リスク
3【事業等のリスク】
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクには、以下の(3)に挙げるようなものがある。
当社グループでは、これら主要なリスクを含めた各種リスクに対して考えうる対応策をあらかじめ講じているが、これらを完全に回避することは困難である。当社グループは、これらのリスクに留意しながら事業計画に従い事業活動を進めるとともに、これらが顕在化した場合の影響の最小化に努めている。
主要なリスクには中長期的に事業環境や社会構造の更なる変化をもたらす可能性があるものも含まれており、当社グループは、将来を見据え、そのような動きに対応できるよう、先んじて対策を取っていかなければならないと認識している。
なお、記載事項のうち将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものである。
(1)主要なリスクを検討するプロセス
当社グループでは、事業遂行上のリスクを抽出・討議する経営管理プロセスを策定し、これに基づきリスクの一覧化に取り組んでいる。リスク抽出に当たっては、社外の知見も取り入れて当社グループに関連するリスクの網羅的なリストを作成し、これに基づき概ね10年以内に顕在化する可能性が懸念される具体的なリスクの洗出しを実施している。その上で、講じている対応策の効果も踏まえて当該リスクが顕在化した場合の影響度と蓋然性の検討を行い、当社グループの事業に重要な影響を与える可能性があり、かつ定量化可能なリスクを特定し、以下のようなリスクマップに整理している。これに加えて、定量化の難しい定性的なリスクについても上述のリスクの網羅的なリストに基づき特定している。
(2)当社グループにおけるリスクへの対応策
当社グループでは、各種リスクを適切に管理するため、リスクの類型に応じた管理体制を整備し、管理責任の明確化を図っている。また、リスクを定期的に評価・分析し、必要な回避策又は低減策を講じるとともに、内部監査によりその実効性と妥当性を監査し、定期的に取締役会及び監査等委員会に報告することとしている。加えて、重大リスクが顕在化した場合に備え、緊急時に迅速かつ的確な対応ができるよう速やかにトップへ情報を伝達する手段を確保し、各事業部門に危機管理責任者を配置している。
また、当社グループでは、「事業リスクマネジメント憲章」により、リスクマネジメントの対象・要領等を明確化し、これを遵守・実践している。「事業リスクマネジメント委員会」においては、トップマネジメントレベルでの重要リスク情報の共有や対応方針を協議することにより、体制の明確化と経営幹部・事業部門・コーポレート部門の役割の明確化を図っており、事業リスク管理部を責任部門として、経営幹部・事業部門・コーポレート部門の三者が一体となって事業リスクマネジメントに取り組んでいる。
なお、以下「(3)主要なリスク」の①から⑥までの各項目のア.において、各項目に関して当社グループがあらかじめ講じている具体的な対応策を例示しているが、当社グループは、これらに限らず、主要リスク以外のものも含め、各種リスクの類型や性質に応じて、リスクを回避・低減するための取組みを進めるとともに、①から⑥までの各項目の「イ.経営成績等の状況に与えうる影響」等のリスクが顕在化した場合の影響の最小化に努めている。
(3)主要なリスク
①事業環境の変化
ア.当社グループを取り巻く事業環境の変化
当社グループを取り巻く事業環境は、非常に速いスピードで変化するとともに複雑化している。例えば国際情勢としては、米中対立に加え、ウクライナや中東での軍事行動の激化や、グローバルサウスの台頭等も含めた国際秩序の不安定化・分断が進行している。これに伴い、世界的な軍事予算の増額、安全保障・治安維持関連の法制強化、経済安全保障を目的としたレアメタル等の各種輸出規制及び知的財産やデータなどの移転に係る制限等の施策が相次いで打ち出されている。また、資源価格をはじめとする諸物価の高騰や物流の停滞・混乱、半導体等の電子部品の需要逼迫が発生しているほか、為替レートの急激な変動といった経済環境の変化も生じている。我が国においては、社会構造の変化として、人口減少・少子高齢化の一層の進展による人材不足の深刻化と人材獲得競争の激化、人材流動化、廃業の増加、技術・技能の断絶等が懸念されている。さらに、全世界的に経済発展と環境負荷低減の両立が社会的な課題となっており、様々な分野で環境規制が強化されている。特にエネルギー分野では、新興国経済の発展や電気自動車の普及等の電化の進展により、今後、世界の電力需要が伸びていく一方で、燃料価格の高騰とともに地球温暖化を契機とした脱炭素化の一層の浸透も求められている。加えて、昨今、米国のインフレ抑制法(IRA)に代表されるように、エネルギー安全保障・気候変動対策のために税額控除及び補助金を制度化する世界各国の脱炭素政策の後押しによって、水素・アンモニアの製造・利用やCO2回収・利活用の技術に対するニーズが高まるなど、当社グループの置かれている環境は、大きく変化している。
これらの事業環境の変化に対応すべく、2024年4月には、当社グループが成長戦略として取り組むエナジートランジション事業を推進する事業部門として、「GX(Green Transformation)セグメント」を新設し、複数の部門にまたがっていたエナジートランジション関連部門を再編し、プロジェクトマネジメント機能及びエンジニアリング機能を強化した体制とすることで、顧客ニーズへのワンストップ対応を可能とし、共通するリソースを有効活用して対応能力の向上を図っている。また、研究開発や設備投資を通じて、性能・信頼性・価格・環境対応等に関する製品競争力の維持・強化を図ることを前提としつつ、社外の知見も取り入れて市場の動きを先取りした新たな機能やソリューションの提案に注力している。このほか、事業環境を踏まえて各種製品分野で企図するM&A・アライアンスに関しては、入口での審議やモニタリングといった活動により、円滑なPMI*1の推進に向けた取組みを実践している。
*1 Post Merger Integration
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
世界経済のデカップリングの進行、新たな外交・安全保障政策の導入又は既存方針の転換等に伴い、商談への参加、サプライヤー選定等の場面で当社グループの事業活動に制約が生じた場合や、為替レートの急激な変動、原材料価格の高騰、物流の停滞・混乱が発生した場合、我が国における人材不足の深刻化や製造現場の空洞化等により当社グループの競争力の維持が困難又は低下することとなった場合には、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。環境規制に関しては、火力発電システムや自動車向けターボチャージャ、化学プラント関連のエンジニアリングなどの事業において、環境意識の高まりによって、製品・サービスの需要が減少し、事業規模が縮小する可能性や投下資本の回収が困難となる可能性がある。また、火力発電システム事業は、化石燃料由来の電力需要の激減、競合他社との競争激化やこれに伴う競合他社によるサービス商談獲得の影響も考えられ、これらにより受注が減少するおそれがある。環境規制の強化や燃料価格高騰といった事業環境の変化を踏まえ、顧客が自らの判断で火力発電プラントなどの営業運転を停止することとした場合には、これに伴うサービス事業の停滞等により、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。さらに、事業計画策定時の想定を超えて更に各種環境規制が厳格化され、これへの対応に課題が生じた場合には、市場競争力の低下や受注機会の逸失等により、当社グループの事業計画の推進に影響を与えるおそれがある。このほか、全体として脱炭素を目指しながらも現実的な着地点を模索する動きによってエナジートラジションが当社事業計画策定時の想定よりも停滞した場合には、CCS*2などの当社製品・サービスの実装が著しく遅延するなど、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。加えて、当社グループは、各種製品事業において、他社とのM&A・アライアンスを行っているが、市場環境の変化、事業競争力の低下、他社における経営戦略の見直し、その他予期せぬ事象を理由として、これらのM&A・アライアンス対象事業が目論見どおり進捗しない場合、資産の評価見直しによって減損損失等を計上するなど、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
*2 Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯蓄)
②各種の災害
ア.自然災害や戦争・テロ等の発生
地震、津波、豪雨、洪水、暴風、噴火、火災、落雷、感染症の世界的流行等の自然災害の発生、その発生頻度の上昇や被害の甚大化、戦争・テロ、政情不安、反日運動、人質・誘拐等の犯罪、不当拘束、社会インフラの麻痺、労働争議、停電、設備の老朽化・不具合等の人為的な要因によるものや労働災害等により、様々な物的・人的被害が生じ、円滑な経済活動が阻害され、さらには社会基盤が破壊されるといった事態が考えられる。なお、自然災害については、気候変動等に伴いその影響が甚大化することが想定される。当社グループでは、これらの影響を低減するため、災害対策支援ツールの活用、連絡体制・事業継続計画(BCP)の策定・整備、工場の点検や設備の耐震化、各種訓練の定期的な実施に加え、適切な保険を付保するとともに、各国の情勢や安全に関する情報収集やこれを踏まえた各種対応、関連省庁との連携等を進めている。
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
当社グループは、製品・サービスを提供するための拠点を世界各地に有しているが、特に日本やタイなどに生産拠点が集中しているため、これらの国・地域において、大規模な地震・津波・洪水といった災害が発生した場合、当社グループの生産能力に重要な影響を及ぼす可能性がある。具体的には、生産設備の滅失・毀損、サプライチェーンの停滞・混乱、生産に必要な材料・部品等の不足やサービスの提供停止、生産拠点の操業低下・稼働停止等のほか、代替となる生産設備や取引先の喪失、損害保険等で補填されない損害の発生等の可能性がある。これらの影響に伴う受注や売上の減少等により、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
③製品・サービス関連の問題
ア.製品・サービスに関連する品質・安全上の問題、コスト悪化等
当社グループは、ものづくりとエンジニアリングのグローバルリーダーとして、エナジー、プラント・インフラ、物流・冷熱・ドライブシステム、航空・防衛・宇宙の幅広い分野で高度な技術力を活かしてソリューションを提供している。当社グループは、製品の品質や信頼性の向上に常に努力を重ねているが、製品の性能・納期の問題や製品に起因する安全上の問題が生じる可能性がある。また、仕様変更や工程遅延等に起因するコスト悪化、材料・部品等の調達や工事に伴う予期しない問題の発生、納期遅延や性能未達等による顧客からの損害賠償請求や契約解除、顧客の財務状況の悪化等の問題が生じる可能性がある。サプライヤーとの間でも、製品・サービスなどに起因して、同様の問題が発生する可能性がある。また、重要かつ代替性の限られる特定の材料・部品のサプライヤーと取引不能となった場合に代替調達先の手配ができないことや、労働関係法令の規制強化によってパートナー側での労働力不足が発生することなどにより、生産活動や顧客への製品・サービスの提供等に影響が生じるおそれがある。
当社グループでは、これらのリスクに対して、各種規則の制定・運用、事業リスクマネジメント体制の整備・強化、個別案件の事前審議や受注後のモニタリング、プロジェクト遂行責任者や事業部長クラスへの教育の実施、製品安全に関する講座の継続的な開催等を行うとともに、過去に生じた大口赤字案件については、その原因や対策を総括するとともに、社内教育に反映するなど、再発防止に努めている。
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
このような製品・サービス関連の問題発生等を理由として、追加費用の発生、顧客への損害賠償、社会的評価及び信用の失墜等に繋がる可能性がある。また、顧客・サプライヤーやその他第三者から国内外で訴訟・仲裁を提起されることがあり、当社グループは、これらに対応している。訴訟・仲裁においては、当社グループの主張が認められるように最大限の対応を取っているものの、当社グループにとって不利な判断が下される可能性は否定できない。また、当社グループが最終的に支払うべき賠償額等の負担が、各種の保険で必ずしも補填されるとは限らない。このような製品・サービス関連の問題だけでなく、重要かつ代替性の限られる顧客、サプライヤー、協業パートナーの経営状況の悪化や事業方針の転換等も、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
④知的財産関連の紛争
ア.当社グループの知的財産に対する侵害、当社グループによる第三者の知的財産に対する侵害等
当社グループは、研究開発の成果である知的財産を重要な経営資源の一つと位置づけ、グローバルに活用している。しかしながら、当社グループに対して、第三者から知的財産を侵害していると主張されるような事態が生じる可能性がある。
当社グループでは、知的財産を特許権等により適切に保護し、また、第三者の知的財産を尊重し、当社グループによる侵害回避に努め、必要に応じて当該第三者から技術導入を行うなど適切な対応を取っている。具体的には、製品の基本計画・設計・製造の各段階で他者が保有する知的財産を十分に調査することによる知的財産関連の紛争の未然防止、教育・人材育成を通じた知的財産部門の専門性向上等の対策を進めている。
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
当社グループの知的財産の利用に関して競合他社等から訴訟等を提起されて敗訴した場合、損害賠償責任を負うほか、特定の技術を利用することができなくなり、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。また、当社グループが事業遂行のために必要とする技術の権利を第三者が保有している場合に、当該第三者からの技術導入を受けられず、当社グループの事業遂行に支障を来たすおそれがある。
⑤サイバーセキュリティ上の問題
ア.情報セキュリティ問題の発生等
当社グループは、事業の遂行を通じて、顧客等の機密情報及び当社グループの技術・営業その他事業に関する機密情報を保有しており、業務上も情報技術への依存度は高まっている。これに対して日々高度化・悪質化しているサイバー攻撃等が現在の想定を上回るなどして、コンピュータウイルスへの感染や不正アクセスその他の不測の事態が生じた場合には、機密情報が滅失又は社外に漏洩する可能性がある。また、サイバー攻撃等の結果、端末やサーバなどの使用に障害が出る可能性がある。
当社グループでは、これらのリスクに対して、CTO*3直轄のサイバーセキュリティ推進体制を構築し、当社グループのサイバーセキュリティ統制(基準整備・対策実装・自己点検・内部監査)やインシデント対応等の対策を進めている。
*3 Chief Technology Officer
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
情報漏洩が生じると、当社グループの競争力の大幅な低下、社会的評価及び信用の失墜等によって当社グループの事業遂行に重大な影響が生じうる。また、当局等による調査の対象となるほか、顧客等から損害賠償請求等を受ける可能性がある。加えて、サイバー攻撃等の結果、サーバなどの使用に障害が出た場合には、業務の遂行に大きな影響が生じ、その結果生産活動や顧客への製品・サービスの提供等に影響が生じるおそれがある。このようにサイバーセキュリティ上の問題は、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
⑥法令等の違反
ア.重大な法令等の違反
当社グループは、国内外の様々な法令・規制(租税法規、環境法規、労働・安全衛生法規、独占禁止法・下請代金支払遅延等防止法・反ダンピング法等の経済法規、贈賄関連法規、貿易・為替法規、建設業法等の事業関連法規、金融商品取引所の上場規程、個人情報保護法等をいい、これらを総称して以下「法令等」という。)を遵守し、役員及び従業員にも遵守させなければならず、決してリスクとリターンをトレードしてはならない厳守事項として周知と対策を徹底している。具体的な対策としては、当社グループの全ての役員・従業員を対象とした「三菱重工グループ グローバル行動基準」や各種規則の制定・運用を行うとともに、コンプライアンス委員会の定期的な開催、内部通報体制の整備、法令遵守の徹底に関する経営層からのメッセージの発信、コンプライアンス・情報管理・ブランド戦略等の各種社内教育の充実と継続的な実施、各部門の課題を踏まえた内部監査等を行っている。しかし、一部の役員・従業員が法令等の違反を生じさせる可能性は完全には排除できない。
イ.経営成績等の状況に与えうる影響
万一法令等の違反が生じた場合、当局等による捜査・調査の対象となるほか、当局等から過料、更正、決定、課徴金納付、営業停止、輸出禁止等の行政処分若しくはその他の措置を受け、又は当局やその他の利害関係者から損害賠償を請求されるおそれがある。さらに、法令等の違反が生じた場合には、当社グループの事業遂行が困難となるなどの影響を受ける可能性があり、また、社会的評価及び信用の失墜等に繋がるおそれがある。特に当社グループの事業の性質に鑑み、国内外の独占禁止法、贈賄関連法規、貿易・為替法規、建設業法、下請代金支払遅延等防止法等の違反に関しては、当社グループへの影響は一層重大なものとなる可能性がある。このように法令等の違反は、当社グループの経営成績等の状況に重要な影響を与える可能性がある。
配当政策
3【配当政策】
当社は、「事業成長」と「財務健全性」とのバランスを考慮しながら、連結配当性向30%を目処に株主還元を行うことを基本方針としている。
当社は、定款の定めにより、毎年9月30日を基準日とする中間配当金及び毎年3月31日を基準日とする期末配当金の年2回の剰余金の配当を行っており、これらの剰余金の配当を決定する機関は、中間配当金については取締役会、期末配当金については株主総会としている。
当事業年度に係る剰余金の配当については、当事業年度の業績や財政状態等を総合的に勘案し、期末配当金を1株につき120円とし、2023年12月に支払った中間配当金 (1株につき80円)と合わせ、1株当たり200円としている。
内部留保資金については、企業体質の一層の強化及び今後の事業展開のため活用していく。
なお、当社は、会社法第454条第5項に規定する中間配当をすることができる旨を定款に定めている。
当事業年度に係る剰余金の配当は、次のとおりである。
決議年月日 |
配当金の総額 (百万円) |
1株当たり配当額 (円) |
2023年11月6日 |
26,952 |
80 |
取締役会決議 |
||
2024年6月27日 |
40,432 |
120 |
定時株主総会決議 |
(注)当社は2024年4月1日付で、普通株式1株につき10株の割合で株式分割を行っているが、期末配当金の配当基準日は2024年3月31日であるため、当該株式分割前の株式数を基準とした金額を記載している。