2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

(1)当社のリスクマネジメント体制

当社はリスクマネジメント基本方針の中で、「リスクマネジメントおよびコンプライアンスが当社グループの持続的な発展に不可欠なものであると認識し、リスクマネジメントおよびコンプライアンスを最重要課題の一つとして重視する経営を実践する」ことと定めております。この基本的な考え方のもと、代表取締役社長が委員長を務めるサステナビリティ・リスクマネジメント委員会を設置しています。サステナビリティ担当役員、リスクマネジメント担当役員およびコンプライアンス担当役員のもと、当社グループの持続的な発展の実現と社会の持続可能な発展への貢献を目指して、社会の中で責任ある存在としての役割や企業活動、発生が予想されるリスクおよび潜在的なリスクのマネジメントについて審議します。サステナビリティ・リスクマネジメント委員会で審議した内容、及び個別リスクへの対応等については取締役会へ報告しております。

(2)リスクマネジメントプロセス

・リスクの総合的、統一的把握・評価

当社にとって不利な影響を与え得る事象をリスクと定義し、各事業部門でリスクを抽出します。サステナビリティ・リスクマネジメント委員会では、抽出した各リスクを統合・分割した上で、当社グループへの影響度と発生頻度を評価しリスクマップを作成します。その中で重点管理すべきリスクを個別リスクとして特定します。

・各個別リスクへの対応計画の決定と実行

サステナビリティ・リスクマネジメント委員会では、各個別リスクに対して主管部門(個別リスク主管部門)を割り当てます。個別リスク主管部門は各個別リスクへの全社対応計画(発生抑制策、危機発生時の対応策、教育・啓発等)を策定します。全社対応計画に従い、各事業部門では個別の対応計画を策定し実行します。

・活動のモニタリング

個別リスク主管部門は、各事業部門の活動をモニタリングし、その結果をサステナビリティ・リスクマネジメント委員会へ報告します。サステナビリティ・リスクマネジメント委員会では報告の結果を受け、必要に応じて個別リスク主管部門へ対応方針の見直しを指示します。

 

(3)個別リスク

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。なお、文中における将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において判断したものであります。

①収益性の維持

影響度:大

発生確率:大

○リスク

当社グループの特殊鋼事業では特殊鋼鋼材、特殊合金及び精密加工製品の製造販売、並びに熱処理加工の受託加工を行っております。各商品の製造原価に占める割合が最も高いものは原材料で、鉄だけではなくクロムやニッケル及びその他の希少元素が含まれており、これらの市況価格によって原材料価格が変動します。次に割合が高いものは各生産工程において使用する電気とLPGによるエネルギー費用で、原油価格や為替変動によって変動します。このように、特殊鋼事業の製造原価の大部分が、市場の需給バランスや世界情勢の影響を受けやすいものとなっております。

次に、特殊鋼事業では、お客様の要求に応え高品質・高機能な商品を安定供給するため、加工が難しい特殊鋼の製造に特化した設備を一定の規模で揃える必要があります。併せて、当社は特殊鋼鋼材や特殊合金の金属材料の製造販売を主な収益源としており、価値のある新しい機能材料を生み出し社会に供給し続けるため、材料の開発活動を継続しなければなりません。よって、特殊鋼事業では、設備の減価償却費や研究開発費等の固定費の負担割合が高くなっております。

近年は、コロナ禍を発端とした世界的なサプライチェーンの混乱、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、及び中東情勢の悪化等、原材料や電力費用等の製造コストが高騰する可能性が高まってきています。製造コストの高騰により、減価償却費や研究開発費等の固定費が回収できない場合、当社グループの業績に重要な影響を及ぼします。

○対応

当社グループでは、原材料や電力等の製造コストの高騰について、お客様に丁寧な説明を行い、適正に販売価格に反映できるよう値上げ活動を実施していきます。しかしながら、高騰した製造コストを全て販売価格に反映することは困難であることから、高付加価値商品を中心とした拡販活動を強化してまいります。特に、過年度までに投資を実行した真空誘導溶解炉や磁気焼鈍炉を最大限活用し、電磁ステンレス鋼などの高機能材料を拡販していきます。これまで取り組んできた企業風土改革やDX推進活動をさらに進め、DXによって生まれた人的リソースを柔軟に値上げ活動や拡販活動の営業活動に投入していきます。

 

②エンジン用商品市場の縮小

影響度:大

発生確率:大

○リスク

特殊鋼事業の主要な需要先である自動車産業では電動化が進み、エンジン用商品の市場は縮小すると見込んでおります。当社グループの売上高の約7割は自動車産業向けであり、その大部分をエンジンバルブ用耐熱鋼や燃料噴射装置用電磁ステンレス鋼の特殊鋼鋼材並びに自動車燃料系統用途の精密加工製品が占めています。エンジン搭載車の販売台数が減少する等した場合、当社グループの業績に重要な影響を及ぼします。

○対応

当社グループは、これまでバッテリー式電気自動車(BEV)を含めた次世代自動車向けの需要探索をしてきました。その中で電磁ステンレス鋼は、エンジン廃熱が利用できないBEVのエアコン用途として需要があることが判明しました。今後も関連する部品メーカーと情報を共有し、当社商品の需要補足を図ります。

次に、水素等の新エネルギーに関して、当社商品の燃料電池自動車や水素燃料自動車の燃料系統の材料としての需要も見えてきました。水素やアンモニア環境下での材料特性を調査し、顧客に対して当社商品の優位性を訴求してまいります。

自動車産業以外では、半導体製造装置等の新しい分野での需要の創出、新規用途の拡大を目指した取り組みも進めてまいります。今後のシリコンサイクルの回復による受注拡大の機会を逃さないよう、在庫の適正管理及び社内の生産能力の検証を実施します。併せて、既存商品以外についても半導体製造装置での用途調査を行い、拡販アイテムや顧客の選定を進めてまいります。

上記の他にも、錆びにくい電磁石である電磁ステンレス鋼等の電磁材料は電動化社会の中で利用領域が広がると見込んでおります。市場が縮小するエンジン用商品の生産ラインも含めた商品ポートフォリオの見直しを実施してまいります。

 

 

 

③重要設備トラブル

影響度:大

発生確率:中

○リスク

当社の本社工場は1990年に現在の宮城県村田町に移転し、30年以上が経過しております。これまでも定期的な設備修繕や更新を実施してきましたが、大型の工場インフラや設備では老朽化が進み、生産活動の停止や有害物質の漏洩等の可能性があります。

工場インフラや主要な設備で故障が発生した場合、生産停止の長期化による売上高の減少と修繕費用の増加により当社業績に影響を及ぼします。また、当社の製造工程には酸洗処理や有機溶剤での洗浄処理がありますが、これら工程の設備では老朽化により薬液槽から薬液漏洩の重要設備トラブルの可能性があり、漏洩した場合には薬液除去費用が発生します。

○対応

当社グループの工場保全活動では、法定点検だけではなく独自の課題抽出と補修計画の策定により、不具合の早期発見と重大な設備故障や事故の防止に努めております。大型の工場インフラと主要設備については、個別に保全スケジュールを策定し、計画的な修繕・更新を実施してまいります。

長期の工場停止に対しては、設備稼働中のトラブル予兆を適時に検知できるよう、従業員向けの点検、異常検知、簡易復旧の各手法の教育を進めてまいります。

生産活動の停止を伴う大規模な修繕や更新については、生産調整や外注加工を活用し商品出荷への影響を最小限に抑えるよう努めております。

また、故障診断や消耗品の劣化検知のためのIoT化並びに重要な消耗品管理のデジタル化等を積極的に進め、管理の効率化、省力化を図りトラブルの早期発見に努めてまいります。

 

④客先への不正データ提出

影響度:大

発生確率:中

○リスク

当社では品質マネジメントシステムを導入しております。その中で、お客様と商品の仕様について取り決め、その仕様に合致するよう品質検査を行うことになっております。原則、品質検査に合格した商品のみをお客様へ納入しております。品質検査の結果は検査証明書としてお客様へ商品納入時に発行しております。品質検査の合否については当社基幹システム内で判定されており、不合格品は出荷できないよう制限されています。なお、不合格の内容によってはお客様の承認を得た場合のみ出荷制限が解除可能となっておりますが、出荷制限の解除には独立した品質管理部門の承認を必要としております。しかし、一般的に組織的な不正を完全に防止することは困難であり、お客様へ不正データを提出する可能性があります。

品質結果の合否は基幹システムで判定することになっておりますが、その基となる情報は各種分析・検査装置で作成したものとなります。すべての装置について、基幹システムとのデータ連携を構築していないため、一部の情報は手入力で行っております。そのため、誤入力の恐れがあり、結果的にお客様へ不正データを提出する可能性があります。

お客様へ不正データを提出してしまった場合、商品の返品、交換、損害賠償請求等の費用が発生し業績に重要な影響を及ぼします。また、対象の商品が市場へ流出し重大な事故が発生した場合は、当社グループの信用力低下や取引量減少及び売上高減少の影響があります。

○対応

当社では基幹システムで商品品質の合否判定の後、品質管理担当者による検査証明書のダブルチェックを実施しており、誤入力した情報の外部流出を防いております。

品質マネジメントシステムは毎期外部の認証機関による外部監査を実施しております。外部監査では、品質検査で不合格となった商品の出荷手続も含めて品質マネジメントシステム全体の各種手続に不正がないことを確認しております。

 

⑤客先からの重大品質クレーム

影響度:大

発生確率:中

○リスク

当社グループでは、徹底した品質検査・保証管理体制を構築し、安定した品質の維持に努めております。しかしながら、すべての商品に不良がなく、製造物責任賠償が発生しないという保証はないことから、予期せぬ事情により品質不適合品がお客様へ納入される可能性があります。その場合、商品の返品、交換、損害賠償請求等の費用が発生し業績に重要な影響を及ぼします。

○対応

当社グループでは商品の品質リスクを排除し、お客様のニーズにお応えするため、製造部門において定期的に品質検討会を開催し、顧客ニーズや品質課題に関する情報の共有、課題に対する対処を行っております。

 

配当政策

3【配当政策】

 当社は、株主の皆様に対する利益還元を経営の重要課題の一つと認識し、将来の事業展開と経営体質の強化に向けた適正な内部留保とのバランスを考慮しながら、業績に裏打ちされた利益配分を行うことを基本方針としております。

 これまで改善と強化を進めてきた財務体質を背景に、今後は特殊鋼事業と不動産賃貸事業の両輪で収益力を向上させるための成長投資を実施してまいります。収益力の向上により獲得した利益につきましては、過剰な内部留保を持つことなく、配当により株主の皆様へ還元してまいります。還元の目安として、2024年度から2026年度の3年間において連結配当性向を20%から30%に段階的に引き上げてまいります。

 なお、当社は、株主への機動的な利益還元を可能とするため、会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨および会社法第459条第1項の規定に基づき、取締役会の決議をもって剰余金の配当を行うことができる旨をそれぞれ定款に定めております。また、配当の回数については中間期と期末の2回を基本とし、取締役会の決議で中間配当を、株主総会の決議で期末配当を行っております。
 当期の配当につきましては、上記の基本方針ならびに当期経営成績等を踏まえ、前期比7円減配の1株につき年間26円(中間配当10円、期末配当16円)の配当を実施することを決定いたしました。

 また、次期の配当につきましては、次期の連結業績見通し等を踏まえ、1株につき年間35円(中間配当15円、期末配当20円)を予定しております。

 

 なお、当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額

(千円)

1株当たり配当額

(円)

2023年10月30日

75,288

10.00

取締役会決議

2024年6月25日

120,461

16.00

定時株主総会決議