2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 

 当社及び連結子会社を取り巻く多種多様な定量・定性リスクに対し、関係のコーポレートスタッフ部門各部がそれぞれの職掌に定めるリスク管理分野において各種社内規程等の制定を行うと共に、事前審査もしくは事後モニタリングを通じ、相互連携して対応しています。また、経営会議及び経営会議の諮問機関であるポートフォリオ管理委員会を核として、全社一元的に管理する統合リスク管理体制を構築し、全社リスクを横断的に見て、発生頻度と想定損害規模及び全社リスク許容度に鑑み、重要なリスクを特定、対策を講じています。当連結会計年度末における重要なリスクは以下のとおりです。

 なお、サステナビリティ取組みへの関心の高まりに伴い、中長期的な企業価値向上と持続的成長の観点から当社及び連結子会社が責任を果たす重要性がますます高まっています。こうした事業環境の変化に適切に対応できない場合、事業継続に支障をきたし、今後の事業への影響が多岐にわたる可能性が想定されるため、当連結会計年度より新たに「(13)人的資本の制約に関するリスク」及び「(14)人権に関するリスク」を追加しています。

 

(1)事業投資リスク

 当社及び連結子会社は、持分・株式取得を通じ、さまざまな事業に対する投資活動を行っていますが、この事業投資に関連して投下資金が回収不能となるリスク、撤退の場合に追加損失が発生するリスク、及び計画した利益が上がらないなどのリスクを負っています。

 また、当社及び連結子会社は第三者との合弁事業、あるいは、第三者に対する戦略的投資を通じて多様な事業分野に参入しています。しかしながら、その結果の予測は困難なことがあります。すなわち、

・これらの事業の成否は、合弁事業のパートナーや戦略的投資先企業の業績や財政状態といった当社及び連結子会社が制御しえない事象が決定的な要因となる場合があります。

・更に、持分法適用会社での事業において、経営、業務運営、資産処分に関する適切な統制ができない、あるいはパートナーと事業目的及び戦略的課題を共有できないために重要な決定ができなくなる可能性があります。

こうした事態の発生は、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 また、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態において重要な割合を占める金属資源や石油・ガスの探鉱・開発・生産事業の一部において、当社及び連結子会社はノンオペレーターの立場で参画しています。この場合、当社及び連結子会社はオペレーターである事業参加者が作成した情報に基づき事業性を検討しますが、開発及び生産に係る意思決定を含めた事業の運営はオペレーターの定める方針に影響を受けます。オペレーターによる事業運営が適切に行われない場合、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 そのため、新規投資の実行については必要収益率などの定量基準や定性評価に基づき意思決定するとともに、全事業の保有意義を定期的にモニタリングし、不振事業や撤退アラート基準に抵触する事業の改善計画や撤退方針を擦り合わせ、効率的な資産の入替えを行っています。また、連結財政状態計算書上の資産に内在するリスクに加えて、マーケットリスクや保証債務などのオフバランスのリスクを一定の基準で評価し、リスクアセットとして定期的にモニタリングしています。また、一定の前提の下にストレステストを定期的に実施し、ストレステスト下におけるリスクアセットと株主資本の比率への影響も検証しています。

* 営業債権や投資、固定資産などの連結財政状態計算書上の残高及び保証債務などのオフバランスシート・ポジションに、その潜在的な損失リスクに応じ当社が独自に設定したリスクウェイトを乗じることにより算出している想定損失の最大額。

 

(2)地政学的リスク

 ロシア・ウクライナ情勢や米中関係等、国・地域間の政治的・社会的緊張の高まりにより、当社及び連結子会社が当該国・地域に展開する事業の業績が悪化、または継続が困難となるリスクを負っています。

 地政学的な不確実性により、当社及び連結子会社の事業を取り巻く環境が大きく変わる中、難易度の高い組織運営と責任のある主体的な行動が一層求められており、各事業に関わるステークホルダーとの緊密なコミュニケーションも必須となっています。こうした地政学的リスクの高まりによる不確実な情勢の中で機動的に対応するために、当社では以下のようなリスクヘッジ策を講じていますが、全ての地政学的リスクを回避することは困難であり、当社業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

・事業を展開する国・地域の政治・経済情勢等の動向を定期的にモニタリングし、その国や地域に存在するリスクや事業環境の変化について慎重に判断を行っています。

・地政学的リスクが高いとされる地域へ事業を展開する際は、保険・各国輸出信用機関によるファイナンス等の金融的手段によりリスクを低減しています。

・有事の際の対応についてのノウハウを蓄積し、国・地域をまたぎ複数の現地法人が連携、従業員の安全を図り、日本国内または海外で事業を継続する体制を構築しています。

 

 ウクライナ情勢に関して、当社は国際社会が協調し制裁措置を取る中で、それらを遵守しつつ各事業に取り組んでいます。ロシア向けの投融資保証残高は2024年3月末時点で3,030億円となり、当社及び連結子会社の投融資保証残高の約4%となりますが、将来の不確実なロシア・ウクライナ情勢によって影響を受ける可能性があります。また、ウクライナ向けの投融資保証残高は僅少です。なお、2024年3月期決算における影響については、連結財務諸表注記事項31.「ロシア・ウクライナ情勢のロシアLNG事業への影響」をご参照ください。

 

(3)カントリーリスク

 当社及び連結子会社が世界各地で展開する事業は、各国の政治・経済・社会状況の変化により、当該国に所在する取引先等に対する債権や、出資先もしくは進行中のプロジェクトに関する投融資等の回収が不能になる、もしくは在庫・固定資産等の価値が毀損するリスクを負っています。

 さらに、当社及び連結子会社の事業活動は、特定の国または地域の特定の分野に一定程度集中しています。例えば、当社及び連結子会社は、

 

・ブラジル、チリ、ロシアにおいて金属資源・エネルギーの探鉱・開発・採掘・液化に係る投融資残高があります。

・マレーシアにおいて、アジア広域のヘルスケア事業に係る投融資残高があります。

・モザンビークにおいて、エネルギーの開発・生産・液化に係る投融資残高があります。

・インドネシアにおいて、消費者関連事業等に係る投融資残高があります。

 

そのため、カントリーリスクについては、保険・各国輸出信用機関によるファイナンス等、案件の内容に応じて適切なリスクヘッジ策を講じています。

 また、ポジションを有するすべての国について債権、投融資、保証等のエクスポージャーを国別に定期的に把握するとともに、原則として先進国を除く国を対象に、カントリーリスク状況の定性・定量的なモニタリングを行い、年1回及び必要と判断する都度、カントリーリスク管理上の対応方針を策定しています。全社ポートフォリオの定期的なモニタリングにおいては、事業分野別だけでなく国別のアセットサイズが適切なレベルかどうかも検証しています。

 

(4)気候変動に関するリスク

 気候変動による将来影響を把握し、また成長機会として取り込むことで、より事業ポートフォリオを良質化すべく、2050年の「あり姿」としてNet-zero emissionsを掲げ、2030年はその「あり姿」に向けた道筋として、2020年比GHGインパクト半減を目指しています。

 グローバルな経営環境の変化に対して柔軟に対応し、戦略のレジリエンスを高めるため、中長期なシナリオ分析を実施しています。シナリオ分析に際しては国際エネルギー機関(IEA)のシナリオ等を参照して移行リスクの分析を行い、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)にて採用される代表的濃度経路(RCP)も参考に物理的リスクの分析を行いました。

 

 中長期的に発現する可能性がある移行リスクとしては、主に以下を認識しており、既存ポートフォリオを維持する前提では、長期的には保有権益・資産の価値毀損により当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

・政策・法規制リスク:各国・地域の政策によるエネルギー・電源構成の変更や、炭素税の賦課などの排出規制は、当社及び連結子会社が出資するGHG排出量が多い事業の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

・技術リスク:気候変動に適応した新技術の導入による既存商材・サービスの需給の変化や既存製造設備の陳腐化が生じる可能性があります。

・資金調達リスク:金融機関・保険会社の低・脱炭素方針により資金調達上のリスクが発生する可能性があります。

 

 現在から2050年までの4℃シナリオ下において、猛暑、山火事、水ストレス・干ばつ、熱帯低気圧の四つが当社への影響が大きい物理的リスクと認識しています。分析対象企業65社のうち、2050年にリスクが高い企業数は、猛暑に関しては約8割、山火事、水ストレス・干ばつ、熱帯低気圧に関しては、半数近くになります。中でも、山火事のリスクが高い企業は現在から約2倍に増加します。また、熱帯低気圧は、現在もリスクが高い企業が多く、新たにリスクが高まる企業は少ないものの、その発生頻度や巨大化により、被害の深刻化が懸念されます。当社及び連結子会社各社において、保険付保、複数サプライヤーの確保、危機管理方針策定、設備増強等の対策は取っていますが、物理的リスクを完全に回避できるものではなく、将来の当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

 なお、当社では、レジリエンスの向上とGHG排出削減効果のある取組みの促進を目的に社内カーボンプライシング制度を導入し、案件審査の一要素としています。

 リスクの対応策を含めた気候変動に関する当社及び連結子会社の取組みについては「2. サステナビリティに関する考え方及び取組 (4)気候変動対応」をご参照ください。

 

(5)商品価格リスク

 鉄鉱石、原料炭、銅、原油、天然ガス・LNGなどをはじめとする各種市況商品の生産及び売買は、当社及び連結子会社の重要な事業分野です。これらの商品価格は、需給の不均衡、景気変動、在庫調整、為替変動などの当社及び連結子会社にとって制御不能な要因により、短期的に乱高下あるいは周期的に変動します。

 価格変動は、連結子会社及び持分法適用会社が保有する権益持分相当の生産量からの販売収入に直接的な影響を及ぼします。2025年3月期において、連結損益計算書における当期利益(親会社の所有者に帰属)への影響額は、原油価格でUS$1/バレルあたりの価格変動により24億円、鉄鉱石でUS$1/トンあたりの価格変動により27億円と推定しています。詳細は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)2025年3月期連結業績予想」及び「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (4)経営成績に係る検討と分析」をご参照ください。

 そのため、当社及び連結子会社は、商品価格リスクを含む市場リスク管理方針を策定し、さまざまな階層において管理体制を構築しています。特に商品価格リスクに関しては、各事業本部長及び海外地域本部長は、各本部におけるポジション限度及び損失限度の設定、管理体制等を定めたリスク管理方針を策定し、担当役員の承認を受け、その承認内容に従って管理・報告を行う一義的な責任を負っています。また、取引部署から独立したリスク管理部署において、市場リスクの状況を管理、評価及び分析し、その結果を定期的に担当役員に報告しています。

 

 また、当社及び連結子会社は、市況商品に係る営業活動を行うにあたり、約定残高のキャッシュ・フローを固定化することを目的として、主に商品スワップなどのデリバティブを用いてヘッジを行っており、その一部についてはヘッジ会計を適用しています。

詳細は、連結財務諸表注記事項9.「金融商品及び関連する開示 (6)リスク関連、(7)デリバティブ取引及びヘッジ会計」をご参照ください。

 また、予想外の相場変動は、以下に示すように当社及び連結子会社の事業、経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

・多額の投資を行ってきた金属資源・エネルギー生産事業等で、販売価格の下落により、生産した商品の販売を通じた投下資金の回収が困難になる、あるいは許容しうる価額での当社出資持分の売却が困難になることがあります。

・評価差額をその他の包括利益に認識する資本性金融資産(以下、FVTOCI)に区分するLNGプロジェクト等に対する投資の価値の下落により、当社及び連結子会社の包括利益に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6)為替リスク

 当社及び連結子会社は外国通貨で表示された資産及び負債の換算リスクを負います。また、海外の関係会社に対する投資やFVTOCIに区分する投資は、為替変動によりその価値を減じ、当社の包括利益及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 2025年3月期において、連結損益計算書における当期利益(親会社の所有者に帰属)への影響額は、米ドル/円で1円の変動により34億円、豪ドル/円で1円の変動により25億円と推定しています。詳細は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)2025年3月期連結業績予想」及び「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (4)経営成績に係る検討と分析」をご参照ください。

 当社及び連結子会社は、為替リスクを含む市場リスク管理方針を策定し、さまざまな階層において管理体制を構築しています。特に為替リスクに関しては、各事業本部長及び海外地域本部長は、各本部におけるポジション限度及び損失限度の設定、管理体制等を定めたリスク管理方針を策定し、担当役員の承認を受け、その承認内容に従って管理・報告を行う一義的な責任を負っています。また、取引部署から独立したリスク管理部署において、為替リスクの状況を管理、評価及び分析し、その結果を定期的に担当役員に報告しています。

 当社及び連結子会社は、世界各国で多種多様な営業活動を行っており、所在国通貨以外での売買取引より生じる外貨建金銭債権債務及びファイナンス取引より生じる外貨建長期金銭債権債務などのキャッシュ・フローを固定化することを目的として、主に為替予約や通貨スワップなどのデリバティブ取引を用いてヘッジを行っており、その一部についてはヘッジ会計を適用しています。さらに、当社及び連結子会社は、主に在外営業活動体に対する純投資の為替変動リスクを回避することを目的として、主に外貨建借入金を用いてヘッジを行うとともにヘッジ会計を適用しています。

 詳細は、連結財務諸表注記事項9.「金融商品及び関連する開示 (6)リスク関連、(7)デリバティブ取引及びヘッジ会計」をご参照ください。

 

(7)保有上場株式の株価リスク

 当社及び連結子会社は、事業機会の創出や取引・協業関係の構築・維持・強化を図るため、市場性ある資本性金融資産への投資を行っており、株価リスクを有しています。当連結会計年度末において、当社及び連結子会社はFVTOCIに区分する市場性のある資本性金融資産を1兆1,582億円保有しており、総資産の6.9%に相当します。当社及び連結子会社は、全銘柄を対象に株式ポートフォリオの見直しを定期的に行っていますが、株式市場の価格変動や相場の下落は投資ポートフォリオを毀損し、その他の包括利益の悪化により、当社及び連結子会社の財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 当社及び連結子会社は、株価リスクを含む市場リスク管理方針を策定し、さまざまな階層において管理体制を構築しています。特に株価リスクに関しては、時価総額の増減要因の把握を行うことにより管理しています。

詳細は、連結財務諸表注記事項9.「金融商品及び関連する開示(6)リスク関連」をご参照ください。

 

(8)与信リスク

 当社及び連結子会社は商取引や融資取引のあるさまざまな顧客や事業に係る多額の与信リスクにさらされています。

 当社及び連結子会社は、多数の取引先に後払い条件で商品・サービスを販売し、あるいは販売契約に付随する融資プログラムや顧客の借入に係る支払保証を供与することがあります。当連結会計年度末において当社及び連結子会社の損失評価引当金控除後の流動売上債権等は2兆2,167億円であり、総資産の13.1%を占めています。控除した損失評価引当金残高(流動)は173億円となっています。

 さまざまなプロジェクトにおけるファイナンスのため、回収リスクを伴う多額の貸付や保証を行っています。

そのため、定期的に取引先の状況を確認し、適切な決裁者により承認されたクレジットライン管理を行うと共に、債権等の回収期日経過状況をモニタリングしています。また、必要に応じて取引先に担保などの提供を要求しています。詳細は、連結財務諸表注記事項9.「金融商品及び関連する開示 (6)リスク関連」をご参照ください。

 しかしながら、こうした管理を行ったとしても、当社及び連結子会社における与信管理政策は、与信先の財政状態悪化により発生しうるリスクを完全に排除することはできません。加えて、流動性危機の発生、不動産や株式などの市場価格急落による取引先の支払不能、あるいは企業倒産の増加などによって、当社及び連結子会社の債権回収が困難となる可能性があり、将来の当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(9)資金調達に関するリスク

 金融市場の混乱や当社格付けの引下げ、あるいは金融機関及び機関投資家の融資及び投資方針の変更は、当社及び連結子会社の資金調達に制約を課すとともに、調達コストを増大させ、当社及び連結子会社の財政状態や流動性に影響を及ぼす可能性があります。

 当社は、10年程度の長期資金を中心とした資金調達を行うと同時に、長期資金の年度別償還額の集中を避けることで借換えリスクの低減を図っています。また、事業展開に伴う資金需要に対する機動的な対応と、当社の有利子負債返済における金融情勢悪化の影響を最小限に抑えるためにも、十分な現金及び現金同等物を保有しています。

資金調達及び格付けについては、4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析「(5)流動性と資金調達の源泉」をご参照ください。

 

(10)オペレーショナルリスク

 当社及び連結子会社は、金属資源、エネルギー、機械・インフラ、化学品、鉄鋼製品、生活産業、次世代・機能推進の各セグメントにおいて、全世界に広がる事業拠点とその情報力を活用し、多種多様な商品の売買、製造、輸送、ファイナンスなど各種事業を多角的に行っており、さらには資源・インフラ開発プロジェクトの構築、環境・新技術・次世代燃料やウェルネスに関連する事業投資やデジタルを活用した価値創出などの幅広い取組みを展開しています。これらの事業は、火災、爆発、事故、輸出入制限、自然災害等のさまざまな操業上のリスクを伴っており、これらの事故・災害等が発生した場合には、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 環境事故が生じると、当社及び連結子会社は資源・エネルギー権益の所有者として、またノンオペレーターとして操業に全く関与していない場合であっても、当該事故への寄与度や過失の有無に拘らず、清掃費用、環境破壊への賠償、事故被害者への健康・財産被害や休業補償・逸失利益補填等のための損害賠償費用、環境当局からの罰金や補償金等の負担を強いられることで、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 当社及び連結子会社は、リスク軽減策・損害防止策を検討するほか、可能かつ妥当な範囲において、事故、災害等に関する保険を付していますが、それらによってもすべての損害を填補し得ない可能性があります。

 

(11)役職員による法令及び社内規定の遵守違反に関するリスク

 当社及び連結子会社は、その規模、業務範囲及び活動領域が広範にわたっていることから、日常業務は自ずと分権的に運営されており、従業員が全ての法令や社内規定を遵守しているとの確証を得ることはできません。例えば、従業員が必要な社内許可を取得しないまま社外との取引を行うこと、投融資案件において許可されたリスク・エクスポージャー限度額を超過することや、与信限度枠を超えて取引を拡大することもあり得、それらはどのケースにおいても予測不能な損失や管理不能なリスクに繋がります。また、従業員が日本あるいは外国における輸出貿易規制、汚職防止法、独占禁止法、税法などの法令を犯すこともあり得ます。

 当社及び連結子会社では、グローバル・グループベースでのコンプライアンス体制を強化、経営幹部が継続的にメッセージを発信し、コンプライアンスに関する職制ライン及び職制外の報告・相談ルートを設置すると共に、スピークアップ文化を醸成し、コンプライアンス違反に対して厳正に対処する等、さまざまな取組みを行っています。詳細は、第4 提出会社の状況 4. コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要「③内部統制システムの整備状況 (d)コンプライアンス体制」をご参照ください。

 しかしながら、このような取組みをもってしても、従業員の全ての不正行為を完全に排除することはできず、従業員の不正行為はその内容次第で当社及び連結子会社の事業、社会的信用、経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(12)情報システム及び情報セキュリティに関するリスク

 通信ネットワークのグローバル規模での運用が進展、またサイバー攻撃が全世界的に増加する中、ITシステムの適切な運用と情報価値の把握並びに適切な取扱いが重要です。当社は、情報システムの安全性及び情報セキュリティ強化のため、関連規程を整備し、当社及び連結子会社が保有する情報及び情報システムにおける機密性、完全性及び可用性を適切に確保し、またリスク管理水準を改善するための指針を継続的に示して情報漏洩等のリスクを管理し、通信ネットワーク監視等を通じた外部からの攻撃への対応や非常時を想定した定期的な訓練に努めています。

 しかしながら、予期できない水準の情報システム基盤や通信回線の重大な障害、あるいは経営に関わる機密情報の破壊・窃取が発生する可能性を完全に排除することはできず、この様な場合、業務効率の著しい低下が避けられず、事業継続あるいはビジネスの伸長に困難をきたすことから、当社及び連結子会社の事業、経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、可能かつ妥当な範囲において、外部からの攻撃に伴う被害等に関する保険を付していますが、それらによってもすべての損害を填補し得ない可能性があります。

 なお、情報セキュリティに関する当社の取組みについては、「2. サステナビリティに関する考え方及び取組 (6)情報セキュリティ」をご参照ください。

 

(13)人的資本の制約に関するリスク

 当社及び連結子会社は、「人」こそが持続的な価値創造の源泉であるとの考えのもと、人材の確保と育成、評価、報酬等の人材マネジメントに取り組み、事業の立案・評価及び実行や人員の指揮・監督などにあたる人的資本を投入しています。しかしながら、事業分野や国・地域によっては求められる人材が不足し、事業価値創出機会の逸失や、安定的なオペレーションに支障をきたす可能性があります。事業に対するこうした人的資本の制約は、当社及び連結子会社の事業展開と経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。なお、リスクの対応策を含めた人材戦略に関する当社の状況については「2. サステナビリティに関する考え方及び取組 (7) 人材戦略」をご参照ください。

 

(14)人権に関するリスク

 当社及び連結子会社は、川上から川下まであらゆる機能・サービスを提供しており、世界中で多岐にわたる事業を展開する中で、さまざまなステークホルダーに影響をもたらします。当社及び連結子会社の事業活動が人権への負の影響を引き起こしている、あるいはサプライチェーン等の取引関係を通じて人権侵害を助長していることが明らかになった場合は、レピュテーションリスクに加え、その影響の解消・緩和による追加的費用の発生等によって、経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性や、信用毀損等の影響を受ける可能性があります。

 そのため、自社のみならずサプライチェーンも含めた人権の尊重への取組みが求められていることを認識し、「三井物産グループ行動指針 -With Integrity」においても改めてこれを明確化し、グループ各社の経営理念や役職員行動規範にも反映すべく推進していきます。当社及び連結子会社の事業活動に関わる人権への負の影響を特定、評価、防止、軽減するために人権デューデリジェンスを実施すると共に、課題発生時には適切な手続きを通じてその是正・救済に取り組みます。また、サプライヤー等の取引先との協働による人権尊重の取組みや、社内プロセスへの人権リスク管理の組み込み等を通じた、事業活動における人権尊重取組みの一層の強化に取り組んでいます。なお、リスクの対応策を含めた人権に関する当社の状況については「2. サステナビリティに関する考え方及び取組 (5) サプライチェーンと人権」をご参照ください。

(15)自然災害、テロ・暴動遭遇、感染症等によるリスク

 当社及び連結子会社が事業活動を展開する国や地域において、地震や水害、テロ、感染症、電力不足等が発生した場合には、当社及び連結子会社の事業に影響を及ぼす可能性があります。

 当社及び連結子会社では、災害時事業継続計画(BCP)や災害対策マニュアルをあらかじめ策定するとともに、社員安否確認システムの構築、耐震対策、防災訓練などの対策を講じていますが、全ての被害や影響を完全に排除できるものではなく、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

 なお、当連結会計年度末に重要なリスクとして特定したもの以外で、当社及び連結子会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性があると認識している主要なリスクには、以下のようなものがあります。ただし、これらは全てのリスクを網羅したものではありません。

 

・当社固有のリスクではない、一般的なリスク

 

- 世界マクロ経済環境の変化によるリスク

 世界的なあるいは特定の地域における経済情勢、景気減速は、製品・素材の流通量の減少、個人消費や設備投資の低下をもたらしえます。その結果、当社及び連結子会社の商品及びサービスに対する需要が減少し、当社及び連結子会社の事業、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

- 法的規制に関するリスク

 当社及び連結子会社は内外の広範な法令に従い事業活動を展開しています。当社及び連結子会社の事業は、具体的には、各種の商品規制、消費者保護規制、事業及び投資に対する許認可、環境保護規制、外国為替規制、安全保障目的を含む輸出入貿易規制、投資規制、制裁関連法令、各種税法、独占禁止法などの制約の下にあります。例えば当社及び連結子会社による新興国でのインフラ開発プロジェクトは、十分に整備されていない法基盤の下で遂行されることがあり、包括的な法令体系の欠如や、一貫性のない法令の適用及び解釈、監督当局による規制措置の一方的変更などに対応する費用負担が増大することがあります。また、これらの事業が供給する製品あるいはサービスに賦課される税率、環境規制に係る技術的要件、所得税及び関税、投資元本及び配当の還流に関する為替規制などの諸法令などについて、予想外の変更が行われることがあります。

 当社及び連結子会社は、豪州、ブラジル、チリ、ロシア、中東等において一連の環境規制の制約を受けていますが、これらの地域における法令は、事業区域の浄化、操業停止あるいは事業終了、重大な環境破壊に対する罰金及び補償金、高額な汚染防止設備の設置、操業方法の変更などを課すことがあります。

 当社及び連結子会社が行う探鉱・開発・採掘事業について、必ずしも事業権に係る契約の相手方による義務の履行がなされる保証や契約期限到来時に事業権の存続期間が延長される保証はありません。また、これら事業に係る規制当局が、金属資源や石油・ガス生産事業における生産量、価格体系、ロイヤリティ、環境保護費用及び借地権等に関する契約条件に関し、一方的な介入あるいは変更を行わない保証はありません。規制当局が一方的に契約条件を変更した場合、あるいは、変更・新設された法令について遵守に対応する費用が増大する場合、当社及び連結子会社の事業、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、技術・資材調達・資金調達・環境面を含む当局による規制などの変更により、当初の想定より工期が遅延する可能性があります。

 

- 競合リスク

 当社及び連結子会社が提供する商品及びサービスの市場は、概して競争的な環境にあります。他の総合商社をはじめ、各種分野において同様の事業活動を展開する競合他社は、商品によって当社及び連結子会社の内外の顧客に対してより堅固な取引関係を有している場合や、より充実した世界的ネットワーク、特定地域に係る専門知識、広範な海外顧客基盤、金融サービス機能、市場分析能力を有することがありえます。当社及び連結子会社が、顧客の求める革新的かつ総合的なサービスを競争力あるコストにより提供できない場合、市場におけるシェアや顧客との取引関係の喪失につながり、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

- 金利リスク

 当社及び連結子会社は金利変動に係るリスクを有しており、金利変動は営業費用全般、並びに金融資産・負債の価額、とりわけ資本市場及び金融機関借入により調達される負債の価額に影響を及ぼします。金利水準の上昇、特に日本及び米国における上昇は、当社及び連結子会社の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 当社及び連結子会社の資金調達の状況については、4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析「(5)流動性と資金調達の源泉」及び連結財務諸表注記事項9.「金融商品及び関連する開示」をご参照ください。

 

- 確定給付費用及び確定給付債務に関するリスク

 国内外の国債等の債券や上場株式の価格下落は、当社及び連結子会社の制度資産の価値を減少させます。制度資産の価値の下落あるいは確定給付制度債務の増加は、その他の包括利益及び利益剰余金の悪化により、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 確定給付費用については、4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析「(6)重要な判断を要する会計方針及び見積り」及び連結財務諸表注記事項19.「従業員給付」をご参照ください。

 

- 訴訟及び紛争に関するリスク

世界各地で展開する事業活動において当社及び連結子会社は、訴訟や紛争のリスクにさらされています。また、通常の事業活動において、当社及び連結子会社に対する訴訟その他紛争が偶発的に発生し、また訴訟にはいたらないものの、クレームが提起される可能性があります。

訴訟その他の紛争には不確実性が伴うため、当社及び連結子会社が関与する訴訟その他の紛争の最終的な結果を予測することは不可能です。当社及び連結子会社が、いかなる訴訟その他の紛争にも勝つ保証はなく、また、これらの訴訟その他の紛争が、将来、当社及び連結子会社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性もあります。重要な係争事件については、連結財務諸表注記事項27.「偶発債務 (2)係争事件」をご参照ください。

 

・IFRSに基づく連結財務諸表の作成にあたっては、経営者の判断の下、一定の前提条件に基づく見積りが必要となる場合があります。この前提条件の置き方などにより、当社及び連結子会社の経営成績や財政状態に影響を及ぼすことがあります。詳細は、4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(6)重要な判断を要する会計方針及び見積り」をご参照ください。

 

配当政策

3【配当政策】

 

当社の利益配分に関する基本方針は以下のとおりです。

・企業価値向上・株主価値極大化を図るべく、内部留保を通じて重点分野・成長分野での資金需要に対応する一方

  で、業績の一部について配当を通じて株主に直接還元していくことを基本方針とする

・上記に加え、資本効率向上等を目的とする自己株式取得につき、成長投資とのバランス、株主還元後キャッシュ・フ

  ロー水準、有利子負債及び株主資本利益率等、経営を取り巻く諸環境を勘案し、その金額、時期も含め都度機動的に

  決定する

 

当社は、「取締役会の決議によって、毎年9月30日を基準日として、中間配当を行うことができる。」旨を定款に定めています。その結果、株主総会で決議される期末配当と併せて、年2回の剰余金の配当を行うことを原則としています。

2024年3月期の年間配当金額に関しては、1株当たり170円としました。なお、期末配当については、中間配当として支払い済みの1株当たり85円を差し引き、1株当たり85円となりました。

 

当社は、株式の流動性の向上と投資家層の更なる拡大を図ることを目的とし、2024年7月1日に普通株式1株につき2株の割合で株式分割を実施します。2025年3月期の年間配当金額に関しては、2025年3月期連結業績予想における基礎営業キャッシュ・フロー及び当期利益(親会社の所有者に帰属)並びに1株当たり年間配当金額の安定性・継続性を総合的に勘案し、株式分割考慮後で1株当たり100円(中間配当50円を含む、株式分割考慮前で前期比30円増)を予定し、これを2025年3月期から2026年3月期における下限として、配当維持または増配を行います。

 

なお、当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりです。

2023年10月31日取締役会決議による中間配当(配当総額128,665百万円;1株当たり85円)

2024年6月19日定時株主総会決議による期末配当(配当総額127,894百万円;1株当たり85円)