2025年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 当社グループの経営成績又は財政状態等に影響を及ぼす可能性のあるリスクとして認識している事項には以下のようなものがあります。なお、当社グループのリスクのうち主なものを記載しており、現時点では予見できない又は重要とみなされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。

 当社グループは、これらのリスクを認識したうえで、前述の「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載する方法などにより、その発生の回避及び発生時の適切な対応に向けて努力してまいる所存であります。

 文中の将来に関する内容については、当有価証券報告書提出日現在における判断に基づくものであります。

 

(1)リスクマネジメント推進体制

 当社グループでは、リスクマネジメントを企業価値の最大化と持続可能な事業運営における重要な経営テーマとして責任を持って取り組むこと、及びグループ全体のリスク管理状況の把握と向上を目的としたリスクマネジメントの統括機関である「リスクマネジメント委員会」を設置しております。

 当該委員会は代表取締役社長を最高責任者とし、リスクマネジメント担当役員及び各事業部門の責任者を委員としております。リスクマネジメント委員会は、当社グループを取り巻くリスクに関する情報の収集分析、リスクの対応方針及び目標の決定、グループ経営上重要なリスクの抽出・評価、定期的なリスク対応状況に関するモニタリングを行っております。

当社グループのリスクマネジメント体制図

 

(2)リスクマネジメントプロセス

 当社グループでは、リスクマネジメントの管理体制が適切かつ健全な役割を果たすために、リスクマネジメントの管理体制及び方針のレビュー・見直しを毎年行っております。当社グループの事業に関するリスクの評価を行い、リスクの性質に基づいて「ハザードリスク」、「事業戦略リスク」、「ガバナンスリスク」の3つに区分した上で、優先的に対応すべきリスクを特定しております。各リスク項目における関係部署においてリスクの対応策を検討し、実施しております。

 なお、リスク統括部署はリスクへの対応支援及びモニタリングを実施し、定期的に実施状況や確認結果をリスクマネジメント委員会に報告します。リスクマネジメント委員会は報告に基づいて、体制の強化または改善等が必要な項目に対して審議し、意見交換を通じて取り組みを最善な方向性に調整しております。加えて、当社グループの経営に影響する可能性がある事項を適時に最高責任者の代表取締役社長及び取締役会に報告しております。

 

当社グループのリスクマネジメントプロセス

 

(3)リスクの特定

 リスクの特定においては、以下のとおりに実施しております。

・リスクの識別

当社グループの事業戦略を分析すると共にそれぞれの事業部門と管理部門の責任者に対してインタビューを実施することによって、トップダウン・ボトムアップ両方のアプローチで当社グループにおける各リスクを識別。

・リスクの評価

識別されたリスクに対して、定量的かつ定性的に事業に及ぼす影響度と発生可能性を評価した後、既存の対応状況を評価。

・リスクヒートマップによる対応優先度の特定

上記2段階のリスク評価結果に基づいて、リスクヒートマップを作成し、特定されたリスクを「低」・「中」・「高」の3つのレベルに分け、「高」または「中」になるリスクを優先的に対応すべきリスクとして特定。

 最新のリスク評価の実施結果において、当社グループは40項目のリスクを識別し、「(4)当社グループにおける優先的に対応すべきリスク」に示す11個のリスク項目に分類し、対応策の検討及び実施を行っております。また、刻々と変化する事業環境に対応するため、モニタリングの結果や新たなリスクを識別した際には、リスク評価の見直しを行い、必要に応じて優先的に対応すべきリスクを更新しております。

 

(4)当社グループにおける優先的に対応すべきリスク

 当事業年度において優先的に対応すべきリスクと位置付けたもののうち、主なものを記載しておりますが、その他のリスクについても、それぞれ対応を進めております。

 また、下記のリスクは有価証券報告書提出日現在における当社グループが判断したもので、将来の業績や財政状態に与えうるリスクや不確実性は、これらに限定されるものではありません。

分類

リスク項目

対策優先度

ハザードリスク

① 災害リスク

② 感染症リスク

事業戦略リスク

③ 取引先管理に関するリスク

④ 風評リスク

⑤ 労働・安全衛生に関するリスク

⑥ 人材確保に係るリスク

⑦ 事業環境に関するリスク

ガバナンスリスク

⑧ 個人情報等の機密情報の取り扱いに関するリスク

⑨ 情報セキュリティリスク

⑩ 著作権等の知的財産権に関するリスク

⑪ コンプライアンス違反リスク

 

 

<ハザードリスク>

 

① 災害リスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

当社グループは映画劇場、テーマパーク、ホテル等多数の顧客等を収容可能な商業施設及び撮影所を含めた重要な作業施設において事業を行っております。地震、台風及び津波等の自然災害、火災や停電あるいは予期せぬ事故等が発生した場合は、顧客または当社グループの従業員の人的被害、施設及び設備の損壊等により、当社グループのサービス提供、事業運営に影響が生じ、当社グループの経営成績、財政状態等に影響を及ぼす可能性があります。

 

対応策

当社グループは自然災害または人為的な災害の発生による被害を軽減するために、重要な事業の継続を図る体制及び計画を整備しております。また、顧客及び従業員の安全を確保するために、安否確認システムの導入、災害対応手順の文書化・周知及び定期的な訓練の実施、備蓄品の整備等の対策を講じています。

 

② 感染症リスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

感染症等の蔓延により、政府や地方自治体からの行動制限の要請、消費者行動の変容やビジネスモデルの変化の結果として、以下のような事象が発生し、当社グループの事業活動及び収益に影響を及ぼす可能性があります。

・感染の拡大や景気の後退等による商業施設の利用減少

・物価の高騰や撮影関係者の感染等による制作費用の増加

・不動産市況の低迷による不動産価値の低下

・従業員の感染による業務停滞の発生

 

対応策

当社グループは感染症等の拡大を防ぐために、業種別ガイドライン等に基づく適切な感染防止対策を徹底し、検温・消毒等による従業員・施設の衛生管理、リモートワークの導入等様々な感染拡大防止策を積極的に推進しております。

 

<事業戦略リスク>

 

③ 取引先管理に関するリスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

当社グループは個人事業主または中小事業者に映像制作等の関連業務を委託しております。それらの業務委託先が自社の財務状況等による運営が停止された場合は、当社グループの業務継続に支障が生じる可能性があります。加えて、それらの業務委託先との契約に不備があった場合、当社が提供するサービスや制作する作品の品質レベルが維持できなくなり、当社グループの社会的信用あるいはブランドイメージが毀損される可能性があります。

また、当社グループは国内外において多様な企業と取引を行っております。適切な契約条件での契約締結ができない場合は、当社グループにとって不利益な状況に陥り、事業活動及び収益に影響を及ぼす可能性があります。

 

対応策

当社グループは、公正な取引の実現と健全なパートナーシップの構築を築くため、業務委託先を含む取引先との関係において、選定管理体制の強化および契約内容の適正化に継続して取り組んでまいりました。また、これらの取り組みをより一層実効性のあるものとし、グループ全体で一貫した高い水準の管理体制を確立するため、「東映グループ取引方針」を策定しております。本方針に基づき、サプライチェーン全体のリスク低減と相互の持続的なパートナーシップの深化に努めてまいります。

 

 

 

④ 風評リスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

当社グループが事業展開を行う各種事業のサービス及び映像作品に関して、各種のソーシャルメディアを通じて、宣伝や交流等を目的とした積極的な情報発信をしております。当社グループの従業員による不適切な内容が投稿された場合は、当社グループの社会的信用及びブランドイメージが毀損される可能性があります。

また、当社グループの映像作品等の社外関係者による不祥事、または第三者による誹謗中傷が発生した場合は、当社グループまたは映像作品等が風評被害を受け、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

対応策

ソーシャルメディアにおける情報発信に関し、その内容を事前に確認・承認する管理体制を構築し、その実効性ある運用を徹底しております。また、風評被害の発生可能性を低減することを目的として、定期的な社内セミナーの開催や多角的な啓発活動を計画的に実施し、全従業員のソーシャルメディア・リテラシー及びコンプライアンス意識の向上を推進しております。加えて、万一風評被害が発生した際に、迅速かつ的確な対応を実行し事業への影響を最小限に抑制できるよう、社内における包括的な危機管理体制の構築および強化にも注力しております。

 

⑤ 労働・安全衛生に関するリスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

従業員の長時間労働は、健康障害や心身の不調につながる恐れがあり円滑な業務の遂行に支障をきたす可能性があるだけでなく、これに起因して労働災害等重篤な事故が発生すると、損害賠償等経済的な損失や、社会的信用の失墜を招く可能性があります。

 

対応策

当社グループは従業員の心身健康を守るために、長時間労働を抑制する働き方改革を推進しており、各部署における労務管理を徹底すると共にリモートワークの推進や休暇取得の奨励等の働きやすい職場環境を構築する対応策を積極的に講じています。加えて、定期的にエンゲージメントサーベイを実施し、長時間労働の発生状況等をモニタリングしております。また、労働安全衛生に関するリスクへの対応を強化することを一つの目的として、新たに「人権方針」を策定いたしました。本方針に基づき、従業員の人権尊重及び安全衛生水準の向上に取り組み、当該リスクの低減を図ってまいります。

 

⑥ 人材確保に係るリスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

少子高齢化の加速による労働人口の減少、あるいは当社グループが人材の多様性等を確保した良好な職場環境やリモートワーク等の従業員にとって柔軟な職場環境を整備できない場合は、人材獲得における競争上の優位性の確保できず、従業員の採用及び維持が難しくなり、採用コストを含めた人件費が増加し、または人員不足による業務停滞が発生する等、事業の継続に影響を与える可能性があります。

 

対応策

従業員の能力開発においては、専門人材の継続的な育成に注力しております。また、定期的にエンゲージメントサーベイを実施し、その結果を職場環境の具体的な改善策に反映させることで、従業員一人ひとりが働きがいを感じられる環境づくりを推進しています。これらに加え、従業員の自律的なキャリア形成を支援するため、各種制度の充実化も図っております。採用面では、ダイバーシティを重要な戦略と位置づけ、多様な視点や価値観を持つ人材を積極的に採用しております。さらに、事業戦略の実現に不可欠な人材を安定的に確保するため、採用チャネルの多様化を戦略的に進めております。

 

 

 

⑦ 事業環境に関するリスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

当社グループが事業展開を行う事業において、競争環境や事業環境の変化によって、以下のような事象が発生し、当社グループの事業活動及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

・関連する技術の研究や開発による費用の増加

・技術革新に対する対応や導入の遅れによる競争上の優位性の低下

・既存IPにおける原作終了や新たなIPの原作利用権の喪失による収益の低下

・劇場用映画の興行成績の予測が困難であることによる収益の低下

 

対応策

当社グループは2010年に映像制作におけるデジタル技術の実践を中心に研究を行うツークン研究所を立上げ、当社グループが制作した作品に映像技術の活用を継続的に取り組んできました。加えて、新たに運用を開始したバーチャルプロダクション技術を多様な作品に活用する取り組みを推進しております。

また、各作品の興行成績の予測には困難を伴いますが、可能な限りの厳密な興収予測を立て、動員力と完成度を重視した企画選定を徹底しております。加えて、幅広いチャンネルでの多様かつ良質なコンテンツの企画及び制作に努め、年間を通じてバランスの取れた興行収入を得られるような取り組みを推進しております。

 

<ガバナンスリスク>

 

⑧ 個人情報等の機密情報の取り扱いに関するリスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

当社グループでは、顧客等から得た個人情報を数多く保有しております。当社グループの従業員あるいは外部の業務委託先が保有する個人情報を適切に取り扱わず、個人情報の外部流出、あるいは不正利用が生じた場合は、当局から業務停止命令、罰金その他の処分を受ける可能性、顧客または関係企業から訴訟を提起される可能性や当社グループの社会的信用及びブランドイメージが毀損される可能性があります。

 

対応策

当社グループは保有する個人情報を適切に管理するために、個人情報の取り扱いに関するルール及びガイドラインの策定と運用の徹底に努めております。また、当社グループの従業員に対して、定期に個人情報の取り扱いに関する教育の実施と社内管理体制の整備を行い、細心の注意を払っております。

 

⑨ 情報セキュリティリスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

当社グループが事業展開を行う各種事業のサービス提供や業務遂行にあたって、様々な情報システム及びネットワークを活用しております。災害、事故または大規模なシステム障害によるシステムの停止、遅延、あるいは第三者によるサイバー攻撃または不正アクセス等が発生した場合は、当社グループが提供するサービスや業務の遂行が停止すると共に、当社グループが保有する個人情報や映像コンテンツ等を含めた重要データが漏洩、改ざん、あるいは不正利用され、当社グループの事業活動、社会的信用及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

対応策

当社グループでは、情報セキュリティ事故を未然に防止するため、情報セキュリティの推進体制整備と従業員への啓発、社内ネットワークに関する監視機能の強化や情報へのアクセスの制限等を実施しております。また、当該リスクが発生した場合は、適切な対応を即時実施の上、原因解析や影響範囲の調査を行い、再発防止並びに防御の最適化を図る体制をとっております。

 

 

 

⑩ 著作権等の知的財産権に関するリスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

当社グループの保有する知的財産権については、海賊版や模倣品等による権利侵害が現実に発生しております。それらについては、ケースごとに適切な対応をとるよう努めておりますが、海外あるいはインターネット等においては、法規制その他の問題から、知的財産権の保護を充分に受けられない可能性があります。仮に、当社グループが、侵害行為を回避できない場合は、当社グループの経営成績、財政状態等に影響を及ぼす可能性があります。

一方、当社グループが所有または利用する知的財産権に関して、第三者から訴訟を提起される等の結果、損害賠償義務を負ったり、知的財産権の利用が差し止められたりする可能性があります。

 

対応策

当社グループは著作権、商標権等の保護に関する各種対策の強化に努めております。なお、第三者による侵害が発生した場合、当社グループは毅然とした対応で、法的措置を取る等の対策を徹底しております。

また、従業員による第三者が保有する知的財産の侵害を防ぐために、当社グループは知的財産の取り扱いに関する周知等を定期的に行っております。

 

⑪ コンプライアンス違反リスク

対応優先度

 

リスクシナリオ

当社グループの役員または従業員によるハラスメントや不正行為、当社グループの雇用環境に関する従業員等からの当社グループへの訴訟の提起等が発生した場合は、当社グループの社会的信用及びブランドイメージが毀損される可能性があります。

 

対応策

当社グループでは「コンプライアンス委員会」を設置しており、「東映コンプライアンス指針」を周知徹底し、コンプライアンス全般に関する啓発・研修体制の充実に取り組み、適正なコンプライアンス体制の構築及び運用を行っております。加えて、「東映グループホットライン規程」を定めており、通報窓口を活用し、不正・不祥事に関する情報収集及び即時に必要な対応を実施しており、予防・再発防止のための情報展開等に取り組んでおります。また、コンプライアンス違反リスクへの対応を強化することを一つの目的として、新たに「人権方針」を策定いたしました。本方針に基づき、事業活動における人権尊重を徹底し、法令遵守及び企業倫理の浸透を図ることで、当該リスクの低減に努めてまいります。

 

配当政策

3【配当政策】

 当社は、株主の皆様に対する利益還元を重要な政策の一つと考えており、経営基盤の強化と財務体質の改善をはかるとともに、経営成績等も勘案しつつ、継続的で安定した配当を実施することを目指しております。

 当社の剰余金の配当は、中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としております。配当の決定機関は、中間配当は取締役会、期末配当は株主総会であります。

 当事業年度の期末配当につきましては、当期の業績、企業体質の強化及び今後の事業展開等を勘案し、普通配当6円に特別配当6円を加え、1株につき12円といたしました。

 内部留保資金につきましては、財務体質の改善と安定した配当の実施に配慮しつつ、設備投資等に充当し、競争力の更なる向上に努めていく所存です。

 なお、当社は中間配当を行うことができる旨を定款で定めております。

 

(注) 基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は、以下のとおりであります。

決議年月日

配当金の総額

(百万円)

1株当たり配当額

(円)

2024年11月14日

386

6

取締役会決議

2025年6月27日

773

12

定時株主総会決議(予定)

(注)当社は、2024年4月1日付で普通株式1株につき5株の割合で株式分割を行っております。当期にかかる剰余金

の配当については、当該株式分割後の株式数を基準とした金額を記載しております。