リスク
3 【事業等のリスク】
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、ここに記載した事項は、当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではありません。
また、将来に関する事項につきましては、有価証券報告書提出日(2024年6月24日)現在において判断したものであります。
(1) 市場リスク
① 市場の急激な変動に係るリスク
経済の変調による需要の急激な減少や、他社の大型プラント建設による供給過剰などでの市場環境は様々な要因で影響を受け得る可能性があります。当社グループの対面市場である自動車関連やIC半導体・電子デバイスの分野はマーケット環境の変化が激しく当社製品の販売価格のみならず販売量にも大きな影響を及ぼします。
その対応策として当社グループでは新規用途・市場の開拓とともに、コストダウンの徹底など、販売数量・収益の確保の取組みを強化しております。
② 為替変動に係るリスク
為替相場の変動は、当社グループの輸出入取引に係る交易条件、および海外グループ会社の業績の邦貨換算結果等に対して影響を与えます。
通常、円安は当社グループの業績に好影響を及ぼし、円高は悪影響を及ぼすと考えております。また、海外グループ会社においては、その所在国通貨と異なる外国通貨との為替相場変動により、業績等に影響を及ぼす可能性もあります。
これら為替変動に係るリスクに対して、先物為替予約取引などを用いてヘッジを行っておりますが、当該リスクを完全に回避できるものではなく、経営成績および財政状態に悪影響を与える可能性があります。
当社グループの海外売上高比率は、2024年3月期において65.4%であります。また、当社の試算では米ドル・円レートが1円変動すると、連結売上高で年間約23億円、連結営業利益で年間約9億円の変動をもたらすと算定しております。
③ 主要原料(メタノール)の価格変動に係るリスク
当社グループの主力製品の多くのものが直接あるいは間接的にメタノールを原料としており、そのため大量に購入をしております。その購入価格の上昇は業績に多大なる影響を与えるリスクがあります。また、メタノールは化学製品の原料という位置付けのみならず、近年はクリーンエネルギーとしての側面も持っており、世の中の環境問題への関心の高まりなどで、今後、化学業界の動向と関係ないところで価格に大きな影響を受けるリスクがあります。対応策として、長期契約やメタノール製造会社への出資など、比較的安価なメタノールを安定的に購入するための手段を講じております。
④ その他原燃料価格の変動に係るリスク
当社グループは、常に安価かつ価格の安定した原燃料への転換や、製造方法改善によるコストダウンを図っております。しかしながら、経済全体のインフレ傾向や地政学的リスクの影響もあり原燃料価格の変動は続いており、今後もこの傾向は当面は変わらないと思われます。原燃料の高騰が続く場合には、上記の各種コストダウン施策に加えて、製品販売価格への転嫁等によりできる限りの吸収を図っております。
(2) 事業リスク
① 海外事業展開拡大に係るリスク
当社グループは、引き続き積極的に海外事業を拡大しており、それに伴う、予期しえない法律や規制の変更、産業基盤の脆弱性、人財の採用・確保の困難、テロ、戦争等による地政学的なリスクは増大していると考えられます。特に同じ事業を中国・アジア地域・欧米などで広域に展開している例も多く、そのために経済安全保障上の問題により事業展開に支障が生じる、あるいは当社グループ自体が違反に問われるリスクも存在していると考えております。その対策のため、当社グループではサプライチェーンの体制の見直しを実施し、経済安全保障域内で供給体制が完結するようにするなどの取組みを進めております。
② 人財確保に係るリスク
当社グループが事業の継続的な発展を実現するためには、経営戦略やグローバルな組織運営を担えるマネジメント能力に優れた人財の確保や育成、専門技術に精通した多様な人財の確保が重要な課題であると認識しております。
しかし、日本国内での少子高齢化や労働人口の減少、海外拠点での雇用環境の変化によって、必要な人財の確保・育成が計画どおりできなかった場合、長期的観点から当社グループの事業及び業績に大きな影響を与える可能性があります。
その対策として当社グループでは、積極的な新卒採用や経験者の通年採用を展開し、公平な人事評価・処遇制度などの仕組みを構築することで、自律的に活躍する人財の育成、定着を図っております。また、次世代経営人財の教育プログラムでは後継者候補の育成にも取り組んでおります。
③ 物流に係るリスク
日本国内の物流環境は、少子高齢化による労働人口減少に加え、働き方改革関連法における「時間外労働の上限規制」等の影響もあり運送ドライバーや荷役作業員の人手不足の拡大が予想され、物流費の高騰、当社グループの製品の競争力の低下につながるリスクがあると認識しております。
その対策として、従前より当社グループでは系列の物流専門の企業を持ち、グループ全体のガバナンスの中で効率的且つ合理的な輸送体制の実現に注力してまいりました。また2022年よりグループ横断の「物流改革プロジェクト」を設置し、他社連携やグローバル物流強化に向けた戦略の策定に取り組んでおります。2023年からは経産省及び国交省指導による、化学品ワーキンググループにも参画し、共同物流の具現化に向けて取り組んでおります。
④ 原材料等の調達に係るリスク
当社グループの主力プロダクトである化学製品は、高付加価値の高機能製品に注力しており、その原材料も品質規格が大変厳しく特殊なものが多いため、サプライヤーの数も限られます。一部の原材料については事業継続のため確保が必須でありながら、1社だけのサプライヤーに依存している例もあり、そのため新規調達先の確保や要因変更の対応に迫られるなどの原材料等の調達に係るリスクがあります。
対応策として、原材料を複数のサプライヤーから購入することにより安定調達を図り、生産に必要な原材料が十分に確保されるよう努めております。
⑤ 資本提携・企業買収等に係るリスク
当社グループでは、更なる事業成長を目指して、グループのシナジー効果が期待できる企業買収・資本提携等には積極的に取り組んでおります。
これらの投資について予期したとおりの成果が獲得できない場合、また事業環境等の急激な変化により事業計画に大幅な修正が生じた場合には、のれんの減損や投資損失が発生し、当社グループの業績に悪影響を及ぼすおそれがあります。
(3) 環境リスク
① 感染症に係るリスク
新型インフルエンザや新型コロナウイルスなどの重大な感染症については、感染拡大予防のために経済活動が制限された、あるいは当社グループや取引先で罹患者が大量に出た場合は、プラントの稼働低下や生産停止、サプライチェーンの分断などが発生し、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
② 自然災害に係るリスク
自然災害により重大な損害を被った場合には、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。特に当社グループの主要な生産拠点のひとつであるポリプラスチックス㈱富士工場は「東海地震に係る地震防災対策強化地域」内に立地しておりますが、東海地域のみならずどこでも巨大地震が発生し得ること、また想定したレベルをはるかにしのぐ広域災害が発生しうるリスクがあります。
対応策として、耐震強度補強など必要な対応は順次計画どおり実施しており、災害発生に備えた防災訓練や必要な物品の備蓄を適宜進めており、またサプライヤーの被災の影響による原材料供給不可・遅延が発生する可能性も考慮し、常日頃からサプライヤーとの情報交換を密にしております。
③ 環境規制に係るリスク
環境保全に対する社会要請の高まりにより、環境規制の強化が進んでおります。当社グループの生産活動においてはその規制に関する法令を遵守するための設備投資を行ってまいりました。また、近年は化学製品自体の環境に与える影響も重視されてきており、当社グループでは合成樹脂に関わる事業も多くあることから、環境規制により販売に影響を与え、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。
対応策として、環境にやさしい海洋での生分解性を飛躍的に向上させた天然素材「酢酸セルロース」の製品の普及に注力しております。世界規模の問題となっている海洋プラスチックごみ問題に対する有効な解決策となりうるものとして、この環境規制が厳しくなる状況「リスク」だけではなくむしろ「機会」としてとらえ取組みを強化しております。
④ 気候変動に係るリスク
気候変動に伴う異常気象等が当社グループの工場の操業やサプライチェーンに影響を与える物理的リスク、あるいは低炭素社会への移行に対応できずに原燃料価格や電力価格が上昇するリスクは、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。国内においては、2026年度から排出量取引制度(GX-ETS)の本格導入が公表されるなど、GHG排出に関する費用発生のリスクが高まってきていると考えております。
対応策として、生産プロセスの抜本的な見直しや新技術の導入、グループ全体のエネルギー使用最適化など、省エネルギーに努め、GHG(温室効果ガス)排出量の削減に取り組んでおります。また、バイオマスバリューチェーンの構築などを通じてカーボンニュートラルの実現を目指しております。
(4) 品質・製造リスク
① 製品品質保証・製造物責任に係るリスク
当社グループが製造した製品に起因する損害が発生した場合には、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。特にB to Bのビジネスが主流であり、一般消費者に届くまでには何段階もの付加価値が付与される場合もあり、もし最終製品の回収が行われることになれば、大きな賠償責任を負う可能性もあります。
対応策として、製品の品質保証体制を確立し、製品の安全性確保および不具合品の流出防止に努めております。また、万一に備え、賠償責任保険も付保しております。
② 事故に係るリスク
当社グループは、化学品を扱う企業であり、火災・爆発等の産業事故災害が発生した場合には、被害は甚大になり、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。
対応策として、火災・爆発等の発災を想定したクライシスアセスメントの強化や、遠隔消化設備の導入など人的被害を最小限に抑制し発災時の対応を行うインフラ面の強化、保安防災活動への継続的な取り組みを実施しております。
(5) 研究開発リスク
① 研究開発及び技術人財の確保に係るリスク
当社グループでは、既存事業の強化および新規事業創出のため積極的に研究開発活動を行っております。しかし、近年ますます技術革新のスピードは速くなっているので、計画どおりに新製品の開発ができなかった場合、事業化につながらなかった場合は、投下した研究開発費を回収できないといったリスクがあります。また、これらの研究開発体制の維持・強化のためには、高度な技術を持った人財の確保が不可欠でありますが、研究開発に限らずあらゆる分野で、人財が確保できないというリスクは顕著であり、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
対応策として、研究テーマの選定や資源配分について経営次元での徹底した議論を行い判断を行うとともに、産学官共同研究、他社との協業などを通じて研究開発の効率を上げ、事業化に結びつけて行くよう取り組んでおります。また、多様な人財の確保やIT技術の活用も含めてグループ全体でリスク低減を図っております。
② 知的財産権に係るリスク
当社グループは、「当社グループの知的財産を保全するとともに、他者の権利侵害は行いません」とのダイセルグループ倫理規範のもと、知的財産関連情報の調査、知的財産権の取得・管理、適切な契約の締結・管理など戦略的な活動に取り組んでおります。しかしながら、当社グループが第三者の知的財産権を侵害している等の予期せぬ警告や訴えを受ける、あるいは第三者に知的財産権を無断で使用されるおそれがあります。このような事態が発生した場合には当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。
知的財産権に関しては、従前のように単純に模倣した、しないの話ではなく複雑なものになっていると考えており、第三者の知的財産権の事前調査(および尊重)を徹底しても予期せぬ警告や訴訟を受けるリスクは依然存在すると言わざるを得ない状況にあります。
対応策として、知的財産権の取得・管理・適切な契約の締結・管理などの戦略的な活動に積極的に取り組むことでそのリスクの低減を図っており、特に新製品や新技術の開発時に、先々の当社の事業展開を優位に進め、他社からの侵害訴訟をけん制するためにも競合相手の事業を意識した知的財産権の取得が重要と認識し、注力しております。
(6) コンプライアンスリスク
① 訴訟に係るリスク
当社グループは、国内外の法令遵守に努めております。しかしながらグローバル、かつ多様な分野で事業を行う中で、訴訟、係争、その他の法的手続きの対象となるリスクがあり、重要な訴訟等の提起を受ける可能性があります。
また、当社に限らず、訴訟を提起するのは他社だけでなく、自社グループの従業員や元従業員からも増えていることも認識しておく必要があると考えております。
裁判等において不利益な決定や判決がなされた場合には、当社グループの経営成績および財政状態に悪影響を与える可能性があります。
② 情報セキュリティに係るリスク
通信ネットワークに生じた障害や、ネットワーク又はコンピュータシステム上のハードウエアもしくはソフトウエアの不具合・欠陥、コンピュータウィルス・マルウェア等外部からの不正な手段によるコンピュータシステム内への侵入等の犯罪行為や使用人もしくは委託業者の過誤等により、これらの情報が流出し、または改ざんされるリスクがあります。
対応策として、管理体制の構築、従業員教育の実施およびIT技術動向の変化に応じたセキュリティソフトの導入・更新などを行っております。また、全社員を対象に「不審メール対応研修」などを実施しております。
③ 人権に係るリスク
近年、人権に係るリスクは大変重要になっており、人権の尊重は当社グループ内で徹底されていればよいのではなく、当社グループ外にも求めていくべきものであると考えております。特に新興国を中心としたサプライチェーンにおける人権確保が重要になっており、人権侵害や児童労働等の事実が確認された場合、原材料調達および生産活動の遅延等に関するリスクが顕在化する可能性があります。
対応策として、当社グループでも「ダイセルグループ人権方針」を定め、また人権に関するデューデリジェンスを定期的に実施するなどして、そのリスク低減を図っております。
(7) その他のリスク
① 固定資産の減損に係るリスク
当社グループが自ら使用、または第三者に貸与する機械および装置、土地および建物などは、投資計画どおりに収益が得られず、投資額の回収が見込めないなど資産価値の下落に起因する潜在的な減損のリスクにさらされております。当連結会計年度末において、有形固定資産および無形固定資産の帳簿価額の合計は3,197億円であり、想定した事業環境が大きく変わることによる減損のリスクがあります。固定資産の減損損失が発生した場合、当社の経営成績および財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
投資計画の精度向上について、リスクアセスメントの方法の見直しなどに取り組んでおります。
② 当社グループ会社の樹脂製品における第三者認証登録に関する不適切行為について
2022年に、当社グループ会社のダイセルミライズ株式会社が販売する樹脂製品の一部において、米国の第三者安全科学機関である Underwriters Laboratories Limited Liability Company(以下「UL」という。)の認証に関し、不適切な行為が判明しました。
本件不適切行為を受けて、当社の独立社外監査役と当社と利害関係を有しない社外の有識者から構成される調査委員会を設置し、本件不適切行為の事実関係、当社国内子会社でのUL認証に関連する類似案件の有無を調査するとともに、これらの行為の原因分析および再発防止策の提言等を委任し、2022年12月16日に同委員会からの調査報告書を受領しました。本調査報告書につきましては、当社ウェブサイト
(https://www.daicel.com/news/assets/pdf/20230110.pdf)にて公表しております。
同委員会からの再発防止策の提言を受け、改めて「安全」「品質」「コンプライアンス」を当社の「モノづくり」の基盤と位置付けるとともに、新たに、「ダイセルグループ行動指針」、「ダイセルグループ倫理規範」を定めるとともに、再発防止のための体制構築も進め、2023年4月1日付で、安全と品質に関する監査と取組み推進の機能を分離し、それぞれの機能を強化することを目的とした組織変更を実施しました。
有識者調査委員会からは再発防止に向けて受けた10項目の提言については、各々の項目の主管部門を中心に対策を検討・実施しており、その状況は適宜、取締役会にも報告されております。またこのような品質不正に関するリスクについては、グループ全体のリスク管理活動の整理に先立ち、安全と品質を確かなものにする本部が各工場の品質保証部門と連携して、着実なリスク棚卸の仕組みの構築を進めております。
また、調査委員会によるアンケート調査で確認され当社グループにおける品質不適切行為については、安全と品質を確かなものにする本部が中心となって、現時点で本行為が行われていないことおよび確実な再発防止が実施されていることの確認を進めております。
今後も当社グループの役職員全員が、今一度「モノづくり」の基本に立ち返り、信頼回復・再発防止に全力を挙げて取り組んでまいります。
配当政策
3 【配当政策】
当社は、資産効率の最大化と最適資本構成の実現、資金調達力維持のための財務健全性確保、安定的かつ連結業績を反映した配当を総合的に勘案した、バランスのとれた利益配分を基本方針としております。
2020年度からの中期戦略『Accelerate 2025』におきましては、中期戦略発表時の1株当たり配当額(年間32円)を下限とし、配当と機動的な自己株式取得を合わせた各年度の株主還元性向40%以上を目標としております。
毎事業年度における配当の回数につきましては、第2四半期末日および期末日を基準とした年2回の配当を実施する方針であります。
これらの配当の決定機関は、期末配当につきましては株主総会、中間配当につきましては取締役会であります。
上記の方針に基づき、当事業年度の期末配当につきましては、普通配当を1株につき25円といたしました。これにより、中間配当を含めた当事業年度の1株当たり年間配当は12円増配の50円となりました。
なお、2024年度より、安定的な配当を行う姿勢を明確にするため、株主還元性向に加えて、DOE(株主資本配当率)を新たな指標として導入することといたしました。配当について、DOE4%以上を目標とするとともに、引き続き配当と機動的な自己株式取得を合わせた各年度の株主還元性向40%以上を目標といたします。
内部留保資金につきましては、新規事業展開および既存事業強化のための研究開発、設備の新・増設、効率化など、業容の拡大と高収益体質の強化のための投資に充当し、将来の事業発展を通じて、株主の皆様の利益向上に努めたいと存じます。
なお、当社は、毎年9月30日を基準日として会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨を定款に定めております。
(注) 基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は、以下のとおりであります。