2025年3月期有価証券報告書より

リスク

 

3 【事業等のリスク】

(1)リスクに関わる当社の取組

当社グループでは、事業の継続性と安定的発展を確保するため、事業を取り巻くリスクに関わる課題及び対応策を総括的に協議、推進、進捗管理する組織として、従前からリスク管理委員会を設置しています。この体制のもと、具体的には、当社グループの経営理念、経営目標、経営戦略の達成を阻害する様々なリスクに対して、最適なコストで適切な処理を行うため、個別リスク事象毎に対応策の策定、取組等を担う主管部門と推進責任者を定め、リスク管理のための活動を推進しています。

なお、当社のリスク管理体制については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (3)リスク管理」及び「4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ③ 企業統治に関するその他の事項 ア.業務の適正を確保するための体制及び当該体制の運用状況 (ア)業務の適正を確保するための体制の整備にかかる決議の内容 3.損失の危険の管理に関する規程その他の体制」、及び「同(イ)業務の適正を確保するための体制の運用状況の概要 3.損失の危険の管理に関する規程その他の体制」をご覧ください。

 

(2)事業等のリスク

当社グループの事業等のリスクについて、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があると考えられる事項を以下に記載します。

ただし、これらは当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではありません。また、これらのリスクは将来に関する事項も含まれていますが、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

① 特定用途向けの需要が大きな割合を占めていることによる需要変動のリスク

 金属チタン事業の主力製品の一つであるスポンジチタンは、航空機向け用途が需要の中心です。

触媒事業の中核製品である「THC」触媒は、プラスチック製品であるポリプロピレンの需要に影響を受けます。また、化学品事業における超微粉ニッケル及び高純度酸化チタンも、積層セラミックコンデンサなどの電子部品向けの用途が需要の大部分を占めています。このように当社グループの事業は、セグメント別では特定用途向けの需要が大きな割合を占め、当該用途先業界の好不調により販売量が大きく変動する傾向があります。

具体的には、航空機向けのスポンジチタンは、これまで、世界の経済情勢や航空旅客数の動向や、航空会社による航空機の更新やメンテナンス需要の動向等により、大きな幅で好不調を繰り返してきました。2020年度には新型コロナウイルス禍の影響による航空機産業の事業環境悪化を受け大幅な需要減となった一方、その後は徐々に回復基調にありました。近年では、2022年のウクライナ紛争を契機に、地政学的リスクから欧米顧客がロシアからのチタンの調達を見直したことにより、ロシアを除く当社を含む生産国に対する需要が急拡大しています。一方、従来比較的堅調であった触媒事業においては、昨今の中国経済の停滞影響を受け、当社顧客である中国、東アジアを中心としたポリプロピレンメーカーでの触媒需要が減少しています。

同様の理由から、化学品事業では、主要顧客の電子部品メーカーの生産調整の影響を大きく受け超微粉ニッケル等の需要が減少しています。

このため、当社グループは、事業の多角化、製品の新たな用途開拓、競争力ある製品の提供により、その影響を最小限にすべく努めていますが、用途先業界の状況変化によっては、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。なお、当社グループの製品の価格は、需要の動向により大きく変動する傾向があります。顧客と交渉を重ね適切な価格設定を進めていますが、需要の動向によっては製品価格が大幅に下落し、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

 

② 原料代及び電力代の上昇に伴うリスク

金属チタンの製造コストは、原料代及び電力代がその相当部分を占めております。原料鉱石については、鉱石を同じく原料とする他業種での景気動向や、原料産地の地政学的リスクに影響を受けます。また原油、LNG、石炭等の資源エネルギー価格の変動は、製造プロセスでの電力使用量が多いチタン事業では、電力代の増加につながります。

ウクライナ紛争の影響による足元の原料及びエネルギー価格の上昇は、地政学的リスクの実現の顕著な例と言えます。当社はこれまでもこれらコスト上昇影響を緩和すべく、比較的安価な低品位鉱石の使用による原料の多様化や、省エネなどコスト削減に取り組んでまいりましたが、これらコスト低減努力を上回る原料価格や電力単価の上昇が継続した場合、あるいはコストアップ分の製品価格への転嫁等が十分できない場合には、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

   また化学品事業の主要原料であるニッケル地金は国際市況により取引価格が決定されます。当社顧客との間では、この国際市況価格を、一定期間の後、製品価格に反映する取引と、交渉により製品価格が決まる取引があります。したがって原料ニッケル価格の変動は、製品価格へ反映タイミングの期ズレや、交渉での転嫁が難しい場合には当社グループの期間損益や業績に大きな影響を与えることになります。当社では、国際市況価格が反映される取引に関しては、先物取引によるヘッジを利用してその影響を緩和する等対応策を実施していますが、国際市況価格が短期的にかつ急激に変動する場合には、当社の業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 輸出比率が高いことによる為替リスク

金属チタン事業のスポンジチタンや、触媒事業のTHCにおいては、輸出が販売量の大きな割合を占めており、当社グループ全体の売上高に占める輸出の割合は、当連結会計年度実績で60.6%でした。輸出の多くはUSドル建のため、為替による影響を受けます。当社グループは、短期的な変動に関し為替予約取引によるヘッジを行うなど、為替リスクを低減すべく努めていますが、為替が大きく円高に振れた場合には、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

 

④ 自然災害等に関するリスク

当社グループは、製品のほとんどを自社で生産しており、自然災害による工場施設に対する被害により、製品の生産・販売に支障が生じる可能性があります。特に、茅ヶ崎工場は、東海地震の地震防災対策強化地域内に所在しており、設備の耐震強化、防災諸設備の整備、防災体制の強化、防災訓練の実施などの対策に努めているほか、生産設備の複数拠点化(BCP)の検討を進める等リスク低減を図っています。しかし自然災害の規模及び内容によって、当社グループの業績や財務状況に悪影響が及ぶ可能性があります。

また、原材料においても調達先の複数化や適正在庫の確保など各種対応に取り組んでいますが、自然災害の規模及び内容により、当社グループの業績や財務状況に悪影響が及ぶ可能性があります。

 

⑤ 環境・安全に関するリスク

当社グループは、製造現場を持つ企業として、安全確保と環境保全は事業運営上、最も重視しなければならない事項と認識しています。特に設備面での老朽化が進む茅ヶ崎工場では、設備インフラの中期的更新計画を進め、さらに全社的に推進している抜本的な安全対策投資とあわせ、安全操業の維持と環境保全に万全を期して取り組んでいますが、万が一、事故・災害等が発生した場合は、操業の停止・制約や環境コスト、あるいは対策コストの発生により、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

また、金属チタン事業は、現在、好調な需要を受け、スポンジ生産設備は高い稼働を続けており、予期せぬ操業の停止・制約が起こった場合には、計画している販売量の未達や長期契約を締結する顧客に対する供給責任の未達等により、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 

⑥ 品質に関するリスク

素材メーカーである当社グループの社会的使命は、顧客に満足していただける製品・サービスを安定的に提供することにあります。そのため、当社グループは、ISO9001に基づく品質マネジメントシステムを整備するとともに、組織的に対応するための体制構築及び維持・改善のためのインフラ投資を行うことで、品質管理に万全を期しております。しかしながら、万が一、品質不良や品質事故などが発生した場合には、是正処置にかかるコストの発生や、当社グループ製品に対する評価の低下により、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

 

⑦ 知的財産に関するリスク

当社グループは、特許権等の知的財産権を重要な経営資源の一つと捉え、法令に従い適切な取得保全手続きを行うと共に、知的財産権を含む第三者の権利を侵害することの無いよう細心の注意を払っています。しかしながら、当社グループの技術が十分に保護されず、又は当社グループが第三者の技術を侵害した場合には、収益機会の喪失・減少や損害賠償の支払いなど、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

当社グループでは、知的財産権管理の専門部署を設け、的確な対応に努めています。

 

⑧ 情報漏洩に関するリスク

業務上の過失や不正アクセス等、何らかの原因により顧客情報や個人情報が流出した場合には、損害賠償や信用の失墜等、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

当社グループでは、情報管理に係る規則を定め厳格な運用を行うと共に、必要なシステム対策を講じています。

 

⑨ 親会社等との関係に関するリスク

当社は、JX金属㈱の子会社であります。当社とJX金属㈱との間には、①当社からJX金属㈱への高純度チタンの販売、②JX金属㈱から当社への各種金属の溶解加工委託、③JX金属㈱から当社への非常勤役員の派遣、④JX金属グループから当社への従業員の出向等の関係があります。

 当社と親会社との関係については、当社の自主性・独立性を確保したうえで、両社の企業価値向上を目指し連携・協力しあうことを基本と考えております。取引の条件等は協議・交渉を行ったうえで決定しており、当連結会計年度の当社の親会社への売上高も当社売上高総額の3.01%であり、当社が受ける制約はありません。

しかしながら、親会社は当社の議決権の過半数を有しており、当社の株主総会における取締役の選解任等を通じて当社の経営判断に大きな影響を及ぼし得る立場にあるため、その議決権の行使は当社の少数株主の利益に反する可能性があります。なお、JX金属㈱による当社株式保有比率は、将来に亘って一定とは限りません。当該比率に大きな変動が生じた場合には、当社株式の流動性、株価形成に影響を及ぼす可能性があります。

 
 (注)これまで当社の親会社であったENEOSホールディングス㈱は、当社の直接の親会社であるJX金属㈱の上場(2025年3月19日)に伴い、同社が保有するJX金属株式の一部売出しによって、当社の親会社に該当しないこととなりました。

 

⑩ 海外事業に関するリスク

当社グループは、チタン事業の中長期的な競争力向上を目的として、サウジアラビアでのスポンジチタン生産合弁事業に参画しております。当社(35%出資)とサウジアラビアの石油化学メーカーであるタスニー社のグループ企業AMIC社(65%出資)が共同で設立したAdvanced Metal Industries Cluster and Toho Titanium Metal Co.,Ltd.(ATTM社)は、2019年度にサウジアラビアのヤンブーにおいて、スポンジチタンの生産を開始しましたが、新型コロナウイルス感染症の影響等により立ち上げが遅れ収益性が低下した結果、同社は固定資産に係る減損損失を計上し、2020年12月末時点において債務超過となりました。

当社の連結財務諸表においてATTM社は持分法で会計処理されており、2021年3月期連結会計年度において持分法適用上の同社への投資簿価をゼロまで減額し、持分法による投資損失を計上しました。同社の欠損を負担する責任が投資額の範囲に限られていることから、持分法による投資損失の計上リスクはありません。

営業関連では、当社のスポンジチタン販売が好調であり、かつAMIC社側での引取ニーズが小さいため、現在のATTM社のスポンジ生産品の大半は当社が引き取っており、当社の重要なスポンジ調達先となっています。ATTM社のスポンジチタン生産に技術的な問題や何らかの制約が生じた場合、当社の販売面で影響を及ぼす可能性があり、そのことで当社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、契約上、将来、AMIC社サイドでのチタン下流事業が立ち上がり、スポンジ引取が発生し始めた場合、当社の必要とする引取量に制約が生じる可能性があります。

当社としては、対応可能な支援を継続することとし、引き続き同社を取り巻く事業環境や同社の業績動向を注視してまいります。

なお、当連結会計年度におけるATTM社との取引等に関しては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 関連当事者情報」に記載のとおりです。

 

⑪ 法令等へ抵触するリスク

当社グループは、国内外において事業を展開しており、許認可・通商・環境・税制・独占禁止法等各国の様々な法令・規制の適用を受けています。将来における法令等の新設・変更等が行われた場合、事業活動の停止・制限や対策コストが生じる可能性がありますが、不断の情報収集を通じその予防・回避に努めています。

中でも、脱炭素社会実現への取組は世界的に加速している状況にあり、炭素税等法規制が厳格化する可能性があります。これに対し当社グループは、生産工程におけるCO2排出低減技術や再生可能エネルギー施策の活用等により、カーボンニュートラルの実現を目指し、当該リスクの低減を図る考えです。

また、当社グループは、行動基本方針に「コンプライアンスの最優先」を掲げると共に定期的な教育を行うなど法令等の遵守に努めていますが、万が一これらの法令等への違反が認められた場合、各規制当局からの処分、訴訟の提起や社会的信用の失墜等により、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

 

⑫ 投資に関するリスク

当社グループは、中期経営計画において「成長分野への重点投資による収益基盤の強化」を基本戦略として掲げるなど、継続的に様々な能力増強等のための設備投資等投資を行っています。

投資にあたっては、かねてより需要予測や当社グループの競争力などから採算性を慎重に判断し実施していますが、将来の正確な予測は困難であり、販売量の増加やコストダウン等の投資による効果が当初計画を下回って推移した場合、償却費負担の増加や該当資産に係る減損損失の計上などにより、当社グループの業績に悪影響が及ぶ可能性があります。

 

⑬ 人材確保に関するリスク

当社グループの持続的な成長のためには、人材の確保は非常に重要な要素です。

人材の確保が十分にできない場合には、生産・販売・サービス等のレベル低下により、当社グループの財政状態及び経営成績等に影響をもたらす可能性があります。そのため、国籍や性別などにこだわらない多様な人材の採用活動を積極的に行うだけではなく、シニア社員には60歳以降も高いモチベーションで活躍してもらうために2023年4月より、定年年齢を60歳から65歳に延長しました。また、優秀な人材を確保するための魅力ある人事施策として、2024年度より、ポスティングシステム(社内公募制度)やキャリアチャレンジ(従業員が新たな職務への異動希望を会社に伝える仕組み)を導入しました。さらに、有能な人材確保のために取り組むだけではなく、設備の省力化・合理化等の設備投資を行うことで、労働生産性の向上を進めています。

配当政策

 

3 【配当政策】

当社は、利益配分に関しましては、連結配当性向30~35%程度を目安に、業績に応じた配当を実施するとともに、安定的な株主還元にも配慮し、少なくとも連結純資産額の2%以上の年間配当を継続して行うことを基本方針としております。

この方針のもと、当期の期末株主配当金につきましては、1株当たり10円といたしました。中間配当金の8円と合わせまして、年間配当金は1株当たり18円となりました。

 

連結配当性向及び1株当たり配当額の推移は以下のとおりであります。

回次

第90期

第91期

第92期

第93期

第94期

決算年月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

2025年3月

連結配当性向(%)

28.9

28.5

34.5

34.4

1株あたり配当額(円)

12

15

30

24

18

 

(注) 1.第90期の配当性向は、1株当たり当期純損失であるため、記載しておりません。

   2. 第93期の1株当たり配当額には、創立70周年記念配当3円を含んでおります。

 

なお、当社は、会社法第459条第1項の規定に基づき、取締役会の決議によって剰余金の配当等を行うことができる旨を定款に定めており、中間及び期末の年2回の配当を基本方針としております。

 

当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりであります。

 

決議年月日

配当金の総額
(百万円)

1株当たり配当額
(円)

2024年11月8日

取締役会決議

569

8.0

2025年5月14日

取締役会決議

711

10.0