2024年3月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

本報告書に記載した当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。ただし、以下は当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在します。それらのリスク要因のいずれも投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

当社グループのリスク管理体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③経営体制・内部統制体制 c. 内部統制体制・リスク管理体制の整備の状況」に記載しております。

 

(1)経済状況と販売市場環境(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

 [鉄鋼事業・商社事業]

鉄鋼事業・商社事業においては、各製品市場と地域市場において、競合他社との競争に直面しております。国内鋼材販売は、建築・土木、自動車、産業機械、電気機械等各需要分野に広がっており、販売形態も多岐にわたっております。また、これら国内向けに加え、JFEスチール㈱は43%程度(単独・金額ベース)、JFE商事㈱は53%程度(単独・金額ベース・JFEスチール材含む)を海外に輸出しております。主な輸出先はタイ等のASEAN、韓国、中国向けとなっております。従いまして、今後の少子高齢化に伴う国内市場の縮小や、国内およびアジアをはじめとする世界経済の状況等を背景とした国内外の鋼材需給の動向が当社グループの鋼材の販売量や価格に影響を及ぼす可能性があります。とりわけ海外市場においては、中国の内需減少に伴う輸出の増加や、新興国における鉄鋼生産能力の拡大という構造的な変化により、ますます競争が激化していく可能性があります。また、海外主要国において関税引き上げやアンチダンピング・セーフガード措置等の輸入規制が課せられた場合には、当社グループの輸出取引が制約を受け、業績に影響を及ぼします。一方、当社グループの輸出量が少ない米国、EU等においても、各種輸入規制が行われた結果、その市場から締め出された鋼材が当社グループの主要輸出エリアに還流することにより市場が影響を受け、結果として当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、2022年にウクライナにおいて発生したような国際的な紛争も、国内外の鋼材需給の動向の変化を通じて当社グループの鋼材の販売量や価格に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、国内外の鋼材需給の変化に対応して生産数量の最適化を図るとともに、長期的な鋼材需給の動向を見据えて設備の統廃合等による最適な生産体制の構築を図ってまいります。この一環として、2023年9月にJFEスチール㈱東日本製鉄所(京浜地区)の上工程(製銑、製鋼)および熱延設備を休止し、国内の生産体制を高炉8基体制から7基体制へ変更し、粗鋼生産能力を約400万トン(約13%)削減いたしました。一方で、基幹製鉄所であるJFEスチール㈱西日本製鉄所への戦略的な投資を行い、コスト競争力を向上させることで、市場環境が変化しても収益を確保できる体制を整えてまいります。販売面でも新興国ミルに対して技術優位性の高い商品の販売比率の拡大を進め、収益基盤の安定化を図ってまいります。更に、海外での垂直分業体制や海外鉄鋼メーカーへの出資による鋼材の現地製造を進めることで、海外市場環境の変化に柔軟に対応するグローバル供給体制の確立を進めてまいります。

商社事業においては、鉄鋼製品を中心に、製鉄原材料、非鉄金属製品、食品等の仕入、加工および販売を行っており、国内外の各製品市場において市場環境の変化に適切に対応できる流通販売網を構築しております。具体的には、国内においては流通再編等を通じ販売力の強化を進めるとともに、基盤強化に必要な設備の更新をタイムリーに進めております。また海外においてはグローバル4極体制における流通加工機能の強化を積極的に推進し、高付加価値分野におけるJFEスチール材の販売強化を進めております。更に、JFEグループ材(アライアンス先含む)や他サプライヤーの製品も活用しながら顧客におけるプレゼンスの維持・強化を図ってまいります。

 

 [エンジニアリング事業]

エンジニアリング事業においては、エネルギープラント・ごみ焼却炉等の環境施設・橋梁を中心とした設備のEPC(設計・調達・建設)を行っております。また、DBO(設計・建設・運転)案件における設備の運転保守の受託や、リサイクル・発電・電力小売等の運営型事業を自ら行っております。上記事業のポートフォリオは、公共インフラ(ごみ焼却施設、橋梁等)関連が過半を占めているため、国内経済状況および国・自治体の方針・政策の影響等による国内公共事業の縮小は、応札案件の減少に直結し、その結果、受注高が減少する可能性があります。

 

また、海外についても同様に対象国の経済状況や政策の変化により、受注高が減少する可能性があります。また、プロジェクト遂行にあたり、資機材等の価格が上昇した場合、建設コストが上昇することになります。建設コスト上昇の影響に左右されない競争力を確保するために、技術開発等を進めてまいります。また、長期安定的な収益源として運営型事業を強化し、収益の安定化を図ってまいります。

 

(2)原料・エネルギーの市場環境(鉄鋼事業・商社事業)

 [鉄鋼事業]

鋼材の原材料として鉄鉱石、原料炭、合金鉄・非鉄金属・スクラップ等を調達しております。近年これらの原材料の価格は世界的な需給構造変化、主要原産国である豪州・ブラジルにおける自然災害や事故の発生、更には2022年にウクライナにおいて発生したような国際的な紛争等により上昇しており、それを鋼材価格に反映できなかった場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、製鉄プロセスに使用する電気・天然ガス等を購入しておりますが、これらの価格も世界的な需給変化、環境規制強化や国際的な紛争等に起因して上昇しており、それを鋼材価格に反映できなかった場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

更にこれら原材料・エネルギーについて、生産国における自然災害や事故の発生、国際的な紛争、サプライチェーンの混乱等により調達が困難となった場合、当社グループの生産量・販売量の減少を通じて当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
 これに対しては、安価原料の使用技術を開発し、その使用比率の増加を図ることで原料調達におけるコスト削減とコスト変動の低減を図ってまいります。また、調達ソースの分散化等により、調達不安定化のリスクの低減を図ってまいります。更に、製鉄所内の発電所等のリフレッシュを計画的に進めることにより、調達エネルギーのコスト削減とコスト変動の低減を図ってまいります。

 

 [商社事業]

当社グループ向けに原材料を販売するとともに、当社グループ外への原料販売も行っています。従って、当社グループの活動水準に変化があった場合や、原材料生産国における自然災害や事故の発生、また国際的な紛争、サプライチェーンの混乱等、仕入環境や販売環境に変化があった場合、商社事業の販売量に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、原料調達における低廉化や新たな調達ソースの開発等により、原材料サプライチェーンのリスク低減を図ってまいります。また、当社グループ以外への販路開拓を進め、販売量の維持安定化を進めます。

 

(3)製造設備・システムの安定操業状況(鉄鋼事業)

鉄鋼事業においては、高炉、コークス炉、転炉、連続鋳造機、圧延機、焼鈍炉、発電所等の多数の大規模な製造設備を用いて鉄鋼製品の生産を行っております。これらの設備の中には稼働後数十年を経て更新時期を迎えたものもあります。持続的な安定生産を実現する国内製造基盤を確立するため、第5次中期経営計画以降、集中的な設備投資を計画し、老朽設備の更新を順次進めてまいりましたが、これらの設備において設備・システムトラブルが発生した場合、生産量の減少や修繕コストの増加等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、重要設備の更新投資を計画的に進め、製鉄所の製造実力の強靭化を図ってまいります。2019年度より高炉の操業安定化を中心に高炉付帯設備の劣化対応やDX・AI・IoT技術の活用等による基盤整備投資を実施してきましたが、第7次中期経営計画では全プロセスへの水平展開を図っております。

 

(4)設備投資効果・事業投資効果の実現状況(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループは収益基盤の維持・向上、事業拡大を目指し、多額の設備投資および事業投資を行っております。

 [設備投資]

鉄鋼事業では、安定生産基盤の確立に加え、生産性・コスト競争力の更なる進展のために、国内製造拠点への戦略的な投資を継続しております。東西製鉄所においては、コークス炉の更新、電磁鋼板製造ラインの増強等を行い、これらの設備の最新鋭化・能力増強を図ってまいりますが、これらの稼働が遅れた場合や鋼材需要が変化した場合、予定どおりのコスト削減効果や拡販効果が発揮されず、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、主要工事の進捗確認を定期的に実施することで、計画的な実施を図っております。また、世界の経済状況や需要動向を常に注視し、変化が生じた場合には、当初の設備投資計画に対して、投資時期や規模等の適切な見直しを行います。

 

 [事業投資]

当社グループは、国内投資に加え、海外成長機会を捉えるための事業投資も推進しております。海外各国における政情や経済情勢の変動、合弁相手先企業の状況の変化等の不測の事態により、期待する収益の獲得や投資回収が困難となる等、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、世界の経済状況や需要動向を常に注視し、変化が生じた場合には、当初の事業投資計画に対して、投資時期や規模等の適切な見直しを行います。また、事業投資の意思決定の過程では、個社・各地域のリスク評価を行い、そのリスクに応じたフォローを行うことで、リスクの管理を図っております。

 

(5)新製品・新技術の開発状況(鉄鋼事業・エンジニアリング事業)

当社グループは、お客様の高度なご要望にお応えすることで、グローバルで戦うことができる技術力を磨いてまいりました。当社グループの収益基盤を維持・向上していくためには、今後も社会に貢献する世界最先端の新製品・新技術の開発・新規事業の探索を行っていく必要があります。これらが計画どおり実施できなかった場合や各種環境変化により計画どおりの効果が発揮されなかった場合、新商品の提供機会を逸することによる販売量の減少、十分な付加価値を付与できないことによる収益性の低下、受注機会の逸失等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、鉄鋼事業では自動車・インフラ建材・エネルギー分野を主軸とし、開発の加速化を図ってまいります。また、これまで以上にお客様のご要望を的確にとらえた開発を推進してまいります。例えば、自動車分野では、お客様との交流を深めてEVI(Early Vendor Involvement)を進化させ、先進ハイテンやその利用技術等の先端技術の提案を続けるとともに、建材分野では、新たな付加価値をお客様と共に創り出すソリューション提案活動「JFESCRUM®」を展開することで、鉄の価値創造に努めています。また、エンジニアリング事業ではプラントの自動運転・遠隔監視等、最先端のAI・IoTを活用した技術開発やエネルギーサービス等の新たな商品・サービスの提案を積極的に進めております。

更に、当社グループでは、技術開発の進捗状況のフォローを行い、市場環境の変化に応じた開発計画の見直しを適宜実施しております。

 

(6)品質保証(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループは、鉄鋼製品をはじめとした多種多様な製品・サービスをお客様に提供しています。当社グループの製品品質は品質設計・製造部門から独立した品質保証部門により確認し、また、品質保証体制は品質監査部門によりチェックを行うことで保証しておりますが、製品やサービス、品質管理体制等に問題が発生した場合には、補償金の支払いや、社会からの信用失墜により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、グループ会社を含めて品質管理体制を統括する組織を本社内に設置し、品質不具合の撲滅に向けた体制構築を進めております。お客様へ提供する品質データについては、自動測定・伝送化を一層拡充することで、人為的なミスや改ざんの根絶に努めております。また、鋼材の中間素材の識別管理の強化、品質保証体制の社内診断による強化等により、お客様への異常材の流出の未然防止を図っております。

また、エンジニアリング事業における設備のEPC(設計・調達・建設)では、調達した建設資材および機器を使用して建設工事を行っており、設備引渡し後も一定期間は契約不適合責任を負っております。建設した設備において、契約不適合責任のある不具合が生じた場合、請負者の責任において改修工事を実施することになり、追加コストが発生する可能性があります。こうしたリスクに対しては、品質保証体制を整備し、調達品および工事の検査によってリスクの軽減を図っております。

 

(7)受注後の変動リスク(エンジニアリング事業)

エンジニアリング事業における設備のEPC(設計・調達・建設)では、プロジェクト遂行にあたり、資機材の購入、外注業者の起用を行っており、工期が数年間に及ぶプロジェクトもあります。また、運営型事業では、設備の運転に必要な電気・燃料等を購入しており、運営期間が20年間以上に及ぶ事業もあります。市況・景気変動に伴う建設資材費および外注労務費の変動は建設コストに、電気・燃料費等の変動は運営コストに影響を与え、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、受注前の段階(応札段階)においてリスクの洗い出しを実施し、契約条件への織り込み等の対策を行うことで、受注後の変動リスクの軽減を図っております。更に、受注後においては、プロジェクト経験者による第三者視点でのフォローを実施し、リスクを早期に発見し軽減するよう努めております。

 

(8)重大な労働災害(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

多様な事業を展開する当社グループの中には、高所作業、高温作業、重量物の運搬、ガス関連設備での作業等災害の発生率が比較的高い作業を行う職場もあります。当社グループは、高齢者や女性を含め、多様な人材が災害を被ることなく安心して働ける作業環境の整備を進めておりますが、万が一生産設備等の重大事故や重大な労働災害が発生した場合には、事業活動が制約を受け、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

これに対して、各事業会社では重大事故・重大災害の撲滅に努めております。鉄鋼事業では、安全文化醸成の取り組みに先進的なデュポン社による安全に対する診断を行い、これに基づいた内部監査制度を導入しております。また、作業員が立入禁止区域に入ると警報を発して自動でラインを停止させるAI活用画像認知システムや、ガス濃度や重機との近接をリアルタイムでモニタリングして災害を未然に防ぐシステム等の導入を進めております。

 

(9)気候変動問題(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループは大量のCOを排出する鉄鋼製造プロセスを有しており、当社グループの気候変動問題への対応は、当社グループの事業の持続性に関わる極めて重要な経営課題と認識しております。当社グループのカーボンニュートラルに向けた取り組みが十分でなかった場合や革新的な技術開発が達成できなかった場合は、コスト競争力を失う、お客様との取引が縮小する、資金調達が困難になる等により、国際的な競争力を失い、当社グループの業績等に多大な影響を及ぼす可能性があります。
 これに対して当社グループは、CO排出量を2013年度比で2024年度末に約18%、また2030年度に30%以上削減すること、更に2050年にカーボンニュートラル実現を目指すことを経営目標として掲げ、達成に向けて社内の体制を整備し、迅速かつ効率的な推進を図っております。

また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業として「製鉄プロセスにおける水素活用」プロジェクトに参画し、高炉における水素還元技術開発、高炉排ガスの低炭素技術開発(カーボンリサイクル高炉、CCU(Carbon Capture and Utilization))、 直接水素還元技術開発、電気炉での不純物除去技術開発等の超革新技術の開発にも積極的に取り組んでおります。更に、2027年度に改修時期を迎える高炉を休止し高効率・大型電気炉へプロセスを転換することを検討しているほか、電気炉での高品質鋼材製造に有効な低炭素還元鉄生産の事業化調査、CCS(Carbon Capture and Storage)の活用に向けた技術開発、グリーン水素を用いたe-fuel(合成燃料)製造とCO船舶輸送のサプライチェーン構築等、CO排出量削減に向けて複線的な取り組みを進めております。

加えて、当社グループはマスバランス方式を適用することにより鉄鋼製造プロセスにおけるCO排出量を従来の製品より大幅に削減したグリーン鋼材「JGreeX®」の供給を2023年度上期より開始し、既に造船、建築、変圧器用等に採用頂いております。引き続き、CO削減価値をサプライチェーン全体で負担する社会分配モデルの実現に向けて取り組んでまいります。

一方、これらのカーボンニュートラルプロセスの導入には多大な技術開発費、設備投資費を要し、大幅な製造コストの上昇は不可避であると考えています。国家戦略として、「GX実現に向けた基本方針」や、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律により、脱炭素に向けた技術開発や設備投資に対する長期的かつ継続的な政府の支援がコミットされましたが、既に補助金という形で具体的な支援措置が示されている他鉄鋼生産国と同等の支援が得られない場合、更には既に国際的に高い水準にある日本の産業用電力価格が更に上昇する場合は、他国に対して日本の鉄鋼メーカーのコスト競争力が低下し、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。カーボンニュートラル実現に向けては、低価格で大量のグリーン水素や国際的に競争力がある安価な非化石電力の調達が必要不可欠となりますが、これらが国際的に競争力のある価格で供給されない場合、環境価値が適切に鋼材価格へ反映されない場合にも当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。これらを実行していく上では、社会全体でのコスト負担のあり方の検討や環境価値を適切に評価しグリーン調達を促すような政府等による更なる支援が必要と考えております。

なお、タクソノミーや炭素国境調整といった政策・制度においては、世界的な保護主義を招く懸念があり、脱炭素への円滑な移行を阻害する恐れがあります。また、グリーン鋼材に関して、国際機関や民間機関を含めて、世界各地で様々な基準や閾値、定義やCO定量方法の基準が乱立している状況においては、国際的に取引されている鋼材貿易に混乱を引き起こす懸念があります。したがって、鉄鋼業におけるCO排出量の測定手法やデータ収集に関しては国際的に共通の枠組みが必要であり、この点に関しては、2023年4月に開催されたG7(先進7か国)気候・エネルギー・環境大臣会合において、日本政府の提案に基づき、取り組みを進めることで合意がなされています。引き続き、政府や関係機関とともに、主要鉄鋼生産国との間で共通の手法を定めるための議論を深め、排出削減努力を適切に評価し正当な対価をいただける仕組み作りが進むよう、また、環境規制が適切な制度として制定されるよう、関係機関に働きかけてまいります。

 

(10)大規模な自然災害、新型インフルエンザ等感染症の急速な感染、戦争、内乱、暴動、テロ活動等(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

大規模な地震・台風等の自然災害、新型インフルエンザ等感染症の急速な感染、戦争、内乱、暴動、テロ活動等は、当社グループの事業活動に支障をきたし、業績等に影響を及ぼす可能性があります。例えば、新型コロナウイルス感染症のような感染症の大流行により、世界的な移動制限や都市部のロックダウン等が行われ、当社グループの事業活動に支障をきたすとともに、需要産業の生産水準が大幅に低下することにより販売数量が減少し、当社グループの業績等に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループが事業活動を行っている地域において国際的な紛争等が発生した場合においても、需要産業の生産水準が大幅に低下することにより販売数量が減少し、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。更に、大型台風により設備や建屋の損壊や製鉄所の浸水が生じた場合には、生産量の減少等により当社グループの業績等に影響する可能性があります。あるいは、当社グループの原料の調達先で港湾施設の機能停止により一定期間の生産・出荷停止が生じた場合には、生産量の減少等により当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

近年激甚化する国内の台風や豪雨に対しては、製鉄所内の排水設備の増強等を実施しております。また、原料の主要な調達先である海外での大規模気象災害に対しては、代替調達先の確保、調達ソースの分散、設備能力の増強を図ってまいります。なお、非常事態に対するBCPを策定しており、例えば大規模地震では、津波に対する避難場所の設置や、通信規制・停電等の状況下での全社指揮命令機能の維持、データのバックアップ等の対策を実施しております。また、新たな感染症のリスクに対しては、全従業員の健康と安全を第一に考え、安心して働けるよう、衛生管理の徹底や時差出勤・在宅勤務等の柔軟な事業運営や、インフラ構築等の環境整備を進めるとともに対策検討チームを発足させ、迅速な対応をとる体制を構築しております。

 

(11)他素材との競合(鉄鋼事業・商社事業)

当社グループはCOの排出抑制効果の大きいエコプロダクトや環境配慮型技術を販売しております。自動車車体に適用されるハイテンは、アルミニウムや炭素繊維等の他素材と比べコスト優位性を有し、また軽量化にも貢献するため、他素材への置換は限定的と考えますが、他素材の大幅なコストダウンが実現した場合には鋼材需要が減少し、当社グループの業績に影響する可能性があります。これに対しては、継続的なコストダウンや性能向上に努め、他素材への置換を抑止するとともに、樹脂等の軽量素材を組み合わせたマルチマテリアル構造等も提案し、鉄と他の素材とを組合せた部材の開発を行い、素材としての持ち味をより引き出し、鉄の需要のすそ野を広げるとともに、軽量化へ貢献していきます。

 

(12)情報セキュリティ(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループは、事業を展開する上で、顧客および取引先の機密情報や個人情報、また、当社グループの機密情報や個人情報を有しております。これらの情報は、外部流出や改ざん等が無いように、グループ全体で徹底した管理を実行しております。過失や盗難、外部からの攻撃等によりこれらの情報が流出もしくは改ざんされた場合、技術優位性の喪失、損害賠償の発生、社会的な信用失墜等により、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

これに対して当社グループでは、情報管理の諸規定を制定することで、サイバー攻撃やシステムの不正利用による情報漏洩やシステム障害を防止する対策を実施しております。また、情報セキュリティを中心にITに関する重要課題を審議する「JFEグループ情報セキュリティ委員会」を設置し、そこで決定した方針に基づき、情報セキュリティ施策の立案と実施推進を図る社内チームである「JFE-SIRT」にてグループ全体の情報セキュリティ管理レベルの向上を推進しております。

 

(13)カントリーリスク(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループは、成長する海外での需要を捕捉するため、鉄鋼事業・商社事業における現地の鋼材生産・加工ラインへの投資や現地鉄鋼会社との資本提携、エンジニアリング事業における新興国のインフラプロジェクトの受注等、積極的な海外事業展開を推進しております。事業実施地域における政治・経済情勢の変化、テロ・その他の動乱、法改定、大規模自然災害等の不測の事態が発生した場合、生産量の減少、資本提携先とのシナジー効果の減少、法令改定に起因した費用の発生、物流費の増大、連結財政状態計算書に計上したのれんの減損、受注プロジェクトの製造コストの変動等により、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、事業投融資の審査の過程で各国のリスクに応じた事業のリスク評価を行うことで慎重な投資判断を行うとともに、不測の事態が発生した場合の影響を軽減するために、監視体制の強化、現地での調達ソースの分散化等を図っております。

また商社事業では貿易取引を行っており、対象国の状況により輸出入ができなくなるリスクや、外貨事情等により相手国政府が対外送金を停止した場合の代金回収リスクを負う可能性があります。これに対しては貿易保険等を活用しております。

 

(14)為替レートの変動(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループの業績は、為替レートの変動の影響を受けます。外貨建て取引による外貨の受け取り(製品輸出額等)と外貨の支払い(原材料輸入額等)で相殺されない部分がある場合、為替レートの変動は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対しては、為替予約等を利用したヘッジ取引を適宜実施しております。

円安が進行した場合、円換算の原材料コストの上昇等を通じて当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対しては、製品販売価格への反映を図ってまいります。

また、円高が進行した場合、自動車等の需要産業の輸出競争力低下による国内鋼材需要が減少すること、および当社グループの製品の海外市況における競争力が低下することにより、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これらに対しては、主に(1)、(5)に記した対応による国内鋼材シェアの確保、および海外での垂直分業体制や海外鉄鋼メーカーへの出資による鋼材の現地製造を進めることで、海外市場環境の変化に柔軟に対応するグローバル供給体制の確立を進めてまいります。

 

(15)固定資産の価値下落(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループは、大規模な鉄鋼製品製造設備等、多くの固定資産を保有しております。当社グループが保有している固定資産について、収益性の低下等に伴い投資額の回収が見込めなくなった場合は、その資産の減損損失の計上を行うことにより、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、主に上記の(1)~(5)、(9)、(11)に記した対応により資産価値の維持向上に努めてまいります。

 

(16)人材確保・育成および職場環境の整備(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループでは、国内の生産年齢人口の減少に伴い、労働力や有能な人材を確保するための各種施策の強化、人材育成による個々の能力向上、省力化による労働生産性向上に取り組んでおりますが、当社グループおよび当社グループのサプライチェーンを構築する企業において、労働力の確保や人材育成が十分でなかった場合、安定的な生産体制や競争力が損なわれることにより当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、ダイバーシティ&インクルージョンを経営課題として位置付け、採用ソースを拡大して多様な人材の確保・活用を図るとともに、多様な人材や意見を尊重する企業風土を醸成し、定着率や生産性の向上に努めてまいります。更に、職場環境の改善や各種制度の充実、IT技術の活用による省力化・効率化についても推進して労働力不足に対応してまいります。

また、適切な労務管理が行われなかった場合、人材の流出や当社グループの信用の著しい低下につながり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対しては、適正な労働時間管理や人権啓発研修の実施、ハラスメント相談窓口の設置等により未然防止を図っております。

 

(17)知的財産の保護(鉄鋼事業・エンジニアリング事業)

当社グループは、事業活動に必要な個々の技術や商標の使用権利を保護する目的で、日本および海外諸国において多数の知的財産権を保有しております。当社グループにおいて事業を遂行する際には、当社外で保有されている知的財産権の調査を行い、その侵害を回避する対策をとっておりますが、万一、第三者より当社グループによる知的財産権の侵害を主張された場合、損害賠償金やロイヤリティの支払い、事業差し止め等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、第三者により当社グループの知的財産権が無効化される場合には、対象となる事業の競争力の低下等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。更に、第三者により当社グループの知的財産権が侵害される場合や、社内外の情報保持者により知的財産情報が漏洩する場合には、技術・ブランド価値の低下や損害金の回収不履行等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、当社グループは海外を含めて当社外の知的財産権の調査・監視体制を強化することで、その侵害の未然防止を図っております。また、海外地域を重点的に重要技術の権利化を進めるとともに第三者による模倣技術・模倣品の監視体制を強化し、当社グループの知的財産権の侵害の抑止を図っております。更に、情報管理に対する社内教育の拡充、退職者等の守秘義務の管理強化を図っております。

 

(18)金融市場の変動および資金調達環境の変化(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループの中核である鉄鋼事業は、大規模な設備を有しており、その設備の維持更新に多額の資本を必要とするため、財務健全性の維持が重要です。近年、減価償却費を上回る設備投資を行ってきたことから、有利子負債は高水準で推移しております。そのため金融市場の不安定化や金利上昇、また格付機関による当社信用格付の引下げがあった場合等には、資金調達の制約を受け資金調達コストが増加する可能性があります。

これらに対しては、財務管理指標としてDebt/EBITDA倍率やD/Eレシオを用いて、当社グループ全体ならびに各事業会社の財務管理を行っております。また一部の借入金等について、金利スワップを利用したヘッジ取引を実施しております。足元では、有利子負債を削減するため、棚卸資産圧縮等によるCCC(Cash Conversion Cycle)の改善、保有株式の縮減等の資産圧縮および設備投資・投融資の優先順位見直し等を行い、財務健全性の維持に取り組んでおります。

 

(19)保有株式等の価値変動(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループが保有している株式等の価値が変動した場合は、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、上場株式について、その株式保有の意義が認められる場合を除き、保有しないことを原則としており、上場会社株式の売却を進めております。

 

(20)信用リスク(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループが保有する売上債権について、取引先の倒産により貸倒損失が発生した場合、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。このため、徹底した与信管理を行っており、一部リスクの高い取引については信用保険を活用しております。

 

(21)法令・公的規制(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループは、日本国内および事業展開する各国において、環境、労働・安全衛生、通商・貿易・為替、知的財産、租税、独占禁止法等の経済法規、建設業法等の事業関連法規、その他関連する様々な法令・公的規制の適用を受けております。これら法令・公的規制が厳格化された場合、(1)、(9)等で述べた影響の他にも、当社グループの事業活動が制約を受けることや対策費用が発生すること等により当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは、内部統制体制の充実を図りこれら法令・公的規制の遵守に努めておりますが、これら規制等を遵守していないと判断された場合、行政処分を課される等により当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、法令の制定・改廃の検討段階での意見提出を行う等により、法令の適切な制定・改廃に向けた活動を継続してまいります。また、法令の制定・改廃が生じた場合には、当該法令に関する主管部署が業務への影響度を評価し、社内の関係部署に周知する体制を整えております。また、法令テーマ別にコンプライアンス研修を行い、定期的に従業員への周知・徹底を図っております。

 

(22)サプライチェーンにおける人権の尊重(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループは世界各国から原材料や資機材を調達しておりますが、これらのサプライチェーンにおいて人権問題が発生した場合、調達や生産への影響に加え、当社グループの信用の毀損につながり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

これに対しては、人権尊重に関するグループ全体の考え方を示す方針として2018年に「JFEグループ人権基本方針」を定めるとともに、昨今の人権に関する意識や課題の変化を踏まえ、2023年4月に本方針を改正いたしました。各事業会社においては、「調達ガイドライン」や「調達基本方針」「サプライチェーンにおけるサステナビリティ基本方針」等を制定し、人権尊重・法令遵守・環境保全に配慮した購買を行っております。また、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権デューディリジェンスも開始しており、今後、当社グループにおける人権リスクの特定、是正に向けた取り組みの検討および実行等のプロセスを継続してまいります。

 

(23)退職給付債務(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)

当社グループの従業員退職給付費用および債務は、割引率等数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されております。金利の変動、制度資産の公正価値の変動、および退職金制度の変更等があった場合、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(24)持分法適用関連会社の業績悪化

当社および連結子会社は、多数の持分法適用関連会社を有しております。持分法適用関連会社の損失は、当社および連結子会社の持分比率に応じて、連結財務諸表に計上されます。また、当社および連結子会社は、持分法適用関連会社の回収可能価額が取得原価または帳簿価額を下回る場合、当該持分法適用関連会社の株式について減損損失を計上しなければならない可能性もあります。なお、当社および連結子会社は、一部の持分法適用関連会社の金銭債務に対して債務保証を行っておりますが、将来、これら債務保証の履行を求められる状況が発生した場合には、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。これらに対しては、持分法適用関連会社の収益向上の取り組みをモニタリングするとともに、必要な諸施策を実施し、リスク低減に努めております。

 

なお、現時点では予期できない上記以外の事象の発生により、当社グループの事業活動および業績等が影響を受ける可能性があります

 

 

 

配当政策

 

3 【配当政策】

当社は株主への利益還元を最重要経営課題の一つと考えており、グループ全体として持続性のある企業体質の確立を図りつつ、積極的に配当を実施していく方針としております。

具体的には配当性向(連結ベース)を30%程度とすることを基本として検討することとしており、当事業年度の配当につきまして、期末配当を1株当たり50円(年間100円)としております。

当社は、会社法第454条第5項に規定する中間配当を行うことができる旨を定款に定めており、配当回数については年2回を基本とし、中間配当については取締役会、期末配当については株主総会を配当の決定機関としております。

 

(注) 当事業年度を基準日とする剰余金の配当の取締役会または株主総会の決議年月日、配当金の総額および1株当たりの配当額は以下のとおりであります。

取締役会決議日

2023年11月6日

配当金の総額

31,827

百万円

1株当たりの配当額

50

 

定時株主総会決議日

2024年6月25日

配当金の総額

31,827

百万円

1株当たりの配当額

50