2024年2月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの事業に関連するリスク要因で、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある主なリスクには次のようなものが考えられます。以下は、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ない又は重要と見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。当社グループではこのような経営及び事業リスクの発生可能性を認識した上で、これを最小化するとともに、これらを機会として活かすための様々な対応及び仕組み作りを行っております。なお、記載事項のうち、将来に関するものは、本有価証券報告書提出日現在(2024年5月24日)、入手可能な情報に基づき当社が判断したものです。

 

1. 事業環境に関するリスク

① 国内市場の縮小

現在、当社グループは事業の9割以上を国内で展開しており、少子高齢化と将来の人口減少により国内アパレル市場が縮小すると、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、海外展開により東アジア、北米市場を開拓するとともに、国内ではライフスタイルブランドや大人世代向けブランドの開発、BtoB事業など新たな分野の開拓などを通じて、事業及び展開国の多様化と顧客の基盤の拡大、顧客のライフタイムバリューの向上を進め、成長の継続を図ってまいります。

 

② 展開国の地理的・政治的リスク

当社グループでは、海外での事業展開を重要な成長戦略の一つと位置付けておりますが、海外事業において現地の顧客ニーズに即した商品提案ができない、事業運営に長けた人材が獲得できない等の理由で、当初見込んだとおりの事業展開、事業収益が得られない可能性があります。あるいは事業展開国において、予期しない法規制の変更や政治的又は経済的要因の混乱、テロ・紛争・自然災害等による社会的混乱が生じた場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループ取扱商品の大半は、中国等のアジア各国で生産されたものであり、生産国の政治情勢・経済環境・自然災害等により、商品仕入、販売に支障が出る可能性があります。

当社グループでは、生産地の分散化を進めるとともに、新たに東南アジア地域の市場開拓を進め事業展開地域を広げることで、リスクを低減しながら、東アジアのファッション市場の高い成長力を取り込んでまいります。また、現地法人の機能を強化し人材の現地化を進めるなど、事業運営のノウハウ蓄積と人材獲得に努めてまいります。

 

為替変動・原価高騰

当社グループ取扱商品の大半は、中国等のアジア各国で生産されたものであり、為替相場の変動(主に円安)により、商品原価が上昇する可能性があります。また、綿花を始めとする衣料品原料の価格高騰や、世界的なエネルギー価格上昇に伴う商品輸入の際の輸送コストの高騰、生産国における人件費の上昇によっても商品原価が増加し、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、為替予約を適切に活用するとともに、データ分析に基づいた商品や原料の早期発注、ASEAN諸国への生産の分散化、複数ブランドの素材共通化や一括発注によるボリュームディスカウント、工場との直接取引による仲介業者のマージン削減などの取り組みにより、商品の品質を維持しながら原価の低減に努めてまいります。

 

 

④ 環境問題

当社グループの主力事業であるアパレル産業は、過剰生産や環境汚染などの環境負荷が世界的に問題とされています。気候変動や自然資本等に関する規制強化や、それらの影響による消費者の行動変容が生じることで十分な対応をすることができない場合、当社グループの事業に影響を及ぼす可能性があります。また、中長期的な観点では、地球温暖化の影響による衣類のニーズ減少や、気候変動による原材料価格の高騰、化石燃料調達に対して炭素税が施行された場合の経費増加なども、当社グループの事業に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループではTCFDガイドラインに則り、温暖化による購買動機の変化や、現在の事業に関わる温室効果ガス排出量への炭素税課税などの財務影響を分析し、一部の開示を行っています。また当分析を受けて、再生可能エネルギー由来電源の調達など環境価値を考慮した店舗や物流センターの運営により、リスク軽減に努めています。

一方で、消費者の意識が変容し、商品・サービスの選択の際に環境や社会に配慮した商品がより選好されるエシカル消費が広がりつつあります。中長期的にお客様のニーズをとらえ、新たな付加価値のある商品を提供することができれば、当社グループの業績拡大の機会となる可能性があります。

当社グループでは環境関連の指標を含むサステナビリティ目標を策定しており、環境に配慮した原材料の調達や加工への切り替えといった生産工程での環境負荷低減、在庫適正化によるファッションロスの削減などバリューチェーン全体のサステナビリティ向上に取り組んでいます。また、環境だけでなく人権や地域社会等に配慮されたCSR調達を推進し、工場モニタリングを通じてパートナーシップ認定工場の拡大を図ります。さらに、業界内の他社との連携や、サステナブルなファッションを提案するブランド開発等を通じて、市場全体の行動変容や環境意識向上に努めてまいります。

 

⑤ 自然災害や事故

当社グループは、国内全域に店舗を展開しており、大規模な地震や津波、台風、火山の噴火等の自然災害や、それに起因する大規模停電及び電力不足や浸水などによって大きな被害を受ける可能性があります。また、これらの影響により、生産や物流、店舗やECでの営業活動が長期間にわたって滞り、当社グループの財政状態、経営成績、物的及び人的資本に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、首都圏直下型地震などの大規模な地震をはじめとする災害や感染症発生等を想定し、事業継続及び早期復旧のためのBCP(事業継続計画)を策定し、リスクの低減に努めております。また、TCFDガイドラインに基づき、国内における過去に大雨被害にあった地域での店舗運営への影響を分析し、洪水による店舗休業が発生した場合の財務影響などを試算し開示するとともに、今後は事業上の判断にも活用してまいります。

 

パンデミック

世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延により、当社の事業は大きな影響を受けました。今後も新型コロナウイルス感染症の蔓延が繰り返し起こる場合、あるいは将来新たな感染症によるパンデミックが発生した場合、当社ブランドの出店する商業施設の休業及び客数の減少、生産や物流の停滞によって、当社の業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、リモートワークの浸透など感染症の拡大によって顧客のライフスタイルや志向が大きく変化し、当社の提供する商品やサービスが顧客の需要を捉えられなくなるリスクがあります。

一方で、ECの拡大や在宅時間の伸長による生活雑貨類の需要の高まり、ビジネスシーンにおける服装のカジュアル化など、当社に追い風となりうる社会の変化もあり、新たに生まれた需要を取り込み顧客の生活の質向上に寄与することができれば、当社の業績拡大の機会となる可能性もあります。

当社グループでは、消費者の志向に合う商品を迅速に市場に提供する体制を整えるとともに、自社ECの機能のさらなる充実や、WEBと店舗を融合した楽しい買い物体験を顧客に提供することで、リスクの低減を図ってまいります。

 

 

2. 事業運営に関するリスク

① 店舗運営に関するリスク

当社グループの店舗は、全国主要都市のファッションビル及びショッピングセンター内へのインショップ出店を中心に展開しております。この運営にあたり、以下のようなリスクがあります。

ⅰ. 当社グループの店舗の大半は賃借物件であり、出店に際して敷金及び保証金の差入を行っております。当連結会計年度末における敷金及び保証金は、137億19百万円であり、総資産の約1割を占めております。デベロッパー等の倒産その他の事由が発生した場合、敷金及び保証金の全部又は一部が回収できなくなる可能性があります。

ⅱ. 当社グループは、店舗を中心に多額の固定資産を保有し、これらについて減損会計を適用しております。店舗等の収益性の悪化や、保有資産の市場価格が著しく下落し、減損処理がさらに必要になった場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

ⅲ. その他、出店先ファッションビル等を取り巻く商業環境の変化等により、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、各地域に密着した支店制度により地域ごとの状況を慎重に調査し、継続的な出退店を通じて常に最適な店舗網の維持に努めております。また当社グループのスケールメリットやブランド力を活かしてより有利な立地構成を実現し、これらのリスクの低減に努めてまいります。

 

② アパレルビジネスに関するリスク

当社グループの主要ブランドが属するカジュアル衣料小売市場は、流行・嗜好が短期的に大きく変化する傾向が強く、また国内外の競合企業との厳しい競争状態にあり、商品企画等の失敗により顧客の選好にマッチした商品開発ができなかった場合、またブランド価値が陳腐化した場合には、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、店舗や自社ECサイト、SNSを通じて顧客の選好に関する情報を収集して、素早く商品展開に反映させることで、顧客のニーズに合った商品の提供に努めております。また、ECサイトでの予約販売推進により、需要予測の精度向上にも取り組んでおります。常に顧客にとって新鮮味のあるブランドや商品を提供するため、新ブランド開発のスピードと精度を向上によりブランド陳腐化のリスクを低減するとともに、自社ECサイトへ他社の出店を促進することで、商品カテゴリーの拡大も進めています。

 

③ サプライチェーンに関するリスク

当社グループは商品の原材料を外部から調達し、自社で企画・監督しながら外部委託にて生産を行っております。生産遅延、調達先の倒産、又は商品を輸送する経路の寸断等により商品供給が滞った場合、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社の委託先企業において、従業員の人権侵害や環境汚染などの問題が発生した場合、委託元企業として当社のレピュテーションが棄損され、ブランドや業績に影響を及ぼす可能性があります。さらに、当社は海外で生産した商品の輸入、店舗やお客様への配送を外部企業に委託しており、エネルギー価格の変動や労働力不足などを背景に物流コストが上昇した場合、また物流2024年問題により十分な物流キャパシティを確保できなくなった場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、生産地をメインの中国大陸に加えASEAN諸国へ分散させ、生産地の集中化におけるリスクの軽減を図っております。また、商品供給経路寸断に備え、適切な付保と共に、輸送工程における情報管理、複数の輸送手段の確保や代替ルートの選定、物流拠点の複数地域への分散などの対策を実施しております。加えて、グループ調達方針を定め、社会や環境に配慮した責任ある調達活動を推進しており、すべての取引先にグループ調達ガイドラインの遵守を要請している他、主要な取引先については、取引先の協力を得ながら定期的なモニタリングを実施し、リスクの低減を図っております。物流コストの上昇については、EC販売における店舗受取の活用や配送ルートの効率化や、自社物流施設の機械化投資により、コスト上昇リスクの低減に取り組んでおります。また外部配送企業との提携や、輸送生産性の向上・物流効率化を目指す「ホワイト物流」推進運動に準拠した取り組みなどにより、必要な物流キャパシティの確保に努めております。

 

 

④ 情報システムや個人情報に関するリスク

当社グループでは、デジタル時代に対応したビジネス構造への進化を成長戦略の一つとし、情報システムの活用を推進しております。また当社グループの自社ECサイト「ドットエスティ」は1,700万人を超える会員を有しており、当社グループは多くの顧客情報を保有しております。デジタルを活用した事業の比率が高まる中、情報システムの不具合やサイバー攻撃等により重大な障害が発生し当社グループのシステムが正常に利用できない場合、あるいは不正アクセス等により個人情報が外部へ流出した場合、システムの停止に伴う売上損失や顧客からの信用の失墜などにより、当社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、第三者機関によるセキュリティリスク診断を実施の上、それを踏まえて最新のセキュリティ対策ソフトの導入や情報管理規程の整備など、必要な対策の計画を策定・実行し、リスクの低減に努めております。

 

⑤ 人材に関するリスク

創業家出身で長年に渡り経営を率いてきた代表取締役会長の福田三千男氏をはじめ、当社グループの事業運営及び取引関係の構築に貢献してきた経営陣は当社事業において重要な役割を果たしており、当該経営陣の突然の離脱があった場合、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また当社グループは国内外で1,500を超える店舗を運営しており、店舗運営や商品開発において多くの人材が必要です。近年の国内における労働人口の減少や世界的な賃金上昇などに対応できず、質・量の両面において十分な人材を確保できない場合、店舗運営の制限や労務関連コストの上昇や、従業員のパフォーマンス低下、休職や離職の増加により、当社の事業に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、取締役会全体として適切なバランスが確保されるよう、専門知識や経験等のバックグラウンドが異なる多様な取締役で取締役会を構成するとともに、執行役員制を導入し経営と執行の分離を図っております。加えて、取締役には業績連動型株式報酬、執行役員等には株式交付型インセンティブプランを導入し、有能な経営人材の確保に努めるとともに、経営幹部向けの研修を実施する等、後継人材の育成を図っております。事業運営人材の確保にあたっては、初任給の引き上げや従業員の賃金改善を実施しています。また、サステナビリティの重要テーマの一つとして「人を輝かせる」を掲げ、従業員がライフスタイルに合わせた多様なキャリアや働き方を選択できるよう、人事制度を整備しております。2021年からは自社健康保険組合を運営し、一人ひとりに合わせた保険事業・福利厚生サービスを行うとともに、従業員を中心に構成された健康推進委員会「Adastria Wellness Committee(アダストリア・ウェルネス・コミッティ)」を通じて、従業員のウェルビーイング実現に向けた取り組みを促進しております。

 

 

3. 経営戦略に関するリスク

① 大型投資や企業買収の成否

当社グループでは、長期的成長の実現に向け、海外での事業展開、新規ブランド・顧客の獲得、関連技術の獲得等を目的として、外部企業への出資や企業買収を行っております。また、デジタル化や物流機能強化など、事業の成長に必要な設備投資・システム投資を実施しております。これらの投資において、出資・買収した企業が期待された収益やシナジーを生み出せない場合、また設備やシステムが想定した機能を果たさない場合、投資の回収に想定以上の期間を要する可能性や、投資の回収を図れない可能性があります。

当社グループでは、財務の健全性が維持される範囲での投資を原則とするとともに、投資判断における検討プロセスを定めて取締役会で社外取締役を含めた討議を行い、また大型のシステム投資に当たっては第三者PMOの設置をルール化し、リスクの低減に努めております。

 

② 新規事業の不確実性

当社グループでは、成長戦略の一つとして既存の事業領域にとどまらない新規事業の開発に取り組んでおります。当社グループが新規に開始した事業に対する顧客のニーズが想定を下回った場合、新たな事業への参入や運営に要する費用が想定よりも増加する場合、当該事業における競争が激化した場合等に、当初見込んだとおりの事業展開、事業収益が得られない可能性があります。また、これらの事業について撤退や事業の縮小を行うことにより、費用又は損失が発生する可能性があります。他にも、成長戦略の重点領域であるデジタルの顧客接点の拡大にあたっては、デジタル分野に精通したIT人材の確保が必要ですが、近年IT人材は業界を超えた採用競争が激しく、十分な人材を確保できない場合には当社の成長戦略遂行に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、M&Aやライセンスの活用など、他社との協業により段階的に新領域におけるノウハウを蓄積するとともに、新規事業においてもアパレル領域で培ったライフスタイル提案力を活用することで、相乗効果の創出に努めてまいります。IT人材の確保においては、デジタル戦略を統括するDX本部を取締役直下に設置し、社外の専門人材の獲得と定着を図るとともに、国内及び海外のビジネスパートナーとの提携強化により、十分な人材の確保を図っております。

 

③ ESG対応の成否

当社グループでは、中期経営計画においてサステナビリティと収益性の融合を目標に掲げていますが、ESGに関する社会課題や事業リスクを特定し、リスクマネジメントの仕組みの中で適切に管理・対応できない場合、資本市場における企業価値を棄損し、またレピュテーションリスクにより事業の持続可能性が損なわれる可能性があります。

当社グループでは、取締役会において非財務領域での戦略推進をより一層強化することを目的に、サステナビリティ委員会を設置してサステナビリティ方針や中長期の目標策定、マテリアリティに関する進捗管理を行っており、取締役会又は執行会議へ定期的に報告・提言を行うことで、グループにおけるESG戦略と施策の推進を担保しています。

 

配当政策

 

3 【配当政策】

当社は株主の皆様への還元につきまして、配当は連結配当性向30%を基準に実施することを基本方針とし、1株当たり配当金額の安定性にも配慮しつつ、都度決定することとしております。

剰余金の配当につきましては、中間配当及び期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としております。これらの剰余金の配当の決定機関は取締役会です。

当事業年度の期末配当金につきましては、1株当たり50円といたしました。この結果、中間配当金の1株当たり35円と合わせ、年間配当は前年実績を25円上回る1株当たり85円となります。なお、2025年2月期の年間配当金額は1株あたり90円を予定しています。なお、2026年2月期を最終年度とする中期経営計画期間においては、下限額として1株あたり年間配当金65円を設定しており、中期経営計画に沿って売上・利益成長を実現することで、これを上回る配当の実現を目指します。

内部留保資金につきましては、お客様、株主の皆様、お取引先や従業員の満足の総合的な最大化を目指し、魅力あるブランドの開発、デジタル化推進、グローバル事業の拡大等に必要な投資を行い、長期的な企業価値(株主価値)の向上並びに経営基盤の強化を図ります。これらの投資と利益配分を実施した上で、さらに長期にわたり留保された余剰資金については、機動的に株主の皆様に還元してまいります。また、自己株式の取得につきましては、株価の動向や財務状況等を考慮しながら適切且つ機動的に対応していく方針です。

当社は、「会社法第459条第1項の規定に基づき、取締役会の決議をもって剰余金等の配当を行うことが出来る。」旨を定款に定めております。

 

当事業年度の配当につきましては、上記方針に基づいて以下のとおりとなっております。

決議年月日

配当金の総額
(百万円)

1株当たり配当額
(円)

2023年9月29日

取締役会決議

1,597

35

2024年4月4日

取締役会決議

2,282

50