2024年1月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

◆リスク管理体制について

当社グループの事業活動における重要なリスクを的確に把握するとともに、万一リスクが顕在化した際にはグループ事業への影響の低減に向けて適正に対応する体制を構築しています。

「戦略リスク」や「財務・市場リスク」については、経営方針や経営戦略、重要な業務執行を審議する取締役会や経営会議等の会議体で検討しています。また、「事業運営リスク」や「ハザードリスク」に関しては、取締役会の諮問機関として、「リスク管理委員会」(委員長:代表取締役副社長執行役員)を設置して、リスク管理状況のモニタリングを進めています。

リスク管理委員会は取締役会決議で選任された委員を中心に構成されており、原則月1回開催されています。委員会で選定した重要リスク項目については、本社専門部署や会議体など主管組織におけるリスク管理状況のモニタリング内容を踏まえ、リスク管理体制の整備状況の集約・検証及び必要な助言を行い、その内容を年2回、取締役会へ報告しています。委員会には内部監査部門からも委員として参加しており、定期監査の実施内容との連携も図っています。

また、「品質管理」及び「情報セキュリティ」の重要性を鑑み、傘下に「品質管理委員会」及び「情報セキュリティ委員会」を設置し、より専門的視点におけるリスク認識及び対応策について部署横断的に審議しており、両委員会における運営方針や審議内容については、年3回、リスク管理委員会に報告されています。

なお、ESG経営に係るリスク管理の詳細については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しています。

 

リスク管理体制図


 

◆リスク管理のプロセスについて

当社グループ会社の各主管部門で識別された「戦略リスク」や「財務・市場リスク」については、取締役会、経営会議等において、中期経営計画をはじめとする事業戦略全体に関する議題及び個別案件に関する議題の中で協議され、リスク評価及びその対策について検討するとともに、重要な影響を及ぼす事象が発生していないかをモニタリングしています。

リスク管理委員会では、主に「事業運営リスク」や「ハザードリスク」について、当社グループの国内事業所・国内子会社・海外子会社を対象として昨年度に実施したモニタリング内容及び本社各部署からのヒアリング内容をもとに、リスク課題を抽出しています。その中から発生可能性及び全社的影響度を、リスク管理委員会で評価し、その評価に基づいて重要リスク項目を選定しています。各重要リスク項目を主管する部署又は会議体は、期初にリスク管理に関する計画を策定し、その進捗についてリスク管理委員会へ報告し、委員会で出た意見を踏まえ改善を進めるという、リスク管理におけるPDCAサイクルを推進しています。


 

グループ会社に関して、グループ各社の経営全般を管理する「経営管理主管部署」と専門領域について横断的に管理する「専門機能部署」を当社内で明確化して、マトリックスでのリスク管理を推進しています。グループ全体のリスク情報の把握に向けて、国内外のグループ各社における総務責任者による牽制機能の強化及び本社専門機能部署との情報共有の活性化に向けて、「ガバナンスネットワーク」の構築に努めています。主要な事業グループ会社に関しては、一定以上の重要な業務執行について、当社の稟議決裁または取締役会決議を経ることとしています。また主要グループ会社のリスク認識を把握するため、当社と同様にリスクマップにより重要リスクの評価を行い、その内容についてはリスク管理委員会で共有・審議することとしています。

 

全社レベルで影響を及ぼすおそれのある事案が発生した際には、「クライシス対応マニュアル」に則って本社主管部署よりリスク管理委員会へ報告されます。報告を受けたリスク管理委員会は、本マニュアルに規定された基準に基づいてクライシスレベルの判定を行い、クライシスレベルにおいて一定レベル以上の重大な内容が認められる場合には、リスク管理委員会委員長の判断のもと、専門チーム「クライシス対策本部」を立ち上げて、事態の拡大防止と早期収束に向けて具体的対応を検討する体制を整えています。また、定期的にクライシス対応トレーニングを実施し、本マニュアルが機能するかどうかの検証・改善を行っています。

 

◆個別のリスク

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を与える可能性のある事項については、以下のようなものが挙げられます。

なお、これらについては、提出日現在において判断したものです。

 

<戦略リスク、財務・市場リスク>

1.住宅市場環境の変化に関するリスク

[リスクシナリオ]

当社グループは、国内及び海外において住宅を中心とした事業活動を行っているため、個人消費動向、金利動向、地価動向、資材価格の動向、住宅関連政策や税制の動向、それらに起因する賃料相場の変動、さらには地方経済動向等に影響を受けやすい傾向があり、今後これらの事業環境の変化により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

[対策]

市場環境の変化に対応した諸施策を機動的に実施するため、事業本部長・営業本部長を中心とした会議体において、市場動向を踏まえた施策の進捗状況や現場で発見された課題を共有し、次の施策の立案に活かしています。重要な施策については、経営会議の場で十分な審議を経て進めることとしています。

また海外進出国における市場環境についても、海外各拠点と本社が継続的に情報連携を重ね、専門部署において市場分析のうえ、戦略立案を行っています。

 

2.企業買収・事業再編に関するリスク

[リスクシナリオ]

当社グループは、国内外の事業戦略に基づき、企業や事業の買収、組織再編等による事業規模の拡大を進めています。しかしながら、その統合に向けた手続き及び実行後において期待通りの成果が得られない場合、または想定外の事業環境の変化等により、想定した収益が達成できない場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

[対策]

企業や事業の買収、組織再編等の検討の際は、各専門機能部署が買収前に外部の専門家とともにデューディリジェンスや株式価値評価を行うことで、買収先の企業価値、事業計画の実現可能性等を適正に評価し、経営会議、取締役会等の審議を経て買収の是非の判断を行う体制としております。買収実施後は、各専門機能部署が適切なPMIを推進することで円滑な統合を促し、シナジーの最大化を進めています。さらにPMI として一定の目的を達した後は、経営管理主管部署主導でシナジーを追求し、グループ全体での持続的な企業価値向上を実現できるよう取り組んでいます。

 

3.保有する資産に関するリスク

[リスクシナリオ]

当社グループが国内及び海外において保有している販売用不動産、固定資産、投資有価証券及びその他の資産について、時価の下落等による減損損失又は評価損の計上や、為替相場の変動によって、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

[対策]

当社グループでは、一定金額以上の投資案件の場合、積水ハウス本社における稟議審査ならびに経営会議での十分な議論を踏まえ、各案件に対する投資の可否を慎重に検討しています。不動産については、優良土地の取得及び資産回転率の向上による安定経営を図り、政策保有株式については、資本・資産効率向上の観点から必要最小限の保有を基本とし、保有の妥当性について、毎年、取締役会において検証するとともに、定量的な目標を設けて段階的に縮減を図っています。為替相場の変動に対しては、為替予約等必要に応じヘッジ手続きを実行することにより、その影響を低減しています。なお、保有する資産については、減損損失及び評価損のリスクを定期的に把握し、必要に応じ適宜会計処理を実施しています。

 

4. 資金調達コストに関するリスク

[リスクシナリオ]

当社グループは、金融機関からの借入、社債の発行等によって資金調達を行っています。市場金利の急激な変動や金融市場の混乱、格付機関による信用格付けの大幅な引下げ等が生じた場合には、資金調達コストが増加する可能性があり、その結果、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

[対策]

財務規律を重視し、適切な水準の格付けを維持することで資金調達コストを低減するとともに、資金調達手段の多様化及び年限の適切な分散を進めることで金利変動リスクの軽減に努めています。

 

5.退職給付債務に関するリスク

[リスクシナリオ]

当社グループの従業員に対する退職給付債務及び退職給付費用は、割引率や年金資産の期待運用収益率等の数理計算上設定した前提条件に基づいて算出しています。この前提条件が変更となった場合、または実際の結果が前提条件と大きく異なった場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

[対策]

当社グループでは、退職給付債務については定期的に実績に基づいて見積りの検証と見直しを行っています。年金資産の運用については、外部コンサルタントの助言をもとに、リスク・リターン特性の異なる複数の資産クラス・運用スタイルへの分散投資を行っており、年金資産全体のリスク・リターンの分析を定期的に実施する事で分散効果の有効性について評価を実施しています。また、企業年金基金においてスチュワードシップ・コードの受け入れを表明し、運用機関に対するモニタリングを強化するとともに、企業年金基金の諮問機関である資産運用委員会では、市場環境や運用状況等について定期的に協議を行っています。

 

<事業運営リスク、ハザードリスク>

1.法令規制に関するリスク

[リスクシナリオ]

当社グループは、国内では宅地建物取引業法、建設業法、建築士法等の主要法令に基づく許認可を受けるとともに、建築、労働、環境その他事業の遂行に関連する各種の法令及び条例に則り事業活動を行っています。また海外においてもそれぞれの国における法令規制を受けています。これら法令規制において違反が生じた場合に、改善に向けて多額の費用が発生すること、又は業務停止等の行政処分を受けることなどで当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

[対策]

国内請負事業においては、設計における建築基準法上のチェックミス・手続き漏れを防ぐための法規制チェックシステムを導入し、型式認定不適合の発生を抑えるために、事業所及び本社でのダブルチェック体制を構築しています。又、建設業法上の専任の配置技術者の適正運用に向けて、配置状況のチェックを専門機能部署で行うとともに有資格者の人財確保・能力向上に継続して取り組んでいます。その他、国内外の各種法令の動向について、各専門部署にて情報収集・分析を行い、必要に応じてグループ内の関係先へ情報発信の上、適切な対応に努めています。

 

2.品質管理に関するリスク

[リスクシナリオ]

当社グループは、設計・生産・施工上の品質において万全を期すとともに、主要な戸建住宅及び共同住宅においては、長期保証制度及び定期的な点検サービスを実施していますが、長期にわたるサポート期間の中で、予期せぬ人的ミス等により重大な品質問題が生じた場合には、多額の費用発生や当社グループの評価を大きく毀損することになり、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

[対策]

リスク管理委員会傘下の「品質管理委員会」により、製品・設計・生産・施工・CSの5つの検討会をまとめる組織として、品質に関する一元的な管理を進めています。特に施工品質不具合の発生を抑えるために、期初に策定する「全社施工品質管理年間計画」に基づく「品質管理重点項目」に対する改善に取り組んでいます。また同委員会では、製品の安全性に関する検証、生産現場の検査、品質に関わる法令遵守、CS 対応の充実についても議論されており、その内容については定期的にリスク管理委員会へ報告されています。

 

3.情報セキュリティに関するリスク

[リスクシナリオ]

コンピューターウィルスの侵入や高度なサイバー攻撃等により、個人情報・機密情報の漏洩や改竄、システム停止等が生じることで、お客様等からの損害賠償請求を受ける可能性やお客様及び市場等からの信頼を失い、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

[対策]

リスク管理委員会傘下の「情報セキュリティ委員会」において、情報セキュリティに関するグループ内の基本方針「情報セキュリティポリシー」や秘密情報管理規則に基づき、情報セキュリティ及び情報管理に関する施策を検討・実施しています。併せて、コンピューターウィルス等サイバー攻撃や秘密情報の漏洩・改竄を防止するために、社内外からのアクセス制御システムを強化するとともに、標的型メール訓練や研修、情報セキュリティ監査などを通じてITリテラシーの向上を図っています。また、ITデザイン部セキュリティシステム推進室にセキュリティインシデントに対応する専門チーム(CSIRT)を設置しています。インシデント対応力を上げるため、各部門参加による、セキュリティインシデント発生を想定した訓練を実施し、万一の事態に備えています。さらに、定期的に外部機関によるセキュリティアセスメントを実施して、更なるセキュリティガバナンス体制の強化に取り組んでいます。

お客様情報の管理については、「お客様情報保護方針」に基づき、各組織において個人情報取扱責任者を定めて、安全対策の実施、周知徹底を図る体制を整えるとともに、全従業員を対象に個人情報の取扱いに関するEラーニングを継続的に推進し、個人情報保護に関する従業員一人ひとりの役割・責任の認識を高めています。

各事業所、各グループ会社におけるセキュリティ意識を高めるため、情報セキュリティ委員会の下に、グループ全社事業所で構成する「情報セキュリティ推進部会」を設置し、幹部から従業員一人ひとりへのセキュリティ意識啓発や対策の徹底を図っています。

 

4.施工中の災害に関するリスク

[リスクシナリオ]

施工現場では作業環境や作業手順・作業方法の誤りが災害につながる恐れがあり、死亡災害など重篤な災害が発生すると、工事の中断及び工期の延長に加えて、損害賠償負担や社会からの信用失墜を招く可能性もあります。

[対策]

労働災害の抑制を目指し、各組織において施工安全衛生委員会を開催し、災害予防に向けた定期点検や安全パトロール及び災害発生事案に対する検証・再発防止策の推進等を行っています。特に施工現場では、期初に設定する「全社施工安全衛生年間計画」に基づき、安心安全な施工環境の整備に努めているとともに、発生頻度及び重篤性の高い災害の削減に向けて、本社施工本部の指揮のもと作業環境の整備や作業方法の遵守・確認体制の強化など対策に取り組んでいます。

 

5.労務管理に関するリスク

[リスクシナリオ]

従業員の長時間労働は、36協定違反など各種労働法への抵触、精神疾患を含めた健康障害による長期休業につながる恐れがあり、場合によっては労働問題に発展するリスクがあります。

[対策]

総労働時間の削減に向けて、部門毎に1人当たりの月平均総労働時間の目標を設定し、各事業所において働き方の改善に取り組んでいます。加えて、自律的に働くことのできる職場環境を目指して、年次有給休暇も計画的に取得する取組みをグループ全体で推進しています。本社、工場、事業所の組織ごとに勤務状況の確認を月次で行うとともに、必要に応じて本社人事総務部によるモニタリング、労務管理研修を実施して適正な労務管理を促しています。

 

6.資材供給停止に関するリスク

[リスクシナリオ]

大規模自然災害や社会不安(戦争、テロ、感染症、地政学的リスク等)により、資材調達先が被害を受け、資材の供給が困難になった場合、または受注量の増大により資材調達が間に合わない場合、施工がストップして契約工期に影響が出る可能性があります。

[対策]

当社グループでは、一つの資材調達先が被災等で調達が困難になった場合等を想定し、3つの側面から備えを進めています。

・供給面の備えとして、部材ラインナップ複数化、複数社調達、複数生産拠点化、国内供給拠点の強化を進めています。

・仕様面の備えとして、部材の汎用化等、調達の容易な材料や仕様への変更に取り組んでいます。

・情報面の備えとして、サプライヤー拠点のデータベース化により、迅速な対応を行う体制を構築しています。

さらに具体的な対策を強化するために、資材調達に関するリスクと影響度を分析し図示することで、従業員の意識向上を図るとともに、ターゲットを明確にした活動の推進を図っています。また、サプライヤーに対しても自社サプライチェーンの強化を求めることで、備えの輪を広げ、サプライチェーン全体の強靭化に努めています。

 

7.大規模自然災害等に関するリスク

[リスクシナリオ]

大規模自然災害やパンデミックの発生時など緊急事態への対応計画が不明確なことにより初動対応が遅れた場合、各拠点における事業継続が困難になり、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

[対策]

 当社グループでは、「積水ハウスグループ事業継続計画管理基本方針」を定め、事業継続に影響を及ぼすような緊急事態が発生した場合にも、重要な事業を中断させず、また中断せざるを得ない場合でも可及的速やかに復旧させる手順と体制を整備しています。

大規模自然災害等の発生に対しては、「積水ハウスグループ災害対策基本方針」を定め、各組織の「災害マニュアル」を策定し、災害時の各事業拠点における情報収集及び事業継続に向けた準備を進めています。また、大規模自然災害等により本社での業務継続が困難となった場合に備え、本社災害対策本部の設置等を規定した初動対応マニュアルの整備を行っており、本社被災時には、東京拠点(東京都港区赤坂)と総合住宅研究所(京都府木津川市)を代替拠点として、本社における重要業務を継続できる体制を整えています。

海外事業を展開する上において、海外子会社の従業員や出張者が自然災害やテロ・暴動等に巻き込まれるリスクに備えて、対応マニュアルを各国別に整備し、迅速な情報共有体制の構築を図るとともに、海外専門の危機対応支援会社と提携して緊急事態発生時の現地従業員へのサポート体制も整えています。

 

※ サステナビリティに関わる、「人権に関するリスク」、「気候変動に関するリスク」及び「人財確保に関するリスク」については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しています。

配当政策

3 【配当政策】

中期的な平均配当性向を40%以上とする方針に加え、第6次中期経営計画(2023~2025年度)における1株当たり年間配当金の下限を110円(2022年度実績)と定め、株主還元の更なる安定性向上を図るとともに、機動的な自己株式取得の実施により株主価値向上に努めます。

また、当社定款に会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨を定め、毎事業年度における配当の回数については中間配当と期末配当の年2回を基本的な方針としており、中間配当については取締役会が、期末配当については株主総会が決定機関です。

なお、当事業年度に係る剰余金の配当については、利益の状況及び中期的な平均配当性向を40%以上とする方針に基づき、以下のとおりであり、配当性向(連結)は39.8%となります。

決議年月日

配当金の総額(百万円)

1株当たり配当額(円)

2023年9月7日

取締役会決議

38,451

59

2024年4月25日

定時株主総会決議

41,479

64