リスク
3【事業等のリスク】
当社グループでは、当社グループの事業活動に影響を与える可能性のあるリスクを的確に把握し、適切な対策を講じることによって、事業目的の達成と持続的かつ安定的な発展をより確実なものにすることを経営における重要課題と位置づけ、「パナソニックグループリスクマネジメント基本規程」に基づきグループのリスクマネジメント活動を推進しています。
リスクマネジメントの専任部門であるパナソニック ホールディングス㈱(以下、「PHD」)のエンタープライズリスクマネジメント室(以下、「PHD ERM室」)がリスクマネジメント活動を推進し、グループ・チーフ・リスクマネジメント・オフィサーを委員長、PHDの各機能部門のトップを委員とした「PHD エンタープライズリスクマネジメント委員会」(以下、「PHD ERM委員会」)を定期的に開催しています。
当社グループは、短期的な事業目的の達成に向けた事業計画の遂行や日常的な業務遂行において「損失」や「脅威」となる不確実な事象を「オペレーショナルリスク」と定義しています。当社グループでは年1回のサイクルで、外部要因・内部要因の変化等を踏まえて想定されるオペレーショナルリスクを網羅的に洗い出すことで「リスクインベントリー」を更新し、インベントリー上の全てのリスクを対象として、財務・非財務両面の評価軸によるリスクアセスメントを実施しています。PHD ERM委員会では、当該評価を基礎として、当社グループの経営・事業戦略と社会的責任の観点から審議を行い、当社グループの経営上重要かつグループ全体で一定水準以上の管理が必要なリスク(以下、「グループ重要リスク」)を決定します。決定したグループ重要リスクについては、当該リスクを担当する機能部門が中心となって、対応策の策定・実行及び進捗状況のモニタリングに取り組む中で、継続的な改善を目指しています。
オペレーショナルリスクのマネジメントに加えて、当社グループでは、中長期的な事業目的の達成に向けた事業戦略の策定・意思決定に際して考慮すべき「機会」又は「脅威」となりうる不確実な事象を「戦略リスク」と定義し、リスク許容度に応じた適切なリスクテイクを推進するリスクマネジメントを実施しています。戦略リスクに関しては、事業戦略に影響する可能性のあるリスクについて、リスクシナリオから「機会」もしくは「脅威」、又はその両方になりうる事象の単位まで管理対象を細分化することにより、当該リスクを担当する機能部門を特定しています。当該事象に対しては、不確実性及び発現した際の影響度の評価を行い、必要な事象については対応策を策定・実行し、それ以外の事象についてはリスク発現の予兆を捉えるための先行指標の設定及び定期的なモニタリングの対象とし、外部環境の変化等に応じた適時の対応を講じることとしています。このように、当社グループでは、対象となる時間軸や影響の種類に応じたリスクマネジメントを推進することで、事業とリスクの一体的な管理に貢献し、事業競争力強化に結びつけることを目指しています。
PHD ERM委員会は、これらのリスクマネジメントのPDCAサイクルに基づき、グループ重要リスクや対応策の進捗状況等を定期的に取締役会及びPHD戦略会議に報告しています。また、内部監査機能が連携し、リスクアセスメント結果に基づき選定したテーマによる監査を実施しています。
また、各事業会社においても、「事業会社ERM委員会」を設置し、自主責任経営のもと各事業会社グループのリスクマネジメント活動を同様のサイクルで推進しています。各事業会社では、グループ共通のリスク項目にそれぞれの事業領域に応じたリスクを追加したリスクインベントリーを用いてリスクアセスメントを実施し、事業会社経営上の重要リスク(以下、「事業会社重要リスク」)を決定します。
そして、各事業会社では、決定されたグループ重要リスク及び事業会社重要リスクに対して、対応策の策定・実行及び進捗状況のモニタリングを実施します。特にグループ重要リスクに関しては、グループで共通の対策に加えて、各リスクを担当する事業会社の機能部門がPHDの機能部門と連携し、当該事業会社の事業領域に応じ必要な独自の対応策を策定・実行します。PHDの機能部門は各事業会社におけるグループ共通及び独自の対応策の進捗状況をモニタリングすることで、当社グループ全体でリスクが適切に管理されていることを確認し、必要な場合は適宜対策の見直しや徹底を促しています。
加えて、当社グループでは、適切かつ健全なリスクテイク及びリスクコントロールを志向する「リスクカルチャー」を醸成するため、入社時及び海外赴任前の従業員を対象として、リスクマネジメントの基本的な考え方や危機発生時の対応等に関する研修を実施しています。グループの成長及び将来にわたる社会の発展に貢献するため、従業員一人ひとりのリスク対応力向上を図っています。
このような枠組みにより、PHDでは当社グループ全体のリスクマネジメントの推進及び高位平準化を図っています。
[リスクマネジメント体制図]
[リスクマネジメントプロセス]
なお、当社グループの2024年度の主なグループ重要リスクと、それらの「3 事業等のリスク」における記載箇所は下記のとおりです。
[グループ重要リスク(オペレーショナルリスク)]
[グループ重要リスク(オペレーショナルリスク・戦略リスク)該当項目]
事業活動に影響を与える可能性のあるリスク(グループ重要リスクを含む)のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を以下に記載しています。ただし、これらは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載された事項以外の予見しがたいリスクも存在します。当社グループの事業、業績及び財政状態は、かかるリスク要因のいずれによっても著しい悪影響を受ける可能性があります。有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識しているリスクは、以下のとおりです。なお、下記「(2) 当社グループの事業運営活動に関するリスク」及び「(4) コンプライアンス・訴訟・レピュテーション等に関するリスク」については、事業活動に影響を与える可能性の程度に応じて、「特に重視しているリスク」及び「重視しているリスク」に分けて記載しています。また、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日(2024年6月25日)現在において判断したものです。
(1) 経済環境に関するリスク
経済状況の変動
当社グループの製品・サービスに対する需要は、それらの販売を行っている国又は地域の経済状況の影響を受けるため、世界の市場における景気後退及びこれに伴う需要の減少により、当社グループの事業、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。2024年度の経営環境は、日本において設備投資需要が堅調に推移し、実質賃金の改善を背景に個人消費も持ち直すことが期待され、緩やかな持ち直しが見込まれますが、世界経済は中東情勢やウクライナ情勢などの地政学リスクに加え、欧米を中心にこれまでの金融引き締めによる実体経済への影響が懸念され、先行きの見通しにくい状況が続き、当社グループはこうした影響を少なからず受けるとみられます。このようなリスクに対処するため、新たに事業構造改革の実施が必要となった場合、それによる費用増大等の可能性があります。
世界経済が想定以上に悪化する場合や、急激な社会の構造的変化、消費者の消費行動変化が起こる場合等には、当社グループを取り巻く経営環境が現在の予想よりも厳しくなる可能性もあり、その結果、当社グループの事業、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。
このような経営環境の変化に対して、当社グループは今後も影響を見極めつつ適切な対応策を取ってまいります。
為替相場の変動
外貨建てで取引されている製品・サービス等のコスト及び価格は為替相場の変動により影響を受けるため、それにより、当社グループの事業、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。加えて、海外の現地通貨建ての資産・負債等は、連結財務諸表作成の際には円換算されるため、為替相場の変動による影響を受けます。当社グループでは総じて、現地通貨に対する円高は業績に悪影響を及ぼし、円安は業績に好影響を及ぼしますが、一部通貨に対する円安は、輸入商品価格の上昇を通じて、事業によっては業績に悪影響を及ぼすこともあります。
2023年度は、前年度と比較して、ドルやユーロに対して円安に動いたことによる輸出影響が大きく、全体として業績に対して好影響を及ぼしました。また2024年度については、年間を通してドルやユーロに対して円高に動くと想定しており、全体としては業績に対して一定の悪影響が生じることを見込んでいます。しかしながら、為替相場に過度な変動があった場合には、当社グループの事業、業績及び財政状態が大きな悪影響を受ける可能性があります。これらのリスクに対して、事業活動を通じて得た外貨を同一外貨建ての支出に充てる「為替マリー」や、将来における外貨の売却価格もしくは購入価格と数量を事前に契約しておく「為替予約取引」、消費地に近い地域で製品の生産を行う「地産地消型製造」等により、経営への影響の軽減を図っています。
金利の変動
金利の変動により支払利息、受取利息あるいは金融資産及び負債の価値が影響を受けるため、それにより、当社グループの事業、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。また、当社グループは事業資金等を円及び他通貨での有利子負債等により調達しており、国際的な政情不安等による経済情勢の変化を受けた金融市場の不安定化や、金融政策の変更等により金利が上昇した場合、資金調達コストが増加する可能性があり、それにより、当社グループの事業、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。
資金調達環境の変化
当社グループは、事業資金等を社債・コマーシャルペーパーの発行等により調達しています。当社グループは、国際的な政情不安等、様々な外的要因により金融市場が不安定となり、又は悪化した場合、あるいは格付機関による当社の信用格付の引下げ等の事態が生じた場合、必要な資金を必要な時期に適当と考える条件で調達できない等、資金調達が制約されるとともに、資金調達コストが増加する可能性があり、それにより、当社グループの事業、業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。これらのリスクに対して、当社グループでは、事業の競争力強化や運転資本の圧縮等を通じて、事業からのキャッシュ・フロー創出力向上を図るとともに、保有資産の見直し等のバランスシートからの資金創出に継続的に取り組む等、資金創出力の強化に努めています。なお、2024年6月に複数の金融機関との間で期間を3年間とする総額6,000億円のコミットメントライン契約(注)を締結しており、現金及び現金同等物の残高とあわせて十分な流動性を確保することで経営への影響の軽減を図っています。
(注)コミットメントライン契約:金融機関との間で予め契約した期間・融資枠の範囲内で融資を受けることを可能とする契約
株式価値の下落
当社グループは、金融資産の一部として国内外の企業等の株式を保有していますが、株価下落等の株式価値の減少により、親会社の所有者に帰属する持分が減少する可能性があります。
(2) 当社グループの事業運営活動に関するリスク
a. 特に重視しているリスク
国際的な事業運営における障害
当社グループは、海外市場での事業拡大を戦略のひとつとしていますが、海外では為替リスクに加え、政情不安(テロ・戦争等を含む)、経済動向の不確実性、宗教及び文化の相違、現地における労使関係等のリスクに直面する可能性があります。また、投資規制、収益の本国送金に関する規制、現地産業の国有化、輸出入規制や外国為替規制の変更、税率変更等を含む税制改正及び移転価格課税等の国際課税リスク、海外での商慣習の差異といったさまざまな政治的、法的その他の障害に遭う可能性があります。
特に、昨今の貿易規制・経済制裁に関する各国の法規制の変更は、グローバルに生産拠点を持ち、製品を供給している当社グループの事業に大きな影響を与えます。当社グループはこうした動向を注視し、グローバルで連携して日々の情報収集及びITの活用により、当社グループの事業に影響のある新たな貿易規制・制裁を早期に把握し、グローバルポリシー、ガイダンスを適宜更新する等の対応や、新たな規制分野で対象となる貨物・技術の該非判定を徹底して実施しています。また、社内への周知徹底、取引リスク回避のための対応策の発信等、国内外の従業員啓発にも取り組み、ガバナンス及びコンプライアンスのさらなる強化に努めています。
また、経済安全保障分野については、各国で産業基盤強化の支援やサプライチェーンの強靭化、先端的な重要技術の研究開発、機微技術の流出防止や輸出管理強化等の施策の推進・強化が進められる中、我が国でも2022年に成立した「経済安全保障推進法」が施行されています。今後の経済安全保障政策の動向が当社グループの事業に与える影響を絶えず注視しながら対応をしてまいります。
地政学リスクについては、国際情勢に加えて欧米諸国、中国等の政策・法規制の動向に関するモニタリングを通じて、当社グループの事業への影響の把握及び適時の対応に努めています。米中対立に関しては、貿易摩擦に端を発する市場のデカップリングや各国の経済安全保障政策の強化、世論の対極化等に起因する事業環境の急激な変化によって、グローバルに生産拠点や市場を有している当社グループの事業、業績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に、特定重要物資の重要鉱物のうち、電気自動車(EV)用リチウムイオン電池の主要負極材料である黒鉛に関しては、当社の子会社であるパナソニック エナジー㈱が、北米企業及び北米に供給拠点を持つ企業との間で供給契約を締結するなど、北米でのサプライチェーン強靭化及び電池材料生産時の環境負荷低減の実現に努めています。他方で、このような取り組みの推進にかかわらず、米中対立に伴うさらなる輸出規制の強化やサプライチェーンの多角化が進まないことによって、当社グループの事業、業績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。ロシア・ウクライナ情勢に関しては、これまでの当社グループの業績及び財政状態に直接与える影響は軽微でしたが、軍事侵攻が長期化する中、エネルギー・原材料価格のさらなる高騰等によって、今後、事業、業績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。さらに、中東情勢の緊迫化に関連し、それ以外の国・地域を含む国際情勢が不安定化することで、当社グループの事業、業績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、これらの国家間・地域内の対立や武力行使等の激化に加えて、各国の政権交代や政策転換等に伴って政治的・社会的混乱が広がった場合、事業環境の変化がさらに加速又は不透明化し、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、中長期的視点でのサプライチェーンの複線化や製品の地産地消も見据えた生産体制の点検・再構築に取り組んでいくとともに、こうした動向について、事業に対する脅威及び各国の経済安全保障政策に基づく税制関連措置の活用等の機会も含めて引き続き注視してまいります。
環境問題・気候変動
当社グループでは、気候変動を含む地球環境問題の解決は、当社グループが目指す「物と心が共に豊かな理想の社会の実現」という遠大な使命の中で最優先で取り組むべき課題であると考えています。
特に重視しているリスクとして、環境問題への意識の高まりに伴う、国際社会での環境規制・政策の導入・拡大があげられます。2023年3月に国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、パリ協定に基づく世界のCO₂ 排出削減量の達成に向けたさらなる段階的な目標を示したことで、企業の取り組みにも一層の加速が求められています。また、欧米をはじめとした、電気・電子機器に関するリサイクル及び「修理する権利」の法制化により、修理を前提とした製品の長寿命化や原材料の再資源化等に応えるビジネスモデルへの変革が喫緊の課題となっています。これらの動向を注視し、環境重視の政策・環境規制に対応した新規技術・事業開発の機会の拡大や、サステナブル・エシカル消費といった消費者の意識変化による環境志向型の製品やサービスの需要拡大を見据えた事業活動を実施してまいります。一方で、炭素税や排出権取引制度等のカーボンプライシングの導入等によりエネルギー調達コストが増加すること、排出権の購入を余儀なくされること、環境負荷の低い材質への切り替えにより製造コストが増加すること、低炭素製品のコモディティ化等により、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、こうした環境問題対策が遅れることにより欧州をはじめとする各国市場への事業進出機会の喪失や取引停止等による事業機会の喪失につながる可能性があります。加えて、各国のエネルギー安全保障、気候変動対策に関連する法制度に基づく税控除、補助金等を活用した事業機会への参入にあたり、想定通りの効果が得られず、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、米国IRA(インフレ抑制法)をはじめとする気候変動対策関連の法制度が廃止又は縮小される場合、また、当該事業環境の変化に起因して製品需要が当社グループの見込みを割り込む場合は、当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。とりわけ、パナソニック エナジー㈱の車載電池事業に関連し、米国の自動車CO₂排出規制の緩和等の政策によって北米自動車市場のEV化率のスピード及び顧客需要が当社グループの見込みよりも低下する場合は、設備投資計画が後ろ倒しとなる可能性の他、車載電池の減産等により、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、資源不足・資源制約によるサーキュラーエコノミーの進展により、再生可能エネルギーの積極利用による企業価値の向上が図れる機会が増大すると同時に循環資源を用いた低炭素製品の需要拡大も見込まれます。一方で、循環資源(再生材・再利用原材料)の価格上昇・供給不足による生産コストの増大や生産の遅延が頻発・常態化する可能性があります。脱炭素循環型社会への移行状況について、EUにおける炭素国境調整メカニズム(CBAM)、米国におけるグリーンニューディール政策その他の各国の関連法令等に関する動向を中心に注視してまいります。
2021年5月に、当社グループは「2030年にグループのCO₂排出を実質ゼロ」を目標とすることを発表しました。また、2022年1月には、グループ長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT(以下、「PGI」)」を発信し、私たちが提供する商品を通じてお客様が排出するCO₂も含めた自社バリューチェーン全体の1.1億トンのCO₂排出に見合う削減の責務を果たすことに加え、さらに幅広い事業領域を活かして、社会へのCO₂削減貢献量を拡大するとの方針を示しています。その目標として、2050年までにグループの事業活動を通じて、現時点の全世界のCO₂総排出量の「約1%」にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指します。特に大きなCO₂削減貢献目標を掲げている事業である環境車向け車載電池事業や欧州での空質空調事業による貢献に向けた取り組みに加えて、エネルギーの地産地消を目指し、水素及び太陽光発電で燃料電池工場の稼働に必要な電力の100%を再生可能エネルギーでまかなう「RE100ソリューション」の実証施設の稼働を2022年にスタートさせています。
また、当社グループでは、2022年7月に、2050年の目標に向けたマイルストーンとして2024年までの環境行動計画「GREEN IMPACT PLAN 2024」を策定し、自社バリューチェーンにおけるCO₂排出の削減量(OWN IMPACT)、既存事業による社会へのCO₂排出の削減貢献量(CONTRIBUTION IMPACT)、サーキュラーエコノミー領域のそれぞれにおいて、2024年までに実現する具体的な行動計画と2030年の目標をあるべき姿からのバックキャスト(逆算)で定めています。この2024年までに、当社グループでは37拠点でCO₂排出の実質ゼロ化を実現することを計画しており、2023年度はパナソニック エナジー㈱の二色の浜工場がCO₂ゼロ工場として本格生産を開始するなど、計画実現に向けて取り組みを拡大しています。
一方で、現時点において削減貢献量は国際的に統一された算定方法が確立されていないことから、当社グループでは積極的に認知活動及び標準化に向けた働きかけを行っています。2023年3月には当社が参画する「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」及びGXリーグからそれぞれ削減貢献量のガイダンス・指針が発表されたことを受け、同じく当社が参画する「国際電気標準会議(IEC)」における国際規格化への議論の状況と合わせてこれらに準拠した算定に取り組むとともに、2023年度には先行して当社グループの「サステナビリティ データブック」で製品分野毎の削減貢献量の算定式及び算定事例をルール化に先行して開示しています。しかしながら、当社グループが現在採用している方式と異なる算定方法が標準化された場合には、当該時点において削減貢献量の見直しを行う可能性や、目標の達成状況が変動する可能性があります。
また、当社グループでは地球環境問題において、資源効率が脱炭素化に寄与するとともに、地球上の限られた天然資源の消費を削減することが必要であることを認識し、持続可能な社会の実現に貢献するため、2023年12月に当社グループの事業活動においてサーキュラーエコノミーを推進・具体化する上で共通の指針となる「サーキュラーエコノミーグループ方針」を策定しました。あわせて、サーキュラーエコノミーの重要性を踏まえて、当社グループの事業運営の基盤となるPGIのステートメントを改定し、各事業におけるさらなる取り組みの強化に繋げてまいります。
当社グループは、地球温暖化の進展による特定の商品・サービスに対する需要の変化や、環境問題への意識の高まりによる国際社会での環境規制・政策の導入・拡大を見据えながら、関連ビジネス市場を通じてこうした活動を強化し、環境問題、気候変動問題に取り組んでまいります。
情報セキュリティ及びサイバーセキュリティに関するリスク
当社グループは、事業の過程で、顧客等のプライバシーや信用に関する情報(顧客の個人情報を含む)や、他社等の機密情報を入手することがあります。また、顧客や他社等の情報以外に、当社自身の営業秘密(当社グループの技術情報等)を取り扱っています。これらの情報は、システムの不正アクセスやサイバー攻撃を含む意図的な行為や従業員や業務委託先の過失等により外部に流出する可能性があります。
また、当社の製品・サービス、生産設備、管理システムは、インターネットを利用するものが増加しており、製品・サービスへのネットワークを介した予期せぬ侵入、不正操作等による外部への機密情報・個人情報の漏洩、外部への情報流出、サービス停止、工程への影響等が発生する可能性があります。さらに、当社の製品・サービスにサイバーセキュリティ上の脆弱性が発見された場合、当社製品の大規模なリコールや製品・サービスの長期間の提供停止等に発展することに加えて、多大な対策費用等が発生する可能性があります。また、製造業である当社グループにおいては、サイバーセキュリティインシデントの発生による当社グループへの原材料、部材の供給停止又は当社グループが提供元となる提供先への悪影響等、いわゆるサプライチェーンにおけるサイバーセキュリティリスクも当社グループの事業へ影響を与える可能性があります。
当社グループでは、より高度な情報セキュリティレベルを実現するために、IT環境の健全性の確保及びサイバーレジリエンスの向上に取り組んでいます。特に、国内のみならず海外子会社のインフラを含むネットワーク、サーバ、パソコン等を対象としたさらなる異常監視の拡大及び工場内部のセキュリティ監視との一体化と、グローバルかつ一元的なセキュリティ監視体制の強化のための対策を実施しています。また、従前より当社グループの製品やサービスのセキュリティを検査、担保する体制を整備し、運営のさらなる強化に努めています。さらに、技術的な対策に加えて、情報セキュリティ教育プラットフォームの構築及びグローバルの従業員に対する定期的な教育実施、システム運用等の委託先に対する定期的なセキュリティチェックの取り組み等、人的な対策も強化・推進しています。各国の個人情報保護又はサイバーセキュリティに関する法令・規制については、その動向を外部専門家とともに調査したうえで、当社規程等へ反映、社内へ周知する仕組みを運営することによって、法令・規制等への対応を進めています。
2023年度はサイバーセキュリティ強化に向けた取り組みとして、情報、製品、工場セキュリティの共通機能を統合し、複合的なサイバーセキュリティリスク及びサプライチェーン全体への一元的・網羅的な対応を推進するため、4月よりPHDに「サイバーセキュリティ統括室」、各事業会社に「サイバーセキュリティ統括責任者」を設置しました。これらの組織に関連機能部門を含めた機能横断でのサイバーセキュリティ対応推進体制を構築し、サイバーハイジーンとサイバーレジリエンスの戦略的な実行に向けて連携を図っています。また、インシデント発生時の対応プロセスの見直しと合わせて、PHD及び事業会社の組織横断によるインシデント対応訓練を実施し、グループ内での連携を確認しました。
一方で、当社として最大限の防御策は講じるものの、激化・巧妙化するサイバー攻撃を完全に防御できず、その結果、事業活動の停止・中断や当社グループのイメージ・評判の低下により、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
AI(人工知能)の利活用に関するリスク
生成AI等のAIの急速な技術進歩及び普及に伴い、昨今、様々な分野でのAIの活用が進んでいます。当社グループにおいても、AIの特性に起因するリスクへの対応を図りながらAIの利活用を段階的に拡大し、業務の生産性向上や新たなビジネスアイデア創出、事業競争力の向上を目指しています。
当社グループでは、AIの利活用の拡大に伴う機会及び脅威を見極めるとともに、グループ全体で適時・適切な対策を講じるため、全事業会社のAI倫理の担当者に加えて法務、知財、情報、品質部門等の担当者が参画する「AI倫理委員会」を設置しています。2022年には責任あるAI活用を実践するため「AI倫理原則」を定め、AI開発現場でのAI倫理リスクチェックシステムの運用、グループ全社員を対象としたAI倫理教育やAI技術人材育成の推進によって、グループ横断のAIガバナンス体制を強化しています。
当社グループでは、2023年2月から当社の子会社のパナソニック コネクト㈱が「Azure OpenAI Service」を基に開発したAIアシスタントサービスを国内全社員対象に提供開始したことを皮切りに、4月からは当該サービスの対象を当社グループの国内全社員約9万人に拡大し、本格的な利用を開始しました。一方で、これらの利用に際しては、特に個人情報をはじめとする生成AIへの入力及び出力情報の取り扱いを含めた適切な情報活用についての注意喚起を徹底しています。
また、当社グループでは、AIの利活用加速に向けたAI技術戦略として、基盤モデルと少数データ学習により、わずかなデータで導入できるAIや、端末機器への効率的な実装を実現するロボティクス・エッジAI技術により多様なフィジカル空間へ簡単に実装できるAIなど、あらゆるお客様にAIを素早くお届けするための「Scalable AI」、そして、先に挙げたグループ横断のAIガバナンス体制に加え、AIへの信頼性に関する技術開発により、あらゆるお客様の信頼にこたえる「Responsible AI」の取り組みを強化しています。特に、AIの信頼性に対しては、要素技術と開発プロセスの両面からアプローチすることで、説明性や信頼性を担保することに努めています。「人間のための」「人間による」「人間に寄り添う」責任あるAI利活用を通じて、一人ひとりの生涯の健康、安全、快適へのお役立ちを果たすことを目指しています。
一方で、AIの効果的な利活用や開発が想定通り進まない場合は、当社グループの事業機会や製品・サービスの競争力が失われ、当社グループの事業に悪影響を及ぼす可能性があります。また、AIの利活用に伴ってプライバシー、セキュリティ、公平性及び著作権の侵害その他のコンプライアンスに関連する問題が発生した場合、当社グループのブランドイメージや信用が失われるだけでなく、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
有能な人材確保における競争
当社グループは「企業は社会の公器である」という考え方を経営の基本とし、人材についても社会からお預かりした貴重な経営資源として、「社員稼業」と「衆知経営」を実践し、事業の創出と成長の源泉及び組織活力の維持を担う人材の継続的な確保に努めています。
このような理念のもと、2023年3月に新たな採用ブランドスローガンとして「誰かの幸せのために、まっすぐはたらく。」を制定しました。当社グループにおける幅広い事業領域や職種を有するパナソニックグループの「多様な挑戦の機会」、「人づくり」を大切にする風土のもと、「誰かの幸せのために、まっすぐはたらきたい」と思える仲間と共に、これからの幸せをつくりたいという想いを込めています。
また、当社グループでは、一人ひとりが心身ともに健康で、挑戦の機会を通じて幸せと働きがいを感じている状態、つまり「社員のウェルビーイング」の実現をグループ共通の人事戦略として、「安全・安心・健康な職場づくり」、「自律的な挑戦意欲と自律したキャリア形成支援」及び「Diversity, Equity & Inclusionの推進」に取り組んでいます。2022年度以降、順次「働く時間」「働く場所」の選択肢の拡大のための制度を部分的に導入しています。社会環境の急速な変化や価値観の多様化が進む中、社員一人ひとりの多様なニーズにきめ細かく対応し挑戦を後押しするために、今後も取り組みを加速していきます。
さらに、専門性の高い人材の採用や育成を目的として、事業会社制移行後は各事業会社において独自の人材戦略及び人事制度を導入しています。当社の子会社であるパナソニック コネクト㈱では、2023年4月に従来のメンバーシップ型マネジメントから、ジョブディスクリプション(JD)の導入や公募による登用・配置を中心とするジョブ型マネジメントへの切り替えを全社一斉で実施、2023年度からは新たに社員紹介による採用としてリファラル採用を導入し、成長事業及びコア事業のそれぞれの事業の専鋭化の実現に向け、組織・人材強化を目指しています。パナソニック インダストリー㈱では、独自の「役割・人財要件定義」を策定し、原則、係長クラス以上の異動・昇格について「公募型」を導入しました。これまでの会社主導のキャリア形成から、社員自らが自律的にキャリアを選択していくための制度へと改定し、社員の挑戦を後押しすることで、人と組織が共に成長し続ける会社を目指しています。
一方で、有能な人材の確保をめぐる競争は激化しています。上記の取り組みが進まず、在籍している社員の流出防止や、経営戦略の推進に必要な人材の獲得ができない場合には、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
労働安全・労働時間管理
当社グループは、各種法令や当社の経営基本方針に基づき、グループCEOが発信する「パナソニックグループ 労働安全衛生ポリシー」において、従業員の安全と健康の確保を定めています。また、この方針を実践するため「安全衛生管理規程」を制定し、安全衛生活動の展開によって従業員の健康の保持促進を図るとともに労働災害を防止することで、事業発展への貢献を目指しています。
当社グループでは、グループの安全衛生管理に係る重要な方針や政策を審議・諮問する機関として、グループ安全衛生管理部門の責任者を委員長とする全社中央安全衛生委員会、各事業会社・事業場にも安全衛生組織を設置し、グループ一体で安全衛生管理を推進する体制を構築しています。
また、当社グループでは安全・安心な職場づくりの推進のため、労働安全衛生マネジメントシステムに基づき、定期的にリスクアセスメントを実施し、職場の労働災害や疾病にかかるリスクを洗い出し、危険度の高いリスクから確実にリスク低減策に取り組んでいます。加えて、過去の重篤な労働災害を分析し、災害発生の代表的なパターンを明確化することによって、リスクアセスメント等における重点確認ポイントの共有化を図り、類似災害の再発や未然防止のための対策を効果的かつ着実に推進することを目指しています。
さらに、各事業会社における自律的な安全衛生管理の取り組みを推進するため、当社グループの各事業会社の安全衛生担当者が参加する「健康・安全衛生フォーラム」や、経営層を対象とした研修等を開催し、知見の共有及び意識醸成に努めています。また、適正な労働時間の把握・管理については、昨今のリモートワーク拡大も踏まえ労働時間に関する客観的データの収集・活用方法を刷新するとともに、従業員に対する継続的な意識啓発、勤務管理システムの拡充等により過重労働の防止に努めています。
一方で、職場作業環境又は作業手順の不備、不適切な労務管理等により重篤な事故等が発生した場合、従業員や関係者が肉体的又は精神的な被害を受ける可能性があります。また、その場合、労働基準法、労働安全衛生法等の労働関連法令に違反することで、当社グループが刑事処分、行政処分を受け、又は安全配慮義務不足に対して損害賠償訴訟の対象となり、当社グループの社会的評価に加えて、事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
b.重視しているリスク
競合他社との競争
当社グループは、広範多岐にわたる製品・サービスの開発・生産・販売を行っており、それらの特性ごとに異なる事業の最適な在り方やお客様への貢献が求められています。また、各事業が向き合う市場においては、国際的な大企業から小規模ながら急成長中の専門企業まで多様な企業と競合し、それぞれの事業環境の変化に適時に対応することが不可欠です。当社グループは、戦略事業への投資を推進していますが、特定の事業に対する投資を、競合他社と同程度に、又はタイムリーに、場合によっては全く実施できない可能性もあります。また、競合他社がそれぞれの競合事業において当社グループよりも大きな財務力、技術力及びマーケティング資源を有している可能性があります。
そうした競合環境の中、当社グループでは、長期視点で戦略を再構築し、競争力強化を目指しています。まず、喫緊の課題である環境問題の解決に向けた取り組みを強化することで、お客様へのお役立ちを通じて競争力の強化を図ってまいります。また、キャッシュの獲得を前提として、事業会社のみならずグループとしても強みを持つ事業に戦略的に投資してまいります。
次に、競争力の強化には、事業のあらゆる現場において、ムダや滞留を撲滅し事業のスピードを高める「オペレーション力」が不可欠です。当社グループでは、正味付加価値を生まない業務のIT活用による効率化を推進すると同時に、事業の競争力強化テーマ、開発設計、製造・販売、調達等グループ共通でスケールメリットのあるテーマについてビジネスプロセスの変革に取り組んでいます。加えて、デジタル技術の活用と業務改善活動の積み重ね、職場のあらゆるムダと滞留、手戻りを排除する活動を展開することにより、コストを削減し、競争力強化を図っています。
他社との提携・企業買収等の成否
当社グループは、新しい製品やサービスの提供等を目指し、他社との業務提携や合弁会社設立、他社の買収等を行っており、これら戦略的提携や企業買収の重要性は増加傾向にあります。当社グループでは、重要な戦略的提携については、検討の段階に合わせて所定の審議を実施しており、事業戦略との整合性、検討の抜け漏れの有無確認、価格や契約内容の妥当性、リスクの洗い出し、統合プラン等の検証を実施していますが、相手先とのコラボレーションが円滑に進まない可能性や、当初期待した効果が得られない可能性、投資の全部又は一部が回収できない可能性があります。また、事業展開の過程で相手先が当社グループの利益に反する決定を行う可能性があります。加えて、これらの相手先が事業戦略を変更した場合等には、当社グループは提携関係を維持することが困難になる可能性があります。企業買収については、買収にかかる多額の費用が発生する可能性や、買収後の事業統合・再編等にあたり、期待した成果が十分に得られない、又は予期しない損失を被る可能性があります。
当社グループは、2021年9月にBlue Yonder Holding, Inc.(以下、「Blue Yonder」)の80%分の株式を追加取得し同社を完全子会社化しています。当社グループは、Blue Yonderの様々なサプライチェーン分野でのケイパビリティを取り込むことで、現場プロセスイノベーションの実現を加速し、また、両社のシナジー最大化に取り組んでいます。しかしながら、キーマネジメントメンバーを含めた優秀な人材の保持及び従業員の士気の維持ができない場合、事業環境や競合状況の変化等により、Blue Yonderの競争力が大きく低下する場合、重要な顧客やその他関係者との良好な関係を維持できない場合等により、これらの期待した効果が十分に得られない可能性があります。また、完全子会社化に伴い、相当額ののれん及び無形資産を連結財政状態計算書に計上しており、2023年度はBlue Yonderにおいて、機能強化を目的とした追加買収を複数行っているため、買収によるのれん及び無形資産計上額は増加しています。事業環境や競合状況の変化等により期待した効果が得られないと判断され、回収可能価額が帳簿価額を下回った場合、又は適用される割引率が高くなった場合は、減損損失が発生し、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります(詳細は「(6)その他のリスク」の「非金融資産の減損」を参照)。
これらのリスクに対して、2022年7月に就任した新CEOを含む新たなBlue Yonderの経営陣と共に、成長戦略に伴う重点施策等を着実に推進し、Blue Yonderの事業競争力の更なる強化を進めています。引き続き、外部環境を意識した商品戦略や販売体制の強化、買収事業の速やかな統合等を通じて、リスク軽減を図っていきます。
なお、Blue Yonderを中心としたサプライチェーンマネジメント(以下、「SCM」)事業を取り巻く環境は大きく変化しています。企業のSCMソリューションに対する期待が高まり、市場拡大が見込めるとともに、研究開発活動(R&D)やM&A等の投資競争が激化しています。そのような中、SCM事業の競争力を強化するためには、資本市場の力を借りてグローバルでの成長を加速させるために株式上場を行うことが最適であると判断し、当社が議決権の過半数を保有する重要な連結子会社と位置付ける事を前提に、Blue Yonderを中心としたSCM事業の株式上場に向けた準備を開始することを、2022年5月11日に公表しています。株式上場に関しては、証券取引所その他の関係当局の承認や許認可等を得られることが前提となり、株式上場の準備過程における検討の結果次第では、当社グループの組織再編が必要な場合やSCM事業は株式上場しないという結論に至る可能性もあります。
当社グループは、Blue Yonderの事業成長及び両社のシナジー最大化に向けて、PMI(買収後の経営統合)を着実に推進しています。具体的には、両社間において新たな経営体制・協業プランを推進し、本件取引完了後のリスク軽減を図っています。
事業再編の成否
当社グループは、多くの子会社及び関連会社等を有していますが、経営の効率化と競争力の強化のため、グループ事業体制を再編(他社への事業又は株式の譲渡や、グループ内の組織又は拠点再編等を含む)することがあります。しかし、現在及び将来における再編において、当初期待した成果が十分に得られない可能性、判断や意思決定に時間を要し事業構成の組替がスムーズに進まない可能性、適切な事業ポートフォリオ・マネジメントが実行できない可能性があります。
当社は、各事業の成長性を見極め、グループ内で将来にわたってお役立ちを果たせる事業か、あるいはグループ外での競争力獲得が事業の成長のスピードに寄与するか、ベストオーナーの視点に基づく事業ポートフォリオの見直しを実施しており、そのひとつとして、2024年3月には、当社とApollo Global Management, Inc.をはじめとするアポロ・グループは、パナソニック オートモーティブシステムズ㈱(以下、「PAS」)の事業に関して両社が共同パートナーになることを目的に、PAS株式の譲渡に関する株式譲渡契約及び株主間契約を締結しました。引続き、当社は、持株会社として、各事業会社の競争力強化を積極的に支援するほか、当社グループの成長戦略と事業ポートフォリオの見直しを推進し、グループとしての企業価値向上に努めていきます。
原材料等の需給・輸送の混乱、価格高騰
当社グループの製造事業にとって、十分な品質の原材料、部品、機器、サービス等をタイムリーに必要なだけ入手することが不可欠であり、当社グループは、信頼のおける供給業者を選定しています。しかし、当社グループのサプライチェーンにおける災害・事故、感染症の流行・拡大又はサイバー攻撃の発生等により、供給が不足又は中断した場合や業界内で需要が増加した場合には、供給業者の代替や追加、他の部品への変更が困難な場合があります。加えて、当社グループが部材を納入している取引先においてこれらの事象により生産の中断・停止、生産規模の縮小又は倒産等が生じた場合、当社グループの販売数量が減少する可能性があります。これらの事象により当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、昨今では、原材料・燃料費の高騰に加え、国内・海外双方でのドライバー不足等が続いています。当社グループでは、原材料・部材の高騰に対しては、先物予約ヘッジを積極的に推進し、グループでの集中購買をさらに加速し、価格上昇の抑制や安定確保に取り組んでいます。また、物流費の上昇については、積載効率向上による使用コンテナ本数の削減、海上輸送ルートの複線化、中長期的なコンテナスペースの確保に加え、出荷平準化の推進等の合理化活動の強化に取り組んでいます。
特に、働き方改革関連法により、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限規制が適用されることに伴う物流「2024年問題」に関しては、物流・運送業界の人手不足や売上減少に起因する事業・取引撤退、廃業による物流の停滞を回避することを最優先とし、物流・運送業界の労働環境改善及び持続的な物流オペレーションの双方を実現するための適切な物流費用への転嫁等の施策を検討しています。
このように、原材料の高騰や物流費用の上昇をはじめとする生産コスト増に対する取り組みを継続していますが、内部努力だけでは当該影響を吸収しきれない状況であることから、当社グループでは、2022年8月以降、国内向けの家電製品の出荷価格を改定しています。今後は、商品価値に見合った適正価格に基づき、安定した販売を実現することで、お客様のニーズに沿った製品開発による「お役立ち」につなげてまいります。しかしながら、こうした価格改定が適時に実現できないことや、価格改定によって製品への需要が減少することにより、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、中東情勢及びロシア・ウクライナ情勢等の国家間・地域内の対立やテロ・戦争、米中対立の激化等により各国の経済制裁や物流の混乱が深刻化した場合、さらなるコストの上昇や、国際間物流に関する輸送リードタイムの長期化により、当社グループの事業に悪影響を及ぼす可能性があります。
製品価格の下落
当社グループは、国内外の市場において激しい競争にさらされており、当社グループにとって十分に利益を確保できる製品価格を設定することが困難な場合があります。当社グループはコスト削減、高付加価値商品の開発に取り組んでいますが、これらの企業努力を上回る価格下落圧力は、当社グループの利益の維持・確保に深刻な影響を与える可能性があります。BtoC(一般消費者向け)分野のうち、国内向けの家電機器については、従来型の取引形態に起因する販売価格の下落が製品のライフサイクルの短縮化を引き起こし、顧客志向の開発や製品の競争力に影響を及ぼしています。当社グループでは、2020年より販売店との取引形態の見直しと新たな「指定価格制度」の導入に取り組んでおり、販売価格の維持及びより付加価値の高い製品の開発につなげる試みを始めています。他方で、当該制度が販売店・一般消費者を含む国内の家電機器市場で受け入れられない場合には、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。一方で、BtoB(企業向け)分野においては、依存度の高い特定の取引先からの企業努力を上回る価格下落圧力や製品需要の減少・設備投資圧力等により、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
技術革新・業界標準における競争
当社グループは、新製品やサービスをタイムリーに開発・提供していく必要があります。当社グループの主要事業においては、BtoC(一般消費者向け)分野及びBtoB(企業向け)分野のいずれにおいても技術革新が重要な競争要因になっており、当社グループが将来の市場ニーズを把握しきれず、これに応えるための新技術を正しく予想し開発できない場合や、当社グループが開発・提供した技術が業界において主流とならず、競合他社が開発した技術が業界標準となった場合には、新しい市場での競争力を失う可能性があります。
(3) 将来の見通し等の未達リスク
当社グループは、グループ経営目標として、中期経営指標(KGI)を設定し、その実現に向けた具体的な施策を推進しています。これらのKGIは、設定時において適切と考えられる情報や分析等に基づき策定しますが、2024年度の世界経済は、地政学リスクや欧米を中心とした金融引き締めによる実体経済への影響等により、先行きの見通しにくい状況が続いており、今後、こうした世界経済の影響や事業環境の悪化、その他の要因により、KGIの達成や期待される成果の実現に至らない可能性があります。
中長期戦略の推進にあたっては、世界経済や事業環境の動向を踏まえ、定期的な進捗管理と課題の見極めや適時適切な対策の検討・実践等を通じて、未達リスクの最小化に努めてまいります。
(4) コンプライアンス・訴訟・レピュテーション等に関するリスク
a. 特に重視しているリスク
コンプライアンスリスク
当社グループでは、世界のどの国・地域においても公正な事業を推進するため、「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」において、「社会の公器」として法令や社会道徳に反しないことはもちろん、私心にとらわれず高い倫理観や適切な知識を持って業務を遂行できるよう、当社グループ各社及び当社グループ社員一人ひとりが果たすべき約束を定め、全社員に共有・徹底しています。
当社グループでは「独占禁止法・競争法違反」や「贈収賄・腐敗行為」等の重大なリスクに対し、グローバル規程に基づくコンプライアンス徹底のための研修や、贈収賄・腐敗行為に関するリスクベースアプローチによるコンプライアンス監査等の取り組みを通じて未然防止、早期発見に努めています。さらに、年間を通じ、全社員に対する基本的なコンプライアンスの教育に加え、必要な対象者への事業特性や地域特性を踏まえたリスクに応じたコンプライアンスの教育等、倫理・法令順守意識のグローバルな定着とリスクへの対応力向上をめざした取り組みを実施しています。また、当社グループでは、不祥事の防止や早期解決を目的に、国内外の拠点や取引先からも通報ができる一元的な内部通報窓口としてグローバルホットラインを設け、適切な社内調査を通じて問題の早期発見と是正を図っています。
このような取り組みの推進にかかわらず、万が一、当社グループにおいてコンプライアンス違反行為が発生又はコンプライアンス上の問題に直面した場合には、当社グループが、課徴金等の行政処分、刑事処分又は損害賠償訴訟の対象となり、また、当社グループの社会的評価に悪影響を及ぼす可能性があります。
人権・労働コンプライアンス
「パナソニックグループ コンプライアンス行動基準」では、私たちの社会的責任のひとつとして「人権の尊重」を掲げています。当社グループの事業活動は、グループで働く社員はもとより、製品・サービスをご利用いただいているお客様、調達・販売等に関わっていただいているお取引先様、さらにはビジネスパートナーの皆様など、多くの方々に支えていただくことで成り立っています。当社グループが「社会の公器」であるならば、そうした方々の犠牲の上に自らの発展を図ることは許されず、透明で公明正大な事業活動に徹して社会と共に発展していくことが、人びとのくらしの向上や社会の発展につながっていくと考えています。
これに基づき、当社グループでは「パナソニックグループ 人権・労働方針」を制定しています。事業活動・取引に適用されるすべての法令の順守を前提として、「国際人権章典」や国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」で表明された国際的に認められた人権の尊重や働きがいのある労働環境の実現と、これらに関する様々なステークホルダーの皆様との対話に取り組んでいくことを明記しています。また、この方針に従って「人権・労働コンプライアンス規程」を定め、国際連合の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、事業会社の事業領域及びバリューチェーンに関連する人権への負の影響の把握・予防・低減に向けた具体的な取り組みを推進しています。人権・労働に関する重要な法的要請の変更等については、情報を収集して各拠点に徹底し、コンプライアンス強化に努めています。
このような取り組みの推進にかかわらず、万が一、当社グループが人権侵害行為を引き起こす又は人権侵害行為への関与や加担等に直面した場合、当社グループが、課徴金等の行政処分、刑事処分又は損害賠償訴訟の対象となり、当社グループの社会的評価に悪影響を及ぼす可能性があるほか、投融資の引き上げ、顧客からの取引停止、消費者による不買運動等の発生により、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
サプライチェーンに係るリスク
当社グループは、グローバルで約13,000社以上の購入先様と取引をしています。近年、サプライチェーンにおける企業の社会的責任の要請は日増しに強くなっており、人権・環境分野を中心として各国・地域で新たな規制が制定、施行されるなどの法制化の動きにも表れています。当社グループでは、サプライチェーンにおけるCSR(企業の社会的責任)推進の取り組みを強化するため「サプライチェーン・コンプライアンス規程」を制定し、サプライチェーン・コンプライアンスに関する基本方針や、その実践のための社内ルールについて定め、実践状況については定期的なマネジメントレビューを行っています。これらの内容は調達業務に従事する従業員にも徹底し、購入先様と共に責任ある調達活動を実践できる人材を育成するため、当該従業員に対するグローバルでの教育・研修を実施することにより、汚職・腐敗防止等のコンプライアンス、サプライチェーン上での人権・労働、安全衛生等の課題を含むCSRに関する基礎知識等の定着を図っています。
また、当社グループでは、購入先様に順守頂きたいCSRの要請事項(人権・労働、安全衛生、地球環境保全、情報セキュリティ、企業倫理等)について、法令及び国際規範を踏まえた「パナソニック サプライチェーンCSR 推進ガイドライン」を定め、その順守を契約書等で購入先様に義務付けています。購入先様には、当該ガイドラインの要求事項に関する二次以降の購入先様への伝達及び順守状況の確認を要請することで、サプライチェーン全体でのCSRの徹底を図っています。さらに、サプライチェーンに対するデュー・ディリジェンスの一環として、購入先様に対し、ガイドラインの要請事項の順守状況をチェックシートに基づき自主精査するためのCSR自主アセスメントの定期的な実施とその結果に基づく是正を促すとともに、2023年度より、各事業会社がリスクベースアプローチで購入先監査実施計画を策定し、自社及び第三者機関による購入先監査を開始しています。
しかしながら、サプライチェーンにおける責任ある調達活動への取り組みによって期待した成果が得られない場合、当社グループのイメージ・評判の低下、顧客の流出等を惹起し、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
品質コンプライアンス
当社グループは、経営基本方針に則り、常に製造・販売する製品の安全性を確保して、お客様に安全・安心をお届けすることが経営上の重要課題であり、社会的責任であると考えています。また、グループの品質方針を「常にお客様及び社会の要望に合致し、満足していただける製品及びサービスの提供を通じ、真にお客様に奉仕する」と定めています。各事業会社が、担当する製品の品質に対する責任を持ち、品質マネジメントシステムを構築・運用しています。特に、品質不正への取り組みは、パナソニックグループ コンプライアンス行動基準にある法令と企業倫理の順守に基づき、法規・法令だけでなく、業界基準やお客様とのお約束等も守ることを明確にしています。
その一方で、当社の子会社であるパナソニック インダストリー㈱(以下、「PID」)の電子材料事業部が製造・販売する成形材料、封止材料及び電子回路基板材料の153品番において、米国の第三者安全科学機関であるUL Solutions(以下、「UL」)の認証登録等の際、複数の不正行為を行っていたこと(以下、「本件不正」)が判明しました。これを受け、PIDは、UL違反事案の調査、その他の品質不正の有無に関する調査及び調査結果を踏まえた原因分析と再発防止策の提言を目的に、社外有識者による外部調査委員会を2024年1月12日付で設置しました。外部調査委員会の調査は継続中です。
本件不正について、ULに報告を行った結果、一部製品のUL認証が2024年5月31日付けで取り消されました。なお、一部の製品のUL認証の取り扱いについては、PIDとULとの間で協議が続けられています。UL認証の登録を有しないPID製品のうち、今後もUL認証品として販売を継続する必要があるものについては、その認証の取得に向けて取り組んでまいります。
また、PIDは、本件不正に関連し、ISO9001(注1)及びIATF16949の登録認証機関であるLRQAリミテッドから、郡山工場、郡山西工場、四日市工場及び南四日市工場のISO9001認証及びIATF16949認証を取り消されております。PIDは、ISO9001認証及びIATF16949認証についても、その認証の再取得に向けて取り組んでまいります。
PIDは、対象となる製品をご購入いただいているお客様に個別にご説明の上、協議を行うとともに、本件不正の全容解明に向け、引き続き外部調査委員会による調査活動に全面的に協力しています。
本件不正に関連する損失や、新たな品質不正行為の判明に伴う損失が発生した場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(注1) ISO(国際標準化機構)9001は、品質マネジメントシステムに関する国際規格です。
(注2) IATF(International Automotive Task Force)16949は、自動車産業向け品質マネジメントシステムに関する国際規格です。
b. 重視しているリスク
製造物責任や補償請求による直接・間接費用の発生
当社グループでは、製品安全に対する知見や不安全事象の未然防止策を、グループの安全規格へ盛り込むと共に、日々のリスク管理を行っています。しかしながら、製品の欠陥による品質問題(不安全事故等)が発生した場合、欠陥に起因する損害(間接損害を含む)に対して、当社グループは生産物賠償責任保険で補償しきれない賠償責任を負担する可能性や多大な対策費用を負担する可能性があります。また、当該問題が生じることにより、当社グループのイメージ・評判の低下、顧客の流出等を惹起し、当社グループの事業、業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
知的財産権に関連した損害
当社グループは、事業に対する知的財産起点での戦略提案、グローバルな知的財産の獲得・保護・活用及び知的財産に係る紛争の予防と解決により、現在と将来にわたる事業の優位性と安全の確保を目指すとともに、近年では社会課題の解決への貢献も視野に入れて、知的財産活動を推進しています。当社グループは、上記方針のもと、事業戦略及び研究開発戦略を踏まえた知的財産戦略に基づき、自ら研究開発を行うとともに、他者とも共創関係を構築することによって、グローバルな知的財産ポートフォリオの構築に努めています。しかしながら、当社グループが出願する特許及びその他の知的財産については、国・地域によっては、当該国・地域における知的財産制度・審査基準や経済安全保障制度等の適用・運用等により、権利が付与されない場合や、知的財産権が十分に保護されない場合があります。
当社グループは、必要に応じて弁護士、弁理士、外部コンサルタント、取引関係者、政府機関等の協力を得ながら、当社グループの保有する特許、ブランド、デザイン及びその他の知的財産に関する侵害品・模倣品の監視及び排除に努めています。しかしながら、当該知的財産が第三者によって侵害され、当該侵害品・模倣品が出現した場合には、当社グループの正規品の販売に対する悪影響やブランドイメージの毀損等が発生する可能性があります。また、当社グループは、戦略的に当該知的財産のライセンス等を付与する場合があります。ライセンス等の付与にあたっては、適切な条件の下で行うよう努めていますが、当社グループにとって不利な条件で当該知的財産のライセンス等をせざるを得ない可能性があります。さらに、当社グループが自らの知的財産を保護又は活用するために相当の費用及び経営資源を費やして訴訟等を提起しなければならない場合があり、これらの事象が発生した場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。
加えて、当社グループは、第三者の知的財産を尊重するためグループ全体に適用する「知的財産基本規程」等の社内規程を定め、従業員全員が順守するように定期的な教育を行っており、また、第三者の知的財産を利用する必要があるときは適切なライセンスを取得するよう努めています。しかしながら、第三者が保有している知的財産権については、当社グループが当該知的財産のライセンスを取得できないこと、取得していたライセンスが継続できないこと、又は不利な条件でライセンスを取得及び継続せざるを得ない可能性があります。さらに、当社グループが第三者の知的財産に関して訴訟等を提起されることがあり得ます。当該訴訟等には、多額の費用及び経営資源が費やされることがあり得ます。また、当該訴訟等において当社グループの主張が認められない場合には、当社グループが特定の技術等を利用できなくなることや損害賠償責任を負う可能性があり、これらの事象が発生した場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。
その他の法的規制等による不利益及び法的責任
当社グループは、日本及び諸外国・地域の規制に従って事業を行っています。法規制には、商取引、独占禁止、知的財産権、製造物責任、環境保護、消費者保護、労使関係、金融取引、内部統制及び事業者への課税に関する法規制に加え、事業及び投資を行うために必要とされる政府の許認可、電気通信事業及び電気製品の安全性に関する法規制、国の安全保障に関する法規制及び輸出入に関する法規制等があります。より厳格な法規制が導入されたり、当局の法令解釈が従来よりも厳しくなったりすることにより、技術的観点や経済的観点等から当社グループがこれらの法規制に従うことが困難となり、事業の継続が困難と判断される場合には、当社グループの事業は制限を受けることになります。また、当社グループがこれらの法規制等に違反し、又は法令順守のための内部統制体制が不十分であったと当局が発見又は判断した場合には、当社グループが、課徴金等の行政処分、刑事処分又は損害賠償訴訟の対象となり、また、当社グループの社会的評価に悪影響を及ぼす可能性があります。
(5) 災害・事故等に関するリスク
a.災害・事故等一般に共通するリスク
当社グループは、製造、販売、研究開発等の活動をグローバルに展開しており、世界中に拠点を有しています。地震、津波、洪水等の自然災害(気候変動によって発生するものを含む)、火災・爆発事故、テロ・戦争、感染症の流行・拡大やサイバー攻撃等が発生した場合に、当社グループの拠点の従業員、設備、情報システム等が損害を被ることで、一部の操業が中断し、生産・出荷の遅延及び損害を被った設備等の修復費用が発生する可能性があります。加えて、これらの災害・事故等が、部品等の供給業者や製品納入先等といった当社グループのバリューチェーン上で発生した場合には、供給業者からの部品等の供給不足又は中断、製品納入先における生産活動の中断又は停止等により当社グループの生産活動・販売活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、こうしたリスクを低減するため、サプライチェーンも含めたBCP(事業継続計画)を策定し、定期的な見直しを行っています。また、「パナソニックグループ 緊急対策規程」を制定し、グループ全体に大きな影響を及ぼすおそれのある緊急事態の発生に備えて、危機発生時のエスカレーション及び判断のプロセスを含む対応の基本方針、当該緊急事態への対応に際した組織体制及び各機能部門・事業会社の役割等を規定しています。2022年度は「事業継続マネジメント(BCM)ガイドライン」を改定し、内閣府の南海トラフ地震及び首都圏直下型地震の最新の被害想定並びにそれらに対応した防災・減災対策を織り込むとともに、調達、物流、IT等の各機能部門で策定するBCPとの連携を明確化するなど、継続的な実効性向上に努めています。
b.自然災害
気候変動を背景とした異常気象の増加等、世界的に頻発化かつ激甚化傾向にある自然災害に対しては、平時における備えを強化するとともに、緊急時には迅速な緊急事態体制への移行を可能とするため、当社グループ全体で「防火・防災対策委員会」を設置しています。「防火・防災対策委員会」では、地震、水害等の災害の内容に応じた対策強化を図っています。特に、過去の災害時には電力需給のひっ迫が生じたことも踏まえ、事業継続のための非常用電源設備の設置等をBCPに取り入れています。また、2023年度にはグループ全体で各拠点の被災状況の適時の報告及び一元化を可能とする「災害ポータル」の運用を開始しました。各拠点からの対応・支援要請及びグループ全体への影響を可視化することで、緊急事態体制移行の判断や初動対応の迅速化を図れるよう、本格的な活用に向けて各事業会社への周知及びさらなる機能改善を図っています。さらに、毎年緊急時を想定した訓練を実施し、グループ緊急対策本部における対応及び事業会社緊急対策本部との連携を確認しています。2024年1月には、南海トラフ地震の発災に伴って関西地域を中心に甚大な被害が発生したとの想定に基づくグループ防災訓練を実施しました。各事業会社が被災地以外の場所で緊急対策本部を立ち上げる中で、グループ緊急対策本部も東京に本部を設置し、被災情報の整理、連携及び支援要請等の初動対応を確認しました。
さらに、当社グループは、リスクマネジメントの取り組みの一環として、自然災害の中でも当社グループの事業への影響が甚大であると想定される南海トラフ地震、首都圏直下地震をストレス事象とし、その影響分析を実施しました。2023年度は、当該分析結果に基づき地震の揺れ又は津波の被害想定が大きい地域に所在する拠点の実地調査を行いました。各拠点における施設・設備の対策状況や避難・初動対応手順の策定及びそれらに基づく訓練の実施状況に加えて、避難場所の安全性や備蓄品の充分性についても確認し、必要な点については対策強化及び継続的なフォローアップの検討を進めています。
2024年1月に発生した能登半島地震にあたり、現時点では、当社グループの社員、拠点及び事業に大きな被災又は被害影響は確認されていませんが、当社グループのお取引先様の被災状況等によって、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。一方で、このような取り組みの推進にかかわらず、万が一発災時に対策不備又は合理的な想定を超える甚大な影響による被害が生じた場合、従業員や関係者の人命にかかわる事態が発生する可能性や、当社グループの事業、業績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは、人命安全を最優先にさらなる取り組みの強化を図りながら、今後も適切なリスク認識の醸成及びリスクコミュニケーションの強化を図ってまいります。
c.感染症リスク
2023年度は、新型コロナウイルス感染症については国内外での制限緩和が進み、国内でも「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」上の「5類感染症」へ移行しました。当社グループ全体でも本感染症による大きな悪影響は発生しませんでした。
当社グループでは、本感染症に限らない、感染症全般に対する平時における備えとして、各事業会社における感染症版BCPの策定及びマスクや消毒用アルコール、体温計等の適切な備蓄確保を推進することにより、全従業員の健康・安全及び事業継続体制の維持に取り組んでいます。また、感染症の蔓延やそれに伴う当社グループの社員及び事業等への影響の大きさに応じ、前述の「パナソニックグループ 緊急対策規程」に基づき緊急事態体制に移行し、社員の人命・健康の安全確保を優先とした対応を進めてまいります。
一方で、今後も本感染症に係る変異株の発生、本感染症以外の新たな感染症の流行・拡大の発生により、従業員や関係者の人命にかかわる事態が発生する可能性や当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。引き続き感染症全般に関する国内外の感染状況や各国の行政の動向を注視し、適切に対応していきます。
d.テロ・戦争・暴動・政情不安
当社グループ又は当社グループのサプライチェーンが拠点を有する国・地域における政情不安、軍事的緊張が顕在化した場合やテロ・戦争等が発生した場合は、事業継続への支障が生じ、当社グループの事業、業績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。中東情勢及びロシア・ウクライナ情勢に関しては、現時点では当社グループの業績及び財政状態に直接与える影響は軽微と見込んでいますが、当社グループの事業及び拠点を多く展開している東アジア地域の政情が不安定化した場合は、従業員や関係者の人命にかかわる事態が発生する可能性や当社グループの事業、業績及び財政状態に甚大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、拠点を有する国・地域における有事又は緊張の高まりへの対応を強化するため、各国・地域間の対立や政権交代等のイベントに伴い起こりうる政治的・社会的混乱等をリスクシナリオとして特定し、人命安全を最優先としたBCPの整備や各機能部門におけるレジリエンス高度化の取り組み等、平時における対策を進めています。
(6) その他のリスク
非金融資産の減損
当社グループは、有形固定資産、のれん、無形資産及び使用権資産等、多くの非金融資産を保有しています。非金融資産(棚卸資産及び繰延税金資産等を除く)については、当該資産又は資金生成単位(以下、「当該資産」)の減損の兆候の有無を判定し、減損の兆候がある場合には、当該資産の回収可能価額を見積り、減損テストを実施しています。なお、のれん及び耐用年数を確定できない無形資産については、減損の兆候の有無にかかわらず、毎期減損テストを実施しています。減損テストの結果、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失を認識する可能性があります。
退職給付に係る負債
当社グループは、一定の受給資格を満たす日本国内の従業員について外部積立による退職年金制度を設けています。当社及び一部の国内子会社は、確定給付年金制度から、各々の移行日以降の積立分(将来分)及び移行日以前の積立分(過去分)の一部について確定拠出年金制度へ移行していますが、確定拠出年金制度に移行していない部分については、金利の低下により確定給付制度債務に関する割引率を引き下げる必要が生じる可能性や、株価の下落により制度資産の公正価値の減少をもたらす可能性があり、その結果、退職給付に係る負債が増加し、親会社の所有者に帰属する持分が減少する可能性があります。
繰延税金資産の認識
当社グループは、繰延税金資産について、将来課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しています。認識された繰延税金資産については、期末日に見直しており、税務便益が実現する可能性が高くなくなった部分を減額することにより、法人所得税費用が増加する可能性があります。
持分法適用会社の業績・財政状態
当社は、複数の持分法適用会社の株式を保有しています。各社は各々の事業及び財務に関する方針のもとで経営を行っており、当社はその方針決定に関与することができる重要な影響力を有していますが、支配には至らないため、通常、方針そのものの決定は行いません。これらの持分法適用会社の業績・財政状態の悪化により、当社グループの業績及び財政状態が悪影響を受ける可能性があります。
配当政策
3【配当政策】
当社は、創業以来一貫して、株主の皆様に対する利益還元を最も重要な政策のひとつと考えて経営にあたってまいりました。この基本的な考えのもと、配当については、株主の皆様からの投下資本に対するリターンとの見地から連結業績に応じた利益配分を基本とし、連結配当性向30%を目安に、安定的かつ継続的な配当に努めてまいります。
当社は、中間配当と期末配当の年2回の配当を行うこととしており、これらの配当は、定款に基づき、取締役会で決議しています。
当事業年度は、米国IRA補助金の業績影響を除く、親会社の所有者に帰属する当期純利益に応じた利益配分を基本とする当社の配当方針、及び財務体質の状況等を総合的に勘案し、1株当たり中間配当17.5円と期末配当17.5円を実施しました。その結果、年間配当は1株当たり35円の実施となりました。
内部留保資金については、経営体質の一層の充実、ならびに将来の事業展開に役立てることとします。
なお、第117期の剰余金の配当は以下のとおりです。
決議年月日 |
配当金の総額(百万円) |
1株当たり配当額(円) |
2023年10月30日 |
40,850 |
17.5 |
取締役会決議 |
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2024年5月9日 |
40,851 |
17.5 |
取締役会決議 |