2025年1月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

当社グループの経営成績及び財政状態などに重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。なお、以下に記載している将来に関する事項は、当連結会計年度において当社グループが判断したものであり、事業等のリスクはこれらに限られるものではありません。

 

当社グループでは、企業理念に基づく経営戦略達成において発生する様々な阻害要因をリスクと位置付け、「内部統制システムの整備に関する基本方針」に基づき、当社グループにおけるリスク管理体制に関する基本的事項を定め、リスク管理の効率的かつ確実な運用を図っています。常設委員会として、代表取締役社長を委員長とする「グループリスク管理委員会」を年2回開催するほか、必要に応じて都度開催することとしています。「グループリスク管理委員会」は、リスク管理の方針や重要リスクの評価及び対策の承認、統制状況の効果検証・是正指導等の役割を担っています。

グループリスク管理委員会においては、リスク項目を「グループ横断のリスク」と「事業特有のリスク」に分類して整理し、評価を行っています。さらに、2023年度より採用した新たなリスクマネジメントの手法として、TCFDのシナリオ分析の枠組みを活用した、人口動態の変化に伴う中長期的なリスクに対する評価並びに対応策の進捗確認を実施しました。

 

(1)グループリスク管理委員会で特に議論された重要リスク

当連結会計年度のグループリスク管理委員会においては、影響度・発生可能性の高い重要リスクを抽出し、足元の業績に影響を与えるリスクが高まっている「原材料・資材の調達」及び「生産・物流体制」について議論を行いました。また、独自で実施した人口動態の変化に伴う中長期リスク分析の結果により、グループとして「人財の確保・育成」に関するリスクについて、中長期的に対策を検討していくべきとの認識が示されました。

 

(2)経営成績等に与える影響の内容及び当該リスクへの対応策等

当連結会計年度のグループリスク管理委員会が評価した重要リスクと対応策等は、次の通りです。

 

①グループ横断のリスク

ⅰ.人財の育成・確保

当社グループは、国内の少子高齢化に伴う人口減少や労働市場の流動化などにより、新たな人財の確保等が進まず、当社グループの安定的な事業継続等に重要な影響を及ぼす可能性があると認識しています。その上で、当社グループの2030年のありたい姿である「グループミッション2030」を実現するためには、多様な価値観や能力を有する人財からなる組織の構築と、人財一人ひとりの主体的な成長と活躍が不可欠と考えています。

当社グループは、これらのリスクの低減を図るため、国内飲料事業において、少ない人数でもオペレーションができる「スマート・オペレーション」の確立に加え、人工知能(AI)の活用により自販機オペレーションの効率化並びに生産性の向上に取り組んでいます。また、事業戦略と連動した人的資本経営を体系的に特定し、人財一人ひとりの主体的なキャリア形成を支援する仕組み「DyDoキャリア・クリエイト」を導入しました。個人のキャリア形成に主眼を置いた人事制度・育成プログラム・評価制度等を導入し、これらの運用を通じて、当社グループが求める資質を備えた人財一人ひとりの成長とエンゲージメントの向上を図り、能力の多様性に富む強い組織の構築に取り組んでいます。

 

ⅱ.原材料・資材の調達

当社グループの商品には、多種多様な原料・資材が使用されていますが、中でも国内飲料事業の主要原料であるコーヒー豆は国際市況商品であり、その価格は、商品相場だけでなく為替レートの変動の影響を受けます。価格変動の影響を受けることについては、他の原材料・資材についても同様であり、直近のエネルギーコスト上昇も相俟って、原材料・資材の調達コストの高騰は、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、これらのリスクの低減を図るため、国内飲料事業及び食品事業において、2022年10月より段階的に商品の価格改定を実施したほか、海外飲料事業(トルコ事業)においては、強いインフレ下にあるトルコにおいて戦略的な価格改定を継続的に実施する等、適正な限界利益率の確保による収益構造の改善に取り組んでいます。また、各事業において定期的に原料、資材及び調達先の見直し並びに複数調達先の検討等を進め、安定的な原料・資材の調達に向けて取り組んでいます。

 

 

ⅲ.生産・物流体制

近年、生産・物流を取り巻く経営環境は大きく変化しており、人手不足やコンプライアンスの厳格化を背景とした物流コストの大幅な上昇や、物流キャパシティーの逼迫による供給リスクが高まっています。

社会情勢の変化を背景とした物流コストの上昇リスクは、当面続くことが想定されることから、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、これらのリスクの低減を図るため、澁澤倉庫株式会社との合弁によるダイドー・シブサワ・グループロジスティクス株式会社を2018年6月に設立し、物流業界との連携強化による安定的な物流網の確保や配送拠点の見直しのほか、医薬品関連事業や食品事業においては、外部委託倉庫の拡大による配送効率の向上に向けた取り組みを推進しています。

 

ⅳ.海外情勢

ロシア・ウクライナ情勢やパレスチナ・イスラエル情勢に起因した資材価格・原油価格の高騰、為替相場の急激な変動等、近年、地政学リスクをはじめとする海外情勢の変化が、日本国内での事業活動にも影響を及ぼす可能性が高まっています。また、海外における事業展開には、各国の法令・制度、政治・経済・社会情勢、文化・宗教・商習慣の違いや為替レートの変動をはじめとした様々なリスクが存在します。

当社グループは、これらのリスクの低減を図るため、持株会社の海外事業統括部が海外子会社を管理・統括する体制とし、既存のトルコ・中国飲料事業の基盤を活かしながら、安定した収益基盤をもつポーランド飲料事業を新たに加え、海外飲料事業戦略の再構築を進めています。

 

ⅴ.環境問題への対応(気候変動問題)

気候変動をはじめとする環境問題への企業の取り組み姿勢に対するステークホルダーからの評価や市場の価値観の変化は、消費者の商品・サービスの選択に大きく影響するものとなっており、気候変動抑制のため、世界的規模でのエネルギー使用の合理化や地球温暖化対策等の法令等の規制も強まっています。

また、気候変動に起因する水資源の枯渇、コーヒーをはじめとする原材料への影響、大規模な自然災害による製造設備の被害等のサプライチェーンに関わる物理的リスクが顕在化した場合、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、これらのリスクの低減を図るため、TCFDのフレームワークに基づいた実態の把握と対応策の検討を継続的に実施しています。気候変動リスクは中長期的に顕在化する可能性を有することから「グループリスク管理委員会」と「グループサステナビリティ委員会」の両委員会を連動させながらマネジメントを行っています。

 

②事業特有のリスク

ⅰ.トルコ国内のハイパーインフレに関連するリスク

海外飲料事業の中で大きなウエイトを占めるトルコ飲料事業は、2022年度以降の急激なインフレの進行を背景に、戦略的な価格改定と機動的な販売促進活動などを実施したことで、販売単価の改善を図りながら販売ボリュームを伸ばし、着実に業績を改善させており、中長期的にも成長が期待されています。一方、トルコにおける3年間の累積インフレ率が100%を超えたことを示したため、当社グループは、トルコリラを機能通貨とするトルコの子会社について、超インフレ経済下で営業活動を行っていると判断しました。このため、当社グループは、トルコの子会社の財務諸表について、IAS第29号「超インフレ経済下における財務報告」に定められる要件およびトルコ現地会計基準に従い、会計上の調整を加えています。今後、トルコにおけるインフレがさらに深刻化した場合、会計上の調整が多額にのぼり、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

また、商標権を含む固定資産の修正再表示額は、通常の固定資産と同様に減損の要否を検討し、その修正再表示額が回収可能価額を超過する場合は回収可能価額まで減損する必要がある等、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、これらのリスクに対応するため、持株会社の財務部による、収益管理、キャッシュ・コンバージョンサイクルに関する管理体制を強化・拡充するとともに、トルコ現地子会社においては、継続的な価格改定の実施による適正な限界利益率の確保や、トルコからの輸出取引の拡大等によるリスクの低減に努めています。

 

 

ⅱ.既存の自販機ビジネスへの集中・依存

当社グループのコアビジネスである国内飲料事業の自販機チャネルは、従来、価格安定性・販売安定性が比較的高く、収益性の高い缶コーヒーを主力商材として、安定的なキャッシュ・フローを確保することが可能でしたが、近年、自販機オペレーションを担う人手不足の問題等による自販機市場全体の総台数の減少傾向や原材料・資材の高騰による収益性の低下が課題となっています。当社グループの既存の自販機ビジネスが、これらの環境変化に対応できなかった場合、当社グループの経営成績等に重要な影響を及ぼす能性があります。

当社グループは、「自販機ビジネスの進化による社会的価値の創造」をマテリアリティに掲げ、市場の変化に柔軟に対応できる持続可能な自販機ビジネスモデルの確立をめざしています。

当社グループは、今後の労働力不足の時代に対応すべく、最新のテクノロジーを活用したスマート・オペレーションのさらなる進化に取り組むとともに、カーボンニュートラルに対応した“お客様と共にサステナブルな未来を創る”自販機「LOVE the EARTHベンダー」の展開を進めています。今後とも、自販機の設置先との協働も含め、DyDoの店舗である自販機を通じて、お客様の求める価値をお届けすることにより、自販機市場における確固たる優位性を確立していきます。

 

ⅲ.希少疾病用医薬品事業への参入

当社グループは、成長性の高いライフサイエンス分野をはじめとするヘルスケア関連市場を次なる成長領域と定め、その中でも希少疾病と呼ばれる国内患者数が5万人未満の難病に着目し、2019年1月に、ダイドーファーマ株式会社を設立しました。2024年9月には、ダイドーファーマ株式会社の新薬第1号となる、ランバート・イートン筋無力症候群治療剤「ファダプス®錠10mg」の製造販売承認を取得し、2025年1月に販売を開始するなど、着実に歩みを進めていますが、希少疾病用医薬品の開発には不確実性を伴うことから、開発の延長や中止を行う可能性、想定通りの内容で薬事承認が下りない、または薬事承認に想定以上の時間を要する可能性、想定した薬価を下回る可能性等があります。また、事業基盤が安定するまでの先行投資期間においては、継続的に営業損失を計上し、キャッシュ・フローはマイナスが続くことから、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、これらのリスクの低減を図るため、医薬品業界における豊富な知識と経験を有する独立社外取締役を選任し、個々の開発プロジェクトに基づくダイドーファーマ株式会社の事業計画に対するモニタリングを強化し、また医薬品業界の経験を長く積んだ、事業開発、新薬開発、薬事、メディカルアフェアーズ、そして承認取得後の体制を含めたエキスパート人材を整え、外部の有識者、機関、企業等の協力や支援を仰ぎながら、事業運営を推進していきます。

 

上記以外にも事業活動を進めていく上において、大規模災害、法的規制、情報セキュリティの様々なリスクが当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、こうしたリスクを回避、またはその影響を最小限に抑えるため、リスクの影響度・発生可能性を分析した「リスクマップ」を作成し、環境の変化に応じた重要リスクを決定・対策を講じることにより、リスクマネジメントを推進しています。

 

 

(3)人口動態の変化による中長期的リスク

人口減少・少子高齢化が続く国内市場を中心に、人口動態の変化がビジネスに与える影響は、今後ますます高まっていくと当社グループでは考えています。2023年度より、シナリオ分析のフレームワークを応用し、サプライチェーン全体の中で注視すべき中長期的なリスクに対する評価並びに対応策の進捗確認を実施しました。

 

リスク項目

事業インパクト

↑:非常に大きな影響

 ↗:やや大きな影響

→:軽微な影響

現時点で実施している対応策

分類

サプライ

チェーン

考察

中期(2026年)

長期

(2030年)

生産年齢

人口の減少

営業・
販売

■国内飲料事業
オペレーション人財の不足により自販機稼働台数が減少するリスク

・スマート・オペレーションの推進

製造・
調達

■医薬品関連事業

適切なスキル・知識を持った専門人財の確保ができないリスク

・キャリア採用の強化

■食品事業

製造部門における人財確保が進まないことによる需要に応じた製造ができないリスク

・省人化に向けた設備の導入・更新

・多様な人財の確保

物流

■医薬品関連事業

スケジュール通りに商品を配送できないリスク

・新たな輸送・保管方法の検討

採用

■食品事業

未来の事業を支える新卒採用者の確保ができないリスク

・新卒採用者向けの新たな施策の実施

・グループ連携での人財育成の計画

 

人口減少の影響は、一部の分野で売上・利益への影響を及ぼすものの、事業の縮小に繋がる可能性は限定的で事業戦略による対応が充分可能だと考えています。しかしながら人財の確保においては、中長期的に重要な影響を及ぼす可能性があることを認識しています。

当社グループでは、これらのリスクに対応するために、人財育成や生産性の向上に向けた人財投資を強化しています。今後も継続的なリスクのモニタリングを実施するとともに、リスク低減に向けた対応策の検討を中長期的な視点で実施していきます。

 

配当政策

3【配当政策】

当社は、株主の皆様への利益還元を経営上の重要な課題のひとつと認識しております。利益配分につきましては、持続的成長に必要となる内部留保と株主還元のバランスを考慮し、安定的な配当を継続することを基本方針としております。

内部留保資金につきましては、持続的な利益成長・資本効率向上につながる戦略的事業投資に優先的に充当していくことが株主共同の利益に資すると考えております。

当社は、中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としており、これらの剰余金の配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会であります。

当社は、「取締役会の決議により、毎年7月20日を基準日として中間配当をすることができる。」旨を定款に定めております。

当事業年度の配当金につきましては、上記方針に基づき1株につき25円(うち、創業50周年記念配当10円)の期末配当を実施し、中間配当金(1株につき15円)と合わせて年間配当金は、1株につき40円といたしました。この結果、当事業年度の連結での配当性向は33.2%となりました。

なお、当事業年度の剰余金の配当は以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2024年8月27日

477

15

取締役会決議

2025年4月15日

796

25

定時株主総会決議

(注)1.2024年8月27日取締役会決議による配当金の総額には、役員向け株式給付信託が保有する当社株式に対する配当金2百万円、信託型従業員持株インセンティブ・プラン(E-Ship®)の従持信託が保有する当社株式に対する配当金1百万円が含まれております。

2.2025年4月15日定時株主総会決議による配当金の総額には、役員向け株式給付信託が保有する当社株式に対する配当金4百万円、信託型従業員持株インセンティブ・プラン(E-Ship®)の従持信託が保有する当社株式に対する配当金2百万円が含まれております。