2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 

投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、定期航空運送事業および不定期航空運送事業を中心とする当社グループの事業の内容に鑑み、当社グループにおいては様々なリスクが存在しております。

当社グループは、「JALグループリスクマネジメント基本方針」において、重大な損失につながる要素ならびに「業務の有効性と効率性」、「財務報告の信頼性」、「法令等の遵守」、「資産の保全」を阻害する要素、加えて市場環境の変動や疫病・震災・テロ等の外的要因のみならず、グループ全体・自社・自組織の目標達成を阻害する業務執行上の要素もリスクと定め、リスクに強靭な企業グループとして事業を継続できるよう、適切なリスクマネジメントを実施してまいります。

グループ全体のリスク総括のために社長を議長とする「グループリスクマネジメント会議」を置き、JALグループが抱えている主要なリスクを俯瞰的に把握し適正なリスク管理に努めるとともに、連結業績に影響を及ぼす事象が発生した場合は「財務リスク委員会」と連携して対応しております。

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、連結会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性のあると認識している主要なリスクは次のとおりです。ただし、これらは当社グループに関する全てのリスクを網羅したものではなく、記載された事項以外の予見しがたいリスクも存在します。また、本項においては、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1)世界的な疫病の蔓延拡大に関わるリスク

①短期的な業績に与える影響に関わるリスク

当社グループは、日本および世界各地に航空運送事業を展開しております。2020年初頭から全世界規模で感染が拡大した新型コロナウイルス(COVID-19)のように未知の疫病の世界的な拡大が発生した場合には、各国政府による入境制限や移動の制限・自粛要請といった人の移動に関する規制の発動や、企業や利用者の感染防止を目的とした自発的な航空機利用の回避により、航空旅客需要は大幅に減少する可能性があります。当社グループが営む航空運送事業は、航空機材費や人件費等の固定費比率が高いことから、短期的な需要の急減は、当社グループを含む航空運送事業者の業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

②中長期的な事業環境の変化に関わるリスク

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、一時的に人の移動が大きく制限を受けたことにより、ITを活用し、移動を伴わず非対面での働き方が社会に広く浸透しております。こうした社会・行動様式の変化により、航空機を使った業務渡航の需要に変化が生じることで、当社グループが営む航空運送事業の事業戦略に影響を及ぼす可能性があります。

ポストコロナにおける業務渡航需要の変化を見据え、当社グループでは、LCCやマイレージ・ライフスタイル事業領域を強化する事業構造改革を進め、事業リスクの分散を図っております。

 

(2)自然災害・テロ攻撃等の災害に関わるリスク

当社グループの航空機の利用者の過半数は羽田空港および成田空港を発着する航空機を利用しており、当社グループの事業における羽田・成田両空港の位置付けは極めて重要です。また、当社グループの運航管理・予約管理等、航空機の運航に重要な情報システムセンター、ならびに全世界の航空機の運航管理やスケジュール統制等を実施する「IOC(Integrated Operations Control)」は東京地区に設置しています。

そのため、東京地区を含む首都圏において、大規模な震災や火山の噴火、大型台風等による被害が発生した場合、もしくは当該重要施設において火災やテロ攻撃等の災害が発生し、羽田・成田両空港の長期間閉鎖や、当社グループの情報システムやIOCの機能が長期間停止した場合、当社グループの経営に重大な影響を及ぼす可能性があります。

IOCの機能停止に備え危機管理体制およびBCPを整備しており、その一環として、大阪国際空港内にオペレーションコントロールの一部機能を移管しています。その機能は東京地区のIOCの機能の全てを代替できるものではありませんが、東京地区のIOCの機能が停止した場合、その再稼働までの間、暫定的に東京地区のIOCを代替します。

 

(3)気候変動・地球温暖化・環境規制に関わるリスク

世界では、地球温暖化等に起因する気候変動が大きな課題となっており、地球温暖化に起因し、日本国内において大規模な自然災害の発生頻度が多くなるような場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループが属する航空業界は、気候変動の要因となる化石燃料を大量に消費する業界であることから、CO2排出量の削減が社会的な責務であり、当社グループにおいても極めて重要な経営課題となっております。温暖化防止を始めとした地球環境に係わる企業の社会的責任が高まる中、CO2排出量、騒音、有害物質等に関する環境規制が強化され、消費行動にも影響を及ぼしつつあります。今後、温室効果ガス排出量取引制度等、温室効果ガス排出への課金等費用負担を伴う環境規制のさらなる強化等が行われた場合、また、消費者の行動様式に変化が生じた場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。加えて環境負荷軽減への取り組みが不十分な場合には、当社グループの社会的な評価が低下し、当社グループの事業運営に影響を与える可能性があります。

そのため、当社グループでは、2024年3月に公表した「2021-2025年度 JALグループ中期経営計画ローリングプラン2024」において、ESG戦略を価値創造・成長を実現する最上位の戦略と位置づけ、社会課題の解決を加速化してまいります。当社グループでは、2050年までにCO2排出量実質ゼロを目指しており、その実現に向けて、省燃費機材への更新促進、運航の工夫、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の安定的かつ適正な価格での調達などの取り組みを加速させるとともに、排出量取引やネガティブエミッション(CO2除去・回収等)といった新技術を活用してまいります。

 なお、気候変動に関わるリスクの概要やリスク低減に向けた当社の対応については、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の枠組みを活用し、その詳細を当社ホームページにて開示しています。( https://www.jal.com/ja/sustainability/environment/climate-action/

 

(4)国際情勢や経済動向等の外部経営環境に関わるリスク

①外部経営環境に関わるリスク

当社グループは、日本および世界各地に航空運送事業を展開しており、航空需要は、世界の経済動向、テロ攻撃や地域紛争、戦争等により大幅に減少し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループの業務は、整備業者、空港職員、航空保安官、燃油取扱業者、手荷物取扱者、警備会社等の第三者の提供するサービスに一定程度依存しており、第三者が、当社グループの事業運営に影響を及ぼす可能性があります。

②競争環境に関わるリスク

当社グループは、国内および海外において、路線、サービスおよび料金に関して激しい競争に直面しています。

国内線では、既存の航空会社との競争に加え、LCCを含む低コストキャリアや新幹線との競争、国際線では、海外および日本の主要航空会社との競争が激化しており、それに加えて海外および日本の航空会社によって形成されるアライアンス、コードシェアおよびマイレージ提携が競争を激化させています。

上述のように、現在の当社グループの競争環境や事業環境が大幅に変化した場合、当社グループの経営に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、航空運送事業においては、a)共同事業、b)複数の航空会社によるアライアンスへの加盟、c)コードシェア提携、d)マイレージ提携等、様々な形式で世界中の航空会社との提携を展開しております。また、マイル事業等の非航空事業分野においても、他業種との広範な提携関係を構築することで顧客基盤の強化を図っておりますが、これらの提携パートナーの経営状況や、提携関係に大きな変化が生じた場合には、当社グループの提携戦略に影響を及ぼす可能性があります。

 

これらのリスクの軽減に向け、地政学的なリスクをモニターする体制、関係当局、提携パートナーとの良好な関係の構築、商品・サービス競争力の向上、柔軟な需給適合の実施、適切な委託先管理に努めております。

 

(5)航空機導入に関わるリスク

当社グループは、航空運送事業において、燃費効率に優れた新型機への更新や機種統合による効率化を目指し、ボーイング社、エアバス社等に対して航空機を発注しておりますが、これらの航空機メーカーやエンジン等の重要な部品のサプライヤーにおける技術上・財務上・その他の理由により納期が遅延した場合、当社グループの機材計画は変更を余儀なくされ、当社グループの中長期的な事業に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、航空機メーカー等と状況を常時把握し、都度、航空機導入・退役計画を見直すことでかかるリスクの低減に努めております。

 

(6)市況変動に関わるリスク

①燃油価格の変動に関わるリスク

当社グループの業績は、燃油価格の変動により影響を受けます。当社グループは、燃油価格の上昇分を一部燃油特別付加運賃として顧客に転嫁しておりますが、これは燃油価格の変動を直ちに反映することができず、また、顧客に全てを転嫁することは困難です。また、当社グループは、燃油価格の変動リスクを軽減するため、原油のヘッジ取引を行っております。なお、ヘッジ取引手法やヘッジポジションの状況等によっては、原油市況の下落の効果を直ちに業績に反映することができず、短期的な当社グループの業績の改善に寄与しない可能性があります。

②為替変動に関わるリスク

当社グループは、日本国外においても事業を展開しており、外貨建により、収益の一部を受領し費用の一部を支払っています。特に当社グループにおける主要な費用である航空機燃料の価格の大半は米ドルに連動した金額となることから、当社グループにおいては米ドルの為替変動による影響は収益よりも費用が大きくなっております。これら為替変動による収支変動を軽減する目的で、収入で得た外貨は外貨建の支出に充当することを基本とし、加えてヘッジ取引を行っております。また航空機価格の大半は米ドルに連動した金額となることから、資産計上額および減価償却費が為替変動により増減するリスクがあります。これら為替変動によるリスクを軽減する目的で為替取得機会の分散を図るべくヘッジ取引を行っております。

 

③資金・金融市場・財務に関わるリスク

当社グループは、航空機の購入等の多額の設備投資を必要としており、その資金需要に応じる為に金融機関や市場からの資金調達を行う可能性があります。当社グループの資金調達能力や資金調達コストについては、資金・金融市場の動向や当社グループの信用力の変動等により、資金調達の制約や資金調達コストの上昇を招く可能性があります。

また、当社グループは繰延税金資産を計上しておりますが、当社グループの将来の課税所得の見込み額が低下した場合、もしくは税制改正等により、過去に計上した繰延税金資産の取り崩しが発生し、当社グループの財務状況に一時的に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、キャッシュ・フロー創出力の向上と資金調達能力の維持向上に向け、強固なリスク耐性を備えた財務体質を保つべく財務戦略を計画・遂行してまいります。

 

(7)航空安全に関わるリスク

当社グループでは、航空機の運航の安全性の確保のため、日々様々な取り組みを実施しておりますが、ひとたび死亡事故を発生させてしまった場合、当社グループの運航の安全性に対する顧客の信頼および社会的評価が失墜するだけでなく、死傷した旅客等への補償等に対応しなければならないことから、当社グループの業績に極めて深刻な影響を与える可能性があります。さらに、当社グループや、当社グループが運航する型式の航空機、また当社のコードシェア便において安全問題が発生した場合、当社グループの運航の安全性に対する顧客の信頼および社会的評価が低下し、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

当社グループでは、「安全」をJALグループ存続の大前提と位置付け、全社員が日々航空安全の実現に向けたゆまぬ努力を継続しております。また、航空事故対応の専門部門を配置するとともに社長を議長とする「グループ安全対策会議」を置き、グループ全体の安全に対して徹底した管理を行っています。なお、航空事故に伴う各種損害の軽減、ならびに被災者への確実な賠償を行う目的で、現在業界水準と同程度の補償額・補償範囲の損害賠償保険に加入しております。

 

(8)法的規制・訴訟に関わるリスク

当社グループの事業は、様々な側面において、国際的な規制ならびに政府および地方自治体レベルの法令および規則に基づく規制に服しています。これらの規制の変化等により、当社グループの事業がさらに規制され、また、大幅な費用の増加が必要となる可能性があります。

①法的規制に関わるリスク

当社グループは、航空法をはじめとする航空事業関連法令、二国間航空協定を含む条約その他の国際的取り極め、独占禁止法その他諸外国の類似の法令、ならびに着陸料等の公租公課等の定めに基づき事業を行っておりますが、これらに変更が生じた場合や、法令に基づき耐空性改善通報等が発出された場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、羽田空港等、当社グループの航空運送事業において重要な位置付けをもつ空港における発着枠の割当て等が、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

当社グループは、公正な競争環境が確保されるよう、国土交通省をはじめ国内外の関係当局等に対して要望しております。

②訴訟に関わるリスク

当社グループは事業活動に関して各種の訴訟に巻き込まれるおそれがあり、これらが当社グループの事業または業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは訴訟の提起等を受けており、事態の進展によっては、追加的な支出や引当金の計上により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、重大なリスクとなり得る法令違反および競争阻害行為等の防止に万全を期すべく、全社員および役員に対してコンプライアンス遵守を徹底させるべく、教育・啓発活動等に努めております。

 

(9)IT(情報システム)、顧客情報の取り扱いに関わるリスク

当社グループは、業務の多くを情報システムに依存しています。コンピュータ・プログラムの不具合やコンピュータ・ウィルス等のサイバー攻撃によって情報システムに様々な障害が生じた場合には、重要なデータの喪失に加えて、航空機の運航に支障が生じる等、当社グループの経営に影響を及ぼす可能性があります。また、情報システムを支える電力、通信回線等のインフラや、メールコミュニケーション等の当社が利用するクラウドサービスに大規模な障害が発生した場合、当社グループの業務に重大な支障をきたす可能性があります。

また、当社グループが保有する顧客の個人情報が取り扱い不備または不正アクセス等により漏洩した場合には、当社グループの事業、システムまたはブランドに対する社会的評価が傷つけられ、顧客および市場の信頼が低下して、当社グループの事業運営や業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、情報漏えい対策とウイルス対策を推進し、24時間365日体制で不正アクセスやウイルス感染などの脅威を監視しています。インシデント発生時にはサイバーインシデントへの対応体制を構築し、迅速な対応と再発防止を行っています。なお、個人情報の漏洩に備えた保険にも加入しております。

 

(10)人材・労務に関わるリスク

当社グループの事業運営には、航空機の運航に関連して法律上要求される国家資格を始めとする各種の資格や技能を有する人材の確保が必要ですが、当社グループの従業員がその業務に必要なこれらの資格や技能を取得するまでには相応の期間を要することから、当社グループが想定する人員体制を必要な時期に確保できない場合には、当社グループの事業運営が影響を受ける可能性があります。

また、当社グループの従業員の多くは労働組合に所属しておりますが、当社グループの従業員による集団的なストライキ等の労働争議が発生した場合には、当社グループの航空機の運航が影響を受ける可能性があります。

当社グループでは、採用競争力の向上、離職率の低減に努めるとともに、良好な労使関係の維持に努めております。

 

 

 

配当政策

3【配当政策】

 

当社は、株主の皆さまへの還元を経営の最重要事項のひとつとしてとらえており、将来における企業成長と経営環境の変化に対応するための投資や強固な財務体質構築に資する内部留保を確保しつつ、継続的・安定的な配当に加え、自己株式の取得を柔軟に行うことで、株主の皆さまへの還元を積極的に行うことを基本方針としております。

配当金額については、配当性向を概ね35%程度を目安としつつ、継続性・安定性および予測可能性を重視して決定してまいります。加えて、自己株式の取得については、当社の財務状況などを見据え、積極的かつ柔軟に実施を検討いたします。これにより、当社は、ステークホルダーの皆さまへの期間利益および経営資源の適切な配分を実施することで、配当金総額と自己株式取得額の合計額を踏まえた総還元性向について、概ね35%から50%程度の範囲となるよう努めてまいります。

また、資本効率の向上にも継続的に取り組み、配当金総額と自己株式取得額の合計額を株主に帰属する資本で除した「株主資本総還元率」の水準にも留意し、同指標については概ね3%以上となるよう努めてまいります。

当社は中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としており、剰余金の配当の決定機関は、期末配当については株主総会、中間配当については取締役会です。なお、当社は、「取締役会の決議により、毎年9月30日を基準日として中間配当を行うことができる。」旨を定款に定めております。

 

2024年3月期は、通期連結業績および今後のキャッシュ・フロー創出力の見通しなどを踏まえ、期末配当を1株当たり45円とし、中間配当30円と合わせて、1株当たりの年間の配当金は75円となります。

2025年3月期は、単価のさらなる上昇による国内旅客収入の増加や、日本発需要の回復による国際旅客収入の増加を中心に増収増益を見込んでいることから、年間配当予想は1株当たり80円、うち中間配当予想は1株当たり40円といたします。業績の回復に沿って従来からの基本方針である継続的かつ安定的な株主還元の実現に努めてまいります。

なお、基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は次のとおりです。

決議年月日

配当金の総額(百万円)

1株当たり配当額(円)

2023年10月31日

取締役会決議

13,110

30.00

2024年6月18日

定時株主総会決議

19,665

45.00