2024年3月期有価証券報告書より

リスク

3【事業等のリスク】

 当社グループの経営成績、株価及び財務状況等に影響を及ぼす可能性のあるリスクは以下の通りであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 当社グループの外航海運業と内航・近海海運業により構成される海運業及び不動産業の事業活動におきましては、船舶の就航水域・寄港地・入渠地、市場、契約先の属する国や地域、プロジェクト等の投資地域等全ての事業地域で、政治情勢、経済情勢、社会的な要因、自然災害や人災等により、当社グループの業績、株価及び財務状況等に悪影響を及ぼす可能性があります。具体的なリスクとしては以下のようなものがあります。

 

(1) 船舶・建物における重大な事故・事件等によるリスク

 当社グループは企業理念に「安全の確保を最優先に、人々の想いを繋ぎ、より豊かな未来を築きます」を掲げ、事業に使用する船舶や建物での安全優先を経営上の使命としています。各事業部門に共通する安全対策については毎月一回開催される「安全環境委員会」にてレビューされ、さらに海運業においては国際的な基準に基づいた品質管理マネジメントシステムを導入し、また「安全管理委員会」を定期的に開催して事故防止や安全対策の徹底に努め、緊急事態にも適応できる体制を構築しております。しかしながら、もし船舶や建物での不測の事故が起こり人命・財産に関わる重大な事故や事件が発生した場合、あるいは油濁等の環境汚染や所有不動産に土壌汚染が認められ搬出や浄化の必要が生じた場合には、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

(2) 海運市況・不動産市況の変動によるリスク

 当社グループは海運市況や不動産市況の一時的な変動に左右されないよう、中長期契約を主体として安定的な営業収益の確保に努めておりますが、海運業においては中長期契約の更改時期やスポット運航を余儀なくされる場合に、海上輸送量の増減、競争の激化、船腹需給の変動等の影響により、運賃収入及び貸船料収入等が大きく変動する可能性があります。不動産業においては、当社グループは東京都心部のオフィスビルを中心に不動産資産を保有しており、不動産市況の動向、特に東京都心のオフィス市場の空室率が変動する等の場合、賃貸料収入等が大きく変動する可能性があります。以上の結果、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。また、前述の営業収益の安定策には、市況変動によるリスクをある程度軽減する一方、市況が逆方向へ変動することから生じたかもしれない利益を逸失している可能性があります。

 

(3) 資産価格の変動に関するリスク

 当社グループの保有する資産(船舶、土地、建物、投資有価証券等)には、経済状況、市況の変動等の要因で資産価格に変動がある可能性があります。特に、外航海運業においては、海上輸送量の増減、競争の激化、船腹需給の変動等により運賃が大きく変動することから、減損損失の認識要否の判定及び回収可能価額の算定に重要な影響を及ぼす将来の運賃予測には高い不確実性を伴います。当社グループは四半期に一度、減損の兆候がある資産の把握をする等、資産価格や市況の大きな変動を注視しております。しかしながら、想定外の当該資産の売却等に伴う損益の実現や、減損損失の認識等により、当社グループの業績、株価及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 他社との競合によるリスク

 当社グループは海運業及び不動産業において、国内外で多くの企業と競合関係にあります。国内及び海外で幅広い顧客に営業展開をする等、本リスクの軽減に努めておりますが、他企業とのサービス・価格競争が激化した場合、当社グループの業績、株価及び財務状況が影響を受ける可能性があります。

 

(5) 燃料油価格の変動によるリスク

 海運業においては、当社グループが購入する舶用燃料油の価格は原油の需給バランスや産油国・地域の情勢等により変動しますが、補油地域・時期の分散や減速航海の実施等による燃料油の消費量節減、荷主との燃料油価格変動調整条項の合意等の対策を講じ、業績に与える影響を軽減するよう努めております。しかしながら、燃料油価格の著しい変動等により、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

(6) 船舶・不動産の稼働状況に関するリスク

 当社グループが使用する船舶や建物等においては天災、人災による事故、粗悪油やその他の不測の事態により、想定外の不稼働が発生する可能性があります。その他、不動産業においてはオフィス賃貸借契約の未更新や中途解約その他の事由等により不稼働が発生する場合があります。不稼働損失保険への加入や解約予告期間を長期に設定すること等で本リスクを軽減するよう努めておりますが、想定外の不稼働が発生した場合に当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

(7) 船舶の売却や中途解約等におけるリスク

 海運業においては、海運市況の動向や船舶の新技術開発・導入による既存船舶の陳腐化、安全・環境規制その他の諸規則の変更等による船舶の使用制限等により、当社グループが保有する船舶を売却する場合や、当社グループが用船する船舶の用船契約を中途解約する場合があります。市場の動向を見極めた売船、自社保有や用船といった船舶の保有形態のバランスを適切に保つこと等により本リスクの低減に努めておりますが、想定外の売船や用船契約の途中解約が発生した場合、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

(8) 為替の変動によるリスク

 当社グループの事業のうち海運業においては外貨建費用に比べ外貨建収入が多く、為替レートの変動が損益に影響を与える状況にあります。また設備投資においては、外貨建の投資も多くあります。そのため、費用のドル化を進めるとともに、為替予約や通貨スワップ等のヘッジ取引により、為替レート変動の影響を軽減するよう努めております。しかしながら、為替レートが大きく変動した場合、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。なお、前述のヘッジ取引には、為替レートの変動によるリスクをある程度軽減する一方、為替レートが逆方向へ変動することから生じたかもしれない利益を逸失している可能性があります。

 

(9) 金利変動によるリスク

 当社グループは、船舶や不動産等の取得に要する設備投資及び事業活動に要する運転資金に内部資金を充当する他、外部からも資金を調達しております。この外部資金には変動金利で調達している部分があり、金利情勢を勘案の上、金利の固定化等により、金利変動による影響を軽減するよう努めておりますが、将来の金利変動によって資金調達コストが変動し、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。また、このような金利固定化等の取引には、金利レートの変動によるリスクをある程度軽減する一方、金利レートが逆方向へ変動することから生じたかもしれない利益を逸失している可能性と、固定化した期間中に条件の変更を余儀なくされた場合、解約料を負担することがあります。

 

(10) 規制の実施・改廃等によるリスク

 当社グループが使用する船舶の建造・登録・運航は、各種の国際条約による法的規制や、近年の環境保護や安全重視の高まりに起因する特定顧客及び船級協会等の規則や規制等の影響を受けます。その他の事業分野を含め、今後の事業活動の展開にあたって法的規制、特定顧客及び船級協会等の規則や規制等が新たに実施又は改廃された場合、それらに対応するためのコストの増加、当事業からの撤退や遵守できなかった場合の事業活動の制限等により、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

(11) 世界各地域の政治情勢、経済情勢、社会的な要因等によるリスク

 当社グループの事業活動は、日本を含むアジア、中東、欧米、その他の地域に及んでおり、各地域における政治情勢、経済情勢、社会的な要因等により影響を受ける可能性があり、具体的には以下のようなリスクがあります。これらリスクに対しては当社グループ内外からの情報収集活動等を通じ、その予防と回避に努めておりますが、これらの事象が発生した場合には、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

(ア) 政治的又はインフレ等の経済的要因

(イ) 事業・投資許可、税制、会計基準、為替管理、安全、環境、通商制限、私的独占の禁止等に関する公的規制とその改廃、商慣習、実務慣行、解釈

(ウ) 他社との合弁事業・提携事業の動向

(エ) 事故、火災、戦争、暴動、テロ、海賊、伝染性疾患の流行、ストライキその他の要因による社会的混乱

 なお、イスラエル紛争に起因する紅海情勢の悪化を含めた中東各国の政治情勢不安及びロシア・ウクライナ情勢は、物品の供給制約やエネルギー価格の高騰からインフレを引き起こし、結果として世界経済減速による海上輸送需要の停滞・減少や、不動産市況の悪化等の影響を当社グループに及ぼす可能性があります。当社グループは国際社会が実施する制裁措置を遵守して事業活動に取り組み、情報収集活動等を通して、日々変化する状況に迅速に対応できるよう努めております。

 

(12) 世界各地域の自然災害及び二次災害並びにそれらに付随する風評被害によるリスク

 当社グループの事業活動は、日本を含むアジア、中東、欧米、その他の地域に及んでおり、各地域における感染症の流行を含む自然災害及びその二次災害により影響を受ける可能性があります。特に、当社グループ本社所在地であり保有する不動産資産が集中している首都圏や東日本において自然災害及びその二次災害が生じた場合は、当社グループの事業活動全般に大きな影響を及ぼすことが考えられます。また、自然災害及び二次災害に付随する風評被害が当社グループの事業活動全般に影響を及ぼす可能性もあります。当社グループでは、感染症の流行を含む自然災害及びその二次災害発生時にも、可能な限りの事業継続を図るため、これらの事態を想定したBCP(事業継続計画)を策定しておりますが、これらの事象が発生した場合には、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

(13) 取引先の倒産等に関するリスク

 当社グループは、取引先と締結した用船契約・不動産賃貸借契約に基づき営業収益を確保しております。取引先の与信状態は契約締結時及び履行途中に調査しておりますが、輸送契約先、貸船契約先、借船契約先、テナント契約先等の取引先が抱えるリスクにより倒産等の不測の事態があった場合、当社グループにおいて不良債権の発生や、契約の中途解約、借船元の船舶差し押え・競売等が発生することが予想され、これら損失の額によっては、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

(14) 投資計画の進捗に関するリスク

 当社グループは、海運業においては船隊整備、不動産業においてはビル建設等に関する投資を計画しておりますが、今後の海運市況や不動産市況、金融情勢、造船会社や建設会社の動向等によって、これらが計画通りに進捗しない場合、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

(15) 情報・会計システムに関するリスク

 地震等の自然災害、外部からの予期せぬ不正アクセスやコンピューターウィルス侵入等、また新システムの導入・新規機能の追加時に情報・会計システムに障害が発生した場合、業務が遅延・停止する可能性があります。日々高度化する本リスクへの対応として、適切な情報セキュリティ対策等を行っておりますが、顧客への情報提供及び業務処理が滞ることとなった場合、当社グループの業績、株価及び財務状況が影響を受ける可能性があります。

 

(16) 中期経営計画に基づく経営目標が達成できないリスク

 当社グループは2023年4月に3ヵ年の中期経営計画「The Adventure to Our Sustainable Future」を策定し、達成に向けて取り組んでおります。しかし、本中期経営計画は、様々な外的要因により影響を受ける可能性があり、当初の目標を達成できない可能性があります。

 

(17) 気候変動に関するリスク

 当社グループでは、経営方針にて各種社会課題の解決に貢献することを掲げており、サステナビリティ基本方針にて「内外の関連法規および国際ルールを遵守し、事業から生ずる環境への負荷の低減・環境の保全に努めるとともに、気候変動への対応・自然環境の保護に積極的に取り組む。」と定めています。経営方針・サステナビリティ基本方針の実践のために、2023年度4月に策定した中期経営計画「The Adventure to Our Sustainable Future」において、カーボンニュートラルへの挑戦をテーマに定め、「脱炭素社会の実現に向けた計画策定と実行」に向けた取り組みを行っています。

 当社グループは、気候変動がもたらす事業へのリスクと機会について、その分析と対応を強化し、関連情報の開示拡充を進めるため、2021年7月に気候関連財務情報開示タスクフォースの提言(以下、「TCFD提言」という。)に賛同を表明しました。TCFD提言に沿って当社が抽出した主なリスクは以下の通りです。これらのリスクが顕在化した場合には、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

■海運業

・化石燃料の需要減少による売上の減少

・カーボンプライシングによる費用の増加

・燃費規制対応による船舶建造費の増加

・燃費規制対応(次世代燃料使用)による燃料費の増加

■不動産業

・建物の省エネ化に関する建設・改修費の増加

・立地エリアにおいて保有ビルの環境性能等が劣後した場合、賃料、入居率、資産価値の下落

 

 なお、気候変動の問題は、新たな輸送需要の創出や、保有資産の環境性能向上による差別化を促す可能性もあり、当社グループにとって新規ビジネス機会の増加につながる側面があります。

 

(18) 人権に関するリスク

 当社グループは、グローバル企業として、全ての人々の人権を尊重することが企業として果たすべき社会的責任であることを認識し、2022年9月に国連グローバル・コンパクトに賛同しました。また、当社の企業理念に基づいた人権に関する最上位の方針として、「飯野海運グループ人権方針」を定めた他、「飯野海運グループ調達方針」、「飯野海運グループサプライヤー行動規範」を制定し、サプライチェーン全体での人権尊重の取り組みを実施しています。しかしながら、予期せぬ事態により、当社グループの事業活動を通して人権問題が発生した場合、社会的信用の失墜や賠償責任により、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

(19) コンプライアンスに関するリスク

 当社グループでは、サステナビリティ基本方針において「コンプライアンスの徹底」を定め、法令遵守や社会の規範及び道徳律の趣旨を体現した行動を当社グループ全ての役員・従業員に求めることを明記しています。「コンプライアンス規程」にて遵守すべきコンプライアンスに関する基本事項を定め、年に四回以上開催される「コンプライアンス委員会」がコンプライアンスに関する政策立案とその推進を図っています。また、内部通報制度により寄せられた情報について「コンプライアンス委員会」にて調査、問題解決を行うことでコンプライアンス違反に対処しています。加えて、2022年9月に国連グローバル・コンパクトに賛同し、「飯野海運グループ腐敗防止方針」を策定しました。しかしながら、このような施策を講じてもコンプライアンス上のリスクは完全に回避できない可能性があり、重大なコンプライアンス違反があった場合には、当社グループの社会的信用の失墜や賠償責任により、当社グループの業績、株価及び財務状況等が影響を受ける可能性があります。

 

 上記は当社グループが事業を継続する上で、予想される主なリスクを具体的に例示したものであり、これらに限定されるものではありません。

配当政策

3【配当政策】

当社は、株主の皆様への利益還元を経営の重要課題として捉えており、経営方針: IINO COMMITMENTにおいて株主の皆様に提供する価値として「持続的な成長に軸を置いた経営で企業価値を向上させ、充実した株主還元を実施」を掲げています。そして、株主の皆様に長く愛される企業グループであるために、次の方針に基づき配当を実施します。

 

◎内部留保の活用による企業成長

事業環境変化に即応するための事業基盤の維持強化、および持続的な成長のための新規投資に必要な内部留保を確保・活用する

 

◎株主重視の姿勢の明確化

配当額と企業成長を連動させ、適正で透明性のある利益還元を実施する

 

◎継続的な配当の維持

安定収益を背景とした継続的な配当を維持する

 

上記方針に基づき、安定的かつ通期業績に連動(連結配当性向:親会社株主に帰属する当期純利益の30%を基準)した配当の継続を目指します。

 

 また、当社は、中間配当をすることができる旨を定款に定めており、期末配当と合わせて年2回の剰余金の配当を行うことを方針としております。これらの剰余金の配当の決定機関は、期末配当(基準日は毎年3月31日)については株主総会、中間配当(基準日は毎年9月30日)については取締役会であります。

 なお、当事業年度に係る剰余金の配当は以下のとおりです。

 

決議年月日

配当金の総額(百万円)

1株当たり配当額(円)

2023年10月31日

取締役会決議

2,645

25.00

2024年6月26日

定時株主総会決議

3,280

31.00