リスク
3 【事業等のリスク】
当社グループは、広範にわたる事業により安定的な事業運営を実現していますが、個々の事業では事業の性格により異なる市場リスク・投資リスクをはじめ様々なリスクを内在しています。これらのリスクは予測不可能な不確実性を含んでおり、当社グループの財政状態や業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。これらのリスクの回避及び発生した場合の対応に必要なリスク管理体制及び管理手法を整備し、リスクの監視及び管理等の対策を講じますが、これらすべてのリスクを完全に回避するものではありません。しかしながら、以下のような取り組みを通じて当社グループはリスク低減とリスク感度の向上に努めています。
将来の事項に関する記述につきましては、有価証券報告書提出日現在において入手可能な情報に基づき、当社グループが合理的であると判断したものです。
(1) リスクマネジメントの強化
当社グループが「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントにおける多様な事業でグローバル展開を加速する一方で、米中デカップリング、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢等の国際関係の緊張の高まりなどにより、当社グループを取り巻く事業環境は激しく変化しています。新たなリスクや複雑化するリスクが当社グループに及ぼす影響は従来以上に大きくなっており、グループ全体のリスクを可視化して対応策を強化することが必要であり、具体的な対策を推進しています。
(2) リスクマネジメント体制と関係者の役割
取締役会の監督のもと、リスクマネジメント全体についての責任者である社長を、リスク・コンプライアンス担当役員が補佐します。同役員は、社長の指示のもとリスクマネジメント全体を把握して、個別のリスク対策について各部門長(スタッフ部門担当役員・事業部門長等)に指示・支援を行います。また、リスク・コンプライアンス担当役員のもとにリスクマネジメントチームを設置し、同チームは社内各部門の活動モニタリング、具体的なリスク対策支援、スタッフ部門と事業部門の組織間連携強化を推進します。そして、社長が委員長となるリスク・コンプライアンス委員会で、リスクマネジメントに関する経営レベルの決定事項や指示事項を各部門長に周知徹底しています。
(3) リスクマネジメントのPDCAサイクルの強化
各組織における自律的なリスク管理を基本とし、その中でもリスクの対応状況について取締役会が定期的に監督する特に重要なリスクを「グループ重大リスク」、各事業部門における年度経営計画のアサインメントの達成を阻害する可能性があるリスクで当該年度に重点的に取り組むものを「事業重要リスク」と定め、PDCA管理を強化しています。
リスクマネジメントのPDCAサイクル(グループ重大リスクと事業重要リスク)
(4) 当社グループ全体に係るリスク
グループ重大リスクとして設定したリスクについて
① 国内外の生産拠点における事故発生リスク(環境事故、保安事故、労災)
国内外に広く生産拠点を展開している当社グループにとって、事故発生による事業への影響は大きく、事業継続に支障をきたす可能性があります。当社グループでは、安全な操業を継続することは、社会からの信頼、従業員や地域社会の安全、環境配慮等における価値を守るための最重要事項と認識しています。そのため重篤な労災や保安事故の防止に向け、発生した事故の教訓を生かし、不安全行動による重篤災害撲滅を目指したLSA(ライフセービングアクション)活動の推進や、工場等の機械のリスクアセスメント実施における専門技術者の育成及び工場設備等の点検強化、各生産拠点におけるプロセス安全技術の維持を目的とした保安防災伝承活動の展開、防消火技術の向上等を進めています。また、現場の監査における専門家等第三者の視点の導入、人材育成を含む安全文化の醸成強化に努めています。今後はこれらの活動の全社レベルでの更なる活動定着を進めていきます。
② 国内外の品質不正リスク
製品の設計・検査の不備、不適切な顧客対応や報告が行われた場合や、法規制・規格等の遵守不備があった場合、リコールや当社ブランドに対する社会的信頼の喪失や製品の生産・流通の停止等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。当社グループでは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントにわたり、様々な製品を提供していますが、それぞれの製品の品質を確保することは、お客様をはじめ、全てのステークホルダーの方々の信頼をいただくために最重要と認識しています。品質不正の発生を防ぐため、各拠点の品質保証活動の健全性を確認する点検や、現場従業員の品質意識向上を目的として品質担当役員が現場を訪問し双方向でコミュニケーションをするタウンホールミーティングや、グループ全員が品質リスクを理解し日々の業務を行うための品質リスク教育を国内海外の各拠点で実施しています。
③ 国内外の環境安全・品質保証に関わる法規制要求事項の未遵守リスク
環境安全・品質保証に関わる法規制等の未遵守の状態が発生した場合、リコールや当社ブランドに対する社会的信頼の喪失や製品の生産・流通の停止等により当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。環境安全・品質保証に関わる法規制等の遵守を徹底するために、関連法規等の内容を定期的に更新するとともに専門家等の第三者による確認も経たうえで社内へ周知し、チェックシート等を活用し現場従業員がその遵守状況を確認できる仕組みを構築しています。また、上記取組の継続とともに、当社グループにおいて様々な製品に使用している化学品の法規制等の管理を徹底するためのシステムの運用も実施しています。
④ 経済安全保障・グローバルサプライチェーンにおけるリスク
当社グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントからなる多様な事業を運営しており、事業ごとに原材料や部品、施工業者、物流経路、倉庫、販売先に至るまで、国内外で多様なサプライチェーンを構成しています。そのため、経済安全保障に関する世界各国の政策動向が事業運営やサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があり、また、世界中で発生する自然災害、保安事故、人権問題、地政学問題、経営破綻等による、取引先との取引回避や取引先の機能不全に起因してサプライチェーンが途絶する可能性があり、主なリスクとして以下のものを認識しています。
・ 経済制裁・輸出管理規制の強化等の経済安全保障リスクや地政学による企業活動に関するリスク
当社グループは、製品の輸出や海外における現地生産等、幅広く海外で事業展開をしており、安定的な国際通商のメリットを享受しています。そのため、何らかの理由により二国間あるいは多国間の通商環境や地政学情勢が変化することにより、海外の会社との取引や出資、その他事業活動に影響を受けるリスクがあります。特に、米中デカップリング、ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中東情勢の不安定化等、近年国際関係の緊張が高まっており、これに伴って日本や諸外国において、経済安全保障の観点から経済制裁、輸出管理規制、外国直接投資規制を強化する動きが続いています。これらの規制に対応することにより、取引先との取引の停滞・中断、資金の移動の遅延・停止、事業遂行の遅延・不能等により、業績に影響を及ぼすなどのリスクがあります。地政学や法規制の動向には常に注意を払っており、経営層や事業部門・スタッフ部門の管理者層への情報共有を通じてグループ全体の感度向上を図るとともに、対応部署の明確化を通じて社内体制強化の検討も進めています。また、適時に規制内容を理解することや関係当局に事前に相談することに加えて、経済制裁については外部の顧客スクリーニングシステム等を利用して慎重な取引審査を行うなどにより、適切な対応に努めています。
・ サプライチェーン上の人権課題に関するリスク
サプライチェーン上の人権課題に適切な対応がとられていない場合は、取引先との取引停止、法令による罰則の適用、当社グループに対する社会的信頼の喪失等により、事業継続に支障をきたす可能性があります。当社グループでは2022年に「旭化成グループ人権方針」を制定し、自らの活動及び事業のバリューチェーン全体におけるステークホルダーの全ての皆さまの人権の尊重を、基本的な考え方に据えています。人権尊重について議論・方向付けし、また、「旭化成グループ人権方針」に沿った行動を推進するための場として2022年度に新設した人権専門委員会については、2023年度に第2回委員会を開催し、世の中の人権動向の共有、当社グループにおける人権尊重取り組み事項の整理などを行いました。従来、取り組んでいる社内報、eラーニング等を活用した人権に関する啓発活動を継続するとともに、サプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンスの実施の具体化を進めていくことを今後の課題として認識しています。
・ 原料・資材の調達リスク
サプライチェーンが各国・地域の法規制の動向や突発事象などにより影響を受ける場合に、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループではサプライヤーの選定におけるリスク評価や監査の実施、サプライヤー及び販売先のモニタリングなどを通じて、リスクを低減させることに加えて、主要製品・事業における原材料の調達ルートの多様化や適正な水準の在庫の確保を通じて、安定操業に向けて取り組んでいます。また、強靭で持続可能なサプライチェーンを維持するための、体系的かつ継続的なサプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)の実施へ向けて、2022年度からグループを横断して、リスクの洗い出し・評価・対策の設定を開始しました。サプライチェーンに関連する各部門(製造、経営企画、営業、技術開発などの各部署)との連携や、実効性のあるリスク対策の実施に取り組んでおり、進捗状況を定期的にモニタリングしてSCRMを推進しています。
⑤ サイバーセキュリティ、通信インフラに関するリスク
昨今のサイバー攻撃の急増・巧妙化が進む一方で、サイバーセキュリティ対策が不十分であった場合は、システム停止により事業継続が困難になる可能性があります。安心・安全・安定したIT基盤の運用は経営の大前提であり、当社グループは情報セキュリティ対策を重大な経営課題と認識し、サイバー攻撃の検知・対応ツールの強化、インシデント発生時の迅速で漏れの無い情報フローの構築を推進するほか、eラーニングやメール訓練等による従業員のセキュリティ意識の向上施策を実施しています。今後は、経営陣とのサイバーセキュリティ対策に関するディスカッションを強化しつつ、グローバル全体でのサイバーセキュリティ対策や従業員のセキュリティ意識向上施策を継続展開していきます。
⑥ 大規模災害やパンデミック、海外有事(テロ、紛争)に関するリスク
近年頻繁に発生している自然災害やテロ・個別紛争等のリスクは年々高まっており、リスク顕在時には従業員安全の確保や事業継続に支障を来す可能性があります。国内外に幅広く拠点を展開している当社グループでは、まずは国内の事業所、製造拠点を想定した、緊急事態発生時の情報伝達フローの明確化等を目的とした関係規程の改定、パンデミックの再発に備えたマニュアル整備等を含めて、各種緊急事態対応マニュアルの再整備を進めています。また、国内の各製造拠点においては自然災害について、拠点ごとのリスク想定、減災計画、緊急時対応計画を策定し、訓練を含めた対応を進めています。今後は、国内における規程・マニュアルの周知及び事務所地区を中心とした自然災害訓練等の実施、海外拠点・工場、国内に独立して存在する工場における減災対応・マニュアル整備を進めていきます。
⑦ M&Aに関するリスク
当社グループは、事業ポートフォリオの進化にあたっては、「成長の為の挑戦的な投資」と「構造転換や既存事業強化からのフリー・キャッシュ・フロー創出」の両輪を回すことが重要と考え、事業投資、新規事業の創出や事業ポートフォリオの転換の手段として、国内外におけるM&Aを通じた事業展開を行っています。ZOLL Medical Corporation(2012年度)、Polypore International Inc.(2015年度、以下、Polypore社という)、Sage Automotive Interiors, Inc.(2018年度)、Veloxis Pharmaceuticals A/S(2019年度)などの大型買収や近年の「住宅」セグメントや「ヘルスケア」セグメントを中心とした買収などにより、のれん及び無形固定資産残高は増加傾向にあります。M&Aの結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価については、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどによって合理的に算定された価額を基礎として算定しており、事業計画等の不確実性を伴う仮定が反映されています。
そのため、事業計画等において初期に期待した投資効果が発現しなかった場合や関係会社の経営が悪化した場合、被買収企業との事業統合が遅延した場合など、のれんや無形固定資産の減損等により当社グループの業績に影響が及ぶ可能性があります。当社グループでは、買収検討の対象企業のデューデリジェンス(詳細調査)を慎重に行い、買収後の事業統合の計画を入念に検証することで、リスクの低減に努めています。しかし、過去の大型買収が海外での新規市場や成長市場に関する案件であり、想定外の事業環境の変化への対応を誤ると、投資額の回収が困難となるリスクを抱えています。業界動向を見通すことが難しい事業については、より一層の精査をすることやリスクをより慎重に見積もることで対処していきます。
⑧ 気候変動に関するリスク
当社グループは、気候変動に関して生じる変化を重要なリスク要因として認識しています。当社グループではTCFD提言に賛同するとともに、TCFD提言の枠組みに基づき、気候変動が事業に及ぼす影響の分析、対応策の検討を行っています。詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ共通 ②気候変動関連」の記載をご参照ください。
上記以外のリスクについて
上記に記載したリスク以外にも、当社グループの事業運営全体にかかわるリスクに対して日々の事業活動の中でリスク低減に努めており、主なリスク項目は以下のとおりです。
① 通商に関するリスク
当社グループは、原材料の購入や製品の輸出、海外における現地生産等、幅広く海外で事業を展開し、国際貿易や資金決済に関する二国間あるいは多国間の協定や枠組みのメリットを享受しています。これらの協定や各種枠組み等の変更や新規規制の導入などにより、関税の増加、通関の遅延・不能、資金決済の遅延・不能が生じ、代金回収や事業遂行の遅延・不能、業績悪化等が発生するリスクを負っています。当社グループでは、適時に規制内容を理解することや、関係当局に事前に相談し、対策を講じることによって、これらのリスクの低減に努めています。
また、グループ会社間の国際的な取引価格については、当社グループ税務方針に基づき、日本国政府及び相手国政府の移転価格税制を遵守していますが、税務当局から取引価格が不適切であるとの指摘を受ける可能性や、協議が不調となった場合に二重課税や追徴課税を受ける可能性があります。そのため、重要性の高いグループ会社間取引については、事前確認制度の活用、あるいは、外部専門家の意見も参考にしながら、各国の移転価格税制を踏まえた独立企業間価格を設定しています。
② 事業競争力に関するリスク
当社グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントにおいて、付加価値の高い製品・サービスを提供していますが、類似の製品や技術による競合企業のキャッチアップ、新たな競合企業の参入等によって競争環境が激化することや、デジタル技術や脱炭素化に貢献する技術等急速な技術革新による産業構造の変化、急激な需要構造・市場構造の変化などにより、当社グループの各事業の競争力を損なう可能性があります。当社グループでは、競合製品の競争力や産業構造の変化をタイムリーかつ的確に見通すことに努めるとともに、製品やサービスの絶え間ない差別化や模倣困難なビジネスモデルの構築、知的財産等による高い参入障壁を設けることにより、これらのリスクの低減に努めています。
③ 市況変動によるリスク
・ 原油・ナフサ価格変動リスク
当社グループは、原油やナフサを原料とした石油化学製品の製造・販売事業を展開しています。また、各原料市況並びに需給バランスから固有の市況を形成しており、その変動は当該事業や誘導品からなる当社グループの各事業に影響を及ぼします。特に、事業規模が大きいアクリロニトリル事業は市況の変動の影響が大きいため、販売価格のフォーミュラの見直し等、収益の安定化に努めています。
・ 為替変動リスク
当社グループは、輸出入及び外国間等の貿易取引において、外貨建ての決済を行うことに伴い、円に対する外国通貨レートの変動による影響を受けます。そのため、取引においては、先物為替予約等によるヘッジ策やCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)の活用による、安定的かつ効率的な資金活用を目指しています。当社グループは、収益の多くが外貨建てであることに加え、当社の報告通貨が円であることから、外国通貨に対して円高が進むと、当社グループの業績にマイナスのインパクトを与えます。当社の試算では、米ドル・円レートが1円変動すると連結営業利益に年間11億円の変動をもたらします。
(5) 各セグメントに係るリスク
「マテリアル」、「住宅」、「ヘルスケア」の各セグメントでは、事業上の課題やリスクへの対策検討を実施する中で事業重要リスクのPDCA管理も実施しています。各事業の課題やリスクに関する詳細は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」をご参照ください。
配当政策
3 【配当政策】
当社は、配当による株主還元を基本とし、利益成長に合わせた還元水準の向上を図っています。株主還元に関する基本方針は次の4点になります。
① 中期的なフリー・キャッシュ・フローの見通しから、株主還元の水準を判断する。
② 配当による株主還元を基本とし、1株当たり配当金の維持・増加を目指す。
③ 配当性向30~40%(中期経営計画の3年間累計)を目安とし、配当水準の安定的向上を図る。
④ 自己株式取得は資本構成適正化に加え、投資案件や株価の状況等を総合的に勘案して検討・実施する。
4つの方針の中でも、特に②の累進配当の方針を重視しており、収益が中期経営計画で掲げた目標を下回る状況ではありますが、2023年度は1株当たり年間配当金として36円を維持しました。2024年度以降も配当金維持・向上を予定しています。
株主還元を含めたキャピタルアロケーションについては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ⅳ 財務・資本政策 ■ 資金の源泉と使途の枠組み」と併せてご参照ください。
内部留保については、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3領域において、M&Aを含む戦略的な投資や、新事業創出のための研究開発費など、将来の収益拡大の実現に必要な資金として充当していきます。
当社は、中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としており、剰余金の配当の決定機関は取締役会としています。
当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりです。