リスク
3 【事業等のリスク】
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
[リスク管理体制]
当社グループのリスク管理体制は、最高リスク管理責任者(CRO)を中心に、リスク統括部が事業継続に必要なリスクの管理を担い、各部署の責任者で構成するリスク管理委員会が重大リスクの選定と対策立案を行う仕組みを構築しています。また、事業の投融資案件に関連するリスクについては、事業部門から独立した投融資委員会が中立的な立場で事業性とリスク評価を実施し、経営判断に資する役割を担っています。これらの体制により、重大リスクの未然防止と迅速かつ的確な対策を通じて、リスク管理の実効性を高めています。
[事業環境に関するリスク(外的要因)]
(1)市場・需要動向に関するリスク
当社グループの主要製品の多くは主に自動車・建設機械業界に納入されており、同業界の製品需要の動向は、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。特に、国内鋼材事業では、主要需要先である建設機械業界向けは需要変動のボラティリティが高い傾向にあるほか、将来的には国内市場の縮小が想定されています。
これらを踏まえ、今後の市場成長が期待できる戦略事業の育成を進めることで、業績ボラティリティの低減と持続的成長を図ってまいりますが、これら製品の市場成長が想定通りに進まなかった場合には、当社業績や中長期計画に影響が生じる可能性があります。
これらに対しては、各事業の市場動向等を注視していくとともに、ROICを用いた事業分析で適切な事業ポートフォリオを形成することで、当社の持続的成長を図ってまいります。
(2)市場競争に係るリスク
当社グループは、基盤事業である国内鋼材事業と自動車ばね事業をはじめ、当社グループと同種の製品を供給する競合会社が存在しており、価格競争や研究開発の遅れ等により、当社の市場シェアが低下する可能性があります。また、当社の持続的成長に向け拡大を図っている戦略事業について、当初の想定通りに拡販・受注獲得が進まなかった場合に、当社グループの成長性や収益性を低下させ、当社業績や中長期計画に影響が生じる可能性があります。
これに対し、長年の操業で培った高度なノウハウの蓄積をはじめとした当社の強みを生かし、お客様のニーズに応える製品の開発・販売強化を進めるほか、戦略事業については設備投資や人的資本等の経営資源のリソース投入を適切に配分することで、競争優位性を高めてまいります。
(3)原材料・副資材・エネルギー価格等の変動に関するリスク
当社グループの主要製品は、鉄鉱石・原料炭を主原料とした溶鋼から製造しており、製造コストの多くを主原料価格が占めております。鉄鉱石・原料炭は市況の変動影響を受けることに加え、輸入による外部調達であることから為替変動の影響も受けます。他にも電極・耐火物等の副資材や電力・ガス等のエネルギーを外部から調達していることから、これらの主要原料及び副資材等の市況変動により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
これらコストの上昇に対しては、一部お客様とは売価連動のフォーミュラを構築しているほか、それ以外のお客様についても、適切なマージン確保に向け、売価転嫁の交渉を行っております。
(4)海外拠点における地政学及び為替変動リスク
当社グループは、北米・中国・東南アジア等に海外事業拠点を有しております。当該国及び周辺国における政治・経済・社会的混乱(戦争・内乱・紛争・暴動・テロを含む。)や法的規制等、更には国際的な貿易規制や関税の変更、国家・経済圏間における貿易協定に起因する影響を受けるリスクがあり、これらの影響を受けた場合には、業績に影響が生じる可能性があります。貿易規制や関税の変更等に対しては、適切な対応を行い、影響の軽減に努めております。
また、当社グループは原材料等の輸入及び製品等の輸出における外貨建取引や、連結財務諸表作成のための海外子会社の財務諸表数値は、外貨から円貨へ換算しているため、為替相場変動の影響を受けることとなります。為替相場変動のリスクを完全に排除することは困難であるものの、ヘッジ契約や親子ローンを実施している海外拠点への増資等の対応を行い、為替変動リスクを低減させております。
(5)金融市場の変動や資金調達環境の変化に関するリスク
当社グループは、事業活動に必要な資金を金融機関からの借入により調達しており、金利情勢、その他の金融市場の変動が業績等に影響を与える可能性があります。また、健全な財務体質の維持に努めておりますが、景気の後退や金融市場が悪化した場合や、当社グループの信用低下等により必要な資金を必要な時期に適切な条件で調達できない場合には、資金調達コストが増加することにより、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
特に足元では、インドネシアなどの高金利国の事業拠点における資金調達コストの影響を受けております。これに対し、運転資金圧縮等により営業キャッシュ・フローを創出し、借入金返済を進めることで、有利子負債の圧縮を図ってまいります。
(6)自然災害・感染症等の発生リスク
当社グループは、大規模な自然災害等不測の事態の発生に備え、耐震面の強化など防災対策を強化しております。また、新型コロナウイルス等の感染症が世界的に流行した場合には、感染拡大防止による法令等に基づく事業活動及び社会活動の自粛要請等により、当社グループの事業活動に制約が生じる可能性があります。
これらの不測の事態に備えるため、BCP(事業継続計画)を策定するとともに、定期的な事業継続の周知教育やBCP発令に対応する訓練の実施により、BCPの検証及び有効性の見直しを行い、事業継続の実効性向上を図っています。
(7)環境規制や気候変動に関するリスク
当社グループでは、事業活動において廃棄物、副産物等が発生いたします。そのため、環境マネジメントシステムを構築・運用し国内外の法規制を遵守し、環境保全活動を行っております。過去、現在、将来の事業活動に関し、環境に関する責任リスクを有しており、関連法規制の強化等によっては対応するための費用が発生し、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
また、気候変動が進行した場合には、炭素税などの規制強化や脱炭素化の進展による調達・製造コストの増加により、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。さらに、環境関連需要の高まりに対し当社の対応が遅れた場合に、当社の市場シェアが低下する可能性があります。これに対し、2050年カーボンニュートラルを掲げ、GHG削減の取り組みを進めるとともに、環境関連製品の開発・販売を進めることで、需要構造の変化にも対応してまいります。
気候変動に関するリスクの詳細につきましては、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組-(2)気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)」をご覧ください。
[事業運営に関するリスク(内的要因)]
(8)製品の瑕疵・欠陥に係るリスク
当社グループの製品の中には、重要保安部品など高い信頼性が求められる製品が多数含まれています。そのため、仮に瑕疵や欠陥のある製品、あるいは顧客とあらかじめ取り決めた仕様を満たさない製品が市場に流出した場合、補修・交換・回収対応や損害賠償請求、訴訟対応等にかかる費用が発生し、当社グループの評価および業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
このようなリスクに対し、当社グループでは、各製造拠点において国際的に認証された品質管理基準に基づき、製品の製造を行っております。また、瑕疵・欠陥のある製品や仕様不適合製品の市場流出を未然に防ぐための厳格な品質管理体制を構築しています。さらに、品質データの改ざん・偽装を未然に防止することを目的とした品質監査マニュアルを策定し、これに基づいて各拠点への定期監査を実施することで、品質不正の抑止と是正体制の実効性向上に努めています。
(9)設備事故・労働災害のリスク
当社グループの生産設備の中には、高温、高圧での操業を行っている設備があり、高熱の生産物等を取り扱っている事業所もあります。対人・対物を問わず、事故の防止対策には万全を期しておりますが、重大な労働災害の発生や、設備事故等の発生により当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
これに対し、各事業所における安全パトロールや各種コンクールの開催による安全意識・技量の向上等の取り組みに加え、各拠点の安全担当者による「安全担当者会議」を継続的に開催し、管理レベルの向上や情報・問題認識の共有を図るほか、災害発生時には「安全協議会」を開催し、原因・対策について部署間を超えて協議を行うことで、設備事故・労働災害の撲滅を図っています。
(10)人材確保と育成に係るリスク
当社グループは、事業の維持、成長のため、必要な人材の確保に努めておりますが、今後、国内生産年齢人口の減少や人材の流動化の進展等により、人材の確保が想定どおりに進まない可能性があります。また、戦略事業育成に向け、当該事業のノウハウを持つ人材の確保・育成を進めていますが、想定通りに人材の確保・育成が進まなかった場合に、当社グループの成長性や収益性を低下させ、当社業績や中長期計画に影響が生じる可能性があります。
これに対し、当社グループでは「2023中期経営計画」で「人材への投資」を基本方針の一つに掲げ、従業員エンゲージメント向上に向けた取り組みを進めるとともに、ありたい姿の実現に向け戦略事業への人材の配置や必要スキルの育成等、「戦略事業を伸ばす人的資本投資」を具体的に加速させてまいります。人的資本の取り組みの詳細は、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組-(3)人的資本」をご覧ください。
(11)情報システムの障害・情報漏洩等のリスク
当社グループの事業活動は、情報システムの利用に大きく依存しており、情報システムの利用とその重要性は増しております。震災等による情報システムのBCP対策としてシステムのクラウド化または二重化等でより安定的なシステム運用の取り組みを行っております。また、自社及び顧客・取引先の営業機密や技術情報、個人情報等の機密情報を保有しておりますが、機密情報の漏洩対策については最重要の経営課題として認識し、システムによる防御対策に加えて従業員への教育を含む、情報セキュリティ強化を行っております。しかしながら、当社グループの情報システムにおいて、悪意ある第三者からのウイルス感染等のサイバー攻撃により、システム停止、機密情報の外部漏洩や棄損・改ざん等の事故が起きた場合、生産や業務の停止、知的財産における競争優位性の喪失、訴訟、社会的信用の低下等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。なお、これら万が一の不測の事態に対し被害を最小限に留められるよう、グループ全社でサイバーセキュリティ保険の加入等、リスク度に応じた対策を講じています。
(12)人権侵害のリスク
当社グループは、国内外で事業を行い、サプライヤーも国内外多数の国に及んでいます。当社グループやサプライチェーンにおいて、差別やハラスメント、強制労働や児童労働など人権に係る問題が発生し、適正に対応がされなかった場合、訴訟や行政罰、社会的信用の低下等が生じ、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
当社グループは人権の尊重が事業活動の基本であるとの考えのもと、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、「三菱製鋼グループ人権方針」を定めております。また従業員向けの人権に関する研修により意識の浸透を図っているほか、国内外のグループ会社に加え、主要サプライヤーを対象に人権デューデリジェンスを実施し、当社のサプライチェーンにおいて人権侵害が発生していないか調査を実施しています。
(13)その他の法令・公的規制に関するリスク
当社グループは、日本及び事業展開する各国において、環境、労働・安全衛生、通商・貿易・為替、知的財産、租税、独占禁止法等の事業関連法規、その他関連する様々な法令・公的規制の適用を受けており、万が一、遵守できなかった場合、課徴金や行政処分を課されるなどにより業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、これら法令・公的規制が改正もしくは変更される場合、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
これに対し、法令やコンプライアンス違反などの防止に向け内部通報制度の制度見直し・社内浸透策の実施や一部海外拠点への導入により体制の充実を図っているほか、2025年4月よりリスク統括部に法務グループを設置し、同部にて法務・コンプライアンス・情報セキュリティ等を一元的に所管することで、当社グループを取り巻く法規制リスク全般について、把握・評価、管理・モニタリング、対処等、一連のプロセスの可視化を図り、リスク対応機能の拡充を行っています。
配当政策
3 【配当政策】
配当につきましては、業績及び財務・財政状況などを総合的に勘案して決めております。
当社グループでは株主還元を重要施策の一つと位置付けており、2024年2月に配当方針の見直しを行い、今中期経営計画期間(2024年3月期~2026年3月期)中は、配当性向30%を目安とするとともに、1株当たりの下限値を年間60円とすることといたしました。さらに同年11月には、収益力の向上に連動する形で、1株当たりの下限値を年間64円に引き上げております。
当事業年度の剰余金の配当につきましては、上記方針に基づき、中間配当は1株当たり30円としており、期末配当については1株当たり34円とすることを、2025年6月20日開催の定時株主総会で決議する予定です。従いまして、議案が原案どおり可決された場合、年間の配当金は1株当たり64円となる予定です。
毎期における配当の回数につきましては、中間期と期末の2回を基本とし、取締役会の決議で中間配当を、株主総会の決議で期末配当を行っております。
内部留保資金については、将来に向けた事業展開、財務体質の強化に充てる考えです。
また、当社は会社法第454条第5項の規定により中間配当をすることができる旨を定款に定めております。
なお、当社グループではさらなる株主価値向上に向けて、2025年5月に配当方針を見直し、株主還元の強化を図ることといたしました。 2026年3月期の配当は、連結配当性向40%を目安とするとともに、1株当たり配当金の下限値を年間80円といたします。また今後は、自己株式の取得を含めた総還元性向50%以上を目指してまいります。
(注)基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は、以下のとおりであります。