 気候変動に伴う漁獲量の減少や調達コストの増加に対しては、産地の分散化や調達ネットワークの構築、代替原料の開発などを進め、サプライチェーンのレジリエンスを高めます。

 風水害の激甚化や渇水による事業停止リスクへの対応としては、BCPの見直しやハザードマップ等を活用した詳細なリスク評価を進め、拠点の移転や分散の検討も進めます。

 

※詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)テーマ別課題 自然資本の持続可能性向上に向けた対応 ①気候変動への対応(TCFD提言への取組)」をご参照ください。

 

 (戦略3)生物多様性への対応に関するリスク

<概要>水産資源の減少により漁獲制限などの規制が強化され、当社グループの漁業や原材料調達に影響を及ぼす可能性があります。また水産業界全体に及んで水産物の流通量が減少した場合、水産物価格の上昇によって消費者の水産物離れを招くなど、水産物市場の縮小も考えられます。また、近年、日常生活に欠かせない飲食料品の容器包装や事業活動に使用されるプラスチックの海洋環境への影響が社会課題に取り上げられており、プラスチックごみによる海洋汚染は、生態系破壊や生物減少に繋がり、食品や水産事業での原料調達や食の安全性に影響を及ぼす可能性があります。

主なリスク

・水産資源の枯渇化

・海洋環境の変化(従来の漁場や海面養殖場の不適地化等)に伴う漁獲量減少、調達コスト増加

・漁業における漁獲制限や養殖における環境規制の強化

・魚病による養殖魚の斃死

・対応後れによるステークホルダーからの評判低下

主な機会

・水産物の持続的調達によるサプライチェーンの安定化

・消費者の購買行動変化(持続可能性に配慮した製品の需要増加)による売上の拡大

・サステナブルな養殖技術開発による事業のレジリエンス強化と競争優位性の確立

・対応策の推進によるステークホルダーからの評判の向上

関連するマテリアリティ

海洋の生物多様性の主流化

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、2023年度よりTNFDのLEAPアプローチ(注1)を活用して自然への依存と影響を把握し、事業活動による負の影響の回避・軽減に努めています。

 水産資源の持続的な利用については、持続可能な調達比率100%を2030年に向けたサステナビリティ目標として設定し、3年毎に「取り扱い水産物の資源状態調査」を実施しています。調査結果を分析し、調達の見直しや認証品の取り扱い比率向上などの対応策を講じることで、持続可能な水産物の利用に繋げています。

 また、養殖においては、養殖漁場の沖合化や自動給餌制御システムの活用などにより、海洋環境への負荷軽減を図っています。また、天然資源に依存しない完全養殖の魚種拡大や、陸上養殖による海洋環境への負荷低減にも取り組んでいます。

 海洋のサステナビリティ課題の解決に向けては一社のみでは解決できない課題も多く、SeaBOS(注2)などの業界イニシアティブを通じて、国内外のステークホルダーと連携した対応も行っています。

 

(注1)LEAPアプローチ : TNFDが開発した、自然関連のリスクと機会を評価するためのガイダンス。

            分析プロセスであるLocate、Evaluate、Assess、Prepareの頭文字をとったもの。

(注2)SeaBOS : Seafood Business for Ocean Stewardship、持続的な水産ビジネスを目指すイニシアティブ。

 

※詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)テーマ別課題 自然資本の持続可能性向上に向けた対応 ②生物多様性への対応(TNFD提言への取り組み)をご参照ください。

 

 (戦略4)サプライチェーンの環境・人権に関するリスク

<概要>企業活動のグローバル化の進展に伴い、サプライチェーンにおける企業活動が環境・人権に及ぼす負の影響が顕在化し、国際機関や国家による基準作りや法整備が進んでいます。

 当社グループとしても、事業活動に関連して、人間が生まれながら当然に持つべき自由や権利を侵してしまう可能性がある、そのリスクをしっかり把握し、対処していく必要があります。サプライチェーン上で環境配慮や人権尊重に欠ける問題が生じた場合、調達が困難となるだけでなく、訴訟や行政罰、企業イメージの低下や不買運動に繋がる可能性もあります。

主なリスク

・環境、人権デューデリジェンスの義務化に伴う対応コストの増加

・サプライチェーンの見直しに伴う調達コストの上昇や調達の不安定化

・環境問題や人権侵害等を直接引き起こした、または間接的に関与した場合の評判低下

・環境問題や人権侵害等を直接引き起こした、または間接的に関与した場合の訴訟や行政罰リスク

主な機会

・対応策の推進による安定的な調達、生産、供給の実現と競争力の向上

・対応策の推進による販売機会の拡大(新規取引や他社からのシェア移行)

・対応策の推進によるステークホルダーからの評判の向上

・対応策の推進によるグローバルなブランド価値の向上

関連するマテリアリティ

持続可能なサプライチェーンの構築

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、サプライチェーンにおける潜在的な人権リスクを把握し、そのリスクに対処することで、ライツホルダー(企業が尊重すべき人権の主体)への負の影響を最小化することを重視しています。また、サプライチェーンのすべての段階における環境・人権リスクの低減には、サプライヤーとより強く協働する必要があり、「サプライヤーガイドライン」を通じて、特に強制労働や児童労働の禁止、IUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)により漁獲された水産物および原材料を取り扱わないことを強く求めています。ニッスイ個別の一次サプライヤーに対しては、ガイドラインの配布と説明、 同意確認書の署名回収を進め、SAQ(自己評価アンケート)や対話によりガイドライン遵守状況を確認しています。今後は優先して確認すべき原材料や産地の特定を行い、より詳細な確認を進めていきます。

 当社グループ内においては、年に一度の「外国人労働者の労働環境調査」を通じて、各事業所における外国人労働者の人権への負の影響の発生防止、軽減に努めています。救済の仕組みとして、当社グループ内の内部通報制度とは別に、外部のプラットフォームを活用して当社グループ内の外国人労働者を対象とした相談窓口を設置しています。また、サプライヤーなどその他のステークホルダーについても、同様に外部のプラットフォームを活用した相談窓口を設置しています。

 

 (戦略5)海外事業展開に関するリスク

<概要>当社グループ主要戦略のひとつとして、海外展開の加速を目指し、水産・食品事業における北米・欧州での更なる拡大とアジアでの事業基盤構築、ファインケミカル事業における医薬品原料の海外展開を掲げていますが、事業展開する国において、経済環境および法規制の変更等の各国固有のリスクが顕在化した場合、事業の基本的戦略や収支に影響を与える可能性があります。

主なリスク

・税制・漁獲枠・賃金・規制など各国の政治的判断による方向性の変換

・海外子会社におけるガバナンス不全や社内管理の不備等による不祥事の発生

・為替の急激な変動による海外子会社業績への影響

・その他の地域的特殊性及びこれらの諸要因の急激な変化の影響

主な機会

・販路拡大、市場開拓

・資源アクセス強化に伴うサプライチェーンの強靭化

・対応策の推進によるグローバルなブランド価値の向上

関連するマテリアリティ

グローバル展開の加速

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、2030年に海外所在地売上高比率50%を目指しており、グループガバナンスの取り組みをより一層強化しています。具体的には、当社グループの強みの一つに「グローバルリンクス」があり、資源アクセスから生産・販売に至る各機能を担う国内外の企業ネットワークで、各社が独自の強みを生かしつつシナジーを発揮していることが特色ですが、食文化や価値観は世界各地で異なります。意思決定の迅速性の観点などから、現地マネジメントに裁量を委ねるべきところは委ね、一方で、リスクコントロールや資本効率などの観点では、グローバルガバナンスを強化し、グリップを効かせることが重要と考えています。

 ガバナンスの実効性を高めるためには、ルールづくりや管理・監査などのシステムを強化することはもちろんですが、それ以上に、「新しい“食”の創造」というミッションを共有し、志を同じくすることが重要であると考えています。そのため、ミッション・長期ビジョンの浸透に継続的に取り組んでいます。2023年度、グローバルリンクスのシンボルマークを刷新しました。新しいシンボルマークのもとでミッションを共有することで、グループの一体感を改めて刺激し求心力を高めています。

 

 (戦略6)地政学的問題に関するリスク

<概要>近年、地政学的な要因が事業に影響を及ぼす可能性を考慮する必要性が高まっていると認識されています。例えば、台湾を巡る緊張の高まり、米国と中国の覇権争い、米中対立構造における日本の対応などの要因により、当社グループが事業を展開するエリアにおいて、台湾有事、輸出入制限、差別的な措置、商品不買運動、技術の分断、データに関する規制等の具体的なリスクが想定され、これらが顕在化した場合には、当社グループの中長期経営方針の実行や業績に多大な影響を及ぼす可能性があります。

主なリスク

サプライチェーンにおける政治的・軍事的・社会的な情勢変化等による製品供給・サービス提供の遅延や中断・停止に伴うビジネス機会の喪失

主な機会

対応策の推進によるレジリエンス強化に伴うサプライチェーンの強靭化

関連するマテリアリティ

持続可能なサプライチェーンの構築

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、地政学的リスクに関する動向の情報収集と分析をもとに、リスクシナリオの策定及びリスクの把握を行い、その影響を低減するための適切な対策の検討を進めてまいります。既に、事業展開国・地域におけるカントリーリスクの調査、情報収集、評価をもとに、資源アクセス強化による調達先の分散の検討、複数拠点からの製品供給体制の構築を図っております。引き続き、情勢を注視しながら、事業活動に及ぼす影響の最小化に向けたサプライチェーンの強靭化に努めてまいります。

 

 ≪経営基盤リスク≫

 (基盤1)製品の安全安心・品質に関するリスク

<概要>安全性や品質管理に対する消費者の関心が一層高まっているなか、国内外を問わず、安全、安心な商品を提供していくことが強く求められており、食を取り扱う当社グループでは、より一層の安全性、品質管理が求められていると認識しています。製品の品質事故や、表示偽装などの品質不正といったお客様の安全安心を脅かす事象が発生すると、当社グループ全体への信用が損なわれ、ブランド価値が大きく棄損し、事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。

主なリスク

・製造物責任、リコール、自主回収による経済損失

・品質事故・トラブルによる顧客信頼の低下(ブランド価値毀損)

・新規事業、拡大事業(健康訴求商品等)における品質リスクの拡大

・グループ会社(国内外)のニッスイブランド以外の商品の品質保証水準の管理不十分

関連するマテリアリティ

持続可能なサプライチェーンの構築

 

 

 <主な対応策>

 当社グループでは、品質保証憲章において、全ての役職員が同じ方向を向いて行動するよう、品質保証の理念をもとに品質方針・行動指針を制定し、その下に品質保証に関する各基準を定めています。

 製商品の品質の安全性を確保する基準として、関連法規より厳格な当社独自の様々な「ニッスイ品質保証基準」を設けております。同基準には、HACCP(注1)の考え方を基本としたニッスイ工場認定基準を核に、使用水基準、薬剤管理基準、防虫管理基準、樹脂部品基準、原材料基準、包材基準、アレルギー物質のコンタミ防止基準、フードディフェンス基準などがあります。

 ニッスイブランド商品はニッスイ工場認定基準により認定した工場のみで生産しており、認定後も品質保証部による定期的な監査を実施、工場指導を行っております。また工場間の情報共有や課題解決を目的とし、工場経営者会議、工場品質管理担当者会議などを定期的に開催しております。

 また、生産工場におけるFSSC22000(注2)認証取得、原材料情報の一元管理体制の構築、グローバルでの検査体制の確立およびエクセレントラボによる検査精度の向上などの取り組みも行っております。引き続き、従業員への品質教育の強化に努め、食品安全文化の醸成を図ってまいります。

 

(注1)HACCP : Hazard Analysis and Critical Control Pointの略。食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去または低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保する衛生管理の手法。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス) 委員会が発表し,各国にその採用を推奨しております。日本では2020年の食品衛生法の改正に伴いHACCPによる衛生管理が義務化されています。

(注2)FSSC22000 : Food Safety System Certificationの略。FSSC22000財団(Foundation FSSC22000)により開発された食品安全のためのマネジメントシステム規格。食品小売業界が中心の非営利団体、国際食品安全イニシアティブ(GFSI:Global Food Safety Initiative)により、食品安全の認証スキームの一つとして承認された規格です。

 

 (基盤2)情報セキュリティに関するリスク

<概要>今後、生産・物流・販売でのシステム連携による効率化が進むにつれ、システム停止による事業活動への影響は増加すると考えられます。システム停止はハードウェア障害、ソフトウェアのバグや脆弱性、人為的ミスなど、様々な要因によって引き起こされますが、昨今では外部サイバー攻撃に代表される情報セキュリティリスクが最も懸念される要因となっています。また、情報セキュリティインシデントが生じた場合、システム停止による直接的な影響にとどまらず、信頼性が低下する他、損害賠償等の多額の費用負担発生など当社グループに重大な影響を及ぼす可能性があります。

主なリスク

・外部脅威(標的型攻撃、ハッキング、なりすまし、DDos攻撃、フィッシング等)

・内部過失(紛失/盗難、私物PCや外部記憶媒体利用、不正アクセス、システム障害等)

・内部悪意 (不正操作、情報持ち出し等)

 

 

<主な対応策>

 グループ経営を進める中、当社グループ内でデータ漏洩、システム破壊が発生すると、グループ全体の事業に大きく影響を与える可能性があります。

 そこで、当社国内グループでは、個人情報や経営、事業、研究などに関する重要な情報の漏洩・紛失を防止するため、「情報セキュリティ基本方針」などの規程やルールの徹底、システムの管理体制の強化、教育や訓練を含めた人的対策の領域において、各到達点を具体的に策定し、ニッスイグループIT部門会議を定期的に開催するなどの取り組みにより均質化を進めてまいりました。

 また、2024年度からは海外グループを含む全グループに対し、サイバー攻撃を受けるリスクの高い社外公開サーバの脆弱性を検知するサービスを導入し、リスクを検知した場合、グループ会社に通知し是正措置を促す体制づくりを進めています。

 引き続き、グループ会社の情報セキュリティ対策が有効に機能しているかを定期的に確認し、情報セキュリティ確保への継続的な改善・向上に努めてまいります。

 

 (基盤3)コンプライアンスに関するリスク

<概要>当社グループは、日本および事業を行う海外における多岐にわたる法規制の適用を受けており、当社グループによる法令違反や社会規範に反した行動等により、法令による処罰・訴訟の提起・社会的制裁を受け、規制遵守対応のためのコストが大きく増加する可能性があります。また、お客様をはじめとしたステークホルダーの信頼を失うことにより、レピュテーションやブランド価値が大きく毀損し、当社グループの事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。 

主なリスク

・役職員不祥事の発生、法令違反等による業務への悪影響、営業停止等

・刑事罰、損害賠償請求等の法的責任による経済損失、社会的制裁、株価下落等

・対応不足、対応後れ等によるレピュテーション低下

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、企業としての責任を果たすため、倫理憲章を制定し、国内外の法令および社内諸規程の遵守といった、コンプライアンスの徹底に取り組んでいます。

 これら当社グループのコンプライアンス向上施策の策定・実施を行うため倫理部会を設置しています。また、法令等に違反している疑いのある行為について、当社グループの役職員が通報できる内部通報制度を設けており(社内外に窓口を設置)、倫理部会は内部通報制度の適正な運営も担っています。

 内部通報制度の運営やコンプライアンスアンケートの実施等により、法令等に違反する疑いのある行為やコンプライアンス課題を早期発見し、関係する役員・部門と協働して、個別事象の是正はもちろん、必要な場合に再発防止策も含めて検討のうえ実施しています。また、コンプライアンス向上施策として、2020年度より、当社グループの子会社と個別にコンプライアンスワークショップを実施しコンプライアンスに関するありたい姿を共有、各社のコンプライアンス課題・施策について協議を行うことにより、当社グループ全体のコンプライアンス向上を推進しております。

 

 (基盤4)大規模自然災害・事故に関するリスク

<概要>大規模な地震、津波、台風、洪水等の自然災害に関連するリスクは年々高まっており、国内外問わず、世界各地で大規模災害が現実のものとなっており、今後も中長期的に継続するとともに規模の拡大が懸念されています。このような大規模な自然災害の発生により、従業員の被害、工場損壊、設備故障及びユーティリティー(電気、ガス、水)遮断による製造停止、物流機能停止により原材料資材の調達及び製品出荷が不能となり、更に事務所施設の損壊、交通機関マヒによる従業員の通勤不能等も併せて、当社グループの事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。

主なリスク

自然災害(地震・噴火・津波・風災・水災等)、火災・爆発事故等による製品供給・サービス提供の遅延や中断、停止に伴うビジネス機会の喪失

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、大規模災害に直面した場合でも人命を第一とした上で、従業員・お客様・ステークホルダーにとって必要な支援・サービス等を継続するため、「災害BCP基本方針」の下に「災害BCP部会」で事業継続計画を推進しております。

 近年、首都直下型や南海トラフなどの大型地震に関して高い確率で発生が予測されています。そこで、大規模災害の発生時に、災害対策本部が各拠点やグループ各社から迅速に情報を収集し、的確な判断・対応を取ることが出来るよう、安否確認や拠点被害報告等の情報収集システムの整備に取り組むと同時に、災害対策本部訓練も定期的に実施し、初動対応力強化を図っております。従業員に対しては、防災意識の向上と災害時の初動確認を目的とし、各システムの操作確認訓練や防災教育eラーニングを実施しております。

 また、地球温暖化による気候変動は、台風・洪水などの自然災害の頻度を増加させ、激甚化させる傾向にあります。その対応として、自然災害リスク(地震・風水災等)の影響度定量評価の実施やオールハザード型BCP(注1)への見直しに向けた検討なども進めてまいります。

 

(注1) オールハザード型BCP : リスク(原因事象)を問わず、必要な経営資源が何らかの理由で被害を受けた場合の(結果事象)の影響に基づき、対応策を考える事業継続計画

 

 

 

 (基盤5)労働安全衛生に関するリスク

<概要>企業価値向上に最も重要な要素は「人財」と考えていることから、労働環境の維持・向上が経営戦略に重要な影響を及ぼし、多様性を尊重して働きやすい職場環境の維持、向上に努める必要があると認識していますが、各施策が計画通りに進捗せず、労働災害や健康被害、ハラスメント等が発生した場合には、業務パフォーマンスの悪化や労災補償、ブランド価値の毀損が発生し、当社グループの事業継続に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

主なリスク

・高齢化に伴う労働災害の増加(技能不足の若年層の労災含む)

・違法残業、過労死、ハラスメント事案等の発生

・労働環境、職場環境の悪化による生産性・メンタル面への悪影響

 

 

<主な対応策>

 当社グループでは、年度毎に重点課題と活動計画を策定、労務安全衛生部会にて定期的な進捗報告を行い、取り組み内容を横展開することにより、管理体制の強化につなげています。

 2024年度の主な取り組み内容は以下の通りです。

 

<労働安全>

 安全の基本行動、リスクアセスメントとPDCA、共通ルールの整備を重点課題とし、以下を中心に取り組んでまいります。

1.新人教育、安全意識の再強化

(各事業所年間計画の重点項目に「新人の安全意識向上」を盛り込み、また指導を行うリーダーに対し必要な教育の再定義、対象明確化と受講推進を実施)

2.重篤災害対策への注力

(休業災害の削減に向けて重篤率の高い転落・転倒・激突等災害の対策を推進、転倒リスクチェックや指さし呼称、リスクアセスメントの実践者養成を強化)

3.各事業の安全レベル向上

(グループ共通の安全ルール制定に向けた情報収集)

 

<ハラスメント・労働時間>

 法令等遵守に向けたHowを考える機会創出と情報のグループ内展開を重点課題とし、以下を中心に取り組んでまいります。

1.研修実施とグループ会社展開

(ハラスメントやメンタルヘルスについて、学ぶべき原理原則に加えて、NG行動の理解だけではなく「どうするべきか」の視点から内容を検討)

2.グループ人事労務会議含む各社連携強化

(労務問題全般について、個別に現地訪問も実施しながらヒアリング、指導、情報交換を実施)

 

配当政策

 

3 【配当政策】

当社グループの利益配分については、長期的・総合的視野に立った企業体質の強化ならびに将来成長が見込まれる分野の事業展開に備えた内部留保にも意を用いつつ、経営環境の変化に対応して当社および当社グループの連結業績に応じた株主還元を行うことを基本方針としています。

当社の剰余金の配当は、中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としており、配当の決定機関は、中間配当、期末配当とも取締役会で行うことができる旨定款で定めています。

当事業年度については、期末配当金は1株につき14.0円としました。中間配当金1株当たり10.0円とあわせて、年間配当金は1株につき24.0円となります。
 (注) 基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は、以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額(百万円)

1株当たり配当額(円)

2023年11月6日

取締役会決議

3,115

10.00

2024年5月22日

取締役会決議

4,362

14.00