リスク
3 【事業等のリスク】
(1)リスク管理体制と運用状況
当社グループでは、会社の持続的発展を目的に、企業経営・事業継続に重大な影響を及ぼすあらゆるリスクに対し、識別・評価・管理が重要な課題であるという認識のもと「リスク管理委員会」を設置して、リスク管理を行っています。
リスク管理委員会は、リスク管理担当役員であるCRO(Chief Risk Management Officer)を委員長とし、委員は経営委員会の構成員等、事務局は総務部と内部統制推進室として、年に2回定期的、また必要に応じて随時開催しています。全社的な見地でリスクを把握し、重点対象のリスクについて継続的なモニタリングや、機動的な支援ができる体制を構築する等、当社グループを取り巻くリスクを適切に管理する体制整備に努めています。
リスク管理委員会がリスク全般を管轄し、専門的な対応が必要な事案は、傘下の品質委員会、輸出審査委員会、コンプライアンス委員会にて対応しています。また、サステナビリティ委員会とその傘下の環境部会、サプライチェーン部会にて、サステナビリティに関するリスクを把握するとともに対策を審議し、グループ全体で対応しています。
なお、当社の委員会やコーポレート・ガバナンス体制の模式図は「第4[提出会社の状況]4[コーポレート・ガバナンスの状況等]」に記載のとおりです。
<ニコングループのリスク管理体制図(2024年3月31日現在)>
(2)リスクの把握と対策
当社グループでは、当社グループが抱えるリスクを把握するため、リスクアセスメントとして「リスク把握調査」を毎年実施しています。この調査は、当社の部長相当以上及び国内・海外グループ会社社長に実施しているもので、全社的な重要リスクの洗い出しや分析・評価を行い、対応状況をモニタリングしています。調査結果をもとに、影響規模と発生確率で表す「リスクマップ」を作成し、重要リスクの認識や、取り組みを強化すべき課題の判断をリスク管理委員会にて行っています。
当社グループの戦略・事業その他を遂行する上で、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主なテーマは以下のとおりです。これらのリスクは、当社グループの全てのリスクを網羅したものではなく、想定していないリスクや重要性が低いと考えられるほかのリスクの影響を将来的に受ける可能性もあります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
①事業、経営に関するリスク
・リスク
中期経営計画において、材料加工・ロボットビジョンは、戦略事業「デジタルマニュファクチャリング」の中期成長ドライバーと位置づけています。戦略投資の一つとして、金属アディティブマニュファクチャリングにおける統合ソリューションをグローバルで提供するドイツSLM Solutions Group AG(現Nikon SLM Solutions AG)に対して公開買付けを実施し、当社の連結子会社とする等、事業の拡大を進めていますが、関連する市場の成長が想定よりも鈍い場合等は、本計画期間である2025年度までに期待される規模への成長に届かない可能性があります。
また、主要事業においては、映像事業の主要製品であるデジタルカメラは、ミラーレスカメラ市場での厳しい競争に加えて、部品の価格高騰や調達の遅れによる影響が生じており、将来的には市場環境悪化の可能性があります。
精機事業が扱うFPD露光装置の需要は、ディスプレイ市場自体は安定的に需要が見込める市場ですが、設備投資の縮小継続により露光装置需要の回復が伸び悩む可能性があります。半導体露光装置の対象市場である半導体市場は、中長期的に大きく成長が見込まれるものの、競合他社の先端プロセス開発の状況によっては、液浸露光装置の需要が減少する可能性があります。また、当社グループの主要顧客が設備投資計画を変更した場合等、当社グループの収益に影響を及ぼす恐れがあります。
・対応
デジタルマニュファクチャリング事業では、デジタル化が進む製造業に対して独自の価値を提供し、競争力のある新製品を市場に導入すること等で、新たな市場の形成を進めていきます。また、取締役会等で定期的にモニタリングを行い、市場の動向を注視することで、タイムリーに戦略を検討・修正できる体制としています。
映像事業は、生産販売面での最適化、サプライチェーンや物流の改革、徹底したコストダウン、デジタルマーケティングの強化、開発効率化等に取り組み、引き続き事業の収益体質強化を進めています。
FPD装置事業は、露光装置の需要が落ち込む環境下でも一定の利益を確保するため、新規露光装置及びサービスビジネスによる収益拡大やトータルコスト低減を進めています。半導体装置事業は、収益性重視の事業戦略の下、既存顧客以外の開拓を積極的に進めるとともに、サービスビジネスを拡大していきます。
②研究開発に関するリスク
・リスク
当社グループの事業分野は厳しい競争下にあり、高度な研究開発の継続によって製品の開発が常に求められています。そのため、当社グループの収益の変動にかかわらず、製品開発のための投資を常に継続する必要があります。しかし、投資の成果が十分に上がらず新製品、次世代技術の開発や市場投入がタイムリーに行えない場合や、当社グループが開発した技術が市場に受け入れられなかった場合、あるいはゲームチェンジ等抜本的な変化により当社の技術が不要となる場合、企業価値が低下し、収益が減少する可能性があります。
・対応
当社グループでは「技術戦略委員会」にて、注力すべき新領域の開拓や既存事業の競争力向上につながる技術戦略を明確にし、技術開発の方向性と重点投資分野を決定しています。幅広い社会的課題やニーズに積極的に応えながら、当社グループの長期的な成長を実現していきます。
③各種規制・制度変更に関するリスク
・リスク
当社グループはグローバルに事業を展開しているため、生産及び販売活動の多くが日本国外であり、連結売上収益に占める海外売上収益比率は高くなっています。多くの国々において、輸出入規制、競争法、労働法、腐敗防止、移転価格税制等、各種法規制の適用や企業の社会的責任を求められています。これら法規制や社会的責任として求められる内容は大きく変わる可能性があり、その変化により事業活動費用増加や事業の制約、レピュテーションリスク等を受ける可能性があります。
・対応
当社グループでは、「リスク管理委員会」によるリスク整理・管理に加え、専門的な対応が必要なリスクに対しては、その傘下の品質委員会、輸出審査委員会、コンプライアンス委員会の3委員会で対応を図るとともに、サステナビリティの視点から、サステナビリティ委員会及び傘下部会でもマテリアリティを中心としたリスクのモニタリング及び対応をしています。またその中で、規制の変更に関してグループ全体で情報を収集後、当該情報に基づいた実務プロセスへのフィードバックや規制を踏まえた戦略を立案する等、更なる体制強化に取り組んでいます。
④M&A、戦略的出資に関するリスク
・リスク
当社グループは、新規事業の創出や既存事業領域の拡大、事業シナジー実現のために、M&Aや戦略的出資を行っています。市場環境の著しい変化や対象企業の人材流出等により所期の成果を達成できない場合、のれんや有価証券等の減損損失により、財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
・対応
当事業戦略に基づき、M&A対象、戦略的出資先を探索し、対象企業の価値やリスク等のデュー・ディリジェンスを行っています。また、買収や出資後の検証については、CFOを委員長とする出資モニタリング委員会において、当初の目的に対する進捗確認を定期的に行い、必要に応じて戦略の軌道修正を図っています。
⑤地政学のリスク
・リスク
前述のとおり、当社グループはグローバルに事業を展開しているため、連結売上収益に占める海外売上収益比率が高く、海外市場への依存が大きくなっています。海外での事業展開は、世界経済全体の動向に加え、政治問題、貿易摩擦や紛争等の影響、暴動・テロ・戦争等による社会の混乱により、事業活動に大きな障害や損失が生じる可能性があります。また、外国為替相場が急激又は大幅に変動した場合は、当社グループの収益や財政状況に多大な影響を及ぼす恐れがあります。
・対応
当社グループでは、リスク管理委員会によるリスク整理・管理に加え傘下の委員会や、サステナビリティ委員会及び傘下の部会にて、リスクのモニタリング及び対応をしています。当該リスクが顕在化する可能性やその影響レベルについては、社会情勢等により左右されるため、具体的に予測することは困難でありますが、情報収集及び事業に与える影響の分析を行い、対策を検討、実施しています。また、当社グループは、売上規模と販売地域に応じた適切な為替ヘッジを行っています。
⑥調達のリスク
・リスク
近年、グローバル規模の異常気象や自然災害、地政学的な影響等さまざまな要因により労務費、原材料価格、エネルギーコスト等が大きく変動しています。加えて、サプライチェーンにおける人権、労働環境、安全衛生や脱炭素といった環境等に関する社会課題へのステークホルダーの関心も高まっており、サプライチェーンの不安定要素・リスクが増加していると考えています。
・対応
部品調達や物流においても不確実性と変動性の高い状況が継続しています。そのため、当社グループは調達パートナーと共に品質及びESG(Environmental環境、Social社会、Governanceガバナンス)の観点を持ち、協働活動を進め、当社グループ全体でレジリエントなサプライチェーンの構築に取り組んでいます。そして、調達パートナーとの強固な関係を築き上げ、サプライチェーンの可視化、BCP(事業継続計画)の策定・強化、温室効果ガス排出量の把握、人権デュー・ディリジェンスの強化等を通じて、大きく変化する事業リスクや社会課題に対して柔軟に対応できる体制を構築しています。これによりリスクを低減し、持続可能な成長を目指しています。
⑦環境のリスク
・リスク
気候変動に起因する異常気象や洪水、渇水等の自然災害や感染症の拡大により、開発・生産拠点及び調達先等に甚大な損害が生じた場合、操業に影響が生じたり、生産や出荷が遅延したりする恐れがあります。また、脱炭素社会に向けた動きが加速する中、各国において炭素税等の政策・法規制の導入又は導入検討が進んでおり、エネルギーや原材料のコストが増加するリスクがあります。
環境政策・法規制等により、基準の遵守や情報開示等の対応が求められ、年々強化される傾向にあります。対応が十分ではないと、行政処分等による生産への影響や課徴金、社会的信用の失墜等会社経営に甚大な損害を与える可能性があります。特に化学物質等に関連する法規制が強化された場合、必要な材料・副資材の入手が困難になる可能性があります。
・対応
当社グループは、気候変動や天然資源の枯渇、廃棄物問題、有害化学物質による汚染などの環境問題を自社の存続にも関わる問題と捉えてマテリアリティとして位置づけ、サステナビリティ委員会や関連する委員会、部会でリスクのモニタリングを行い、さまざまな対策を講じるとともに、地球環境に配慮した経営を行っています。また、グループ全体で省エネルギー活動や再生可能エネルギーの活用、開発・生産プロセスの効率化等をはじめとしたバリューチェーン全体での温室効果ガス削減やBCPの策定に取り組んでいます。
社内の規程類を整備し、担当者の教育等を実施することで、バリューチェーンを含めた管理体制を強化するほか、規制の変更等のタイムリーな把握等に努めています。また法規制よりも厳しい自主基準値を設けることで環境汚染の未然防止に努めています。
⑧人的確保のリスク
・リスク
当社グループは、高度な技術や専門知識及び能力を有する社員等、多様な人材によって支えられており、市場での激しい競争に打ち克ち、事業成長を実現するためにはこうした人材の確保が重要です。有能な人材を採用・育成できず、あるいは主要な人材が退職した場合、事業活動への影響や、知識・ノウハウの社外流出、収益と財政状況等に悪影響を及ぼす可能性があります。特に労働流動性が高い国や地域における人材流出の危険性は高いと考えられます。主要な人材が流出し、補充が困難な場合、当社グループの成長に影響を及ぼす可能性があります。また1990年前後の大量採用やこれまでに幾度かあった新規採用抑制の影響で、社内での高齢化が進み、中堅・若手の不足により、技術・技能の伝承や業務ノウハウの引き継ぎが適切に行われないリスクがあります。
・対応
当社グループは中期経営計画で事業を支える経営基盤の強化に取り組んでいます。その中で、人的資本経営の考え方に基づいて、人材の「獲得」「育成」「活躍」の3点を人材戦略の柱とする各施策を実行し、成長戦略実現を支える人材獲得に向けた採用戦略の実行にこれまで以上に力を入れています。また、人材の育成・活躍に向けては具体的なカリキュラムを組み、固有技術・技能の伝承と標準化・共有化を推進し、多様な人材がグローバルで活躍できる環境・機会の創出に取り組んでいます。
⑨情報資産とサイバーセキュリティのリスク
・リスク
当社グループは、技術情報や取引先及び顧客情報等の多くの情報資産を保有しており、サイバー攻撃や故意、過失、災害等により、情報システムの重大な障害や個人情報の不正利用、情報セキュリティ事故を生じさせた場合、当社グループの企業価値の毀損や、損害賠償請求を受けるリスクがあります。個人情報保護や、製品のセキュリティ要件に関する世界各国の法令に違反した場合、厳罰に処される可能性があります。
また、デジタル化が急速に進むなか、社内システムの老朽化や業務の複雑化・属人化、基幹システムのサポート終了等が、業務の非効率となる可能性があります。
・対応
当社グループでは、個人情報保護を含む情報管理において代表取締役 兼 社長執行役員を最高責任者と定めるとともに、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)に準拠した業務プロセスを構築しています。サイバー攻撃に対し高い防御力を維持し、インシデントの早期発見と対応のため、様々なセキュリティ対策を行い、グローバルで一括して監視・対応する運用体制の改善・強化を進めています。保管セキュリティレベルの向上を図るとともに、情報取り扱いに関する社内規程の整備や従業員教育等を実施しています。
基幹システム更新プロジェクトを推進することで、デジタル化による業務の効率化、デジタルマーケティングの強化、サービスプラットフォームの整備等を強化していきます。
⑩知的財産、訴訟のリスク
・リスク
当社グループは、製品開発に伴って多くの知的財産権を取得、保有し、他社にライセンス供与もしています。当社グループの知的財産権を他社が無断使用すること等に起因して提訴に至った場合、大きな訴訟費用が発生する可能性があります。一方で、他社、個人等より、知的財産権を侵害したとして、製造・販売の差し止めや損害賠償請求を受ける可能性があり、当社グループの収益や財政状況に多大な影響を及ぼす可能性があります。
・対応
既存事業の成長や新事業の創生につながる「知的財産戦略」を策定し、この戦略に従って知的財産活動を継続的に推進しています。研究開発活動によって生み出された技術や製品に関する特許、意匠、商標等、知的財産を保護しています。将来を見据えた知的財産の創生と権利化を各事業部門や研究開発部門と協働しながら行うことで、市場における競争優位の確立を図っています。また、法務・知的財産部門と関連部門で連携して、他社知的財産権の調査等を適宜実施し、他社知的財産権の侵害の未然防止に努めています。
⑪災害、感染症等のリスク
・リスク
大地震・火災・洪水等の自然災害(異常気象、気象変動に起因するものを含む)による水・電力・通信網等のインフラストラクチャーや物流機能の障害や感染症の拡大等に伴い、事業活動に大きな障害や損失が生じる可能性があります。当社グループの開発・製造拠点や調達先等に壊滅的な損害が生じた場合、操業が中断し、生産や出荷に遅延が生じるおそれがあります。これによって生産や販売が制約され、事業の復旧に多大な費用が生じた場合、当社グループの収益と財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
・対応
当社グループでは、大規模災害や感染症等の発生に備えてBCPを策定し、定期的に見直しています。当社では、「首都直下地震」等の大規模地震を想定し、主要事業部門のBCPの再点検・アップデートを行い、事業継続のための施策を実施しています。また、国内グループ会社を含めて、大規模地震発生時の行動についての教育や、災害時を想定した安否確認及び通信訓練等の各種訓練を実施しています。
配当政策
3 【配当政策】
当社の利益配分は持続的成長に向けた投資(戦略投資、R&D、設備投資)を強化するとともに、株主重視の観点から安定的な配当を行うことを基本とし、同時に柔軟な株主還元政策により中長期的な視点に基づく最適な資本配分を実現する方針としております。
2024年3月期は、期末配当金は1株当たり25円とさせていただき、年間配当金は中間配当の25円と合わせ1株当たり50円と決定しました。
当社の剰余金の配当は、中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としています。配当の決定機関は、中間配当は取締役会、期末配当は株主総会です。なお、当社は中間配当を行うことができる旨を定款に定めています。
(注) 基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は、以下のとおりです。