2025年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

(1) グローバルな事業活動を支える統合リスクマネジメント

 当社グループでは、統合リスクマネジメントというグループ共通のフレームワークでリスクマネジメントを行っています。経営・事業を取り巻く環境変化のスピードが上がり、不確実性が高くなる中で変化に迅速に対応するためには、リスクへの感度を上げ、リスクが顕在化する前に察知し、打ち手を講じていく必要があるためです。

 現場だけでは対処できない環境変化から生じる問題を、現場と経営が力を合わせて解決する活きたリスクマネジメントを目指し、グローバルでPDCAサイクルを回しながら、当活動の質の向上を図っています。

 「SF2030」を実現していくため、企業理念やルールを守りつつ、いかに効率的、効果的で迅速なリスク判断を現場ができる仕組みを構築するかという点も重要なテーマとして、取組みを進めています。

 

(2) 統合リスクマネジメントの仕組みと体制
 統合リスクマネジメントの枠組みは、内部統制システムの下、グローバルリスクマネジメント・法務本部長(GRL長)を推進責任者とし、オムロングループルール(OGR)(注1)「オムロン統合リスクマネジメントルール」にまとめ、グループ経営における位置づけを明確にしています。また、リスクマネージャを本社機能部門、ビジネスカンパニー、海外の地域統括、国内外の各グループ会社で任命し(約150名)、経営と現場が一体となってグローバルの活動を推進しています。

 

 主な活動は次の3点です。

・環境変化をタイムリーに把握して、関係者で共有し、適時に影響評価を行うこと

・定期的に、グローバルにリスクを分析して重要リスクを洗い出し、対策をとること

・リスクが顕在化し、危機が発生した場合は、即時に報告し危機対策を講じること

 

<企業倫理リスクマネジメント委員会体制>

 取締役・監査役の参加・監督のもと、GRL長を委員長、主要なリスクマネージャを構成員とする企業倫理・リスクマネジメント委員会(原則年4回開催)においては、重要なリスクの発生状況、環境変化、リスク対策の状況について議論・共有するとともに、グループ全体のリスク評価を行っています。また、危機が発生した場合には、速やかに経営報告され、リスクのランクに応じて危機対策本部を通じて対応を行っています。

 これらリスクマネジメントの活動状況については、執行会議や取締役会への報告を通じ、継続的な評価・モニタリングが行われます。さらに、内部監査部門により、リスクマネジメント活動を中心としたテーマ監査が行われます。

 

<統合リスクマネジメントのサイクル>

 

(注1)当社グループでは、公正かつ透明性の高い経営を実現する経営基盤として、グループ共通の「オムロングループルール(OGR)」を制定しています。OGRは、リスクマネジメントの他、会計・資金、人財、情報セキュリティ、品質保証等の主な機能に対し制定されています。環境変化等を適宜・適切にルールへ反映するため、毎年見直しを行っています。

 

(3) グループ重要リスクとその分析

 当社グループでは、「SF2030」において、「新たな社会・経済システムへの移行」に伴い生じる社会的課題を解決するため、事業ドメインにおける社会価値創出、事業とサステナビリティとの一体としての取組みを行っています。2024年4月1日から2025年9月末については構造改革期間とし、構造改革プログラム「NEXT2025」を実行中です。これらを遂行する中で対処すべき重要な要素を、リスクと捉えています。

 リスクのうち、当社グループを運営する上で、グループの存続を危うくするか、重大な社会的責任が生じうるリスク(Sランク)および重要なグループ目標の実現を阻害するリスク(Aランク)を「グループ重要リスク」に位置付け、これらを顕在化させることなく許容レベルにリスクを収めるため、環境変化や対策の実行状況をモニタリングしています。

 

・2024年度末時点のリスク評価

 2024年度末に実施した当社グループのリスク分析に基づくグループ重要リスクのテーマは下表の通りです。引き続き「NEXT2025」の実行に伴うリスク、事業スピードの加速や収益性の改善を図る中でのグループガバナンス・コンプライアンスリスク等については特に注視をしていきます。これらのリスクは、適切かつ充分な対策が取られなかった場合、長期ビジョン目標の実現、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があるため、投資家の皆様の判断にも重要な影響を及ぼす可能性がある事項と考えています。ただし、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見出来ない又は重要とみなされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月23日)現在において当社グループが判断したものです。

 

<事業等のリスクの全体像>

 

 

・グループ重要リスクへの対応

① 事業ポートフォリオ

リスク認識

中国経済の成長鈍化やサプライチェーンの混乱など経済環境が悪化、米国関税政策等を背景とし

た一時的な新規投資の減速や個人消費の減退など、今後もボラティリティが高い不透明な状況が続くことが見込まれます。

 当社グループにおいて、成長業界・エリアの需要拡大に的確に応えていく中、現在依存度の高い中華圏エリアや各事業で成長の牽引役となる事業・製品の事業環境が想定以上に悪化し、環境変化に対して適切な対策が十分に行われなかった場合、売上減少等の業績低迷や、収益を伴った持続的成長が実現しないリスクが発生する可能性があります。

体制・取組

「NEXT2025」のもと、成長事業・エリアへの優先投資や低収益事業の収益化、終息の検討などを

実行する等、業界・エリアポートフォリオの最適化に取り組みます。また、米国関税政策の影響に対しては、価格転嫁によるコスト増の吸収に加え、関税政策への耐性を備えたサプライチェーンを構築しリスクを最小化します。

 「NEXT2025」の詳細は、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4) 構造改革プログラム「NEXT2025」の進捗と将来の成長に向けた取組み」をご参照ください。

 

② 品質

リスク認識

品質に対しては高い安全性や正確性の確保が求められ、AI利用や製品セキュリティ等の新たな技

術に対しても法規制の検討・制定が進んでいます。また、環境負荷低減や生物多様性の保全に対する社会的要請も高まっており、循環経済への移行に向け、欧州等グローバルで包装材の規制等が強化されています。

当社グループにおいて、高い信頼性が求められる多様な製品・サービスをグローバルに展開する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、損失の発生や売上減少、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・当社グループ製品の大規模リコール

・製品環境・安全・セキュリティ関連の法規制違反

・製品セキュリティの脆弱性に対するサイバー攻撃によりネットワーク製品・サービスの稼働停止

体制

社長を最高責任者とする品質保証体制を構築し、「品質第一」を基本とする「品質基本方針」の

もと、グローバル購買・品質・物流本部が推進しています。重大な品質問題が発生した場合は、取締役会の監督のもと、迅速かつ適切に対応を行っています。

・関連OGR:品質保証ルール、製品品質リスク管理ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・ISO9001等(ISO13485:医療機器産業、IATF16949:自動車産業)品質マネジメントシステム(QMS)の取得

・サービス事業に適合したQMSの適用展開

・安全リスクが高い技術(リチウムイオン電池、パワーデバイス等)に関する品質技術確立

・製品セキュリティ体制強化(外部からの脆弱性情報収集と対応(PSIRT)・セキュリティ監視活動等)

・製品環境、安全、セキュリティ関連の法規制・規格の動向の把握、影響評価を行う管理体制の強化

・品質相談窓口の設置・運用、品質コンプライアンス研修、現場品質点検の実施

[注力取組事例:現場品質点検]

 構造改革による人員数の最適化・リソース配分の見直しを進める中、品質・生産性への影響を早期かつ的確に捉えるため、現場品質点検を実施し、モニタリング体制を強化しています。

 

③ 会計・税務

リスク認識

企業のグローバル化や取引のボーダーレス化が加速し、会計基準や監査基準はますます複雑化・

高度化しています。また、各国間の協調・連携により国際課税ルールの整備が進む一方で、米国で展開される関税施策等に対し、各国は様々な反応を示しており、企業には、変化の激しい各国の租税法、関税法、移転価格税制への適時的確な対応が求められています。

 当社グループにおいて、モノづくりからデータを活用したソリューションビジネスへの進化、多様な新サービスや新事業のグローバル展開を加速する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、決算修正や損失の計上、多額の追徴や和解金の支払い、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・社内不正や会計基準に準拠しない不適切な会計処理の発生

・市況の悪化やシステム等への投資効果が十分でないことによる資産の貸倒や評価額の下落

・関税法や移転価格税制等に関する法規制違反

体制

財務報告に係る内部統制の基本的枠組み、取締役会で承認した「税務方針」(注1)のもと、グローバ

ル理財本部を中心に、会計・税務の適正性を担保するための体制・ルールを整備し、運用しています。

・関連OGR:会計・資金ルール、不正統制ルール、J-SOX推進ルール、関税・通関ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・内部統制の自主点検強化とリスク兆候への重点監査

・外部専門家等を活用した会計基準の定期的な情報収集と影響等の調査・対応

・OECDの各種報告書や新しい国際課税ルールの整備状況などを踏まえた国際税務に係る方針の見直し

・現地法人と連携した各国・地域における税制や当局の執行状況の変化への対応

・関税コンプライアンス体制およびモニタリングの強化

[注力取組事例:構造改革に伴う不適切な会計処理の防止]

 構造改革施策を進める中、経理体制のモニタリングや財務諸表・CAAT分析の強化を通じて、不適切な会計処理の未然防止に努めました。

  (注1)「税務方針」については下記をご参照ください。

    https://www.omron.com/jp/ja/sustainability/governance/tax/

 

④ IT・情報セキュリティ

リスク認識

社会課題の解決や企業の成長に向けたDXやデータ活用のためのデジタル投資が加速する中、サイ

バー攻撃等に対する情報資産保護やプライバシー保護の必要性が高まっています。また、AI等新たな情報技術についても規制の検討や導入が進んでいます。

 当社グループにおいて、「コーポレートシステムプロジェクト」をはじめとするIT投資やデータを活用した新たなサービスを拡大する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、損失の発生や重大な行政罰、売上減少、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・大規模なシステム障害

・サイバー攻撃や個人・技術情報の管理不全による情報漏洩、事業の停止

・各国データプライバシー規制違反

体制

基本方針として「情報セキュリティ基本方針」を制定し公表しています。施策については、統括

担当取締役の監督のもと、情報セキュリティ、製品セキュリティ、個人情報管理の領域ごとに、各本社機能本部長が執行責任者として統制・管理しています。各領域を横断する課題については、サイバーセキュリティ統括担当執行役員が議長となり、サイバーセキュリティ統括担当取締役が監督する「サイバーセキュリティ統合会議」を随時開催し、解決しています。さらに、経営レベルで推進の方向付けを行うために、社長を議長とする「情報セキュリティ戦略会議」にて優先課題と戦略を議論しています。実行面においては、サイバーセキュリティ統括担当役員を議長とし、各地域のIT責任者が参画する「情報セキュリティ推進会議」を通じて施策を推進・管理しています。また、個人データについては、グローバルリスクマネジメント・法務本部長の責任のもと、各国法令動向や当社グループの状況を把握し、法規制対応の強化を図っています。

・関連OGR:IT統制ルール・情報セキュリティルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・グローバル標準のフレームワークであるNIST-CSF(注1)に準拠した評価と対策の強化

・外部専門機関を通じた包括的な脅威情報の収集とグループ内への対策の展開

・インシデント対応オフィス(CSIRT)による事故発生時の迅速な報告と被害最小化に向けた対応

・高リスクのサプライチェーンのセキュリティ確保のためリスク評価と対応の推進

・情報リテラシー向上のための社員教育

・サイバー攻撃訓練の実施

・Webサイトの脆弱性診断と改善の実行

・グローバルでの個人データ規制への対応体制構築

[注力取組事例:情報漏洩対策の強化]

 情報資産の価値が高まり、人材の流動化も進む中、パソコンやネットワークのログをモニタリング・分析し、懸念のある挙動に対して確認や調査を行う仕組みの導入を進め、情報漏洩リスクへの対策を強化しています。

  (注1)NIST-CSF:米国国立標準技術研究所(NIST)が2014年に発行したサイバーセキュリティフレームワーク(CST)。

    汎用的かつ体系的 なフレームワークで、米国だけでなく世界各国の公的機関や企業が準拠を進めている。

 

⑤ 地政学

リスク認識

世界のパワーバランスの多極化が進む中、米国による関税引上げ等の保護主義政策をはじめとす

る各国の政策動向、半導体・AI等の先端技術等の競争・保護政策の激化等は、グローバルの経済秩序や国際平和と経済安全保障をめぐる情勢の流動化を加速し、企業活動にも大きな影響を与えています。

当社グループにおいて、生産・販売拠点およびサプライヤー網をグローバルに展開し、またロボット等先端技術や経済安全保障政策にも関わる製品の開発等を進める中、適切な対策が十分に行われなかった場合、売上減少や戦略の見直し、重大な行政罰、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・サプライチェーンの見直し等、各国経済安全保障政策への対応が遅れ、競争力が低下

・紛争発生に伴う製品供給の停止

・輸出規制や制裁への違反

体制

事業対応方針については、取締役会や執行会議等の経営会議体にて議論し、決定しています。法

規制対応については、各主管部門が統括し、例えば、輸出規制はグローバルリスクマネジメント・法務本部が輸出管理全社委員会のもと、グローバルに安全保障取引管理を行っています。

・関連OGR:統合リスクマネジメントルール、安全保障取引管理ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・地政学リスク影響を低減する中長期的な生産・研究開発等の体制検討と推進

・グローバルの政治・経済情勢や法規制動向のモニタリング、経済制裁等に対する影響分析と対応

[注力取組事例:安全保障取引管理の強化]

 各国の輸出規制や制裁が強化・複雑化する中、安全保障取引管理について取引管理体制のOGR改定を含む整備を行うとともに、主要グループ会社へ教育の強化を行い、グローバルでの体制強化を進めています。

 

⑥ 事業継続(自然災害等)

リスク認識

洪水・豪雨、巨大地震等の自然災害や感染症の発生により、社会が機能不全に陥る可能性がグロ

ーバルで継続しています。

当社グループにおいて、グローバルの様々な国や地域に存在する仕入先や生産拠点を有する中、予期できない災害等が発生し、適切な対策が十分に行われなかった場合、事業活動の一部停止や縮小等につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・ITインフラ等の大規模停止

・自社工場の生産停止

・重要仕入先からの長期にわたる部品供給停止

体制

人身の安全、社会インフラの維持、復興への全面協力等を定めた基本方針のもと、各ビジネスカ

ンパニーと本社機能部門とが連携し、生産、購買調達、物流、ITを含めた事業継続計画を整備しています。

・関連OGR:統合リスクマネジメントルール、購買ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・有事を想定したシミュレーション・訓練

・社員の安否確認システムの運用、リスクに応じた事業所での非常食や飲料水の備蓄対応

・仕入先の生産地情報の一元管理、代替え生産拠点の評価体制整備

・緊急時のエスカレーションルート・影響を把握する仕組みの整備

[注力取組事例:有事を想定したシミュレーション]

 南海トラフ地震等の被害想定が随時更新される中、重点拠点を中心に継続的に事業継続計画を見直すことで、危機発生時の対応体制を強化しています。

 

⑦ グループガバナンス・コンプライアンス

リスク認識

公正な取引をはじめとするコンプライアンスに対する社会的要請は高く、国際機関や各国政府に

よる反競争法的行為や贈収賄防止等に対する法規制の運用強化や、ITやAI等技術の進化やアライアンス等によるイノベーションの推進に対応した規制の検討等、事業環境は複雑化しています。日本では、サプライチェーン全体での価格転嫁等を促進する要請も高まっています。また、一部の新興国、地域においては法による統治機能が脆弱であったり、政情が不安定であることから、汚職や腐敗等が社会問題化する場合があります。

 当社グループにおいて、グローバルに新製品・サービスの開発や販売を加速する中、適切な対策が十分に行われ

なかった場合、重大な行政罰、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・新規事業における業法違反、許認可取得に関する不備

・競争法、下請法等の公正な取引に関する法規制違反

・接待・贈答等の贈収賄に関する法規制違反

体制

企業倫理・コンプライアンスを含む内部統制システムの基本方針は、取締役会で議論し決定して

います。「オムロングループマネジメントポリシー」のもと、OGRに基づくグループ会社におけるガバナンス体制の構築と運用、企業倫理リスクマネジメント委員会による活動の展開を行っています。

・関連OGR:法人運営ルール、倫理行動ルール、内部監査ルール、購買ルール等

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・各機能主管部門におけるグローバルでの牽制とモニタリング

・地域毎のリスクマネジメントにより、エリア特性に応じた重要リスクへの対応

・毎年10月のグローバル企業倫理月間等による定期的なコンプライアンス教育

・グローバル内部通報制度の運用

・リスクアプローチに基づく内部監査と改善指導

・購買統括部門における対象事業所に対するモニタリング・下請法研修

[注力取組事例:コンプライアンス教育]

 構造改革における大きな環境変化の中で起こり得るコンプライアンス問題をテーマとした教育を行うとともに、社員が安心して相談できるよう内部通報制度の再周知を行いました。

 

⑧ 人権

リスク認識

強制労働、児童労働、低賃金や未払い、長時間労働、安全や衛生が不十分な労働環境、ハラスメ

ント等の是正は社会課題となっており、人権への配慮は企業のビジネスライセンスとなっています。また、デューディリジェンスによるサプライチェーンの人権への負の影響の特定・防止・軽減・是正や人権侵害懸念国・地域からの輸入禁止等、人権の尊重を法規制で担保する取組みも進んでいます。さらに、AIの活用等技術革新による人権課題も生じており、各国でのAIに関する規制化も加速しています。

当社グループにおいて、中国・アジアを含むグローバルで事業を展開し、また、事業でのAI活用を推進する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、取引停止・製品の開発中止や戦略の見直し、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・ハラスメントの発生、労働基準違反、労働安全衛生問題の発生

・サプライチェーン上の人権課題の発生

・AIに関する規制への非準拠

体制

人権課題への対応については、取締役会決議により制定されたオムロン人権方針に基づいた活動

を行っています。具体的な執行体制としては、社長CEOから権限委譲されたサステナビリティ推進担当役員の責任のもと、グローバルコーポレートコミュニケーション&エンゲージメント本部が中心となって取組みを推進し、自社領域はグローバル人財総務本部長、サプライチェーン領域はグローバル購買・品質・物流本部長、事業戦略領域は各ビジネスカンパニー長、AIを含むテクノロジーの倫理的な活用については技術・知財本部長、救済メカニズムについてはグローバルリスクマネジメント・法務本部長がそれぞれ責任を持って対応しています。

・関連OGR:HRMルール、労働安全衛生管理ルール、購買ルール

取組

具体的には、企業の人権尊重責任を果たすために、国連「ビジネスと人権に関する指導原則

(UNGP)」に沿って、以下を含む対策を推進しています。

・RBA(注1)アセスメントツールを活用した人権リスク評価と課題の是正

・仕入先に対するサステナブル調達ガイドラインの提示・遵守状況確認

・AIに関する情報収集およびAIを事業で活用するための社内ルールの整備

・グローバルでの人権救済メカニズムの運用

[注力取組事例:AIガバナンス体制の構築]

 「オムロンAI方針」の策定、適切なAI使用の支援・リスク低減を図るAIガバナンス委員会の運用開始を通じて、AI活用に起因する事故や人権侵害等のリスクを最小限にした上で安全・安心なAI利用を推進しました。

  (注1)RBA:Responsible Business Allianceの略。電子業界を中心とするグローバルなCSRアライアンス。

 

 

⑨ 人財・労務

リスク認識

グローバルで人財の流動化が進むなか、IT人財をはじめ先端技術を保有する希少な人財の獲得競

争がこれまで以上に激化しています。また、世界的なインフレや人手不足を契機として、賃金水準はグローバルで上昇傾向にあります。このような環境においては、多様な人財から選ばれる人的資本経営を実行し、従業員のエンゲージメントを高めることが重要となります。

当社グループにおいて、SF2030人財戦略ビジョンに向けて、一人ひとりが主体性を持って能力を惜しみなく発揮し、持続的に成長していく強い組織づくりを進める中、適切な対策が十分に行われなかった場合、事業競争力の低下やブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・事業成長のために必要なスキルや経験を持つ人財の流出や獲得の失敗

・従業員のエンゲージメント低下や労務トラブルの発生

体制

重要な人財戦略については、取締役会・執行会議にて議論し、決定しています。CHRO(最高人事責

任者)の下、グローバル人財総務本部が中心となり施策を実行しています。

・関連OGR:HRMルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・多様な人財の獲得に向けた採用力の強化

・多様な人財の成長や働きがいを高めるためのマネージャーのスキル強化

・エンゲージメントサーベイ「VOICE」を通じた、組織課題への主体的な社員のアクションの促進

[注力取組事例:ピープルマネジメントスキルを自ら高めていくサイクルの定着と加速]

 経営層(執行役員・マネージャー)が、顧客への価値創造に向けて、多様な人財の能力と主体的な貢献意欲を引き出すピープルマネジメントスキルを高めていく仕組みを構築し、定着と活性化に取り組むことにより、リーダーシップの質の変革を進めています。

 

⑩ 環境

リスク認識

世界各地で異常気象による大規模な自然災害が多発しており、世界的に脱炭素に向けた取組みが

加速しています。また、生態系の破壊等は地球レベルでの社会課題となっています。これらの環境問題を受けて、欧州を中心に排出量取引制度の整備や森林破壊防止を求める取引のデューディリジェンス規制の制定等が進んでいます。また、企業の環境課題への取組みに対する開示要請は年々高まっており、内容の第三者保証を法規制化する動きも進んでいます。

 当社グループにおいて、サステナビリティ重要課題「脱炭素・環境負荷低減の実現」を設定し、企業としての社会的責任の実践と各事業での更なる競争優位性の構築を図る中、適切な対策が十分に行われなかった場合、戦略の見直し、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・環境に関する新たな取引・開示規制への違反・対応コストの増加、顧客要請への不十分な対応

・販促活動においていわゆるグリーンウォッシングといわれる不適切な広告開示

体制

環境課題への対応については、取締役会決議により制定されたオムロン環境方針に基づいた活動

を行っています。

具体的な執行体制としては、社長CEOから権限委譲されたサステナビリティ推進担当役員の責任のもと、グローバルコーポレートコミュニケーション&エンゲージメント本部が中心となって取組みを推進し、自社領域はグローバル人財総務本部長、サプライチェーン領域はグローバル購買・品質・物流本部長、事業戦略領域は各ビジネスカンパニー長がそれぞれ責任を持って対応しています。

・関連OGR:環境経営ルール、購買ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・Scope1・2、Scope3カテゴリー11ごとに目標を設定した温室効果ガスの削減の加速

・回収・リサイクルの拡大、循環型の原材料調達等による循環経済への移行

・気候変動関連のリスク・機会に係る情報開示

・TNFD(注1)提言に沿った生物多様性保全活動の推進

[注力取組事例:環境評価制度を通じた製品ライフサイクル全体における環境パフォーマンスの可視化]

 製品をライフサイクルの視点から評価し、環境パフォーマンスを可視化する「環境評価制度」を導入しました。制度を通じて、全製品が環境に配慮した「環境配慮製品」であることを確認するとともに、特定の環境特性において優れた効果を示す「環境貢献製品」を特定し、製品付加価値の透明性・信頼性向上を図りました。

  (注1)TNFD:自然関連財務情報開示タスクフォース。自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築するための国際的組織。

⑪ 知的財産

リスク認識

知的財産は企業における国際競争力の源泉として重要な経営資源となっており、企業や国家間で

知的財産を巡る競争が激化するとともに、スタートアップ企業との事業連携における公正取引上の課題も指摘されています。また、コロナ禍を契機とした電子商取引(EC)市場の急激な発展に伴い、正規品を騙った模倣品の流通が新興国を中心にグローバルで年々増加しています。

当社グループにおいて、共創によるイノベーションで新たな価値を生み出す新規事業を創造し、多様な製品をグローバルに展開する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、損失の発生や売上減少、ブランド価値の棄損につながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・当社グループの技術・ノウハウの流出やブランドの模倣

・特許等の侵害や不正使用に関する紛争の発生

・事業戦略に連動した知財活用が十分に行われず事業競争力を喪失

体制

技術・知財本部を主管として、基本方針に基づく知的財産活動を実行しています。また、知的財

産戦略については定期的に取締役会にて報告・議論されています。

・関連OGR:知的財産管理ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・IPランドスケープを活用して研究テーマの方向性決定や協業先選定の確度を高める取組み

・事業や研究開発と連動させた知的財産戦略を策定・実行し、強みのある知的財産権を蓄積

・研究開発および設計にあたっての第三者の知的財産権調査

・第三者の当社グループへの知的財産権の侵害に対する分析・評価と権利行使の強化

・オンライン取引も含む模倣品摘発活動、悪意を持った当社ブランド名と類似した商標権取得の阻止

 

⑫ M&A・投資

リスク認識

社会課題を解決する手段として、テクノロジーの進化が求められる中、技術力のある企業との協

業を通じたイノベーションの加速が期待されています。一方、経済安全保障政策による投資規制化等の動きもあります。

 当社グループにおいて、ポートフォリオマネジメントのもと、アライアンス、M&A、スタートアップとの共創に向けた投資等を推進する中、適切な対策が十分に行われなかった場合、損失の計上や戦略の見直しにつながる以下のようなリスクが発生する可能性があります。

・M&A・投資先の業績・評価の悪化や想定していたシナジー効果の未発揮、ガバナンス問題の発生

・海外投資規制への対応によるM&Aや出資審査の想定外の長期化

体制

M&A・投資の方針と実行は、投資規律のもと、経営ルールに定める責任権限に基づき取締役会等の

経営会議体にて議論・決定し、案件ごとに、ビジネスカンパニーと本社部門および外部専門家から構成されるプロジェクトチームにより推進しています。

・関連OGR:経営ルール

取組

具体的には、以下を含む対策を推進しています。

・事業戦略に基づいたM&A・投資候補の探索・評価

・対象企業の財務内容や契約内容の確認等の詳細な事前審査・デューディリジェンス

・取締役会における、買収や出資後の経済効果の具体的目標進捗のレビュー(少なくとも年に1回)

 

配当政策

3【配当政策】

 当社は、定款の定めに基づき取締役会決議によって行う中間配当を除き、剰余金の配当等の決定については株主総会に諮ります。

 当社は、株主の皆さまへの還元を含む利益配分に関しては、次の基本方針を適用しています。

 

  キャッシュアロケーションポリシー

(1) 長期ビジョンの実現による企業価値の最大化を目指し、中長期視点で新たな価値を創造するための投資を優先します。ただし、2024年4月~2025年9月末までの「構造改革期間」は、全社のリソースを集中して構造改革プログラム「NEXT2025」に取り組み、「業績の立て直し」と「収益・成長基盤の再構築」を実現するために必要な投資を最優先で実行します。その上で、安定的・継続的な株主還元を実行していきます。

(2) これら価値創造のための投資や株主還元の原資は内部留保や持続的に創出する営業キャッシュ・フローを基本とし、必要に応じて適切な資金調達手段を講じて充当します。なお、金融情勢によらず資金調達を可能とするため、引き続き財務健全性の維持に努めます。

 

株主還元方針

(1) 中長期視点での価値創造に必要な投資を優先した上で、毎年の配当金については、「株主資本配当率(DOE)3%程度」を基準とします。そのうえで、過去の配当実績も勘案して、安定的、継続的な株主還元に努めます。

(2) 上記の投資と利益配分を実施したうえで、さらに長期にわたり留保された余剰資金については、機動的に自己株式の買入れなどを行い、株主の皆さまに還元していきます。

 

 当期(2024年度)の期末配当金については、業績状況を鑑み、DOE基準ならびに過去の配当額の水準も考慮したうえで安定的・継続的な配当とするため、52円とする予定です。2024年12月3日に実施済みの中間配当金52円を加えると、年間配当金は104円となる予定です。

 次期(2025年度)の年間配当金については、上記の方針に沿って、104円とする予定です。なお、次期の中間(第2四半期末)および期末の配当金は未定です。

 

<株主還元の推移>

 (注)1 当社は、中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本としています。

2 剰余金の配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会です。

3 当社は、「取締役会の決議によって、毎年9月30日を基準日として中間配当を行うことができる。」旨を定款に定めています。

 

4 総還元性向の算出式は次のとおりです。総還元性向=(現金配当額+自己株式の取得金額)/当社株主に帰属する当期純利益(純損失)(単元未満株の買取分は含まない)。

5 当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりです。

決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2024年11月6日

10,266

52.00

取締役会決議

2025年6月24日

10,265

52.00

定時株主総会決議(予定)

 

 

<株主総利回り(TSR)の推移>

 

(注)TSRは、2019年度末時点の株価を基準として算出しています。